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3 章 「新たな伝統的関係」へと回帰する中朝関係

平岩 俊司

はじめに

2021年1月5〜12日、北朝鮮で第8回朝鮮労働党大会が開催された。北朝鮮は党大会 の開催を2020年8月に予告していたが、まさにアメリカ大統領選挙の最中での予告は、北 朝鮮にとっていかに大統領選挙の結果が重要だったかを物語っている。

8日間にわたる党大会では、核弾頭と弾頭制御能力が向上した全地球圏打撃ロケットの 開発を決意、固体燃料型ICBM、多弾頭誘導技術、原子力潜水艦が「最終段階」にあると するなど、国防力の強化、軍事技術の向上を目指すことが強調され、アメリカについては

「最大の主敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせるべきだ」と厳しい 姿勢を見せていた。しかしその一方で「新しい米朝関係」はアメリカが北朝鮮に対する敵 視政策を撤廃するかどうかにかかっている、とするなど、米朝関係への「未練」も見られる。

焦点となるのが大統領選挙でトランプ大統領を破って当選したバイデン大統領が北朝鮮 に対してどのような姿勢を見せるかだが、新型コロナ対策、国内分断問題、さらには中東 問題など喫緊の課題への対応に追われるバイデン政権にとって北朝鮮問題の優先順位は高 くないだろう。核実験、ミサイル発射実験を控えている北朝鮮をアメリカが直接的脅威と 認識していないからだ。だからこそ再びアメリカに直接的脅威であることを意識させるた めに北朝鮮が核実験、ミサイル発射実験を強行する危険性があるのも事実だろう。そこで 注目されるのが中朝関係であり中国の北朝鮮核問題への姿勢だ。

北朝鮮の核問題に対する中国の基本姿勢は「双暫停」との提案に象徴されるように、北 朝鮮が核ミサイル実験を停止し、アメリカが北朝鮮を対象とする軍事演習を停止し、対話 による解決を目指すべき、というものだ。さらに、北朝鮮の非核化の進展に応じて段階的 に制裁を解除すべき、というのが中国の立場だ。

第8回朝鮮労働党大会で、北朝鮮はここ数年になく中国との関係緊密化を強調した。金 正恩委員長は、中朝関係について「分かちがたい運命で結びついた朝中両党 ・ 両国人民間 の友情と団結を引き続き継承すべき」とし、5回にわたって行われた金正恩・習近平会談 によって中朝両国は戦略的意思疎通、同志的信頼を厚くした、としたのである。第8回党 大会では書記局が復活し金正恩委員長は総書記に就任して注目されたが、習近平主席は金 正恩委員長に対して総書記就任の祝電を送り、「中朝関係を発展させることは、中国の党 と政府の揺るぎない方針だ」としながら「総書記同志とともに、半島問題を政治的に解決 する方針を堅持し、地域の平和と安定、繁栄を守りたい」としていた。バイデン政権が北 朝鮮に対して厳しく臨んだ場合、北朝鮮にとっては安全保障、経済いずれも中国からの支 援が不可欠だ。一方、中国としても対米関係を考えたとき北朝鮮に対する影響力を維持し、

対米交渉のカードとしたいはずだ。このように中朝双方の思惑が一致し、中朝関係が伝統 的関係へと回帰したとの印象を与えたのである。しかし、はたして中朝関係は「唇歯関係」

「血盟関係」と称された冷戦期のようなかつての関係に回帰したのだろうか?

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1.東アジアの国際関係構造−対中・米関係、南北関係

あらためて指摘するまでもなく北朝鮮にとっての中国は、隣接地域としての意味と、対 米関係についての「後ろ盾」としての意味という二つの意味がある。アメリカと緊張状態 にあるときはもちろん、対話攻勢を仕掛けるときにも、北朝鮮は中国に「後ろ盾」となっ てもらい、アメリカからの圧力を緩和して、アメリカが北朝鮮に対して一方的譲歩を強い にくい構図を作ろうとするのである。たとえばアメリカが軍事行動を起こす危険性がある とき、中国と脅威認識を一致させてアメリカを牽制し、また、国際社会が北朝鮮に対して 圧力を加えようとするとき、それを緩和するための中国の働きかけに期待をしているので ある。

