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Nature of Kagoshima Vol.36

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Academic year: 2021

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目 次 Articles 徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoni の生態とロード・キルの保全対策  岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道 1 沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態―九州での初記録―  中村麻理子・鮫島正道 11 希少カニ類 2 種の種子島と屋久島における初記録  永江万作・鈴木廣志・藤田喜久・組坂遵治・上床雄史郎 19 鹿児島県の巨木―特に大隅半島高野国有林で新たに発見された巨木群について―  鈴木英治・中園遼平 23 自然保護の新しい展望  田中俊徳 29 映画「砂の道の向こう」で伝えたいこと  柳田一郎 33 鹿児島県本土産ムヨウラン属(Lecanorchis Blume)植物の記録  丸野勝敏 37 鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリブダイ Bolbometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科)の記録  荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本村浩之 43 海岸漂着物処理推進法制定と鹿児島県における今後の対策  藤枝 繁 49 鹿児島県初記録のヨウジウオ科ウミヤッコ Halicampus grayi  太田竜平・伊東正英・本村浩之 57

日本初記録から半世紀ぶりに確認されたベニアミゴロモ Dictyurus purpurascens Bory de Saint-Vincent (紅色植物門イギス目)  土屋勇太郎・寺田竜太 61 鹿児島県から得られたミヤケテグリ Neosynchiropus moyeri(ネズッポ科:コウワンテグリ属) および標本に基づく鹿児島県のネズッポ科魚類相  岩坪洸樹・本村浩之 65 鹿児島県九州沿岸から得られたヒメ目エソ科のヒトスジエソ Synodus variegatus の記録  川村信和・伊東正英・本村浩之 75 上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録  松沼瑞樹・米沢俊彦・本村浩之 79 オオメワラスボ科魚類 Navigobius dewa モモイロカグヤハゼ(新称)の生息状況  出羽慎一・出羽尚子・本村浩之 89 Information 鹿児島昆虫同好会(熊谷信晴) 93 鹿児島大学総合研究博物館(福元しげ子) 94 鹿児島植物同好会の活動(2009 年)(細山田三郎) 96 鹿児島県地学会(鈴木敏之) 96 鹿児島県自然保護課の動き 98 Business Reports 鹿児島県自然愛護協会 2009 年度会記(本村浩之) 99 【表紙写真】 略奪! 陸上では桜が散り始めた頃,屋久島の海中ではコブシメの産卵がピークを迎える.20 匹くらいのコブシ メが産卵床となるウスサザナミサンゴの周りに集まり,大産卵を繰り広げている.サンゴ上では数匹のメ スが産卵していたかと思うと,そのすぐ近くではオス同士がメスを巡り喧嘩の真っ最中.その間隙を縫っ て別のオスが産卵中のメスを強引に誘い出し,交接を迫る(写真).屋久島のウスサザナミサンゴの上は この時期,無法地帯と化す. (写真・文:原崎 森 屋久島ダイビングサービス「森と海」) 【裏表紙写真】 セイタカシギの子育て チドリ目セイタカシギ科鳥類のセイタカシギは,桃色の細長い脚と黒色の細長い嘴もつことで特徴づけ られる.世界中の熱帯から温帯に広く分布し,日本には主に旅鳥として渡来するが,近年絶滅が危惧され ている.沖永良部島で撮影されたこの写真は,九州地域において初めて確認されたセイタカシギの繁殖記 録である. (写真・文:中村麻理子 鹿児島県野生生物研究会)

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徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoni の生態と

ロード・キルの保全対策

岡崎幹人

1

・中村麻理子

2

・鮫島正道

2 1〒 891–8293 鹿児島県大島郡伊仙町阿三 2〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部  はじめに

 イボイモリ Tylototrion andersoni (Boulenger, 1892) は奄美諸島と沖縄諸島の固有種で,一年を通して 湿潤な底質を備えた林床や草地に生息し,林内の 池沼や水溜りを利用して繁殖する両生類である.  多くの地域で,森林伐採や土地造成にともなっ て生息地となる環境が縮小し,生息環境は急激に 悪化している.さらに生息地の道路では,ロード・ キルが頻発しているのが現状である.ロード・キ ル(road kill)とは,道路上で野生動物が自動車 にはねられて死亡する事故をいう.  本報告では,徳之島に生息するイボイモリの生 息地の現況とその動向をさぐるとともに,存続を 脅かしている大きな原因の一つ,ロード・キルの 問題を抽出・分析し,対象地の道路建設等に対し, ロード・キル防止のための保全対策を備えた計画・ 設計・施工を実施してもらうことを目的とした.  イボイモリの分類・形態・分布・生活史・生態 等の一般的な記載は,中村・上野(1963),千石 (1979),森田(1989),宇都宮(1998),太田(2003) の記載がある.著者による徳之島のイボイモリの 観察は 1984 年に始まり,概要を鮫島(1985), (1993),(1995),(1998),(1999) に 報 告 し た. また,イボイモリの飼育下繁殖については鮫島 (1996)がある.  国内における本種の分布状況は,琉球列島中央 部の奄美大島,徳之島,沖縄島,瀬底島,渡嘉敷 島に分布する.徳之島はこれらの島々の中では最 も個体数が多い.  イボイモリは「生きた化石」ともいわれ,古い 時代の生き残りとしての希少性が高い.また,本 種は生物地理学的・分類学的に高い学術的価値が 認められることから,鹿児島県ならびに沖縄県の 天然記念物に指定されており,採集や飼育は法律 で禁止されている.さらに,本種は絶滅の危機に 瀕していることから「日本の絶滅のおそれのある 野生生物」:レッドデータブックに掲載され,環 境省カテゴリーでは絶滅危惧Ⅱ類,鹿児島県カテ ゴリーでは絶滅危惧 I 類に位置づけられている重 要種である.  調査地および調査方法 1.生態学的調査 徳之島のイボイモリの生息環境と生態につい ては,概査(聞き取り・文献調査・現地踏査)を 行い,さらに現地で直接観察する精査を行った. その内容は,その分布位置,生息状況,重要さの 内容・程度、生息環境の現況等である.調査の視 点はイボイモリの生活史,ネットワーク,構造物 との関係,種間関係,地域の地勢等であり,期間 は 1984 年から 2009 年までの現地調査で得た知見 である. 2.ロード・キル関係調査 今回の主要テーマであるロード・キル調査は, ロード・キルの多発している地域での資料収集に よる.    

Okazaki, M., M. Nakamura and M. Sameshima. 2010. Eco- logy and conservation measures of Tylototrion andersoni in Tokunoshima Island, Kagoshima Prefecture, Japan.

Nature of Kagoshima 36: 1–10.

Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (e-mail: MN, naka_ tatsu@po3.synapse.ne.jp).

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A.調査場所 採集場所は徳之島の伊仙町・徳之島町・天城 町である.字名・地名は伊仙町の検福・中山・面 縄・馬根・阿三・八重竿,徳之島町の亀津・白井・ 諸田,天城町の西阿木名の道路上の合計 26 ヶ所 である.いずれも道路上であり多少のズレが生じ るが,字名よりさらに詳細な位置についての地点 は図 1 にアルファベットの記号で示した. B.調査時期・調査月日 調査時期は 2006 年 11 月 26 日~ 2007 年 4 月 15 日.期間の毎週土・日曜日のいずれかの日,多発 する時期は随時増やし,延べ日数 31 日である. C.調査方法 調査方法は昼間に乗用車で走行して轢死体を 確認する目視法をとった.記録は詳細な位置,日 時であり,衝突の集中する区間や箇所を明らかに することを目的とした.調査項目は衝突個体の確 認,位置,月日等である. イボイモリの行動と気象との関係性を観察す るために,伊仙町の 2006 年 11 月~ 2007 年 4 月 までの気象状況について日本気象協会の資料を参 考にした.項目は降水量(mm)・平均気温(℃)・ 最多風向・日照時間(h)である. D.天然記念物の扱い方 イボイモリは鹿児島県指定の天然記念物であ り,法律により管理されている.生体はもとより 死体の収集についても現状変更届が必要であり, 鹿児島県教育委員会,伊仙町・徳之島町・天城町 の各教育委員会の指導のもとで許可申請し,合法 的な調査を進めた.  調査結果 1.徳之島のイボイモリの現状 A.生態 イボイモリは,徳之島のほぼ全島の森林内の 広範囲にわたり生息している汎存種(広布種・普 遍種)である.生息密度の高い地域は,南部中央 部であり,特に,シイやカシ類の樹林の林縁部の 湧水周辺であり,春から夏にかけて水溜りで幼生 がみつかる.成体は薄暗い林床の朽木や落ち葉の 堆積物の下に潜り込むようにして潜んでいる. B.形態 イボイモリの成体を写真 1 に示した.本種の 分類的・形態的特徴は,両生類には珍しく肋骨が あることである.肋骨は外形的に背骨を示す隆条 の左右から後方に斜行して 8 ~ 10 本の隆条が出 ており,これが肋骨の位置を示す.その先端は体 側に突出して疣状となる.この疣の形状からイボ イモリの名が付いた.肋骨は怒ると傘のように開 いて体を大きくみせる効果がある. 全長は 13 ~ 17 cm で頭胴長は 6.5 ~ 9.0 cm で ある.頭部は扁平で大きく,頭長と頭幅はほぼ等 図 1.徳之島の調査位置図.

