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滋賀大学経済学部におけるマルクス経済学研究について(第300号発刊記念)

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滋賀大学経済学部 にお け る

マ ル クス経済学研 究 につ いて

中 阜 太 I 問 題整理の枠組 小論 では1949年に新 たに発足 した滋賀大学経済学部 におけ るマル クス経済学 研究の主要 な内容 と特徴 を概観す ることが 日標である。 このような作業は周知 の ように極めて困難な ものである。個性的な研究者の精魂 をかたむけた夫々の 専 門的研究の学問的全体像 とそれ らの特徴 を正確 に把握す るこ とな どは到底で きない相談で しかない。加 えて,マ ル クス経済学 とい う領域 は,そ の対象範囲 の広域性,学 際的構造性 な どの基礎構造の外に,実 践的な政策 と運動に密接に 運接 しているとい う,近 代的諸個別科学 とは異なった学問的特質 を有 している。 具体的には基礎理論 としての狭義の経済学,そ のいわば応用 としての広義の経 済学 (社会主義経済 も含む),学際的に政治経済学 を基軸 とす る隣接諸個別科学 (特に哲学,政 治学,社 会学,歴 史学)の 社会科学的総合体系 を形成 している と言 えよう。マル クス経済学 な る範疇 を H・ ルフエー ブルに従 って よ り総括 的に把握す るとすれば,マ ル クス主義 は矛盾の 自然的,歴 史的,論 理的現実性 を発見 し,そ のことによって様々な矛盾が明白になっている現在の世界 を意識 し矛盾 とその解決 を志向す る世界観 であ り,科 学 と哲学の広大な綜合=マ ル ク ス主義の内部組織 をもつ,そ れ 自身が歴史的社会的条件に応 じて変化 し発展す 1)H.ル フェーブル,竹 内良知訳 弁証法的唯物論 という名称の方が, 確に適合す ると言 う。 29頁 2)前 掲書 29頁 『マル クス主義』 白水社 1 9 7 1 1 7 頁 。ルフェーブルは, マル クス主義 とい う習慣的な言い方 よ りもいっそ う正

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38 第 300号発刊記念 (第301号) る独 自の範疇 に属 す る。従 って経済学 は史的唯物論 に密接 に関係す るよ うな, マ ル クス主義 の 「土 台」,す なわ ち下部構造 に拘 わ る科学であると位 置づ け るこ とが 出来 る。留意すべ きこ とは,こ の こ とは決 してマル クス主義 の経済学へ の

還元を意味しないし,む しろ人間活動が経済学をはみ出るのである。現段階で

は,基 礎理論 ・政策応用 ・歴史分析という研究区分は可能であるが,そ の学問

的特徴 はむ しろ前述 した隣接諸領域 との学際的な新 しい諸問題がより広い視角 か ら提起 されつつある点にこそある。 勿論,今 や分析対象領域が著 しく多様化 し,原 理が相対化 されているにせ よ マル クス経済学では経済現象の分析 ・説明 ・政策決定 という近代経済学に一貫 す る実用学 ・技術学的な接近 とは異 って,各 種の経済法則 として現われる傾向 析 出を通 じて主 として資本主義社会 (経済に とどまらず)の 構造 と特質が,Vヽ わば内生的に追求 され る。例 えば,価 値論についてこの″点は極めて明確 に現れ る。近代経済学においては価値論は基本的に不用 とされるのに対 し,マ ルクス 経済学では,そ れは全体系の始源的重要性 をもっている。即 ち,(1)商品生産 (社 会的分業 と私有)と い う形態での社会成員の協初修)労働価値説を可能 とす る基 礎概念(3)商品生産下での労働 の特殊性 (物象化 とその克服可能性)に )等価 ・不 等価性 (脊取概念)の 析 出脩)所得 (特に利潤)源 泉把握の基底, という諸″点が 指摘 され る。 総 じて価値論 こそがマル クス経済学の学問的特質 と射程 を基礎づ けていると 言って も過言ではない。 そこか ら 「労働 の二重性」 とい う視座―労働 とは対 自 然/対 他 とい うふたつの関係の関係 (二重の構造)一 が初めてマル クスによっ て提出され,そ れ を基底 として商品フェティシズム という資本主義社会の最 も 深層の特質が析 出されたのであった。換言すれば,マ ル クス経済学 とは,そ の 本質において,経 済か ら社会 を分離 させ,前 者 をむ しろ技術学的に取扱お うと 3)ア ン リ ・ルフェーブル,森 本和夫訳 『マル クス主義の現実的諸問題J現 代思潮社 1958 76-83頁 参照 4)前 掲書 142-143頁 5)前 掲書 30-31頁 参照 6)置 塩信雄 『資本制経済の基礎理論』創文社 昭 42 25-38頁 参照

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す る視座一 つ ま り自然のみに対応す る関係性 としての使用価値 ・素材 。もの的 経済理解― に対す る決定的な批判 ・分れ 日にほかならない。 この ようなマル クス経済学は,今 日,世 界史的な意味で大 きな転機 にある。 80年代 に入ってのアジア地域 を中心 とす る途上国の 目ざましい発展,既 存の行 政型社会主義の沈滞,新 しい広汎 な左翼の形成,先 進資本主義国の国際化 と相 互協カ システムなどが引金になって,既 存の社会主義思想が壁につ き当 り,91 年終 りの ソ連邦の崩壊 によって深刻 な理論的危機 に直面 していることがその内 容 である。 この結果,こ れ らの学問的危機 を端的に象徴す る言表は,80年 前後 よ り明確 になって きた脱構築 (ポス ト・モダン)的 諸視座 によるマル クス主義 (経済学)の 組みか えであ り,マ ル クス経済学 その ものの存在根拠 を問お うと す る諸見解 であった。例 えば,マ ル クスは別の経済学体系 を創 出 したのではな く,経 済学批判 とい う形で,経 済学 とい う形而上学的思考 を内在的に批判 し資 の 本制の秘密 をあば きだす作業 をおこなったのだ とい う視座が広 く提示 され,そ れは又,社 会主義社会への移行必然性,ひ いては社会主義経済の非商品 ・非市 場型モデルヘの理論的批判 ・疑間 を生み出 し,積 極的には所謂市場社会主義 モ デルヘの志 向性 を生み出 している。更に,非 西欧地域 とくにアジアを軸心 とす る資本主義の世界 システム化 に対応す る新 しい反 システム的諸論考,地 域 (特 にアジア)研 究 などの新 しい接近が,こ れ らに複雑 にか らみ合 って,マ ル クス 経済学研究の地平 を大 きく深刻 に編改 しつつあるのが現状 である。従 って以下 では夫々の現代的射程 を意識 して行論 を進めたい。 H 経 済 学部 におけ るマル クス経済 学研 究の編成 と特徴 学部 におけ るマ ル クス経 済学 の研 究 の人的系 譜 を辿 ってみ る と,1949年 度 に 本 学経 済学部 が,旧 制 経専 をひ きつ いで新 たな学 問的展望 を もって発 足 したが, 7)山 崎 カヲル 〈マル クスの労働概念一解 読格子の変換のために (二)一 〉「思想」1983・3 岩波,182-188頁 参照 8)前 掲論文 174-179頁 参照 9)例 えば今村仁司 『批判へ の意志J冬 樹社 1883 26頁 参照

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40 第 300号発刊記念 (第301号) 略 々,時 期 を一 に してマ ル クス経 済学 を経済原論 講座 として担 当 され たのは, 47年京大経 済学部 よ り転 出 されて きた新進気鋭 の 白杉庄一郎教 授 であ った。爾 後,1960年 3月 まで本学部 のマ ル クス経 済学研 究 の重鎮 として教 鞭 を とられ, 研 究面 では東 の宇野 弘蔵教 授 と比肩 され る西 の代 表 的研 究者 として我 国のマル クス経 済学 の発展 に画期 的 な業績 を通 じて本質 的 な貢献 をされてい る。 白杉教 授 こそ文 字通 りの経済学部 のマル クス経済学研 究 の礎 を きづ いた先駆者 であ っ た といえよう。その後の学部におけ るマル クス経済学研究に関連す るあらゆる 分野で 白杉教授の学問的影響 は,計 り知れない広 さと深 さをもち,近 代経済学, 経営学の諸分野に も大 きな刺撃 を与えつづけた。教育的に も旧来,存 在 しなか ったマル クス経済学研究の領域 を制度的に確立 し,い わば学部のマル クス主義 研究の爾後の学問的伝統 を創 りあげた人物 といって過言ではあるまい。筆者 も 40年以前,学 部学生 として教授の経済原論の講義 をうけ,資 本論第一巻の価値 論 の分析 を中心 とし,特 に労働の二重性の意味 を懇切,詳 細に説かれ る教授の 熱情あふれ る温容 と社会的矛盾 を鋭 く易J挟され る張 りのあるお声 を昨 日の如 く 想起 で きる。 このように白杉教授の存在が余 りに も大 きいため,小 論では主た る行論の対象 を自杉理論体系の基本 内容 とその現代的意義に専 らしぼって本学 部 におけ るマル クス経済学研究の特質 を整理す る方法 をとりたい と思 う。 白杉 教授のあ と経済原論 を担 当されたのは松尾博教授 である。松尾教授は1952年本 学部 に着任 され85年に退官 され る迄30年以上 にわたってマル クス経済学の基礎 理論及び経済学史 を担当され,特 に1960年以降は経済原論 を講義 され,自 杉教 授の残 したマル クス経済学の体系化 に大 きな学問的足跡 をのこされている。松 尾教授 は京大大学院 を終了されてか ら殆 ど間をおかず本学部 に気鋭の少壮学者 として赴任 された関係上,い ろいろな論稿 の中で触れ られている如 く,白 杉教 授 に親 しく師事 され,自 杉教授の研究 を最 もよ く理解 され,更 にその体系 を創 10)マ ル クス経済学の原論担 当者 ・科 目などについては,滋 賀大学史編集委員会編 『滋賀大 学史』平成元年 第 2章 を参照 11)詳 細につ いては 『白杉庄一郎博士追悼論文集』同学生刊行委員会 昭 37 参 照 12)「 彦根論叢一松尾博教援の退官記念論文集」第234.235号 参照