一方、中国にとっての北朝鮮は、同様に隣接地域としての意味と、対米関係の場、北朝 鮮問題をめぐる米朝関係としての意味があるが、中国が国際社会で政治・経済・安全保障 の分野で影響力を大きくすればするほど、対米関係の場、北朝鮮問題をめぐる米朝関係と しての北朝鮮の意味が重みを増し、近年ますますそうした傾向にあると言ってよい。とり わけトランプ政権発足直後からミサイル発射実験、核実験を繰り返して緊張を高めた北朝 鮮に対して、2017年後半、中国が従来になく厳しい国連制裁を受け入れたことは国際社会 の責任ある一員としての行動を求められた中国の決断を意味している。しかし、北朝鮮に とってそれは中国への不信感を募らせる事例となったはずである。

そもそも、中国と北朝鮮の非対称性を前提とすれば、中国にとっての北朝鮮の意味より も北朝鮮にとっての中国の持つ意味の方が圧倒的に大きいため、中朝関係は中国が北朝鮮 をどの程度必要とするかによって変化する構図にある。それゆえ中国が北朝鮮問題を対米 関係の場、北朝鮮問題をめぐる米朝関係として認識すればするほど、中朝関係は米中関係 がどのような状態にあるのかに影響を受ける構造となり、米中関係の状態によって中国に とっての北朝鮮の意味が変化することになる。すなわち、米中関係が対立しているとき、

中国にとって北朝鮮は緩衝地帯としての意味を持つためその重要性が上がり中朝関係は緊 密になる。一方、米中関係が協力的なとき、中国にとって北朝鮮問題は負担となり、場合 によって中国は北朝鮮に対して厳しく臨まざるを得ず、北朝鮮がそれに反発して中朝関係 は低調にならざるをえない。アメリカと向き合うにあたって、北朝鮮には後ろ盾としての 中国が不可欠ではあるが、その一方で中国の北朝鮮に対する影響力が大きくなりすぎるこ とを嫌う。それゆえ、中国の影響力を警戒しながら中国を関与させようとするのである。

ところが、2018年の米朝首脳会談によってこの中朝関係の構造は微妙に変化することと なる。すなわち、後に詳述するように、北朝鮮にとってアメリカとの直接交渉によって米 朝関係が進展する可能性が出てきたことで、北朝鮮にとって中国が「邪魔」になる可能性 が出てきたのである。すなわち、米朝関係が進展する際、米中関係が良好であればむしろ 米朝関係を促進する要因となりうるが、米中関係が対立しているとき、中国が北朝鮮に対 して米朝関係の進展を制限するよう求めてくる可能性が出てきたのである。中国が北朝鮮 を対米交渉のカードと考えるとすれば、北朝鮮はそうした懸念を持たざるを得なくなり、

北朝鮮は中国との距離の取り方を考えるようになる。すなわち、従来米中関係が中朝関係 を規定する大きな要因だったのに加えて、米朝関係がどのような状況にあるかによって中 朝関係は規定されることになったのである。トランプ大統領が米朝首脳会談に応じたこと で中朝関係に構造的変化をもたらすことになったのだ。米中関係、米朝関係、中朝関係の