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しく菱形をしている.頭幅の最も広い位置まで口 は開いていて大きい.眼はあまり大きくない.皮 膚は乾いていて一面に小さい顆粒状隆起に覆われ ている.体色は黒褐色からチョコレート色まで個 体により差がある.  C.繁殖期・産卵期 本種の生活史・生態は特異で,両生類であり ながら変態後はほとんど水に入らない.繁殖期以 外は水場から離れた場所で見つかる.精子の授受 も陸上で行われ,繁殖期は 11 月から翌年の 6 月 である.その中で、最盛期は 12 月から翌年の 2 月であった.産卵場所は樹木のよく茂った所で, 小さな水溜まりのある場所である.しかし,卵は 水中ではなく,湿り気のある陸地に産む.孵化後 は水中に入り幼生期を過し,変態後は林床生活に 入る.食性は微小な土壌動物等である.生息地・ 産卵地の共通した環境を模式図として図 2 に示し た. D.イボイモリの生息環境保全のための空間的視 点での重要性 年間を通しての観察から確認できたことは,両 生類の特性でもある季節により生活場所を変える ことである.イボイモリの生活史の観察から,① 地点レベル,② 地区レベル,③ 地域レベルの三 つの空間的視点を考える必要がある.各レベルに ついて図 3 に示した.以下詳細に述べる. ① 産卵地そのものの「地点レベルの視点」図 3— ①: イボイモリの生活史の中で最も重要なも のは繁殖地(池)である.イボイモリの繁殖習性 を明らかにするためには,現場での自然観察が最 も重要である.しかし,偶然性が高く,タイミン グ的・技術的に困難である.自然界における特異 な繁殖習性を知るヒントとして,飼育下繁殖によ る観察をしているので,以下に例示する. 1992 年に長崎鼻パーキングガーデン(博物館 相当施設:動物園)で日本初の飼育下繁殖に成功 し,日本動物園水族館協会の繁殖賞を受賞した鮫 島(1996)の報告がある. 【飼育箱はごく普通の市販されている水槽を使 用.水槽内には陸地と小規模な水溜まりをセット した.産卵は水際から数 cm の陸地部に一粒,一 写真 1.天然記念物イボイモリの成体. 図 2.イボイモリの産卵地環境の模式図. 図 3.イボイモリの生息環境保全のための空間的視点での 重要性.

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粒散乱した状態で 7 個の卵が産み落とされた.卵 の径は約 3 ~ 4 mm で,それを径 8 mm のゼリー 層が包むようになっている.ゼリー状の物質が卵 を保護し,このゼリー層と地面との接触部で水分 の吸収が行われ,乾燥を防いでいる.産卵から 13 ~ 18 日で孵化した.偶然にも数個体について 孵化の瞬間を観察できた.ゼリー状の物質から抜 け出した幼生は,陸に上げた小魚がピチピチ跳ね るのと同じような動きで,水辺にたどり着き水中 に入った.その後、変態するまで水中で過ごし, 孵化後約 40 日で陸地に上陸し変態した.幼生の 餌は乾燥赤虫(市販)を与えた.変態後は水に入 る行動は見られなかった.変態後の幼体の餌は腐 葉土などにいる微小な土壌動物である.】 自然環境での産卵場所の微環境は,A 水際の陸 地(水面より数 cm ~数 m).B 卵の乾燥を防ぐ(卵 と土との接触面での水分補給)ための吸水可能な 環境で,いわゆる池の水が絶えず浸み出している 環境.C 落ち葉などの堆積した環境(乾燥や外敵 から守るために落ち葉などの下に産卵される). D 孵化した幼生が変態までを過ごす水溜りまで, 少ない労力でたどり着ける距離と環境である. ② 移動経路や精子の授受等を行う空間「地区 レベルの視点」図 3— ②: 奄美諸島の夜間調査は, 乗用車による巡回での目視調査がある.この観察 ではカエルやイモリなどの両生類は裸地や道路上 等の開けた場所に出現し,長時間滞在する習性が ある.筆者らは地域の潜在的な生物相を知るため に,乗用車による目視調査を採用し,存否を確認 している.イボイモリの場合も,繁殖期になると, 拓けた草地や道路などの見通しのよい場所に集ま る習性がある.この習性が仇となってロード・キ ルが発生しているのである. ③ 複数の隣接する繁殖集団を含む遺伝子交換 の可能な空間「地域レベルの視点」図 3— ③:生 態学において,生物の多様性を考えるとき,ある 地域に生息する同種個体のすべてを含んだ群を個 体群と呼ぶ.個体 ― 個体群 ― 群集 ― 生態系の レベル概念については図 4 に示した.一般的に, ある個体群に属していても,各個体は互いに遺伝 子的に異なっている.種内の遺伝子レベルの多様 性の保全は,すべての生物にとって,その繁殖力 や,環境変化に対する適応力を維持していくため に必要である.徳之島のイボイモリの持続可能な 生存に対しては,理想的な個体 ― 個体群 ― 群集 ― 生態系が必要である.現在の徳之島南部中央 部は,生息密度が高く個体群間のネットワークも 密である. 2.ロード・キルの現状 イボイモリの生息環境は,近年大型農地開発, ダム建設,レジャー施設およびこれに伴う大型道 路建設,また林道及び生活道の整備などによる森 林の伐採,地形の変貌等は本種の生息域に多大な 被害を及ぼしている.徳之島における最大の具体 的な事例として,イボイモリのロード・キルが頻 図 4.個体―個体群―群集―生態系のレベル概念. 写真 2.ロード・キルの犠牲になったイボイモリ ( 合計 124 個体 ).

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繁に発生している.ロード・キルの犠牲になった 個体を写真 2 に示した. 野生動物の衝突事故(ロード・キル)の調査 方法としての常道は,① 調査項目―衝突種,位置, 日時,時刻等.② 方法と内容 ― 衝突事故の記録 を収集する.衝突の集中する区間や箇所を明らか にすることである.以下,今回の調査結果を述べ る. A.位置(場所)と轢死体数 伊仙町の検福・中山・面縄・馬根・阿三・八 重竿,徳之島町の亀津・白井・諸田,天城町の西 阿木名の道路上の 26 ヶ所である. 今回カウントしたのは 124 個体で,それぞれ の場所での個体数は図 5 に示した.地域別に見れ ば白井地域と西阿木名の三京地域が特に多い傾向 を示し,徳之島の南部中央部が,生息密度の高い 地域といえる. B.日時と轢死体数 調査時期は 2006 年 11 月 26 日~ 2007 年 4 月 15 日であり,表 1 と図 6 に示した.期間の毎週土・ 日曜日のいずれかの日,多発する時期は随時増や し,延べ日数 31 日である.その間に巡回しても 全く轢死体の見つからなかった日は,11 月 26 日, 12 月 3 日,2 月 3 日,3 月 4 日・11 日・17 日・ 20 日・26 日,4 月 8 日・15 日の合計 10 日であっ た.一方,轢死体のあった日は合計 21 日であった. 毎日の確認調査・採集ができないことについて, 自然界におけるスカベンジャー(死体掃除屋)の 存在が問題となるが,数日間の間隔を置いての巡 回で,明らかに死亡日の違う複数の轢死体を収得 している(写真 2 を参照). 今回カウントした轢死体は 124 個体で,一日 に1頭~ 38 頭と日によって轢死体の頭数に差が あった.12 月中旬から轢死体の確認がはじまり, 急激に轢死体数(38 頭)とピークを迎え,2 月下 旬までかけて徐々に下降現象がみられて少なくな り,3 月には全く確認されなかった.このことか ら最盛期は,12 月と 1 月が主な繁殖期といえる. イボイモリの繁殖行動と気象との関係性を観 察する目的で,期間中の伊仙町の気象状況につい て,降水量(mm)・平均気温(℃)を項目に掲 げ図 7 で示した.これからは,平均気温の下降 (20℃以下)・1 日の間の急激な気温差・降雨を伴 図 5.地点別の轢死体数の状況. 図 6.調査日と轢死体数.

