Ⅰ 問題の所在
1.性的マイノリティとは
近年,性的マイノリティという性の在り方が少数派 の人々の存在に注目が集まってきている。性的マイノ リティとは,異性愛者(ここでは,性自認・生物学的 性が男性で性的指向が女性/性自認・生物学的性が女 性で性的指向が男性の人々を指す)以外の人々の総称 と加藤(2016)は定義している。性的マイノリティを 理解する上で重要になるのが,性自認(自身の性をど のように認識しているか)・生物学的性(身体構造に おける性)・性的指向(どのような性に性愛感情を抱 くか)・性表現(自身の性をどのように表現するか)
の4つの軸であり,それらの組み合わせによって性の 在り方は多様に存在する。
電通ダイバーシティ・ラボが2018年に性的マイノリ ティに関する調査を行った「LGBT調査2018」では,
性的マイノリティに該当する人の割合は8.9%であっ た。また,筆者も研究に参加した「福島県の高校生に 対するデートDV調査・研究グループ(2020)」の「福 島県の高校生に対するデートDVに関する調査・研究 報告書」では,福島県内の高校生2,401人にアンケー ト調査を行い,性的マイノリティに該当すると思われ る生徒の割合が全体の5.4%(130人)であった。これ らの調査結果から,性的マイノリティは決して少なく ない存在であるといえるだろう。
2.性的マイノリティの生徒が抱える困難
「いのちリスペクト。ホワイトリボンキャンペーン」
が性的マイノリティ当事者を対象に行った「LGBTの
学校生活に関する実態調査(2013)」では,LGBTか もしれないと自覚した年齢について調査を行ってい る。それによると,非異性愛男子は中学1年生(25%),
MTF(生物学的性が男性で性自認が女性)・MTX(生 物学的性が男性で性自認が男性・女性以外)は小学校 入学前(25%),FTM(生物学的性が女性で性自認が 男性)・FTX(生物学的性が女性で性自認が男性・女 性以外)は中学校2年生(18%)が最多であった。最 頻期間は,MTF・MTXが小学校入学前〜小学校6年 生,非異性愛男子,非異性愛女子,FTM・FTXは小 学6年生〜高校1年生であった。セクシュアリティに ついて自覚し始めるのは,特に思春期に当たる中学校 1年生,2年生で多くなっている。
しかしながら,日高(2016)は,約6割の性的マイ ノリティ当事者が学校生活(小・中・高校)における いじめ被害の経験があると報告している。「LGBTの 学校生活に関する実態調査」でも,全回答者の68%が
「身体的暴力」「言葉による暴力」「性的な暴力」「無視・
仲間外れ」を経験していた。いじめや暴力を経験した 時期としては,小学校低学年から学年を追うごとに増 加し,中学2年生がピークとなっている。
い じ め や 暴 力 を 受 け た こ と に よ る 影 響 と し て,
「LGBTの学校生活に関する実態調査」では,「今でも,
その経験をときどき思い出す」(44%),「学校に行く のが嫌になった」(43%)といったマイナスの影響が 挙げられている。また,「自殺を考えた」(32%)や「わ ざと自分の身体を傷つけた(リストカットなど)」
(22%)と回答した人も一定数おり,いじめや暴力の 被害が希死念慮や自傷行為にも少なからず影響を及ぼ
*a 富山県富山児童相談所 *b 福島大学大学院人間発達文化研究科
学校現場における性の多様性の取り扱いに関する調査研究
近年,性的マイノリティという性の在り方が少数派の人々の存在に注目が集まってきている。本 研究では,学校現場において性の多様性を取り扱う際に必要であることを明らかにすることを目的 とし,学校現場において性的マイノリティの生徒に対しどのような対応が行われてきたか,教員が 性的マイノリティについてどのように考え,意識しているのかについて,中学校教員を対象とした 質問紙調査・インタビュー調査を行った。
本研究を通して,学校現場において性の多様性を取り扱うに際し,性的マイノリティの生徒を一 人の人間として受け止め,本人の話を傾聴すること,性の多様性を特別視せずに日常的なかかわり のなかで多様性に関する肯定的な発言・姿勢を見せること,人権教育に根差した性の多様性につい ての教育が必要であると示唆された。今後,性的マイノリティが生きやすい社会になるためにはど のような形での教育が必要であるか検討していく必要があるだろう。
〔キーワード〕多様性 性的マイノリティ 人権教育
梶 川 野 栄 安 部 郁 子
*a
*b
している。
このように,セクシュアリティを自覚し始める時期 といじめを受ける時期が重なっているということが,
先行研究からわかってきたことである。
3.学校現場における性的マイノリティを取り巻く環 境
