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学習者の多様性に対応できる日本語教育とは ―

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池田伸子 IKEDA Nobuko

学習者の多様性に対応できる日本語教育とは

高等教育機関における日本語学習者支援体制の構築に向けて―

How Should Japanese Language Education Respond  to Learner Diversity?:

Toward Establishing a Support System for Japanese Language Learners  in Higher Education Institutions

池 田 伸 子

IKEDA  Nobuko

Key  words:

ディスレクシア、学習者支援、日本語教育、高等教育

dyslexia,  support  for  learners,  Japanese  language  education,  higher  education

Abstract

  With  rapid  and  continuous  globalization  of  university  communities  and  a  continuously  increasing  number  of  international  students  accepted  to  Japanese  language-teaching institutions at colleges in Japan year upon year, the fi eld of Japanese  education  is  required  to  respond  to  student  diversity.  To  date,  Japanese-language  education  has  conventionally  perceived  learner  diversity  as  principally  comprising  nationality,  native  language,  Japanese  profi ciency,  and  styles  of  learning,  and  has  seriously  engaged  in  accommodating  these  needs.  However,  responding  to  growing  numbers  of  international  students  also  increasingly  requires  addressing  the  needs  of  students suff ering from learning disabilities (LD). In this study, I fi rst discuss developmental  dyslexia  as  a  kind  of  learning  disability  with  an  overview  of  case  studies  conducted  overseas  regarding  the  functioning  of  a  support  system  for  students  with  dyslexia  at  other  universities.  Second,  I  discuss  how  language-teaching  institutions  in  Japanese  colleges  should  support  Japanese  learners  with  dyslexia,  and  what  would  be  required  to  provide  such  support.

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1 .はじめに

 21 世紀に入り、大学に押し寄せる「国際化、グローバル化」の圧力は、ますます激しさを増し ている。大学の国際化というと、英語による授業やコースの設置をイメージすることが多いかも しれないが、そこには実は「留学生増」も密接に関係している。

 日本の留学生政策が注目されることになったのは、1983 年の「留学生 10 万人計画」からでは ないかと思う。「留学生 10 万人計画」とは、21 世紀初頭までに当時のフランスと同じ程度の 10 万人の留学生を日本に受け入れるという計画で、当時の中曽根内閣によって掲げられた(文部省、

1986 )。その背景には、1970 年代から 1980 年代にかけての経済成長を受け日本が自身の国際的 な地位や役割を自覚するようになったこと(堀江、2002 )や、当時の経済摩擦の激化という差し 迫った状況の中で、経済界を中心に人的交流の必要性に対する認識が高まったこと(武田、2007 )、

中国やマレーシアがそれぞれの国の政策を受けて日本への留学生を派遣したこと(江藤、2001;

大塚、1991 )などがあったが、その計画を受けて実施された様々な受け入れ体制1 )の整備により、

留学生 10 万人受け入れという目標は 2003 年に達成されている。

 しかし、留学生が増えると、様々な場所で留学生の質に対する懸念が語られるようになり、大 学においても、 1993 年度には 90.5%であった留学生の大学院における修士・博士の学位取得率 が、2001 年度には 69.6%、2002 年度には 68.9%に低下することとなった(総務省、2005 )こ となどから、留学生をやみくもに受け入れること、留学生の質の低下への危惧や懸念が大きくな り(明石、2007 )、2003 年にまとめられた中央教育審議会答申では、留学生の受け入れにあたっ ては、量の拡大のみならず、質の確保のための取り組みを国として強化する必要があるとされた

(文部科学省、2003a )。

 留学生政策において、質の確保が議論されるようになったことを受けて、一時的に留学生受け 入れの条件が厳しくなったことはあったが、2007 年になると再び留学生受入数拡大の議論がなさ れるようになる。この背景には、言わずと知れた社会・言語のグローバル化がある。世界のグロ ーバル化が急激なスピードで進展し、世界各国が優秀な人材を国境を越えて求める中、高等教育 の段階から人材をリクルートしていかないと、国際的な頭脳獲得競争に勝てないという認識が日 本の中に浸透してきた結果である(太田・白石、 2008 )。その後、様々な留学生受け入れの議論 を経て、2008 年に「 2020 年を目途に留学生を 30 万人とすることを目指す」、いわゆる「留学生 30 万人計画」が策定され、そのための方策として、①国による 30 万人計画のグランドデザイン の策定、②質の高い留学生を受け入れる先進的な重点大学を 30 形成し重点的支援を行うこと、③ 留学生の就職支援の充実、④海外での情報提供・支援体制の整備、⑤留学生受け入れ環境の整備、