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11 月 12 月 1 月 日 気象条件 轢 死体 日 気象条件 轢 死体 日 気象条件 轢 死体 降水 量 平均気温 最多風向 日照時間 降水量 平均気温 最多風向 日照時間 降水量 平均気温 最多風向 日照時間 (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) 1 0 23.7 北東 0.0 1 0 18.6 北北東 1.8 1 8 19.6 南東 1.1 15 2 2 23.2 北北東 2.9 2 0 17.7 北北西 4.6 2 36 19.8 北 5.6 3 0 22.6 北北東 3.9 3 0 17.0 北 2.2 0 3 5 18.2 北北東 2.0 4 0 22.2 北北東 0.2 4 0 16.7 北北東 1.4 4 3 17.6 北北西 0.0 5 0 22.5 北北東 9.7 5 0 19.3 東北東 4.9 5 0 17.9 北北東 3.8 6 0 22.7 北北西 9.5 6 0 21.4 東 1.7 6 2 15.3 北西 0.1 7 0 19.7 北 5.6 7 26 21.9 東南東 0.1 7 0 12.3 北西 0.1 13 8 0 20.0 北 9.5 8 0 20.8 北北西 6.8 8 0 13.6 北北西 3.7 9 0 22.2 東北東 9.4 9 0 20.0 北西 1.9 9 0 14.1 北北西 0.6 10 0 24.0 東北東 9.1 10 0 17.2 北北西 1.2 2 10 0 15.2 北北東 0.0 3 11 0 22.1 北西 5.9 11 0 17.0 北 2.4 4 11 0 15.3 北北東 8.1 2 12 0 18.9 北 6.3 12 0 16.6 北 1.3 12 0 17.0 北東 6.8 13 0 19.4 北北西 1.6 13 0 22.3 北 2.1 13 2 15.0 北北東 0.0 1 14 0 22.3 南西 0.9 14 21 19.2 北北東 0.0 14 0 14.9 北 6.7 15 0 19.0 北 9.1 15 2 18.2 北北東 0.1 15 0 14.3 北 7.1 16 0 19.6 北東 6.5 16 5 16.7 北北東 0.0 16 0 17.7 南 7.2 17 0 22.5 東南東 3.4 17 12 13.6 北西 1.5 38 17 2 19.5 北西 0.5 18 54 22.3 東南東 0.0 18 0 13.9 北北東 0.0 18 6 15.3 北 0.0 19 1 22.7 西北西 0.9 19 0 17.3 北北東 3.5 19 23 13.8 北北東 0.0 20 0 22.2 西北西 4.4 20 14 19.5 北北東 3.7 20 0 17.6 北北東 5.8 21 0 21.0 北北西 2.3 21 19 16.9 北北東 0.0 21 28 16.9 北北東 0.1 7 22 30 22.2 東北東 0.0 22 3 16.9 北北東 4.0 5 22 0 16.1 北北東 5.9 23 2 23.3 西南西 3.6 23 0 16.5 北北東 7.6 3 23 0 16.0 北 8.9 24 0 21.8 北北西 2.0 24 0 17.3 東北東 7.0 24 0 14.9 北北西 0.9 25 0 22.1 北北西 9.5 25 39 17.9 東北東 0.0 25 0 14.2 北 8.5 26 4 24.3 南西 5.5 0 26 5 18.7 北北東 8.1 3 26 1 15.4 北北西 5.2 27 25 22.2 西北西 4.6 27 0 18.0 北北西 7.5 27 0 13.7 北北西 1.4 7 28 1 19.1 北北西 0.0 28 0 15.2 北北西 4.2 28 0 12.3 北北西 0.0 4 29 4 18.2 北北東 0.0 29 0 12.7 北 4.2 29 1 12.3 北北西 5.6 30 1 18.8 北北東 1.3 30 0 14.3 北北東 0.5 30 0 13.2 北北西 2.3 31 1 17.7 東北東 0.6 31 0 13.6 北北西 7.2 2 2 月 3 月 4 月 日 気象条件 死体 日 気象条件 死体 日 気象条件 死体 降水 量 平均気温 最多風向 日照時間 降水量 平均気温 最多風向 日照時間 降水量 平均気温 最多風向 日照時間 (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) (mm) (℃ ) (h) ( 頭 ) 1 0 12.6 北西 3.3 1 0 17.7 東 2.8 1 0 22.4 南西 0.4 2 3 10.3 北北西 0.9 2 0 19.0 東南東 2.5 2 17 19.7 北北東 0.2 3 0 11.6 北北西 1.2 0 3 0 20.4 東南東 5.9 3 0 14.6 北北西 1.8 3 4 0 12.6 北北西 4.8 4 0 20.8 南東 3.7 0 4 0 14.7 北北西 6.8 5 0 14.1 北北西 10.4 5 26 16.5 北北西 0.0 5 0 15.7 北北西 5.6 6 0 15.8 北北西 7.9 6 0 12.8 北北西 0.1 6 0 18.4 東南東 3.8 7 0 17.0 北北西 10.3 7 1 12.6 北北西 3.0 7 1 18.0 北北東 0.0 8 0 18.8 南南西 9.7 8 0 13.5 北 0.6 8 10 16.0 北北東 0.0 0 9 6 19.8 南西 3.3 9 4 14.2 東北東 0.0 9 0 16.6 北 4.8 10 0 16.3 北西 0.7 10 1 18.6 東 0.5 10 0 18.4 南東 1.5 11 0 13.7 北北西 4.7 11 0 14.7 北北西 0.5 0 11 1 17.7 北東 0.0 12 0 14.4 北北西 8.1 2 12 0 13.7 北北西 3.6 12 0 19.8 東 9.9 13 0 17.7 南南東 4.6 13 1 13.9 北北東 0.1 13 0 19.8 東南東 0.6 14 65 18.0 北北西 0.1 14 5 17.8 東 5.8 14 0 20.3 北東 7.3 15 0 14.0 北北西 5.7 2 15 11 20.1 西南西 0.1 15 29 18.4 東北東 0.5 0 16 0 16.4 南南東 1.8 16 0 19.3 西 0.7 16 0 19.3 西北西 6.6 17 9 20.3 南 0.0 17 4 16.6 北北東 0.0 0 17 0 17.6 北西 8.7 18 0 18.5 西北西 0.1 5 18 0 16.2 北東 0.7 18 60 17.5 北北西 0.8 19 0 17.1 北西 4.4 19 18 16.8 北 0.0 19 0 17.3 北北西 11.3 20 0 16.4 北北西 0.3 20 3 16.5 北北東 4.4 0 20 0 19.2 南東 9.9 21 3 17.3 北東 2.0 21 0 17.5 南東 6.4 21 0 20.8 南東 8.1 22 6 18.2 南 0.2 22 0 18.5 東北東 4.6 22 0 22.0 南南西 2.8 23 0 17.2 北北西 8.5 23 0 19.1 東南東 6.7 23 22 21.6 南西 1.0 24 0 14.9 北北東 6.3 1 24 1 20.4 南南西 2.5 24 26 20.3 北東 0.2 25 0 15.1 北北東 0.0 25 24 18.9 北北西 3.6 25 7 18.6 北北西 1.1 26 0 17.2 北北東 9.0 2 26 0 18.1 東 6.4 0 26 0 19.5 東北東 8.0 27 23 17.9 東南東 2.9 27 19 20.0 南南東 0.2 27 2 19.0 東北東 0.0 28 9 17.9 東北東 5.2 28 0 19.4 北北東 10.9 28 4 17.3 東北東 0.1 29 0 20.2 南 3.1 29 0 19.9 東北東 2.4 30 0 22.2 西 3.1 30 0 20.2 東 0.0 31 0 22.0 南西 1.0 表 1.気象条件と轢死体数との状況(伊仙町:日本気象協会資料参照).

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う湿度等との因果関係について,ある程度の傾向 は認められるももの,確定できる結果は得られな かった.  考察 1.徳之島のイボイモリの生息環境と生態 A.生態の概要  生息地現場の観察から極めて特異な環境が読み 取れる.特に,止水の水溜まりと水際部の微妙な 湿り具合と落ち葉の積もった林床が決め手となっ ているようである.この観察結果からも,卵の性 状や幼生の生活場所から水辺を必要とし,孵化後 数秒で水にたどり着ける陸地環境が必要である. 爬虫類のように殻を持った卵まで進化していない が,これら一連の生態から類推して,体型や皮膚 の状況は爬虫類に近く,両生類と爬虫類の中間型 の生態が認められる.両生類でありながら陸地に 産卵する行動は興味深い. B.繁殖期  繁殖期とは,動物が交尾・産卵・出産・育児等 を行う時期をいう.一年のうち,一定の季節と関 係して,周期的に現われるものが多く,あるもの では繁殖地への季節移動をともなう.繁殖期には 生殖器官およびそれ以外の器官にも,しばしば各 種の変化がおこり,動物によっては婚姻色などの 特別な色彩や体臭などをもつようになるものもあ る.イボイモリの繁殖行動とは求愛行動・精子の 授受・産卵・孵化・幼生の生育を指す.  宇都宮(1998)のイボイモリの記載によれば, 繁殖期は 2 ~ 6 月であり,その中で最盛期は 3 ~ 4 月となっている.しかし,筆者のこれまでの徳 之島の調査結果からは繁殖期は 11 月頃から始ま り翌年の 4 月頃まで,最盛期は 12 ~ 2 月となり 時期的な差が認められた. C.複数のビオトープを利用する生物  複数のビオトープを利用する生物の諸問題 — 両生類の場合についてヨーゼフ・ブラープ(1997) によれば,「両生類個体群の季節変動」として, 両生類の個体群の(単純化した)行動モデルがあ るとしている.イボイモリにも,この理論と類似 するところがあり,繁殖に必要な環境が非繁殖期 の環境と異なっている.繁殖期に池で産卵し,非 繁殖期には森林や草原で生活している.繁殖期に なると池を目指して移動する行動がみられ,その 一連の行動過程の一時期にロード・キルが集中的 に多発することになる. D.生息環境保全のための空間的視点での重要性  イボイモリの生息環境を保全するには,産卵地 そのものの「①地点レベル」,移動経路や精子の 授受等を行う空間「②地区レベル」,複数の隣接 する繁殖集団を含む遺伝子交換の可能な空間「③ 地域レベル」の三つの空間的視点を十分考慮した 保全が必要である.すなわち,地点レベルでの生 息空間を保全整備するだけでなく,イボイモリの 生活史に応じた所要の生息空間を確保するととも に,広域的な種間ネットワークを含む生態系ネッ 図 7.気象変化のグラフ(降水量と平均気温).

