福島大学地域創造
第31巻 第1号 29〜47ページ 2019年9月
Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 31 (1):29-47, Sep 2019
研究ノート
1.は じ め に
2011年3月の東日本大震災・福島第一原子力発電所 の事故により,福島県は,地震,津波,原子力災害,
風評被害という四重の複合災害に見舞われた。この 結果,福島県への外国人観光客は激減してしまった。
2017年には回復したとはいえ,全国の増加率と比較す れば低調である。
われわれは,より良い復興のためには,ローカルな 視点だけでなく,グローバルな視点で,復興の経験を 共有化し,比較分析することが重要であると考え,研 究に取り組んできた1。さらに,福島の食と観光に対 する世界の認識を調査することにより,風評被害を払 拭し,福島の復興を加速したいという思いから,2017 年と2018年に世界の大学生に対する調査を実施してき た。まず,2017年には米国,ドイツ,中国,ロシア,
韓国,ベトナムにおいて,現地の大学生を対象に「食」
に関するアンケート調査を実施した2。
2018年には,共通テーマを「観光」とし,韓国,中国,
ロシア,タイ,ドイツ,米国にて現地調査を2018年8 月から2019年2月にかけて行った。国際比較調査につ いては,マクマイケル ウィリアムほか[2019]に委 ねることとし,本稿ではタイ人大学生の観光に対する 意識調査を中心に論じる。
タイは新たな観光市場として福島県のみならず日本 各地から注目を受けている。これに関する先行研究と して,日本政府観光局(JNTO)[2018,2019],観光 庁[2019]日本政策投資銀行[2018]などの基本的デー タに加えて,北邦弘[2015],梅原克彦[2015],佐藤 朋紀[2017]などが,タイからの日本へのインバウン ドの現状と課題について論じている。しかし,福島県 を対象とした研究はほとんど行われていない。
そこで本稿では,東日本大震災・原発事故後の福島
タイから日本・福島へのインバウンドの可能性
―
海外フィールドワーク実習報告
―福島大学経済経営学類
佐 野 孝 治
海外フィールドワーク実習メンバー
芦田 直樹・石崎 勇・伊藤 大貴 川島 卓人・斉藤 亮太・佐浦 拓樹 鈴木 康祐・須藤 菜々・反保 祐希 沼澤 峻史・本名 将・松川 育実 持尾 雄輔
The possibility of inbound sightseeing from Thailand to Japan, Fukushima
―
A Report on Overseas Fieldwork
―SANO Koji, Overseas fieldwork training Members
県への外国人観光客とタイ人観光客の動向を概観した のち,インタビュー調査,アンケート調査,パンフレッ ト分析,SNS分析をもとに,タイから福島へのインバ ウンド観光の可能性について考察する。ただし本稿は あくまでも調査報告であり,より本格的かつ長期の調 査に基づく研究は別稿の課題とする。われわれがイン タビューした調査先とアンケート調査先は以下のとお りである。
① タイでのインタビュー調査 2018年9月19日〜10月1日
9月20日 JICAバンコク事務所
9月21日 在チェンマイ日本総領事館,
NGO・Ban Rom Sai
9月24日 JETROバ ン コ ク 事 務 所,
H.I.S. TOURS CO., LTD.
9月25日 JTB,ASIA Click,S.M.I Travel,BANGKOK Porta,
② 観光に関するアンケート調査 9月21日 チェンマイ大学
9月26日 シーナカリン・ウィロート大学
③ 現地旅行代理店でのパンフレット収集・調査 9月27日
④ 国内インタビュー調査
5月16日 福島県観光物産交流協会 7月27日 福島県観光交流局 観光交流課
8月20日 タイ王国大使館,多慶屋 8月24日 株式会社コリ企画(勉強会)
2.東日本大震災・原発事故後の福島県への 外国人観光客とタイ人観光客の動向
本節では,東日本大震災・原発事故後の福島県への 外国人観光客とタイ人観光客の動向を観光庁[2019]
「宿泊旅行統計調査」及び観光庁[2019]「訪日外国人 消費動向調査」により概観する。
2‑1 東日本大震災・原発事故後の福島県への外国 人観光客の動向
東日本大震災・原発事故の影響を受け,福島県へ の外国人延べ宿泊者数は,2010年の8.7万人から,
2011年には2.4万人に激減してしまった。長い低迷 が続いたが,官民一体となった誘客活動により,
2017年に初めて震災以前の水準を超え,9.6万人に 達した。さらに,2018年には前年比47%増の14.1万
人に増加し,2010年の1.6倍になっている。
しかし全国では2010年の860万人から2017年の 3,119万人へと3.6倍に激増しているのと比較すれ ば,極めて低調である。また内閣府[2018]『地域 の経済2018』によれば,東京都,大阪府,北海道,
京都府,沖縄県(成熟圏)に2017年では旅行者数の 51%,延べ宿泊者数の62%,旅行消費額の73%が集 中し,逆に東北,北関東,四国のシェアは低下傾向 にある。
次に,福島県における国別外国人延べ宿泊者数を 見ると,2011年には,台湾,韓国,米国,中国の順 でそれぞれ4,000人弱であったが,2017年では,1 位台湾28,350人,2位中国12,920人,タイ3位9,740 人となっている(図1参照)。韓国人観光客が原発 事故の風評もあり停滞しているのに対し,台湾やタ イは,福島県による観光戦略(SNSでの観光情報の 発信,ダイヤモンドルートの構築,福島空港のチャー ター便の運航など)が功を奏し,急増している。
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 100,000
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
(人)
(注)従業員10人以上の施設に対する調査から作成。値はすべて速報値である。
(出所)観光庁[2019]「宿泊旅行統計調査」。
台湾 中国
タイ 米国
韓国 ベトナム
オーストラリア ドイツ
香港 その他
図1 福島県における国別外国人延べ宿泊者数の推移
2‑2 タイ人観光客の動向
タイ人観光客は2011年には14.5万人だったが,
2013年7月からのビザ免除措置3を追い風として増
加し,2018年には7.8倍の113.2万人に達した(図2 参照)。
次に地域ブロック別に述べ宿泊者数(2017年)を 見ると,関東(118万人),近畿(52万人),北海道
(40万人)に対して,東北は伸び率こそ高いものの
4.4万人と桁違いの低水準である(図3参照)。続い
て,東北6県で比べてみると,宮城県(1万4,270 人)に次いで,福島県(9,740人)は2位であるが,
伸び率は,他の県のほうが高い(図4参照)。
