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植物を丸ごと透明化し,中まで蛍光観察する新技術を開発

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794 化学と生物 Vol. 54, No. 11, 2016

植物を丸ごと透明化し 中まで蛍光観察する新技術を開発

細胞レベルでの個体全体の観察を目指して

生物の成り立ち,働きを知るうえで,からだの構造を 観察することは非常に重要である.しかし,多くの生物 のからだは不透明なため,からだの奥深くを直接観察す ることは非常に困難である.これまで,からだの奥深く を観察するためには,からだを解剖して,その切断面を 観察する必要があった.しかし,からだに傷をつけるた め,ありのままの状態を解析することは難しかった.そ のうえ,切断面の観察だけでは二次元情報しか得ること ができないが,からだは三次元の構造なので,もとのか らだの構造を再構築するためには,極めて薄くからだを 切断し,また膨大な数の切断面像を欠くことなくすべて 取得するという,非常に煩雑で難しい作業が必要とな る.そのため,近年,からだを透明にして,直接からだ の奥深くまで丸ごと観察する研究が注目されている.

からだを透明にするとはどういうことであろうか.そ もそも,からだが不透明であるのは,光を吸収してしま う色素などが含まれること,また,からだは屈折率の違 うさまざまな物質で構成されているためである.細胞一 つをとってみても屈折率は均一ではなく,植物細胞の場 合,細胞壁が1.42,細胞質が1.36であるため,照射した 光は細胞を通過するごとに屈折してしまい,からだを まっすぐ通過することはできない.そのため,からだを 透明にするためには,光を吸収してしまう色素を取り除 くこと,そしてからだの中の屈折率を均一にすることが 必要である.

しかしすべてを透明にしてしまっては,自分が観察し たいものも透明になり,何も見えなくなってしまう.そ こで活躍するのが蛍光タンパク質である.蛍光タンパク 質は特定の細胞で発現させたり,特定のタンパク質につ なげることによって,自分が観察したい細胞,タンパク 質などに目印をつけることができるため,からだが透明 になっても観察することが可能である.透明化の研究が 活発に行われ始めたのは,2011年理化学研究所の宮脇 敦史博士のグループにより,蛍光タンパク質の蛍光を保 持したまま,マウスの脳を透明化することに成功してか らである(1).開発された透明化試薬Sca eは尿素,界面 活性剤TritonX-100,グリセロールの3種類の化合物か ら構成される.尿素,界面活性剤の作用により,組織の

隅々にまでSca eが浸透し,からだの中が均一化され る.また,グリセロールはタンパク質や組織の安定化に 寄与していると考えられ,蛍光タンパク質は高濃度の尿 素でも壊れることはないため,Sca eにより透明になっ たマウスの脳を丸ごと蛍光観察することが可能となって いる.

2014年にWarnerらによりSca eを用いた植物の透明 化が試みられたが,十分な透明度を得られるのに1〜3 週間かかると報告された(2).迅速な透明化を阻んでいる のは,植物細胞に豊富に存在する色素,クロロフィルの 存在であった.クロロフィルは葉緑素としても知られ,

太陽光のエネルギーを吸収して光合成にかかわる色素で ある.そのためクロロフィルが存在していると光エネル ギーを吸収してしまうため,蛍光タンパク質を光らせる ための励起光も,光った蛍光も吸収されてしまい,蛍光 タンパク質を観察することはからだの深部になるほど困 難であった.

昨年,筆者らは,クロロフィルを植物から効果的に取 り除くことができる化合物をスクリーニングして,

ClearSeeを開発した(3).界面活性剤としてデオキシコー ル酸ナトリウムを用いることにより,蛍光タンパク質を 壊すことなく迅速にクロロフィルを植物から取り除くこ とに成功した.図1はモデル植物のシロイヌナズナを透 明化したものであるが,葉の緑色が抜け,透きとおって いることがわかる.透明化の手順は簡単で,まずパラホ ルムアルデヒド溶液に1時間浸けて組織を固定した後,

ClearSee溶液に浸けるだけである(図1).植物の組織 によって透明化にかかる時間は変わるが,図1の植物の 場合,ClearSeeを用いると3〜4日間で透明化は達成さ れる.このように透明化することで,めしべの奥深くで 伸びている花粉管の様子も,カラフルに観察することが 可能となった(図2

植物の研究はこれまで,観察の困難さもあり,根・

葉・花というように個々の器官にフォーカスして研究が 行われてきた.しかし,移動できない植物はさまざまな 環境に対応するために,各器官で感知したシグナルを全 身に伝えることにより環境変化に対処するという研究 が,近年注目されてきている.全身的なシグナルの解析

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化学と生物 Vol. 54, No. 11, 2016

には,個々の器官の観察だけではなく,細胞レベルで個 体全体を観察することが重要であり,今回開発した ClearSeeによる透明化技術は重要なツールになると期 待される.