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トワークを保障することが重要となる. E.飼育下繁殖と自然繁殖  自然環境での繁殖習性を知るためのヒントを得 た飼育下繁殖の「実験室での観察結果」から,特 異な繁殖環境は,止水の水溜まりと水際部の微妙 な湿り具合と落ち葉の積もった林床が決め手とな るようである. F. 無機的環境と繁殖期との関係  春夏秋冬の移り変わりがはっきりしている中緯 度地方では,生物は季節の変化に生活史を同調さ せて生きている.自然環境の下では,単独の環境 要因が直接生物の生活に影響を与える場合は少な く,多くは複数の要因が組み合わさって生物の生 活に影響することが普通である.陸上では主に無 機的環境(光,温度,水分,土壌,空気)が主要 な要因である.この中の光周(期)性が大きな要 因と思われる.明期または暗期の長さの変化,す なわち光周期の変化によって引き起こされる生体 の反応性をいう.この現象は動物では各種昆虫, 鳥,魚類などの生殖腺発達・内分泌活動などに光 周性が認められる.  今回調査期間中の気象条件の項目である降水量 (mm)・平均気温(℃)・最多風向・日照時間(h) を基にロード・キル(轢死体)との因果関係を探 る予定であったが,ごく一般的な傾向①平均気温 が 20℃以下になってから轢死体が確認される, ②昼夜の急激な気温の変化,③降雨を伴う湿度の 上昇,④南・南東の風向き等,単に漠然と掴めた 程度であり,これらの現象はいずれも諸項目が連 動して起こるもので,単独で考えるには無理があ り,慎重な判断が必要と思えた.  生物と環境については,多くは複数の要因が組 み合わさって生物の生活に影響を与えており,ご く限られた情報だけでの判断は難しい.詳細な判 断は他に譲りたい. 2.ロード・キルの現状と課題 A.スカベンジャーの存在  自然界では,動物の死体を餌とする昆虫類・鳥 類・哺乳類等のスカベンジャーの存在がある.ス カベンジャーは昼夜を問わず死体に群がるもので ある.  筆者の経験則を述べると,奄美諸島で代表的な 昼間のスカベンジャーはカラスであり,ヘビ類の 死体の捕食は顕著である.しかし,ヘビの中でも 悪臭を放つアカマタの死体は忌避され残されてい る(鮫島,1999).  イボイモリの場合はどうであろうか,数日間の 間隔を置いての調査で,轢死体は新鮮なものと数 日経過したものと新旧の区別のつく死体を拾うこ とがほとんどである.この結果からイボイモリの 轢死体はスカベンジャーには避けられていると推 察される.  この問題に関連する報告として(小川ほか, 2003)がある.イモリ類の特性として,皮膚には 体を保護するための粘液腺をもち,毒液を出すも のも多い.皮膚腺からフグ毒と同じテトロドトキ シンが分泌されている.この毒はイモリの皮膚や 筋肉からも検出されるとのことである.また,イ モリ類に触れた手で目や口をこすると激しい痛み を感じる.推察するに,この毒がスカベンジャー の口や口腔粘膜などに激しい痛みを与えるのでは ないかと思われる.このことから,スカベンジャー による捕食や持ち去りの可能性は低いと結論付け た. B.ロード・キルの原因  ロード・キルは,イボイモリの生態,特に繁殖 習性からくるものであり,繁殖池の特殊構造を始 め,複数のビオトープを必要とし,その移動ルー 写真 3.ロード・キル発生地の既存の道路構造.

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トに道路が建設されると,道路上で車にはねられ てロード・キルになる.その対策として,生息地 での新設の道路建設や既存の道路改修において理 想的な構造への計画・設計が必要となる. C.ロード・キル保全対策のための提案  ロード・キルの最大の原因は,生息地への道路 の設置と道路の構造にある.既存の道路は簡易な 構造で,両サイドに排水溝など全く無く,生息地 が直接車道に接している(写真 3).小動物の移 動に関しては構造物の無いことは理想的である が,イボイモリも自由に道路に這い出せる.この 構造が致命傷になるのである.また,特に道路を 水平・直線化するための構造 ( 盛土と切土 ) が, 道路周辺に小規模な止水の水溜まりを多数造って しまうことになる.繁殖期になると周辺域で生活 する個体が集合し,道路周辺が密度の多い場所に なってしまうようである.  ロード・キル回避のための保全対策としては, 防止対策を配慮した 道路の計画と設計が必要に なる. D.保全対策のための構造  (1) 路上にイボイモリが這いだせない構造の道路  最も重要なことは,まず車道にイボイモリが這 いだせない構造の道路にすることである.それを 効果的に進めるために,道路両サイドはU字溝を 積極的に採用する.一般的にはU字溝は『生態系・ 生息地の分断をする』として問題視されている構 造物である.徳之島の生息密度の高い地域に対し ては,積極的に使用することを勧めたい. 図 8.ミチゲーションを目的とした流水利用道路横断溝の構造. 図 9.側溝には道路面の反対側に這い出し可能な構造物の設 置.

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 道路の左右の生息地の連続性を得るためのミチ ゲーション(影響の最小限化)を目的として,図 8 に示すような「流水利用道路横断溝」の設置で ある.左右の側溝が横断し連結する構造である. このことにより,左右の個体群間での遺伝子交流 も可能になる.この場合,ある程度の傾斜した道 路での利用がよい.側溝に落ちたイボイモリが物 理的に雨水の流れに乗り移動する.また,横断溝 は暗渠構造が良いと思われる.  (2) U 字溝からの這い出し構造物  U 字溝が一種のトラップ(罠)になり,路上へ の這い出し防止の役目をする.しかし,落下した 個体の長時間の滞在は良くない.左右の U 字溝 には,道路面に対し反対側に数十メートル間隔で, 図 9 のような這い出し可能な構造物をつくる.  謝辞  本調査において御指導・御協力を頂いた,前鹿 児島県教育委員会文化財課の江平憲治氏・東京都 大田区役所職員の森住貢一氏・元伊仙町立歴史民 俗資料館長の義憲和氏・現伊仙町立歴史民俗資料 館長の伊藤勝憲氏をはじめ,文化庁,鹿児島県教 育委員会,伊仙町・徳之島町・天城町の各教育委 員会,(株)新和技術コンサルタントの諸氏に対し, 厚くお礼申しあげます.  引用文献 ヨーゼフ・ブラープ.1997.ビオトープの基礎知識.日本 生態系協会. 環境庁(編).1981.日本の重要な両生類・爬虫類 ― 南九州・ 沖縄版 ―.大蔵省印刷局. 環境庁(編).1991.日本の絶滅のおそれのある野生生物.(財) 自然環境研究センター. 森田忠義.1989.鹿児島のすぐれた自然.鹿児島県保健環 境部環境管理課(編),190 pp. 中村健児・上野俊一.1963.原色日本両生爬虫類図鑑.保 育社. 日本生態系協会.1994.ビオトープネットワークⅠ.ぎょ うせい. 日本生態系協会.1994.ビオトープネットワークⅡ.ぎょ うせい. 小川賢一・篠永 哲・野口玉雄(監).2003.危険・有毒生物. イボイモリ.学習研究社,東京,139 pp. 太田英利.2003.鹿児島の絶滅のおそれのある野生動植物(動 物編).鹿児島県. 鮫島正道.1985.徳之島の動物.鹿児島短期大学付属南日 本文化研究所 南日本文化第 17 号。115 - 143pp. 鮫島正道.1993.徳之島の野生動物の現状と保護対策.鹿 児島短期大学付属南日本文化研究所 南日本文化第 26 号。117 - 128pp. 鮫島正道.1995.東洋のガラパゴス 奄美の自然と生き物 たち.南日本新聞社. 鮫島正道.1998.鹿児島の野生生物.芸香草.鹿児島県立 図書館. 鮫島正道.1996.奄美の自然.鹿児島の自然調査事業報告 書Ⅲ.鹿児島県立博物館. 鮫島正道.1999.鹿児島の動物.春苑堂出版. 千石正一.1979.原色両生・爬虫類.家の光協会. 宇都宮妙子 . 1998. 日本の希少な野生水生生物に関するデー タブック.イボイモリ.日本水産資源保護協会.220– 221 pp.

