日本における微細藻類からのバイオ燃料・原料用オイル(以 下,グ リ ー ン オ イ ル) 生 産 技 術 開 発 に つ い て は,平 成20年 頃から注目され始め,現在世界中で検討が進められている.
微細藻類から生み出されるグリーンオイルは,さまざまな用 途に使え,CO2削減効果や持続的可能社会へ貢献などさまざ まなメリットが期待されている.一方で,多くの利点を有す るグリーンオイルを学術的研究から実用化へ導くには,①候 補株の屋外大量培養技術,②培養からオイル抽出までの一貫 プロセスの構築,③低エネルギー,低コスト化,④大規模化 に伴う運用ノウハウの取得など,数多くのエンジニアリング 的視点が必要になる.電源開発株式会社(以下,J-POWER)
で は,平 成15年 か ら 海 洋 微 生 物 を 中 心 に 微 生 物 コ レ ク シ ョ ンであるJ-POWER Culture Collection(以下,JPCC)を構築
(http://oceanquest.jp)し,バイオテクノロジー研究を開始 した.J-POWERの微細藻類研究はグリーンオイル生産技術 開発に必要な候補株をJPCCから検索することから始め,そ の 後,見 い だ し た 候 補 株 の ラ ボ レ ベ ル 試 験 に よ る 藻 体,グ リーンオイル生産性などの特性・評価を行った.さらにその 成果を反映し,屋外におけるベンチレベル試験,パイロット 試験について,公的資金(JST-CREST, NEDO)を有効に活
用しながら進めてきた.現在,3,000 m2の敷地を利用したグ リ ー ン オ イ ル 一 貫 生 産 プ ロ セ ス を 検 討 す る ま で に 至 っ て い る.今回,微細藻類からのグリーンオイル生産技術の研究開 発について,筆者らの取り組みを紹介しながら,グリーンオ イルのバイオ燃料・原料生産技術や有用資源としての 理想 と現実 も含め解説したいと考えている.また,本稿が皆様 の検討の一助になること,また,このような機会を与えてい ただいた日本農芸化学会に対しこの場を借りて感謝申し上げ たい.
原石となる候補株との出会い
1. グリーンオイル産生微細藻類にもつべき能力 環境中から新たに分離・獲得する際に,筆者が注目点 として挙げるのが,まず①継体培養ができること,②コ ロニーを形成(単菌化)できることである.①は,保有 する形質を失わず安定して植え継ぎできる,言い換える と 人間が扱える ということを意味している.環境微 生物の検索を経験している読者なら,何代か継代すると 死滅したり,雑菌汚染が発生したり,微生物そのものが 変わったりと,折角有望株の存在を確認したが,取得で きないという経験をされたことがあるかと思う.そのた
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
【解説】
What is the Breakthrough Technology for Green Oil Production by Microalgae Toward to Commercialization?
Mitsufumi MATSUMOTO, 電源開発株式会社若松研究所バイオ・
環境技術研究グループ
微細藻類によるグリーンオイル生産技術の実用化に向けて
藻類探索から , オミックス解析 , プロセス設計まで
松本光史
め,獲得微生物が必要な能力を維持したままで継体培養 できることが,産業用微生物として利用できるか重要な ポイントになる.また,②については,単菌化に必要な 能力であるとともに,変異株などのゲノム編集技術を応 用する場合にも必要となる.このように①,②の特徴を 有する候補株は,将来産業に利用できる第一ハードルを クリアしたと考えて良い.また,ラボレベルでの性能評 価を実施しながら,産業化(=プラント化)に必要な生 産条件,機器仕様の設定などイメージしながら実験,評 価,知見の取得を得るようにラボレベルから注意しなが ら進めなければならない.
次に,グリーンオイル生産に用いる候補微細藻類に は,上述したポイント以外に,必ず必要な能力がある.
表
1
にその能力を記載した.記載項目のすべてを保有す る必要はないと思うが,特に筆者が着目しているのが屋 外で安定的に生育(培養)できる能力であると考えてい る.バイオ燃料・原料用グリーンオイルを目的生産物と したならば,選択する微細藻類には表1で示したような 能力が必ず必要になる(1).
