1.はじめに
本研究の目的は,東北6県と新潟県の公立高校教員 を対象とした質問紙調査の分析を通じて,教師が求め る研修のあり方について,専門職論の立場から考察を 行うことである。
近年,教師を取り巻く環境は,教職大学院の発足に 代表される「専門職化」の傾向とともに,外部評価の 厳格化など,教師集団の自律性を損ねるような,「脱 専門職化」が同時進行している。1980年代以降の教員 政策を概観すると,教員養成における修士段階への学 歴の向上という点では,この「専門職化」の契機と なる施策を一貫して模索する傾向がある。一方,教 員免許を問わない民間人の学校経営への参画は,「開 かれた学校」を実現する上では前進であるものの,教 職を誰にでもできる・評価できる「容易い仕事(easy work)」へと引き下げるような,「脱専門職化」の側 面を含んでいる(丸山 2006)。
専門職化(professionalization)が職業集団の高学 歴化や自律性の向上を示す概念であるのに対し,脱専 門職化(de-professionalization, ploretarianization)は,
職業集団の相対的な学歴水準の低下と自律性の低下を 示す。脱専門職化は,元来,雇用者・患者・顧客の発 言力の高まりに反比例した,米国の専門職従事者(医 師や法曹)の自律性の弱体化に由来する概念である。
専門職の自律性は,専門職の用いる専門知識・技術が 素人には容易に判断できないほどに高度であることに 由来する。しかし,社会全体の高学歴化がいち早く進 展した米国では,専門職と一般市民の知識の格差が縮
小されるとともに,専門職が享受している自律性に対 する意義申し立てが巻き起こった。
同様の現象は,日本の教師にも当てはまる。第二次 世界大戦後,大学レベルに底上げされた学歴要件を背 景に,日本の教師の専門職化は著しく進展した。しか し,高等教育がユニバーサル段階を迎えた現代の日本 社会において,教職に就くために必要な学歴要件は決 して高いものではない。
教職が容易い仕事ではなく,高度な知識・技術を要 する専門職であると再び主張するためには,次の三つ の戦略が考えられる。一つは,教員免許の取得者数を 制限し,現行の教職課程の希少価値を高めることであ る。二つ目の戦略は,教師の高学歴化である。三つ目 は現職者の知識レベルの向上である。しかし,教員免 許取得者数の制限や養成課程の延長は,教職課程を抱 える多くの大学に負担を強いるため,実現は困難であ る。現状において採りうる現実的な戦略は,三つ目の 現職者のレベル向上に限られる。
実際,教職大学院や教員免許の更新制など,教師の 専門性向上を目的として実施された近年の教員政策 は,教職経験者のレベルアップ(リニューアル)を主 眼に置いてきた。専門職能の維持に不断の研修・学習 を不可欠とするならば,その知識・技能は素人が容易 に評価することができない性質をもつ。現職者を対象 とした再教育制度や研修制度の拡充は,教師の専門職 性を再構築する上で,現実的かつ重要な方策である。
しかし,教職大学院における定員割れや,教員免許 更新制に対する教員集団からの批判を鑑みるに,これ
*:総合教育研究センター
本研究では,東北6県と新潟県の公立高校教員を対象とした質問紙調査の分析を通じて,教師が 求める研修のあり方について,専門職論の立場から考察を行った。現職者を対象とした再教育制度 や研修制度の拡充は,教師の専門職性を再構築する上で,現実的かつ重要な方策である。しかし,
教職大学院における定員割れや,教員免許更新制に対する教員集団からの批判を鑑みるに,これら の政策と教師のニーズの間には溝がある。これに対し本研究では,東北大学大学院教育学研究科が 実施した質問紙調査の分析を通じて,「各研修項目の必要性」,「各種研修と望ましい研修形態の対 応関係」,「研修の促進・阻害要因」の三点から,教師が求める研修のあり方を明らかにした。分析 の結果,キャリア教育や発達障害への対応など,新たな知識・技術に対する高校教員の研修意欲は 高い一方で,自由回答の分析から,研修負担が本来の職務の質を下げかねない,などの矛盾点が明 らかにされた。
〔キーワード〕高校教員 研修意識 質問紙調査 専門職の社会学 再専門職化
