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傷害保険契約における「外来の」事故該当性の判断基準

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Academic year: 2023

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(1)

傷 害 保 険 契 約 に お け る 「 外 来 の 」 事 故 該 当 性 の 判 断 基 準 熊 本 大 学 法 学 部 遠 山 聡

1 . は じ め に

(1)傷 害 保 険 契 約 に お け る 保 険 事 故 と そ の 法 的 根 拠

傷 害 保 険 契 約 は 、 被 保 険 者 が 急 激 か つ 偶 然 な 外 来 の 事 故 に よ っ て 身 体 に 傷 害 を 被 っ た と き に 、 保 険 者 が 保 険 金 を 支 払 う こ と を そ の 内 容 と す る 契 約 で あ る 。 保 険 者 が 損 害 保 険 会 社 で あ る か 、 生 命 保 険 会 社 で あ る か に よ っ て 若 干 の 相 違 は あ る が

1

、 「 急 激 か つ 偶 然 ( 偶 発 的 ) な 外 来 の 事 故 に よ る 身 体 の 障 害 」 を 保 険 事 故 と す る 点 で は 共 通 す る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 両 者 を と く に 区 別 せ ず に 論 じ る こ と と す る 。

こ の い わ ゆ る 傷 害 事 故 の 3 要 件 に つ い て は 、従 来 か ら 議 論 が 絶 え な い が 、 と り わ け 偶 然 性 の 立 証 責 任 に つ い て 、 最 判 平 成 13 年 4 月 20 日

2

に よ り 一 応 の 決 着 が な さ れ た も の の 、 保 険 金 請 求 者 の 保 護 の 要 請 の 観 点 で 、 少 な か ら ず 問 題 を 残 し て い る 。

他 方 で 、 外 来 性 の 要 件 に つ い て は 、 「 被 保 険 者 ( 被 共 済 ) 者 の 身 体 の 外 部 か ら の 作 用 に よ る 事 故 」で あ る と い う 点 に は 異 論 は な く 、身 体 の 疾 患 等 の 内 部 的 原 因 に 基 づ く も の を 排 除 し 、疾 病 に よ る 身 体 障 害 を 除 外 す る た め の 概 念 で あ る と 理 解 さ れ る

3

。し か し な が ら 、外 部 か ら の 作 用 と 疾 病 等 の 被 保 険 者 の 基 礎 疾 患 が 、協 働 原 因 と し て 被 保 険 者 の 身 体 障 害 を 惹 起 さ せ て い る 場 合 に 、外 来 性 の 要 件 を 満 た す も の と い え る か に つ い て は 、判 例・学 説 と も に 必 ず し も 明 確 で な い 。ま た 、外 来 性 を「 疾 病 等 の 内 部 的 原 因 に 基 づ く も の で な

1

損 害 保 険 会 社 の 傷 害 保 険 の 約 款 で は 、 保 険 期 間 中 に 傷 害 事 故 が 発 生 し て い れ ば 、 そ れ に よ る 死 亡 や 後 遺 障 害 が 保 険 期 間 経 過 後 に 発 生 し た 場 合 で も 保 険 金 が 支 払 わ れ る の に 対 し て 、 生 命 保 険 会 社 の 傷 害 保 険 ( 災 害 関 係 特 約 ) の 約 款 で は 、 保 険 期 間 中 に 死 亡 や 後 遺 傷 害 も 発 生 し て い な け れ ば 支 払 わ れ な い と い う 点 で 相 違 す る 。

2

災 害 関 係 特 約 に つ き 民 集

55

3

682

頁 、裁 判 所 時 報

1290

1

頁 、判 時

1751

163

頁 、 判 タ

1061

65

頁 等 。 傷 害 保 険 に つ き 判 時

1751

171

頁 、 判 タ

1061

68

頁 等 。

3

加 瀬 幸 喜 「 保 険 事 故 - 外 来 性 」 傷 害 保 険 の 法 理

45

頁 、 山 下 友 信 ・ 保 険 法

454

頁 、 石 田 満 ・ 商 法 Ⅳ ( 保 険 法 ) 〔 改 訂 版 〕

348

頁 、 江 頭 憲 治 郎 ・ 商 取 引 法 〔 第 4 版 〕 等 参 照 。

(2)

い こ と 」と 解 し た 場 合 に は 、傷 害 保 険 約 款 に 規 定 さ れ る 疾 病 免 責 条 項 と の 関 係 も 問 題 と な る 。以 下 で は 、平 成

19

年 に 相 次 い で 出 さ れ た 3 判 例 を 踏 ま え 、 外 来 性 要 件 の 判 断 基 準 に つ い て 検 討 を 行 う 。

(2)外 来 性 に 関 す る 約 款 の 規 定 例

【 傷 害 保 険 約 款 ・ 規 定 例 ( 損 害 保 険 ) 】 第 1 条 ( 保 険 金 支 払 事 由 )

