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PDF 多様な英語発音に対する日本人学習者の態度 - 福島大学

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(1)

【 論 文 】

多様な英語発音に対する日本人学習者の態度

─ 中・大比較から見えること ─

松浦 浩子・若生 深雪

要約

 本研究は,アメリカ,ニュージーランド,フィリピン,シンガポール出身の英語話者が吹き込んだ英文 を日本で学ぶ大学生と中学生に呈示し,彼らの受容態度について質問紙を介して調査したものである。4 種類の英語発音に対して,初級学習者である中学生は,大学生とほぼ同様の態度を示した。また,中学生 の個別的背景と英語受容態度との関係性を調べたところ,英語力が高く,授業外でのリスニング習慣があ り,海外渡航経験がある生徒ほど,彼らが最も高く評価したアメリカ英語と低く評価したシンガポール英 語との間に態度の開きが大きいことがわかった。また,最も頻繁に聴く英語がアメリカ英語であると回答 した生徒も同様に評価差が大きかった。これらの結果は,英語発音に対する好みがかなり早い習得時期に 形成され,固定化されること,またアメリカ英語以外の変種への理解及び慣れが不足していることを示唆 している。英語習得段階の早期において多様な英語に触れ,国際共通語としての英語の役割を学ぶことが 必要であろう。

キーワード

国際共通語としての英語,リスニング,受容態度,中学生,大学生

1. はじめに

現在,世界の英語使用者の数は,ネイティブ・スピーカー,ノンネイティブ・スピーカーを含め,

10

億人とも,また

20

億人とも言われている (Crystal, 2003など)。この膨大な数の使用者の存在は,

英語が世界共通語としていかに重要であるかを物語っているだけでなく,音韻,意味,統語,語用 論などの言語学的特徴において均質でないことをも示唆している。また英語は,世界の各地域によっ てその果たす役割が異なっている。Kachru (1988)の

World Englishes

(WE,世界諸英語)の概念 と内心円,外心円,拡大円のモデルは世界の言語学者に大きな影響力を与えた。しかし,研究者た ちの間で英語の多様性が広く認知され,English as a lingua franca (ELF,国際共通語としての英語)

教育の重要性が叫ばれている中で,実際の教室ではアメリカ英語を暗黙的に国際語として扱い,そ れを理想としたと英語教育が行われているのが一般的だろう。その結果,多くの日本人は標準米語 とかけ離れた発音や表現を理解できない,訛りを感じる英語に否定的態度をとる,理想とする英語 とかけ離れた自身の英語に自己肯定感が持てない,などの問題が生じ,コミュニケーション意欲が 損なわれる原因ともなってきた。英語教育界は,多様な英語の話者に対応できる学習者の育成を目 標に,指導内容や方法について検討しなければならない段階にあると言えるだろう。このような現

(2)

状を鑑み,本研究の著者らは馴染みのない発音を聞いた際の大学生と中学生の態度や反応に焦点を 当てた調査を実施した。その結果を報告するとともに,多様性のある英語を教室に導入すべきかど うか,また導入した場合,学習のどの習得時期に開始するのが適切なのかについて考察する。

2. 言語態度の研究

言語態度の研究は以前から散見されたが,1960年代初頭の

Lambert

らの研究 (Lambert, Hodg-

son, Gardner & Fillenbaum, 1960) を契機に広く行われるようになった。彼らの研究は,カナダの英

語話者グループとフランス語話者グループに,英語とフランス語の二言語併用話者がそれぞれの言 語で吹き込んだパッセージを聞かせて,吹込み者に対する好ましさや望ましさを評価させるという ものである。英語話者は母語である英語を好ましく思う一方で,フランス語話者も同様に英語をよ り好ましいものとして評価した。Lambertらの研究では,二言語併用話者である同一人物が吹き込 んだパッセージが使用されたため,評価としては同一であるはずであった。しかしながら,被験者 のフランス語に対する態度は研究者らの予想に反するもので,これには文化的ステレオタイプが反 映していることが指摘された。Lambertらのデータ収集手法は,同一人物による二言語パッセージ を使用したことから,Matched-

guise technique

と呼ばれた。一方で,いくつもの言語に対する被験 者の感情を調査するためには,Matched-

guise technique

では限界がある。いくつもの言語を同じ真 正性で操れる話者はそう多くはいないからである。そこで,新たに

Verbal guise technique

が生まれ た。この方法では,複数の話者がそれぞれの言語で音声を提供することになる。よく知られた研究 手法としては,他に,Osgood (1964)の

Semantic differential technique

(SD法)がある。これは,

反対の意味を持つ形容詞対(例

:

