大 気 汚 染 が 人 の モ ラ ル に 与 え る 影 響 :世 界 30 ヵ 国 か ら の エ ビ デ ン ス
The Impact of Air Pollution on Human Morality: Evidence from 30 Countries
○中 石 知 晃*・ 兪 善 彬* *・ 加 河 茂 美** *・ 馬 奈 木 俊 介* * Tomoaki Nakaishi, Sunbin Yoo, Shigemi Kagawa, and Shunsuke Managi
１ ． は じ め に
こ れ ま で に 多 く の 疫 学 的 ・ 経 済 学 的 な 既 存 研 究 が 、 大 気 汚 染 へ の 暴 露 と 身 体 ・ 精 神 的 な 健 康 と の 間 の 負 の 相 関 関 係 に つ い て 示 し て き た（[1]参 照 ）。一 方 で 、大 気 汚 染 と 犯 罪 な ど の 非 倫 理 的 行 動 と の 間 の 関 係 性 に つ い て は 、 未 だ 共 通 し た 見 解 が 得 ら れ て い な い 。 殺 人 ・ テ ロ ・ 家 庭 内 暴 力 な ど の 非 倫 理 的 行 動 の 発 生 （ 抑 制 ） は 、 社 会 的 ・ 経 済 的 に 大 き な コ ス ト で あ り 、 そ の 発 生 メ カ ニ ズ ム に つ い て 理 解 を 深 め る こ と は 、 起 こ り 得 る 様 々 な 犯 罪 行 為 に 対 処（ 未 然 に 予 防 ）す る た め に 決 定 的 に 重 要 で あ る 。本 研 究 で は 、世 界30カ 国 の8万 人 以 上 を 対 象 と し た 「 身 の 回 り で 認 知 さ れ た 様 々 な 非 倫 理 的 行 動 」 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 と 独 自 に 整 備 し た 大 気 汚 染 ・ 気 象 関 連 デ ー タ を 組 み 合 わ せ 、 大 気 質 の 違 い や 変 化 が 非 倫 理 的 行 動 の 発 生 件 数 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 調 査 す る 。
２ ． 分 析 方 法
我 々 の メ イ ン モ デ ル は 以 下 （1） 式 の よ う に 定 式 化 さ れ る ：
ln𝐶𝑟𝑖𝑚𝑒𝑖= 𝛼1ln 𝐴𝑃𝑖+ 𝑿𝒊𝜷′+ 𝑅𝑒𝑔𝑖𝑜𝑛 𝐹𝑖𝑥𝑒𝑑 𝐸𝑓𝑓𝑒𝑐𝑡𝑠 + 𝜖𝑖 (1)
こ こ で 、𝐶𝑟𝑖𝑚𝑒𝑖は 、 ア ン ケ ー ト の 回 答 者𝑖に よ っ て 申 告 さ れ た 非 倫 理 的 行 動 の 発 生 件 数 で あ り 、こ れ ら は 、因 子 分 析 に 基 づ き Fatal（ 殺 人・テ ロ・ 自 殺・レ イ プ ）、Domestic（ 家 庭 内 暴 力・児 童 虐 待・中 絶 ）、Discrimination（ 性・ 人 種 差 別 ）、Financial（ 賄 賂・詐 欺 ）、Drugs（ 違 法 薬 物 、銃 の 違 法 所 持・売 買 ）の5つ に 分 類 さ れ る 。𝐴𝑃𝑖は 、NASA の 大 気 汚 染・気 象 関 連 デ ー タ を 回 答 者 の グ リ ッ ド 位 置 で マ ッ チ ン グ さ せ て 統 合 し た NO2の 月 別 平 均 濃 度 （ ま た は そ の 月 別 変 化 量 ） で あ る 。𝑿𝒊は 、 天 候 関 連 変 数 （ 月 別 降 水 量 、 最 小 ・ 最 高 気 温 ） と 社 会 経 済 変 数 （ 収 入 、 性 別 、 年 齢 、 教 育 レ ベ ル 等 ） を 含 む 制 御 変 数 の ベ ク ト ル で あ り 、 こ れ に は 、 国 レ ベ ル の GDP と 人 口 、 回 答 者 の 近 接 す る 海 岸 ・ 道 路 ま で の 距 離 （NASA-Earth, 2010； NACIS, 2010） も 含 ま れ る 。𝑅𝑒𝑔𝑖𝑜𝑛 𝐹𝑖𝑥𝑒𝑑 𝐸𝑓𝑓𝑒𝑐𝑡𝑠 は 国 、 緯 度 、 経 度 の 地 域 固 定 効 果 、ϵ は 誤 差 項 を そ れ ぞ れ 示 す 。 ま た 、 内 生 性 バ イ ア ス （ 例 え ば 、 犯 罪 発 生 時 に 派 遣 さ れ た パ ト カ ー に 由 来 す る 汚 染 物 質 の 排 出 増 加 等 ） に 対 処 す る た め 、 操 作 変 数 と し て 風 速 を 採 用 し た 。
* 九 州 大 学 カ ー ボ ン ニ ュ ー ト ラ ル ・ エ ネ ル ギ ー 国 際 研 究 所 （I2CNER） International Institute for Carbon -Neutral Energy Research (I2CNER), Kyushu University
〒819-0395 福 岡 市 西 区 元 岡 744 E-mail: tomoaki.nakaishi@gmail.com
** 九 州 大 学 工 学 研 究 院 環 境 社 会 部 門 ・都 市 研 究 センター
** * 九 州 大 学 経 済 学 研 究 院
３ ． 結 果