高校教員の専門職性と研修意識
―東北地域における質問紙調査の分析から―
丸 山 和 昭*
らの政策と教師のニーズの間には溝がある。さらに は研修の強制そのものが教師の自律性を侵害するよう な,「脱専門職化」施策であるともいえる。研修体制 の強化によって,教師の専門職性を保証するためには,
教師の期待にかなうものであることが不可欠である。
以上の問題意識を背景に,本研究では東北6県と新 潟県の公立高校教員を対象とした質問紙調査の分析を 通じて,教師が求める研修のあり方を明らかにしてい く。現代の教師は,どのような研修項目を求め,どの ような場所で研修を受けたいと考えているのだろうか。
2.調査の概要
本研究が分析に用いるのは,東北大学大学院教育学 研究科が実施した,高校教員の研修意識に関する質問 紙調査の結果である。同調査は,組織的な大学院教育 改革推進プログラム「実践指向型教育専門職の養成プ ログラム」の一環として行われた。調査対象は,『全 国高等学校一覧』を台帳として,東北6県と新潟県の 公立高等学校から系統抽出された77校の本務教員で あった。2008年12月に調査用紙を送付し,2009年1月 に36校からの回答を得た(学校別回収率46.8%)。有 効回答数は,この36校から返送された832部である(36 校の教員総数に対する有効回収率64.2%)。
調査項目は,回答者の属性,研修についての項目,
自由記述欄から構成されている。このうち研修につい ての項目は,教科指導・指導方法(9項目),生徒指導・
進路指導(3項目),生徒への支援(4項目),学校経 営(5項目),教師自身(3項目),計24項目の専門性(教 員生活において必要と考えられる知識・技能)に関す る質問を含む。具体的には,それぞれの項目について,
現状への満足度,研修機会の有無,研修への期待度を,
5件法で質問した。また,24項目それぞれについて,
希望する研修形態を,「大学・大学院」,「個人研修」,「校 内研修」,「研究サークル」,「民間企業」,「教育職能団 体」,「教職員組合」,「教育委員会」のうちから,複数 回答を求めた。
次に回答者の属性を以下に述べる。性別では,男性 が73%,女性が27%である。年齢は,20代5%,30代 30%,40代37%,50代以上28%である。教職としての 勤務年数では,10年以下が20%,11年~20年が35%,
21年~30年が29%,31年以上が16%である。校内にお ける職名では,一般教員が69%,部長・主任が25%,
副校長・校長が4%,校長が2%である。
同調査を用いた先行研究としては,調査を企画した 東北大学教育学研究科の研究グループによる成果報告 書(清水他 2009)がある。同研究グループでは,高 校教員の大学における研修体制構築の可能性を探るこ とを主目的として,質問紙調査を設計した。そのため 成果報告書では,質問内容のうち研修ニーズと直接に 関わる項目として,研修への期待度と希望する研修形
態について分析を行っている。分析の結果としては,
高校教員の意識において,軽度発達障害の知識に対す る期待度が高いこと,教科指導・学習指導に関しては 授業方法の改善・教科の学問的内容理解への期待度が 高いこと,希望研修形態については校内研修や教育委 員会が選択される項目が多いこと等が明らかにされて いる。
以上の先行研究の成果に対し,本研究では,「各研 修項目の必要性」,「各種研修と望ましい研修形態の対 応関係」,「研修の促進・阻害要因」の三点から,より 詳細な分析を行う。まず各研修項目の必要性について は,期待度の高い回答者の割合のみを扱っている先行 研究に対し,本研究では満足度・研修機会に関する調 査結果を対象に含め,それぞれ低満足層・低期待層・
低機会層にも注目した分析を行う。次に各種研修と望 ましい研修形態の対応関係については,各研修項目に おいて選択数が最多の希望研修形態のみを扱う先行研 究に対し,本研究では選択数が中位・下位の希望研修 形態も含めた対応分析を行い,研修項目と研修形態の 関係性を図式化する。最後に研修の促進・阻害要因に ついては,先行研究の行っていない属性と各種質問項 目とのクロス集計,および自由回答の分析を行い,研 修を求める教員タイプの解明と,研修参加を阻む要因 を明らかにする。