強い─弱い)の間に,1〜5や

1〜7

の数字を並べて,被験者の感 情に最も近い数字を選ばせるという評価方法である。Osgoodは調査を通して,被験者の心理的評 価を,Evaluation(評価,例

:

よい─悪い),Potency(力量,例

:

積極的─消極的),Activity(活動 性,例

:

活発な─不活発な)の

3

カテゴリーに分類した(岩下,1979)。言語態度研究では,Lam-

bert

Osgood

などの研究手法を基礎に,発話された音声刺激を被験者に聞かせて,評価尺度であ

る数字を選択させるという方法が広く用いられてきた。

日本人

EFL

学習者を被験者とする多様な英語に対する態度に関する研究は,経済のグローバル 化を背景に

1990

年代後半から現在に至るまで盛んに行われている (Matsuura, Chiba, & Yamamoto,

1994 ; Mackenzie, 2010 ; Matsuura, 2012 ; Saito, 2014

など)。Matsuura, et al. (1994)はその中でも 比較的初期の研究で,英語を第二言語として話すノンネイティブ・スピーカー(マレーシア,バン グラディシュ,ミクロネシア,ホンコン,スリランカの留学生)とアメリカ人英語教師の音声を大 学生に呈示して,彼らの受容態度を

SD

法によって測定した。また質問紙や英語力テストを介して,

被験者の個別的背景がどのように言語態度に反映されているかを調査した。その結果,学生たちは アメリカ英語をより高く評価した一方で,その評価点は英語力と相関しないこと,英語学習に対し て道具的動機づけをもつ学生はノンネイティブ英語に比較的寛容であることなどがわかった。また,

これらの研究者は,米語への馴染みはアメリカ英語話者の発音に対して肯定的態度を喚起させるが,

日本人英語への馴染みは日本人英語に対する肯定的態度につながらないことなども指摘している

(3)

(Chiba, Matsuura, & Yamamoto, 1995)。Matsuuraらはさらに,日本語において方言や訛りを使用す る大学生は,標準語しか使用しない大学生に比べて,馴染みのない英語訛りに対して非寛容であっ たこと (Matsuura & Chiba, 2014)

,自分の英語発音を肯定的に認識している学生は他者の訛りに非

寛容であること (Matsuura, 2016)

などの調査結果を報告している。

他にも,多くの研究者が日本人英語学習者を対象とした調査を行っている。Hanamoto (2010)は アメリカ,イギリス,インド,及び日本の英語話者から収集した音声を学習者に呈示しながら,

SD

法によってこれらの英語変種に対する態度について量的分析を行い,また自由記述アンケート で印象を文章化させ,質的に分析した。著者は,学習者の言語態度には,学習者が抱くステレオタ イプが反映されていると述べている。Miura (2009)

は,アメリカ,イギリス,オーストラリア,ス

コットランドのネイティブ英語,及びインドとシンガポールのノンネイティブ英語を学習者に聞か せ,SD法で発音に対する反応を,また

Likert

尺度で普段から抱いている言語観を調査した。 Per-

ceived comprehensibility(主観的理解度)調査から,被験者がオーストラリアとスコットランドの

ネイティブ英語を外心円のノンネイティブ英語と同列に捉えていることがわかった。著者は,学習 者が多様な英語に触れることの必要性を強調するとともに,ELFの役割に関する教育の重要性に 言及している。日本人研究者らと同様に,外国人研究者も日本人の言語態度に興味を示している。

McKenzie & Gilmore

(2015)は,イギリス,アメリカ,日本,中国,タイ,インドの人々の話す英

語に対する日本人大学生の意識を

SD

法によって暗示的に,また自由記述アンケートによって明示 的に調査した。分析の結果,被験者は英米人の英語を最も正しいと認識する一方で,日本人の英語 には連帯感を感じていると報告している。McKenzie & Gilmoreもまた,国際化・グローバル化の もとで,日本人がアジアの多様な英語話者と連帯感を強めるためには,彼らの英語にさらされるこ とが不可欠であると述べている。