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3者の関係は以下の(表)のとおりである。

(表)米中関係、米朝関係、中朝関係の構図

米中関係 対立 対立 協力 協力

米朝関係 対立 進展 対立 進展

中朝関係 緊密 低調 *1 低調 *2 良好 *3

*1・・・ 中国は米朝進展を警戒し、北朝鮮は中国から米朝関係の進展を邪魔されないよう適度な距離を取ろ うとするため中朝関係は低調となる。

*2・・・ 中国は米中関係を優先するために北朝鮮に対して厳しく臨み、北朝鮮は中国に反発し、場合によっ ては中国へ不満表明も行うなど中朝関係は低調になる。

*3・・・ 中国が米朝関係の進展に適切な役割をはたし、北朝鮮は対米交渉に中国の協力を必要とするため中 朝関係は良好に維持される。

2.アメリカ大統領選挙と中朝関係

周知の通り、2019年2月のハノイにおける米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮の核ミ サイル問題は膠着状態が続いている。ハノイでの首脳会談決裂の後、北朝鮮は2019年末 までを期限としてアメリカの姿勢変化を待つ、としていたが、2019年6月の大阪における G20の際にトランプ大統領がツイッターで金正恩委員長に板門店での首脳会談を呼びかけ て実現した変則的な首脳会談は行われたものの、北朝鮮が望むような形でトランプ政権が 姿勢を変化することはなかった。これに対して北朝鮮は、2019年末の大晦日まで4日間党 中央委員会総会を開催し、金正恩委員長は、軍事的対応の準備を示唆しながらも「抑止力 強化の幅と深さはアメリカの今後の対応」によるとして、すぐさま対決姿勢に戻ることは 控えながら、アメリカとの「苦しく長い闘争を決意した」として一切譲歩するつもりがな いことを宣明し、「(米朝合意に)一方的に縛られている根拠がない」「新しい戦略兵器を目 撃することになるだろう」とした。また、2020年1月5日の『労働新聞』で「アメリカの 敵視政策撤回まで戦略兵器の開発継続」を強調するなどアメリカに対して厳しい姿勢をみ せていた。

ところが、その後新型コロナウイルス感染拡大問題が世界中を席巻することとなり北朝 鮮の対外姿勢も見えにくくなってしまった。北朝鮮は、新型コロナウイルスの感染源とさ れる中国の武漢で初めて死亡者が発表されたと1月16日に北朝鮮国内で初の感染症報道が 行われ、1月22日には中国経由の外国人観光客を受け入れ停止し、1月28日には、国家非 常防疫体系を導入し、1月29日付け『労働新聞』では「国家存亡に関わる」として警鐘を 鳴らしていた。その後、平壌・ウラジオストク間航空便を無期限停止するなど厳しい国境 封鎖を行ったのである。

1月31日には、中国・丹東〜平壌間、および中国・集安〜満浦間の国際旅客列車の運行 が停止されるなど中朝間の往来は制限された。北朝鮮は、1月31日に朝鮮労働党中央委員 会が新型コロナウイルス関連で中国共産党中央委員会への支援金送付を決定し、2月2日 には金正恩委員長が習近平主席に「苦痛と試練を分かち合い、助けたい」と書簡を送るな ど感染拡大する中国への配慮を見せた。

北朝鮮は既述の2019年末の朝鮮労働党中央委員会総会でアメリカとの長期戦を覚悟して

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自力更生を強調していたが、自力更生と言いながら、そこには後ろ盾としての中国の存在 が不可欠であり、解除されない制裁についても中国からの「お目こぼし」に期待があった はずだ。実際、国連安保理の北朝鮮制裁委員会が2020年2月にまとめた年次報告書によれ ば、「中国に石炭密輸」「出稼ぎ労働も継続」「外貨獲得へ各国にIT労働者1000人を派遣」

などの指摘があった。

この後、4月には中国が北朝鮮に新型コロナウイルスの感染を検査する試薬を提供した と発表し、金正恩委員長が習近平主席に書簡を送り中国の「成果」を評価し、これに対し て習近平主席も金正恩委員長に対して「重要合意を履行して戦略的意思疎通を強化し、交 流と協力を深化させる用意がある」とした。一部報道によれば中国は北朝鮮に対して新型 コロナ対策で支援を約束したとされる。

このような状況下、北朝鮮は、香港問題で国際的批判にさらされた中国に対してエール を送ることとなった。5月30日には、北朝鮮外務省報道官が中国全人代の香港を巡る決定 を「合法的措置」だとし、6月4日には、李善権外相が李進軍駐朝中国大使に、中国の党 と政府の措置を支持する、との朝鮮労働党と北朝鮮政府の立場を伝えた。さらに6月7日 付け『労働新聞』には香港をめぐる中国の対応について「干渉する権利は誰にもない」とし、

7月2日には、池在竜駐中国大使が中国紙の質問に答える形で、中国の対応を「アメリカ の干渉と専横を退け、国家主権と領土保全を守護するための中国共産党と中国人民の闘争」

としながら「全面的な支持と連帯」を表明した。

このように中国と北朝鮮は粛々と関係維持を図るものの、世界的な新型コロナウイルス 感染拡大を受けて国際関係は停滞し、北朝鮮の核ミサイル問題も大きな動きを見せず、北 朝鮮が2020年8月19日に第8回朝鮮労働党大会を2021年1月に開催することを発表した ため、状況はアメリカの大統領選挙と、その後のアメリカの次期政権の北朝鮮に対する姿 勢が焦点となった。