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沖永良部島におけるセイタカシギの繁殖生態

―九州での初記録―

中村麻理子・鮫島正道

〒 899–4395 鹿児島県霧島市国分中央 1–12–42 第一幼児教育短期大学内鹿児島県野生生物研究会本部

 はじめに

 セイタカシギ Himantopus himantopus (Linnaeus, 1758)はチドリ目セイタカシギ科の鳥類で,主に 旅鳥として渡来する.全長が約 40 cm,ピンク色 の細長い脚と黒色の細長い嘴が特徴である.生息 環境は海岸の浅瀬,干潟,ヨシ原,海岸近くの湿 地・湖沼・水田などで,繁殖は湖沼,沼沢の浅瀬 や海岸の岩石地などに営巣する.食性は動物質で 水棲昆虫・甲殻類・貝類・小魚などの小動物であ る.  世界中の熱帯から温帯に広く分布し,日本では 1960 年頃まで非常に稀な鳥とされていたが,徐々 に記録が増え越冬例も報告されている.千葉県や 東京都,愛知県で数つがいが繁殖に成功している が,日本での繁殖についての報告は少ない.セイ タカシギについての主な論文は,武内ら(1977), 育雛については小澤(2007)などがある.また絶 滅危惧種についての記載では加藤(2003),柳沢 (2004)がある.一般的生態については黒田(1969), 森岡ら(1989),佐藤(1994),山岸ら(2004)が ある.  鹿児島県における本種の飛来記録は少なく,出 水干拓,大浦干拓,国分干拓などの農耕地やその 周辺の干潟,トカラ列島中之島,奄美大島,徳之 島等があるが,繁殖についての報告はない.今回, 沖永良部島においてセイタカシギの一連の繁殖生 態を観察した.これまでの報告例からすると九州 地域での繁殖は初記録になる.  本種は生息環境の減少や悪化により個体数が減 少しており,環境省編「日本の絶滅のおそれのあ る野生生物」— レッドデータブック — と,鹿児 島県の「鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植 物」— 鹿児島県レッドデータブック — によれば, 絶滅危惧 II 類として掲載されている. 絶滅が危 惧される本種の保護のためには情報の蓄積が必要 であり,特に繁殖についての情報は鳥類の生態で 最も重要である.国内で報告がある繁殖環境は埋 め立て地が多く,琉球列島の一部である沖永良部 島のような島嶼での繁殖事例は貴重である.  今回繁殖生態に関する興味ある写真を得る事が 出来た.本報告では特徴的な繁殖生態写真を多く 用いた.  観察地点および方法 観察地点は鹿児島県大島郡和泊町谷山にある 洪水調整池である.観察地点を図 1 に示す.本洪 水調整池は,農地の冠水防止のために水量を調節 する池として,鹿児島県が平成 20 年度に整備を 実施した池であり,整備前は湿地と畑地であった. 面積は 25.240 ha,水深が深い所で約 30 cm 位で ある.水量は降雨時に増すが,放流口の高さまで である.洪水調整池はフェンスで囲まれ,進入で きないようになっている.周辺の環境は畑地が広 がり,外周の農道は車や人の往来がある.洪水調 整池の状況・構造を図 2 に示す(以下,洪水調整 池を観察池とする).    

Nakamura, M. and M. Sameshima. 2010. First reliable record of reproduction of Himantopus himantopus in Kyushu, with description of reproductive ecology of the species in Okinoerabu-jima Island, Kagoshima Prefecture, Japan.

Nature of Kagoshima 36: 11–18.

Kagoshima Wildlife Research Association, Daiichi Junior College for Infant Education, 1–12–42 Kokubu-chuou, Kirishima, Kagoshima 899–4395, Japan (e-mail: MN, naka_ tatsu@po3.synapse.ne.jp).

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観察は農道からフェンス越しに双眼鏡と望遠 鏡を使い実施した.補助機械としてカメラを使用 し写真による記録を行った.観察日数は,抱卵後 期の平成 21 年 6 月上旬から本種が観察池で確認 された 11 月中旬までの 157 日間である.観察は 親鳥が抱卵・育雛を放棄しないように,また雛の 成長に影響を与えないように注意して行った.  観察結果 一連の観察結果については卵の確認,抱卵,育 雛,外敵防衛行動,飛翔開始そして家族行動など であるが,概要を表 1 に示す. 1.抱卵の確認 6 月 9 日,観察池でセイタカシギの抱卵と巣に 3 個の卵を確認した.巣の確認位置と抱卵中の雌 を図 3 に示す.抱卵期の雌雄の分業については, 雌のみ抱卵するのではなく雄の抱卵もみられた. また常に雌と雄が交互に抱卵するのではなく,巣 を空けている時もあった.雄と雌の一日の抱卵時 間については,卵の確認から孵化までの日数が 3 日間であったため,詳細なデータは取れなかった が,雌の抱卵時間が長い傾向にあった.巣を空け ている時は,巣の見える範囲で採餌・休息してお り,親鳥が観察池を離れる事はなかった.抱卵中 の雌は,巣材をくわえ巣を補強する行動が観察さ れた(図 4). 図 1.観察地点. 図 2.洪水調整池の状況・構造 a)全景(H21.6.24),b)流 入口(H21.7.23),c)放流口(H21.7.3). 雛(幼鳥)の行動 親鳥の行動 ~11日 卵 ・抱卵 ・外敵防衛行動 12日 孵化 ・雛の付き添い ・外敵防衛行動 13~25日 ・雛自ら採餌 ・外敵防衛行動 ・雛の付き添い ・抱雛 ・外敵防衛行動 8日 ・幼鳥の羽ばたき ・外敵防衛行動 ・幼鳥の付き添い ・外敵防衛行動 20日 飛翔開始 - 9月 下旬まで 11月 中旬以降 月 日 家族行動 観察池を離れる 7月 6月 表 1.主な観察結果の概要. 図 3.巣の確認位置と抱卵中の雌(H21.6.9).

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2.巣と卵 巣は水中に泥や小石等を積み上げた構造で,卵 座には木の枝や水草を敷いていた.巣材は泥,小 石,木の枝,水辺植物の葉や茎が使われ,巣の高 さは水上から約 10 cm 程度であった.巣は孵化後 の増水の影響で崩れ,詳細な測定が出来なかった. 卵は卵形で,クリーム褐色の地に黒褐色の斑点と 斑紋が散在していた.巣と卵は図 5 に示す. 3.孵化と育雛 雛が確認されたのは,卵の発見(抱卵期後期) から 3 日後の 6 月 12 日であった(抱卵日数は約 22 ~ 26 日位であるので産卵は 5 月中旬~下旬). 雌が卵座で抱雛していたが,観察者に気付き親鳥 が立ち上がると,雛が 1 羽巣から飛び出し,もう 2 羽は卵座で確認した.翌日には巣から離れた場 所で雛 3 羽と親鳥を確認した.孵化直後の雛は親 鳥からの給餌を受けず,自ら採餌しており,親鳥 は単に雛に付き添っている様子であった.孵化率 は 100% になる.卵座に卵殻は残っていなかった. 孵化直後と翌日の 13 日に確認した雛の様子を図 6 に示す. 孵化後 8 日目以降の雛は単独で行動し,各自 で移動しながら採餌していた.親鳥は雛に付き添 い行動していた.主に雌は雛に付き添い,雄は外 敵に対しての威嚇を行う様子が観察された.雛は 採餌時には単独で行動するが,休息時は群れる傾 向にあった.孵化後 8 日目の雛の様子を図 7 に示 す. 降雨時は親鳥が 3 羽の雛を羽毛に入れ,じっ としている姿が観察された(図 8).豪雨から雛 を守り保温する事が目的で,この抱雛行動は孵化 後 15 日目までみられた. 図 4.巣を補強する雌と採餌中の雄(H21.6.11). 図 5.巣と卵(H21.6.10). 図 6.孵化直後の雛の様子 a)H21.6.12,b)H21.6.13. 図 7.孵化後 8 日目の雛の様子 a)羽繕いをする雛,b)採 餌する雛.