続いて,タイ人旅行者の特徴を,観光庁[2019]「訪 日外国人消費動向調査」によって見てみると,訪日
回数は1回目が31%で,ビザ解禁以降,リピーター が多くなってきている。旅行形態は,団体ツアーで の参加が20%で,個人手配が大部分を占めている。
64%がウェブサイトで予約している。旅行期間は 52%が4〜6日の比較的短期間の旅行である。1人 当たりの旅行支出額は12.7万円である(表1参照)
3.タイから日本・福島へのインバウンド についてのインタビュー調査
本節では,タイから日本・福島へのインバウンドに 関する,①タイ,日本の政府機関,②タイの日系旅行 会社,③タイ系旅行会社,④タイの旅行コンサル企 業,⑤福島県観光交流局・観光交流課などへのインタ ビュー調査結果をまとめる。
3‑1 タイ,日本の政府機関へのインタビュー調査
⑴ 在東京タイ王国大使館
2018年8月20日にA書記官より,タイの社会経 済状況,タイの観光産業,タイから日本へのイン バウンド観光についてお話を伺った(写真1)。
タイから日本へのインバウンド観光について は,2013年7月からのビザ免除措置を追い風とし て増加している。タイ人は,タイの技術者が日本 出身であることが多かったり,タイでの洪水被害 の際に日本がいち早く援助してくれたりしたこと
0 20 40 60 80 100 120
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019.4
(万人)
(注)「訪日外客」とは、国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする 永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。2007年 から2017年までは確定値、2018年から 2019年 4月までは暫定値である。
(出所)日本政府観光局(JNTO)。
観光客数 商用客数 その他
図2 訪日目的別の訪日外客(タイ人)数の推移
0 20 40 60 80 100 120
北海道 東北 関東 北陸 近畿 中部 中国 四国 九州 沖縄
(万人)
(注)従業員10人以上の施設に対する調査から作成。値はすべて速報値である。
(出所)観光庁[2019]「宿泊旅行統計調査」。
2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
図3 タイ人観光客の地域ブロック別延べ宿泊者数
図4 東北地方における外国人延べ宿泊者数の推移 (全体,タイ人)
0 5 10 15 20 25
青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県
(万人)
(注)従業員10人以上の施設に対する調査から作成。値はすべて速報値である。
(出所)観光庁[2019]「宿泊旅行統計調査」。
2011 全体 2017 全体 2011 タイ 2017 タイ
表1 タイ人旅行者の訪日旅行の実態(2017年)
単位:%
全 体 観光・レジャー 業 務 訪日回数
1回目 30.9 32.9 20.9
2回目 20.4 21.2 15.8
3回目 12.2 12.0 10.1
4回目 9.0 9.1 8.8
5回目 7.5 7.6 7.8
6〜9回目 10.1 8.4 19.9
10〜19回目 5.8 4.6 12.7
20回以上 4.1 4.3 4.1
旅行形態
団体ツアーに参加 20.1 25.2 2.1
個別手配 74.5 69.3 94.6
個人向けパッケージ商品を利用 5.4 5.5 3.3
予約方法
ウェブサイトから申し込んだ 63.7 65.5 49.8
店頭で申し込んだ 29.5 29.0 36.1
電話その他の方法で申し込んだ 6.8 5.5 14.1
滞在期間
3日以内 3.1 2.4 5.1
4〜6日間 52.4 56.4 54.5
7〜13日間 34.5 37.9 21.8
14〜27日間 6.2 3.2 8.1
28日以上1年未満 3.9 0.2 10.5
1人当たりの旅行支出(円) 126,569 128,546 118,613
(注) 日本を出国する訪日外国人を対象に行った聞き取り調査。値はすべて確 報値。
(出所) 観光庁「訪日外国人消費動向調査」,JNTO ,日本の観光統計データ
(https://statistics.jnto.go.jp)。
などから,日本に対して好意を持っている。観光 面での日本の強みは,飛行機,新幹線,電車,バ スなど交通手段が多様で整っていることである。
これに対し,タイの観光における都市間の主な交 通手段は飛行機である。
地方へのタイ人観光客の誘客については,ゴー ルデンルートから岐阜や佐賀などといった地方へ の観光客の流れを作る必要がある。たとえば,佐 賀県では,タイの映画やドラマのロケ地になった こともあり,タイ人観光客が増加している。ス トーリー付けをし,感性価値を与え,タイでの認 識を高めていくことが重要だと考える。また,タ イの有名人の起用,SNSや街歩き動画(YouTube)
などでの情報発信が効果的である。福島とタイの 関係では,2020年東京オリンピックの際に,会津 若松市がタイのボクシングチームのホストタウン になっていること,タイの PTT石油会社が Cafe Amazonを川内村にオープンしたこと,6月の全 国植樹祭ふくしま2018に参加したことなどが紹介 された。
⑵ 在チェンマイ日本国総領事館
チェンマイは,タイ東北部に位置し,人口規模 は27万人のバンコクに次ぐタイ第2の都市であ る。地方都市から見た日本へのインバウンドの可 能性について,9月21日にC領事よりお話を伺っ た。
2018年1月にJNTOと協力してチェンマイワー ルドフェアを開催した。主に千葉市や神戸市が地 域振興を目的とした物産展を開催し,数万人が参 加した。タイ人はインターネットで日本について
ある程度知っている為,日本の細かい情報を伝え られるように対面型のブースにした。
タイでは,日本とは違って SNS が年代を問わ ず浸透している。ただし,情報をいくら得ても,
実体験が遅れている。タイ人に日本の伝統文化を 体験してもらうことで,日本の文化への理解を深 めてもらうことを目的に,毎年,JNTOと協同で チェンマイ大学において日本祭を開催している。
日本に行くきっかけは,SNSより口コミが大きく,
まだ日本を体験したことのないタイ人を対象に開 催した体験型のイベントは口コミに有効であると 考えられる。
日本の良さは,誠実さ,勤勉さ,創造性がある 文化分野(アニメ,ゲーム,漫画),伝統,歴史 と思われている。またチェンマイでは定年退職後 の日本人ロングステイヤーが多く,ボランティア 活動を行なっているので,日本に対していいイ メージを抱いている。日本に対して幅広い世代の 人が興味を持っており,日本が初めての海外旅行 先という人も多い。