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造 的 に発展 させ た方 であ る と言 え る。松 尾教 授 が30年以上 にわた って 白杉経 済 学 の体 系 の独 自性 と先 駆性 を学 問的 に探 求 し,白 杉教 授 の軍 な る継承 では な く, 独 自の視座 を開墾 され た こ とは,い わば 白杉 =松 尾体 系 として,本 学部 におけ るマ ル クス経 済学研 究 の草創期 と発展期 前半 の研 究 ・教 育両面 にわた る一つの 伝統,或 は学風 を創 りあげ る上 で決定 的 な役割 を果 た したのであった。松 尾教 授 は教 育 者 として も極 め て熱心 にいわば全 人的 に学生 を智導 され 、又大 学院 の 革創期 に研 究 ・教 育上 の リー ダ シ ップ を とられ大学院 を育成 され た。再 度私事 に わ た るこ とをお許 し願 い たいが,筆 者 は本学部学生時代 と本学部 に奉職 して 以 降,松 尾教 授 の指 導 を うけ た関係上,教 授 の学風 と学 問・教育へ の情熱 は身 近 に感得 で きた。 更 に1971年秋 に は経 済学批判要綱 の若 手研 究者 の第一 人者 である山田鋭夫氏 (現名 古屋 大学 )が 着任 され,松 尾教 授 を助 け てマ ル クス経 済学 の基礎 理論 の 各科 目を担 当 され,10年 にわ た って研 究 と教 育 面 で大 きな刺 激 を与 えた こ とも 特筆 され よザ。 山田助教 授 の後 に赴任 され たのが,梅 沢直樹教 授 であ る。梅 沢 教 授 は主 として転 形 問題 を中心 とす る価値 論 と現代 資本主義論 の研 究者 であ り, その厳密 で問題 意識 の明権 な学風 は本学部 に新鮮 な風 を吹 きこんだ。荒木迪夫 教 援 は本 学部 に 山形大学 よ り赴任 され 9年 間在住 され て本年 (96年)3月 で退 官 され た。 その問,御 専 門であ る価値 形 態論 の研 究 を中心 に松 尾教 授 退 官 の後 の学部 の研 究 ・教 育両面 で指 導的 な役割 を果 た され た。更 に近藤学助教 援が近 年 短期 大 学部 よ り着任 され,マ ル クス経 済学 を環境 問題 等 を媒介 として一 層具 体 化 しよ う とす る方法論 は新 しい地平 を開拓 して い る。最近,日 中英 明助 手 も 東大 か ら着任 して い る。 以上 の よ うな人的構 成 を もつ マ ル クス経 済学 の原論 的講座 は,最 近 大 講座 制 13)松 尾博 「白杉庄一郎先生の業績一経 済学史お よび経済史におけ る一 」『白杉庄一郎博士追 悼論文集』参照 14)山 田助教授の初期の研究 として,山 田鋭夫 ・森 田桐郎編著,講 座マル クス経済学 6,『 コ メンタール経済学批判要網』(上),同 7,同 (下)日 本評論社 昭49をあげてお く。 15)近 藤学 『マル クス経済学概論』1995。共著 『市場 と体制一経 済体制論研究序説』1988 滋賀大学経済学部研究叢書第15号参照

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42 第 300号発刊記念 (第301号) の基礎理論 に改変 され,我 国パ レー ト研 究 の第一 人者 であ り,幅 広 い学史関係 の科 目を長年 にわた って担 当 され て きた松 島敦茂教 授 とも学 問上 の協 力関係 を 通 じて本学部 のマル クス経済学研究 の新 たな基軸部 門 となってい る。 基礎理論 以外 のマル クス経済学 の視座 を踏 まえた応用 。政策 ・比較経済の各 分 野 では,本 学部 で約 30年 にわた って教鞭 を とられ た社会統計学 の有 田正三教 授 が お られ る。教 授 は蛤 川虎三教授 の学 問的影響 の下 で,社 会科学 としての統 計学 を独 自に構築 しようと志向 され, ドイツ社会統計学派の厳密な理論的研究 に一貫 して情熱 をそそがれた。他方社会科学 としての経済学研究 と教育 とい う 点 で学生に深い影響 を与えられ,例 えば専 門演習では資本論の学習 も必須の対 象 とされていたことは有名 である。社会政策 を担当された河野稔教授 も1969年 に関西大学 よ り赴任 され爾後約20年にわたって社会政策の理論的体系化 を引続 き一貫 して追求 され,本 学部の社会政策講座 を独立 した社会科学の領域 として 確立 された功績は著 しい ものがあるといえよう。現在,社 会政策 。労働経済論 の各科 目を担当 しているのは,美 崎皓教授 と成瀬龍夫教授 である。美崎教授は, 既 に我国におけ る労働市場構造の厳密 な実証的研究で著名 な研究者である。主 著 『現代労働市場論』 では,現 代的な相対的過剰人口の存在構造,労 働市場の 重層構造,労 働 問題 と結合 した農民層分解論 とい うマル クス経済学の根幹的問 題 に対 し明快 な理論的分析がなされている。相対的過剰人 口の現代的特徴 とは 古典的 ・広義の潜在的過剰人 口を新 しい資本蓄積欲求に適合 させ る積極的労働 力政策 であると総括す る視″点は現在資本主義把握の鍵 を提起 している。労働市 場の階層構造に関 しては,ア メ リカ,イ ギ リス, ドイツ及び 日本の各労働市場 の重層的特質について,夫 々の専 門的研究 を十分 に検討す ることによって現代 的条件下での労働の分割 固定化 ・序列化の理論的構造 を分析 している。更に農 16)松 島敦茂 『経済か ら社会へ=パ レー トの生涯 と思想』みすず書房 1985参 照 17)有 田正三 『社会統計学研究』 ミネルヴァ書房 昭 38 参 照 18)河 野稔 『社会政策の歴史論理 (序説)』法律文化社 1954 同 『社会政策研 究』同社1986 参照 19)美 崎皓 『現代労働 市場論一労働 市場の階層構造 と農民分解―』農村漁村文化協会 昭 54 参照

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民層の分解 については,国 家独 占資本主義の 占有的規制 として把握 される積極 的労働力政策の展開 と意義 を詳細に分析 している (第3章 )。更に労働市場の極 めて級密 な実態調査が これ らの結論に陸離たる光彩 を与へている。総 じて教授 の学問的役割は先駆的であった。 成瀬教授 は視座 の広 い独創的な研究で知 られ るが,そ の長年の研究成果の理 論的集大成 とも言 える 『生活様式の経済理論』は,生 活様式の経済学的概念 を 包括的な,生 産様式の対概念 として,消 費サー ビス労働 を媒介 とする家族 と生 活手段 の結合 として厳密 に規定 し,生 産様式,労 働様式 との関係 を極めて具体 的に理論化 している。又戦前の所謂 「ア メ リカ的生活様式」 を実証的に分析 し 戦後の 日本 におけ る生活様式 との理論的な接合 を,い わばアジア的生活様式か らの脱却,一 つの文化受容 として説得的に分析 している。一言を以つて覆えば 労働力再生産論の新 しい地平 を開いたその理論的具体化 といえよう。 荒井毒夫助教授 は気鋭の研究者 として主 としてフランスにおけ る労資関係の 実証的な分析 に新 たな領域 を開拓 しつつ ある。 財政学の分野では仙 田左千夫教授 の名 を逸す ることはで きない。教授は34年 間にわたる本学部 での活動 を終 えられて昨年 3月 に退官 されたが,本 学部の第 1回 卒業生であ り,金 融論の片山貞雄教授 と並んで本学部の形成・発展期にあ らゆ る意味で大 きな影響 を与 えた といえよう。仙 田教授の研究対象は一貫 して イギ リス財政の歴史的研究であ りその成果は 「イギ リス公債制度発達史論」 を は じめ とす る著作 ・論稿 に結実 し学界で新 しい領域の開拓 として高い評価 をう けている。教授は 自身の研究 を広義の経済学 として位置づ け られ,狭 義の経済 学 たる財政学の理論的分析 にその成果 を積極的に包摂 しようとす る学問的姿勢 を堅持 され,何 よ りも徹底 した実証的歴史研究 を土台 とす る社会科学的 接近 20)成 瀬龍夫 『生活様式の経済理論―現代資本主義の生産 ・労働 ・生活過程分析―』御茶の 水書房 1988 参 照 21)荒 井壽夫 「最近 のフランス 自動車産業 におけ る労働 と雇用の変容」彦根論叢 第268号参 照 22)仙 田左手夫 『イギ リス公債制度発達 史論』法律文化社 1976, F十 八世紀 イギ リスの公 債発行一公債発行 と金融社会一』啓文社 1992 参 照