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4.外敵防衛行動 (1)抱卵期 抱卵期の防衛行動は雌雄共に確認された.観 察者に対しては,巣の所在をまぎらわしくするた めに,雄は派手な飛び立ちや近くに寄り注意を引 きつけ,抱卵中の雌は巣を抜け出し巣から離れた 場所に飛翔するなどの行動をとった.観察距離を 縮めると「ケッケッケッ」という警戒の声を発し, 頭上を飛翔する威嚇行動が観察された.他の鳥類 に対しては,休息中のダイサギに対して雄が攻撃 し,池の端に追いやる威嚇行動がみられた.抱卵 期の親鳥は外敵に対して巣と卵を共同で防衛する 姿が確認された. (2)育雛期 育雛期の防衛行動は雌と雄,雛で確認された. 孵化直後は,外敵(観察者)が近づくと雛から親 鳥が離れ,雄が警戒の声を発し頭上を飛翔する威 嚇行動をとり,雛は伏せる行動や身を隠す行動を とった.その後,雛が雌の羽毛に入る抱雛行動が 観察された(図 9).また降雨の影響で水位が上 図 8.降雨時に抱雛する親鳥(H21.6.25). 図 9.a) 警戒の声を発する雄,b)伏せる雛,c)抱雛する雌. 図 10.a) 雛を誘導する親鳥,b)身を潜める雛. 図 11.外敵防衛行動(攻撃).a)異種に対して(H21.7.12), b)同種に対して(H21.7.2).

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がり観察池の浅瀬や陸地がない状況では,雌が雛 を護岸へ誘導し,雛は護岸ブロックの中で身を伏 せる行動が観察された(図 10).親鳥は外敵に対 して警戒の声を発し頭上を飛翔する威嚇行動を とった. 孵化後 8 日目以降は,親鳥が頭上を飛ぶ威嚇 行動はみられず,親鳥が警戒の声を発し雛に注意 を促すと,雛たちはその声に反応し,ゆっくり採 餌しながら外敵から遠ざかる行動がみられ,飛翔 能力が備わる頃になると幼鳥は各自で外敵から遠 ざかる行動をとった. 他の鳥類に対しては,観察池で採餌・休息し ているサギ類(ダイサギ・コサギなど)やシギ類 (キアシシギ・アオアシシギなど)に対して攻撃 する防衛行動が観察されたが,飛翔能力が備わる 頃になると激しい攻撃(池の端に追いやる)はみ られなくなった.8 月中旬以降になり観察池を利 用する野鳥類が多くなると攻撃はみられなくなっ た.観察池に飛来した同種に対しては雌が激しく 攻撃し,観察池の外へ追い出す行動が確認され, その後 8 月中旬まで繁殖した家族以外のセイタカ シギを観察池で確認することはなかった.異種で あるキアシシギと,同種であるセイタカシギに対 する防衛行動(攻撃)を図 11 に示す. 5.雛の発育過程 孵化直後の雛の発育状態は全身が幼綿羽でお おわれ,眼が開いていた.3 羽の雛の発育や形態 に差異はみられなかった.孵化後 2 ~ 49 日目ま での発育の変化について図 12 に示す. 孵化直後の雛は,体の上面・頸側・体側など はクリーム色で黒褐色の小斑点が散在していた. 体の下面は白色,眼先からは黒褐色の過眼線が あった.13 日目までは上面・頸側・体側に黒褐 色の小斑点が散在していたが,18 日目には黒褐 色の小斑点が不明瞭になり,21 日目には幼羽が 図 12.雛の発育過程.

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一部みられ始めた.13 ~ 24 日目で幼綿羽が幼羽 に生え変わり大きく変化した. 24 日目には体上 面の各羽の軸班が黒褐色で羽縁が褐色の鱗状模様 となり,幼鳥の特徴である白い羽縁が目立ち始め た.脚の色も淡いピンク色となった.28 ~ 49 日 目以降は,体上面の各羽の軸班が黒褐色から暗黒 褐色へと変わったが,28 日目以前のような大き な変化はなかった.しかし嘴と脚については幼綿 羽の時期に比べると著しく発達し,脚の色はより 鮮やかになった. 6.飛翔能力について 孵化後 27 日目に幼鳥の羽ばたきを初めて確認 し,39 日目には観察池を飛翔していた(図 13). 51 日目には観察池を飛び出し飛翔する姿がみら れたが,主に繁殖した観察池のみを生息の場とし ていた. 7.飛び立ち後の様子 飛び立ち後の幼鳥は単独で行動するのではな く,休息時には群れる姿が観察された.繁殖した 家族で行動する姿は 9 月下旬頃までみられた(図 14). 8 月中旬以降は,他の個体や渡りの途中と考え られる数十羽(最大 27 羽確認)のセイタカシギが, 観察池で採餌や休息をするようになり,個体識別 が困難となった(図 15).観察池でセイタカシが みられたのは 11 月中旬までであったが,島内の 他の水辺ではセイタカシギを確認している(図 16).観察池で繁殖した個体であるかは不明であ る.  考察 A.年周期生活 鳥の生活は年周期を通じてみると,繁殖期と 非繁殖期からなり,その間に渡りを行う移動性の ものと,周年定着性のものとがある.鳥を移動の 観点からみると,渡り鳥(冬鳥・夏鳥・旅鳥)と 留鳥(漂流・真留鳥・半留鳥)に区分される.本 種は鹿児島県で旅鳥または冬鳥とされていたが, 沖永良部島では 1 年を通して確認され,繁殖も成 功し留鳥の可能性がある.ただしシーズン中,沖 図 13.a)羽ばたきをする幼鳥(H21.7.8),b)飛び立とう とする幼鳥(H21.7.20). 図 14.a)休息中の幼鳥(H21.7.30),b)繁殖した家族(左 から雌,幼鳥 3 羽,雄;H21.8.30). 図 15.観察池における渡り途中のセイタカシギ(H21.10.7).

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永良部島で確認していたセイタカシギのほとんど は飛び去り,繁殖事例も 1 例のみである事から継 続して繁殖するか見守る必要がある.今後の情報 の蓄積により判断する事が望ましい. B.配偶型 鳥類の繁殖には様々な家族制(一夫一妻型・ 一夫多妻型・多夫一妻型・集団配偶型)がある. 観察の結果,つがい関係は抱卵から秋の渡りの時 期までみられ,1繁殖期間変わらなかった.よっ て配偶型は一夫一妻型であると考えられる. C.雛型(雛の発育状態) 孵化時点での雛の成熟度合いの区分(早成性 雛・半早成性雛・半晩成性雛・晩成性雛)では, 雛は孵化直後から全身に幼綿羽がみられ,巣を離 れ自ら採餌行動をとっており早成性雛であると言 える. D.繁殖型 鳥類の繁殖行動は様々だが,大きく分けて集 団繁殖型(コロニー制)と単独繁殖型(なわばり 制)がある.抱卵・育雛期に同種のセイタカシギ に対して威嚇行動がみられ,繁殖型は単独繁殖型 であると考えられる.なわばりの範囲は明確に特 定出来なかったが,同種に対し池の外へ追いやる 行動がみられ,主ななわばりは観察池内であると 考えられる.なわばり主張は,観察池で繁殖した 家族以外のセイタカシギが確認された 8 月中旬以 降になくなったと考えられる(図 15). E.外敵防衛行動 一般的にシギ・チドリ類は,抱卵・育雛期に 巣と卵,雛の所在を気付かせないようにする行動 (擬傷など)がみられる.本種の外敵防衛行動は 観察の結果,幼鳥の飛翔能力が十分に備わる時期 まで雄と雌が共同で行うと考えられる. F.抱雛行動 抱雛行動は孵化後 2 週間までの観察とある(小 澤,2007).本観察でも外敵から雛を守るためと 降雨から雛を保護する目的で行っていた.孵化後 15 日頃まで観察され,育雛初期にみられる特徴 的な行動と言える. G.食性 鳥類がどのように餌を得て(捕らえて),どの ように食べるか等の摂食方法を食性という.食性 は大きく動物食,植物食,雑食に分けられる.雛 は浅い水辺や陸地部分にできた水溜まりで餌を捕 らえ,幼鳥になると親鳥と同様に長い嘴を使い, 他のシギ・チドリ類が採餌できない深い水辺も利 用していた.本種の食性は動物質でありトンボや カエルの幼生,小魚等の採餌を確認した(図 17).観察池の底質は砂泥で水生植物が繁茂し, 雛や幼鳥の餌となる生物が豊富に生息していたと 考えられる. H.繁殖環境 島内の他の水辺と繁殖池を比較し,繁殖適地 の条件を挙げると①採餌可能な浅い水辺や休息可 図 16.観察池以外のセイタカシギ(タイモ畑;H22.2.8). 図 17.トンボを採餌する幼鳥(H21.7.12).

