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格差と援助の経済学参加型開発 参加型開発 - Keio

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格差と援助の経済学 参加型開発

2006年

慶應義塾大学経済学部 大平 哲

参加型開発

目 次

1 背景 1

2 目的としての参加 3

2.1 地元主権 . . . . 3 2.2 エンパワーメント . . . . 4

3 手段としての参加 4

3.1 固有事情を知る者の参加 . . . . 4 3.2 参加に関する統計的事実 . . . . 4 3.3 協力関係 . . . . 5

1 背景

参加型の開発は従来の大規模開発方式に対するアンチテーゼとして始まった側面が強い。そのため、経 済学の発想というよりは、反経済学の思想に支えられて発展してきている。代表的な学問分野としては、

文化人類学や社会学を指摘することができる。

伝統理論 新しい理論 経済学 経済成長論

社会学 近代化論 内発的発展論 他 単線的発展 複線的発展

反経済学の考え方はalternative developmentという言葉に象徴される。この言葉は1977年のスウェー デンのダグ・ハマーショルド財団が発表した『もう一つの開発−いくつかのアプローチと戦略』に始まる。

そのレポートでは近代化に代わる新たな発展の道を模索している。

最近になってからは、主としてセンの潜在能力の議論を理論的基礎にして、経済学の発想でも「いわゆる 経済的な手段による経済的な目標の達成」という開発観から、狭い意味での経済を支える基礎を総合的に高 める開発観への転換がおこなわれている。たとえば、人間開発指標を見る発想は、所得のほかに少なくとも 教育水準と保健・衛生状態を表す指標を改善することが経済発展の手段になると考える。また、所得、教育 水準、保健・衛生状態を改善することは開発の目的でもあるという考え方をする。alternative development の概念に対して、最近はalternative development economicsという用語がつかわれるようになってきてい る。反経済学という思想ではなく、経済学の道具を用いてalternative developmentを考えようという流れ である。

(2)

鶴見和子『内発的発展論の展開』筑摩書房、1996年では、「それぞれ多様な個性をもつ複数の小地域の 事例を記述し、比較することをとおして、一般化の度合いの低い仮説あるいは類型を作っていく試みであ る。(p.36)」とあるように、内発的発展論を確立された理論として提示するのではなく、理論を形成するた めの準備作業的なものとして提唱する。

そこでは、内発的発展を次のように定義する。

目標は「地球上すべての人々の基本財の充足」

そのような目標を実現するであろう社会のすがたと、人々の生活のスタイルとは、それぞれの社会お よび地域の人々および集団によって、固有の自然環境に適合し、文化遺産にもとづき、歴史的条件に したがって、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に創出される。(p.9)

内発的発展論の主張 古い開発観 多様性

自律性 トップダウン

地域性 近代化論が国家を単位とするのとは対照的 小規模

共通の紐帯と社会的相互作用 伝統の再創造もともなう

宮本憲一『環境経済学』岩波書店(1989)は次の4項目を列挙する。

1. 地域開発が大企業や政府の事業としてでなく、地元の技術・産業・文化を土台にして、地域内の市場 を主な対象として地域の住民が学習し経営するものであること。

2. 環境保全の枠の中で開発を考え、自然の保全や美しい町並みをつくるというアメニティを中心の目的 とし、福祉や文化が向上するというような総合され、なによりも地元住民の人権の確立をもとめる総 合目的をもっているということ。

3. 産業開発を特定業種に限定せず複雑な産業部門にわたるようにして、付加価値があらゆる段階で地元 に帰属するような地域産業連関をはかること。

4. 住民参加の制度をつくり、自治体が住民の意思を体して、その計画にのるように資本や土地利用を規 制しうる自治権をもつこと。

共通しているのは、地域住民の自治を重視する姿勢、すなわち当事者による意思決定を重要とする考 えである。

ただし、外部者の援助なしに開発をすすめることを主張しているわけではない。

古典的な開発観をモノ中心の思想、新しい開発観を人間中心の思想と理解することもある。

反経済学の点で起源は同一でも、異なるいくつかの手法で参加型開発の議論がおこなわれてきたことや、

最近は経済学の手法を用いる者も参加型に注目するようになってきているので、議論は混乱することが多 く、同じ参加型という言葉を用いながら論者によって異なる意味を読み込み、議論にすれちがいがおきる ことが多い。

議論の混乱を整理する試みとして佐藤(2003)1では次の区別を指摘する。

1参加型開発の再検討 佐藤寛編『参加型開発の再検討』所収

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理念と手法

手段と目的

メリットとデメリット 誰にとってのの違いという側面 以下では手段と目的に分けて、論点を整理する。2

2 目的としての参加

2.1 地元主権

1. 地元主権とでも呼ぶべき思想が根底にある。ある地域の経営の決定の主体はそこに住み人々であると いう考え方である。

2. ただ地元に住んでいるというだけでなく、その地域に今後も長く住み続ける人を地元の人と理解す る。経済活動を現在おこなうことで、現在から将来にかけて便益も費用も発生する。とくに環境問題 が重要な場合には、現在の経済活動の費用を将来になって負担することが多い。また、一時的なブー ムをあてこんで過大な投資を現在おこなうことで、短期的利益を得るものの、長期的には過大投資の ツケを払わなければいけないケースも、同じような状況として理解できる。