⑥国際協力への戦略的対応が挙げられた(教育再生懇談会、2008 )。

 上記のように、現在大学で叫ばれている「国際化、グローバル化」の中には、「留学生 30 万人 計画」が隠れている。大学内で英語のプログラムや授業を増やし、優秀な留学生を獲得すること も大学の国際化の重要な達成すべき課題の 1 つなのである。

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池田伸子 IKEDA Nobuko

2 .日本語教育における学習者の多様化と発達性ディスレクシア

 前述のような留学生受け入れ拡大の流れを受けて、日本国内の大学でも留学生を積極的に受け 入れようとする動きが強まっている。協定校を増やしたり、短期の留学生を受け入れたり、海外 で入学試験を実施する等、各大学がそれぞれ工夫を凝らして留学生獲得に動いている。その結果、

国内の大学で日本語を学ぶ留学生の多様化が進み、 これまでのような、 学習者の日本語レベル、

国籍、母語、学習スタイル等以外に、学習に困難を抱える留学生を受け入れることも徐々にでは あるが増えてきている。

 大学の日本語教育機関で受け入れる留学生は、その大学の入学試験を通過した正規の留学生か、

大学が協定を結んでいる海外の大学からの短期留学生であり、ほぼ全員が「大学生あるいは大学 院生」であるため、知的発達に遅れがあることから生じる学習困難を抱える留学生はいない(は ずである)。知的発達に遅れがなく学習面で困難を示す場合、そのような学習者は学習障害( LD )2 ) または注意欠陥多動性障害( ADHD )3 )、高機能自閉症4 )などの軽度発達障害であると考えられる が、国内の大学における日本語教育の現場では、ADHD や高機能自閉症の問題を抱える学習者の 事例はあまり報告されていない。おそらく、協定大学からの留学の場合、長期間海外で生活する ということから、社会性に問題を抱える学習者は日本に派遣されないからではないかと推測され る。一方で、文字がバランスよく書けない、文字が読めないなど、LD の症状を抱える学習者は確 実に存在している。これまで、日本語教育の現場では、そのような学生を「できない学生、筋の よくない学生、飲み込みの遅い学生、モティベーションの低い学生」と認識することで済ませる ことが多かったが、近年、主に欧米からの学習者の中に、「自分は(発達性)ディスレクシアであ る。」と申告してくる者が現れ始めた。

 発達性ディスレクシア( developmental dyslexia )は、日本では、「読字障害」や「読み書き障 害」と訳され、「読み書きの学習レベルが年齢や知的発達、 教育の程度から期待されるレベルよ り、 十分に低い(具体的には 1 年半から 2 年以上の差をいう場合が多い)状態(日本 LD 学会、

2006 )」だとされている(ディスレクシアの定義については、 池田( 2012 )に詳細な記述があ る)。また、欧米では、発達性ディスレクシアについての研究が進んでおり、そのような国からの 留学生は、本国で早い段階でディスレクシアの認定を受けているため、欧米からの学習者は自己 申告をしてくるのである。

 ディスレクシアは、「読み」に関連する障害であるため、日本語教育の現場にとっては看過でき ない障害である。また、日本語能力試験において特別措置の申請をした者がすべて発達性ディス レクシアであったこと(上野・大隅、2008 )、本学において自己申告してきた学生が発達性ディ スレクシアであったこと、他の教育機関で自己申告してきた学生もすべて発達性ディスレクシア であった(西村・谷津・石田、2011 )ことから、留学生が増え続ける今、日本語教育の現場は発 達性ディスレクシアを抱える学習者への対応を考える必要に迫られている。

 そこで、本稿では、発達性ディスレクシア等の学習障害を抱える学習者に対して、各国の教育

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機関がどのように学習支援を行っているのかを通して、国内の大学における日本語教育が目指す べき支援体制について考えてみたい。

3 .各国の高等教育機関における支援体制

アメリカ

 1973 年のリハビリテーション法 504 条、1990 年の米国障害者法(以下 ADA 法)のもとで、大 学に障害学生支援システムが整備され、 1993 年の障害者教育法( IDEA )によりディスレクシア を含む軽度発達障害も含みこんだ障害学生への支援が法律上保障されている(都築、2002 )。ADA 法により各大学には障害学生支援室が設置され、常置されている ADA コーディネーター5 )が中心 となって、すべての学生と同等の教育機会を障害学生に提供するための支援を行っている(都築、