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能な陸地がある多様な水辺環境,②人や捕食者で ある小型哺乳類などの進入がない環境,③水位の 変動が少ない環境,④餌生物の生息に適した水生 植物が生育出来る環境(池の底質が砂泥)などが 挙げられる. 特に③の水位の変動は,抱卵期に最も影響を 与える.観察池の水位が増し巣が水没したが,孵 化した直後であったため繁殖に影響はなかった が,水位変動が大きい水辺は繁殖に適さないと考 えられる.また④の餌生物の生息に適した水生植 物が繁茂する水辺は,外敵から身を守りやすく, 餌が豊富で休息や子育てに適した環境である.繁 殖池は整備直後で植生もまばらであったが,2 ヶ 月で水生植物が繁茂し,バンの巣も数ヶ所確認さ れ繁殖適地であったと考えられる. I.島内の水辺環境 島内の主な水辺はシート張りの溜池で,水生 植物が生育せず餌生物の生息に適さない水辺環境 である.生態系の栄養段階の上位に位置する動物 食の本種は,様々な餌生物を必要とする.水辺を 利用する鳥類にとって,観察池のような水生植物 が生育する環境を積極的に増やす事が望まれる. J.渡り鳥の中継地 南西諸島の一部である沖永良部島のような海 に点在する島は,渡り鳥にとって重要な移動ルー トで,中継地や休息場としての機能を有している. 水生植物が繁茂している観察池では,多くの旅鳥 が確認された.世界各地の自然が国境を越えて生 態学的なつながりで相互に結ばれており,ラム サール条約(水鳥の生息地として国際的に重要な 湿地生態系全体の保存)と国の環境基本法の中で は,地球全体における環境保全に向けて協力,連 帯が求められている. K.今後の課題 観察池は島内の越山と大山に挟まれた低地で あり,島では数少ない湿地帯にある.本種の保護 のためにも餌となる生物や環境を確保することが 重要であり,このような湿地一帯の環境を保全し, 今後も詳細な情報の蓄積に努める必要がある.  引用文献 清棲幸保(1978)日本鳥類大図鑑 II.講談社. 加藤ゆき(2003)セイタカシギ.鹿児島県環境生活部環境 保護課(編),pp. 59.鹿児島県の絶滅のおそれのある 野生動植物 動物編.財団法人 鹿児島県環境技術協会. 黒田長久(1969)鳥類の研究 — 生態 —.新思潮社,東京. 森岡弘之 ・ 中村登流・樋口広芳(1989)現代の鳥類学.朝 倉書店,東京. 小澤尊典(2007)一色町で繁殖したセイタカシギの育雛の 観察.西三河野鳥研究年報 VOL. 10. 佐藤正孝(1994)新版 種の生物学.建帛社,東京. 武内功他(1977)愛知県の野鳥,pp. 246.愛知県農林部. 高美喜男・恵沢岩生・岩元さよ子・斉藤康治(1997)奄美 の野鳥.奄美野鳥の会. 山岸哲・森岡弘之・樋口広芳監修(2004)鳥類学辞典.昭 和堂,東京. 柳沢紀夫(2004)セイタカシギ . 環境省自然環境局野生生物 課(編),pp. 114.改訂・日本の絶滅のおそれのある野 生生物 — レッドデータブック —2 鳥類.財団法人 自然 環境研究センター,東京.

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 はじめに

近年,南西諸島多良間島の潮上帯転石帯でヤ エヤマヒメオカガニ Epigrapsus politus,ムラサキ オカガニ Gecarcoidea lalandii,イワトビベンケイ ガニ Metasesarma obesum やヤシガニ Birgus latro の稚ガニなど希少種やその稚ガニの生息が確認さ れている(藤田・砂川,2008).種子島は鹿児島 県本土からおよそ 40 km 南東に位置し,鹿児島県 内では奄美大島,屋久島に次いで 3 番目に大きい 島である.屋久島は鹿児島県本土からおよそ 60 km 南に位置し,県内では奄美大島に次ぐ規模を 有している.種子島,屋久島の陸水域における甲 殻類相に関する研究は比較的多くなされているが (Shokita, 1975, 1979; Suzuki et al., 1993; Suzuki et al., 2000),潮上帯転石帯における調査研究はオカ ヤドカリ類を対象とした報告のみである(鹿児島 県教育委員会,1987). 著者らは,2009 年夏季に種子島および屋久島 全島の潮上帯転石帯を対象とした甲殻類生息調査 を実施した.その結果,種子島において沖縄県版 レッドデータブック(沖縄県,2005)で準絶滅危 惧種(NT)に指定されているイワトビベンケイ ガニ Metasesarma obesum および環境省版レッド データブック(環境省自然環境局野生生物課, 2006)で情報不足(DD),沖縄県版レッドデータ ブック(沖縄県,2005)で準絶滅危惧種(NT) に指定されているヒメオカガニ Epigrapsus notatus の 2 種が採集された.さらに屋久島においてはイ ワトビベンケイガニ Metasesarma obesum が採集 されたので,ここに報告する.  材料と方法 調査は,2009 年 8 月 26 日 –30 日に種子島の大 崎漁港(Stn. T-1),大崎漁港奥(Stn. T-2),上古 田下(Stn. T-3),大崎(Stn. T-4),寺之門西部の 漁港(Stn. T-5),大久保(Stn. T-6),浦田海水浴 場左岸(Stn. T-7),浦田海水浴場右岸(Stn. T-8), 久保山(Stn. T-9),白碆から南へ 1.5 km の海岸(Stn. T-10),浜脇港左岸(Stn. T-11),カガマ瀬左岸(Stn. T-12),軍場下(Stn. T-13),田之脇(Stn. T-14), 鉄浜海岸(Stn. T-15),犬城海岸(Stn. T-16),中 山海岸(Stn. T-17),竹屋海岸(Stn. T-18),女洲(Stn. T-19),熊野漁港(Stn. T-20),門倉崎近くの海岸(Stn. T-21),門倉崎近くの海岸右岸(Stn. T-22),下西 目港右岸(Stn. T-23),下西目港左岸(Stn. T-24), 小田(Stn. T-25),砂坂(Stn. T-26),上之城(Stn. T-27),牧川(Stn. T-28),深川南(Stn. T-29),箱 崎(Stn. T-30),下石寺養殖場左岸(Stn. T-31), 住吉(Stn. T-32),志和野北部(Stn. T-33),志和 野南部(Stn. T-34)の 34 地点の潮上帯転石帯で行っ た(図 1). 屋久島においては,2009 年 9 月 1 日 –4 日に田 代海岸(Stn. Y-1),枕状溶岩(Stn. Y-2),安房貯 木場前(Stn. Y-3),春田海岸(Stn. Y-4),中橋下(Stn. Y-5), 麦 生 港 右 岸(Stn. Y-6), 宮 浦 中 下(Stn. Y-7),城之川河口(Stn. Y-8),ふれあいパーク下 (Stn. Y-9),女川河口(Stn. Y-10),原漁港(Stn.

希少カニ類 2 種の種子島と屋久島における初記録

永江万作

1

・鈴木廣志

2

・藤田喜久

3

・組坂遵治

2

・上床雄史郎

2 1〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学研究科 2〒 890–0056 鹿児島市下荒田 4–50–20 鹿児島大学水産学部 3〒 903–0213 沖縄県中頭郡西原町字千原 1 番地 琉球大学教育センター・NPO 法人海の自然史研究所    

Nagae, M., H. Suzuki, Y. Fujita, J. Kumisaka and Y. Uwatoko. 2010. New records of two rare crabs in Tanegashima Island and Yakushima Island. Nature of Kagoshima 36: 19–22.

HS: Faculty of Fisheries, Kagoshima University, 4–50–20 Shimoarata, Kagoshima 890–0056, Japan (e-mail: suzuki@ fish.kagoshima-u.ac.jp).

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Y-11),平内(Stn. Y-12),深川(Stn. Y-13),大浦 温泉東(Stn. Y-14),中間海水浴場(Stn. Y-15)の 15 地点の潮上帯転石帯で行った(図 1). 調査は,10–20 分の間に転石の間や転石の下を 無作為に探索した.採集はすべて手取りで行った. なお,本研究で報告したカニ類の標本は,鹿児島 大学総合研究博物館に収蔵した.  結果と考察 現在,調査結果の解析を継続しているため,本 報告では種子島初記録となる 2 種と屋久島初記録 となる 1 種を記載した. オカガニ科 Gecarcinidae

ヒメオカガニ Epigrapsus notatus (Heller, 1865) (図 2.オス;甲長 22.85 mm,甲幅 26.5 mm,標 本登録番号 KAUM–AT–126,採集者:上床雄史郎) 本種は,甲が横に広いまるみのある四角で,額 は甲幅の 1/3 に近くて,広い方である.前側縁に は,眼窩外歯の後方に,痕跡的な 1 小歯がある. 甲面は,平滑である.頬域は,短い毛でおおわれ ている.口郭は幅が大きく,外顎脚の外肢は髭を 欠く.ハサミ脚は強大ではなく,歩脚は各節やや 偏圧され,第 2,第 3 対の基部の間には,長い軟 毛の房がある.歩脚の指節は,きわめて細く,先 端は尖っている.2009 年 8 月 28 日と 30 日に種 子島の門倉崎近くの海岸(Stn. T-21,図 3)にて 2 個体採集された.採集場所において,底質の表 面に微量の水の流れが見られた. 国外では台湾,ニコバル,スマトラ北部,サ モア,およびハルマヘラ島などに分布しており, 国内では石垣島,八丈島から記録されている(酒 井,1976;沖縄県,2005;Ng et al., 2000).近年, 八重山諸島の与那国島と宮古諸島の宮古島でも確 認された(藤田,私信). ベンケイガニ科 Sesarmidae

イワトビベンケイガニ Metasesarma obesum (Dana, 1851) ( 図 4. 種 子 島  オ ス; 甲 長 11.25 mm, 甲 幅 12.9 mm,標本登録番号 KAUM–AT–127,採集者:組坂 遵治)(屋久島 オス;甲長 7.4 mm,甲幅 8.15 mm, 標本登録番号 KAUM–AT–128,採集者:永江万作) 本種は,甲幅 17 mm 未満の小型種で(本研究 では甲幅 5.6 mm から 16.5 mm の個体が採集され た),甲の前縁は甲幅の 1/2 より大きく,強く下 垂し触覚域を覆う.第 2 触角は眼窩の外に位置し, 図 1.種子島と屋久島における調査地点.