屋外で安定的に生育できるということは,自然環境変 化(水温,気温など)に適応し,ほかの雑菌汚染を克服 し,かつ太陽光を利用しながら生育できる 強さ=タ フ を有しているかということである.また,グリーン オイル生産は屋内培養という選択肢もあるが,生産物の 価格,コストなどを考えれば技術的に可能であっても事 業と言う側面からほぼ採択されないだろう.しかし藻種 の選定には,表1右図に示すように培養コストが低く,
エネルギー生産にも活用できる藻種の獲得は,かなりの 努力が必要であることが予想される.
2. 探索と原石との出会い
上述した視点を鑑み,筆者はJPCCからグリーンオイ
ル生産用候補株の検索を実施した.検索に当たっては① どのような藻類,②どのようなオイル種とするかの2点 を決定した.そこで,①はケイ藻種,②中性脂質をター ゲットとする標的を設けた.選定理由は多くあるが,ケ イ藻は多量のオイルを作ることは知られている割にほと んど検討されていない点と中性脂質は多様な微細藻類が 普遍的に産生できる(言い換えれば,候補株の選択肢が 増える)点であろうか.JPCCから約3カ月程度の時間 をかけて約800株について検索したところ,細胞内に多 量のオイルを蓄積する1株のケイ藻を見いだした(図
1
).顕微鏡下でこの株の存在を確認した後,
「グリーン オイル産生微細藻類にもつべき能力」で記載したように 継体培養とコロニー化(単菌化)を確認し,JPCCの継 代履歴から,このケイ藻はわれわれがハンドリングでき る株であることを確認し,心の高ぶりを覚えたのを記憶 している.その後,このケイ藻の形態学的観察,遺伝子 情報などの解析から 属に属する羽状目ケイ藻 と同定した.さらに,種名について顕微鏡下で蓄積した オイルが宇宙の暗黒の中で黄色に輝く太陽のように見 える様子からラテン語の太陽という意味のJPCC DA0580株(以下,ソラリス株)と命名し た(2)
.
スーパースターへの道 1. 実験室での基本性能評価
ソラリス株はJPCCに保存されている約800株の微細 藻類から見いだされた.増殖やオイル生産性に関する基 本的な能力(=スペック)は,500 mL扁平フラスコ,
ケイ藻用f/2培地,室温,連続光照射,空気通気など微 細藻類の増殖が快適に進む条件下において評価した.そ の結果,7日間培養で乾燥藻体0.5 g/L dry cell, 60 wt%
強のグリーンオイル蓄積性となる基本スペックを確認し た.このソラリス株のグリーンオイル蓄積性や増殖に関 する能力の形質変化は,2009年の発見当時から現時点 でも失われることなく安定的に維持できている.また,
表1■オイル産生微細藻類が保有すべき能力
図1■高オイル産生海洋性ケイ藻 JPCC DA 0580株の獲得
(A)光学観察下,(B)蛍光観察下(油滴:黄色部位).
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蓄積するグリーンオイルは中性脂質で,構成する脂肪酸 は,パルミチン酸(C16:0)
,パルミトレイン酸(C16:1)
が主で,この2つで構成脂肪酸の90%を占め,エイコサ ペンタエン酸(C20:5)を加えると95%以上となった.
この比率は,培養条件が異なってもほぼ変化することな く,絶えず均一な油質を生産することができる.また,
炭化水素としてヘキサデカン(C16)などの直鎖アルカ ンを0.7 wt%,0.3 wt%程度のスクワレンを含有してい る.
微細藻類によるグリーンオイル生産性については,過 熱気味の期待値から高い生産性で議論が進んでいるとこ ろがあった.近年,やっと冷静な議論ができるように なってきたが,今回のソラリス株の数値は,あくまで実 験室内でのスペックであって,実験室内ではスターで あっても,屋外で実験室と同等のグリーンオイル生産が
行えて初めてスーパースターとなる.