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44 第 300号発刊記念 (第301号) を確 立 され た研 究者 であった といえ よ う。現在,財 政学 を担 当す る北村裕 明助 教 授 は,イ ギ リスの現代 の財政 改革 を広 い社会科学 的視 野か ら分析 してい る。 さて歴 史学 の分 野 では熊野聰教 授 (現名 古屋大学)が 長年 にわたって経済史 原論 及 び西洋経 済史 を担 当 し,マ ル クス経 済学 に基づ く国家 ・共 同体 の理論 的 解 明,更 に北欧初期社会 の実証 的研 究 に大 きな足跡 を残 されてい る。現在 は, 筒井 正 夫助教 授 が近 。現代 日本 経 済 史 の講義 を担 当 され グローバ ル な視角 か ら 戦 前期 の我 国の農 民階層分析 を出発 ″点として近 ・現代 の 日本 ・ア ジアの近代化 の意味 を再検討 され てい る。最後 に国際経 済の領域 では筆者が30年にわた り前 半 は国際経済論,後 半 は国際経済関係論 を担 当 してい る。研 究 目標 としては不 等価 交換 (国際的搾 取)を 基底 とす るマ ル クス経 済学 におけ る国際経 済論 の構 築 であ り,後 半 での焦点 は世 界 システム論 におけ るア ジア経済の理論化 であ る。 現在 ,国 際経済総論,ア メ リカ経 済論 を担 当す るのは小倉 明浩助教 授 であ る が,ラ テ ンア メ リカ途上 国の貿易政策 ・構 造 の理論 的解 明 を通 じて南の視座 か らの世 界経 済 の構造分析 を志 向 して い る。 又数年 間にわたって国際経済総論 を 担 当 され た羽 鳥敬彦助教授 (現関西大学)は ,植 民地幣制 の研 究 を中心 に大 き ( 補註 ) な成果をあげた。 さて以上のような構成をもつ本学部のマルクス経済学研究の特徴はどのよう なものであろうか。前述 したように個々の研究者の個性 と対象それに方法論 を 単純に通約することは基本的には不可能だが,や は り基礎理論 を基軸 とする学 問的系譜より判断すれば,本 学部における略々半世紀にわたって受けつがれて きたマルクス経済学研究の特徴 。学風は一言でいえば,極 めてアカデ ミックで 23)北 村裕 明編著 『現代 イギ リス地方 自治の展開』法律文化社 1993 参 照 24)熊 野聴 『共 同体 と国家の歴史理論』青木書店 1976. 『 北欧初期社会 の研究― ゲルマ ン的共 同体 と国家― 』未来社 1986 参 照 25)筒 井正夫 『近代 日本 の行政村』(共著)日 本経済評論社 1991。 「『政党政治』確立期 にお け る地域支 配構造(1)∼“泊 彦根論叢244・245・248・249号 1987・ 1988 参 照 26)中 革太一 『世 界市場 と国家資本主義の連節構造』滋賀大学経済学部研究叢書第13号 19 86参照 27)小 倉明治 『激動期 の国際経済』(共著),世界思想社 1992 『 日本貿易読本』(共著)東 洋 経済新報社 1992 参 照

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あ リリベ ラルであったこ とである。 この ような表現は論者によれば学問全般 に 当然の ことと反論 され るか も知れないが, しか し太平洋戦争の敗戦後,反 動的 伝統的価値観 の解体過程 の中でマル クス主義が思想或は実践 としてその評価 は 多々あるにせ よ,巨 大 な政治的動力 とな り,イ デオロギー化 してい く傾 向の中 で終始一貫 して学問的 自律 を堅持す ることは簡単 なことではあるまい。換言す れば,ア カデ ミックで リベ ラルな学風は,本 学部のマル クス経済学研究の成果 として学際的多様化,原 理の相対的拡大深化,新 しい領域の創出などの言表で 示 され よう。 より具体的には,平 均原理への限界原理の積極的摂取,労 働価値 論 の多様化,価 値形態論の深化,転 形問題への新 しい視座,更 に応用部門では 各領域 でマル クス経済学に基 く個別科学化への多様 な努力があげ られ よう。 この ような好 ましい学風が創 られたのはやは り白杉教授の存在が大 きか った と考 えられ る。 この意味で,以 下の行論では白杉経済学体系 を主 として,本 学 部のマル クス経済学の基礎理論研究の主要 内容 とそれ らの現代 的意味一現在的 状況への射程 を検討す ることによって本学部におけ るマル クス経済学研究の学 問的状況 を総括で きると考 える。 IH 白 杉経済学体系の検討 と意味 (1)「国民経済学研究」の理論的射程 この著作 は ドイツ歴史学派の学史的研究であ り白杉博士の学問的出発点であ るが,単 なる学問的成果 をはるかに越 えて博士のいわば学究 として立たれた主 体的モニュ メン トとなっている。博士の出 自,驚 くべ き苦学力行更に人間的苦 悩 な どが凝縮 しているのみならず,学 問的には何敵マル クス学徒 として出発 し なが らこの研究形態 をとらざるをえなかったか とい う時代的,研 究上の経緯が すべ て読解 で きるか らである。簡約化すれば この段階で白杉博士の学問的態度 一恩師石川教授のことばをか りれば 「旺盛な研究心 をもって」「自分の学問的良 心 を貫」 く― は形成 された と考 えたい。博士は経済学体系 を国民経済学 ・国際 28)白 杉庄一郎 『国民経済学研究』弘文堂 1939 29)石 川果二 「白杉 さん と私」 F白杉庄一郎博士追悼論文集』 4-5頁 参照

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4 6 第 3 0 0 号発刊記念 ( 第3 0 1 号) 経済学 。世 界経済学 とい う相互規定的な三段 の構造 をもつべ きもの として把 え, この基礎的部分 として先づ 国民経済学の基礎理論 を研究 し出発″点とす る経済学 批判プランを提 出 し,そ の中で リス トを中心 とす る歴史学派の個人主義 ・万民 主義の対極 としての国民経済学 を詳細に分析 し,日標 して英米的個人主義 と「社 会主義」 と止揚 した国民経済学の建設 を志向 した。博士の方法は既存の歴史学 派的止揚概念 として国民経済学方法論 を批判的に具体化 しようとす るものであ った。例 えば リス トの基本的立場一歴史によって哲学又は理論 と政策又は実践 とを統一 しようとした一 を高 く評価 しなが ら,そ の実践は自然法的な無 自党的 実践 に過 ぎないこ と,彼 のい う国民的統一 は階級支配の原理 となるような白色 人種主義の市民的国民経済に止 まること,そ して市民社会的国民体の世界連合 は新重商主義的な対立 を含む帝国主義的世界支配の用具 に終 ること等の批判 を 展開 し,畢 党,彼 の国民経済学は国民的利 己主義 を代弁す る市民的国民経済学 であると結論す る。更にロッシャーの国民経済の概念に関 して明確 なマル クス 経済学の概念である価値法則 を利用 して彼のい う全体的統一性の矛盾を適確に 指摘 している。更に博士 は シュモラーの歴史的倫理学的傾 向が方法論 ・実践的 に最 も具体的に歴史学派の立場 を示す と評4面しつつ,彼 自身の立場がやは リユ ンカー的市民的であ りその全体性は各個独立の個別経済 (私的)に 媒介 された 抽象的な ものである点 を指摘 し,更 に世界経済 を抜 きに した国民経済概念は抽 象的であ り現実 に存在 しえない点 を批判 している。又, メンガーの歴史学派批 判の視点 も詳 しく検討 し所言胃精密理論が孤立できな く,歴 史性 と実践性 を刻印 され ざるをえない点 を強調 し,彼 の立場 は逆の抽象化 であると批判 され る。結 局,博 士によれば,歴 史学派は個別経済の複合体 を国民共同経済の 自己疎外的 形態 とは理解 しえなか った。 30)『 国民経済学研究』 31)前 掲書 19-23頁 32)前 掲書 24-29頁 33)前 掲書 89 91頁 34)前 掲書 152-155頁 35)前 掲書 189頁 序 1-2頁 26--29頁