（1）式 に よ る 推 定 結 果 を 表1に 示 す 。表1上 段(Model 1)は 、非 倫 理 的 行 動 を 被 説 明 変 数 に 、 NO2の 月 別 平 均 濃 度 を 説 明 変 数 と し た モ デ ル の 結 果 で あ る 。1列 目 に は 、全 て の 非 倫 理 的 行 動 を 被 説 明 変 数 と し た 場 合 の パ ラ メ ー タ の 推 計 値 が 記 さ れ て お り 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 と 非 倫 理 的 行 動 と の 間 に 有 意 な 正 の 相 関 が 確 認 さ れ る 。つ ま り 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の10%の 増 加 は 、 非 倫 理 的 行 動 の 発 生 件 数 を 平 均 的 に 約10%も 増 加 さ せ る 。 ま た 、2列 目 以 降 に は 、 5種 類 の 非 倫 理 的 行 動 を そ れ ぞ れ 被 説 明 変 数 に し た モ デ ル の 結 果 が 示 さ れ て い る 。 表 に よ れ ば 、Drugs 関 連 の 犯 罪 を 除 く 全 て の 非 倫 理 的 行 動 に つ い て 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 は 有 意 な 正 の 影 響 を 与 え る 。特 に 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の10%の 増 加 は Fatal（ 死 亡 ）や Discrimination
（ 差 別 ） 関 連 の 非 倫 理 的 行 動 を そ れ ぞ れ 約3.4%、3.1%も 平 均 的 に 増 加 さ せ る 。
続 い て 、表1の 下 段(Model 2)は 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の 変 化 量（ 前 月 と の 差 ）を 非 倫 理 的 行 動 の 発 生 件 数 に 回 帰 さ せ た モ デ ル の 結 果 で あ る 。1列 目 に よ る と 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の 変 化 量 の10%の 増 加 は 、非 倫 理 的 行 動 の 発 生 件 数 を 平 均 的 に 約9%増 加 さ せ る こ と が わ か る 。 ま た 、2列 目 以 降 か ら は 、（Drugs 関 連 の 犯 罪 を 除 く ）全 て の 非 倫 理 的 行 動 が 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の 変 化 量 に 有 意 な 正 の 影 響 を 受 け る こ と が 明 ら か で あ る 。 特 に 、Fatal（ 死 亡 ） 関 連 の 非 倫 理 的 行 動 に つ い て は 、NO2の 月 別 平 均 濃 度 の 変 化 に よ る 影 響 が 顕 著 で あ る 。
表 １. NO2の 月 別 平 均 濃 度 （ 及 び 月 別 変 化 ） が 非 倫 理 的 行 動 別 に 与 え る 影 響 (N=49,978) Model 1 All Fatal Domestic Discrimination Financial Drugs NO2 density 0.980*** 0.344*** 0.219*** 0.305*** 0.277*** 0.177*
(0.143) (0.070) (0.0487) (0.0536) (0.066) (0.095)
R-squared 0.173 0.070 0.172 0.057 0.088 0.156
Model 2 All Fatal Domestic Discrimination Financial Drugs Change in
NO2 Density 0.892*** 0.385*** 0.237*** 0.273*** 0.238*** 0.116 (0.187) (0.091) (0.0633) (0.070) (0.002) (0.123)
R-squared 0.173 0.070 0.043 0.057 0.088 0.156
注 ： 括 弧 内 の 数 値 は 国 レ ベ ル で ク ラ ス タ リ ン グ さ れ た 標 準 誤 差 。* p<0.1, ** p<0.05, *** p<0.01.
４ ． 結 論
本 要 旨 で は 、 大 気 汚 染 （NO2の 月 別 平 均 濃 度 ） と 非 倫 理 的 行 動 の 間 の 有 意 な 正 の 相 関 関 係 が 示 さ れ た 。 本 会 で は 、 結 果 の 地 理 的 異 質 性 や メ カ ニ ズ ム に つ い て も 報 告 予 定 で あ る 。
参 考 文 献 ：[1] Sivarethinamohan et al. 2021. Mater. Today 37, 2725 -2729. [2] Bondy et al., 2020. J. Assoc.
Environ. Resour. Economists 7, 555 -585. [3] Burkhardt et al. 2019. J. Environ. Econ. Manage. 98, 102267.