日本人英語学習者に関する先行研究は,大学で教鞭をとる研究者が接触しやすい大学生を対象と するものがほとんどであり,より若年の高校生や中学生を対象としたものはあまりない。そのよう な数少ない研究に

Matsuda

(2003)がある。著者は,都内にある私立高校の

3

年生にアンケート調 査と対面インタビューを行っている。被験者たちは英語が国際語であるという事実は認めつつも,

英語は内心円のネイティブ・スピーカーたちの言語であるとの認識で,シンガポールやインドなど の外心円の英語にはあまり興味を示さなかったばかりか,日本人の英語 (Japanese English)を正し くない英語として捉えていた。Matsudaは,研究者や教育者らによる国際語としての英語に対する 認識と生徒たちの認識との間には齟齬があると指摘している。Matsudaの研究は中等教育現場の英 語教育について多くの示唆を与えてくれてはいるが,データ収集時期が

1999

年と年月が経ってい ることから,さらにグローバル化が進んだ現在を生きる生徒を対象とする研究を行う必要があろう。

また著者は,大学生と年齢的にはあまり差がない高校

3

年生を調査対象としている。2020年度の 小学校英語教科化を見据えて早期英語教育への関心が一層高まっている現在,これまでほとんど焦 点が当てられることがなかった初級学習者,とりわけ本格的に英語を学び始めて日が浅い公立中学 の生徒の言語態度を調査分析することは,実態を把握するうえで必要であり,また中等教育から高 等教育への連携を考えるうえで意義がある。
(4)

3. 本研究の課題と方法

3.1. 研究課題

本研究では,これまでほとんど注目されてこなかった初級学習者の音声英語に対する態度,特に 国内で学ぶ日本人中学生に焦点を当てながら大学生の受容態度と比較する。また,結果から

ELF

の扱いについて考察する。本研究の課題は次の

2

点である。

(1) 中学生は多様な英語発音に接した際,大学生と同様の態度を示すのか

?

(2)  中学生の学習歴等の個別的背景は,英語発音に対する受容態度にどのように関わっている のか

?

3.2. 参加者

被験者は,東北地方の都市部にある公立中学に在籍する

2

年生

108

名,及び同地方の国立大学で 学ぶ

1,2

年生

87

名である。大学生被験者は,経済,経営,行政学などを専攻し,英語学や英米文 学等,語学に関わる分野を専門とするものは含まれていない。中学生・大学生ともに,帰国子女や

1

か月を超える留学経験のあるものはいなかった。

3.3. 音声刺激

本研究で使用した英語音声は,内心円であるアメリカとニュージーランド出身のネイティブ・ス ピーカー,及び外心円のフィリピンとシンガポール出身で英語と母語のバイリンガル・スピーカー の計

4

名によって吹き込まれた。フィリピンとシンガポールの吹込み者は流暢な英語を話し,日常 的に英語を使用している。4名の吹込み者はいずれも若い男性で,男女混合吹込み者の場合,聞き 手の評価がより好意的に傾きがちであることが指摘されている女性を外した。

本研究では,中学生と大学生という明らかに英語力の異なる

2

グループを被験者としていること から,英語力の差を考慮し,吹込みにはレベルの異なる英文パッセージを用意した。レベル

1

は中 学

1

年教科書レベル,レベル

2

は高校入試レベル,レベル

3

TOEIC Bridge

レベルである。レベ ル

1

とレベル

2

は,全国の公立高等学校のリスニングの入試問題を参考に作成したもので,レベル

1

は本研究の中学生被験者の既習事項に合わせて,文法や語彙を調整している。レベル

3

TOEIC Bridge

問題集 (ETS, 2010a

; ETS, 2010

b

の Part III

の中から採用したパッセージである。各パッセー ジは長さが

2

文〜5文とごく短く,それぞれ内容が異なる。また,下の例が示す通り,パッセージ に使用されている語彙や表現は日本人被験者に馴染みのある標準的なアメリカ英語によるもので,

ニュージーランド,フィリピン,シンガポールのみで使用される独特な語彙や表現は含まれていな い。

This year students have wonderful plans. They will bring some old things from their homes and have

a market in the park after school. The students will sell them to people near their school

(レベル

2) .