3.朝鮮戦争70年と中国人民志願軍参戦70

ところで、2020年は中朝関係にとって節目となる年でもあった。10月25日は中国人民 志願軍の朝鮮戦争参戦70年にあたるからだ。朝鮮戦争70年の開戦の日である6月25日、

北朝鮮は『労働新聞』社説で「50年代の祖国守護精神で社会主義強国建設推進を」と呼び かけたが、とくに大々的にアピールすることはなかった。アメリカで大統領選挙が実施さ れている状況下、北朝鮮としてはアメリカを過度に刺激することを避けたと言ってよい。

一方、中国は中国人民志願軍の朝鮮戦争参戦70年を大々的にアピールし中朝関係の強化 を訴えた。まず、習近平主席は10月10日の朝鮮労働党創建75周年に際して金正恩委員 長に祝電を送り、10月19日には共産党の最高指導部や王岐山国家副主席らを伴い、北京 市の中国人民革命軍事博物館で始まった朝鮮戦争の展覧会を視察した。習近平主席は「(共 産)党は毅然としてアメリカと戦い北朝鮮を助け、北朝鮮の人民とともに偉大な勝利を勝 ち取った」と強調した。さらに、中国国営中央テレビ(CCTV)は10月中旬から「平和の ために」と題する朝鮮戦争の記録映画を放映するなど対米関係を意識しながら北朝鮮との 関係強化の強調が続いた。

また、9月20日には、遼寧省丹東市にある抗美援朝記念館も建て直されて約6年ぶりの 一般開放が始まり連日盛況だという。さらに10月19日には中国人民革命軍事博物館で中

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国人民志願軍の朝鮮戦争参戦70年記念展が開催されこちらも連日盛況だったという。10 月23日には中国人民志願軍の参戦を描いた映画「金剛川」が公開され人気を博すこととな る。朝鮮戦争への中国人民志願軍参戦を扱う映画、テレビ番組の制作はアメリカを刺激す るとして控えられてきたが、『日本経済新聞』(2020年10月21日)によれば、1999年に米 軍機がベオグラードの中国大使館を誤爆し、中国人民のアメリカに対する反発が強かった 時期以来との指摘もあるという。

そして、10月23日、北京で朝鮮戦争への人民志願軍参戦70年記念大会が開催された。

習近平主席は、「覇権主義は必ず破滅に向かう道だ」「極限まで圧力をかけるやり方は全く 通用しない」とも強調し、アメリカ批判をくり広げた。

参戦60年であった2010年は、参戦記念大会ではなく「座談会」が開催され、当時の胡 国家主席の演説もなかったことを考えると、70年に扱いは従来になく中朝関係の強化をア ピールしていると言ってよい。

一方、北朝鮮では、10月21日に金正恩委員長が中国人民志願軍烈士陵園と毛沢東主席 の長男で朝鮮戦争に参加して戦死した毛岸英氏の墓を訪れて献花し、「中国人民志願軍の参 戦は戦争の偉大な勝利に歴史的な寄与をした」とした。さらに22日には、瀋陽にある抗米 援朝烈士陵園と丹東の抗米援朝記念塔で金正恩が送った花の進呈式が行われた。金正恩委 員長は中朝関係の緊密化については強調するものの、11月の大統領選挙を見据えて対米批 判は控えていたが、対米批判を強調する中国との微妙な温度差が見て取れる。

4.バイデン政権の誕生と中朝関係

こうして、中朝関係に対する中国と北朝鮮の微妙な温度差があるなか、アメリカ大統領 選挙の結果、トランプ大統領の再選はならず民主党のバイデン候補が当選した。北朝鮮と してはトランプ大統領の再選に期待をかけていたといってよい。これまでの板門店での変 則的な首脳会談を含めれば3度にわたって米朝首脳会談が実施され、米朝の合意もある。

トランプ大統領が再選すればそうした合意を前提として交渉自体はやりやすいとの思いが 北朝鮮にはあったはずだ。なにより、北朝鮮からすれば、最初の首脳会談での合意は維持 して欲しかったはずだ。シンガポール合意には北朝鮮にとって望ましい米朝関係のロード マップが記されていたからだ。すなわち、アメリカが北朝鮮に対する敵視政策をやめ、北 東アジアに平和体制を構築できれば北朝鮮は非核化する、というものだ。なによりもトラ ンプ大統領はシンガポールでの首脳会談の後の記者会見で北朝鮮の安全の保障と米韓合同 軍事演習の中止を明言したのである。ハノイでの2度目の米朝首脳会談は決裂したが、ト ランプ大統領をいかにしてシンガポール合意に戻すか、というのが北朝鮮の目指すところ だったはずだ。

