タームが使用されているが、New Idea and New Terms(1913)の著者 A. H. Matter(著名な 宣教師狄考文の未亡人)も認めているように宣教師が作成した文法関係のタームは 1913 年時点 では一般に認められなかった 13) 。西洋人によって西洋言語で著された著作や辞書などは、西洋 言語学の枠組みの中で中国語の音韻、文法、語彙について記述することでは一応の成功を収め たと言ってよいであろう。しかしその中国語で書かれた著作は、中国の読者に言語に関する研 究において新たな道筋を示すには十分ではなかった。馬建忠の『馬氏文通』(1898)や厳復の 『英文漢詁』(1904)はいずれも直接西洋文献から知識を受容したものである。西洋言語学に関 する知識の多くが日本語を学習する過程で導入されたことはこれまでに指摘されていなかった 事実である。言語学のタームは、その大多数を日本語から借用したということがこの点を如実 に物語っている。言語の「科学」的研究は、明治期の日本の学者も目指した目標であることを 付け加えておきたい。中国語を含む言語研究の近代化の過程において、外国、特に日本の影響 等について解明しなければならない点が多々ある。
かった学生も、このように書かせてみると各人がそれぞれに意見を持っていることがよくわか る。また、単に意見を持っているだけではなく、たいへん鋭い分析を提示している例も少なか らず見受けられた。たとえば、図 1 に引用したワークシートでは、5 ページ 4 行目にある「私 はそれを見ていたら、∼と思わず考えてしまった」という箇所とその英訳 “My fi rst thought when I saw that . . . ” を取り上げ、「原文は『思わず考えてしまった』と、意識せずに思ってし まった様子であるのに対し、英文では『最初に考えたのは』と意識的であり、さらに他にも何 か考えたようにもとらえられ、少し原文とずれてしまう」というコメントが加えられている。 さらに、6 ページ 10 行目の「エレベーターを降り、廊下に響き渡る足音を気にしながら∼」と いう箇所とその英訳“Getting off the elevator, I was alarmed by the sound of my own footsteps . . . ”の間のシフトを指摘した上で、「原文では(足音を)『気にしている』程度であるのに対 し、英文では『おびえさせる、はっとさせる』と書いているため、大げさな表現になり、この シーンと合わなくなっている」というコメントが付されている。いずれも、一見些細なことの ように見えるが、このような細部にこそ問題の本質が宿っているものであり、テクストを深く 読み込むという観点からすれば、まさに慧眼というべきであろう。なお、図 1 のワークシート 上には、“My fi rst thought when I saw that . . .”に対する代替案として“A thought occurred to me . . . “と い う 英 文 が、“Getting off the elevator, I was alarmed by the sound of my own footsteps . . . ”に 対 す る 代 替 案 と し て“Getting off the elevator, and a bit annoyed by the sound of my own footsteps, I rang the bell. ”という英文がそれぞれ追記されているが、これは、 これらの問題をめぐるクラス内の議論の中で提案されたものである。
謝辞 本研究は科学研究費による研究の一環として行ったものであり、ここに感謝を記したい。課題番 号 22520543(研究代表者:望月通子、分担研究者:阪上辰也)
参考文献
Corder, S. P. (1967). The Signifi cance of Learner’s Errors. An Introduction. Oxford:Basil Blackwell. Ellis, R. (1994). The Study of Second Language Acquisition, Oxford: Oxford University Press. Ellis, R. & Barkhuizen G. (2005). Analyzing Learner Language. Oxford: Oxford University Press. Gilquin, G., Rapp, S., & Diez-Bedmar, M.B. (Eds.). (2008). Linking up Contrastive and Learner
「太平洋問題調査会とその時代」共著(2010)春風社 119-159
「日本人の性格構造とプロパガンダ」単著(2011)ミネルヴァ書房 1-263 学術論文
“One Aspect of Nakae Chomin’s Process of Thought Expressed in Min’yaku-ron, Saku-ron, and Min’yaku Yakkai” 単著(1986)関西大学文学論集 47-64