2006 )。

 学習障害の学生のための配慮は、「教え方」、「補助的コンピューターテクノロジー」、「プログラ ム」から行われており、それぞれには具体的に次のようなものが含まれている(都築、2006 )が、

このような支援を受けるには学生自身が申請する必要がある。

 教え方:録音された教科書、替読者、ノートテイク、テストの調整(延長時間、静かな環境で の試験、口頭試験など)、試験での補助器具の使用(計算機、辞書など)

 補助的コンピューターテクノロジー:ラップトップコンピュータの使用、 スペルチェッカー、

文法ソフト、単語予想プログラム、スクリーンリーディングシステム、音声合成装置 の利用など

 プログラム:フルタイムの学生としてではなく科目等履修生として登録したり、 1 つのコース を他の必修コースで代用したり、 ある必修科目を一部変更あるいは放棄したりする。

(各大学によって様々)

 ディスレクシアを抱える学生への支援

  松橋ら( 2006 )によると、ディスレクシアを抱える学生に対しては次のような支援や特別措 置が行われている。

テスト時間の時間延長許可、別室受験(論述試験は障害学生サービスオフィスでコンピ ュータを使って受ける。また多くのミスを正すためにスペルチェックや校正、編集等が できるよう、すべてのテストをコンピュータで受ける)、優先的授業登録、授業講義ノー トのコピー配布、ノートテイカーの利用、テープ本の貸し出し、LD スペシャリストとの 面談(週 1 回、読みや単語記憶の方略、選択問題方式テスト受験対策について教えても らっている)、読み取り機能(テキスト音声化機能)、スペルチェック、文字の拡大、ス ピード変更等ができるソフト等の利用

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池田伸子 IKEDA Nobuko イギリス

 1978 年のウォーノック報告( The Warnock Report )で、学齢児のおよそ 20%の児童がなんら かの特別な教育的ニーズ持っており、その多くが通常学級に在籍しながらニーズに応じて様々な 教育的対応を必要とする存在であることが示された。これをきっかけにして、1988 年に、教育改 革法( Education Reform Act、1988 )にナショナル・カリキュラムの制定が規定され、1998 年 からはすべての初等学校で読み書きの能力を向上させるためのリテラシー・アワーが義務化され ている。

 ディスレクシアを抱える学生への支援

  1980 年代から医療の現場から教育的アプローチを模索する研究が行われるようになり、現在 では、なぜディスレクシアのような読み書き困難が生じるのかという視点からではなく、ディ スレクシアを抱える人々児童や学生に何ができるのかという視点から、学校教育において取り 組まれるべき課題の 1 つとして議論されている。

  障害を持つ生徒・学生に対して、固定された特別な場における専門的な指導を重視する分離 教育の立場ではなく、「可能な限りすべての子どもが通常の学級において教育を受けられるよう にすること」すなわちインクルージョンの追及が国を挙げて目指されていおり、「 Give individual  help without helping the individual 」という考え方に基づいて( Neanon、2002 ).ディスレク シア・フレンドリー・スクールづくりが目指されている( British Dyslexia Association、2003;

Pollock & Roby、 2004 )。その一方で、 ディスレクシアを抱える学習者だけに通常学校の外に ある専門機関において特別な教育を実施する動きもあり、具体的にはオックスフォードディス レクシア協会のサタデースクールの取り組み6 )やディスレクシアの児童を専門的に受け入れる 学校7 )がある。

スウェーデン

 ほぼすべての大学に障害をもつ学生を担当するコーディネーターが存在し、 個別に学習計画、

学習支援等の相談が行える。これらのサービスを利用するには、学生が自分で申請をする必要が ある。学習支援の例としては、 試験での特別対応(試験時間の延長、 コンピュータ使用の許可、

口頭試験での受験など)、全日制のコースをハーフタイムで受講する、スウェーデン国立録音展示 図書館を通じ、録音されたテキスト・文献の貸し出しを行うなどがある(イーヴァソン、2008 )。

1990 年代初頭に国立の障害児教育研究所が設立され、支援教材の開発・製造・普及・使用法の指 導・一般の教材製作者に対する助言を行っているほか、大学入学試験においても綴り方はまった く評価されないなど特別な配慮がなされている(トールビョーン、2002 )。