戸塚(2018)は,性的マイノリティの児童生徒に対 して同じ児童生徒が未熟なため差別的な言動をしてし まうこともあること,教師にも偏見を持っている人が いるかもしれないことに触れ,「多くの性的マイノリ ティの児童生徒はそれらの偏見によって傷ついてお り,性的マジョリティの児童生徒や教師自身の意識を 変えていく必要がある」と,児童生徒や教員に講話や メッセージ等で性的マイノリティへの援助を訴える必 要性について述べている。奥村・加瀬(2016)でも,
学校現場における性的マイノリティに対する適切な理 解を大きな課題として挙げている。また,梅宮(2017)
は,異性愛者は自らのアイデンティティを脅かす LGBTの存在を脅威と感じ,否定し排除しようとする ため,LGBTに対して嫌悪を向けると述べている。加 えて,LGBTについて正しく知ることで,LGBTが自 分を脅かす存在ではないと理解し,その嫌悪のあらわ れが抑制されると述べている。つまり,性的マイノリ ティについての周囲の適切な理解の促進や意識の変化 が,性的マイノリティへのいじめや差別的言動を減ら すことに繋がるだろう。そのためにも性的マイノリ ティについて教育を行うことが必要であると考える。
4.性の多様性についての教育の効果
「中学校における「性の多様性」授業の教育効果
(佐々木,2018)」では,中学校の授業で性の多様性に ついて教育を行い,その効果をみている。この研究で は,性の多様性について教科授業で1回,道徳授業で 1回の計2回扱い,嫌悪感の変化を検証した結果,教 科授業後及び道徳授業後に有意に嫌悪の減少が認めら れた。このことから,性の多様性を授業で扱うことは,
性的マイノリティへの嫌悪を低める効果を有し,性的 指向や性の同一性を含めた人権尊重の態度の形成につ ながったとしている。また,認定特定非営利活動法人 ReBitによる「多様な性に関する授業がもたらす教育 効果の調査報告」では,中高校生を対象に多様な性に 関する授業を実施した結果,多様な性に関する態度や 価値観が受容的になり,人権感覚を向上させると報告 しており,教育の効果が示されている。
「成人期以降の性的マイノリティ当事者が学校生活 を振り返って,学校教育に求めること(佐々木ら,
2019)」では,性的マイノリティ当事者への40の支援 例について,当事者が5段階で評価を行った。その結 果,「多様な性についての信頼できる本やリーフレッ
トなどを,日頃から目にとまりやすい場所に備えてお き,本人が正しい情報に触れる機会を増やす」「性別 違和だけ,同性愛だけといった限定的に話題に取り上 げるのではなく,「性」のありかたについてすべて説 明したうえで,性の多様性を伝える」の評価が高かっ た。多様な性について教えることで,周囲が性の多様 性について当たり前に理解できる環境を強く求めてい ることがうかがえる。
性の多様性について教育を行い,正しい知識を身に つけることで,知らないことにより起こる差別や偏見 を防ぐことができ,また,性的マイノリティ当事者が,
自分の性の在り方について悩んだり,孤立したりする ことも防ぐことができると考えられる。
5.本研究の目的
性的マイノリティの自分のセクシュアリティについ て自覚する時期や,いじめ被害を経験する時期は,中 学校において特に多くなっている。そのような中学校 において,性的マイノリティの生徒が自分自身の性の 在り方について考え,いじめや差別・偏見をなくして いくために,性的マイノリティに関する教育を行う必 要性があると筆者は感じている。実際学校現場におい て性的マイノリティに関する教育を行うことに対する ニーズも高いとされているが,十分に行われていない 実態があると考えられる。
そこで本研究では,中学校を対象に,学校現場にお いて性的マイノリティの生徒に対しどのような対応が 行われてきたか,教員が性的マイノリティについてど のように考え,意識しているのか,学校の対応につい て性的マイノリティ当事者はどのように考えているの かについて調査を行う。それにより,学校現場におい て性の多様性を取り扱う際に必要であることを明らか にすることを目的とする。
Ⅱ 質問紙調査
1.調査対象・方法
福島県内の公立中学校11校に協力を依頼し,教員を 対象に質問紙調査を行った。地域は県北地域といわき 地域であった。
2020年7月24日から8月24日の間に質問紙を各学校 に配布し,10月末日までに回収した。11校のうち8校 から回答があり,回収率は72.7%であった。8校の合 計133人を分析対象とした。
各項目については,単純集計を行った。性的マイノ リティである生徒の割合に関しては性的マイノリティ の生徒とかかわった経験との関連性をみるために,