3. 一時的にその地域に住んでいる人は現在の便益だけを享受し、将来には別の地域へ移住することもあ りうるので、100パーセントの主権者とはみなさない。

4. 長く住みつづけることを指す言葉として(開発)プロセスという言葉を用いることがある。スタート 点、ゴール点のない永続的な時間の流れをプロセスと理解し、そのプロセスの中の一部だけに参加す る援助側主体と、プロセスの中で生きる地元民との区別をする。

5. 現在の経済活動による便益も費用も払う人間の意思をもっとも高く評価する。

6. このような考えは必然的にプロジェクトの計画・立案への地元民の参加を必要とする。

7. ここで地元民と書いたものが内部者、プロセスの一部のみに参加する者が外部者と分類することが可 能だろうか。

- プロジェクト

2この整理の前提として、誰にとっての目的なのかも本当は議論する必要がある。また、「誰の」参加を重視するのかも本当は必要。

(4)

2.2 エンパワーメント

1. 人間開発指標では、所得指標だけではなく、教育水準や保健・衛生水準を開発の指標として見る。

2. 財だけではなく、それを自分のために使いこなす「機能」が備わることも人間の総合的な生活水準を 向上させることにつながるという考えであり、機能を代表する指標として教育水準や保健・衛生水準 に注目する考えである。

3. 人間開発指標で注目している「機能」は一般性を確保するための抽象度の高い概念である。実際の生 活の中で必要なのは、その地域特有の環境の中で生きていくための「機能」である。

4. 地域特有の生活のための「機能」を獲得するには、その地域の経営に実際に参加することが最良の方 法である。

5. 人々の機能を向上(エンパワーメント)させるために参加型開発が必要になる。

6. 機能を獲得することで、さらに開発がすすむという意味で、参加型開発の手段としての側面も説明で きる。

参加 → 学習 → 機能の向上

3 手段としての参加

3.1 固有事情を知る者の参加

多様性の強調

ステレオタイプの否定

類似事例の適用不可能

統計分析も否定

とくに批判の対象になったのが世界銀行、IMFのパッケージ

といったことが最近は開発の現場で強調されるようになり、もっとも極端な意見としては、あらゆる先行 事例、理論の役割を否定する考えができた。この考え方に従えば、ある地域の開発の方法は、その地域に 長く住んでおり、地域の実状をくわしく知る人の意見に従うのが最善である。

シューマッハの適正技術も同じような考え方である。その地域に導入すべきはその地域の実状にあった 技術であり、先進国で最適な技術ではないとする。

3.2 参加に関する統計的事実

世界銀行『有効な援助』東洋経済新報社、2000年3では、受益者が参加することがプロジェクトの成功 に結びついていることを統計的に示す。

3Assessing Aid: What Works, What doesn’t, and Why, 1998。ここで利用している資料はIsham, J., D.Narayan and L.Pritchett, “Does participation improve project performance : establishing causality with subjective data,World Bank Economic Review, 1995に依拠している。

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プロジェクトの成功率 参加度が高いプロジェクト 68%

参加度が低いプロジェクト 12%

より重要なこととして、受益者を参加させようと積極的に努力した実施機関とそうでないものとの間の 成功率のちがいだった。

プロジェクトの成功率 参加を目標としないプロジェクト 10%

参加を重要な目標としたプロジェクト 62%

いくら成功率を高めるものであっても、同時にコストを増大させるものであったら、参加型開発を推奨 できるわけではない。この点についてはHentschel (1994)4 が検討しており、そこでは参加による便益が 費用を下回ることはないと結論している。

3.3 協力関係

1. 開発の現場では5多様な個人と多様な機関が共通の目的のために連携することで開発が効率的にすす むと期待されることが多い。また、連携なしには開発が始まらない場合もある。

2. 連携には信頼関係が前提になる。

3. トップダウン型の組織よりも、トップダウンとボトムアップがバランスよく組み合わされた組織の方 が信頼関係を作り出すのに適している。

4. リーダーだけでなく、一般の人も参加することで、共通の問題を抱える人々すべての間の信頼関係を 作り出すことができる。たとえば、援助側と被援助側との間の信頼関係を考えることができる。

5. 実際に地域作りに参加することで、自分の住む地域に対する愛情も育まれる。

そのためにはオーナーシップ(その地域の所有者意識)をもつことができるような参加のありか たを探す必要はある。

開発の成果だけでなく、開発のプロセスに参加することで満足を感じるという意味で人々がエー ジェントであることは前提にしている。

6. 一人一人の地域愛と互いの信頼関係が強まることを通じて開発=地域作りがすすむ

4Does Participation Cost the World Bank More? Emerging Evidence,Human Resources Development and Operations Policy Working Papers, 1994

5開発の現場に限らず、実社会では一般に。

参照

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