フランス

 2005 年に「障害者の権利・機会の平等、 参加、 公民権のための法」が施行され、 それにより

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LD の人々も認知機能に問題を持つものとして障害者として正式に認められることになった。2007 年には、高等教育・研究省、労働・社会関係・連帯省の 2 省と大学学長会との間で「障害に関す る大学憲章」が結ばれ、すべての大学に障害学生支援を専門に担当する受け入れ組織を作ること、

訓練されたスタッフを配置すること等が述べられた。さらに、 2012 年の「障害に関する大学憲 章」では、学士課程のみでなく、修士、博士課程まで、大学のすべての過程に渡って支援を広げ ていくことが、目標として掲げられている(大島、2013 )。

 ディスレクシアを抱える学生への支援

  テストでの時間延長やスペルチェッカーつきのパソコンでテストを受けることを許可するな どの対応が、日本語教育においては実施されている(大島、2013 )。

日本

 日本においても、学習障害を抱える生徒・児童についての支援は、初等・中等教育で体制化さ れつつあり、読み書きに困難を示す児童に対してどのように支援していくかについての議論が数 多くなされるようになっており、今後はさらに大学など高等教育機関での支援の充実が求められ ている(松橋ら、2006 )。一方、大学における学習障害学生への対応は、現在のところ学生相談 機関がその多くを担っており(鶴、2006;松橋ら、2006 )、授業や試験などで具体的にどのよう に対応すべきかについては、報告例が少ない。

 2004 年に施行された「発達障害者支援法」では、「大学および高等専門学校は、発達障害者の 障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」と成文化されており、大学において も発達障害のある学生に対して、教育的な支援を行っていくことの必要性が示されている(佐藤、

2006 )。また、独立行政法人国立特殊教育総合研究所は、高等教育機関における発達障害のある 学生の支援について調査を行い、その成果として、大学の教職員の理解を促すことを主な目的と して、在学中から卒業に向けた支援について重要となる事項や課題となる事項などをまとめたガ イドブックを作成した(独立行政法人国立特殊教育総合研究所、2005 )。しかし、現在、大学な どの高等教育機関における学習障害学生への支援についてはまだ検討の開始段階であり、まだま だ課題のほうが多い(佐藤、2006 )ことも報告されている。

 表 1 は、日本の高等教育機関において実際に行われている発達障害のある学生に対する支援の 内容を示したものである(独立行政法人国立特所教育総合研究所、 2006 )。この表を見るとわか るように、学業についての支援、テストや評価についての支援を実際に行っている高等教育機関 は非常に少ない。学業支援やテストや評価についての支援は、支援を実施する根拠や基準がない と実施するのが難しい。これに関する支援が少ないのは、日本の高等教育機関においては、まだ まだ学生の障害の状況に応じた適切な支援に関する情報が少なく、基準を作成するなどの実施体 制が整っていないからではないかと思われる。

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池田伸子 IKEDA Nobuko 表 1 高等教育機関において実施されている発達障害を持つ学生に対する支援

(独立行政法人国立特殊教育総合研究所、2006 より)

LD ADHD 高機能自閉症

アスペルガー症候群

疑い

理解促進・連携 25 27 74 43

学外連携・協力 26 27 78 43

面接相談等 40 48 92 71

学業支援 7 7 17 7

テスト・評価 15 13 28 18

進路・就労 14 16 28 62

居場所作り等 21 21 43 25

N=184 校

 ディスレクシアを抱える学生に対して行われている具体的な支援については、日本の高等機関 において実施されているものを先行研究から報告例を見つけることができなかった。

4 .日本語教育機関における支援体制

 外国人に対する日本語教育を実施する機関において、どのような支援が行われているかを次に 示す。高等教育機関で行われている支援については、まとめられた報告がなく、次の 2 つの事例 を見つけることができた。

スウェーデン

 試験時間延長、スペルミスを減点対象としない、一部を口頭試験化、個室受験可(認定済み希 望者のみ)、プリント/ OHP の読みやすさ考慮、ディスレクシアを試験後に申告したため漢字の み再試験、コンピュータによるノート・テイクを許可(イーヴァソン、2008 )。

日本

 大学での対応

  ディスレクシアのみではなく LD を抱える学習者への対応として

  個別指導、テュータをつける、別室受験、テスト時間延長(坂根、2000 )を実施。

 日本語能力試験での対応(上野・大隅、2008 )   問題用紙の拡大、

  時間延長 障害の特徴により全科目もしくは一部の科目を対象とする。解答時間全体を延長 する場合もあれば、記入を確認するため、最後に時間を設ける場合もある。障害の程度に