IBM SPSS Statistics 25を用いてt検定を行った。自由 記述式の回答については,その内容から複数のカテゴ リに分類した。
2.調査結果・考察
<対象者の属性>
対象者は,男性74名(55.6%),女性56名(42.1%),
無回答3人(2.3%)の計133名である(図1−1)。
年 齢 別 で み る と,20代 が12名(9.0 %),30代 が19名
(14.3%),40代が29名(21.8%),50代が64名(48.1%),
60代以上が9名(6.8%)であり,40代〜 50代が約7 割を占めている。
勤 務 年 数 別 に み る と, 勤 務 年 数10年 以 下 が24名
(18.0%),11年〜 20年が19名(14.3%),21 〜 30年が 40名(30.1%),31年〜 40年が43名(32.3%),41年以 上が2名(1.5%),無回答が5名(3.8%)であった。
職種別にみると,校長が6名,教頭が7名,管理職 が1名,教務主任が1名,主事が1名,教諭が86名,
講師が16名,養護教諭が8名,特別支援教育員が1名,
事務が1名,無回答が5名であった。
<Ⅰ:性的マイノリティという言葉の浸透率>
「あなたは性的マイノリティという言葉を聞いたこ とがありますか」の問いに「はい」と回答した人数は 121人(91.0%),「いいえ」と回答した人数は12人(9.0%)
であった。「はい」と回答した人のうち,「性的マイノ リティについて正しく説明できる」は11人(9.1%),「あ る程度説明できる」は73人(60.3%),「聞いたことは あるが,説明することは難しい」は37人(30.6%),
であった。
電通ダイバーシティ・ラボの「LGBT調査2018」,
福 島 市 の「 男 女 共 同 参 画 社 会 に 関 す る 意 識 調 査 」
(2019)では,「セクシュアル・マイノリティ」や「LGBT」
という言葉の浸透率は6割〜7割であったため,それ らに比べると高い水準で「性的マイノリティ」という 言葉が浸透しているといえる。
<Ⅱ:性的マイノリティについての考え方>
「あなたは,性的マイノリティについてどのように 感じたり,考えたりしますか」(複数回答可)の問い に つ い て,「 正 し い 知 識 を 身 に つ け た い 」 は86人
(64.7%),「性的指向は本人の選択の問題だと思う」
は63人(47.4%),「身近にはいないと思う」は25人
(18.8%),「医療機関を受診させた方がいい」は14人
(10.5%),「相談窓口を紹介したい」は12人(9.0%),
「困っていたら力になりたい」は85人(63.9%),「そっ としておいた方がいいと思う」は20人(15.0%),「個 性の一つとして受け入れられるべきである」は76人
(57.1%),「よくわからない」は13人(9.8%),「その他」
は1人(0.8%)であった。「その他」の回答としては,
「関わり方を学びたい」が挙げられた(下線を引いた 選択肢は学術的に誤りである。なお,医療との連携が 必要な場合もあるが,全てではない)。
「正しい知識を身につけたい」については,Ⅰ:性 的マイノリティという言葉の浸透率で いいえ , 聞 いたことあるが,説明することは難しい と回答した
人の中でも,半数以上の人がチェックをつけていた。
<Ⅲ:性的マイノリティである生徒の割合>
「あなたは,性的マイノリティの生徒はどれくらい の人数がいると思いますか」(100人中)の問いについ て,回答人数は128人,無回答が5人,「わからない」
が1人であった。平均値は5.5人,最大値は50人,最 小値は0.01人,最頻値は5人であった。
「福島県の高校生に対するデートDVに関する調査・
研究報告書」によると,性的マイノリティと思われる 生徒の割合は5.4%であり,平均値,最頻値と比較す ると現状に即した理解がされているといえる。ただし,
最小値と最大値の差が大きく,一概には言うことはで きない。性的マイノリティの生徒に関わったことがあ ると答えた人(平均値:6.2人),ないと答えた人(平 均値:4.5人)の差をみるためにt検定を行った結果,
有意差はみられなかった(t(128)=-1.481, p=.141)が,
性的マイノリティの生徒に関わったことがある人の方 が多く見積もる傾向にあったといえるだろう。
<Ⅳ−1:性的マイノリティの生徒と関わった経験>
「あなたは,今まで性的マイノリティの生徒もしく はその可能性がある生徒に関わったことがあります か」の問いについて,「はい」は63人(47.4%),「い いえ」は69人(51.9%),「わからない」は1人(0.8%)
であった。約半数の教員が,性的マイノリティの生徒 と関わった経験を有していた。
<Ⅳ−2:性的マイノリティの生徒との関わりの中で 困ったこと>