一方、中国にとってはトランプ大統領の再選は歓迎できなかったはずだ。経済領域から 安全保障領域へと拡大する米中対立は中国にとって受け入れがたいものだったからだ。と はいえ、バイデン政権も同様に中国に厳しく臨んでくる可能性は考慮しただろうが、それ でもトランプ政権にくらべればバイデン政権の方が対応しやすい、という思いがあっただ ろう。このようにアメリカ大統領選挙に対する中国と北朝鮮の見方には違いがあったはず だ。先に指摘した中国人民志願軍の朝鮮戦争参戦70年に対する中朝両国の温度差もこのよ うなアメリカの大統領選挙に対する見方の違いから説明することができよう。

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いずれにせよアメリカの大統領選挙の結果、バイデン政権が発足することとなった。バ イデン政権はトランプ政権と同じく、貿易、安全保障、知的財産問題など、中国に厳しく 臨むことになるだろう。なかでもトランプ政権との違いで中国にとっていやなのは、香港 問題に象徴される人権問題についてであろう。この点、バイデン政権は北朝鮮に対しても 同様に人権問題について厳しく臨む可能性がある。中国にとっても北朝鮮にとっても人権 問題は「内政問題」ということだろうし、その意味でバイデン政権の人権についての姿勢 は「内政干渉」ということになり、中朝を結びつける要素となるかも知れない。

その一方で、バイデン政権の発足まもない2021年1月末には北朝鮮政策スタッフの陣容 が明らかになった。ブリンケン国務長官、シャーマン副長官に加えて、東アジア ・ 太平洋 担当の次官補としてソン・キム元インドネシア大使を、そして東アジア・太平洋担当次官 補代理にジュン・パク元米ブルッキングス研究所上級研究員がバイデン政権の北朝鮮政策 を担当することとなるが、少なくともトランプ政権期のように唐突に首脳会談を開催する ような劇的な対応は予想しにくい。こうしたスタッフが実務者協議を積み上げるかたちを とるものと予想される。しかし、そうしたプロセスが順調に進むとは考えにくい。周知の 通り、トランプ政権期も実務者協議で米朝の立場の違いが明確化し、北朝鮮の非核化は具 体的進展を見せずにいた。バイデン政権でも北朝鮮に対して非核化を求めていくことは間 違いない。だとすればやはり米朝の立場の違いが実務者協議で明らかになり米朝関係は膠 着せざるを得ない。北朝鮮の核ミサイル問題は劇的な展開を見せるというよりむしろ緩慢 な時間の流れの中で推移することが予想される。だとすれば、北朝鮮にとっては中国との 関係が重要になってくる。

既述の通り北朝鮮は第8回党大会で、従来になく中朝関係の緊密化を強調した。金正恩 は「分かちがたい運命で結びついた朝中両党 ・ 両国人民間の友情と団結」との表現を用い たし、習近平も金正恩に対して「総書記同志と共に、半島問題を政治的に解決する方針を 堅持し、地域の平和と安定、繁栄を守りたい」としていた。2018年、南北首脳会談、米朝 首脳会談にあわせて3回にわたって金正恩委員長が中国を訪問し習近平主席との首脳会談 を繰り返したにもかかわらず、翌2019年1月1日の金正恩委員長による「新年辞」で中国 への言及がほとんどなく、唯一の明示的言及は、金正恩委員長の3度の訪中が社会主義諸 国間の「親善・協力関係を強化」したと評価した部分だけだった。しかも「3回にわたる 我々の中華人民共和国訪問とキューバ共和国代表団の我が国への訪問は、社会主義国間の 戦略的な意思疎通と伝統的な親善協助関係を強化するうえで特記すべき出来事となりまし た」として、中朝関係の緊密化はキューバ代表団の訪朝と同列に扱われていた。ハノイに おける2度目の首脳会談直前の北朝鮮の姿勢と比べると、第8回党大会での北朝鮮の姿勢 は大きく変化していると言ってよい。