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最後には博士 はマ ックス ・ウエーバーの理想型的方法 を通 じての国民経済学 。国民主義 を検討 し,社 会科学の概念構成 としては正 しいとしながら,価 値理 念に よる本質規定は顛倒 であると批判 し,理 想型概念の歴史的 ・現実的側面の 必然 を三木清 を援用 しなが ら指摘す る。結局,ウ エーバーの合理主義的方法は 必然的に個人主義的主観性 に止 まるのである。更に彼の主張す る国民主義 とは 文化的要求に基いた帝国主義 であると易U決している。そ して博士の見解の最 も 予見的な白眉は,ウ エーバー を主 とす る歴史学派の視座 の空間的限定,即 ち民 族乃至国民に拘 る西洋 中心主義への痛烈な批判であった。曰 く 「彼が文化科学 的認識の先験的前提 とした価値理念の主体 たる文化人その ものが西洋人に限定 されていたのである。」そ して彼が近世資本主義の概念 を西洋に固有の もの と限 定す るこ とを検証 し,東 洋におけ る近世資本主義の 日本,中 国,印 度における 資本主義化 の事実 を一体如何 に説明できるのか と設問 し,単 なる模倣 ではな く, 地盤 と能力か らみて東洋に も近世資本主義換言すれば近世合理主義が即 自的に は既に存在 していた とされ るのである。更に一歩 を進めて博士は,近 世資本主 義 は西洋 固有の ものではな く世界資本主義 として世界史的意義 をもつ ものであ ると指摘 され,驚 くべ きことには,こ の世界資本主義 を構成す るもの として 日 本型, シナ型,印 度型などを十分可能なことだ と考 えられ,総 括的には東洋型 を考 えることも出来 ると結論 している。 このような視点は戦前の状況 よ り考 え て も半世紀後の世界史的状況 =現 代世界 システムの形成 を余 りに も正確 に理論 的に洞察 された としか言いようがないのではないか。 この著作で博士の視座 は個人主義 と全体主義の抽象性 を歴史学派 を媒体 とし て,方 法論的には弁証法 とマル クス経済学の トウール を巧みに利用 して易J決し, 経済的 自然法貝Jの止揚 を共同体的な ものの 自覚的具体化に求め る点にあった と 36)前 掲書 37)前 掲書 38)前 掲書 39)前 掲書 40)前 掲書 41)前 掲書 2 3 1 頁 2 6 9 - - 2 7 5 頁 3 2 3 頁 2 8 6 頁 288--289野電 290--291雰雲

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48 第 300号発刊記念 (第301号) 言 え る。 見 るべ きは ここで戦後 の博士 の研 究 の方法論 的原型 と世 界資本主義 の 現座 が形成 され た こ とであ り,結 論部分 の積極 的意義 は世 界資本主義概 念の論 理 的前提 としての国民経済概 念 を具体化 し,戦 后 の大塚 史学批判 の理論 的原型 を創 った点 に あ るだ ろ う。 修)経済史研 究 の意味 白杉教 授 は戦後す ぐに重商主義政策 史の詳細 な分析 か ら近世 資本主義成立 の 経 済史研 究 に戦前 よ りの研 究 の集大成 として着手 され たが,そ の動機 は ウエー バー 的資本主義観 を打破 す るこ とであった。教授 の研究成果 は大著 (博士論文) 「近世 西洋 経 済 史研 究序 説」続篇 としての「資本主義成立史の原型 ・第一分冊」 上部構造論 としての 「絶体 主義論批判」 同増補版 「絶体 主義論」 の各著作 とし て世 に問 われ た。 これ らの研 究 を貫ぬ く紅線 は,単 純化 すれば,国 民経済学研 究 で提起 され た世 界資本 主義 的視座 であ る。教 授 の理 路整 然 と博 識 と情熱 は, これ らに光彩 陸離 た るスケー ル を与 えてい る。 その細部 に互 る論理 を要約 す る こ とは困難 であ るが,そ の視座 は,方 法 としては異質 といえウォー ラステ ィン の世 界 システム概 念 と結果 にお いて通づ る所 が あ る と考 え る。例 えば,西 欧経 済 の国際経 済 システム形成 契機 に関 して,ヘ クシャー的論理 に代 表 され る内外 の歴 史研 究 の国民 中心 の視座 を批判 し,民 族 国家 と世 界 システム との同時的 な 相 互 的形成 を説 いてい る。教授 に よれば,重 商主義 (政策)と は商業 資本 を中 心 とした資本 の本源 的蓄積 を 目指 し植 民帝 国の建 設 を 目標 とす る世 界政策 であ る。 更 に重商主義 的統一化政策 に関 してその核 心 た る国内市場 の統一 とは原蓄 の国内的過程にす ぎないのであ り,原 蓄が重商主義政策 という形で現成する為 には,こ れ とからみ合 って進行する対外的諸過程 と結合 されなければならない。 この側面か ら見ると近世資本主義成立期に支配的であった商業資本一マニユ形 態における産業資本 を基礎 とした商業資本一の政策に外ならないという重商主 42)白 杉庄一郎 『近世西洋経済史研究序 説 (重商主義政策史論)』有斐閣 43)前 掲書の外に 『資本主義成立史の原型』第一分冊,有 斐閣 1952。 誠信堂 1950。 『絶対主義論』 日本評論新社 1957。 44)『 近世西洋経済史研究序説』54-58頁 132-134頁 参照 45)前 掲書 141-144頁 1950 序 参照 『絶対主義論批判』

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滋賀大学経済学部におけるマルクス経済学研究について 49 義政策の社会経済的本質が うきぼ りにされ る。従 ってこのような商業資本が中 央権力 (絶対王政)と 提携 した ところに重商主義は成立す る。教授の基本視″点 はこの大商業資本の根底にはマニユ産業資本があったが,隷 従的であ り商業資 本 よ り政治経済的に独立 していなかった点であ り,従 って産業の保護育成 とは 貿易差額 とその条件 としての内外独 占維持 であったことである。更に重要 な視 点は,こ れ らの政策が どの段階において も植民政策 と不可分の関連 をもってい たことである。か くて植民帝国 とは単 なる民族 ・植民の拡大ではな く国家の膨 張であ り,強 田な国家権力の確立 を意味す る。教授は植民活動 と国家の関係に つ いて種々の論争 を検証 され 「西 ヨー ロッパの代表的な近世国家は,物 質的に も精神的に も植民帝国 とい う形態において国家の世界的性格 を具現 し自己と世 界 とを結びつけていた」 と総括 している。結局,重 商主義 とは重層的構成 なの であ り,「 一種の帝国主義にほかならなかったのであ り,近 世西洋資本主義の 成立はこの種 の帝国主義 を前提 とす ることによってのみ可能であった とい うの が,私 の…結論である」 と総括 され る。続篇 としての 「資本主義成立史の原型 。第一分冊は上の結論 をイギ リスのケースで実証 しようとしたものであ り 「絶 対主義論批判」は,い わばその上部構造論 であ り絶対主義 =封 建的反動 とい う 当時の我国学界の主流的規定 を徹底的に批判 した上で絶対主義の 「封建的かつ 市民的」 とい う二者対抗的な歴史的性格,換 言すれば封建的土地所有 と市民的 経済関係の重層構造の前進的機能 (資本主義 を媒介す る)を 主張 したものであ った。 白杉教 授 の経済史研 究 の最 も現代 的意義 は,我 国マル クス主義歴 史科 学 の西 欧 中心的視座 と国民経済観 (西欧限定)を 理論上,根 底 よ りくつが え した″点に 46)前 掲書 145頁 (註)参 照 47)前 掲書 192-193頁 48)前 掲書 206頁 49)前 掲書 223頁 50)前 掲書 232頁 51)前 掲書 435頁 52)『 絶対主義論批判』62頁 69頁 72頁