① 当 会 社 は 、 保 険 証 券 記 載 の 被 保 険 者 ( 略 ) が 急 激 か つ 偶 然 な 外 来 の 事 故 ( 略 ) に よ っ て そ の 身 体 に 被 っ た 傷 害 に 対 し て 、 こ の 約 款 に 従 い 保 険 金 ( 略 ) を 支 払 い ま す 。 第 3 条 ( 疾 病 免 責 条 項 )

① 当 会 社 は 、 次 の 各 号 に 掲 げ る 事 由 の い ず れ か に よ っ て 生 じ た 傷 害 に 対 し て は 、 保 険 金 を 支 払 い ま せ ん 。

(

5

)被 保 険 者 の 脳 疾 患 、 疾 病 ま た は 心 神 喪 失

4

(

6

)被 保 険 者 の 妊 娠 、 出 産 、 早 産 、 ま た は 流 産 ま た は 外 科 的 手 術 そ の 他 の 医 療 処 置

5

た だ し 、 当 会 社 が 保 険 金 を 支 払 う べ き 傷 害 を 治 療 す る 場 合 に は 、 こ の 限 り で あ り ま せ ん 。

10

条 ( 限 定 支 払 条 項 )

① 被 保 険 者 が 第 1 条 ( 当 会 社 の 支 払 責 任 ) の 傷 害 を 被 っ た 時 す で に 存 在 し て い た 身 体 の 障 害 も し く は 疾 病 の 影 響 に よ り 、 ま た は 同 条 の 傷 害 を 被 っ た 後 に そ の 原 因 と な っ た 事 故 と 関 係 な く 発 生 し た 障 害 ま た は 疾 病 の 影 響 に よ り 同 条 の 傷 害 が 重 大 と な っ た 場 合 は 、 当 会 社 は 、 そ の 影 響 が な か っ た と き に 相 当 す る 金 額 を 決 定 し て こ れ を 支 払 い ま す 。

【 生 命 保 険 ・ 災 害 関 係 特 約 約 款 ・ 規 定 例 】 第 1 条 ( 保 険 金 支 払 事 由 )

(

1

) 災 害 死 亡 保 険 金 次 の い ず れ か を 直 接 の 原 因 と し て 主 た る 保 険 契 約 の 被 保 険 者 が こ の 特 約 の 保 険 期 間 中 に 死 亡 し た と き

4

以 下 、 こ れ を 疾 病 免 責 条 項 と い う 。

5

以 下 、 こ れ を 疾 病 治 療 免 責 条 項 と い う 。

(3)

① 責 任 開 始 時 以 後 に 発 生 し た 不 慮 の 事 故 ( 別 表 2 ) ( た だ し 、 不 慮 の 事 故 が 発 生 し た 日 か ら そ の 日 を 含 め て

180

日 以 内 の 死 亡 に 限 り ま す )

② 責 任 開 始 時 以 後 に 発 生 し た 感 染 症 ( 別 表

11)

別 表 2 対 象 と な る 不 慮 の 事 故

対 象 と な る 不 慮 の 事 故 と は 急 激 か つ 偶 発 的 な 外 来 の 事 故 ( た だ し 、 疾 病 ま た は 体 質 的 要 因 を 有 す る 者 が 軽 微 な 外 因 に よ り 発 症 し ま た は そ の 症 状 が 増 悪 し た と き に は 、 そ の 軽 微 な 外 因 は 急 激 か つ 偶 発 的 な 外 来 の 事 故 と み な し ま せ ん 。 ) で 、 か つ 、 昭 和

53

12

15

日 行 政 管 理 庁 告 示 第

73

号 に 定 め ら れ た 分 類 項 目 中 下 記 の も の と し 、 分 類 項 目 の 内 容 に つ い て は 、 「 厚 生 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部 編 疾 病 ・ 傷 害 お よ び 死 因 統 計 分 類 提 要 昭 和

54

年 版 」 に よ る も の と し ま す 。

15.

溺 水 、窒 息 お よ び 異 物 に よ る 不 慮 の 事 故 た だ し 、疾 病 に よ る 呼 吸 障 害 、嚥 下 障 害 、 精 神 神 経 障 害 の 状 態 に あ る 者 の 「 食 物 の 吸 入 ま た は 嚥 下 に よ る 気 道 閉 塞 ま た は 窒 息(

E911

)」、「 そ の 他 の 物 体 の 吸 入 ま た は 嚥 下 に よ る 気 道 の 閉 塞 ま た は 窒 息(

E912

)」

は 除 外 し ま す 。

2 . 外 来 性 要 件 に 関 す る 裁 判 例 の 動 向 (1)外 来 性 に 関 す る 下 級 審 裁 判 例

外 来 性 要 件 は 、 外 部 か ら の 作 用 と 疾 病 等 の 内 部 的 要 因 が 協 働 原 因 と な っ て 、 被 保 険 者 の 死 亡 等 の 身 体 障 害 を 発 生 さ せ て い る 場 合 に そ の 該 当 性 が 争 わ れ る が 、 問 題 と な る の は 事 故 死 か 病 死 か の 線 引 き で あ る 。 以 下 で は 、 従 来 の 裁 判 例 を 事 故 類 型 別 に 整 理 す る 。

a)入 浴 中 の 溺 死 ( 風 呂 溺 )

