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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 瑞ずい とおる亨 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 乙第 820号

学 位 授 与 年 月 日 令和 4年 2月 25日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第3項該当

学 位 論 文 名 下腹部手術歴のある鼠径部ヘルニアに対する腹腔鏡下腹膜前到達法

(totally extraperitoneal: TEP approach)修復術の手術成績からみた課 題と対策

論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 小 野 滋

(委 員) 准教授 宮 倉 安 幸 准教授 野 田 弘 志

論文内容の要旨

背景・研究目的1

腹 腔 鏡 下 鼠 径 部 ヘ ル ニ ア 修 復 術 は TEP (totally extraperitoneal approach)法 と TAPP (Transabdominal preperitoneal approach)法に大別され、腹壁を腹腔側から見る視野で腹腔鏡に よる拡大視効果もあり、局所解剖の認識が非常に良好である。本邦施設では圧倒的にTAPP法が 多く、ヘルニア存在部位の診断と形状の認識が容易という利点がある。一方、TEP法の最大の利 点は腹腔内に入らないため腹腔内臓器損傷のリスクがないことで、腹膜縫合が不要であり、これ に起因する合併症を回避できるため、TEP法は卓越した術式と考えられる。

従来、下腹部に手術歴のある症例の鼠径部ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術は、手技の困難さ と合併症から相対的禁忌と考えられていた。近年になり下腹部に手術歴のある症例へのTEP法修 復術の有用性が示されてきたが、個々の報告の症例数は限定的である。本邦および海外のガイド ラインでは、下腹部手術歴のある症例には腹腔鏡下修復はTAPP法とTEP法ともエキスパート・

オプションとしている。結城病院では鼠径部ヘルニアに対して約20年にわたり腹腔鏡下TEP法 修復術を行ってきた実績があるが、下腹部に開腹歴のある症例では腹膜前腔の癒着により手術操 作が困難になることが予測される。

当院での鼠径ヘルニアの症例経験を後方視的に検証し、下腹部に手術歴のある症例へのTEP法修 復術の妥当性と問題点を分析することが第1の目的である。

研究方法1

当院で、2006年から2016年までに施行された313例のTEP法修復術施行症例を対象に手術記 録とカルテ記載を確認し、下腹部手術歴のある症例について検証した。

研究結果1

対象患者313例(男性281例、女性32例)の平均年齢65歳、中央値68歳(17-93歳)で、

297例に片側の修復術(左121例、右176例)、16例に両側同時の修復術が施行されていた。手

(2)

術時間の中央値は片側では54分(27-246分)、両側で101分(37-158分)であった。ヘルニ アの分類は外鼠径ヘルニア(間接型)254例、内鼠径ヘルニア(直接型)29例(うち、鼠径管中 央部より内側に位置する膀胱上窩ヘルニア7例)、大腿ヘルニア 7例、併存型6例であった。84 例に下腹部の手術既往があり、開腹虫垂切除術(23 例)、鼠径ヘルニア(45 例、反対側の TEP 法修復術26例、同側の前方切開法11例)、下腹部正中切開創22例で、複数回の手術既往を含む 下腹部の手術瘢痕の総数は90か所であった。75例(75/84: 89%)でTEP法が完遂された。9例 で術式が変更され、5 例が前方切開法に、4例がTAPP法に変更された。術式が変更された理由 は術野の確保困難5例、腹膜損傷2例、出血2例であった。変更した7例は反対側のTEP修復 術後だった。

考察1

TEP法修復術では、術野展開のために腹膜前腔を十分に剥離する必要があり、バルーン・ダイレ ーターを使用することで簡便かつ迅速に空間を拡張できる。下腹部に手術既往のない症例にTEP 法でバルーン・ダイレーターを用いた場合、腹膜前腔の剥離範囲は正中線を越えて反対側の鼠径 部に及ぶ。これは、同時に両側の鼠径部ヘルニアを修復する場合には非常に便利である。TEP法 で両側の鼠径部ヘルニアを同時に修復しても、片側に比較して合併症は増加しないとされている。

今回の後方視的研究では、バルーン・ダイレーターでの鼠径部周辺の腹膜前腔剥離には下腹部正 中創瘢痕の存在はさほど影響しないことが示唆された。

小括1

下腹部手術既往のある鼠径ヘルニア症例の大部分でTEP法修復術が可能であった。下腹部に手術 の既往があってもTEP法を避ける必要はない。

背景・研究目的2

下腹部に手術瘢痕のある症例ではTEP法修復術は困難と考えられてきたが、当院での完遂率は高 い。しかし、最も術式の変更が多かったのは反対側に TEP 法修復術の既往がある症例に対する TEP法修復術であり、施行された27%(7/26)に術式の変更を要したことは、さらに検討すべき 課題と考えられた。なお、TEP法修復後の反対側TEP法修復術における腹膜前腔の癒着の問題 に関して、バルーン・ダイレーター使用の点から言及した文献はこれまでにない。

過去に片側の鼠径部ヘルニアに対して TEP 法修復術が施行された症例に反対側の鼠径部ヘルニ ア修復術を行う場合、再度TEP法を選択することの妥当性について検討することが第2の目的で ある。

研究方法2

2006年から2020年までにTEP法鼠径部ヘルニア修復術を施行した443例(男性404例、女性 39例)、年齢中央値68歳(17-93歳)を対象として検討した。反対側のTEP 法修復術後に施行 された TEP法修復術は 35例で、他の手術後の症例との間で TEP法修復術中の術式変更率につ いて比較した。TEP法術後の反対側TEP法完遂群28例と術式変更群7例に分け、臨床データと