「あなたは,今まで性的マイノリティの生徒もしく はその可能性がある生徒にかかわったことがあります か」の問いについて,「はい」と答えた63名に対し,
かかわりの中で困ったことや注意したことについて記 述を求めた。そのうち,無回答が4人,「特にない」
と回答した人が13人であった。
記述内容から「対応した/できたこと」「困ったこ と」「対応が難しかった/できなかったこと」「対応し なかった」の4つにカテゴリ化したのち項目ごとに分 類し考察した。
・対応した/できたこと
「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな 対応の実施等について」(文科省,2015)に記載され ている「性同一性障害に係る児童生徒に対する学校に おける支援の事例」では,服装や更衣室,トイレといっ た,学校の制度面に関する支援が多く挙げられていた。
本調査は性同一性障害のみならず,性的マイノリティ 全体を対象とした調査ではあるが,そのような制度面 に留まらず,生徒同士の関係への介入や,本人の気持 ちを否定しないといった様々な支援が学校現場で行わ れていることが明らかになった。
・困ったこと
「本人の不安・体調」の項目では,本人が自分の性
的指向が周囲と異なることで不安を抱えているにもか かわらず,教員として対応ができなかったことへの葛 藤が窺える。
「保護者との関わり」の項目では,保護者との連携 の難しさが挙げられていた。これは,本人の性的指向 について,保護者がどこまで理解・受容を示すか,非 常に慎重になっていたことが理由として考えられる。
「性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社 会で直面する困難のリスト(第3版)」では家庭生活 での困難として, 家族に自分が性的マイノリティで あることを受け入れてもらえなかった という趣旨の 困難が非常に多く挙げられていたことからも窺える。
・対応が難しかった/できなかったこと
「性的マイノリティへの理解」「気持ちの寄り添い」
では,回答者自身の性的マイノリティについての知識 や理解不足からくる対応の難しさが挙げられていた。
該当する2名は,後述の<Ⅵ−2:性の多様性につい て教える必要性>で,教育が必要だと思う理由につい て「無知なために傷つけることがあるから」「わから ないものは理解できず,排除の対象となる可能性があ る」と記述しており,自身の経験から性的マイノリティ についての知識・理解の重要性を強く感じているよう であった。
<Ⅴ:性的マイノリティの生徒が学校生活で困ってい ること>
「あなたは,性的マイノリティの生徒は学校生活に おいて困っていることがあると思いますか」の問いに ついて,「はい」は101人(75.9%),「いいえ」は2人
(1.5%),「わからない」は28人(21.1%),無回答は2 人(1.5%)であった。
<Ⅵ−1:性の多様性について教える必要性>
「性の多様性について,生徒に教える必要があると 思いますか」の問いについて,「はい」は94人(70.7%),
「いいえ」は2人(1.5%),「わからない」は32人(24.1%),
無回答は5人(3.8%)であった。約7割の人が必要 だと考えており,性の多様性について生徒に教えるこ との需要が高いことがわかる。
<Ⅵ−2:性の多様性について教える必要性>
「性の多様性について,生徒に教える必要があると 思いますか」の問いについて,「はい」「いいえ」「わ からない」と答えた人それぞれに対し,その理由につ いて記述を求めた。「はい」「いいえ」「わからない」
のそれぞれに対し,記述内容から項目ごとに分類した。
「教える必要がある」では,「個性・多様性の尊重」
が最も多くかった。個性・多様性の尊重では,「性に 限らず,1人1人多様であり尊重すべき存在だと伝え ていく必要がある」「性の多様性を含めて個人の違い があるということを予め知識として知っていれば,柔 軟に対応できる可能性が高まる」など,性の多様性に 限らず,様々な多様性や個性を認めることに触れた回
答があった。「人権教育の一環」という分類を行った 回答もあり,性の多様性のみを取り扱うというよりは,
他の多様性についても扱いながら,その中で性の多様 性にも触れるという方法が求められていた。
次いで「差別・偏見」「いじめ・自殺等の恐れ」が 多かった。知識を持たない,あるいは誤った知識を持っ ていることが,差別やいじめに繋がることへの懸念が 多く挙がっていた。実際の学校現場でも,特に生徒の いじめが深刻な問題として扱われているため,問題意 識を抱えている人が多くいる結果だろう。
「わからない」では,「生徒への影響」が最も多く,
次いで「段階が必要」「必要性の有無」が多かった。