タイ人は,最初は東京・大阪等の大都市を訪問 するが,2回目以降は,他の人が知らない場所に 行きたがる。リピーターとして新たに日本の観光 地を開拓したいという考えを持つ人(富裕層)が 地方に関心を持っている。
「地方に行きたい」よりも「兼六園に行きたい がその辺りに他に何がある?」のような具体的な 質問をタイ人はするときがある。より深く行きた い場所など,深掘りするのは富裕層が多い。しか し,チェンマイなどの地方では,最初は東京など に行きやすい。「バンコクのような大都市は,日 写真1 在東京タイ王国大使館にて
(出所)筆者撮影。 (出所)筆者撮影。
写真2 在チェンマイ日本国総領事館
本の田舎に興味を持ち,チェンマイのような地方 都市は,日本の大都市に興味があるのか」という 質問に対しては,「しっかりとした統計は取れて いないが,一理あるかもしれない。バンコクの人々 の一部にはチェンマイでグリーンツーリズムをし たいという需要もある」との回答であった。
最後に,福島の風評被害については,チェンマ イでは,風評よりも心配の方が大きかった。チェ ンマイで行われるコムローイ祭りで,震災復興を 祈願して,ランターンを空にあげた。また基本的 に日本のものには抵抗感よりも,安心できるとい うイメージの方が強い。
3‑2 タイの日系旅行会社へのインタビュー調査
⑴ JTBバンコク支店
9月25日にJTBバンコク支店のE氏より,タイ における JTB の活動,タイから日本・福島への インバウンドの可能性についてお話を伺った(写 真3)。
ターが増えている。最初はパッケージツアーを 利用するが,2〜3回目は LCC などを利用し た個人旅行が増えている。また JTB は,商品 を売り込む機動力において現地旅行会社には負 けてしまう。したがって,JTBは,マーケティ ング調査によるターゲットやニーズの特定を踏 まえて,ツアーの質にこだわり,富裕層,アッ パーミドル層向けの高付加価値商品を販売して いかなければならないと考えている。主なター ゲットは月収3万バーツ(10万円)以上,コア となる年齢は40代,50代である。女性の社会進 出により,女性の顧客が意外と多い。
他の旅行業者との差別化については,ブラン ディングを徹底し,信頼してもらえる企業にな るべく努力している。実際に,サービスの面で も評価が高い。また,法令順守も現地企業に比 べて徹底しており,バスのドライバーは2名体 制にして決められた時間で休憩を取るなど法律 を遵守する企業を手配している。しかし,大企 業であるがゆえにスピードが遅いという弱みも ある。そういった面においては現地の小さい企 業は強い。
パンフレットや宣伝などには写真を多めに使 うが,リスクマネジメントもしっかりとする必 要があるので,必要な情報は必ず掲載するよう にしている。タイ人はあまり英語を読まないの で,タイ語のパンフレットを作らないといけな い。
② タイから日本へのインバウンド
タイ人は,とにかく写真を撮ることを好み,
歴史やその説明にはあまり興味はない。ショッ ピングが大好きでアウトレットをツアーに組み 込むこともある。食べ放題,カニも人気であ る。温泉には,やはり恥ずかしいという気持ち があり,あまり入りたがらないが露天風呂は人 気である。部屋に露天風呂が付いている形など なら入りやすいので,そういった旅館は人気の スポットになるが,値段が高い。温泉の雰囲気 を楽しむ,そこで写真を撮る,などはタイ人に 受けがいい。
日本のライバルになる国は韓国,台湾である。
日本の強みは安心,安全で物価が安いというこ とである。また,商品はバラエティが豊富で値 段の割に質も良い(例えば,マツキヨ)。さら にタイと日本の友好関係や日本に対するイメー
(出所)筆者撮影。
写真3 JTBバンコク支店でのインタビュー光景
① JTBバンコク支店の企業概要
JTBは,バンコクにウォークインタイプの2 店舗があり,従業員は約180人である。タイか ら日本へのインバウンドは,法人営業が5割で あり,レジャーの割合が5割である。タイ人の 方が人数の割合が高いが,支出額の割合は在タ イの日本人の方が高い。主力マーケットは日本 だが,在タイ日本人が年末年始に近隣諸国に旅 行に行くケースも多い。
タイは経済成長していることもあり,リピー
ジが良いことも強みである。日本が安心である がゆえに,レンタカーの利用者数が増加してい る。つまり,外国人も安心して利用できる交通 インフラの整備は進んでいると言える。
一方,弱みは,まだまだ地方になると外国人 に対して身構えてしまうことや,東京は困って いる外国人に冷たいことなどが挙げられる。交 通インフラだけでなく,インバウンド政策に合 わせた観光インフラ(ガイドや添乗員の人材育 成等)の整備を官民連携で行っていく必要があ る。継続的な本当のおもてなしをするためには,
民間の商店などの観光関連産業が協力的でなく てはいけない。本当の官と民の連携が重要にな る。そういった意味で,大学は潤滑油のような 役割となり得る。
③ 福島へのインバウンドの可能性
タイ人は福島といってもどこかわからない。
各自治体の PRパンフレットを並べても各自治 体の見分けがつかない。タイの小さな旅行会社 と連携する場合には,日本の場所をやっと知っ てるくらいの人たちとビジネスをするという認 識が必要である。
企業側の目線からいくと,収益性が重要にな る。客側の目線からいくと,今までにない何か 新しいものを生み出すことが重要になる。自治 体は,PR する観光地において,持続性や収益 性を見るだけでなく,交通アクセス等の指標を みるべきである。
大切なことは相手を知ること,自分をよく知 ることである。今ある既存の観光地などをゼロ だと思って新しいものを生み出す必要がある。
タイと日本の人では考え方も違うので,求める ものや常識も違う。日本で人気のないスポット も人気観光地と成り得る。自分たちの常識を捨 て去ることが重要で,トレンドは来るものでは なく作るものである。自治体は腰が重いし,固 定概念に縛られやすい。大学生が自主的に動い てプランを考え,提案するくらいの方が良い。
最近では東北の知名度も上がってきている。東 北にある,「キツネ村」がタイの人にとって人 気であり,タイ人は興味のあるものに対しては,
なんとかして行こうとする。
福島県単体でのプロモーションは難しいの で,ゴールデンルートや仙台と連携したほうが いい。東北6県でオール東北となって取り組む
ことは,すでに行われてはいるが,民同士や官 同士だけでの取り組みでなく官民の連携が必要 である。しかし,実際はなかなか連携を取るの が難しい状況である。民は自分たちの利益優先 になってしまい,協力することが難しい。仙台 タイ間の直行便については,観光客よりビジネ ス客がいるかどうかに注目する。観光客は波が あるが,ビジネス客は波が少なく安定した採算 性が見込まれるからである。
復興ツーリズム,ダークツーリズムの可能性 については,タイ人はやはりショッピングなど 楽しいことが好きで,個人での旅行となるとあ まり期待はできない。教育旅行であれば可能性 はある。
⑵ H.I.S.TOURS CO.,LTD.