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50 第 300号発刊記念 (第301号) あ る。 その理論 的正 しさは半世 紀後 の現代世 界 システムが 自ら証 明 しつつ あ る。 G)基 礎 理 論 としての価値 論 と独 占理論 の現代 的意味 白杉教授のマル クス経済学基礎理論の研究はすべ て本学部 で教鞭 をとられた 時期 に精力的にお こなわれた とい う意味では,正 しくこれ らの研究成果 は厳密 な意味で本学部のマル クス経済学研究の基礎 を定め られた ものであった。 「価 値 の理論」は本学部 で講義 された経済原論 を基底 として構成 されたものであっ た。教授の経済学研究の根本的立場は,初 期 ブルジョア経済学の広い意味の勤 労人民の立場 におけ る主体性 を認め るが,現 実弁護的 となって人民か ら遊離 し その科学性 に重大 な欠陥 を招致す ることになるに して も資本のための理論 とし てその発展が停止 したわけではない とい う一方で,マ ル クスによって創始 され た社会主義経済学は理論的には資本主義の立場にたつその後の経済学 を包摂 し うる可能性 をもった もの と規定す るものであった。教授のこの ような立場 は独 特 な二つの方向をもつ。一 は資本主義経済の批判的分析 を主要 内容 として資本 論 の骨子に従 って,ブ ルジ ョア経済理論の成果 を批判的に摂取 しつつ理論経済 学体系 を展開す る とい う方向であ り,他 は,社 会主義経済その ものについて資 本論 を手かが りとして経済学体系 を創造発展 させ る方向である。 この ような態度 を前提 しない資本論研究は,畢 党訓詰の学に陥 るほかない と い うのが教授の確 固たる認識であった。 白杉教授の価値論研究には三つの独 自的寄与があげ られる。①価値決定に需 要 (社会的欲望)が 予め組み込 まれているとす る理論展開②平均原理は限界原 理 を媒介 として発展す るとい う論理発展③社会主義経済におけ る価値範疇 と価 値法則の必然性の論理,で ある。 第一の点に関 しては 「商品の価値 は単 に抽象的人間労働 を実体 とす るもので はな くて,そ の裏側か らいえば同時に使用価値一般である」 とする 「解釈に照 応 して,そ の大 きさは単に生産技術の上か ら商品を生産す るのに社会的に必要 な労働時間によって決定 され るのではな く,そ れ を基礎 として同時にその商品 53)白 杉庄一郎 『価値 の理論 ・増補版』 ミネルヴァ書房 1971 序 1頁 54)前 掲書 序 2-5頁

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に対 す る社 会 的 必要 か ら も規 定 され る とこ ろ を もつ 」 と解 釈 す る こ とに よ って マルクス価値理論は一層大 きく生かされて くると教授は説 く。教授はこの論理 を次の論拠より展開 している。①価値の社会的欲望ないし必要の側面②価値は 自然法則的必要に拘るもの として資本制生産様式を超えた意味をもつ③マニユ 的分業 と社会的分業の相違 を論 じたマルクスの言葉 (資本論第一巻第12章第 4

節)④ 価値決定と無関係と見倣されてきた価値実現の条件として社会的に必要

な労働 時間が 同時 に社会 的欲望 に よって規定 され る と解釈 で きるマル クスの文 章 (第一巻 第 3章 第 2節 (a),第二巻 第10章,同 37章 な どテの⑤ エ ンゲル スの文 章 (哲学 の貧 困 ドイツ語版序 文 1884年)。 教授 の独特 な視 ,点は単 な る技術 説 で も 需要 説 で もないいわば重 層構造 説 であ り,そ の意義 は価値論 の理論 的拡大 に道 を開 くもの であ った とい えよ う。 限界原理 の包摂 とい う点では,一 般的には先の欲望の包摂に対応 して,「 労 働 が普遍的な欲望充足手段 であるとい う思想 をつ らぬ くことによって…単に効 用価値説が労働価値説 を媒介す るだけでな く,同 時に反対に労働価値説が効用 価値説 を媒介す るとい う認識」が成立す る。 この両者 (労働 と欲望)の 相互媒 介 ・相互規定性 は,教 授の論理 では私的商品生産下での個別的な必要労働時間 の社会的平均化 は,む しろ,す べての生産物が限界必要労働時間にむかって平 準化 され る点に現 われ る。 しか しこの場合平均原理は 「社会経済の本質にね ざ した一般的法則 として抽象的な形においてではあるが, 自己を貫徹 しているの であって,限 界必要労働時間によって決定 され るのは価値 その もの とい うよ り はむ しろ価値の現象形態にす ぎ」 ない とされ るのである。 55)前 掲書 56)前 掲書 57)前 掲書 58)前 掲書 59)前 掲書 60)前 掲書 61)前 掲書 62)前 掲書 73頁 74-76頁 7 9 ぢ託 77-78頁 82 92頁 8併-82頁 116頁 136--138野雲

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52 第 300号発刊記念 (第301号) 教授の この ような考 え方は積極的には著名 な独 自の独 占理論に具体的に展開 されてい く。敵に労働実体論 としての先駆的役割は独 占理論の価値論的把握の 基底 とい う″点にあった。 次に社会主義経済におけ る価値範疇の存在理由の解明は教授が実践的熱情 を もって体系的に追求 された課題 であ り,「 価値 の理論」の第四章 でその必然性 を体系的に分析 している。詳細 な内容 は省略せ ざるをえないが,結 局,社 会主 義経済 (共産主義段階 を含む)に おいて も価値範鳴は積極的に 「新 しい別個 の 社会主義的価値法則」 として機能す るとされ る。換言すれば,利 用効果相互問, つ いでは利用効果 と労働支 出 との間の共通尺度が,そ の汗量の不可欠の前提で ある以上,この共通尺度は価値規定の本質 を体現 したもの として「一種の価値」 と考 えられ る。結論だけを孤立的に抽出 してみれば,同 様 な見解 は多々見 られ るのであるが,関 連す る殆ん どすべての学説 ・文献 を徹底的に検証 しその批判 的摂取 を通 じて 自身の体系 を構築 され る博士の行論 ・方法は正 しく他 の追随 を 許 さない ものであるといえよう。今 日の社会主義経済の世界史的状況 よりふ り か えれば,「 価値法則の本質的内容が一切の社会的生産 をつ らぬ く普遍的な も の」であるとい うテーゼは,極 めて予見的なものであった とい うべ きである。 次に 白杉経済学体系の中軸 である独 占理論は特別剰余価値 固定化説 として有 名 であるが,そ の論理展開はむ しろ単 なる独 占論 を越 えて資本主義体制 とは根 元的には何 であるのか とい う問題意識に添 っているように思われ る。換言すれ ,ゴ「独 占的剰余価値 とい う範疇」は,著 書の冒頭に先づ強調 されているように, 生産過程 で生産 され る価値実体 なのである。即 ち 「独 占利潤の基本的な源泉が 生産過程 にあることが明確 にされていない と,独 占資本主義の流通主義的なら びに帝国主義的な寄生 と頼廃だけが一面的に強調 されて…生産力 を進歩 させ る こ とによ り (傍点― 中阜)社 会主義 を準備 しつつある側面が軽視 され ることに な」 るとい う視座が, 白杉独 占理論が資本主義本質分析 に直接結びつ き,今 日 63)前 掲書 243-244頁 64)前 掲書 244頁 65)前 掲書 266頁

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的状況 を十分 説明で きる理論的射程 をもつ点 として重要 なのである。単純化す れば従来主流であった収奪利潤説 (剰余価値再分配説)三 流通主義的理解 に依 拠すれば理論的には独 占化が進めば進むほ ど資本主義 システムは内部 より崩壊 す るこ とになる。 これに対 して 白杉理論が資本主義的生産力の発展可能性 を理 論化 で きたのである。 ここで独 占的剰余価値の形成は松尾教授の正確 な要約 に 依拠 しよう。 「通常,特 男U剰余価値 は,一 時的 。経過的な存在に とどまる。… しか し,独 占段階にすすむ と,独 占資本はその 『優秀に して巨大な生産設備』 とい う特別の生産条件に もとづ く非独 占資本 との生産性格差 を梃子に,特 別剰 余値の生産 を長期的に固定化せ しめ る。博士はこれ を 『独 占的剰余価値』 とよ び,独 占利潤の基本的な源泉 であると説 く。…この際,特 別剰余価値 について, 博士 は独 自的な理解 を提示 している。マル クスに よれば,特 別剰余価値は 『強 め られた労働』の産物 であるが,彼 の叙述は きわめて簡単であって論議の余地 を残 していた。通説は, この 『強め られた労働』 を同一生産部 門内の低位の生 産力 をもついわば 『弱め られた労働』 と対置 し,両 者の相殺 を主張す る。そこ に価値の純増加 は認め られない。 これにたい して博士は…特殊剰余価値 は価値 の積極的な増分 であ り,そ れは 『強め られた労働』が一種の複雑労働 として作 り出 した ものにほかならぬ と解釈す るのである。」 白杉理論の特異性は松尾教授の指摘 され るように限界原理の援用である。単 純化すれば,市 場価格 は短期的には限界原理 に規制 され る。即 ち限界生産者の 供給に需要がある限 り,価 格 は限界的な個別的価値 を基準に決定 され るか ら虚 偽 の社会的価値が発生す る。 これが独 占資本の市場統制一供給制限によって固 定化 され独 占的剰余価値 に転化す るとい う論理 である。 「独 占的剰余価値 は, ・… 『市場4面値 をめ ぐって成立す る特別剰余価値』 であるよ りはむ しろ,限 界原 理 の支配 を媒介 として現実化 す る 『市場価格 をめ ぐって成立す る特別剰余価 値』 として規定 されている。」 66)白 杉庄一郎 『独 占理論 の研究』 ミネルヴァ書房 1961 2頁 67)松 尾博 「独 占理論 と 『資本論』」ミネルヴ ァ書房 1985 4-5頁 68)前 掲書 5頁 白 杉庄一郎 F独占理論の研究」 26-27頁