生徒への影響では,教えることでいじめや冷やかしに 繋がるのではないか,本人の迷いや負担の増加に繋が るのではないか,といった心配の声が多くあった。必 要性の有無については,学校で取り扱うべきなのか疑 問に思う声が挙がっていた。「教える必要がある」の
「わからない」に分類したものの中でも,ほとんどの 回答には,知ること・知識として持っておくことは必 要だと思う,という記載が共にあった。性的マイノリ ティについて知識として持っておく必要は感じつつ も,教えることで生徒に悪影響を及ぼすのではないか,
という思いから迷いが生じたと考えられる。
「段階が必要」については,回答者自身の知識が少 ないこと,生徒がどれくらいの知識を前提として持っ ているかわからないことなどが懸念として挙げられて いた。
経験有りと無しの差として,経験有りの人は経験無 しの人に比べ,「いじめ・自殺等の恐れ」「周囲の理解・
受容」が多かった。実際に性的マイノリティの生徒と 関わった中で,周りの生徒とのトラブルを経験してい ることが大きいと考えられる。LGBT調査2018では,
「LGBT」という言葉は若年層においてより浸透して いる傾向が見られていた。この調査は20代以上を対象 とした調査であったが,想像するよりも現状は厳しい のかもしれない。
「教える必要がある」の回答の中には,「性教育の中 で小さい時から教えると違和感がない。中学・高校で 教えるには偏見が生まれてしまう」「差別や偏見をな くすため,考え方が確立していない時期から,絵本な どで教えるのも良いかと思います」など,中学校以前 から教える必要があると述べている人がいた。梅宮
(2017)は,幼少期から異性愛の行動様式が社会化さ れていることで,自己理解の以前にその内容が内在化 していると述べている。それにより,性的マイノリティ の子どもは,内在化された異性愛と思春期に発露した 自分のセクシュアリティとが衝突することで大きな不 安が生じるとしている。このことから,セクシュアリ ティを自覚する以前から,多様な性の在り方について 教えていくことの必要性が示唆される。
Ⅲ 教員を対象としたインタビュー調査
1.調査対象・方法
福島県内の中学校の教諭1名と養護教諭3名を対象 とし,調査を行った。性別は男性が1名,女性が3名 であった。年齢は50代が3名,20代が1名であった。
性別は性的マイノリティの生徒と関わった経験につい ては,経験有りが2名,経験無しが2名であった。
2020年10月から11月の期間において,調査対象者と 1対1の半構造化インタビュー調査を行った。調査に おいて聞き取りを行った主な調査項目は以下の通り。
---
①性的マイノリティについての考え
②性的マイノリティと思われる生徒への対応の経験 (ある場合)
周囲のかかわり方について・行った対応について・
対応に苦慮したこと
③学校としての理解・対応
学校の中での,性的マイノリティの生徒への共通 した理解や対応について・他の先生方との情報共有 について・学校としてどのようなことが必要だと思 うか
④性的マイノリティの生徒への支援の難しさについて
⑤すべての生徒とかかわるうえで大切にしていること
⑥その他
--- インタビューで得られた質的データについて,筆者 が逐語録を作成した後切片を作成し,筆者と同じ臨床 心理専攻の大学院生ならびに指導教員の助言を得て,
KJ法を用いて分類・図解を行った(図1)。
なお,論文内の表記に際し,事例や対象者の特定に
繋がる情報については,プライバシー保護のために内 容の本質が損なわれない程度に修正を加えている。
3.考察
性的マイノリティの生徒と関わった経験について,
「何となくそうかもという子はいた」が「カミングア ウトされたわけではないから」何とも言えないという 話があった。これは【性的マイノリティの生徒の潜在 性】としてまとめている。このように周囲に自分のセ クシュアリティについてカミングアウトできない性的 マイノリティの生徒がいることについては,【社会・
世の中の意識の現状維持】や【性的マイノリティの生 徒に対する理解の難しさ】が関係していると考えられ る。
【性的マイノリティ当事者の思い】と【性的マイノ リティの生徒への対応】が大きな影響を与え合ってい る。当事者の生徒は,自分のセクシュアリティによっ て抱く違和感や苦しみをどうにかしたいという強い思 いや,性的マイノリティであるからこその悩みや苦し みがあり,それに対して教員も応えようとできる限り の対応をしていた。実際の事例としては,「(同性を好 きになったことについて悩んだり悲しんだりして相談 に来た際に)気持ちを否定するのではなく,気持ちを 聞いてあげるとか,そういう対応しかできなかった」,