9月24日に,H.I.S.TOURSのF氏,G氏,H 氏から,企業概要,タイから日本・福島へのイン バウンドについてお話を伺った(写真4)。
写真4 H.I.S.TOURS でのインタビュー光景
(出所)筆者撮影。
① H.I.S.TOURSの企業概要
店舗数はタイに24店舗で,従業員400人弱で ある。タイ人が大部分で,日本からの出向者4 人,現地採用日本人約60人である。事業内容は,
インバウンド事業(日本→タイ)21年目,アウ トバウンド事業(タイ→日本)7年目であり,
日本人の受入れ事業が主である。売上は年間約 120億円である。
2013年のビザ解禁が後押しし,タイ人の日本 への観光客数は,2017年には97万人まで増加し
た。特に,インターネットやLCCの普及によっ て,FIT化(個人旅行化)しており,現在6割 を占めている。残りの4割が店舗で購入してお り,バンコク市内に住む,アッパーミドル層,
20代〜30代女性が中心である。タイは,家族の 結びつきが非常に強く,家族全員で旅行するこ とが多い。
H.I.Sの強みは,店舗ビジネスの展開であり,
店舗の専門店化,サービスクオリティの向上に より,他社との差別化を図っている。自社独自 のアクティビティ(例えば,K‑POPアイドル のコンサートなど)を自社で企画・運営し,そ れに合わせた航空券等を販売している。量より 質で勝負しており,Meeting(会議・研修・セ ミナー),Incentive tour(報奨・招待旅行),
Convention・Conference(国際会議,学会),
Exhibition(展示会)などの MICE事業に力を 入れている。
JNTO や JETRO との連携については,銀行 融資など情報交換はしているが,民間主導型で 観光発展を目指している。政府や各自治体はイ ンフラ整備を担うなど役割分担している。
② タイから福島へのインバウンドの可能性 2011年の東日本大震災時,日本行のツアーが ゼロになった。現在,風評はあまりないと思わ れるが,福島に対する認知度は高くない。地方 でも佐賀県のようにタイ人が行く可能性があ る。映画のロケ地になったこともあるが,タイ 語の表記が多く努力している。
福島県も他県と連携するとともに,確立した 観光資源を何か一つ見つけるべきである。例え ば冬であれば,蔵王の樹氷を見て,会津で日本 食を食べるような,特色のある観光資源が必要 だと思う。
3‑3 タイ系旅行会社へのインタビュー調査 ― S.M.I Travel Co.,Ltd.―
9月25日に,タイ系旅行会社の S.M.I Travel Co.,Ltd のI氏から,企業概要,タイから日本へ のインバウンドについてお話を伺った(写真5)。
① S.M.I Travel Co.,Ltd.の企業概要
設立は,1980年9月であり,親会社は,サイ アム・モータース株式会社である。従業員数は,
日本人17名,タイ人75名,専属ガイド112名で ある。事業内容は,インバウンド,修学旅行,
企業インセンティブ,MICEマーケットなどで あり,ツアーブランド名はWendy tourである。
手配旅行の取扱が一番多い。例えば,秋田で の農業体験は,地方自治体とのコネクションで 商品開発した。またビュートラベルの商品販売 の代理業務を行っている。小さい旅行会社に とって代理業務は重要である。次に,受注型企 画旅行では,私立校などで秋田での農家民宿を 取り入れた修学旅行教育旅行を実施している。
FIT化に対応して,スキー商品もやっている。
ただし,グリーンツーリズムは季節や天気に作 用されるリスクがある。
顧客からの照会・販売ツールは,LINE40%, Facebook25%,電話30%,来店5% とほとん ど SNS である。タイ人は年齢を問わず簡単な チャットツールでの連絡を好む。小さい旅行会 社だからこそ親密な関係でサポートできる。
今 後 の 展 開 と し て,LCC や OTA(Online Travel Agent)4の台頭が著しく,FIT の割合 が高い中で,旅行会社は顧客に何を提供できる かを考えている。まず,社員旅行や報酬旅行の 需要は無くならないので,企業顧客・教育旅行 の取り込みを進めていく。次に,小グループ(5
〜10名)の取り込みを進める。部屋や移動手段 などの手配の面倒さを請け負うことで,小さな 利益を獲得する。小さな積み重ねが大きな信頼 の獲得につながっており,これが現地旅行会社 の生き残り術である。続いて,顧客が自身で手 配できない商品の追求である。自治体と協力し てオリジナリティーのある商品を開発してい る。まだ流行っていない所に行きたいという需 要もある。
官民連携は重要であり,住民の理解と協力が
(出所)筆者撮影。
写真5 S.M.I Travel にて
あってこそ観光地になり得る。当社はルートや 日程の提案,相談,滞在中の顧客サポートを LINEや電話で行う。
② タイから日本・福島へのインバウンドの可能性 日本の強みは,四季や街の清潔感である。弱 みは,航空券代,宿泊費が高いので長期滞在が 難しいこと,地方は交通の便が悪く,外国人慣 れしていないことである。
観光地としての知名度を上げるためには,ド ラマ,映画。YouTuber,インフルエンサーな どを使う方法があるが,効果が一時的である。
そもそも,そこを訪問する日本人観光客が増加 すれば利便性が上がるとともに,知名度も上が る。
ダイヤモンドルートについては,地域に核と なる名所をつくる。そうすれば泊まってもらえ る。JR East pass の東北エリアを活用すれば,
北海道イン東京アウト,仙台イン東京アウト等 ダイヤモンドルート以外にも,面白いモデル ルートはいくらでも考えられる。
福島の桃は空港近くで買えてしまう。わざわ ざ遠くまでは行かないので観光資源としては弱 い。ただ桃パフェなどはインスタ映えすると思う。
東南アジアに向けた訪日プロモーションは,
ターゲット理解,タイ人の価値観に訴求するこ とが成功のポイントである。
3‑4 タイの旅行コンサル企業へのインタビュー調査
⑴ ASIA Click