3.分析の結果
3.1 各種研修の必要性
図表1は,24の研修項目における,現状の満足度,
研修への期待度の高さ,研修機会の有無を示している。
まず現状の満足度についての設問は,5(満足してい る),4(やや満足している),3(どちらともいえな い),2(あまり満足していない),1(満足していな い)から構成されている。図表の「満足度高低差」は 高満足度群(5および4を選択)から低満足度群(2 および1を選択)を差し引いた数である。ここから高 校教員が,教科内容の学問内容や年間指導計画にはあ る程度満足している反面,生徒指導やキャリア教育と いった生徒支援に関わる項目に関しては十分に満足し ていないことがわかる。
研修機会への期待度についての設問は,5(期待し ている),4(やや期待している),3(どちらともい えない),2(あまり期待していない),1(期待して いない)から構成されている。図表の「研修期待高低差」
は高研修期待群(5および4を選択)から低研修期待 群(2および1を選択)を差し引いた数である。高低 差の値がほぼ正の値を示すことから,質問に挙げた24 項目に対する研修への期待値は概ね高いといえる。特 に,軽度発達障害・心の悩み・心理学的知識といった 生徒支援の項目や,授業方法改善や教科の学問内容と いった授業力に関する項目への期待が高いことが注目
図表1:個別業務への満足度・研修期待・機会
される。
研修機会の有無についての設問は,5(恵まれてい る),4(やや恵まれている),3(どちらともいえな い),2(あまり恵まれていない),1(恵まれていな い)から構成されている。図表の「研修機会高低差」
は高研修機会群(5および4を選択)から低研修機会 群(2および1を選択)を差し引いた数である。高低 差の値が全て負の方向を向いている。高校教員は研修 の機会について,全般的に恵まれていないと感じてい るといえるだろう。特に心理学的知識や家庭環境等の 影響に関する研修機会に不足感が見られる。
さらに,これら満足度・研修期待・研修機会の値を 総合して,高校教員の研修ニーズを検討した結果が図 表2である。図表2は,業務に満足していない度合い
(低満足度群から高満足度群を引いた数),研修機会に 対する不足感(低研修機会群から高研修機会群を引い た数),および研修への期待度(「研修期待高低差」)と,
その合計を示す。業務に満足していない度合い,研修 機会に対する不足感,研修への期待度の合計を,各業 務への研修に対するニーズの指標として捉えた場合,
生徒指導・キャリア・発達障害・心の悩み・心理学的 知識といった生徒指導・支援に関する項目が特に高い 値を示すことがわかる。
3.2 各種研修と望ましい研修形態の対応関係 図表3は,各研修形態について,研修項目ごとに選 択(複数回答)された度数の平均を示す。希望する研 修形態として選ばれる傾向が高いのは,校内研修・教 育委員会である。また大学・大学院も,これら上位2 つに次いで高い値を示す。一方,教員組合が選択され
る割合は非常に低いことがわかる。
ただし,選択度数の平均が低さからのみ,その研修 形態が必要とされていないと判断することはできな い。図表4のクロス集計は,各研修項目においてそれ ぞれの研修形態を選択した回答者数を示す。たとえば,
民間企業は,選択度数の平均値では下位に属するが,
キャリア教育に関する研修先としては,希望者数が最 も高い研修先である。
このような研修項目と研修形態の微細な対応関係に ついて,コレスポンデンス分析を用いて視覚的に表し たものが,図表5の散布図である。コレスポンデンス 分析(対応分析)は,クロス集計表の行要素,列要素 について,類似性にしたがって空間的に配置する分析 手法である。ここにおいて,類似度・関係性の強い要 素同士は近くに,弱い要素同士は遠くに配置される。
また原点周辺には,比較的特徴のない要素が集まる。
図表5では,図表4のクロス表の分析によって得ら れたもっとも説明度の高い第1軸(寄与率39.44,固 有値0.04)をX軸,次に説明度の高い第2軸(寄与率 30.84,固有値0.03)をY軸として,それぞれの成分 得点に基づいて,研修項目と研修形態を配置している。