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甲の側縁はほぼ平行で歯を有しない.ハサミ脚掌 節の表面はほぼ滑面を呈している.生息場所によ り色彩変異が見られる.2009 年 8 月 28 日と 29 日に種子島の門倉崎近くの海岸(Stn. T-21),下 石寺養殖場左岸(Stn. T-31),志和野南部(Stn. T-34)において 4 個体採集された.また 9 月 1 日 に屋久島の麦生港右岸(Stn. Y-6,図 5)において も 6 個体採集された. 国外では,インド―太平洋に広く分布し,国 内では,奄美大島,沖縄諸島の沖縄島,久米島, 宮古諸島の宮古島,多良間諸島の多良間島,八重 山諸島の石垣島,黒島,西表島,与那国島から報 告されている(Komai et al., 2004; Osawa & Fujita, 2005; 沖縄県,2005; 鈴木ほか,2008). 以上のように,今回報告した 2 種は種子島お よび屋久島において初記録の種であった.今まで その生息が確認されなかったのは,これら 2 種が 潮上帯の転石帯に依存して生息しているため,従 来の調査が潮上帯で十分なされなかったことに由 来すると考えられる.また,潮上帯の転石帯が護 岸や海岸道路の建設により消失すれば,これら 2 種が絶滅に瀕する可能性が高くなるので,今後こ の地域へのかかわり方には十分な配慮が必要と思 われる.  謝辞 本研究を行うにあたり,採集の協力を頂いた 鹿児島大学水産学部鈴木研究室の学生諸氏に御礼 申し上げる. 図 2.種子島門倉崎近くの海岸で採集されたヒメオカガニ. 図 3.種島島門倉崎近くの海岸におけるヒメオカガニの採集 地点. 図 4.種子島門倉崎近くの海岸で採集されたイワトビベンケ イガニ. 図 5.屋久島の麦生港右岸におけるイワトビベンケイガニの 採集地点.

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 引用文献 藤田喜久・砂川博秋,2008.多良間島の洞穴性および陸性 十脚甲殻類.宮古島市総合博物館紀要,12: 53–80. 鹿児島県教育委員会,1987.鹿児島県のオカヤドカリ属- 生息実態緊急調査報告書-.64 pp.,鹿児島県教育委員 会,鹿児島市. 環境省自然環境局野生生物課編,2006.改訂・日本の絶滅 のおそれのある野生生物-レッドデータブック- 7 ク モ形類・甲殻類等,財団法人自然環境研究センター, 86 pp.

Komai, T., Nagai, T., Yogi, A., Naruse, T., Fujita, Y., & Shokita, S., 2004. New records of four grapsoid crabs (Crustacea: Decapoda: Brachyura) from Japan, with notes on four rare species. Natural History Research, 8 (1): 33–63.

Ng, P. K. L., Nakasone, Y., & Kosuge, T., 2000. Presence of the land crab, Epigrapsus politus Heller (Decapoda, Brachyura, Gecarcinidae) in Japan and Christmas Island, with a key to the Japanese Gecarcinidae. Crustaceana, 73: 379–381. 沖縄県編,2005.改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生

生物(動物編)レッドデータおきなわ,沖縄県,561 pp.

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諸喜田茂充,1975.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化 について- I ,琉球大学理工学部紀要,18: 115–136. 諸喜田茂充,1979.琉球列島の陸水エビ類の分布と種分化

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 はじめに 植物は動物よりはるかに長寿であり,巨大に なる.寿命では植物が 5000 年に近くなるのに対 し て, 動 物 で は 200 年 に も 満 た な い( 鈴 木, 2002).大きさでも世界最大の植物は,重さでセ コイアオスギの 1800 トン,高さではセコイアメ スギの 115.5 m,直径ではメキシコヌマスギの 11.4 m などが知られており,いずれも動物の世界 を大きくしのぐ.このような老木巨木が存在する ためには,安定した自然環境が長く保たれている 必要があるので,すぐれた自然の指標としても, 巨木や老木の存在は重要である. 鹿児島県の大部分では,本来の自然植生であ る照葉樹林が伐採されスギやヒノキの針葉樹植林 や二次林に変換された.ただし,同じ照葉樹林地 域でも関東地方などと比較すると温暖な地である 鹿児島では,照葉樹林の構成種が萌芽などにより 再生しやすいので(Itow, 1983),劣化した二次林 でも照葉樹種の若木が数多く発生していることも 珍しくはない.しかし,巨木に育つためには少な くとも数百年の年月が必要であり,巨木の存在は そこに豊かな自然が長く保持されていたことを示 す.大隅半島はかつて広大な面積の照葉樹林が あったとされているが(熊本営林局植生調査係, 1937),現在は稲尾岳と木場岳に比較的まとまっ た面積であるほかは,各地に小さな林分が点在す るにすぎない.稲尾岳では,おそらくは太平洋に 近いため強風という自然条件の影響で,巨木がほ とんどないが,内陸部に残存する小林分で多数の 巨木が最近発見された.その学術上,自然保護上 の価値を本論文では検討する.  1.大隅半島高野国有林の巨木群 ここ数年,NPO 大隅照葉樹原生林の会などの 有志らが大隅半島の自然の再調査を行ってきてい たが,肝属郡肝付町の高山川沿いにある高野国有 林の 42 林班ち林小班,通称「金弦の森」で多く の巨木が発見された.その後,中園らが直径など の調査を行い鹿児島大学理学部の卒業研究として 報告しているので,その概略を以下に述べる(中 園,2010).なお中園(2010)は高さ 1.3 mでの 胸高直径(DBH)90 cm 以上の個体を調査したが, 環境省では幹周囲 300 cm(DBH = 95.5 cm)以上 を巨木としている.そこで以下には,環境省基準 の巨木だけを取り出して考察する. この林小班は面積 29 ha であるが,その中に巨 木は 87 本存在した.環境省のデータベースには 対象林小班がある旧高山町からは塚崎と立谷から 合計 5 本が報告されているだけなので,本調査地 域で発見されたものと重複していない.内訳はス ダジイ 43 本,タブノキ 28 本,イスノキ 14 本, アカガシ 1 本,ウラジロガシ 1 本であった.最大 胸高直径はスダジイ 169.1 cm,タブノキ 165.0 cm,イスノキ 113.5 cm がアカガシ 108.6 cm,ウ ラジロガシ 98.9 cm であった.

鹿児島県の巨木

―特に大隅半島高野国有林で新たに発見された巨木群について―

鈴木英治

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・中園遼平

2 1〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理工学研究科地球環境科学専攻 2〒 890–0065 鹿児島市郡元 1–21–35 鹿児島大学理学部地球環境科学科    

Suzuki, E. and R. Nakazono. 2010. Giant trees in Kagoshima Prefecture – Especially a stand of giant trees in Takano National Forest, Osumi Peninsular. Nature of Kagoshima 36: 23–27.

ES: Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University, 1–21–35 Korimoto, Kagoshima 890– 0065, Japan (e-mail: suzuki@sci.kagoshima-u.ac.jp); RN: Faculty of Science, Kagoshima University, 1–21–35 Ko-rimoto, Kagoshima 890–0065, Japan.

Fig. 1. Fresh specimen of Bolbometopon muricatum. KAUM–I. 25448, 953.1 mm SL, off east of Sashiki-jima Island, Kasasa, Minamisatsuma,  Kagoshima, Japan.
Table 1. Counts and measurements, expressed as percentages of  standard length, of specimens of Bolbometopon muricatum.
Fig. 3. Close up of branchlet, showing net-like structure of the  surface of the frond.
Fig. 2. Fresh male specimen of Neosynchiropus ocellatus from Kagoshima Prefecture, Japan (KAUM–I
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参照

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