出羽慎一
1・出羽尚子
2・本村浩之
31〒
890–0067 鹿児島市真砂本町 7–7 ダイビングサービス海案内
2〒
891–0132 鹿児島市本港新町 3–1 いおワールドかごしま水族館
3〒
890–0065 鹿児島市郡元 1–21–30 鹿児島大学総合研究博物館
はじめに
Navigobius dewa Hoese and Motomura(図 1)は 2009
年に鹿児島湾から採集された3
標本(標準体長
37.5–45.2 mm)に基づき,オオメワラスボ
科クロユリハゼ亜科の新属新種として記載され た.Navigobius属はクロユリハゼ属
Ptereleotris
と ハタタテハゼ属Nemateleotris
に近縁だが,前者 は両眼間隔側線管(interorbital canal)が眼間で完 全に連続していないことなどで特徴付けられる(Hoese and Motomura, 2009).
Hoese and Motomura (2009)
は,Navigobius dewa の分布域として,鹿児島湾(タイプ産地)と奄美 大島(水中観察)を報告したが,その後,本種が 伊豆半島(本報告)にも生息することが確認され た.したがって,本種は南日本に広く分布してい る可能性が高い.Navigobius dewa
とNavigobius
属に適用すべき 標準和名が原記載で記載されていなかったため,本報告で両和名を提唱する.また,鹿児島湾と伊 豆半島を中心に本種の生息状況を報告するととも に,本種の飼育記録を紹介する.なお,本研究で 用いた標本はオーストラリア博物館(AMS)と 鹿児島大学総合研究博物館(KAUM)に保管さ れている.
名前
オオメワラスボ科
Microdesmidae
クロユリハゼ亜科Ptereleotrinae
カグヤハゼ属(新称)Navigobius Hoese and Motomura, 2009 モモイロカグヤハゼ(新称)
Navigobius dewa Hoese and Motomura, 2009
Navigobius はラテン語で泳ぐ(Navi)ハゼ(go-bius)を意味し,泳ぎ回っている本種の生態に基
づく.種小名のdewa
は,採集者(本報告の第1
著者)に献名された.なお,クロユリハゼ亜科は 研究者によってクロユリハゼ科として扱われてい るが,本報告では原記載にしたがって亜科とする.本種は桃色の美しい体色を呈していることか ら,本報告では鹿児島湾産の
3
標本[
ホロタイプAMS I. 44800-001(図 2)とパラタイプ KAUM–I.
5516–5517]
に基づき,Navigobius dewaに対して 新標準和名モモイロカグヤハゼを提唱する.また,Navigobius
属の和名としてカグヤハゼ属(新称)を提唱する.鈴木・渋川(2004: 512)のクロユリ ハゼ科の
1
種-1
(Ptereleotridae, indet. gen. and sp. 1)は,カグヤハゼ属の
2
番目の種(現在未記載種)であると考えられる.
Motomura et al. (2010: fig. 570)
は,屋久島永田 沖 の 水 深45 m
で 撮 影 さ れ た 写 真 個 体 をNavi-gobius dewa
として報告したが,その個体は上述のカグヤハゼ属の
2
番目の種(Navigobius sp.)の 成魚である[
鈴木・渋川(2004)のクロユリハゼ 科の1
種-1
は幼魚の写真].
Dewa, S., N. Dewa and H. Motomura. 2010. Ecological notes on a recently described microdesmid fish, Navigobius dewa, from Japanese waters, with a proposed new standard Japanese name for the species. Nature of Kagoshima 36: 89–92.
HM: Kagoshima University Museum, 1–21–30 Korimoto, Kagoshima 890–0065, Japan (e-mail: motomura@kaum.
kagoshima-u.ac.jp).
鹿児島での生息状況
下記の生息状況は第
1
著者の水中観察に基づ く.鹿児島湾では,モモイロカグヤハゼの群れが11
月中旬から5
月まで水深75–85 m
付近,6月か ら11
月上旬までは45–60 m
付近で観察された.図2.Navigobius dewaのホロタイプ.AMS I.44800–001,標
準体長37.5 mm,鹿児島市東桜島町沖,水深70 m,2007
年7月25日,出羽慎一採集.
図1.モモイロカグヤハゼの成魚.鹿児島市東桜島町沖,水深62 m,2009年6月8日,出羽慎一撮影.