研修項目・研修形態の配置に基づき,第1軸を解釈す ると,学校経営や学年経営といった項目が集まる右側 は「組織経営」を,学問内容や教材開発が集まる負の 左側は「個別指導」を表している。第2軸は,民間企 業,キャリア,保護者との対話が位置する下部が「学 校外部」を,授業改善や授業評価が位置づく上部が「学 校内部」を表していると解釈できる。
このような2軸の解釈に基づくと,学校内部での個 別指導に関わる教科の学問内容や授業改善,つまずき 図表2:各種研修項目の必要性
容内問学の科教 握把きずまつ 領要導指習学 ムラュキリカ自独校学 画計導指間年の科教 善改法方業授 発開材教自独 等成作トステ 価評業授 導指徒生 導指路進 育教アリャキ 害障達発度軽 動行題問・み悩の心 識知的学理心 響影の等境環庭家 営経校学 営経年学 営経級学 価評校学 理管機危 のと等者護保 ンョシーケニュミコ 携連のと家門専 理管康健の心の分自
校内研修 114 261 175 361 313 306 199 296 303 358 327 237 315 349 271 359 258 355 387 302 321 361 338 215 教育委員会 132 205 411 233 254 245 190 212 275 344 247 278 369 339 316 273 404 346 337 374 403 199 307 230 大学・大学院 454 283 198 199 173 300 205 224 234 174 163 209 331 310 360 250 186 164 177 199 149 107 244 164 個人研修 307 184 122 135 156 233 278 216 189 119 131 113 115 125 130 133 104 118 165 82 85 175 107 244 職能団体 119 135 121 118 113 162 163 145 131 136 164 156 150 156 140 118 99 107 117 109 94 83 109 90 民間企業 197 73 30 67 30 71 120 91 41 54 288 310 87 102 97 76 93 67 52 107 168 128 129 152 研究サークル 128 135 49 88 102 154 184 118 109 112 94 87 140 147 117 98 48 61 112 52 52 94 95 78 教職員組合 32 46 42 29 25 41 30 17 30 50 26 27 25 36 26 41 33 34 47 36 27 32 35 88
図表3:研修形態の選択度数の平均
図表4:研修形態と研修項目のクロス集計表
図表5:研修形態×研修項目の対応分析
の把握,教材開発,テスト作成といった業務は,大学・
大学院,個人研修,研究サークルでの研修が適するも のとして捉えられていることがわかる。
次に,学校外部での組織経営に関わる危機管理,学 校評価,学校経営,専門家連携,あるいは学内と学外 の境目にある学年経営といった項目は校内研修や教育 委員会が担うものとして捉えられている。学校外部の 個別指導に関わる進路指導やキャリア教育といった項 目に対しては,民間企業での研修が,高い期待を集め るものとして,他の項目・研修形態から離れた特殊な 関係を示す。
教科計画や学級経営といった学校内部の組織経営に 関する項目は,中心的な研修形態を持たない。これは,
校内研修・教育委員会での研修と,大学・大学院等で の研修の両方が,これらの業務への研修需要を分担し ているためではないかと考えられる。学校外部の個別 指導に関わる心の自己管理や保護者との対話もまた,
中心的な研修形態を持たず,実施主体が分散している。
心理学知識,心の悩み,発達障害,家庭環境といっ た生徒支援に関する項目は,原点付近に近く,職能団 体や教職員組合の周辺に位置している。しかし,これ らの業務において職能団体や教職員組合が研修形態と して希望される度合いは,必ずしも高くはない。対応 分析では,選択傾向に特徴のない,すなわち全体にま んべんなく選択される項目ほど原点に近づくこととな るが,これら生徒支援に関する項目もまた,特定の研 修形態によらず,幅広く希望されているものとして解 釈できる。