バイデン政権が北朝鮮に対して厳しく臨んだ場合、北朝鮮にとっては安全保障、経済い ずれも中国からの支援が不可欠だ。一方、中国としてもバイデン政権が中国に厳しく臨ん だ場合、緩衝地帯としての北朝鮮の役割は大きくなるし、アメリカとの交渉を考えたとき 北朝鮮に対する影響力を維持し、北朝鮮を対米交渉のカードとしたいだろう。このように 同床異夢ではあるが中朝双方の思惑が一致し、中朝関係が伝統的関係へと回帰したとの印 象を与えたのである。

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5.中朝関係と韓国

ところで、このような状況下、難しい立場にあるのが韓国だ。文在寅政権にとって南北 関係こそが対外政策の最重要課題といってよいが、韓国は米中をうまく利用しながら北朝 鮮に向き合い、北朝鮮問題を軸とする北東アジア情勢をコントロールしようとしてきた。

韓国がいわゆるドライバーズシートに座らなければならない、としてきたが、ハノイでの 米朝決裂以降、南北首脳会談に基づいて設置された南北共同連絡事務所の爆破に象徴され るように北朝鮮は韓国に対して厳しく臨んできた。党大会での北朝鮮側の姿勢は、「北南関 係が回復して活性化するか否かは全面的に南朝鮮当局の態度如何に関わっており、対価は 支払った分、努力した分だけ受け取ることになっている」とした。北朝鮮としては、韓国 が北朝鮮に約束した経済協力などの履行を求めると共に、米韓合同軍事演習に反発するこ とになるだろう。

これに対して文在寅大統領は、南北融和の必要性を強調しながら、「いつどこでも非対面 の方式でも対話できるというわれわれの意志に変わりはない」と対話を呼びかけた。韓国 は来年3月に大統領選挙を控えており、それを前提として文大統領は、「私の任期はあま り残っていない。残された最後の時間まで最善をつくす」としたが、米中関係、米朝関係、

中朝関係を勘案すれば、北朝鮮の核問題が急激に進展することは考えにくく、急激な変化 があるとすれば北朝鮮が再び核実験、ミサイル発射実験などを強行することになり、そう した状況で韓国がドライバーズシートに座ることはできないが、こうした状況になったら、

文在寅大統領は、中国を視野に入れてドライバーズシートに座ろうとしているのかも知れ ない。

そもそも日米に比して文在寅政権が中国寄りであるとの多くの指摘がなされてきたが、

2020年8月、楊潔䞃共産党政治局員が佂山を訪れた際、香港問題、南シナ海問題などでト ランプ政権が中国に対して厳しく臨んでいる状況下、中韓は習近平主席の早期訪韓で合意 し、楊潔䞃政治局員は、「他の国より韓国訪問を優先させる」との方針を伝えたという。こ うした韓国の姿勢は、バイデン政権発足後も変わらず、米韓首脳による電話会談が行われ る前に、文在寅大統領は習近平主席と電話会談を行った。中国には米韓関係に楔を打ちた いとの思いがあることは間違いないが、文在寅政権がそれに応じたのは、もとより経済関 係を考えて中韓関係を良好に維持する必要があると同時に、北朝鮮問題での中国の役割を 考えたゆえのことと考えるのが自然だろう。あらためて指摘するまでもなく、文在寅政権 にとって南北関係は最重要課題だが、バイデン新大統領に先んじて行われた中韓首脳電話 会談は、中国に対して厳しく臨もうとするアメリカとの関係を難しくし、今後、米朝関係 での韓国の役割どころか、米韓関係そのものにプラスではない、との指摘もある。いずれ にせよ文在寅政権にとっては時間との勝負ということになろうが、文在寅政権がバイデン 政権への働きかけに成功し、再びドライバーズシートに座ることができれば、中朝関係に も影響が出る可能性は否定できない。すなわち、文在寅政権が望むように米朝が対話路線 に戻り段階的な非核化の道を進むとすれば、「双暫停」を旨とする中国も受け入れられるだ ろうし、中国もそうした流れでアメリカとの部分的協力ができれば深刻な米中対立を回避 できると考えるかも知れない。一方の北朝鮮も韓国の働きかけでシンガポール合意に戻る とすれば歓迎するだろうし、南北関係も修復されるかも知れない。韓国がドライバーズシー トに再び座ることは決して容易なことではないが、2022年3月に大統領選挙を迎える状況