図3.モモイロカグヤハゼの幼魚.鹿児島市東桜島町沖,水
深45 m,2008年10月30日,古宮 豊撮影.
図5.モモイロカグヤハゼの成魚.靜岡県伊東市富戸伊豆海
洋公園,高瀬 歩撮影.上図:水深72 m,2009年7月16日.
下図:水深68 m,2009年7月28日.
図4.モモイロカグヤハゼの群れ.鹿児島市東桜島町沖,水
深59 m,2010年4月15日,出羽慎一撮影.
冬から春にかけて
1
つの群れは10–30
個体ほどで 構成され,夏になると1
つの群れが200–300
個体,多い時には
1
ダイブで15
個の群れが確認された.また,10月下旬から
11
月にかけて,全長2 cm
ほどの幼魚が10
個体ほどで群れを構成している のが観察された(図3). 2004
年から現在にかけて,鹿児島湾では年々本種の個体数が増えており,
2009
年秋から2010
年4
月現在までは,水深55–
70 m
に数千個体からなる1
群が留まっている(図4).
本種は,岩礁が散在する砂泥底の急斜面で観察 され,概ね岩礁のまわりで底から約
30 cm
浮かん だ状態で群れている.観察のため接近すると,砂 中や岩陰に逃げ込むのではなく,泳いで逃げ回る.また,本種は,透明度が低く水中が暗いときには やや浅いところへ,透明度が高く明るいときには 深いところへ移動する傾向がみられる.
奄美大島では,2007年
5
月に本種の生息が確 認された(Hoese and Motomura, 2009).観察場所 は,奄美市龍郷町秋名付近の岬先端沖のリーフ外 縁で,約30
個体が水深60 m
の礫まじりの砂底に 生息することが観察された.伊豆半島での生息状況
下記の生息状況はさかなや潜水サービス(静岡 県伊東市)の高瀬 歩氏の水中観察に基づく.伊 豆半島東岸の伊豆海洋公園では,緩やかな斜面の 転石混じりの砂地で本種が周年観察される(図
5).特に水深 70 m
付近で成魚10
個体前後が群れを形成しており,2月の最低水温(12°C)時にも 活発に泳ぎ回っている.水深
70 m
付近で稀に全長
3–4 cm
の若魚も確認された.水深55 m
付近でも
4–5
個体で群れている幼魚が確認されている(2006年
11
月).このことから,本種は鹿児島湾 や伊豆半島では,初秋に産卵していると考えられ る.また,生息地が砂地の斜面というのも伊豆半 島,鹿児島湾,奄美大島で確認された共通の生息 環境である.飼育記録
鹿児島湾産のモモイロカグヤハゼ
16
個体がい おワールドかごしま水族館で飼育展示されている(2010年
3
月現在).これらは2009年 11
月17日に,鹿児島湾の水深
64 m
から第1
著者とかごしま水 族館職員によって採集された個体で,同館の特別 企画展「集まれごもんちゃん~小さなハゼの大き な世界」の展示生物のひとつとして,12月19
日 より一般公開された.採集時の全長はおよそ
3–5 cm.展示は幅 93 cm,奥行 63 cm,深さ 70 cm,水量約 1 t
のユニッ ト水槽を半開放式にして行なった.展示期間中の 水温は14–19°C,ph
は7.9
前後,塩分濃度は33–
34‰,溶存酸素濃度は 98%
前後であった.照明は高演色性波長の
18W
蛍光灯2
灯を9–19
時まで10
時間点灯した.水槽内には粒径1 mm
前後の パウダー状のソイル(焼成底床)を約5 cm
厚に 敷き,レイアウト用に溶岩塊とヤギ類の骨格を配 置した.ほぼ毎日,概ね
1–2
回アルテミアのノープリウ ス幼生や冷凍コペポーダなどを与えた.給餌時,飼育している全てのモモイロカグヤハゼは,水槽 全体に広がるように遊泳し,水流に乗って流れて くる上記の餌を活発に摂餌した.これらの給餌に よって,モモイロカグヤハゼは飼育期間中もわず かではあるが成長し続けている.