9月25日に,訪日インバウンドPR事業や旅行 代理店へのセールス代行などを行う ASIA Click のJ氏から,東北・福島ヘのインバウンドの可能 性についてお話を伺った(写真6)。
インバウンドで最も重要なことは,イメージを 持たせることである。例えば,シンガポールは,
行ってみると同じような風景が並んでいて決して すべてが魅力的なものではない。しかし,マーラ イオンなどのイメージが世界中に定着しているた めそれを目当てに観光客が来る。シンガポールは イメージ戦略が上手い。
一方で東北のイメージは一つもない。一つだけ でもいいからみんなが思い浮かぶイメージを作る ことが大事である。
タイでは体験できないものを PR することが必 須である。四季だけではユニークではない。日本
中にあるし,台湾や韓国にもある。四季単体を推 してはだめである。秋田のきりたんぽはタイの東 北地方にあるためタイ人にとって物珍しい感じは ない。また宮城県の松島は泳げないので,タイ人 にとってあまり魅力的ではない。
現在の東北インバウンドは訪日4回目の外国人 観光客をターゲットにしている。またターゲット は上層,中間層でホワイトカラーの人である。地 域によって市長だけインバウンドに力を入れてい るところや観光客に来てほしくない地域もある。
その点,会津や秋田は本気度が高い。
PR ではビジュアルが大切で,文字よりも写真 でインパクトを出して,わかりやすさ重視にすべ きである。タイ人からみた日本の観光パンフレッ トは教科書のように読みづらい。ホームページも 文字は少なく写真から興味のあるものを検索でき るようにする方が良い。またツアーを組むときは 日帰りにならないように一泊必ず泊まらざる得な いようにする。
福島にも観光資源はたくさんあるが,なんでも 推すとその分魅力は薄まる。リピーターを増やす ためにはストーリー作りが大切である。例えば,
地味であまり外国人が手を出さないそばも,大内 宿にあるネギそばを好きになるタイ人もいる。
福島の原発を気にしている,心配しているタイ 人は全体の7%程度だと思うが,復興ツーリズム,
ダークツーリズムはここ数年では難しい。ダーク ツーリズムを進めると行政が過ちをしたことを肯 定することになるからである。ただし,CSR,環境,
教育などMICE旅行ならば可能性はある。
(出所)筆者撮影。
写真6 ASIA Click でのインタビュー光景
⑵ BANGKOK Porta Co., Ltd
9月25日に,トラベルビジネスサポート事 業,フードビジネスサポート事業などを行う BANGKOK Porta(2008年6月設立)のK氏から,
タイ人観光客の特徴,東北・福島ヘのインバウン ドの可能性についてお話を伺った(写真7)。
とかUSJのパスも売れている。だから,地方で は,パックを作って,タイ人に認知させるとチャ ンスがある。現在,地方では,自治体が直接売 り込みに来て,オンラインで直接販売できるよ う努力している。
② タイから福島へのインバウンドの可能性 福島は二次交通で行く目的地だから,福島の 良いところを,海外で PR しないといけない。
知ってもらってはじめて商談は成り立つ。福島 の強みは何か考えて,挑戦するしか方法はな い。そのアクションプランを地方自治体が作る ストーリーにのせるのが日本の鉄板の戦略であ る。
福島には,温泉,会津(鶴ヶ城),桜,ハワ イアンズ,果物狩りなどがある。今,果物狩り が人気で,タイ人はイチゴが好きだが,桃はま だタイ人にフィットしていない。りんごも△で ある。
認知度調査では,佐賀より福島の方が認知さ れている。佐賀県のフィルムコミッションがタ イに特化して営業している。40人分のすべて経 費の半額を自治体が補助している。地域の売り 上げは数百万円程度だった。
復興ツーリズム,ダークツーリズムの可能性 については,やってみないとわからない。タイ 人からすれば,過去のものという感覚だが,楽 しい気持ちになるものではないので,そのあと の観光プランが必要である。広島に原爆ドーム があるから行くのではなく,他に魅力があるか ら行く。
タイの人は日本人以上にセンシティブだから 受けるかわからない。そこの比重をあげるのは 旅行としてはちがうのではないかと思う。神戸 のパッケージ旅行で,自治体の要望で阪神震災 についての説明をタイの旅行会社にしたり,博 物館を視察させたりするが,我々とは心の温度 差がある。日本の傾向として,悲しみを共有す る力は強いが,幸せを共有するというところに は弱いのではないかと思う。
⑶ 株式会社コリ企画―観光プロモーションに関 する勉強会―
8月24日のタイ向け観光プロモーションに関す る勉強会に参加し,コリ企画のD氏より,タイ人 観光客の特徴,効果的な PR方法についてお話を 写真7 BANGKOK Porta にて
(出所)筆者撮影。
① タイ人観光客の特徴
タイからの訪日観光客は2013年のビザの免除 措置から,約6倍に増加している。2013年当時 は,募集型のパッケージツアーが主流だったが,
最近ではFITに形態が変わり,85%近くになっ てきている。最初は東京・大阪等ゴールデンルー ト,次に北海道になった。一番重要なのは飛行 機(直行便,LCC)が飛んでいるかどうかであ る。仙台・福島間は福岡・熊本間と同じくらい の距離なので,二次交通の方法を考える必要が ある。
タイ人は,SNS映えする見かけのいいもの,
有名なもの,楽しいことが好きであり,フィー リングで生きている。またライフスタイル経験
(非日常感)を好む。JRか私鉄等のローカル線 を使う人が多く,移動距離・時間は長くても辛 いと感じないようだ。FITで皆の知らないとこ ろに行きたがることから地方によってはチャン スがある。
エリアパスとか一日用の観光パックとか外国 人向けに分かりやすくしたFITパッケージが売 れている。1年間有効の JRパスやディズニー
伺った。
① タイ人観光客の特徴
タイ人観光客は,スマートフォンを使った SNS ,インターネット等での情報の入手・発 信がほとんどであり,特に,Instagramの利用 頻度は極めて高い。インスタ映えするもの(特 に食べ物),花(桜,向日葵,紅葉等)を好み,
