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化学と生物 Vol. 56, No. 12, 2018
息の長い地域の人づくり
沢村正義
高知大学次世代地域創造センター日本は1950年代からの高度成長時代を 経て大きな経済発展を遂げた.その反面,
地方,中山間地では人口流出が加速し,過 疎化,高齢化が進み,産業構造の空洞化,
地域文化の衰退など多くの課題が生じた.
その一方で,1980年頃から村おこしや一 村一品運動などの地域振興,地方再生への 動きが全国各地域から湧き上がった.そも そも日本の産業構造は382万社ある製造業 のうち99.7%が中小企業と言われている.
言い換えれば,日本の活力は中小企業に支 えられていると言っても過言ではないだろ う.都市圏から離れた地方においてはさら に中小企業の割合は高くなる.中小企業の 強化は地方にとってもまた日本全体にとっ ても重要なことである.
このような社会的背景の中で,文部科学 省は地域に潜在する人的,物的資源を盛り 上げ,地域再生人材創出拠点の形成を目的 とした科学技術振興調整費(後に科学技術 戦略推進費)という競争的資金を2006年度 より配分した.地域というのは地方だけを 意味するのではなく大都市圏の中にも存在 するものである.したがって,この事業に は全国の50以上の大学などが採択され,そ れぞれの地域に根差した取り組みが行われた.
この事業の底流には地域創生を推進する ために,5年間の補助事業終了後は自立し てこの事業を継続・発展してもらいたいと いう期待があった.しかし補助事業終了と ともにほとんどの事業が終結した.このな かで,文部科学大臣賞をはじめ数々の受賞 をして客観的にも評価が高い成功事例を一 つ紹介する.高知大学の土佐フードビジネ スクリエーター人材創出事業(土佐FBC)
は受田浩之教授・副学長を中心として,
2008年度に5年間の補助事業として採択さ れた.この事業の詳細はネット情報に譲る として,食品全般の基礎知識と技術,人材 管理,マーケティング,知財関連などの座 学(160時間)や企業の課題をOJTで解決 する課題研究などのカリキュラムを組み,
1〜2年間かけて修得するものである.5年 間の事業で延べ186名の修了者を送り出し た.そして補助事業が終了した後も,大学,
自治体,民間団体などから支援を受けて自 立して,さらに5年間の事業を成し遂げた.
10年間で修了生が実に延べ490名に達し,
またこの事業での経済的波及効果は約30 億円と見積もられている.さらに注目すべ きことには,2018年度より「土佐FBC III」
として,新たな5年間に向けてスタートが 切られている.人づくりは物づくりと違い 無形財産である.その効果が現れる時期は さまざまである.しかし確実に,その経験 は地域の人の中に刷り込まれ,醸成されな がら,何らかの形となって具現化されてい くものである.人づくり事業だからこそ継 続することに大きな意義がある.
ワーヘニンゲン大学(オランダ)は,当 初,地方の農業学校であったが,農学とそ の関連分野で産学官が連携して発展し,今 や食品関連の企業や研究機関が集まる「フー ドバレー」の中心的存在になっている.企 業が求める研究を共同して行い,成果を出 すことによって企業はさらに発展し,さら に大きな経済的効果が生み出されるもので ある.特化した事業組織ではこのように焦 点を絞ることが重要である.“Research and Development Make Food Business Grow”
(研究開発がフードビジネスを発展させる)
はワーヘニンゲン大学のリサーチセンター から土佐FBCが学んだ標語である.
食品も元は生物由来である.化学と生物 の理解を基本として,幅広い分野を網羅 し,学術的な領域と応用的な領域を包括し た農芸化学的発想が地域人材の人づくりの 根幹の一つにあったものと私は認識してい る.物は人が創りだすものであり,人づく りがあってこそ物づくりが創出されるもの と信じている.
Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.773
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
巻頭言 Top Column
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プロフィール
沢村 正義(Masayoshi SAWAMURA)
<略歴>1968年高知大学農学部農芸化学 科卒業/1970年九州大学大学院農学研究 科修士課程農芸化学専攻修了/1972年同 大学博士課程退学/同年九州大学農学部助 手/1974年 同 大 学 よ り 農 学 博 士 授 与/
1978年高知大学農学部助教授/1992年同 大学農学部教授/2009年同大学定年退職・
同大学名誉教授/同年同大学地域連携推進 セ ン タ ー(現 在,次 世 代 地 域 創 造 セ ン ター)特任教授/2017年同客員教授,現 在に至る<研究テーマと抱負>カンキツフ レーバーに関する研究<趣味>旅行<所属 研究室ホームページ>http://www.ckkc.
kochi-u.ac.jp/~ckkc0001/tosafbc/
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