2. 屋外環境下での評価
実験室の結果の検証も含め,数百Lクラスの培養装置 によるベンチレベルの屋外培養評価・検証を実施するに 当たり,文部科学省所管の科学技術振興機構の戦略的創 造研究推進事業(CREST)「海洋微細藻類の高層化培養 によるバイオディーゼル生産(平成21〜25年度)」とし て採択を受け,国立大学法人東京農工大学(研究代表 者:田中剛教授)を代表者とする研究チームの中で,
100〜200 Lクラスの3種類の培養装置(図
2
)を温室内 に設置(北九州市弊社研究所内)し,ソラリス株の屋外 環境培養可否および年間培養試験,藻体生産性,グリー ンオイル生産性について検討を行った.また本プロジェ クトでは,各生産性以外にも,すべての電源に電力量計 図2■屋外培養試験で用いた培養装置とそ の条件表2■各種培養装置での屋外培養結果
レースウェイ型培養装置 カラム型培養装置 パネル型培養装置
藻体濃度
(g/L Dry) オイル含有量
(wt%) 藻体濃度
(g/L Dry) オイル含有量
(wt%) 藻体濃度
(g/L Dry) オイル含有量
(wt%)
春
平成23年4月〜6月 0.21±0.02 8.9±3.9 ̶ ̶ ̶ ̶
平成24年4月〜6月 0.18±0.04 17.3±2.4 0.42±0.08 33.8±12.8 ̶ ̶
平成25年4月〜6月 ̶ ̶ ̶ ̶ 0.7±0.3 36.2±10.9
夏
平成23年7月〜9月 0.31±0.09 12.5±2.9 0.35 37.7 ̶ ̶
平成24年7月〜9月 0.31±0.04 14.8±6.5 0.57±0.13 17.8±4.8 ̶ ̶
平成25年7月〜9月 ̶ ̶ ̶ ̶ 0.7±0.1 25.5±4.5
秋
平成23年9月〜11月 0.33±0.05 20.7±4.1 ̶ ̶ ̶ ̶
平成24年9月〜11月 ̶ ̶ 0.29±0.09 33.5±6.1 ̶ ̶
平成25年9月〜11月 ̶ ̶ 0.5±0.1 20.4±9.1 0.50±0.19 27.8±4.5
通期平均 0.27±0.1 14.8±4.5 0.46±0.1 27.1±8.9 0.6±0.1 29.8±5.6
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を設置し,投入エネルギーのすべてを測定しており,培 養工程での投入エネルギーに対する得られるエネルギー の比,エネルギー収支(以下,EPR)についても評価を 行った.藻体生産性,グリーンオイル生産性,EPRの 評価ついては,実測値を用いて,現実的で実態に近い数 値として評価するように努めた.
培養試験は,平成23年度から平成25年度の3年間を かけてレースウェイ型,カラム型,パネル型の異なる3 種類の培養装置を用いて行った.その結果,ソラリス株 はいずれの培養装置,培養液などの滅菌操作,温度調整 などを必要とせず春季から秋季にかけて培養が可能であ ることが検証された(表
2
).また,雑菌汚染は確認さ
れたが,ソラリス株はその影響を受けずに増殖した.各種培養装置を用いた3年間の屋外培養試験によっ て,ソラリス株が屋外培養可能であることを明らかにで き,さらに海洋(海水)環境でのグリーンオイル生産用 標準株として提案できる可能性を示せた.
3. 培養工程の低エネルギー化の必要性
本プロジェクトでは,各生産性の評価に加え,培養工 程のEPRの評価についても実施している.レースウェ イ型,カラム型,フラットパネル型の3種類の培養装置 について,投入電力量と得られる藻体が有するエネル ギー量を評価した.その結果,1 kgの藻体を生産するの に必要な投入電力量では,レースウェイ型が最も低く 74.4±28.2 kW h/kg,カ ラ ム 型 で223.2±38.0 kW h/kg,
パネル型は750.0±36.0 kW h/kgと最もエネルギーを必 要とした.この大きな差は通気撹拌用コンプレッサーの 動力に起因している.また,興味深い傾向として投入す るエネルギー量と装置コストが増えるに従って,藻体バ イオマス,グリーンオイル生産が向上することが確認さ れた(表2)
.エネルギーコストと装置コストをかけて,
生育環境を整えてあげれば結果としてそれぞれの生産性 を向上させることができるが,実はこれの生産手段が 微細藻類によるバイオ燃料・原料用グリーンオイル生 産 にとって誤解を招く可能性がある.