「本人は病院に行きたくてしょうがないって感じで,
(自分のセクシュアリティについて)とにかく認めら れたい,そういう気持ちを聞きながら,生活を送った」
などが挙げられていた。教員と生徒が互いに悩みなが ら模索を続けていたということがうかがえた。
【性的マイノリティの生徒への対応(制度面)】や【性
図1 KJ法による図解
的マイノリティの生徒に対する教員の理解】では,管 理職との関わりが多く挙げられていた。管理職の性的 マイノリティの生徒に対する理解度が低いと,制度面 での対応は難しいしいという現状が示唆された。逆に,
管理職の性的マイノリティの生徒に対する理解があっ たため対応できたという事例が多く語られていた。性 的マイノリティの生徒に対応していくに当たり,生徒 の身近にいる担任や養護教諭等だけでなく,管理職が 性的マイノリティについて知識・理解があることで,
迅速かつ適切な対応ができていることがわかった。
性的マイノリティについての知識を得るに当たり,
【性的マイノリティについて学ぶ機会(有り)】と【性 的マイノリティについて学ぶ機会(無し)】の差が大 きいことがうかがえる。養護教諭の研修としては性的 マイノリティについて扱うものを受けることがある が,養護教諭以外の教員の場合,教科についての研修 が多く,自ら興味を持たないと学ぶ機会はないのでは ないかということであった。また,教員の忙しさから 学ぶには時間がないとの話もあり,教員が性的マイノ リティについての知識を得る機会を持つことには,時 間の制約という大きな課題が存在している。
性的マイノリティの生徒にかかわらず,生徒の状況 について【教員間での情報共有】がしっかりと行われ ており,生徒に何かあった際に迅速な連携を取ってい る。しかし,事例の中で「すごく繊細な問題だから,
情報を共有する範囲をすごく気を使った」と話されて いることや,質問紙調査の中で性的マイノリティの生 徒と関わった際に困ったこととして「共通の課題,問 題として共有しにくかった」と挙げられていたことも 踏まえると,性的マイノリティの生徒への対応の際に は,普段通りの情報共有が難しいと考えられる。
性的マイノリティの生徒とかかわった経験の有無に よる違いもみられた。経験がある2名からは,性的マ イノリティの生徒に対応していく中での試行錯誤や,
より知識を深めようという意識,対応の工夫などが語 られていた。経験がない2名は,知識や理解しようと する姿勢を持ち,性的マイノリティの生徒にとって望 ましい対応はどういうものか考えながらも,あくまで 想像に留まる部分があるようであった。そのうちの1 名は「どういう風に接していいのかな」,「その子が欲 しい答えをあげられる自信はない」と語っており,性 的マイノリティの生徒が何をどのように感じるのかわ からないからこその不安や戸惑いが感じられた。質問 紙調査でも性的マイノリティの生徒と関わった経験の 有無によって回答に差がみられていた。性的マイノリ ティの生徒とのかかわりが,教員にとって非常に大き な経験となって蓄積されているのであろう。しかし,
【性的マイノリティの生徒の潜在性】として前述した ように,周囲に自分のセクシュアリティについてカミ ングアウトできない性的マイノリティの生徒の存在が
ある。また,梅宮(2017)は,悩んでいる子どもを「さ がしてあげる」のではなく,「待つ」姿勢に徹するこ とが思春期の性的マイノリティへの支援の重要な方略 であると述べており,経験を単純に増やすことはでき ない。そのため,性的マイノリティの生徒とかかわっ た経験のある人から話を聞く,どのような対応をして いくかディスカッションするといったことが,性的マ イノリティの生徒への対応だけでなく,教員の不安や 戸惑いを軽減させるためにも必要となるかもしれな い。
Ⅴ 総合考察
本研究では,学校現場において性的マイノリティが どのように認識され対応が行われているか,性の多様 性について教育を行うことのニーズや求められている ことついて,教員の実感や考えを調査した。本章では,
これまで得られた結果をもとに総合的な考察をする。
1.学校現場における性的マイノリティの生徒への認 識・対応
教員への質問紙調査からは,「LGBT調査2018」「男 女共同参画社会に関する意識調査」に比べると高い水 準で「性的マイノリティ」という言葉が浸透している といえる。回答率も高く,記述式の回答でも様々な考 えが記入されており,関心を持って調査に協力をいた だけているように筆者は感じていた。ただし,先行研 究では,性的マイノリティである児童生徒の悩みや苦 しみは,教員が受け身である限り解決されないと述べ てられている(佐々木ら,2019)。セクシュアリティ の自覚や,いじめ被害は中学校で多くなっていると先 行研究で報告されていることに加え,本研究の質問紙 調査でも,実際にからかいがあることや,いじめ・差 別等に繋がる危険性について回答をしている人が多く いた。これらのことから,思春期の子どもと直接関わ る教員には,性的マイノリティについてより関心を持 ち,知識として持っておくことが求められると考えら れ,現状との差が生じていた。