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問題点は二つ在るように思う。①限界的個別的価値の独占価格=独 占利潤ヘ

の規定性は短期的といわれるのに拘らず何故, どのように固定化するのか②最

初 の問題 に拘 わ る所言胃 「強め られ た労働 」 =「 例外 的 な生産 力 を もつ労働 」規 定 の含 む難 問,で あ る。最初 の間 には教 授 は批判 者 (例えば平 瀬,重 田教 授 ) が指摘 す る総4面格 と総価値,個 別 的総価値 と社会 的総価値 の背離 をむ しろ虚偽 の社会 的価値 の実体 的源泉 と見微 され,長 期 的傾 向性 としての接近 を主張 され るの で あ るが,こ れは実質 的 には独 占的段 階 におけ る限界原理 に従 った実質上 の乖離の承認 と考 えた方が説得性がある。 とい うのは別に両者が一致 しな くて も労働価値説が否定 され るわけではないか ら。 それ よ りも問題 なのは,教 授が 虚偽 の社会的価値 について農業の場合 は長期 的 ・永続的であ り工業は少 くとも 自由競争の段階では短期的 ・経過的であ るといわれ,他 方独 占段階の入 るとこ の区別 も本質的ではな くな り,虚 偽 の社会的価値 としての特別剰余価値が (限 界原理 に従 って一 中阜)長 期 的 ・永続的 とな り,そ れの現象形態 としての超過 利潤が差額地代 的な固定性 をもつ とされ,独 占利潤 と差額地代 との類似性 を指 摘 され る点である。教授の大著 を熟読 して も,何 故 固定 され るのか とい うこれ 以上の説明はない。最大限利潤追求への資本の衝動は当然あ りえようがそれで は一般的 ・抽象的す ぎよう。一つの解決は土地所有 との類推であるが,農 業は 決定的に 自然的有機体 に拘 る部分 が大 きい とい う″点か ら厳密には同一視 できな い と考 える。結局,こ の問題の解決は上述の第 2の 問題 に運接 され ざるをえな い と考 える。 教授 は独 占的剰余価値 の価値 としての実体性 を強 く主張 され 「価値や価格が 限界必要労働 時間 を基準 として決定 され ざるをえないような機構 のあ るか ぎ り」それは実体的根拠 をもち空虚 なものではあ りえない とされ る。つ まり資本 制社会 においては虚偽 ではな くて実体的な社会的価値 =価 値純増分 なのである。 博士 は続けて 「優秀 な生産諸条件 の もとに働 くよ り少量の労働時間が,劣 悪 な 69)『 独 占理論 の研究』 98-99頁 130頁 参照 70)前 掲書 100頁 174-175頁 71)前 掲書 100頁

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生産諸条件の もとに働 くよ り多量の労働時間 と同 じだけの価値 もしくは価格 を 形成す ると社会的に評価 され る」 と言って強め られた労働が複雑労働化す るこ と,つ ま り実体的に質の高級化 した労働の形成 を持 ち出すのである。注意すべ きは,こ のケースは単純労働が複雑労働 ・高級労働 に擬制化 され る=見 倣 され るとい う話ではない点である。つ ま り,換 言すれば,こ れは強め られた労働 = 労働 の強度の大 きな質的労働 (単位時間当 り価値生産性の大 きな労働)が ,短 期 ではあるが連続 して生産過程 で主体的に形成 されている事態 を意味す る。 こ の ように考 える場合,は じめて長期的に,「 固定的に」(価値生産性は絶 えず逓 増す るとい う意味において)独 占的剰余価値 は基本的に生産 (流通収奪 ではな く)さ れ主 として労働 ・勤労者階級によって最終的に実現 され よう。 しか し, ここで一つの困難が現れ る。教授は実体 としての価値 を生産す る強め られた労 働 =複 雑労働 をいわば,そ の独 占理論の核心におかれた と考 えれば,つ まり単 純労働下 での虚偽の社会的価値のケースは考 えられない以上,生 産制限などの 術策 を考 えて も結局,技 術革新 に媒介 された強め られた労働の連続性,換 言す れば価値生産性の主体 的動態化 (労働概念の質的拡大)が 最后 まで独 占理論の 鍵 鋪 となるだろ う。問題 を別の面 よ りみれば,生 きた労働 を孤立的に概念化す る枠組みは もはや,こ れ を一層具体化 しなければ殆ん ど無意味になるだろう。 白杉理論の寄与は,逆 説的には上のような問題 を析 出す ることによって現代的 には,現 代 資本主義の構造的変質 (ふるい意味の社会主義 ではな く)の 可能性 と蓋然性 を示唆 した点にあるのではないだろうか。 IV 松 尾博教授の独 占理論 松 尾教授 は基本 的 に 白杉理論 の理論 的枠組 を継承 しなが ら 「この不完全 な ま まに止 まった理 論」 を 「よ り適確 な内容 の ものにいわば作 り変 え る」立場 か ら 72)前 掲書 100頁 73)松 尾博 『独 占理論 と 「資本論」』ミネルヴァ書房 1985 11頁 ほかに 『ヴェブ レンの人 と思想― ア メ リカ経済思想史の一断面一』 ミネルヴァ書房 昭 和 41などがある。

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56 第 300号発刊記念 (第301号) 研究 を進め られた。教授は白杉理論の批判者 (例えば西 日,平 瀬教授)の 各批 判″点を詳細に検討す る作業 を通 じて 自身の積極的解釈 を提 出される。所謂短期 規定 を単に需要超過 =生 産不足の事態 と割切 るのではな く,松 尾教授は別個の 条件 (要因)を よ り具体化 して好況期 とい う景気循環論的次元に求め,「 好況 期 には,旺 盛 な需要が発生 して,生 産 は拡大 され るが, しか もなお需要は収縮 せ ず,価 格が高騰す る」か ら白杉理論の短期 ・限界原理は好況期 における調整 的市場価格 に拘 る法則であ り,従 って長期 ・平均的原理 は景気循環の一周期 を 通 じての平均価格の形 で成立す るものだ と規定 され る。 次に松尾教授は限界原理 に拘 る井上周八教授の擬間 を詳細に検討す る作業 を 通 じて, 自杉博士の所論一工業生産物について もその短期 ・限界原理 によって 規定 された基準 をあ くまで市場価格 にす ぎない と言 う一 が価値の平均的性質に 過度に とらわれている傾 向があ り調節的市場価格の市場価値への転化の問題の 発生 を不間に付 していると批判 され,「 好況期 (不況期)に おける調整的市場 価格 を,あ くまで も市場価格 であって市場価値 ではない と主張すべ き積極的な 根拠は見出されない。それは好況期 (不況期)の 再生産の基準 となることによ って市場価値 に転化す る」 と結論づけ られ る。更に教授によれば,「 限界価値 に よって規制 され るこの景気循環的市場価値 は,『 資本論』第二巻第10章の市 場価値論 中のいわゆ る 「不明瞭 な箇所」で説かれている市場価値の特殊規定の 具体的な一典例 である。」このような総括 を可能にす る基底は,市 場価値概念が 「価値次元 と価格次元 との複合体」(城座和夫教授)と す る視座 であるが,私 見 ではこの規定は一つの価値実体論の始源的鍵 鋪ではないか と考 える。 とい うの は独 占的特別剰余価値 を虚偽 ではな く実体的価値増加 と考 える場合の根元的論 拠 となるか らである。即 ち総量での価値増加 は言 うまで もな く,対 象化 された 74)前 掲書 18-19頁 75)前 掲書 19-22頁 76)前 掲書 38-39頁 77)前 掲書 45頁 78)前 掲書 45頁 79)前 掲書 38頁