なぜ微細藻類のグリーンオイルを燃料や原料に活用す る研究が活発なのだろうか.これは,微細藻類が太陽エ ネルギーとCO2を光合成により,バイオ燃料や原料に変 換できるグリーンオイルを産生することができ,これが CO2削減効果やCO2発生が少ない燃料・原料となり社会 の持続可能性を高め,化石燃料使用量の削減などが期待 されているからである.よって,グリーンオイル生産時 に生み出すエネルギーよりも多くのエネルギーを消費 し,CO2を光合成で固定した以上に排出すると本末転倒
であり,エネルギーを掛けて(掛けすぎて)
,燃料や原
料用グリーンオイルを生産しても意味がない.しかし,これらについて評価するライフサイクルアセ スメントは,机上や仮定した数値で評価されており,エ スティメーション部分が多いことから実体的な評価と なっていない場合が多い.実際,藻体生産性やオイル生 産性などの引用する数値が高すぎたり,屋外である程度 のスケールで実施した実際のデータを用いた評価は少な い.今回得られた培養データでEPRを評価した結果,
最も低エネルギー型のレースウェイでさえ,最大で EPR=0.05程度で,エネルギーバランス的に非常に厳し い結果となった.EPRが1以下である場合,同じエネル ギーを得るためには,多くのエネルギーを必要とし,そ の分CO2を排出すると考えて良い.先ほど述べたよう に,微細藻類はエネルギーと装置コストを掛ければ高い 生産性を達成できる.しかし,意味のあるグリーンオイ ルを微細藻類に生産させる場合,低エネルギー化,低 CO2化技術は必須で,培養工程でいえば①低コスト,低 エネルギー型で,②生産性を落とさず,③培養規模(容 積)を拡大しやすい新たな発想の培養技術が必要となっ た.
低エネルギー型グリーンオイル一貫生産プロセスの 必要性
1. グリーンオイル一貫生産プロセス
微細藻類由来のグリーンオイルは化石燃料のように集 約的に存在しない.必要なエネルギー量を確保するに は, 絶えずエネルギーを掛けて生産 しないといけな い。バイオ燃料は使用時にCO2削減効果(カーボン ニュートラル)を有すると評価されるが、バイオ燃料は 突然その前に現れるものではない。「培養工程の低エネ ルギー化の必要性」で記載したが、CO2削減効果を期待 されているにもかかわらず、エネルギーを掛けて生産す ることによってCO2を余計に排出してしまうことにし てはならない。
筆者は微細藻類由来のグリーンオイルに図
3
にある4 つの意義を満たすグリーンオイル一貫生産プロセスが必 要と考えている.つまり,①(化石燃料と比較した)十 分なCO2削減効果,②良好なエネルギー収支,③低コ スト,④安定生産の「グリーンオイル生産における4意 義」を満たしたプロセスの構築である.これらの4意義 を満たすためには,従来事業化されている微細藻類の培 養方法ではなく,投入エネルギーが少ない低エネルギー(低CO2排出)型グリーンオイル一貫生産プロセスが必 要となる.
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2. 低エネルギー型培養装置
できる限り低エネルギー化を目指さないといけないこ と,その際考慮しないといけない点についてすでに述べ た.筆者は,培養時に培養液を撹拌する際に使用する撹 拌機として,低出力の浮遊式水耕機に着目した.この装 置は元々水質浄化を目的としたもので,微細藻類の培養 に用いるものではなかったが,その低出力と応用性を感 じ,この装置を組み合わせて新たに円形ポンド型(直 径:5 m,培養内容積:10,000 L)培養装置を開発した.