教員へのインタビュー調査からは,性的マイノリ ティに対する社会・世の中の意識の変わらなさや性的 マイノリティの生徒に対する周囲の理解の難しさが,
性的マイノリティの生徒の潜在性に繋がっていること が示唆された。このことから性的マイノリティの生徒 にとって学校現場が悩みを相談しにくい,自分のこと を理解されにくい場所であることが想像される。
しかし,質問紙調査や教員を対象としたインタ ビュー調査では,実際に性的マイノリティの生徒から カミングアウトを受け,対応を行った事例も数多く挙 げられている。
教員へのインタビュー調査の対象者は,性的マイノ リティの生徒について理解しようと熱心に取り組んで
いる方々であった。4名中2名が複数の性的マイノリ ティの生徒とのかかわりを挙げており,対応に際して,
個を認める,保健室は味方であることをアピールする といったワードが出ていた。教員が性の多様性に関す る肯定的な情報を積極的に発信していくことや,性的 マイノリティに関する書籍を学級文庫に置くことに加 え,日頃から児童・生徒の話を傾聴し向き合う姿勢を 持つことで,教員がカミングアウトの対象になり得る と,奥村・加瀬(2016)は述べている。これらのこと から,教員には一人一人の生徒と真摯にかかわること で,肯定的な情報の発信や姿勢によって生徒と信頼関 係を築き,性的マイノリティの生徒の声をていねいに 聞いていくことが性的マイノリティ当事者から求めら れているといえるだろう。
また,質問紙調査や教員を対象としたインタビュー 調査からは,教員が性的マイノリティの生徒と関わる 際,真剣に生徒のことを考えたり,寄り添おうとした りしている姿勢が感じられた。しかし,佐々木ら(2019)
の調査では,性的マイノリティ当事者が学校生活を振 り返る中で「一人ひとりの立場になって考え,話を聞 いてほしい」,「(体育の授業において別メニューを設 定する,宿泊行事で希望する性別の部屋や個室に割り 振るといった支援例について)全体に知られることは どうかなと考えてしまう」のような要望や意見を挙げ ていた。実際に学校現場で行われている対応と,性的 マイノリティ当事者の求める対応に差が生じているこ とがうかがえる。質問紙調査 <Ⅴ−3:性的マイノ リティの生徒の学校生活での困り感の解消に必要なこ と>の回答に,「互いを尊重し,意見を言い合える環境」
「お互いに理解しながら生活することが一番大切」と いった回答があった。このように,性的マイノリティ の生徒と教員が互いに意見を交わし合える環境をつく ることで,対応に際し生じている差を小さくしていく ことができるだろう。加えて,そのようなやり取りの 中で性的マイノリティの生徒が学校生活においてどの ようなところに何を感じるかについて理解が増すこと で,性的マイノリティ当事者が望む性的マイノリティ の生徒がいることを前提とした学校(佐々木ら, 2019)
に段階的になっていくのではないだろうか。
2.性の多様性教育を行うに当たり必要なこと 質問紙調査からは,学校現場において性的マイノリ ティの生徒に対するいじめや差別・偏見などが問題視 されていることがうかがえた。また,教員を対象にし たインタビュー調査では,性的マイノリティの生徒を 取り巻く周囲の本人に対する理解や受容的な態度によ り,上手くいった対応が話されていた。性的マイノリ ティの生徒に対するいじめや差別・偏見をなくすため には,当事者生徒を取り巻く周囲の本人に対する理解 や受容が重要となり,性の多様性について教育を行う
ことが必要である。
質問紙調査では,学校現場において性の多様性を扱 うことに戸惑いを感じている人も一定数いた。周囲だ けでなく,当事者生徒への影響を懸念する声も挙がっ ていた。戸塚(2018)は,学校現場では異性愛が前提 とされており性的マイノリティがいないことになって いること,自分の生きていく姿が思い描きにくいこと が,性的マイノリティの生徒の自尊心を低下させ,ア イデンティティ拡散に繋がりかねないと述べている。
更に梅宮(2017)は,性的マイノリティ当事者が,自 分の心の状態や疑問を解決するために誰かに問いかけ ることができない「孤独」が心を蝕んでおり,特に身 体的・精神的に不安定である思春期の苦悩の大きさを 述べている。周囲への影響も懸念するのは当然だが,
