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NATO 北大西洋条約機構の研究―米欧安全保障関係の軌跡

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Academic year: 2023

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国際問題 No. 573(2008年7・8月)40

B O O K R E V I E W

2009年で創設60周年を迎える北大西洋条約機構(NATO)は、現在も大きく変容を遂げつつ ある。NATOは、冷戦のなかで東側からの脅威に対抗するための集団防衛機構として創設され、

冷戦時代を通じてその役割を果たしてきた。冷戦終結直後にNATOは一時その存在意義を問わ れることもあったが、1990年代のバルカン半島を中心とした地域紛争の頻発に伴い、NATOは 欧州地域の安全保障機構として変容を遂げ、新たな存在意義を得た。さらに現在では、アフガ ニスタンでの活動に端的にみられるように、NATOは欧州地域を大きく超えて世界の安全保障 問題に大きな役割を果たしている。近年では日本とNATOの関係も密接になっており、日本も NATOの「コンタクト諸国」の一つとしてNATOの重要なパートナーと目されている。現在 NATOが世界で行なっている活動は、日本にとっても決して無関係の話ではない。

NATOは「最も成功した同盟」とも言われるが、NATOの歴史とは安全保障の要請に応じて 常に自己変革を繰り返してきた同盟である。そのようなNATOの軌跡を追う際に、本書は重要 な本となる。NATOに関する本は日本語文献でもこれまでに多数あるが、NATOの創設からの 歩みを書いたいわばNATOの通史とも言える本は、佐瀬昌盛著『NATO―21世紀からの世界 戦略』(文春新書、1999年)や谷口長世著『NATO― 変貌する地域安全保障』(岩波新書、

2000年)など、決して多くはない。上記の2冊はいずれも新書であり、紙幅の制約もあったで あろう。本書は、NATOの創設から現在に至る軌跡を、時代を追って広範な資料から詳細にま とめるとともに、単に年代順に事柄を追うだけでなく、創設の経緯や核の問題、デタントや冷 戦終結など、NATOが節目ごとに抱えた大きな課題に焦点を当てて、NATOの歩みを詳述して いる。言うまでもなくNATOとは加盟国の集合体であり、NATOの歩みとは、NATOが外部の 脅威にどのように対処したかについての歴史であるとともに、同盟をめぐる加盟国同士の交渉 の歴史でもある。本書の副題は「米欧安全保障関係の軌跡」であり、異なる安全保障上の関心 や異なる戦略文化を有する米国と欧州諸国との同盟をめぐる関係が、全編を通じて描かれてい る。

本書の構成は、第1章「北大西洋条約機構の誕生」、第2章「核時代のNATO戦略」、第3章

「緊張緩和(デタント)とNATO」、第4章「冷戦の終焉とNATO」、終章「岐路に立つNATO」

という各章から成る。

第1章の「北大西洋条約機構の誕生」では、NATOの創設に際して、第2次世界大戦後に冷 金子 譲 著

『NATO 北大西洋条約機構の研究

―米欧安全保障関係の軌跡

評者 

小窪 千早

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戦という構造が明確になるにつれて、米国と西欧諸国が ソ連の脅威に対応するために同盟を形成していく過程 と、ドイツの脅威の再発を防ぎつつドイツ(西ドイツ)

を米欧同盟にどのように関与させるかについて、西ドイ ツのNATO加盟に至るまでの経緯が描かれている。

第2章の「核時代のNATO戦略」では、東西両陣営の 対峙の構図が明確になってからのNATOの戦略が、

NATOの内部でどのように議論され、どのような変遷を 経たか、またどのような影響を受けたかについて書かれ ている。米国の核戦略が大量報復作戦から柔軟反応戦略 へと推移したことによる西欧諸国の通常戦力の防衛体制 の変化や、米国のほかに英仏両国が核を所有したことに よりNATO内部における核の共有の議論がどのように なされたかが描かれている。

第3章「緊張緩和(デタント)とNATO」では、1967

年の「アルメル報告」以降のNATOについて、デタントから冷戦終結に至るまでの期間に焦点 を当てて、その時代の東西関係や東西両陣営間の軍縮交渉の様子が詳細に書かれている。NATO 諸国がデタントを必要とした事情や、新冷戦の一つの大きな焦点であったソ連のSS-20配備と NATOの「二重決定」の経緯が描かれるとともに、中部欧州相互均衡兵力削減(MBFR)交渉 や、中距離核戦力(INF)条約の交渉や欧州通常兵力(CFE)交渉など、冷戦終結に至るまで の東西間の交渉の様子が詳細に描かれている。