しかし,ClearSeeを用いた透明化にはまだ改善点が

ある.ClearSeeによる透明化には数日間かかることと,

光を吸収する物質がまだ組織に残っていることの2点が 挙げられる.1点目の処理時間については,今年,透明 化にかかる時間を2時間程度にまで短縮したTOMEI法 が開発された(4).この方法では,からだの中を均一する 溶液として,1.52と高い屈折率をもつ97% 2,2′-チオジエ タノールを用いている.2,2′-チオジエタノールにはクロ ロフィルを取り除く作用はないため,クロロフィルを迅 速に取り除く手段として,固定溶液に酢酸・エタノール 混合液といった有機溶媒が用いられている.しかしなが ら,有機溶媒は蛍光タンパク質を壊してしまうため,か らだの内部を観察するためには蛍光色素で染める必要が ある.固定にパラホルムアルデヒド溶液を使うことによ り,TOMEI法でも蛍光タンパク質を観察できるが,ク ロロフィルは残っているため,より奥深くの観察には課 題が残る.

2点目として,ClearSeeでクロロフィルは取り除ける が,まだ残っている色素などが存在する.そのなかで も,細胞壁に存在し機械的強度を担っているフェノール 化合物リグニンは,植物に多量に存在するために,さら なる透明化に向けては取り除きたい化合物である.木材 からリグニンを取り除き,透明化する方法もいくつか報 告されているが(5, 6),亜塩素酸ナトリウムと70〜80 Cの 高温処理により取り除くというように,蛍光タンパク質 には厳しい条件のため,穏やかな条件でリグニンを取り 除く新たな手法の開発が望まれる.適用可能な植物種が 増え,さらなる透明化が達成されれば,野外の植物も詳 細に観察でき,農業現場における不稔や病虫害などの原 因究明・問題解決にも役立つと期待される.

  1)  H.  Hama,  H.  Kurokawa,  H.  Kawano,  R.  Ando,  T.  Shi- mogori, H. Noda, K. Fukami, A. Sakaue-Sawano & A. Mi- yawaki:  , 14, 1481 (2011).

  2)  C. A. Warner, M. L. Biedrzycki, S. S. Jacobs, R. J. Wisser,  J.  L.  Caplan  &  D.  J.  Sherrier:  , 166,  1684  (2014).

  3)  D. Kurihara, Y. Mizuta, Y. Sato & T. Higashiyama: 

142, 4168 (2015).

  4)  J.  Hasegawa,  Y.  Sakamoto,  S.  Nakagami,  M.  Aida,  S. 

Sawa & S. Matsunaga:  , 57, 462 (2016).

  5)  Y. Okahisa, A. Yoshida, S. Miyaguchi & H. Yano: 

69, 1958 (2009).

  6)  Y. Li, Q. Fu, S. Yu, M. Yan & L. Berglund: 

17, 1358 (2016).

(栗原大輔,名古屋大学,JST, ERATO)

図2クリアシーにより透明化したシロイヌナズナめしべ 花粉管を4色の蛍光タンパク質により色分けている.文献3より転 載.

図1クリアシーによる植物透明化

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796 化学と生物 Vol. 54, No. 11, 2016 プロフィール

栗原 大輔(Daisuke KURIHARA)

<略歴>2004年大阪大学工学部応用自然 科学科卒業/2009年同大学大学院工学研 究科博士課程修了,博士(工学)/同年日本 学術振興会特別研究員(PD)(名古屋大 学)/2011年名古屋大学大学院理学研究科 特任助教,現在に至る<研究テーマと抱 負>細胞間コミュニケーションを用いた植 物生存戦略.ありのままを観察する<趣 味>育児

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.794

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