(5)

Good morning, everyone. Today on our tour, I’ll be showing you some of the famous attractions of the city. If you have any questions, be sure to ask me. We will be departing in a few minutes

(レベル

3) .

吹込み者は各レベルのパッセージを

2

つずつ担当した。つまり,一人あたり

6

パッセージを読ん だことになる。

3.4. 質問紙,英語力テスト,聴き取り調査

質問紙は,音声を聞きながらその印象を回答する

Part I,及び年齢,性別,英語学習歴,海外渡

航歴等の被験者情報について答える

Part II

に分かれている。

Part I

では,

Rindal

(2010)がノルウェー で行った言語態度の研究を参考に,地位・能力,社会的魅力,言語の質について答えてもらう刺激

文と

1(まったくそう思わない)〜7(強くそう思う)の数字からなる 9

つの調査項目を作成した。

地位・能力に関する刺激文は,「この話者は教養がある」,「この話者は自信がある」,「この話者は 地位が高い」の

3

文である。社会的魅力については「この話者の発音は素敵だ」,「この話者(この 話者の発音)は感じがよい」,「この話者は先生として頼りになる」の

3

項目,また言語の質につい ては「この話者の発音はなまりがない」,「この話者の発音はわかりやすい」,「この話者の発音はお 手本になる」の

3

項目を作成した。ここで,形容詞対を使用した

SD

法を採用しなかった理由は,

一般の中学生にとっては馴染みのない調査方法であるからである。中学生被験者は,過去の調査の 中で,与えられた日本語の刺激文を読み,数字を使って回答を選ぶという方法を経験済みである。

英語力テストと面談による聴き取り調査は中学生に対してのみ行った。英語力テストは,聞くこ と(リスニング),読むこと,書くことの領域について,学校で学習したことが定着しているかど うかを総合的に測ることができる

3

技能テストである。聴き取り調査は,無作為に抽出した生徒を 対象として個別面談形式を採用して実施した。

3.5. データ収集手順

データ収集は,2018年

9

月から

10

月にかけて行われた。本研究の中学生被験者にとって,英語 を教科として学び始めてまだ

1

年半という時期である。

データ収集は英語授業時間の一部を使用して行われたが,被験者の参加は任意とした。最初に,

研究者が調査目的と匿名性,及び回答方法の概要について説明した。被験者には,英文の内容につ いてではなく,話者の発音から受ける印象を答えるように促した。中学生及び大学生被験者は同様 に,各話者によるパッセージを

2

つ聞き,数字を選んでその印象を答えた。ここで

2

つのパッセー ジを聞いて質問紙項目に答える方法を採用したのは,発音から話者を想像するのには各パッセージ が短過ぎると考えたためである。質問紙への回答には約

15

分間を要した。なお,中学生に対する 英語力テストと聴き取り調査は別日程で行われた。
(6)

4. 結果と考察

4.1. 受容態度の中・大比較

1

は,中学生が

4

つのパッセージを聞きながら,9つの刺激文に対して回答した総合点の平均 値と標準偏差を話者ごとに示したものである。平均値から見る総合評価は高いほうから,アメリカ,

ニュージーランド,フィリピン,シンガポールの順番であった。各話者に対する平均値の差を比較 するため,一元配置分散分析を行ったところ有意差が認められた (F=90.886, df=3, p< .001)。その 後の検定 (Tukey’s HSD)ではすべての話者間で有意差を確認した (p< .001)。これにより,中学生 は

4

名の英語話者の発音に対してそれぞれ異なる態度を示したことがわかる。

1 中学生による総合評価

話者の出身国 平均値 標準偏差

アメリカ 106.03 13.85

ニュージーランド 94.85 16.08

フィリピン 86.10 17.72

シンガポール 67.60 21.28

次に,表

2

で大学生による平均値と標準偏差を示す。中学生と同様に,大学生もアメリカ,ニュー ジーランド,フィリピン,シンガポールの順に評価が高かった。一元配置分散分析では有意差が見 られたが (F=90.886, df=3, p<.001),その後の検定ではニュージーランドとフィリピンの話者間の 平均値に有意差がなかった (p=.489)。しかしながら,それ以外の話者間では有意差が確認できた