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より、1.3 倍、1.5 倍、2.0 倍の 3 段階を設定。

  聴解科目の全体遅延テープ(話す速度も含め、全体を 20%遅延)の使用。

   ポーズ延長テープについては、障害の特徴と問題の特徴(イラストや文字選択肢などの視 覚情報の有無)により、全体的もしくは一部問題を対象とする。

  別室受験 障害によるもの、もしくは時間延長により結果的に生じるものがある。

 日本語能力試験においては、心理学的所見から推察される認知・記憶の特性と、その特性に基 づいて過去受けてきた教育上の措置という 2 つの情報をもとに特別措置の審査を実施している。

申請件数 22 件の半数以上、 海外からの申請 19 件のうち 12 件はディスレクシアを主根拠として いる。

5 .日本の大学の日本語教育機関における支援はどうあるべきか

 海外の大学に比べ、日本の大学におけるディスレクシア支援はまだ遅れていると言わざるを得 ない。日本の高等教育機関の現場では、 ADHD 等の行動・社会性障害に起因する LD への関心が 高く、現場における学習支援においてもそちらが優先されている感が強いく、ディスレクシアを 抱える学習者に対する支援としては、小学校などの児童に対する支援について、やっと研究が始 まった段階である。日本人を対象とした支援を考える場合、まず早期に認定し、適切な支援を始 めるというやり方でいいのかもしれないが、大学の日本語教育機関の場合、既に本国で認定を受 けたディスレクシアを抱える学習者が存在しているため、 現在の日本の動きを待つ余裕はない。

そのため、まだ基礎的研究が不十分ではあるが、次のような観点から支援を考えていく必要があ る。

 ① 理解の促進

   ディスレクシアを抱える学習者への日本語学習支援を効果的に実施するためには、現場で 日本語教育に携わる教師の意識改革が重要である(池田、 2013 )。教室で実際に学習者と向 かい合う教師が、ディスレクシアについての正しい知識や、何をすべきか、何ができるのか という意識を持っていなければ、適切な支援は望めない。そのためには、まず、日本語教員 養成課程において、しっかりとディスレクシアについて取り上げ、正しい知識と対応につい て教える必要がある。

   また、留学生と関わる大学職員への啓発活動も重要である。ディスレクシアは、ともする と「怠けている、やる気がない」、「できない」学生と認識されがちである。そのように認識 されることは、ディスレクシアを抱える学習者のモティベーションを低下させることにつな がる。現場に立つ教師だけでなく、大学で留学生に関わるすべての人々が、ディスレクシア に対する正しい知識を持ち、彼らに適切に対応できるような体制が不可欠である。

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池田伸子 IKEDA Nobuko  ② 支援体制の構築(教授法、教材、テスト等における支援)

  A:教授法や教材開発

   日本語の言語的特徴を踏まえた基礎研究の積み重ねを通して、ディスレクシアを

   抱える学習者に対して効果的な教授法や教材の開発を行っていく必要がある。日本におけ る、日本語教育機関の現状を考えると、ディスレクシアを抱える学習者だけを対象とした 授業を設置するのは非常に困難であるため、授業外に個別で指導を行ったり、特別な補助 教材を与えたりするなどの対応が必要であろう。また、ディスレクシアの症状は、人や母 語によって様々であるため、個別の症状やニーズに合わせた補助教材の開発も行っていく 必要があると思われる。

  B:授業やテスト等における特別措置

   テストにおける時間延長や問題用紙の拡大、授業あるいはテスト時にコンピュータなどの テクノロジーの使用を認めることなどは、比較的簡単に現場で取り入れることが可能な特 別措置である。しかし、学習者の自己申告により、これらの特別措置を認めることはでき ない。海外の多くの高等教育機関がそうであるように、日本の日本語教育機関においても 特別措置を認めるためには、何等かの基準が必要である。日本語教育の現場において、自 分はディスレクシアであると自己申告してくる学習者の多くは本国で既に認定を受けてい る場合が多いため、学習者が所属する本国の大学関係者との連絡を密に行い、情報を共有 し、本国で受けている特別措置と同程度の特別措置を認める必要があろう。さらに、今後 は、ディスレクシアに関する研究や支援体制が整っていない国からの留学生への対応を行 っていくために、現場で利用できる簡単なチェックリストの作成や、それぞれの日本語教 育機関で用いる特別措置の認定基準の作成などが必要であると思われる。また、ディスレ クシアの学習者の日本語学習にとって有用なコンピュータ・ソフトや様々な支援機器につ いても、少しずつ揃えていく必要があろう。