3.3 研修促進/阻害要因の分析
最後に,どのような属性を持つ教員が研修に期待を 抱いているのか,また研修を阻むのはいかなる要因か,
属性とのクロス分析と,自由回答の分析から明らかに していく。まず図表6は,満足度・研修機会・研修へ の期待度の各合計点の平均値について,年齢・職名に よる変化を表したものである。年齢・職名による変化 をみると,教員の研修への期待は概ね高いが,特に若 手の教員と管理職の教員が研修に意義を見出す傾向が あることがわかる。その一方で,一般教員の場合,年 齢を重ねることで業務への満足度を高める反面,研修 への期待や機会が減少していく傾向が見出される。
自由回答数は143件である。回答の内容は,「アンケー トへの批判・感想」,「学校教育全般についての意見」,
「研修内容の拡充を求める意見」,「研修コストと職務 環境の改善要求」の4つに大きく分類できる。このう ち4つ目の分類は,経済的・人的・時間的なゆとりの 不足や,研修を受けやすい職場環境の要求など,研修 内容以前の問題によって構成されており,143件の回 答のうち101件(70%)に該当する。研修コストに関 する回答は,たとえば次のような事例を含む。
年々,教員における事務仕事が増加しており,生徒 に余裕を持って接する時間,教材研究をする時間が 少なくなっていると感じています。このような状態 にあるにもかかわらず,職場を離れるのは出来るだ け避けたいというのが本音です。また,そのような 状態にもかかわらず,給与は削られ,研修に参加す るための諸経費も負担させられるのでは,参加する 意欲がそがれます。 (40代,男性教員)
教科指導については,民間であれ大学であれ,校外 の機関による体系的な研修体制が整っていることを 強く望んでいる。…しかしそのためにはその教員の 日常の業務(授業など)を代行する人が必要である。
代行の措置もなく研修だけ奨励しても任されている 業務の遂行を考えると誰も研修しようと思う人はい ないであろう。研修を投資と考え,研修の場を提供 するだけでなく,一人一人が研修に参加できるだけ の人的ゆとりを設ける必要がある。(40代,女性教員)
教員研修による資質能力の向上は,生徒にとって不 可欠であるばかりでなく,究極の学校競争力になる ものと信じている。従って,本校では他校に比べ,
積極的に研修の機会を設定しているつもりではある が,教員数の少なさから学校運営との調整で困難を 感じている。(50代以上,男性校長)
これら研修コストに関する分類の中でも,時間的ゆ とりの不足に言及した回答数は70%(自由回答全体の 半数)に上る。そればかりか,研修そのものが多忙化 を促進するとの意見が出された。
・ここ数年で職務が激増している中で,研修が増え ていったらパンクしてしまい,病休等におい込まれ そうで不安である。(40代,男性教員)
・多忙な中,教科外の職務,(学級経営,学校経営,
カウンセリング,保護者との付き合い方,社会的背 景等)全てについて研修を行うことは難しいし,そ れが逆にストレスになる場合もあります。(数少な い休みがとれる時期に研修をしなければならない 等) 。(30代,女性教員)
・研修を受けたとしても,報告書の作成や,事前準 備などで,本来の授業や校務,または部活動などの 指導がおろそかになってしまい矛盾を感じてしま う。 (30代,男性教員)
他の回答では,教職員の増加・専門分化,もしくは 研修の削減・精選を行うべきとの意見が出された。た とえば教職員の増加・専門分化について,部長・主任 クラスの男性教員(50代以上)は,「教員に求められ る職能分野が多岐にわたり,個人で領域をカバーする のは無理と思われるので,教科指導専門や生徒指導専 門というような職能別教員を配置するのがベターだと 思う。それが不可能であれば,教員数を大幅に増やし,
仕事量の軽減を図り,個人研修時間を保障することが 必要」と主張している。また,研修の削減・精選につ
いては,40代の男性教員から「最近は保護者との対応 など,今までにない教養も求められる。そうした中で,
皆がゼネラリストになれるはずもなく時間(研修に費 やす)も限られている。それぞれのスペシャリストと,
