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─旧十和田湖町の試みを事例に─

ドキュメント内 地域社会研究4_表紙 (ページ 88-93)

(2)未来志向のしくみづくり

旧十和田湖町では、別途、住民参加型の意識変革とこれを主体とした未来づくりにも着手してい た。平成19年 4 月に設立された「NPO 法人奥入瀬郷づくり大学」である。そのねらいは観光地十和田 湖、奥入瀬、八甲田の豊富な観光資源を有する十和田市地域の観光資源を活用した魅力溢れる地域づ くりを行うとともに、少子・高齢化に対応した地域づくりに取り組むことにより、地域の人々が地域 に誇りと生きがいをもって生活できる持続可能な社会の実現に寄与し、旧十和田湖町の活性化推進の しくみであった。

しかし、この法人においても住民間の意識の共有化を目指してはいるものの、その活動は生活基盤 であるの地域住民の暮らしという基本的な部分さえカバーしきれていない。加えて、活性化公社の 問題もある。平成 7 年に、地域の観光及び産業振興のために設けられた「財団法人十和田湖ふるさと 活性化公社」も十分なものではなかった。業務内容は地麦酒及びレストラン事業、源流水製造事業、

パークゴルフ場・スキー場運営事業、乳製品製造事業、産直施設運営事業等であり、新たな地域産業 の推進役と思われた。その事業収益は5.4億円 経常損益△800万(平成22年度十和田市財政状況等一 覧表より)である。この公社は、他の第 3 セクター同様に経営状況は厳しく、住民の暮らしの現場ま では踏み込めていないのが現状である。

合併以降の旧十和田湖町を対象とした農村再生を総括すると、現状は行政主導、理念志向であっ て、生活現場との乖離が見られる。結果として、次の 3 つのことが見えてくる。①生活現場を基盤と したアイデンティティの乏しさ②意思決定においての担い手参加がないこと③大きな経済を前提と し、その進め方もと行政主導によって行われていることである。

2  『新たな公』による農村再生の可能性

(1)新たな公の位置

前述の 3 つの限界を解決するために『新たな公』の考え方を基礎にすべきではないかと思われる。

従来、「公共」と「行政」は同一の概念であり、行政が提供するサービスの範囲を「公共」ととらえてい た。しかし、実際には、国の社会体制の違いや地域と時代の違いによって、行政がサービスする範囲 は大きく変わってきている。また、行政サービスを補完したり、行政と競争したりするような新しい サービスも登場してきた。そこで、公共の概念を行政サービスの範囲に限定せず、市民セクター等が 提供する社会サービスを含めて広くとらえようとする考え方が登場した。これが『新しい公共』であ る2(『自立と協働によるまちづくり読本』2004)。

このような新たな公は行政主導の地域づくりの対極に位置する地域社会の知恵、工夫等を活用する ことから得られるものである。旧十和田湖町地域には、地域に古くから存在している『結い』=互助 行為は人口減少したもののまだ集落においてはその役割を果たしている。表面的な施策や事業からの 発想ではなく、生活現場で共鳴共振しあう関係において、そこに生活する住民を巻き込みながら農村 再生を進めること必要である。

(2)互助行為と結い

ここで注目する互助行為について恩田守雄氏は次のように述べている。「互助とは見返りのある双 方向(双務)の行為としたならば「互酬的行為」(ユイ)という狭義の互助と「再配分的行為」(モヤイ)

という「共助」に分類される。これが自らの行為に頼る場合「私助」となり公的支援を受ける場合「公 助」となる場合があり図表 4(本文では図 2 )のような三叉構造として表すことができる。3

さらに恩田守男は「結い」についても述べている。「結いは共助であり、最も原始的な意味が結合に あり、それがヒトとヒトを結びつける社会的結合から労力結合へ、特に労力交換に変わってきたと解 してよいだろう。すなわち社会的行為(共同行為、協同行為、協働行為)が多様な互助行為(連帯行 為、共生行為)へと生まれてきている。4

 ここでの「互助行為」と「結い」の関係と領域をそれぞれの得意分野において拡大することによって

『新たな公』につながると認識したい。住民の日常生活の次元において農村再生の取組が行われなけ れば、成果はえられないのではないかと感じられる。

3  『新たな公』を支える小さな資金循環づくりへのこころみ

(1)内発的な新しい公への外部からの刺激

 新たな公は、地域に暮らす住民の危機意識をバネに地域資源の活用に向き合うことから生じ、それ らを維持継続させるしくみが大元にある。だが、旧十和田湖町においては危機意識は漠然としてお り、これまでの個がもっている範囲としてしか行動しないというのが実情である。また一念発起し活 動を立ち上げたもの、その活動そのものが一時的イベント的な活動によってのみ行われている。結果 として、継続は困難なものになり、そのような活動はいつのまにか霧散してしまう。そこには、活動 のための資金は必要であるものの、多くの場合それは政府・自治体からの補助金等で賄われているの が実情である。5

