肝癌破裂に対する治療は,青木ら 11)や吉田ら 12)
が提唱するストラテジーのように,破裂に伴う出 血やショックに対する治療,止血および肝機能障 害や肝不全に対する治療などの急性期治療と,急 性期を脱した症例における肝癌に対する治療が含
まれる(図1). 動脈相において,腫瘍の亀裂(矢頭)と造影図4.ダイナミックCT 剤の血管外漏出(矢印)がみられる.
図5.被膜下血腫例
a.ダイナミックCT.動脈相において不均一 に造影される腫瘍(矢印)と肝被膜下の液体貯 留(矢頭)がみられる.
b.超音波像.腫瘍(矢印)とその周囲の液体貯留(矢頭)がみられる.
急性期には出血によるショックに対する輸液 や,貧血に対する輸血が必要となる.血液検査に よって肝機能障害による凝固能低下や血小板数減 少がみられる際には,凍結血漿や血小板輸血を行 う.このような保存的治療で循環動態や全身状態 が安定する場合は,肝機能と肝癌の進行状態を評 価する.ただし再出血の可能性があるため,早急 に肝機能や全身状態に応じて TAEや肝切除を選 択する.発症後急性期死亡の危険因子として,入 院時ショックの有無,ヘモグロビン低値,総ビリ ルビン高値(3.0 mg/dl以上)などが報告されてい る 3).
輸液や輸血で循環動態が安定せず,臨床経過か ら持続性出血と考えられる場合や画像診断によっ て持続性出血の所見がみられる場合,止血処置が 必要となる.止血処置には TAE,開腹下の止血術
(パッキング・縫合止血),肝動脈結紮術,マイク ロウェーブ凝固療法,肝切除などがある.この中 で,開腹下の止血術の成績が不良であることや低 侵襲性と高い止血能から,TAEが第一選択とな る.TAEに際しては,肝癌破裂例では肝外突出型 が多いため,血管外漏出がみられる肝動脈のみな らず肝外側副血行路に注意を要する.また,併存 する肝機能障害や出血性ショックに伴う肝機能障
害を考慮し,マイクロカテーテルやマイクロガイ ドワイヤーシステムを用いて,できるだけ選択的 に TAEを行うことが重要である.塞栓物質とし て,通常ジェルパート(日本化薬社)が用いられ る.血行動態の不安定な破裂肝癌に対して TAE は有効であるが,門脈血栓,クレアチニン高値,
急性呼吸不全,神経症状,総ビリルビン高値は死 亡のリスクが高いと報告されている 13, 14).本邦に おける多施設共同研究 15)によると,肝硬変併存肝 細胞癌破裂48例に対して,32例は保存的に,16例 では TAEが施行されたが,TAE非施行例のほと んどが30日以内に死亡し,その予後は非常にわる かった.TAE施行例の1年生存率は23.4 %,2年 生存率は15.6 %で,7 cm以上の大型肝癌が予後不 良因子であったと報告されている.
二期的肝切除は TAE単独に比べて生存期間が 延長するとの報告が多い 3, 9, 16 〜 19).また,肝癌破 裂例に対する肝切除後成績は,通常の肝切除例と 同等であるとの報告もみられる 16, 18, 19).また,『原 発性肝癌取扱い規約』では StageⅣに分類される が,通常の肝切除例の StageⅣの無再発生存率や 累積生存率より良好であると報告されている 19). 実際,自験例においても肝切除後10年間以上の 長期生存例を経験している.そこで,止血後全身 図6.単純CTと肝動脈造影像
a.単純CT.腫瘍近傍に高吸収域の腹水(矢 印)が認められる.
b.右肝動脈造影(DSA)像.肝後下亜区 域を占拠する巨大な多血性腫瘍を認める.
腫瘍辺縁に亀裂(矢印)を認める.
状態が改善した段階で肝癌進展度や肝機能評価を 行い,可能であれば肝切除を行うこととなる.肝 癌破裂例の手術適応は通常の肝癌と同様に決定さ れるが,腹膜播種巣があっても合併切除を行うこ とにより,長期生存が得られることがある.この ため,肝切除のみならず他臓器合併切除がしばし ば必要となる.
最近,遠隔転移例に対する分子標的薬である sorafenibの有効性が示されている.腹膜播種をき たしても,切除以外に新たな治療法が開発された ことにより,長期予後が向上する可能性がある.
お わ り に
肝癌破裂は腹部救急疾患であり,迅速な診断と 対処が急性期の予後を決定する.止血には TAE が第一選択となるが,高度肝機能障害例では肝不 全に陥り予後不良である.一方,二期的肝切除が 可能であれば,通常の肝切除例と同等の予後が得 られる可能性がある.なお,肝癌ハイリスクグ ループに対するスクリーニングの普及によって,
破裂以前に肝癌を発見することがもっとも重要で ある.
◆ ◆ ◆ 文 献 ◆ ◆ ◆
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特集 外科救急─実際の手順を追う
Ⅱ.肝・胆・膵
山 下 裕 一 乗 富 智 明 佐々木隆光 山田和之介
**2.急性胆囊炎・急性胆管炎 *
は じ め に
急性胆囊炎と急性胆管炎は,急性腹症の代表的 な疾患である.前者は急性虫垂炎に次ぐ頻度であ り,胆囊摘出術が基本治療である.後者は放置す ると時に短時間のうちに致死的病態へと陥る疾患 であるため,的確ですみやかな治療が要求され る.これらの治療は,すでに『急性胆管炎・胆囊 炎診療ガイドライン』 1)において推奨される治療
内容が示されている.本稿では,このガイドライ ンに沿って治療の手順を解説する.