格差と援助の経済学 春学期試験 採点の指針
2011年6月29日
すべておおよその採点基準です。実際に答案には多様性があるので、個々の答案の状況に応じて採点を しています。
「全体的なバランスに加点」というのは、個々のパーツはあっているのに、文章を通しで読むとチグハ グサがあるような答案に対応するために設定している基準です。
I 小問をいくつか [35点]
(1) 社会厚生関数の議論はなぜ必要なのか。[5点]
厚生経済学の基本定理によれば、完全競争下で(パレート)効率な状況が実現することがわかっている が、実現するパレート最適の中には分配が平等なものもあれば不平等なものもあり、いずれのパレート 最適が分配の公平性の観点から望ましいかについては、通常のミクロ経済学の議論では判断できない。
分配の公平性について判断するために社会厚生関数の議論が必要になる。
以上の内容を想定している。
・(通常の)経済学では分配の公正を判断できない
・社会厚生関数を考えることで分配の公正を考える
という2つの論点を説得的に説明してあれば5点をつけた。説明に曖昧さや中途半端さがあれば部分点 をつけた。
(2) 現実の経済政策のありかたを考える上で、ロールズ型価値観と功利主義型価値観のちがいはどのよ うな意味合いをもつか。[10点]
--- 辞書的な説明を2,3行書くだけでは原則として0点 --- 次の2つの区分について書いてあって5点
・ロールズ型価値観:貧困削減、もっとも貧しいものの状況の改善を最優先課題とする
・功利主義型価値観:格差是正
--- ロールズ型価値観の例として MDG に言及したり、功利主義型の例として全国総合開発計画での格 差是正策に言及するなどして具体例を用いた説明をしていて 3点
--- 全体のよさを見て 2点を加算
(3) HDIの作成方法は2010年に大きく変わっている。もっとも重要な変化を一つ取り上げ、簡単に説
明しなさい。[10点]
--- 3要素間のバランスを重視するようになったこと 5点
P.2
--- それを式、あるいは詳しい文章で説明 していて5点
--- 相加平均から相乗平均になったことを書いただけの答案は0点
--- 教育指数の作り方をはじめ、他の論点を書いている場合、その説得力に応じて加点する方針にした。
--- 辞書的な説明を2,3行書くだけでは原則として0点
(4) トリックルダウン仮説について具体例を一つ以上紹介した上で解説しなさい。[10点]
--- トリックルダウン仮説の辞書的意味 3点 --- くわしい説明 7点 (標準5点)
II. 貧困問題、不平等の問題の整理 [25点]
以下の表はエジプトの貧困を整理したものである。表のデータを見ながら(1)(2)の文章を論評しなさい。
Year mean$ H(%) PG(%) SPG(%) Gini(%)
1995.8 97.84 2.46 0.34 0.09 30.13
1999.8 112.19 1.81 0.32 0.11 32.76
2004.5 112.51 1.99 0.39 0.16 32.14
(1) 貧困者比率で見ると、95年から99年にかけて貧困問題が大幅に緩和したが、99年から04年にか けて貧困問題がぶりかえしている。しかし、95年と04年を比較すれば貧困者比率は減っている。そう 考えると95年に比べれば04年はよくなっていると言ってよい。[10点]
95年と04年の貧困状況の比較をする問題である。
--- 何がよくなったのかについては曖昧な出題をしているので、本来は「何について」よくなったかよ くなっていないかを明記する必要がある。その点は全体のバランス点で考慮している。何も明記してい ないかぎり、貧困状況がよくなっている(貧困指数が良化している)かどうかを考えているものとして 答案を読んだ。
--- Hは減少しているが、PG、SPGともに増加している。貧困者比率が減少している一方で極貧層の状
況は悪化していることを意味する。(貧しいものほど状況が悪化している)
このことをきちんと指摘していれば5点
--- PG、SPGが貧困の程度を表す貧困指標であり、Hという貧困者数だけを見る指標ではなく、PG、
SPGを見ることで貧困の程度を加味した貧困状況を理解できることを書いていて3点 --- 全体的なバランスに2点加点
(2) ジニ係数は所得分配の不平等の指標である。ジニ係数は小さければ小さいほど平等であることを意 味する。95年に比べれば04年のジニ係数は大きいので、不平等問題は悪化したと言えるが、99年に比 べれば04年は小さくなっているので、99年と2004年の2カ年を比較するかぎり経済は全体として平 等になっている。[15点]
P.3 この問題は難問です。
---ジニ係数の大小関係だけを見ても平等・不平等の変化を判断できないこと、正確にはローレンツ曲線の変 化を見る必要があることを指摘していて3点
---所与のデータでは PG、SPG の悪化を観察できるので、貧困層の所得状況が悪化していることがわかる。
低所得層の所得が全所得に占める割合が小さくなっているという意味での平等の悪化が生じていることはあ きらかである。その点を指摘していれば5点 (1)でそのことをきちんと指摘しており、その点に言及する のでも可