p<.001)。大学生は

4

種類の英語発音について中学生と同様の序列を示しているが,中学生ほど ニュージーランドとフィリピンの英語を区別していないことがわかる。

2 大学生による総合評価

話者の出身国 平均値 標準偏差

アメリカ 99.41 14.79

ニュージーランド 82.22 15.23

フィリピン 79.11 13.94

シンガポール 62.51 13.75

3

は,中学生による言語態度の

3

カテゴリー別平均値を示したものである。総合評価と同様,

いずれのカテゴリーにおいても,平均値はアメリカ,ニュージーランド,フィリピン,シンガポー ルの順に高かった。また,表

4

は大学生のカテゴリー別平均値であるが,すべてのカテゴリーにお いて中学生と同様の国別順位を示していることがわかる。このことから,学習者は英語話者の能力・

地位,社会的魅力,言語の質をかなり早い習得段階で識別し,差別化することが可能であることが わかる。中学

2

年生が,中・上級者の大学生と同じように米語発音志向を示していることに研究者
(7)

や英語教師は注目すべきだろう。

3 中学生によるカテゴリー別平均値

話者の出身国 能力・地位 社会的魅力 言語の質

アメリカ 17.66 17.97 17.89

ニュージーランド 16.68 15.74 15.65

フィリピン 15.00 13.31 12.62

シンガポール 11.62 10.89 10.69

4 大学生によるカテゴリー別平均値

話者の出身国 能力・地位 社会的魅力 言語の質

アメリカ 15.09 16.97 17.26

ニュージーランド 14.59 13.31 14.26

フィリピン 13.38 12.91 12.60

シンガポール 10.94 9.53 9.26

次に,言語態度アンケートの

9

項目について中学生と大学生の平均値を比較する。ここでは,特 に両被験者グループの評価が最も高かったアメリカ英語に焦点を当てることにした。表

5

は,大学 生と中学生が共通に聞いたレベル 2パッセージの平均値を比較したものである。平均値の差の検定 を行ったところ,能力・地位カテゴリーの

2

項目において有意差が確認された (質問が

9

項目のため,

Bonferroni

補正を行ってp値を .005未満に設定)。これら

2

項目とは,「この話者は教養がある」と

「この話者は地位が高い」である。中学生は大学生に比べて,アメリカ英語話者の教養と社会的地 位をより高く評価する傾向があることがわかった。同一話者の社会的魅力や言語の質については,

中・大間で有意差があった項目がなかったことから,この

2

項目については特に注意が必要である。

若い中学生が,自分が好む,あるいは自分にとって最も馴染みのあるアクセントを持つ話者の教養 と地位をナイーブに高く評価しがちであると考えられるからである。一方,大学生による

2

項目の 平均値は中学生よりも控えめである。発音だけではわからない話者の教養と地位についてより冷静 に判断したものと思われる。

5 アメリカ英語に対する評価の中・大比較

中学生 大学生 t p

この話者は教養がある 5.90 5.01 5.17 0.000

この話者は自信がある 6.04 5.76 1.81 0.077

この話者は地位が高い 5.71 4.32 7.64 0.000 この話者の発音は素敵だ 6.06 5.62 2.61 0.010 この話者(この話者の発音)は感じがよい 6.04 5.90 0.90 0.372 この話者は先生として頼りになる 5.88 5.45 2.48 0.014 この話者の発音はなまりがない 5.76 5.61 0.85 0.398 この話者の発音はわかりやすい 6.00 6.00 0.00 1.000 この話者の発音はお手本になる 6.12 5.66 2.74 0.007

(8)

また

4

名の英語話者中最も総合評価の低かったシンガポールの発音に関しても,中・大比較を行っ

た(表

6)。Bonferroni

補正後のp値が

.005

未満である項目は,「この話者の発音は素敵だ」の

1

だけで,中学生の評価のほうが若干高かった。しかしながら,残り

2

つの「社会的魅力」評価項目

(「この話者は感じがよい」と「この話者は先生として頼りになる」)を含むすべての項目において,

いずれのグループも平均値が「どちらとも言えない」を表す

4(1 :「まったくそう思わない」〜7 :

