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フィズス因子としての本来の機能を覆い隠してしまった のであろう.乳中で10 〜20 g/ にもなるHMOを合成す るために母親はかなりのエネルギー(糖ヌクレオチド)
を消費するため,その労力に見合うだけの機能があって しかるべきで,一つは病原性微生物の排除であり,もう 一つがビフィズス菌の選択的増殖であると考えられる.
ヒトは進化の過程で,その授乳期にある種のビフィズス 菌を積極的に乳児の腸管内に生息(感染)させようと し,その基盤となったのが1型HMOなのだと筆者らは 考えている.
1) K. M. Maslowski : , 461, 1282 (2009).
2) B. S. Samuel : , 105,
16767 (2008).
3) R. D. Heijtz : , 108, 3047
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16) M. Kiyohara : , 73, 1175
(2009).
(片山高嶺,石川県立大学生物資源工学研究所)
細胞内 G タンパク質シグナルの仕分けが生体リズムのタイミングを決める
目覚まし遺伝子 Rgs16 の発見
私たちが毎朝,朝寝坊することなく決まった時間に起 きることができるのは,脳の中の視交叉上核(英名Su- prachiasmatic nucleus, 略してSCN)と呼ばれる神経核 において約1万のニューロン群がきわめて安定で強力な 24時間周期のリズムを毎日生み出しているからである.
驚くべきことに,SCNは脳内から取り出して生体外で 長期に培養しても正確な時を1年以上にわたって刻み続 けることができる.
では,なぜSCNはこれほど強力で安定なリズムを打 ち続けることができるのだろうか? 実は,リズムを生 み出す能力だけならSCN以外の全身のほとんどの末梢 組織にも備わっている.ところが,末梢組織では1個1 個の細胞のリズムは同期せず時間とともに乖離してゆく ため,全体としてのリズムは数サイクルのうちに減衰し てしまう(個々のリズムが無秩序でバラバラでは全体と して有効なリズムは生まれない).これに対し,SCNの ニューロン群は強固なニューロンネットワークを形成 し,整然とした時間順序で,強固に同期することによっ て,組織としてより大きく安定なサーカディアンリズム を生み出すことができる.このシンクロナイズドオシ レーションこそがSCNのSCNたる所以である.筆者ら がこの中枢時計の特殊な能力を発見し2003年に報告し
て以来(1),この特性を生み出す分子機構を明らかにする ことが生体リズムの本質に関わる重要な研究課題となっ ている(2).
注目すべきことに,SCNの細胞はどれも一様という わけではなく,個々の細胞ごとに位相の早い遅いがあ り,その順番は生まれつき細胞ごとに決まっている.図 1-Aに示すように,時計遺伝子 (時計の振り子の役 目を担う最も重要な時計遺伝子)の発現リズムを追跡す ると,いつも決まってSCNの「上側から下側へ」背内 側部の細胞から始まり腹側部へと向かって波のように広 がってゆく様子が認められ,SCNの細胞群がこのよう な独特の時空間パターンに則って同期していることがわ かる.しかし,なぜいつも背内側部の細胞が早いのか,
細胞間の同期や順位づけの機能はSCNにとって最も重 要な特質であるにもかかわらず,その分子機序や生理的 意義についてはこれまでまったく不明であった.
今回筆者らが着目したのは,SCNの背内側部の「先 頭集団」の細胞群において早朝 の発現とともに同 時に出現するRGS16 (Regulator of G-protein Signaling 16) と呼ばれるGタンパク質シグナル制御因子である(3)
(図1-B).SCNの謎の細胞間コミュニケーションの分子 機序に迫るべく,SCNに特異的に強く発現するGタン
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パク質関連因子を網羅的に探索する過程で筆者らが見い だした分子である.非常に興味深いことに,RGS16欠 損マウスを作製しSCNを調べたところ,ふだんならリ ズムの起点を形成するはずの背内側部の先頭集団細胞で 位相が遅れ(図1-A),その結果,マウスの個体の活動 のリズムも遅延することがわかった.つまり,寝坊マウ スが誕生したのである.
RGS16は生化学的には3量体Gタンパク質のG
α
iに対 して抑制的に働くGAP(GTP加水分解活性化タンパク 質)として知られる分子である.筆者らは,生体内の SCNでも実際にRGS16が細胞内のGα
iにアタックし,その活性を抑えることでcAMPシグナルを促進するこ とを明らかにした.またさらに,ノックアウトマウスの 背内側部においては,本来あるべきはずの早朝のcAMP シグナルの誘導が完全に消失してしまっていることも見 いだした.すなわち,正常マウスでは背内側部に早朝 RGS16が現われると,それに続いてcAMPシグナルが 流れはじめるため,そのcAMPシグナルの下流に位置
する の発現がどこよりも早く惹起されるのである
(図1-C左).一方,正常マウスでも早朝以外の時間帯に はRGS16の発現が非常に低下するので,その際には抑 制を逃れたG
α
iが細胞内のcAMPシグナルを堰き止める(図1-C右).つまり,RGS16は朝のみ現われてG
α
iを抑 制することによってcAMPシグナルを解除し,その他 の時間帯では遮断をするという,いわば細胞間連絡に関 わるシグナルの「仕分け」を行なっており,その機構に よって背内側部に特有の早いリズムを生み出しているの である(3).RGS16-G
α
i-cAMPパスウェイの重要性を示す一連の結 果は,過去のSCNスライス培養系における百日咳毒素 を用いたGα
i/o阻害実験(4)やcAMP合成酵素(アデニル 酸シクラーゼ)を標的とした薬理実験(5)の結果ともよく 合致する.特に,アデニル酸シクラーゼの阻害薬である THFA (9-(tetrahydro-2-furyl)-adenine) をマウス視床 下部SCN近傍の第三脳室に連続投与すると,その個体 の活動リズムはRGS16を欠損したときと同じように遅図1■RGS16を介した早朝のcAMPシグナルが背側先行の の発現を生む
(A) 正常 (WT) およびRGS16欠損 (KO) マウスにおける トランスジェニックSCNスライス培養の1時間ごとの発光像.正常では 特にSCNの背内側部の細胞群が時刻1, 2, 3において他の部位に比べて大きく先行することに注意.(B) 早朝でのSCNの背内側部における RGS16陽性細胞の出現 (Dig- hybridization).V : 第三脳室,OC : 視交叉.(C) 背内側細胞におけるRGS16を介した細胞内シグナル 伝達のモデル.C : CLOCK, B : BMAL1, D : DBP, CRE : cAMP応答配列,AC : アデニル酸シクラーゼ,PKA : プロテインキナーゼA,
ERK : 細胞外シグナル制御キナーゼ,CREB : CRE結合タンパク質,P : リン酸基
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くなり(3, 5),そのときにはやはり背内側部の先頭集団細
胞で見られるはずの早朝のcAMP誘導性の遺伝子発現 が消失した(3).これらの薬理学的所見は,今回見いだし たRGS16パスウェイの生理的重要性を裏付けるばかり でなく,将来的にこのパスウェイを標的とした創薬が慢 性的な寝坊などの睡眠覚醒障害の治療に役立つ可能性が あることを示唆している.