旅行中のライフスタイルを SNS で自慢するこ とを好む。買い物も好きで自分用とお土産用を 必ず購入する。食事はビュッフェを好むが2日 連続は好まない。
FIT(Foreign Independent Tour)5に つ い ては,ビザ解禁や LCC(Low Cost Carrier)6 の拡大によって日本への旅行が身近になり拡大 している。大都市に連泊する傾向がある。コレ クティブについては,数年前までは,25万〜30 万円程度のツアーが人気だったが,現在は,超 高級ツアーか激安ツアーかの二極化が進んでい る。インセンティブについては,タイでは社員 旅行や公務員の視察旅行が行われており,視察 2〜3割で他は観光というタイプが多い。復興 ツーリズム+娯楽観光というパッケージは,福 島の強みになりうる。
② 福島県のインバウンド戦略
今後の福島県のインバウンド戦略について は,FITからインセンティブ・コレクティブへ のプロモーションを強化していく必要がある。
風評は未だに強く残っているのが現状なので打 開していく必要がある。そのためには,個人観 光客向け PR だけでなく,旅行会社への情報の 提供や旅行会社の実地調査の手助けやツアー ルートの提案が重要である。また,助成金及び 補助金の充実やインフラ整備など受け入れ態勢 を整える必要がある。さらに,自治体同士の連 携だけでなく,県・民間・市民が包括的に連携 をしていくことで,より良い情報の提供,PR の充実に繋がる。
3‑5 福島県観光交流局・観光交流課へのインタビュー 調査
7月27日に観光交流課のB氏より,福島県のイン バウンド戦略,タイから福島へのインバウンドの可 能性についてお話を伺った。
① 福島県のインバウンド戦略について
福島県庁の観光交流課の事業として,2020年
オリンピックに向けて,外国人宿泊客数20万人 の誘客を目標にしている。震災・原発事故前は,
韓国と中国が最大市場だったが,風評被害のた め韓国はあまり期待できない。そこで,2016年 以降は風評被害の少ないタイ,ベトナム,台湾 を中心に誘客を進めている。また,冬にはスキー 客狙いで,オーストラリアも重視している。
地域的には,会津メインのプロモーションを 進めている。特に,2018年は「戊辰150周年」
ということで,サムライ精神を福島県の魅力と して海外に広めたい。今後は,4泊6日くらい で東北〜東京のルートに福島を入れたFITモデ ルルートを作りたい。そもそも東北に観光客が 来ていないこともあるが,福島県は通り過ぎる だけになっている。長期滞在ツアーで泊まって もらうなど工夫をしなければならない。また,
民泊については宿泊の許可はしているが,旅館 の客を奪ってしまう可能性があるため,勧めて はいない。団体でないと旅館にお金が落ちない ので,旅行会社向けにもっと売り込みが必要で ある。
グリーンツーリズムについては,喜多方,南 会津は受け入れしているが,日本語のみの表示 で対策が不十分である。
今後,浜通りなどは観光客も少ないため,ホー プツーリズムとして原発を推すことを考えてい る。風評が広まることの懸念はあるが,丁寧に 伝えれば伝わるのではと考えている。嫌なイ メージでも,本当のことを出していく時期だと も考えている。
② タイから福島へのインバウンドについて 福島県を訪れるタイ人観光客は年々増加し て い る。 そ の 理 由 と し て, 第 一 に,SNS の 更新があげられる。2016年度から,タイ語の Facebookページを開設し,毎日,タイ人目線 を重視した福島の情報発信を行っている。第二 に,タイ人のインフルエンサーを誘致している。
2017年から,台湾人を含めて100人のインフル エンサーを福島に招聘し,その人が書いた記事
(写真,コメント)をいつでも見られるように 公開している。タイ人は口コミで旅行先を決め る為,効果は大きい。第三に,タイに現地窓口 を設置し,日系のトップ企業など90社ほどと連 携している7。
タイ人の旅行の傾向については,年齢層は40
歳代で,旅行は2か月前に口コミで決めてしま う。ツアー旅行に飽き始めている印象で,FIT が主流である。タイでは見られない桜,花,紅葉,
雪などを目的に来日している。ソンクラン(タ イの旧正月,4月13日から15日)の時期は桜の 満開時期と重なるため春の時期が多い。福島は 4月の桜の時期が売りだが,桜を見てもらうだ けで周りにはそれほどお金を落としてもらえる ようなものがないことが課題である。
タイ人は旅館好きが多いが,裸を見せ合う習 慣がないため,温泉に入らない人が多い。その ため,裸を見せなくても入れるような温泉も検 討しなければならない。またタトゥー対策も必 要である。
表2 観光に関するアンケートの実施概要
シーナカリン・ウィロート大学 チェンマイ大学
所在地 バンコク チェンマイ
アンケートの実施時期 2018年9月26日 2018年9月21日
アンケートの実施方法 授業中にアンケート用紙を配付,もしくは,
大学構内でアンケート用紙を配付 授業中にアンケート用紙を配付,もしくは,
大学構内でアンケート用紙を配付
サンプル数 386名 71名
男性の割合(%) 33 30
24歳までの割合(%) 99 70
訪日経験あり(%) 18 8
(出所)筆者作成。
写真8 シーナカリン・ウィロート大学 でのアンケート調査光景
(出所)筆者撮影。
(出所)筆者撮影。
写真9 チェンマイ大学でのアンケート調査光景
4.タイの大学生の観光に関するアンケート 調査
本節では,チェンマイ大学とシーナカリン・ウィロー ト大学での観光に関するアンケート調査をもとに,タ イの大学生の観光についての意識を明らかにする。わ れわれは,バンコクにあるシーナカリン・ウィロート 大学の386名,タイ北部の山岳地帯にあるチェンマイ 大学の71名の,計457名の大学生に対して観光につい てのアンケート調査を実施した(表2参照)(写真8, 9)。以下,アンケート結果を述べていく。
4‑1 「旅行に求めるもの」