「強くそう思う」の中間値)を下回っていることから,シンガポール英語を肯定的に評価していな いことがわかる。

6 シンガポール英語に対する評価の中・大比較

中学生 大学生 t p

この話者は教養がある 4.10 3.87 1.21 0.227

この話者は自信がある 3.70 3.51 0.96 0.340

この話者は地位が高い 3.86 3.56 1.51 0.134 この話者の発音は素敵だ 3.62 3.01 3.06 0.003 この話者(この話者の発音)は感じがよい 3.69 3.38 1.38 0.168 この話者は先生として頼りになる 3.58 3.14 2.25 0.026 この話者の発音はなまりがない 3.64 3.16 2.20 0.029 この話者の発音はわかりやすい 3.63 3.13 2.27 0.025 この話者の発音はお手本になる 3.42 2.97 2.22 0.028

4.2. 中学生の個別的背景と受容態度

どのような背景を持つ中学生が,英語発音をより明確に識別したのかについて調べた。ここでは,

最も高く評価されたアメリカ英語と最も評価が低かったシンガポール英語に対する総合評価の差,

英語力,質問紙

Part II

項目(補遺参照)の関係性に着目した。分析にあたっては,

1)

英語力テスト,

2)

授業外リスニング習慣,3)海外渡航経験,4)最も馴染みのある英語に関する情報をまとめて 説明変数とし,アメリカ英語とシンガポール英語に対する総合評価の差を従属変数とした。表

7

は,

1)〜4) に関して平均値の差の検定結果を記したものである。表が示す通り,アメリカ英語をシン

ガポール英語よりも有意に高く評価していたのは,英語力が高く(p<.01),授業外でのリスニン グの習慣があり (p<.01),海外渡航(旅行・居住)経験のある生徒である (p<.05)。また,アメリ カ英語を最も頻繁に聞くと答えた群とそれ以外を選択した群(イギリス英語を挙げた

5

名と自分が 聞いている英語がどこの英語か識別できないという

41

名を合わせた

46

名)に関しては,アメリカ 英語に慣れた群の開きが大きく,親近感が

2

つの英語に対する態度に差を生じさせていた (p<.05)。
(9)

7 個別的背景とアメリカ英語とシンガポール英語間の評価差

高/有 低/無

t p

人数 平均値 人数 平均値

英語力テスト 56 45.25 52 32.42 2.76 0.007 授業外リスニング習慣 50 46.68 58 32.52 3.04 0.003 海外渡航経験 42 46.26 66 34.50 2.43 0.017 アメリカ英語に最大の馴染み 62 43.23 46 33.48 2.26 0.045

上述した結果は質問紙への回答を量的に分析したものであるが,中学生自身の言葉で英語発音の 印象を語ってもらうとどのような表現になるのか,面談して声を集めた。表

8

は,英語力上位,海 外渡航経験有,授業外リスニング習慣有,アメリカ英語に最も親しみ有の

4

条件すべてに当てはま る

7

名の生徒を無作為に抽出して,アメリカ英語とシンガポール英語に対する印象を聴き取ってま とめたものである。アメリカ英語に対しては概ね肯定的印象が述べられている一方で,シンガポー ル英語に対しては明らかに否定的表現が目立つ。

8 アメリカ英語とシンガポール英語に対する中学生の印象

アメリカ英語 シンガポール英語

・単語がしっかりわかった 

・お手本のリスニングと同じ発音

・積極的 ・明るい

・発音の抑揚をマスターしている

・話しかけている感じ

・頭に入って原稿を読んでいる感じ

・単語が聞き取りにくい ・英語に慣れていない ・きれが悪い ・だらっ とつながっている発音 ・ハキハキしていない ・原稿を読みながら話し ている感じ ・区切りがない ・ふわっとした印象 ・なんか違う ・消 極的 ・発音の抑揚をマスターしていない ・ボソボソ話している ・聞 きにくいからお手本にならない ・これでいいのかなって感じながら話し ている ・変化がない ・イントネーションがなまっている

アメリカ英語に対する「単語がしっかりわかった」,「お手本のリスニングと同じ発音」などは,「言 語の質」に関する肯定的表現と解釈できる。一方で,シンガポール英語には,「単語が聞き取りに くい」,「区切りがない」,「ボソボソ話している」などのように「言語の質」を否定的に捉えている。

また,「積極的」や「明るい」などのように,被験者がアメリカ英語の「社会的魅力」を感じたこ とがわかる表現がある一方で,シンガポール英語に対しては「消極的」や「ハキハキしていない」