この浮遊式水耕機の消費電力量は40 Whと非常に少な く,10,000 Lの培養液を十分撹拌できる能力を有してい る.次に本培養装置でソラリス株を培養できるかが鍵と なるが,十分に藻体をけん濁できる流速を発生させ,撹 拌ストレスも与えることなく培養できることが確認でき た.さらに,1 kgの藻体を生産する際に必要な電力量に ついて算出したところ6.5 kW h/kgとなり,先行研究の
培養装置と比較して12〜125倍程度の低エネルギー化が 達成できた(図
4
).筆者はこの培養装置を低エネル
ギー型培養装置として位置づけ,今後の研究開発に展開 することとした.3. 通年培養へ向け新たな原石の獲得
グリーンオイル一貫生産プロセス構築に向けた検討の 中で,低エネルギー化などについてはすでに述べた.一 方で微細藻類は,冬季のような低水温下では増殖が抑え られ,培養不適時期となる.これは,冬季はグリーンオ イルの生産ができないことを意味している.一般的な微 細藻類の生育温度域(15〜30 C)を維持できる期間は,
地域差があるがおよそ半年程度しかなく,設備稼働率や グリーンオイル生産量の確保,およびコスト低減を図る にも非常に非効率である.そこで,従来からこの問題を 解決する方法として,工場排熱などを利用した培養液の 加温などの対策が考えられてきたが,ちょうど良い排熱 源がありかつ,微細藻類の培養スペースが十分ある都合 の良い立地点はまれで,実施場所の選定に苦慮すること が想像できる.つまり現実的でない.ただ,この議論は あくまで水温が低下する時期のある候補地での話であっ て,通年を通して温暖な地域ではもちろん関係ない.で は,グリーンオイルの年間生産を行うとなれば,水温低 下時の解決手段を検討する必要がある.
筆者が保有するソラリス株は,水温低下時にはほとん ど生育することができない.水温が15 C以下になると,
生育に阻害が起き10 C以下では生育しなくなる.ソラ リス株を用いて,グリーンオイル年間生産を目指した場 合,培養液の加温が必要となるが,上述したように排熱 利用は,手段としてはありでも現実的でないと考えてい る.また筆者は,まずは 日本産のグリーンオイル に 図3■グリーンオイルが満たす必要がある4つの意義
図4■各培養装置による単位藻体生産に必 要な投入エネルギー量比較
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こだわることとし,その解決手段として,低水温下でも 生育し,グリーンオイルを生産することができる新たな 微細藻類を獲得するアプローチを取った.ターゲット微 細藻類は アイスアルジェ と呼ばれる低水温下でも良 好に生育できることが知られている微細藻類である.幸 運にも海洋のアイスアルジェは主にケイ藻類が主体で,
ソラリス株と同じケイ藻類であり,プロセスの共通化に 非常に都合が良かった.
そこで,オイル蓄積性を有するアイスアルジェを求め て,新たな候補株の分離・獲得を開始した.検索に当 たってはグリーンオイルを生産する目的は当然である が,これから開発するグリーンオイル一貫生産プロセス において,ソラリス株との共通性も考え,できる限り類 似性の高い株の選定に重点を置いた.その結果,約300 株の中から幸運にも新たな株を見いだすことができた.
新たな株の培養可能水温は4〜28 Cと低温下での生育が 可能で,細胞サイズ,藻体濃度,グリーンオイルの蓄積 性,油質,構成脂肪酸種もソラリス株と同等であった
(図
5
).このケイ藻の諸性質を解析した結果,
属に属し,ソラリス株と同じく羽状目ケイ藻で あった.新たに見いだした株は, sp. JPCC CTDA0820株(以下,ルナリス株)(3)と登録し,冬季用 のグリーンオイル生産株として活用することとした.そ の結果,筆者はグリーンオイルの年間生産に向けてソラ リス株,ルナリス株という心強い2つの仲間を得ること ができた.
4. 年間培養によるグリーンオイル一貫プロセス化へ グリーンオイル生産では,培養工程以外にも回収工 程,オイル抽出工程を組み合わせたプロセスで構成され る.これらの工程を最適に組み合わせ,運用ノウハウを 蓄積しながら技術開発を行う必要がある.
筆者は図3の要件を満たすグリーンオイル一貫生産プ ロセス技術の開発を進めるべく,国立研究開発法人新エ ネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の戦略的次 世代バイオマスエネルギー利用技術開発「好冷性微細藻 類を用いたグリーンオイル一貫生産プロセスの構築(平 成25〜28年度)」として採択を受け,J-POWER(研究 代 表 者:松 本 光 史) を 代 表 と す る 研 究 チ ー ム で,
3,000 m2の敷地を活用し,10,000 Lの低エネルギー型培 養装置を有する培養工程,回収工程,オイル抽出工程の すべての工程を低エネルギー化するとのキーワードで全 工程を1カ所の集約し,パイロットスケール規模の運用 ノウハウ取得も含めた研究開発を進めている(図
6
).