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単 位 商 品 当 りの 市 場 価 値 も, 市 場 生 産 価 格 の 形 態 で 必づ 逓 減 す るの で は な くむ しろ ヴ ィ ゴ ッキー の 言 う逓 増 す る傾 向 を もつ こ とが理 解 で きる。 松尾教授は白杉理論の価値実体規定 を非相殺説に卸 して検証 され る。前述 し た強め られた労働 を複雑労働 とみ る白杉理論に就 ては 「新生産方法の もとでの 労働が…実際に質的に高度化 した一種の複雑労働 になることは事実であるに し て も,そ の場合 には もっぱ ら個別的価値 の増加 をもたらすだけであって,特 丹U 剰余価値 の生産 とは無関係 であ り…そ して 「強め られた労働」は…いわば異っ た次元で,社 会的に複雑労働化 した と擬制 され,特 別剰余4面値 を創造す る」 と い うのが松尾教授の視座 である。複雑労働 とはこの場合,「 実際によ り多 くの 労働量が支出され対象化 されて,事 実上 よ り多 くの価値 をもつ生産物が作 り出 され」,このことが もっぱ ら個別価値 の増加 として現成す ることである。他方, 松尾教授は特別剰余価値 はこの個別的価値の中に含 まれていない とされる。 こ の点で白杉説は正 しくない と批判 され る。詳説は省略す るが,松 尾教授の解決 は,特 別剰余価値 の生産はそれ を生産す る個別労働 の労働生産性の増大 したケ ー スを,か かる労働は他 と実質上変 らぬ労働であるのに社会的評価によって高 級労働 に擬制化 され る不可避的な過程 とす る見解 である。 これは説得的である が他方で疑間 も残 る。松尾教授が利用 された (白杉教授によって引用)宇 野弘 蔵教授 の表式で も既 に院制化 は含 まれてお り (個別的に40の価値 を生産 したに もかかわ らず社会的には55の価値 を生産 したこ とになる一傍 点は中葛),擬制説 といって も誤 りではない。 しか し他方 この表式の単純平均労働 は明 らかに1,37 5倍の強度 をもって よ り多 くの価値 を生産す るのであるか。勿論 それは実質投 入量の増加 でないか ら価値量は増大 していない。増大 した と社会的に評価 され るだけである。労働の強度一質は増大 していないが増大 した と評価 され る。 も し事態が このような ものであれば,社 会的生産力の発展 とは どうい う概念なの 80)前 掲書 68頁 81)前 掲書 56頁 82)前 掲書 56-57頁 83)前 掲書 66頁

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5 8 第 3 0 0 号発刊記念 ( 第3 0 1 号) であろ うか。松尾教授 も確言 され るように強め られた労働 とは実際の投入量で あ り,厳 密に言えば生 きた労働 の質的変化 を伴 う,対 象化 された労働 を含めた 全投入ではなか ろうか。 このような労働が社会的生産力の増大 三独 占的剰余価 値 の実質的増加 には不可欠なのではないか。従 って,価 値量の実際の増加 (擬 制化 された純増加 でな く)と い う範疇 との理論的関係がはっきり見 えてこない 点が問題 として残 ると考 える。 総 じて松尾教授の研究は,白 杉博士の学風 を継承 されてお り,そ の成果は本 学部 のマル クス経済学理論 に深 く寄与 した ものであった。 V 荒 木迪夫教授 と梅沢直樹教授の資本論研究 荒木教授は主著 『「資本論」 と価値論』の研究対象 と方法 を次のように述べて いる。 「現行 『資本論』「第 1部 資本の生産過程,第 1編 商品 と貨幣,第 1章 商 品,第 3節 価値形態 または交換価値,A単 純 な,個 別的な,ま たは偶然的な価 値形態」に該 当す る記述 を,そ の 〔初版〕本文→ 〔付録〕→ 〔2版 〕→ 〔4版 〕 以降の順序に沿 って,同 一,異 同ない し区別 を点検 し, もって,価 値形態の諸 相 中の圧巻―質 ・量 ともに一 たる所以 を明 らかに し,加 うるに,価 値形態 と価 値実態 との関連,私 的労働 の社会化,商 品物神 の特性,領 有論 と労働 の根源的 な関連,結 局の ところは,生 命の入 日と出口をもつ有機体 と決定論的 メカニズ ムの結合 をわが資本制社会 にみたてる 『資本論』の構造の源泉一 … 「一般的 。 抽象的諸規定」一 の秘密 に迫 らん とした。」更に本書の後半 では価値形態の展 開に従 って,使 用価値捨象の正 当性,こ の捨象 を支 える価値表現における 「逆 関係」の妥当性 を,第 4形 態の理論的確定 とあわせ て資料的に検証 したい と述 べ られ る。教授の意図される所は価値形態 を通 じての貨幣本質の分析 である。 その方法は上述 されているように極めて厳密 な文献考証による価値形態 をめ ぐ る諸概念 ・範鳴の検証 であ り,そ の広汎精級 な接近 は,文 学的香気 をもつ文章 と相侯つて正 に教授独特の学風 を形成 している。貨幣本質に収飲す るマル クス 84)荒 木迪夫『「資本論」 と価値論』啓文社 1882 151頁 こ の外 に『「経 済学批 判」 と 「資 本論」』新評論 1974 『 貨幣の存立構造』松籟社 1994

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「論理 学 」 の展 開 は,図 式化 す れば商 品論 か ら仮 象 としての第 1の 使 用価値領 有 と現 象 としての,価 値 形 態 に前提 され た間接 的取 引 を区分 し,こ の両取 引の 公分母 として推移 的 でない 「三珠 み」運 関 を折 出 し,そ こか ら価値 等式か ら価 値 の両極 分 化 ,人 と物 との直接 的 同化 (Quid prOqueの 基礎 )を 導 出 し,価 値 等式 の第 2段 階 での価値体 把握 に到達 す る。 そ して教 授 に よれば交換 力 と計 測 力の合 成 力 と トリカエ (人と物 )能 力の結合 した一般的等価物の選抜によっ て三珠 みの呪縛 を解 くこ とが可能 とな る。他 方 この価値 とイ面格 の対応 は 1商 品 Weに よって,価 値 実体 としての労働 (人工, 自然 の構 造物)に よって可能 に な るが,そ れは必然且つ偶 然 であ るにせ よ同等性 関係,価 値 取 引,間 接 的交換 を開始 させ る。 しか しこの対応関係 を媒介す る貨幣 は計測可能 であ り両者 の異 質 の故 に計 測不 可能 な もの として把握 され る。即 ち貨幣 に よる価格 での計量 は 価値 計測 の 内在 的潜在化 と価格 計量 の外在 的顕在化 の対照 的配 置 に よる独特 な もの として理解 され る。教 授 は価値 形 態 ・交換過程 の理 論 的生成 を検 討 し,こ の単純 な形態か ら貨幣形態へ の価値 の生成 プ ロセスにおけ る各形態 区分 の指標 は使用価値 捨象 の進度 であ り,価 値概 念 の同等性 関係 を骨盤 とす る普遍的価値 関係 は使 用価値 との全体 的 な否定 的関係 の下 には じめ て成立 し,全 体 的 な交換 実 現 の可能性 を保 証 す るこ とを指摘 され る。価値 形 態 におけ る使 用価値 の捨象 は実質 的 には対象 (社会 ・自然)の 否定 であ り同時 に新規 の使 用価値 の肯定 で あ る。価値 は 1商 品の使用価値 の捨象 の後 に残 る存在物 ではな く,少 な くとも 他 の 1商 品の外 的 自然姿 に化 身 した もの であ るが,で は何 故価値 形 態 は使 用価 値 との相 関 を捨 象す るのか。 これ に対 して教 授 に よれば,価 値 規定 の 内容 は交 換 の外部 で均衡 を実現 しうべ き もの であ るが,交 換 内部 ではその保 証 力 は零 に 近 いか ら価 格 をこの 内部 に発 酵 ・留 置 (交換 力のバ トンタ ッチ)さ せ ね ば な ら ないが,そ の代償 として交換 内部 の使 用価値相互 の結縁 =全 商 品の全 商 品に対 85)『「資本論」 と価値論』 151頁 86)前 掲書 37頁 87)前 掲書 40頁 88)前 掲書 40-41頁 89)前 掲書 43頁

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60 第 300号発刊記念 (第301号) 9 0 ) す る関係 の切 断が要 請 され る。過程 の進行 は価値 →交換価値 →価格 が先行 し総 当 り的商 品関係 の解 散 が後行 す る。結局,使 用価値 の捨 象 とは価値 の問接 的関 連 を追求 す る為 であ る。価値 実体 は潜在 的均衡 ・最小 の計算 力 で あ るか ら価値 形 態 として化 身せ ざるをえないが,要 す るに最終 的 に,均 衡 力最小 の価値 が, 交換 力最 大 の価格 に転化 す る関係 その ものは,反 射 的 で も,対 照 的 で も推移 的 な もの でないか ら定 量化 で きない もの であ る。価値 形態の移行 の契機 とな る各 形 態 の社会 的性格 の分析 の 中では単純 な第 1形 態 に含 まれ る逆 関係 が第 2形 態 か ら第 3形 態へ の転化 の根拠 とされ る。教授 はか くして価値 形態 の本性 に もと づ く展 開 を第 3の 一般 的形態 (本質 的変化 の終結点)と して前提 し,具 体 的過 程 として交換過程論 をマル クスの 3命 題①使用価値 と価値の交換力の先陣争い ②商 品内部 での使用価値 の不確実性 と価値 の確実性の分離対立③価値 の形態化 に よる交換力の 自立 と種浩,に 添 ってこの問題の解法は,い かに して特定の 1 商品に一般的等価物の地位 を固定 させ るかであると設問 し,計 量の最適格性 と 商 品所持者の欲求規定 を展開 しつつ使用価値的側面 と価値的側面の統一 に収飲 す るとされ る。要す るに交換過程 は片や全商品が全商品に対応す る直接的連結 を忘失 した使用価値 の分野 と,片 や特定の価値 (貨幣商品)の 領分 とへの二元 的分化 のプロセス として把握 され,直 接的交換,均 衡,正 常 な経過 を基軸 とす る資本論の価値実体論 と照応 していると総括 され る。以上は序論の 「価値形態 小論」の筆者 な りの総括にす ぎないが,本 論においては資本論の価値形態に関 す る行論が,徹 底的にそれ らの文章 ・表現などの形式,更 に内容か らも価値形 態の秘密,発 展,物 神性及び交換過程の各領域 で検証 されている。 これ らの作 業 を通 じて,そ れか ら最近 の著作 での論理の展開 を考 え併せ ると教授の学問的 意図 とは,テ クス トとしてのマル クスの 自然/社 会の三分法的総合化の論理 を 内在的再編に向って批判的に読解す ることだ と考 える。 ここでは商品世界の異質的 ・矛盾的 2要 因=使 用価値 (質)と 価値 (量)の 90)前 掲書 44頁 91)前 掲書 45頁 92)前 掲書 51頁