それをコーデネートするゼネラリストと,分けて,養 成していく必要がある」との主張がある。
自由回答には,教員免許更新制に関連して,義務的 な研修がもたらす負担についても多くの意見が寄せら れた。たとえば30代の男性教員の意見として,「仕事 の重要性や多忙さを考えると,できるだけ現場を離れ ない方が良いと考えます。ゆえに,外部に出かけるよ うな強制研修は極力少なく,最小限にすべきと考えま す。その上任意の研修を充実させてもらえるとありが たいです。(10年研,教員免許更新の講習等は,負担 が大きすぎます)」との回答がある。
その一方で,強制的・自動的な研修を希望する声も 自由回答に見られた。たとえば部長・主任クラスの30 代男性教員からの,「正直言って,日々の業務にいっ ぱいいっぱいで(生徒の問題行動や生徒指導など)と ても「研修に行きたい」と申し出られる雰囲気ではな い。自分自身の力量不足が原因です。経験X年目に自 動的に研修にいくような制度の方が私はイイです。」
との意見がある。あるいは,「参加したい研修があっ ても忙しかったり,出張経費の都合でNGになったり する。教員のスキルを上げたいのであれば,学校内の
職務を減らし,研修を義務づけるような,バランスが 必要。」といった40代男性教員の意見のように,職務 削減と合わせて,義務的な研修の意義を唱える声もあ る。
研修機会に関する回答傾向において確認したよう に,教員は業務全般にわたり研修の機会が不足してい ると感じている。しかし,これまでの自由回答の分析 結果は,この機会の不足が研修の供給不足によるとは 限らない可能性を示唆している。自由回答の分析が示 すのは,日常業務と研修時間の調整の困難といった「多 忙化による研修機会の不足」である。研修機会の確保 方策については,自由回答を見る限り,多忙化の改善 を求める声が多い。中には,中央集権的・行政的な強 制研修を嫌い,日常業務に支障を来さない校内研修・
自宅周辺での自主的研修の充実を求める意見がある。
一方で,研修を義務化することで,強制的に業務との 調整を図ることを望む意見も見られる。
したがって,多忙な状況下における研修制度の拡充 は,図表7に示すような二面性を抱えているといえる だろう。研修制度の拡充は,教職員の増加や専門分化,
あるいは研修内容の削減・精選とあわせて行われるこ とで,高校教員の職能成長と専門性の恒常的な刷新に 資する施策となる。しかし,単独で実行されるならば,
人員削減等の現状とあいまって,研修そのものが教師 の多忙化を促進してしまい,実践的な指導力を低下さ 図表6:年齢・職名×満足度・研修機会・期待
図表7:研修と業務の改善
せる可能性がある。
3.おわりに-結果の考察
分析の結果,次のことが明らかになった。研修の必 要性に関する分析からは,高校教員の関心が学習指導 のみならず,多岐にわたることが明らかになった。特 に,現状への満足度・研修への期待・研修機会を合わ せて捉えた場合,生徒指導・支援に関する研修の高い 必要性が浮き彫りになった。研修項目と研修形態の対 応分析の結果からは,大学での研修に対する期待は教 科の学問的内容など,学校内部の個別指導に関わる項 目が高い傾向にあることがわかった。一方,大学にとっ て,進路指導等の学校外部の項目,学校組織の経営,
及び生徒指導・支援に関する項目は,開拓,あるいは 他機関との協力が必要であるといえる。最後に研修の 促進・阻害要因の分析からは,研修への期待において,
年齢を重ねるとともに低下する傾向が見られ,特に高 年齢層での管理職と一般教員の差が大きいことが明ら かになった。また自由回答の分析において,多忙な状 況下での研修は,他の日常業務との調整に困難が伴う ため,教員の負担軽減と内容の精選に注意する必要が あるとの結論が導かれた。
総じて,上記の分析の結果には,幅広い項目におけ る研修への期待と,多忙化を促進する要因としての研 修への警戒という,高校教員の研修に対するアンビバ レントな意識が反映されているといえるだろう。教員 免許更新制に代表される政策的な現職教育制度の拡充 は,その必要性の背景として教育現場における新たな 課題への対応を挙げているが,図表1及び図表2にお いて示すように,高校教員の研修意識においても,「軽 度発達障害」等の新規課題への研修ニーズは高い。し かし,自由回答の多くが研修負担を訴えていることが 示すように,研修制度の拡充それ自体が,教師が実践 に費やす時間や余裕を圧迫し,授業や生徒指導・支援 等の課題対応力を奪う危険もある。