 そこでこの内発的な新たな公を喚起するために外発からのしかけをひつようである。即ち、域外に 住む市民有志がネットワークを作り地域資源を活用し地域住民を巻き込むことである。これはあくま で内発的新たな公が立ち上がるまでの初期段階とし地域住民から疎外感をもたれることのないように しなければならない。

 また、市民有志で行うのであるから前述の小さな資金作りの方法も加味し継続できることが必要と なる。

(2)奥入瀬の米プロジェクトのこころみ

 〈 1 年目土台づくり〉 平成21年 9 月地域の農業・環境・教育に疑問を持つ十和田市内に居住する 3 人の若者が立ち上げたのが奥入瀬の米プロジェクトである。このプロジェクトの当初の目的は自然栽 培手法による地域の特性を活かした農業就業者支援とし、同時に地域の体験教育の実践場づくりと地 域環境への貢献を目的とした。

 平成22年 4 月より地域内の行政・学校・生産者等との間で協議を進め、まずは場所の確保から動い た。場所として高校生の体験を頻度の多いものにするため徒歩でいける場所、通学途中で生育が見ら れる場所としての耕作放棄地を探し回った。幸いにも集落の居住地域から徒歩 5 分の場所で、しかも 高校野球部の練習場への通路となる場所を探し当てた。土地所有者に企画内容を説明し 2 年契約で借 用することができた。

平成22年春季は異常低温が続き、プロジェクトのメイン事業の「田植え」ができなかった。プロ ジェクトのスタートからつまずき、先が思いやられたが、機械での田植えで夏場を迎える。自然栽 培ということで覚悟はしていたものの「除草」の大変さは想像以上であった。体育会部活動による体 力づくりによる何度かの「除草」でなんとかしのいだ。いよいよ収穫の秋!ここで問題が発生、鎌を

図 2  互助行為の三叉構造  出所:恩田守雄(2006)、P30 公的志向

利(愛)他主義

私的志向 利己主義

『私』の領域 私益 自(私)助

私有地

『公』に近い『共』の領域 『私』に近い『共』の領域

『共』の領域 共益 互(共)助

共有地

『公』の領域   公益 公助 公有地

使った稲刈りは危険であるとの高校側からの姿勢伝えられ急遽バインダーによる稲刈りに変更した。

しかし「シマダテ」の「仁王積み」による自然乾燥では幼稚園児が活躍した。脱穀機を田んぼに入れ米 の収穫を終え、高校生には家庭科の授業で「ひっつみ」という郷土料理の講習を地元のおばあちゃん たちにしてもらった。翌年の 2 月には子どもたちと作った米として地域イベント「青森市食の細道」

に「ふるさと名物味まつり」を出店した。集まってくる入場客には、予想通り厳しい販売実績では あったが、会場スタッフに丁寧に説明して歩いたものは、共感をもたれそれなりに売れた。やはり、

商品のバックボーンを丁寧に伝えることの大切さを思い知らされた。

1 年目は土台作りの進捗状況としては内発的新たな公に向けた住民が興味を持つ程度であり、その 資金循環についてはまだまだボランテイアの域を脱していない状況であった。

 〈 2 年目〉 1 年目できなかった人の手による田植えは 2 年目には地元老人クラブ・高校生・幼稚園 児・生産者・NPO によって実施することができた。農業体験をもつ世代とそうでない世代の間の交 流が大きく見えた企画であり、地域資源を子供たちと継承していく姿を地域住民に示すことができ た。

 「除草」は環境変化等で除草時期が遅れ昨年以上に苦労した。米田でなく稗田だと揶揄されるしま つであった。これは貸していただいている地権者に対し迷惑を掛けすることになってしまった。しか し 2 年目の稲刈りは鎌による稲刈りができた。事前の指導者との綿密な話し合いと準備により不安を 解消することができたことを付記しておく。「シマダテ」も同時に行うことができ、「仁王積み」は今度 は幼園児が大活躍を見せた。世代間においてのその年代ごとの役割が昔『結い』にはあったように再 確認させることができた。

写真 1 :H23年高校生と幼稚園児そして地元老人クラブの方々と生産団体・NPO 約150名で田植え(筆者)

(3)これまでの農村再生の限界解決のために

①生活現場を基盤としたアイデンティティの再発見

地域農業において地域社会に伝わる風習や伝統を子供の時から学ばせることにより、伝える側(老 人クラブや地域町内会等)の誇りとつなげる側(NPO や学校関係者等)の気づき、受け取る側(子供 たち)の蓄積が生じる。まさに、生活現場を基礎としたアイデンティティの再発見とその共有化につ ながっていくものと思われる。

②担い手参加が意識を創る

 他人任せの地域づくりから自分たちで作る地域づくりへ意識を変革していく。担い手の候補として は現在活動している団体を串刺しにした形態が考えられる。全国的には、自治会、農協、土地改良 区、市議会議員、農業委員会、NPO、第 3 セクター、PTA 連合会など多岐にわたり担い手参加とし ての協議会の設置が見受けられる。

③大きな経済と行政主導の問題点や地域展開における限界

 行政の役割としては、主導的位置に立つのではなく、住民主体による展開の環境条件を整えるこ

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