グリーンオイル生産は,培養後の工程が完成していて も,肝心のグリーンオイル含有藻体が生産できないと成 立しない.よって一貫プロセス工程で,安定的に屋外培 養できる藻類と技術が最も重要な工程であると考えてい る.そこで,平成26年度から平成27年度にかけてソラ 図5■新規に獲得した株とソラリス株の性能比較
図6■グリーンオイル一貫生産プロセス設 備全体図
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リス株,ルナリス株の10,000 Lスケール培養装置による 年間培養が可能かどうか検討した.培養条件を図
7
に示 す.基本的に滅菌操作や微細藻類の生育を助ける制御装 置を設けず,唯一CO2によるpH制御を行った.稙菌時 の培養液輸送についても,将来の大型化,プロセス化を 見据え,ポンプ輸送を採択した.その結果,培養時(季 節)の水温でソラリス株(10日間培養),ルナリス株
(10日間培養)を使い分けることで,培養液の加温や冷 却などを必要とせず,安定的に年間培養が行えることを 確認した.月ごとの藻体生産量,水温変化を示した(図
8
).ルナリス株については,初めての屋外培養試験と
なったが,水温が2 C程度にまで低下しても生育がで き,冬季に対応できる株であることを証明した.一方で 藻体生産量は年間を通じてあまり変動がなく,その月の各バッチ培養の平均値は約74 g/m2となった(図7)
.
今回,m3クラスの培養規模の培養装置を使って得ら れた年間培養データは,水温変化のある国内でも, 一 定規模の国内生産 が行える可能性を示す貴重なデータ となった.5. 培養工程から回収工程までの投入エネルギー評価と 低エネルギー化
今回設置した設備には,使用する電源すべてに電力量 計を設置し,投入電力量(投入エネルギー量)のすべて を把握している.培養工程から回収工程における投入電 力量について評価を行った結果,培養から回収工程まで において,1 kgの藻体(乾物相当)を生産する際に必要 な電力量は14.7 kW h(培養工程:6.5 kW h,回収工程:
8.2 kW h)であった.一方で,グリーンオイル1Lが保有 するエネルギー量はおよそ38 MJ/L相当で,電力量換算 した場合,4.2 kW hである.今回得られた結果からもう 一段の低エネルギー化の検討が必要となった.
そこで,各工程のさらなる低エネルギー化について検 討した結果,培養工程では生産性の高い時期での培養を 繰り返す半連続培養,ソラリス株,ルナリス株の自己凝 集能や凝集剤を活用した濃縮液を作り,回収する工夫を 行うことで,約2.4 kW h(培養工程:1.6 kW h,回収工 程:0.8 kW h)まで低減できる見通しを得た.この結 果,エネルギーバランス的にはプラスを維持できる見通 しが得られたが,今後抽出工程について同様な評価を行 い,一貫プロセス全体として最終評価を行う予定として いる.
図7■屋外培養試験条件
図8■ JPCC DA0580株と sp. JPCC CTDA0820株の月間藻体 生産量と年間培養水温変化
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遺伝子からのオイル蓄積機能解明と改良技術 1. オイル蓄積能の解明およびオイル蓄積に関連する律 速因子の特定に向けたオミックス解析
微細藻類を用いてオイル生産を行う際には,そのオイ ルの蓄積機構を深く理解する必要がある.これまでの研 究から一般的に真核の微細藻類は,細胞内にオイルの原 料となるトリグリセリドを蓄積することが知られてい る.このトリグリセリドの蓄積は栄養源欠乏条件下(特 に窒素欠乏)において,誘導されることが多く報告され ている(4)
.今回用いているケイ藻種においても同様であ
る.しかしながら,トリグリセリドが誘導されるという 表現型は観察されているが,細胞内のタンパク質合成や 光合成活性の変化など,どのような代謝フラックスの変 化により,トリグリセリド蓄積が誘導されるのかという 点においてはいまだ解明が不十分である.またこの代謝 フラックスの変化は微細藻類の属,種間においても大き く異なる.さらにケイ藻においては,二次共生により葉 緑体が四重の膜で覆われているなど,高等植物とは大き く細胞内膜構造が異なるため(5),トリグリセリド合成関
連酵素群の局在などが異なることが推測され,現在オ ミックス解析による網羅的なトリグリセリド蓄積機構の 解析が行われている.まずはじめに筆者は,ソラリス株 を対象とした全ゲノム解析を実施した.その結果を表3
に示す.ソラリス株のゲノムサイズは49.7 MBとこれま で全ゲノム解析が実施されているモデルケイ藻2種( , )
のゲノムサイズ27.4, 32.4 MBと比較すると約2倍程度大 きいことが示された.また遺伝子予測の結果からも2倍 程度の遺伝子数(20,455遺伝子)が存在していることが 確認できた.しかしながらこれら2倍の遺伝子には相同 性が高い遺伝子が存在しており,それらは全体の約 80%の遺伝子において確認できた(6)
.以上の結果から,
当該株は2種類以上のゲノムで構成される異質倍数体で ある可能性が示唆された.異質倍数体のゲノム構造をも つ生物は酵母やイネなどの農作物においては確認されて いるが,ケイ藻を含む微細藻類においては報告された例
はない.