第4章「冷戦の終焉とNATO」では冷戦終結後のNATOに焦点を当て、冷戦後のNATOの変 質や、旧ユーゴ紛争でのNATOの活動、NATOの東方拡大など、冷戦後のNATOの新たな試み について書かれている。欧州連合(EU)の緊急対応部隊(緊急展開軍)の創設構想に伴う安全 保障分野におけるNATOとEUの微妙な関係や、9・11米同時多発テロ以降に特に顕著に現わ れた米欧間の戦略文化の相違など、今日のNATOに密接にかかわる議論の萌芽にも言及がなさ れている。

そして終章の「岐路に立つNATO」では、これからのNATOの展望として、NATOが現在ア フガニスタンなどで行なっている危機管理活動や、ミサイル防衛(MD)問題などで再び緊張 の度合いを増しているロシアとの関係について言及されている。

本書の内容は、NATOの創設から現代までの軌跡について、NATOの資料や数多くの文献か ら丹念に事実を追ったインフォーマティブな研究である。同盟の理論のようなものを導き出す ことを企図した理論研究ではない。本書の最大の貢献は、NATOの軌跡をその創設から現在ま で丹念に描き出し、NATOという同盟の軌跡をある種の動態的な営みとして描き出すことに成 功しているという点であろう。われわれはNATOという同盟について考えるとき、軍事的な一 定の指揮系統を備えた強固でスタティックな同盟を思い描きがちである。しかしながら、NATO のこれまでの軌跡をみていくと必ずしもそうではない。NATOとは政治環境や安全保障環境の

書  評

国際問題 No. 573(2008年7・8月)41 書  評

彩流社、2008年4月 A5判・405ページ 定価3800円(本体)

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変化に何度も直面しながら、その都度危機を克服し、適応のための変化を繰り返してきた同盟 である。NATOが冷戦時代と冷戦後で大きく違うということは周知のところであるが、冷戦時 代においても、NATOという同盟は最初から精緻な軍事機構を整えていたわけでもないし、加 盟国が常に結束していたわけでもない。NATOの歴史は加盟国の思惑の相違を常に抱えながら 模索を続けてきた歴史でもある。その意味で60年になろうとするNATOの軌跡は模索の軌跡で あったと言ってよい。本書は広範な資料からその模索の歴史を詳細に活写した良書である。

本書のもう一つの貢献は、NATOにかかわる軍事戦略や軍備の内容についても詳細に書かれ ている点である。著者の金子譲氏は防衛研究所図書館長・主任研究官であり、安全保障問題や 軍備管理・軍縮の専門家である。東西間の交渉やNATO内の加盟国間の交渉についてその政治 的なやり取りを描くだけでなく、それぞれの主張が軍事戦略上どのような意味をもつのかにつ いて、本書ではわかりやすく書かれている。

NATOは今も模索の最中にあり、もちろんNATOの「軌跡」は完結したものではない。本書 はNATOのこれまでの軌跡を詳細に描き出した本であって、NATOの今後についての記述は多 くはないが、本書の終章「岐路に立つNATO」で、NATOが行なっている危機管理活動の例と、

ロシアとの緊張の増大による同盟への回帰の可能性という、二つのことが書かれている点は非 常に示唆に富む。まさにこの二つがNATOの将来の方向性を端的に語っているからである。現 在NATOは欧州地域を超えて世界的に展開しており、活動の内容もまた非軍事的な活動も含ん だ包括的アプローチの方向に比重を移しつつある。それは非伝統的脅威が主たる脅威となって いる今日の国際安全保障を考えると、NATOの採りうる妥当な方向性と言うことができるが、

その一方でNATOは現在も一義的には加盟国の集団防衛機構であり、欧州地域の安全保障のた めの同盟機構である。欧州諸国のなかには、NATOが欧州地域の安全保障機構であることを閑 却して際限なくグローバルに展開することには消極的な国も多く、もしこの地域で緊張が高ま れば、NATOは旧来の同盟に回帰する可能性も当然ながら残っている。

今後のNATOが、グローバルな国際安全保障の担い手としての同盟と、欧州の安全保障のた めの同盟という二つの将来像の間でどのようなあり方を見出すかは、米欧関係の展開に大きく かかっている。米国と欧州諸国が、異なる安全保障上の関心や戦略文化をもちながらNATOと いう同盟の運営のために模索を続ける構図は、NATOの創設時も今も変わらないのかもしれな い。その意味でもNATOの軌跡を創設から現在まで丹念に描き出した本書は、新たなNATOの 通史として日本のNATO研究史における必読の一冊となるであろうし、今後のNATOや米欧関 係についても示唆に富む良書と言えよう。

書  評

国際問題 No. 573(2008年7・8月)42

こくぼ・ちはや 日本国際問題研究所研究員 [email protected],jp

参照

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