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下、残された任期の中で文在寅政権がどのような対米、対中、対北政策を展開できるかは、

状況次第で中朝関係を規定する変数となるかも知れない。

おわりに

同盟関係の重要性を強調するバイデン政権の北朝鮮政策がどのようなものとなるのかは 日本、韓国にとっても重要だ。アメリカの北朝鮮政策は、北朝鮮のみならず中国を含めた より広範な北東アジア政策の中に位置づけられるため、中国に対する姿勢も連携させて対 応しなければならないからだ。

一方、北朝鮮のバイデン政権に対する姿勢にも注意しなければならない。はたして北朝 鮮はいつバイデン政権の北朝鮮政策を判断するのか、そしてどのような反応を見せるのか、

まずは今後のアメリカの北朝鮮に対する姿勢に注意する必要がある。バイデン政権が北朝 鮮の望むような対応を見せない、と判断したとき、はたして北朝鮮はどのような行動に出 るのだろうか。その際、中国はどのような対応を見せるのか。

伝統的関係へと回帰している印象を与える中朝関係ではあるが、そもそも習近平主席と 金正恩委員長の関係は双方の体制発足当初から難しい状況にあった。習近平主席は、2012 年11月の自らの体制の発足直後にミサイル発射実験を行った北朝鮮に対して不満を持ち、

一方、それを人工衛星打ち上げとの立場をとる北朝鮮は、同問題でアメリカとともに国連 制裁を主導した中国に対して不満を持ち、それ以後中朝関係の冷却化は指摘されて久しい 状況にあった。しかし、北朝鮮が対話攻勢に転じると同時に中朝関係は回復し、南北首脳 会談、米朝首脳会談に連動する形で金正恩委員長が4回中国を訪問し、ハノイにおける米 朝首脳会談が決裂した後、ついに2019年6月、習近平主席が北朝鮮を訪問したのである。

その後も北朝鮮はトランプ政権との協議に期待したが、米朝関係は北朝鮮が望むような展 開を見せず、アメリカは大統領選挙に突入し、バイデン政権が誕生したのである。

バイデン政権は中国を競争者として位置づけ厳しく臨むものと思われるが、環境問題や 新型コロナウイルス対策などで中国の対応如何では協力の可能性も示している。中国から すれば、アメリカとの完全な対立を避けるためにも部分的協力を突破口として米中関係の 調整を目指すことになるだろう。その際、北朝鮮問題を中国がどのように使うかによって 中朝関係は規定されることとなるが、場合によって習近平は北朝鮮を対米カードとして使 うかも知れない。また、北朝鮮も、アメリカが敵視政策をあらためればはじめての米朝首 脳会談の際のシンガポール合意に戻れることを示唆するなど、やはり外交の軸はアメリカ だ。だからこそ米朝関係が仮に動き始めた時、中国が邪魔になるという状況が生まれるか も知れない。金正恩はそうした中国の思惑を知っているし、習近平も北朝鮮の思惑をよく 理解している。それぞれアメリカに対する思惑と相手に対する不信感を隠しながら関係を 維持するというのが中朝関係の構造である。中朝関係はまさに相手に対する不信感を前提 とする関係なのだ。

伝統的関係への回帰を印象づけてはいるが、冷戦期のそれとは異なる関係であることは 間違いない。もとより、冷戦期の中朝関係も双方相手に対する不信感を前提に成立してい た関係であったと言えようが、当時の北朝鮮は、中国の影響力が大きくなりすぎることに 対する警戒感はあったものの、中国がアメリカなどの第三者との関係で北朝鮮をカードと して利用し、北朝鮮を「裏切る」懸念はなかったはずだ。一方、中国の立場に立てば、北

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朝鮮がアメリカとの直接的関係を持つようになり、場合によっては北朝鮮が中国よりもア メリカとの関係を優先させる危険性が生まれてきた。朝鮮戦争でともにアメリカと戦った 経験が中朝を結びつける重要な要因であったが、いまや中朝それぞれのアメリカとの関わ り方が冷戦期のそれとは大きく異なるものとなった。中国を後ろ盾としてアメリカに向き 合うという北朝鮮の対外姿勢は構造的には伝統的関係への回帰ということになろうが、バ イデン政権の北東アジア政策に対する中朝関係は、双方の相手に対する新たな認識を前提 とする「新たな伝統的関係」ということになるかも知れない。

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参照

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