またその一方で,全ゲノム解析の結果より得られた遺 伝子を近縁種である の代謝経路にマッピ ングを行い,ソラリス株における代謝経路の構築を行っ た.つづいてこれらマッピングを行った遺伝子のオイル 蓄積誘導時,またオイル蓄積の非誘導時における発現量 解析を実施することで,オイル蓄積に関連する遺伝子群 の絞り込みを試みた.その結果,基礎的な代謝経路(解 糖系,TCAサイクルなど)に関連する遺伝子群はすべ てマッピングされ,発現解析の結果からは,オイル蓄積 の律速因子となりうるいくつかの候補遺伝子が特定され た.またオイルの品質に関与する不飽和化酵素群も見い だされた.ゲノミクス,トランスクリプトミクス解析な どのオミックス解析により,ソラリス株における特徴的 なゲノム構造やオイルの生産性向上や品質改善に向けた 候補遺伝子を同定することができ,ソラリス株における オイル高蓄積能の解明に向けた知見が獲得できた.
2. 分子育種による改良
「オイル蓄積能の解明およびオイル蓄積に関連する律 速因子の特定に向けたオミックス解析」で前述したとお り,ケイ藻は二次共生により大きく細胞内膜構造が異な り,脂質合成酵素の局在が明らかでない.加えて真核の 微細藻類は遺伝子のサイレシングなどにより遺伝子組換 えが困難であるため,GFP融合による局在解析などが ほとんど行われていない.これまでの微細藻類の酵素の 機能解析などには酵母などが用いられているが,脂質の 輸送経路などの解明などを行うためには同株で発現させ る必要がある.ソラリス株においては, 解析に おいて遺伝子の局在予測を行い,特定の局在タンパク質 とGFPタンパク質融合することで葉緑体や油滴といっ た各種オルガネラでGFP遺伝子の発現系を構築するこ とに成功している(図
9
).またオミックス解析により
表3■ JPCC DA0580株の全ゲノム解析
JPCC DA0580 ゲノムサイズ
(Mb) 49.7 27.4 32.4
染色体数 42 33 24
遺伝子数 20,455* 10,402 11,776
* 9,007個の相同遺伝子を含む 図9■各オルガネラにおける異種タンパク質の発現
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絞り込んだ候補遺伝子を強発現・ノックダウンした株の 作出も行っており,オイル生産性の向上や脂肪酸組成の 改変に成功している.また生産性向上に向けたアプロー チのみではなく,バイオディーゼル燃料生産時に生じる 副産物であるグリセロールの再利用を目指し,グリセ ロールトランスポーターを強発現させ,グリセロールの 資化性を高めた株を作出した(7)
.さらに藻体の回収が容
易になるような,自己凝集性を付与した株の作出なども 行っており,低エネルギー型のグリーンオイル生産プロ セスを考慮した変異株の作出を行っている.しかしなが らこれらはすべて遺伝子組換えに相当し,屋外での利用 は困難である.そこで近年注目を集めているCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術を本株において も適応可能かどうか検討を行っている.