モモイロカグヤハゼは,展示開始時から
3
週間 経っても人影や物音に怯えて溶岩塊の下の底砂に 穴を掘り,潜り込んで出てこない状態が続いた.そこで,水槽内の入り込めるような障害物を取り 除いたところ,展示期間を通して照明が点灯して いる間は,多くの個体が水槽内を遊泳するように なった.照明が消えた後は全個体が
1
箇所に集ま り,配管の横に掘ったくぼみに隠れてじっとして いることが多かった.大型個体は小型個体に比べ て警戒心が強く,照明点灯時もくぼみに身を隠す ことがあった.本種は警戒心が強いものの,飼育はさほど難し くないようである.今後,産卵生態などの観察が できれば報告したい.
謝辞
伊豆海洋公園での本種の生息状況と写真を提供 してくださった
Dive Company
さかなや潜水サー ビスの高瀬 歩氏と幼魚の写真を提供してくだ さった鹿児島市桜島町在住の古宮 豊氏に感謝す る.引用文献
Hoese, D. F. and H. Motomura. 2009. Descriptions of two new genera and species of ptereleotrine fishes from Australia and Japan (Pisces: Gobioidei) with discussion of possible rela-tionships. Zootaxa, 2312: 49–59.
Motomura, H., K. Kuriiwa, E. Katayama, H. Senou, G. Ogihara, M. Megurom, M. Matsunuma, Y. Takata, Y. Yoshida, M.
Yamashita, S. Kimura, H. Endo, A. Murase, Y. Iwatsuki, Y.
Sakurai, S. Harazaki, K. Hidaka, H. Izumi and K. Matsuura.
2010. Annotated checklist of marine and estuarine fishes of Yaku-shima Island, Kagoshima, southern Japan. Pp. 65–247 in H. Motomura and K. Matsuura (eds.). Fishes of Yaku-shima Island – A World Heritage island in the Osumi Group, Kagoshima Prefecture, southern Japan. National Museum of Nature and Science, Tokyo.
鈴木寿之・渋川浩一.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,
東京.534 pp.
本会の活動概要について,報告します.
2009
年は,寒い春に続き,6月の少雨の後,7 月以降,乾燥が続き,昆虫には厳しい年でした.蝶では,モルフォチョウのように美しく輝く ルリウラナミシジミが大発生しました.記録があ る限り,過去,最大の発生で,九州全域のみなら ず,四国,本州でも記録されました.また,クロ マダラソテツシジミも
3
年連続で発生がみられま した.最初,発見されたときは大変驚きましたが,すっかり常連になった感じです.ちなみに,南九 州以外でも,北九州,中国,関西,更には,中部 地方・関東方面まで分布を拡げました.
このように,南方系の蝶の分布が一時的では あれ,大幅に分布を拡げる種がある一方,北方系 のヒョウモンなどの草原性の蝶は,平地では殆ど 見られなくなり,霧島などの高地においても,減 少しつつあるように思われます.多様な環境を保 全し,これらの昆虫が将来もみられることを期待 したいと思います.
また,2009年
7
月,栗野岳で多くの会員が参 加して,かつて九州でここだけで見られたウスイ ロオナガシジミの調査を行いましたが,全くその 姿が見られませんでした.ここ数年,目撃記録も ないことから,絶滅する(した)可能性が否定できない状況です.カシワの管理や植栽など抜本的 な保護対策をすべき時期がきたように思われま す.
国内希少野生動植物種に指定されて捕獲が原 則として禁止されているベッコウトンボは,薩摩 川内市の藺牟田池に生息しています.市役所や地 元のボランティア,本会の会員など多くの方の努 力もあり,全国でもわずかに残された安定した生 息地となっていましたが,2009年の記録的な少 雨で,池の水位が極端に下がり,その生存が危ぶ まれています.水位が回復し,
2010
年以降もベッ コウトンボの姿がみられることを期待したいと思 います.このように様々な昆虫の記録を積み重なって いくことで,人間を含む自然や環境のより深い理 解につながっていくものと思います.
本会の大会(総会)ですが,2009年
11
月22
日(日)に会員約45
人の参加のもと,武・田上 公民館で,盛大に開催され,1年間の成果が披露 されました.「皆既日食でセミは鳴きやむか?」,「分布南限地 屋久島におけるウラナミジャノメ の消長」など興味深い話の連続でした.また,「情 けは人のためならず」と題した心にしみる講演や はじめての試みとして「温暖化と鹿児島の分布南 限の昆虫たち」と題したシンポジウムも開催され,
充実した大会となりました.夜は楽しく懇親会が 開かれました.以上,2009年の活動概要でした.
Nature of Kagoshima 36: 93–94