まず「旅行に求めるもの」については,第1位「観 光・ショッピング」,第2位「他ではできない体験
や学び」,第3位「周りの友人や知人が行ったこと のない場所・経験」の順であった(表3参照)。6 カ国比較では,「観光・ショッピング」を選択した タイ人大学生は60%であり,他国より20ポイントも 高い水準である。第3位の「周りの友人や知人が行っ たことのない場所・経験」も38%とアメリカに次い で高水準である。これは,タイの訪日観光客は団体 旅行から個人旅行にシフトしていることに加え,「モ ノ消費」から「コト消費」へのシフトが進んでいる ことの影響があると考えられる。
4‑2 「日本と福島に旅行に来たら経験をしてみた いこと」
「日本に旅行に来たら経験をしてみたいこと」で は,第1位は,「グルメ」(78%),第2位は,「温泉 に入る」(60%),第3位は,「自然景勝地を観光する」
(56%)である。(図5参照)。他の5カ国と比較す ると,温泉については,韓国51%,中国48%,ロシ ア48%,米国33%,ドイツ32%に対して,タイ人大 学生の60%が希望しており,高い水準にある8。現 地旅行会社でのインタビュー調査では,「タイ人は,
他人とお風呂に入るのを恥ずかしがる」と聞いてい
たが,大学生は温泉を好むという知見が得られた。
他方,「福島に旅行に来たら経験をしてみたいこ と」では,第1位は,「グルメ」(70%),第2位は,
「自然景勝地を観光する」(59%),第3位は,「温泉 に入る」(55%)であり,2位と3位は入れ替わっ ているが,それほど大きな差はない。いくつかの違 いとして,日本では「ショッピング」が50%で4 位なのに対し,福島では37%と6位である。また,
「震災や原子力事故について学ぶ」は,韓国46%,
米国26%,中国17%,ロシア17%と比べれば低い が,12%のタイ人大学生は希望している9。インタ ビュー調査では,タイ人は楽しいことが好きなので,
復興ツーリズム,ダークツーリズムを好まないとい う意見が多かったが,可能性が全くないわけではな いことがわかる。
また,訪日経験の有無で比較すると,両グループ とも,「グルメ」が68%と第1位を占めているが,
訪日経験なしのグループが第2位,「自然景勝地を 観光する」,第3位,「温泉に入る」であるのに対し,
訪日経験ありのグループは,第2位,「温泉に入る」,
第3位,「旅館に泊まる」となっている(図6参照)。
インタビュー調査によればタイ人にとって,東北お
表3 あなたが旅行に求めるものは何ですか?(3つまで選択)
順位 選 択 肢 男 性 女 性 その他 総 計
1 観光・ショッピング 72 186 6 264
2 他ではできない体験や学び 70 121 5 196
3 周りの友人や知人が行ったことのない場所・経験 50 92 0 142
4 どれでもない 39 100 2 141
5 美味しい食べ物を堪能する 33 103 4 140
6 リラクゼーション 19 46 0 65
7 アウトドアスポーツ 22 18 0 40
8 他人に見せる・SNSに投稿する写真を撮る 8 24 1 33
9 現地の人たちとの交流 11 14 0 25
10 自己成長 10 14 0 24
(出所)筆者作成。
図5 日本と福島に旅行で来た場合,経験して みたいこと(5つまで選択)
図6 福島に旅行に来たら経験をしてみたいもの (5つまで選択)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
(出所)筆者作成。
日本での旅行 福島での旅行
震災や原子力事故について学 ぶ
アニメグッズや漫画を買う どれでもない 地元の人達と交流をする ウィンタースポーツをする 日本のお酒を飲む テーマパークに行く 旅館に泊まる
伝統的な歴史と文化に触れる 街歩きをする ショッピングをする 自然景勝地を観光する 温泉に入る グルメ
(出所)筆者作成。
どれでもない
アニメグッズや漫画を買う 震災や原子力事故について学ぶ 地元の人達と交流をする ウィンタースポーツをする 日本のお酒を飲む 歴史・文化に触れる ショッピングをする 旅館に泊まる 街歩きをする 温泉に入る 自然景勝地を観光する
グルメ 0 50 100 150 200 250
(人)
訪日経験あり 訪日経験なし
よび福島は最初に観光したい場所ではなく,東京,
京都,大阪,名古屋といったゴールデンルート,そ して札幌などの次に行きたい場所となっている。今 後,福島県は,比較的所得の高いリピーター層をター ゲットに,福島の温泉地での宿泊をアピールするこ とが重要である。
4‑3 インターネットを使って海外への旅行に関す る情報を得る場合の入手先
後述するように,タイではSNSの利用率が高く,
特にFacebook,YouTube,LINEが使われている。
今回のアンケートでは海外旅行をする場合の情報源 として,YouTube が最も利用されており,チェン マイ大学では73%,シーナカリン・ウィロート大学 では64%に上っている。第2位は両大学で差があり,
チェンマイ大学は,友達・個人のSNSページやブロ グ,シーナカリン・ウィロート大学ではインターネッ ト以外から情報を得ている。Booking.com につい ては30%程度利用されている(図7参照)。
4‑4 快適な海外旅行のためには,何があればよ いか
タイ人大学生が快適な海外旅行のために最も必要 とするものは「安全性・安心感」(56%)である。シー ナカリン・ウィロート大学では55%,チェンマイ大 学では63%に上っている(図8参照)。
続いて,「キャッシュレス環境の普及」42%,外 国語(英語・母国語)による案内が普及していること」
38%,「安くて便利な交通システム」34%の順であ る。両大学の比較では,シーナカリン・ウィロート 大学では「キャッシュレス環境の普及」が45%と高
いのに対し,チェンマイ大学では25%程度である点 や,「インターネット・Wi‑Fi環境」について,チェ ンマイ大学では59%と高いのに対し,シーナカリ ン・ウィロート大学では8%と低い水準である点が 異なっている。大都市と地方都市での情報インフラ の格差が背景にあると推測される。