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9 3 ) 関係の弁証法的展開を最 もよく表 していると思われる箇所を引用 したい。資本 論の価値の第 1形 態の検討 を通 じての要約一使用価値①超歴史的な使用価値に 対立する人間欲望に直結 した社会属性②その労働による領有③歴史的な交換に もとづ く私的領有への転変。価値①超歴史的な使用価値に対応する人間欲望 を 迂回した社会属性②使用価値の度量単位 としての労働による計測③歴史的な私 的領有の交換基準 としての労働の特殊な社会的対象性。教授によれば相乗化 さ れた②→③の転成こそ, 自己労働にもとづ く私的所有 と幻の結晶と化 した思惟 物 としての労働 との一対 をなすのであ り,こ の転成が資本制分析の浮沈を分け る。 しか し教授 自身の表現 を借 りれば,「 存在 しかつ存在 しない存在 ともい 、 べ きものが,私 的所有下の労働 に もとづ く領有 であ り,商 品交換 を支 える抽象 的,人 間労働 である」 とい う視座 は一 回性の論理 と反復性の論理の始源的脈絡 の発見 として価値形態の秘密 を形成す るものであるが,決 して最終的な決裁は ないのである。 再説す るが教授 の研究 を貫 く独 自の方法論的視座 とは,価 値形態論 を通 じて のマル クスの 「分析」手法の 「腕曲的解法F)の容赦ない析 出 ・批判にあったの ではないか。所有 と労働 の合一のマル クス的論理の場 とは,こ の意味で歴史的 論理 と反復的論理の始源論 におけ る脈絡の発見=ア ポ リアヘの逢着であること が徹底的に論証 されたのである。最近の新著では,労 働力商品の概念的再編 と バー ター的な根源的交換価値 の外在化が説かれ,教 授の価値形態論は大 きな質 的展開 をみせ ている。 9っ 梅沢直樹教授の研究は主 として著書 『価値論のポテンシャル』 として発表 さ れた,マ ル クス経済学の原理論の中心問題 である価値 と価格の関係の理論的分 析,広 義 での転形問題 に拘わる。教授の方法は独特の工夫 をこらしたものであ 93)前 掲書 148-149頁 こ こでの論理 は使用価値論へ の領有論 の組入れ と把握 され る。 そ こでは 「私的所有が労働 に もとづ く領有の単 なる隠蔽 的仮象 とかか る領有の逆転現象の中 位 ない しそれ らの別個 の領域 をゆ く概 念であるこ とをは しな くも告 白してい る」。 94)前 掲書 148-149頁 95)前 掲書 147頁 96)荒 木迪夫 『貨幣の存立構造』松籟社 1994 特 に 117-141頁 。157-178頁 参照

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62 第 300号発刊記念 (第301号) る。生産過程 を Black Boxと す る商 品社 会一般 の独 自の流通論装 置の中で, 抽 象的 人間労働 の質的二側面 (私人労働 の疎外的特質 と体制l貫通 的総労働 の分 業 を通 じての配分 )の 厳密 な区分 を理 論 的起 ″点として,労 働 =価 値 審級の経済 原則的世 界 と他 方,私 的労働 の行為 主体 の意識的選 択,即 ち人 と人の力関係 に 拘 る,前 述 の価値 =労 働 の世 界か ら相対的 に 自律化 した交換 の世 界 とい う相互 に 自立 した 2種 の世 界審級 の概 念 を導 出 し,こ の異質 の両者 の統一 として間接 運 関 説 を析 出す る。教 援 の方法 はマ ル クス労働 価値 説,厳 密 には転 形理論 の外 在 的批判 では な く,独 自の視座 か らマ ル クス価値 説 を批 判 的 に再構 成 した もの で あ る。教授 の方法 は解釈学 的概 念化 とい うよ り機 能 モデルであ り宇野派 に特 徴 的 な原理 論 の 自己完結性 も乗 り越 えて い る。即 ち意識 あ る労働 力商 品 を基底 とす る原理論体 系 は,上 部構造 に拘 る範域 を意識的 に創 出 しその 中軸概 念 は交 換 力 として考 え られ て い るか ら,原 理 論 の よ り具体 的諸 問題へ の理 論 的射程 は 極 め て大 き く弾 力的 に開か れ た もの であ る。著 書 を買 いてい る教 授 の問題 意識 は現代 の世 界史的大変動, ソ連 型社会 主義 の崩壊 とマル クス経済学 の危機 を原 理 的審級 で如何 に再構 成 し解決 で きるか とい う原理 的射程 力であって政策 ・現 状,歴 史分析 では ない。考 え方 の骨子 としては伝統 的 な手法 としての価値体 系 と価格体 系 の並べ換 えでは な く,両 者 の関係 は特殊 な反射 関係 として理解 され そ こでは総 計一致命題 は妥 当 しない。教授 は交換 の世 界の 自律性 を象徴す る独 自の概 念 として 「交換 力」 =貨 幣 を媒介 とす る価格 の直接 的基礎 (商品の もつ 他 商 品へ の支 配 力)を 新 しい キー ワー ドとして抽象的人間労働 との関係 を析 出 し (後者が接 点 であ り前者 は後者 を基礎づ け る)交 換世 界では交換 力は商 品の 社会 的潜 勢性 に もとづ き極 め て弾力的 であ るこ と,換 言すれば価値 の背后 にあ る抽象的 人間労働 の二面性― 商 品経済 とい う歴 史性 に媒介 され た私 的労働 =交 換主体 と体 制l貫通 的経 済 原則 問題 としての社会 的総 労働 力の配分一 を統一的に 再把握 し,総 労働 の配分 の弾力性 が価格 を通 じて交換 の世 界に一定の 自律性 を 97)梅 沢直樹 『価値論 の ポテンシャル』昭和堂 1991 98)前 掲書 第 3章 参照 99)前 掲書 第 4章 参照

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与へ るこ と,更 に この総労働 の配分 は交換世 界 と,直 接 に交換 力 を支 配す る論 理 として資本制商 品分 業下 の生産 費類 型 (交換 当事 者の異質尺度)の 導入 に よ って接合 され るこ とを巧妙 に析 出 し,こ の接合 の質的形態 と量的形態 を,研 究 の軸心部分 として精密 に分析 す る。即 ち ここで生産 費の Black Boxが と り払 われ資本 が一般 的範式 にの っ と り自己増殖す る交換 力の運動 態 として生産過程 を包摂 す るこ と,即 ち労働 力の商 品化 が現成す る。 その際,労 働 力商 品の交換 力 は資本 家 と労働 者 とい う各主体 に と り労働 力商 品の生産 費類 型が全 く異 るか ら双 方 の交 り方 に大 きな多様性 ・重層性 が あ り,結 局労働 力商 品の交換 力はそ の再生産 費 をはみ 出す こ とは不正常 でない と理解 され,他 方産業 資本家 の生産 す る商 品の交換 力 は生産 手段 と労働 力購 入 に費 した交換 力 十機会 費用 としての その交換 力の増殖分 (平均利潤)で あ るか ら,そ の量的関係 は投 入産 出係数 を 物 量単位 で表現 した運 立方程 式 に よ り価値 量 (配分 問題 )に 拘 りな く特定 され る。 これが交換 の 自律性 であ る。総括す れば資本制 の交換 とは交換 力が交換 力 を規制 し回収 し増殖 をはか る資本 の論理 であ り,そ の生産 費が結局,交 換 力 な の だか ら商 品に投下 され た労働 量つ ま り社会 的総労働 の配分指標 とは相対的 に 断絶 してお り間接的にその枠 内に止 まるものなのである。 この ような梅沢教授 の議論の組み立て,進 め方の創造性はその視野の広 さと相侯 って本学のマル ク ス経済学研究に新 しい地平 を切開いた といえよう。 (補註)羽 鳥敬彦 『朝鮮 におけ る植 民地幣制 の形成』未来社 1986 参 照

参照

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