などのように否定的表現が並んだ。他方,「能力・地位」評価に関連するコメントは,両話者とも に挙がることはなかった。社会経験の少ない中学生にとって,話者の能力や地位を評価することは 難しかったのかもしれない。中学生たちは,質問紙の「能力・地位」と「社会的魅力」評価項目に おいて,アメリカ英語については肯定的,シンガポール英語については否定的な言語態度を示して いたが,それらに影響されて短絡的に否定的な数字を選んでしまったのかもしれない。あるいは,

グローバル社会では,人々がそれぞれの目的に応じて日常的に英語を使用し,中学校で学ぶ英語と は異なる様々な英語(発音)があるという現実に思いが至らなかったであろう。明らかなのは,中 学生たちが,普段触れているアメリカ英語とは異なるシンガポール英語発音を「社会的魅力」を欠 き,「言語の質」がよくないと感じたことである。調査に応じた

7

名は,英語力があり,自ら進ん

YouTube

などの動画を見たり,洋楽を好んで聞いたり,学校の学習以外で英語を楽しんでいる

生徒である。また彼らは,海外旅行などを通して海外との接点があり,アメリカの英語に親しみを

(10)

感じている生徒でもある。つまり,我々教師や一般の人々が,比較的グローバル・マインドがある と考える生徒ほど,馴染みのある発音を高く評価する一方で,馴染みのない発音を低く評価する傾 向があることが聴き取り調査からも明白になった。

5. 英語教育への示唆

本研究では,アメリカ英語の発音志向が中学生

2

年生前半という早い段階ですでに形成されてお り,おそらく高等学校時代を通じてその傾向が固定化され,大学生でも同様の傾向が継続するとい う縦断的特徴が明らかになった。中学校の教育現場では,アメリカ英語で書かれた教科書を用い,

アメリカ英語を手本とした発音指導を行い,リスニング教材の多くもアメリカ英語であることが一 般的であり,学習者がそれ以外の英語に接する機会はあまりない。多様な英語を受け入れる態度が 形成されないままで英語学習を継続すれば,少なくとも高等教育の一定のレベルに至るまで,アメ リカ英語を理想化する態度が持続する一方で,それ以外の英語に接した際の寛容度は低いものにな るだろう。

本研究の研究者らは,英語習得の初期段階で教育現場に多変種の英語を導入し,母語を異にする 人々と学習者を英語で交流させることによって,学習者が

ELF

の役割を実感し,自分の英語に自 信を持ち,国際的通用度の高い実践的な英語を習得することができると考える立場をとる。高等学 校学習指導要領解説外国語編・英語編では,このことに関連した次のような記載がある。「現代の 世界において様々な国や地域で使用されている英語の広がりを考えたとき,異なる英語に触れる機 会をもつことは重要である」(文部科学省,2018,p. 126),また「様々な英語音声に触れる機会を もつことは,国際共通語としての英語に対する理解を深め,同時に自分自身の英語に対する自信を 深めていく上でも大切である」(p. 133)。一方,中学校学習指導要領解説にも,外国語やそれを使 用する人々の多様性を尊重する姿勢や態度の重要性に言及した個所がある。たとえば,「外国語で 他者とコミュニケーションを行うには,社会や世界との関わりの中で事象を捉えたり,外国語やそ の背景にある文化を理解するなどして相手に十分配慮したりすることが重要…」や「多様な人々と の対話の中で,目的や場面,状況等に応じて,既習のものも含めて取得した概念(知識)を相互に 関連付けてより深く理解したり…」(文部科学省,2017,p. 10)などを拾うことができる。また,

英語科目に特化しては,「多様な人々とのコミュニケーションが可能となる発音を身に付けさせる こと」(p. 30)という記述もある。しかしながら,高等学校英語教育のように,多様な英語に触れ ることがグローバルな現実社会を知る上で重要であるというような具体的な記述は見当たらない。

本研究の結果を踏まえると,高等学校英語と同様の教育目標を前倒しして中学校においても設定す べきではないだろうか。

ここで,初級英語教育に関連した具体的提言を述べる。中学校英語では,生徒を馴染みのない内 心円英語(イギリスやオーストラリアなどの英語),また地理的にも将来使用頻度が高いと予想さ れる近隣アジアの外心円英語(シンガポール,フィリピン,インドなどの英語)に触れさせること を考えるべきであろう。さらに,日本と同様に英語を母語としない近隣諸国の拡大円英語(中国人 や韓国人が話す英語)に接することで,英語の多様性と