JTB のインタビューからも,「安全・安心」が日 本の強みの一つであるが,キャッシュレス環境,外 国語(英語/母国語)による案内,安くて便利な交 通システムなどは日本,特に地方都市においては整 備されているとはいいがたく,インバウンドの課題 である。
4‑5 日本に旅行に来た場合,何を買って帰りた いか
日本に旅行に来た場合に買って帰りたい物は,「食 品・菓子類」(84%)が1位である(図9参照)。イ ンタビューによれば,タイ人は甘いものを好むため,
キットカットやPokeyなどのタイでは買えない味の 菓子,北海道の白い恋人,抹茶味のお菓子が人気だ という。2位は化粧品・香水(49%)で,マツキヨ などのハンドクリームやリップクリームなどの日用 品も人気があるという。続いて,衣類(46%),ブ ランド品(42%)の順である。
観光庁[2019]によれば,2019年4‑6月期の訪 日タイ人1人当たりの買物代は43,227円であり,
訪日外国人平均の57,857円よりは低いが,韓国人 18,764円の2倍以上である。訪日タイ人の73%が,
菓子類に11,168円,43%が化粧品・香水に19,640円,
40%が17,658円使っている10。
0 50 100 150 200 250
(人)
(出所)筆者作成。
シーナカリン・ウィロート大学 チェンマイ大学
インターネット以外 どれでもない Naver Rakuten Travel Japanican Weibo
(微博) Expedia.com TripAdvisor.com
友達・個人の SNSページやブログ 旅行アプリ Booking.com YouTube
図7 インターネットを使って海外への旅行に関する 情報を得る場合の入手先(複数回答)
0 50 100 150 200 250
(人)
(出所)筆者作成。
シーナカリン・ウィロート大学 チェンマイ大学
割引、免税制度 両替及び
支払いシステム わかりやすい観光案内 インターネット・Wi-Fi環境 どれでもない 言葉が通じること 安くて便利な交通システム
外国語(英語/母国語)による案内が普及して…
キャッシュレス環境の 普及 安全性・安心感
図8 快適な海外旅行のためには,何があればよいか (3つまで選択)
4‑6 福島について知っていること
福島について知っていることは,美しい自然風景
(39%),ゆったりできる温泉(35%),原子力発電 所事故・東日本大震災(29%)が多く,シーナカリ ン・ウィロート大学とチェンマイ大学で大きな差は ない(図10参照)。「どれでもない」も26%おり,手 渡しでアンケートを記入してもらったので,一定の 配慮があったのではないかと推察する。両大学にお ける学生間の国際交流では,福島のことを原発事故 以外にあまり知らないという印象を受けた。
訪日経験の有無別にみてみると,訪日経験ありの 大学生では,経験なしの大学生に比べて,美しい自 然風景,有名な日本酒,伝統ある歴史文化,どれで もないが少なく,代わって原子力発電所事故・東日 本大震災,おいしい果物,スキーリゾートが多くなっ ている(図11参照)。
5.訪日パックツアーのパンフレットに 見る福島
本節では,タイに代理店を置く旅行会社がどのよう な訪日旅行を企画し,タイ人向けに販売を行っている のかを調査するため,パンフレットを収集し,分析し た。
JNTO が 実 施 し た「Japan Tourism Award in Thailand 2017」でトップエージェント賞を受賞した 企業37社のうち9社の代理店を訪問し,パンフレット を収集した(写真10)(表4参照)。
さらに取得したパンフレットと各社webページにお けるパッケージツアー紹介欄に掲載のあるツアーを行 先,価格等から比較した。
タイ市場において訪日促進に貢献したとされる企 業37社のうち,東北地方へのツアーがあるのは15社
(40.5%)に過ぎないことから,東北地方は団体ツアー に組み込まれにくいことがわかる。パンフレットに掲 載されている観光地数は宮城20件,福島11件,青森11 件,秋田10件,山形9件,岩手8件である(図12参照)。
その中でも福島県は12社のツアーに採用されてお り,他の東北地方に比べて立地的な優位があると言え る。主なパターンは2つで,東京→日光→福島,ある いは東京→日光→福島→宮城である。ほとんどが,東 京発着で福島・栃木・茨城県の3県を巡る「ダイヤモ ンドルート」に沿ったバスツアーである(写真11)(図 13参照)。
パッケージツアー価格は2万バーツ(7万円)〜7.7 万バーツ(28万円)とツアーによって様々である。ち なみに,観光庁[2019]によれば,2019年4‑6月期 の訪日タイ人1人当たりの団体パッケージツアー価格 の平均は12万7,440円,個人向けパッケージツアー価
0 50 100 150 200 250 300 350
(人)
(出所)筆者作成。
シーナカリン・ウィロート大学 チェンマイ大学
どれでもない 食品・菓子類
化粧品・香水 衣類 ブランド品
日本のお酒 アニメ・漫画類
民芸品 電子ゲーム類
本類・書籍類 医薬品・健康食品
家電・電気製品 タバコ
図9 日本に旅行に来た場合,何を買って帰りたいか (5つまで選択)
0 20 40 60 80 100 120 140 160
(人)
(出所)筆者作成。
シーナカリン・ウィロート大学 チェンマイ大学
有名な日本酒 美しい自然風景
ゆったりできる温泉
原子力発電所事 故、東日本大震災
どれでもない
おいしい果物(桃、リンゴなど) 伝統ある歴史・文化
スキーリゾート
図10 福島について知っていること(大学別,
3つまで選択)
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
訪日あり 訪日なし
(出所)筆者作成。
美しい自然風景 ゆったりできる温泉
どれでもない 原子力発電所事故、東日本大震災
おいしい果物(桃、リンゴなど) 伝統ある歴史・文化
有名な日本酒 スキーリゾート
図11 福島について知っていること(訪日経験の 有無別)