期待と現実
微細藻類の可能性は広いと思っている.一方で,微細 藻類ができるとこと,できないこと,それによる応用性 に限界があることを認識すべきであると考えている.微 細藻類の生育に必要なエネルギーは基本的に太陽光であ る.地表に届く光合成に必要なエネルギー量は限りがあ る.つまり,微細藻類の生産性は限界があり,単位面積 当たりに換算される藻体生産量,グリーンオイル生産量 はおのずと決まってしまうことである.ゆえに,短時間 に大量供給を必要とする応用分野は,本来生物の不得意 な領域である.微細藻類が産生するグリーンオイルをエ ネルギーや燃料方面への応用には,常に上記課題がつき まとってしまう.
筆者は,エネルギーは私たちの普段の生活や産業,ひ いては日本の国力維持や地球環境問題にまで直結してい る大きな事柄だけに安易に可能性を拾い上げて,綺麗な 数字を並べてすぐにでも実現できるかのような議論は,
投資や時間,資源のロスとなりすべきではないと思って いる.可能性を実現するための冷静な議論のもと,方向 性(ビジョン)
,目標(マイルストーン)と計画(プラ
ン)を策定し,時間軸(タイム)を調整しながら,より 実効性のある研究開発を進めていかなくてはならない.まとめ
今回,屋外のパイロットスケール設備を用いて微細藻 類によるグリーンオイル一貫プロセス開発で得られた成 果について紹介させていただいた.微細藻類が注目され てから,期待ばかりが先行し,実際のデータを利用した 評価が乏しく,正確な評価ができてない.屋外の一定規 模での試験結果をきちっと公表している機関がほとんど ない中で,議論の土台となるデータを示して解説できた ことは非常に光栄であるとともに,今後の研究開発の参 考になればありがたい.
筆者は,将来的にこの微細藻類のグリーンオイル生産 技術を,光合成を利用したカーボンリサイクル技術(図
10
)として確立したいと考えている.このため,兎にも 角にも現在,本当の意味でCO2削減効果を有する生産 技術として完成させなければならない.最後になるが,筆者は微細藻類を取扱うようになって およそ20年近くになる.微生物としての多彩な能力を もつ微細藻類は興味深い.しかし,それらの能力を事業
図10■微細藻類のグリーンオイルを用いた カーボンリサイクル技術
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
として花開せる場合,細菌などと比べ,一筋縄ではいか ない微生物であるとひしひしと感じている.だが,全く 諦めていない.結局の所,本稿を書きながら思ったこと は,良い微細藻類を見つけ出すことがまずは最初のス テップとして重要であるということである.今回,ソラ リス株,ルナリス株に巡り合えたことは,光栄であり,
幸運でもあったと感じている.この2つの藻類は役者で ある.この役者を事業ステージの表舞台で活躍させると ころまでプロデュースすることが筆者の役割と思ってい る.その瞬間までこの2つの藻類とともに 2藻3脚 で進んでいきたいと思いつつ,本稿を締めくくりたい.
謝辞:本研究は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機 構の戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業の「好冷性微 細藻類を用いたグリーンオイル一貫生産プロセスの構築」で実施したも のである.
文献
1) 松本光史,田中 剛:環境バイオテクノロジー学会誌,
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2) M. Matsumoto, S. Mayama, M. Nemoto, Y. Fukuda, M.
Muto, T. Yoshino, T. Matsunaga & T. Tanaka:
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4) Z. K. Yang, Y. F. Niu, Y. H. Ma, J. Xue, M. H. Zhang, W.
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プロフィール
松本 光史(Mitsufumi MATSUMOTO)
<略歴>1995年東京農工大学工学部物質 生物工学科(現生命工学科)卒業/1997 年ハワイ大学自然エネルギー研究所研究 員/2001年同大学大学院工学研究科博士 後期課程修了(博士(工学))/2002年日本 学術研究会特別研究員/同年電源開発株式 会社入社,現在に至る<研究テーマと抱 負>研究テーマ:海洋微細藻類を用いた燃 料・原料用グリーンオイル生産技術開発.
抱負:新規微生物を用いた新産業の創出と 環境問題への貢献(地球のお医者さん)
<趣味>本屋めぐり,人間観察
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.181
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