ELF

の役割を実感させることも必要だろう。
(11)

しかしながら,限られた時間の授業内では多種多様な英語に触れさせる機会を設けることは困難で ある。他方,近年では視聴覚教材や情報通信ネットワーク,教育機器などを有効活用しいろいろな 英語に触れさせる機会を作ることが可能である。英語学習者にとって生の英語を習得し易い環境と なってはいるが,教育現場では,YouTubeや

TED

に代表される情報通信ネットワークからの素材 を授業で使用することに躊躇する風潮もある。教科書会社制作の

DVD

CD

教材がほとんど存在 していない状況から,新たな教材開発が期待されるところであるが,それには時間がかかるであろ う。そこで,早急な対応策として,様々な国の出身の

ALT

がそれぞれのコミュニティーで自分た ちの声を吹き込み,学校の枠を超えた共有教材として広く活用してもらうようにすることを提案し たい。また同時に,どのような英語変種に対しても優劣をつけることなく,どの文化に対しても尊 重し認め合う態度を育む指導も必要となる。内心円や外心円諸国出身の

ALT

や地域の英語が堪能 な人材の協力により,多様な英語話者と楽しくコミュニケーションができる場を作れば,彼らの英 語と文化に対する興味を喚起する機会となるだろう。指導者が折に触れ,グローバルな視点での教 育活動を授業の中に実践し続けることが重要である。

6. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,標準英語で書かれたスクリプトを音読した際の聞き手の態度に焦点を当てたものであ る。英語変種に特有の語彙や表現に対する態度については扱っていない。このことに関しては将来 の研究に場を譲りたい。また本研究では,便宜上,アメリカ英語,シンガポール英語などのような 表現を使用しているが,本研究の吹込み者は各英語変種の話者を代表するものではない。発音には 地域差や個人差がある。同様に,本研究の被験者は特定の地域や教育機関の学習者であり,全国の 中学生や大学生を代表するものではない。言語態度には学習歴等の個人差が反映されるので,今後,

幅広い層の被験者について調査する必要があるだろう。

今後の研究課題として取り組むべきことは,初級英語教科書の中で,多様な人々やその英語をど のように扱っているのかを調査することが挙げられるだろう。教授法や教材の選択には,教師の信 条や言語観が反映されるということも忘れてはならない。多様な英語を中等教育現場へ,あるいは それ以前の初等教育現場へ導入することの是非やその方法について,現役英語教師や教職課程に在 籍する大学生などの意見を聴取することも今後の重要な課題となるだろう。少なくともこれら

2

点 については早急な調査及び分析が肝要であると思われる。

付記

本研究は科学研究費の助成を受けている(課題番号

: 18K00734)。本研究に関わったすべての方々

に感謝の意を表したい。
(12)

参考文献

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http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/13/1407073_09.pdf#

search=%27%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%AD%A6%E7%BF%92%E6%8C%87

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(13)

1. 性別 :(1)

男性  (2)女性 (該当するものを

1

つ○で囲む)

2. 

授業外(自宅や塾など)に,発音練習,リスニング,英語での動画視聴などをすることが ありますか。

   (1)なし  (2)これまでに数回  (3)週に

1

回程度  (4)週に

2

回以上

3. 上の 2

について,これまでしたことを詳しく書いてください。

4. 

これまでに海外へ行ったことがありますか

?

ある人は国名とその横に渡航回数を書いてく ださい。

   国名

: _________(  )回  国名 : _________(  )回

5. 海外に居住した(ひと月以上)ことはありますか ?

ある人は国名と期間を書いてください。

   国名

:

______   期間

:

___才から____ヶ月/年

6. 上の 4

5

では英語を聞いたり話したりしていましたか

? その回数はどれぐらいですか ?

   (1)なし   (2)週

1〜2

回   (3)週

3〜5

回   (4)ほぼ毎日

7. 

日本人(先生やクラスメートなど)の英語を除いて,最も馴染みのある英語(現在,頻繁 に聞く英語,または過去に頻繁に聞いた英語)はどれですか

?

   (1) アメリカ人の英語    (2) イギリス人の英語

   (3) その他(具体的に

:

         )    (4) 英語の種類を区別できない(わからない)

補遺(中学生用質問紙)

参照

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