教師の専門性を向上させるべく実施に移された施策 が,実際には教師の自由を剥奪する結果を生みかねな いとの分析結果は,近年の英国の教育学者が指摘する,
「New professionalism」(Evans 2008)や「強制的な 再専門職化(coercive re-professionalization)」(Beck 2009)の議論と重なるものでもある。英国の教員政策 では,「教育の近代化」のスローガンの下,教師に求 められる専門性の再定義と標準化が,養成システムの 改革を通じて進められてきた。これらの改革は,専門 職集団がイニシアティブを持って進める従来の専門職 化プロセスと異なり,新たな専門知識の習得が教育界 の外部から割り当てられる点に特徴がある。これらの 教員政策に対して批判的な論者は,それが専門職集団 の共有する従来型の専門知の基盤を掘り崩し,教師の 自律性を奪う可能性を指摘してきた。
日本の教員政策も,1980年代以降,教師の専門性向 上と自律性低下の両面を含んだ,「強制的な再専門職 化」の特徴を有している。教師の専門性のリニューア ルをうたう教員免許更新制も,教員集団外部の主導に よって導入された点において,同様の再専門職化施策 の流れに位置づく。
本研究の知見の重要性は,このような再専門職化施 策がもたらす功罪を,現職教員の意識の面から明らか にした点にある。まず高校教員は,再専門職化が要請 する専門性のアップデートの必要性を,ある程度まで 受け入れている。たとえば,キャリア教育における民 間企業研修への期待の高さが示すように,外部から の知識に対する高校教員の研修意欲は高い。一方,意 に沿わない研修の増加を批判する自由記述回答も数多 い。批判理由の多くは,多忙化の促進によるストレス の増大や,現場実践に費やす時間の減少への危機感に 基づいていた。
養成期間の延長や,教員免許取得者の限定が困難な なか,現職教育制度の拡充は,教師の専門職性を立て 直すための重要な位置を占めている。しかし,教師の 期待や業務量を無視した研修義務の増加は,多忙化に よる疲弊と指導力の低下を招きかねない。英国と同様,
日本においても進む「強制的な再専門職化」施策は,
自律性の低下という「教師の地位」の問題だけでなく,
実践に費やす時間の低下という「教師の機能」の問題 からも,改めて見直す必要があるといえるだろう。教 師から余裕を奪うことなく,教師の指導力や専門職性 を向上させる研修施策はいかにあるべきか。他地域の 高校教員や,小学校・中学校の教員の研修意識につい て調査を行い,教員の研修ニーズの更なる解明を進め ることが,今後の課題である。
【参考文献】
Beck,J.2009.“Appropriating professionalism”Britsh Journal of Sociology of Education, 30: pp.3-14
Evans,L.2008.“Professionalism, Professionality and the Development of Education Professionals”British Journal of Educational Studies, 56⑴. pp20-38
清水禎文・大桃敏行・宇野忍・柴山直・佐藤高樹・柴田聡 史・高橋文平・安住真紀子・大関嘉成・町田洋介・蛯名 正司・佐藤誠子・宮田佳緒里(2009)「研究大学におけ る高校教員の「教育専門職性」促進支援体制構築に関す る研究―高校教員の研修に対する意識調査から―」東北 大学大学院教育学研究科大学院教育改革支援プログラム 実施委員会『平成20年度 大学院教育改革支援プログラ ム実践指向型教育専門職の養成プログラム プロジェク ト型共同研究成果報告書』181-193頁。
丸山和昭(2006)「日本における教師の“脱専門職化”過 程に関する一考察」『東北大学大学院教育学研究科研究 年報』第55集⑴,181-196頁。