(3)

して、年齢、体格(BMI)、手術時間、ヘルニア分類、ヘルニアの部位と型、前回手術からの期間 について比較した。術式変更のリスク因子の検索として、臨床データと既往の手術に関して多変 量解析を用いて検討した。

研究結果2

122例(122/443例、男性111例、女性10例)に下腹部の手術既往歴があり、経恥骨的前立腺全 摘術15例、開腹虫垂切除術37例、消化管手術11例、婦人科手術6例、前方切開法による鼠径 ヘルニア修復術37例(同側16例、反対側21例)、反対側鼠径ヘルニアTEP法修復術35例、反 対側鼠径ヘルニアTAPP法修復術2例、その他の手術2例であった(重複あり)。反対側にTEP 法修復術を施行された既往のある35症例は、ほかの手術の既往がある症例に比較して有意に術式 を変更した割合が高く(<0.01)、オッズ比は19.91であった。TEP後の反対側TEP法修復術を完 遂した群28例と術式を変更した群7例とでの比較では、変更群で手術時間が長かった(62:114 分、P<0.01)ものの、臨床データの年齢(67:69 歳)、BMI(22.4:22.5kg/m2)、前回の TEP 法からの期間(中央値642:470日)に差はなく、術式変更のリスク因子の特定はできなかった。

考察2

鼠径部ヘルニアのTEP法修復後に反対側のTEP法修復術を施行する際には、しばしば腹膜前腔 の癒着に直面し、とくに下腹部正中線直下の癒着が強固である。初回の TEP 法修復術でバルー ン・ダイレーターを使用された場合にはより顕著になる。バルーン・ダイレーターでは剥離範囲 を微調整できず、片側の鼠径部ヘルニア修復術にとっては必要以上に広い剥離となることが影響 している。このため、術前に鼠径部ヘルニアの存在診断に有用とされる腹臥位での CT 撮影を導 入し、不顕性ヘルニアがあるものにはTEP法による両側同時修復を積極的に行うようにした。ま た、片側のTEP法修復では腹膜前腔の剥離にバルーン・ダイレーターを使用しない鏡視下剥離法 を導入した。この方法で両側同時修復にも対応可能である。

強固な癒着を剥離する過程で腹膜損傷が生ずると、炭酸ガスが腹腔内に流れ込み、腹膜前腔が虚 脱する。腹膜の小さな穴は、ただちにその部位の腹膜を鉗子で把持して結紮閉鎖できる。大きな 亀裂でも術野を維持できれば、メッシュ固定までの手技をそのまま継続し、その後に体腔内縫合 で腹膜を閉鎖する。縫合操作が困難でメッシュが腹腔内に露出する場合には、TAPP 法に切り替 えて確実に腹膜を閉鎖する必要がある。

小括2

反対側にTEP法修復術の既往がある症例のTEP法鼠径部ヘルニア修復術は安全に可能である。

しかし初回のTEP法修復術でバルーン・ダイレーターが使用されていた場合には腹膜前腔に強い 癒着が存在する可能性があり、注意深い剥離と他の術式(TAPP 法や前方切開法)への変更の備 えをしておく必要がある。

結論

検証結果をふまえた鼠径部ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術の戦略として、バルーン・ダイレー ターを用いずに腹膜前腔の剥離範囲を片側に限定しながらTEP法を施行し、不顕性ヘルニアにも

(4)

積極的に両側同時修復を行う。下腹部に手術歴のある症例にも同様の方針とするが、腹膜前腔の 剥離が困難な場合には術式を変更して対応できるよう、幅広い技術と応用力を備えておく必要が ある。

論文審査の結果の要旨

本学位論文は、背景と研究目的、研究方法、研究結果、考察、結語が明瞭かつ適切で、その結 果は腹腔鏡下ヘルニア手術に携わっている多くの外科臨床医に対して重要な情報を提供する、非 常に優れた研究論文であると考えます。論文内容として、鼠径部ヘルニア手術の概論から始まり、

多くの自験例をもとに鼠径部ヘルニア修復法としての完全腹膜外到達法(TEP法)の有用性を後 方視的に検証し、下腹部手術歴のある症例の鼠径部ヘルニアに対するTEP法の妥当性と有効性の 検討、およびその検討中に生じた課題であるTEP法で修復された鼠径部ヘルニア症例の反対側に 発生した鼠径部ヘルニアに対するTEP法修復術の妥当性と安全性の検討が行われ、そして最終的 に鼠径部ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術の戦略について、わかりやすく、かつ科学的根拠を含 めてまとめられています。後ろ向きの解析ではありますが、自験例をもとに過去最大数の症例数 の解析であり、課題となっていた問題点と解決法を明確に示し、今後の診療に大いに役立つ内容 が含まれており、鼠径ヘルニアの外科的診療に与えるインパクトは大きいと考えます。

また、審査会で審査委員より指摘のあったポイントは、再提出された修正論文で適切に追記、

修正されており、本論文は本学学位論文として相応しいと考えます。

試問の結果の要旨

審査会における発表は、論文内容について過不足なく行われました。委員からいくつかの質問 がありましたが、適宜明確かつ適切に答えており、十分に評価できると思われます。試問の結果 は合格として問題ないと考えます。

参照

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