上述の結果は,これまで長年謎に包まれていた「SCN ニューロンネットワーク」の分子機序に迫ろうとするも のである.筆者らは,RGS16という新しい分子を見い だすことによって,SCNの細胞「内」の時のシグナル の仕分けが,細胞「間」の同期パターンを決め,ひいて
はそれによって個体レベルの活動リズムの周期までが決 められていることを示した.ここで得られた所見は,
「如何にして脳の神経ネットワークが個体の行動パター ンを規定するのか?」という脳の仕組みの謎へ迫ろうと するシステム神経科学的な見地からみても非常に興味深 いと考えている.
1) S. Yamaguchi : , 302, 1408 (2003).
2) D. K. Welsh : , 72, 551 (2010).
3) M. Doi : , 2, 327 (2011).
4) S. Aton : , 103, 19188
(2006).
5) J. S. OʼNeill : , 320, 949 (2008).
(土居雅夫,岡村 均,京都大学大学院薬学研究科)
接ぎ木栽培によるナス果実のカドミウム低減メカニズムを探る
シンクロトロン放射光源マイクロビーム蛍光X線分析の応用
農林水産省による全国調査の結果,国産ナスの約7%
がカドミウム (Cd) 含有量において0.05 mg/kgという 国際基準値を超過している実態が明らかとなり,ナスの Cd吸収を抑制する技術の開発が必要となった.竹田 ら(1)は,Cd吸収能の低い台木品種を用いることで,ナ ス果実のCd濃度を大幅に低減できることを見いだし た.ナスでは,耐病性を向上させるために,近縁種に接 木をする栽培が一般的に行なわれている.このため,接 木栽培によるナス果実Cd低減技術は,コスト,普及性 の面からも実用性の高い対策技術である.
接木栽培によるCd低減技術は,ナス台木品種が地上 部にCdを輸送する能力が低いことを利用している.ナ ス果実のCd濃度を自根栽培の約4分の1に低減できる 台木品種であるスズメノナスビは,ナスに比べ導管液中 のCd濃度が低い(2).したがって,根の表皮から導管ま での経路上にCdを蓄積し地上部への移行を抑制する領 域がある可能性が高い.根のような小さな領域で,どこ にCdが蓄積しているかを調べるためには,
μ
m単位の 空間分解能で,相対的な元素濃度分布を明らかにできる 蛍光X線分析による元素マッピングが有効である.あるエネルギー以上の光を試料に照射すると,蛍光X 線が放出される.蛍光X線は元素固有のエネルギーを もつため,エネルギーから元素の種類が,強度から濃度 に関する情報が得られる.細く絞った電子線やX線を 励起のための光源として試料上を走査し,1点1点蛍光
X線を検出することで,試料上の相対的な濃度の高低を 示す等高線図である元素マップが得られる.電子線を励 起 源 と す る 電 子 線 プ ロ ー ブ マ イ ク ロ ア ナ ラ イ ザ ー
(EPMA) は,カルシウムなどの必須元素や,重金属高 集積植物に蓄積した高濃度の重金属の二次元的な濃度分 布を可視化できる有効な手法として利用されてきた.し かし,作物のように高集積性をもたない植物体中の有害 元素濃度は低く,EPMAでは検出できない.励起源を 電子線からシンクロトロン放射光源X線に変えること で,特に重金属元素の検出感度を飛躍的に向上させるこ とができる.
シンクロトロン放射光とは,光速まで加速した電子を 磁場で急速に曲げたときに接線方向に放出される光であ る.赤外線からX線まで広い波長範囲の光を含み,きわ めて明るく,光源から離れても広がって弱まらずにその 明るさを保つという特徴をもつ.蛍光X線を効率よく 放出させるには,元素ごとに最適なエネルギーがある.
シンクロトロン放射光を使うと,分析したい元素に最も 適したエネルギーの励起X線を選ぶことができる.さ らに,励起X線を細く絞っても,試料上のX線強度密 度を高く保つことができることから,微小な領域でも高 感度分析が可能となる.生体内の多量元素の影響を受け ずにCdを高感度に分析するためには,高エネルギー X 線で励起する必要がある.