6 .おわりに

 外国語学習の困難は、母語の話す・聞く・読む・書くことにどれほど困難を生じているかに比 例する( IDA、2006 )が、たとえ困難があってもディスレクシアを抱えた学習者の多くが外国語 を学びたいと思っている( Javorsky, Sparks, & Ganschow、1992 )。つまり、ディスレクシアを抱 えながらも日本に留学し、日本語の授業を履修している学生は、日本語学びたいという強い意欲 を持っていることになる。言うまでもないことだが、 外国語として日本語を学ぶということは、

日本語の文法や音声、文字等の言語的要素を学ぶだけでなく、日本の文化・生活・習慣を学ぶこ とであり、特に、日本で生活する外国人学習者にとっては、日本語学習は彼らの日本での生活が どれだけ便利で充実したものになるかと密接に結びついている。

 確かに、 ディスレクシアなどの LD を抱える学習者にとって、 外国語学習は簡単なものではな

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い( Dinklage、1971 )。しかし、学習者がそこに確かに存在し、日本語を学びたいという意欲を 持っている以上、日本語教育機関はそのニーズに応えていく義務があると思う。ディスレクシア に関する研究は、その多くがアルファベットを使用する書記体系を持つ言語におけるものであり、

日本語におけるディスレクシアの研究はまだ圧倒的に少ない。そのため、一人一人症状や原因も 異なり、障害の重さもまちまちであるディスレクシア学習者に十分に対応していくことは難しい かもしれないが、まずは、できるところから少しずつ対応を始めていく必要がある。効果のある 教材の蓄積、個別対応のノウハウ、許可すべき特別措置の制定などを日々の授業を通して実施し ていくことが、今、日本の日本語教育機関に求められているのではないかと思う。

 留学生 30 万人計画、大学のグローバル化で、今後も一定期間は留学生の増加が見込まれる。日 本にやってきたディスレクシアを抱える学習者が、日本の日本語教育や日本の大学における支援 体制に失望して帰国することは、日本のプレゼンスを高め優秀な人材を獲得するという現在の大 きな目的を損なうことにつながる。

 今後は、大学のグローバル化に微力ながらも貢献できるよう、日本語教育機関が中心となって、

大学におけるディスレクシア学生への支援体制について、提案していく必要があろう。

 1 ) ①国費留学生数の増員、②外国政府派遣留学生受け入れへの積極的協力、③留学生に配慮した コース(英語による授業の実施等)、④学位授与の改善、⑤私学における留学生受け入れの促進、

⑥大学の留学生センター等の受け入れ担当組織や専門職員等の整備、⑦現地での留学情報提供 や留学相談の実施、⑧海外での日本留学試験の実施、⑨国内外での日本語教育体制の拡充、⑩ 留学生宿舎の誠意、⑪帰国留学生に対するアフターケア(学術雑誌の送付や留学時の元指導教 員による研究指導など教育研究継続のための支援、帰国留学生会の組織化(文部省 1986 )。

 2 ) 学習障害( LD ):基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計 算する、推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な症状を指すも のである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定される が、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因とな るものではない。(文部省、1999 )

 3 ) 注意欠陥多動性障害( ADHD ):年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、

多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。ま た、7 歳前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推 定される。(文部科学省、2003b )

 4 ) 高機能自閉症:3 歳ぐらいまでに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達 の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症 のうち、知的発達に遅れを伴わないものをいう。また、中枢神経系に何らかの要因による機能 不全があると推定される。(文部科学省、2003b )

 5 ) ADA コーディネーターは、大学の管理運営とは独立した存在で、大学が ADA に準拠して正し く障害学生にサービスを行っているかを査定し、 連邦政府に報告を行う。英国の大学では

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池田伸子 IKEDA Nobuko ADA コーディネーター、 手話通訳者、 心理面や就職面のカウンセラーなどが協力し合って障

害学生の支援を行っている。

 6 ) http://www.oxdys.org.uk/

 7 ) http://www.fairlyhouse.org.uk

 8 ) ONISEP:国立教育・職業情報協会。1970 年に教育省の監督下に設置された組織で、 その使命 は勉学と職業に関する情報の普及にある。

参考文献

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文部科学省( 2003b )『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』特別支援教育の在り

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参照

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