--- 以上の判断をする上で全体の平均所得が 99年と04年とでほとんど変わらないことにも注意し、貧困層 になるほど所得状況が悪化していることが貧困層になるほど絶対所得が低下することに通じ、ロールズ型価 値観、功利主義型価値観のいずれを想定しても社会厚生の低下を示唆することを分析していれば5点
--- 全体的なバランスに2点加点
III ODAの目的 [30点]
アメリカ合衆国のODA機関であるUSAIDは以下のように援助目的を説明している。
The United States has a long history of extending a helping hand to those people overseas struggling to make a better life, recover from a disaster or striving to live in a free and democratic country. It is this caring that stands as a hallmark of the United States around the world -- and shows the world our true character as a nation.
U.S. foreign assistance has always had the twofold purpose of furthering America's foreign policy interests in expanding democracy and free markets while improving the lives of the citizens of the developing world. Spending less than one-half of 1 percent of the federal budget, USAID works around the world to achieve these goals.
USAID's history goes back to the Marshall Plan reconstruction of Europe after World War Two and the Truman Administration's Point Four Program. In 1961, the Foreign Assistance Act was signed into law and USAID was created by executive order.
Since that time, USAID has been the principal U.S. agency to extend assistance to countries recovering from disaster, trying to escape poverty, and engaging in democratic reforms.
(1) アメリカ合衆国の援助目的を説明しなさい。[10点]
--- アメリカ合衆国の援助目的は第一に民主主義の普及に貢献することである.その点を明確に書いていれば 3 点 (引用した資料は、民主主義国家のリーダとして民主主義の普及に努めることが合衆国の援助目的で あると読めます。)
--- 途上国の厚生の増加に貢献することも書いているが、それを民主主義の普及とただ並べるのではなく、二 義的な扱いになっていると書いて3点
--- 全体的なバランスに4点
P.4
(2) 日本の旧ODA大綱とアメリカの援助政策とを対比して何らかの考察をしなさい。最終的な結論には下線 を引くなどして、言いたいことを明瞭にしてください。[20点]
正解があるわけではありません。
解答例
・日本の ODA 大綱では民主主義国であることは援助をするための最低条件でしかないが、合衆国の援助で は民主主義国家の状況をよくし、民主主義の発展を期することそれ自体が目的になっていることを強調する 論
・どちらも普遍的価値の追求を強調しているが、合衆国の援助目的では民主主義の普及=普遍的価値の追求 であるのにたいして、日本の援助目的は社会厚生関数の議論で理解できるような分配の公正性に関する要素 が強いというような論
どのような解答であっても、資料に基づいたものであり、論理的なものであれば 20 点をつけます。論述が 弱ければ10点、5点などの部分点をつけます。採点者と考えが同じであるかどうかは採点にあたって重視し ません。
IV 全国総合開発計画 [20点]
全国総合開発計画の変遷を整理しながら、日本の地域政策の変化を説明しなさい。[20点]
・戦後復興がトリックルダウン仮説で理解できるような四大都市優先政策でおこなわれ地域間格差が拡 大したので、全総開始のころは地域間の所得格差を縮小する政策理念が明瞭だった。
・三全総の頃には格差縮小の成果がほぼ出つくし、格差縮小の政策理念も薄れていく。
・現在は地域間の所得格差の是正よりも、各地域の地域的意思決定を各地域でおこなえるようになるよ うな地域の自立の実現が政策の主要目標になっている。
以上3つについて言及していれば基本的には10点。内容の濃さに応じて20点、15点などがつく。