性の多様性について教えることは,当事者生徒のこと を肯定することでもあり,本人の自尊心の低下や,孤 独感を少しでも軽くすることに繋がる,重要な要因で あると考える。
また, 性 というテーマだからこそ扱いにくさや 忌避感が生まれているとも考えられる。奥村・加瀬
(2016)は,学校現場において性的マイノリティ当事 者を間接的に傷つける言動やいじめを防ぐためには,
教員が日頃から性の多様性に関する肯定的な情報を積 極的に発信し,同性愛嫌悪の姿勢を子どもたちの中に 植え付けないことが重要と述べている。また,性教育 に取り入れることも有効かつ取り組みやすいが,家庭 科や国語の教科の中で性の多様性について取り扱うこ とができる例を示し,性的マイノリティの存在を大々 的に取り上げるよりも,日常の何気ないところでふれ て理解を促すような取り組みのほうが効果的だとして いる。このように,性の多様性に特別感を持たせない ような工夫も必要である。様々な教科や他の多様性と 共に取り入れたり,人権教育の一環として教育を行っ たりすることで, 性 の特別感が薄れ,周囲への悪 い影響が低減されたり,教員が扱いやすくなったりす るのではないだろうか。
性的マイノリティを含めた子どもがありのままで大 人になれる社会を目指す認定NPO法人ReBitは,性的 マイノリティについて,子ども/教職員向けに出張授 業・研修や,小学校高学年・中学生向け道徳教材の無 料配布等を行っている。出張授業・研修は性的マイノ リティ当事者が講師を務めるほか,教材についても20 代の性的マイノリティの学生・若者と教員を中心に作 成されており,性的マイノリティ当事者の意見を汲ん だ内容となっている。これらは性的マイノリティにつ いて大きく取り上げているものではあるが,性的マイ ノリティ当事者が授業/資料製作に携わることで,誰 もが多様な性の中の1人であること,性の多様性を きっかけにどのような違いも受け入れあえる社会にな ることを伝えるという,人権教育に根差した内容と
なっている。性の多様性を人権教育として扱う際のモ デルとなる取り組みとなっている。
3.まとめ
本研究を通して,学校現場において性の多様性を取 り扱うに際し,性的マイノリティの生徒を一人の人間 として受け止め,本人の話を傾聴すること,人権教育 に根差した性の多様性教育を行っていくこと,性の多 様性を特別視せずに日常的なかかわりのなかで多様性 に関する肯定的な発言・姿勢を見せることが必要であ ることが示唆された。
調査を行う中で,性的マイノリティ当事者が学校生 活で抱えていた,もしくは抱えるであろう様々な困難 が挙げられていた。その困難を解消するためには,制 服やトイレの利用といった制度面での対応や,性の多 様性について教育を行っていくことに加え,当事者生 徒の抱える苦しみに寄り添うといった心理的なアプ ローチも必要である。枝川・辻川(2011)は,性的マ イノリティ当事者が自分の内面を言葉にして表出する ことで,新たな自己を形作る契機となり,性的マイノ リティである自分自身に対して積極的な意味があると 述べている。そのためには,聞き手が当事者の持つ心 理状態や人格形成上のプロセスを知ろうとすること,
当事者の様々な有り様を尊重する姿勢と多様な視点を 持って語りを読み解く姿勢が求められるとしており,
心理的な支援の重要性が示唆されている。高木(2017)
も,性的マイノリティの生徒とカウンセラーとのかか わりの中で,「(生徒が)自分が何者なのかわからずに,
カウンセラーに恐る恐る話すことにより自分で自分を 探るような様子があった」と述べていた。性的マイノ リティの生徒が持つ困難に対し心理的なアプローチを 行っていく際には,スクールカウンセラーの存在が重 要になってくるのではないかと考えられる。
ただし,日常の学校生活場面にはスクールカウンセ ラーが常にいるわけではない。梅宮(2017)は,教師 団だけでなく親も巻き込んだ支援体制の必要性を述 べ,スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセ ラーが全体の調整役を担うことで,「チーム学校」で の役割が容易になってくるはずだとしている。このよ うに,性的マイノリティの生徒と教員や保護者との間 をつないでいく役割を果たすことも,スクールカウン セラーの役割として必要とされるだろう。
なお,本研究では,学校現場の中で性の多様性につ いての教育をどのように位置づけていくかについては 検討できていない。性的マイノリティが生きやすい社 会になるためにはどのような形での教育を行う必要が あるか,現在行われている様々な取り組みを取り入れ つつ,今後考えていく必要があるだろう。
引用文献
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