① 東 京 地 判 平 成 12 年 9 月 19 日 判 タ 1086 号 292 頁

( 疾 病 要 因 ) 高 齢 、 入 浴 前 の 飲 酒 → 心 筋 梗 塞 等 の 心 疾 患 に よ る 意 識 喪 失 の 疑 い 外 来 性 の 事 故 の 証 明 が 不 十 分 で あ る と し て 請 求 を 棄 却 。

② 名 古 屋 高 判 平 成 14 年 9 月 5 日 判 例 集 未 登 載

( 疾 病 要 因 ) 高 齢 、 高 血 圧 、 貧 血 等 の 心 疾 患 ・ 血 管 系 疾 患

(4)

「 主 と し て 」 外 来 的 な 要 因 に よ っ て 被 保 険 者 が 死 亡 し た こ と を 証 明 す れ ば 足 り る と し た 上 で 、 「 意 識 障 害 で 伏 せ っ た 場 所 が 浴 槽 内 で な け れ ば 死 亡 し な か っ た 場 合 に は 、 外 来 的 要 因 が あ る こ と を 否 定 で き ず 、 外 来 の 事 故 と い い う る 場 合 も あ る 」 と し て 、 外 来 性 を 肯 認 し た 。

③ 名 古 屋 地 判 平 成 14 年 9 月 11 日 判 例 集 未 登 載 ( 疾 病 要 因 ) 糖 尿 病 に 起 因 す る 脳 血 管 障 害

「 身 体 の 内 部 に 原 因 す る も の な し に 致 死 的 な 結 果 が 生 じ る こ と が あ り 得 な い よ う な 場 合 、す な わ ち そ の 原 因 が 専 ら 疾 病 な ど 身 体 の 内 部 に 原 因 す る も の は 除 外 さ れ る べ き で あ る 」 と し 、 外 来 性 の 立 証 が 尽 く さ れ て い な い と 判 断 。

④ 大 阪 高 判 平 成 17 年 12 月 1 日 判 時 1944 号 154 頁 ( 疾 病 要 因 ) 高 齢 、 虚 血 性 心 疾 患 等 に よ る 疑 い

保 険 金 請 求 者 は 、直 接 の 死 因 が 被 保 険 者 の 身 体 の 外 部 に あ る も の で あ る こ と を 立 証 す れ ば よ く 、そ の 間 接 的 な 原 因 に つ い て は 、身 体 の 内 部 に 原 因 す る も の で は な い こ と ま で 明 ら か に す る 必 要 は な く 、身 体 の 内 部 に 原 因 す る も の で あ る こ と が 明 ら か で あ る と は い え な い こ と を 立 証 す れ ば 足 り る と い う べ き で あ る と し て 、高 齢 者 に つ い て は 、特 段 の 疾 患 が な い 健 常 人 で あ っ て も 、加 齢 に よ り 心 肺 機 能 な い し 循 環 機 能 が 低 下 し て い る も の と 考 え ら れ る こ と か ら 、入 浴 に よ る 温 度 や 圧 力 変 化 に よ っ て 、一 時 的 に 意 識 障 害 を 生 じ る こ と が 考 え ら れ る か ら 、内 部 的 疾 患 が な け れ ば 浴 槽 に お い て 溺 死 す る こ と は な い と ま で は い え な い と し た 。

⑤ 神 戸 地 判 平 成 18 年 1 月 18 日 判 時 2006 号 156 頁 ( a-⑥ の 原 審 ) ( 疾 病 要 因 ) 高 齢 、 虚 血 性 心 疾 患 や 脳 貧 血 の 疑 い

意 識 消 失 の ま ま 溺 死 し た の は 、 意 識 消 失 を 誘 発 す る 内 因 的 な 疾 患 が 存 在 し た こ と が 推 認 さ れ る か ら 、 高 齢 者 の 入 浴 中 の 死 亡 に つ い て は 、 外 傷 等 外 来 性 の 要 件 を 充 足 す る 特 段 の 事 情 の 立 証 が 必 要 と し た 上 で 、 医 師 の 所 見 で 意 識 消 失 を 生 じ る よ う な 脳 梗 塞 や 心 筋 梗 塞 等 の 疾 患 が 確 認 で き な い 場 合 で も 、 虚 血 性 心 疾 患 や 脳 貧 血 が 生 じ て い な か っ た と は い え な い と し て 、 外 因 死 で あ る と 直 ち に は い え な い 等 の 理 由 か ら 、 外 来 性 の 要 件 を 肯 定 す る に 足 り る 特 段 の 事 情 を 立 証 し た と は い え な い

(5)

と し た 。

⑥ 大 阪 高 判 平 成 19 年 4 月 26 日 判 時 2006 号 146 頁

外 来 性 の 立 証 と し て 、 保 険 金 請 求 者 は 、 死 亡 の 原 因 が 疾 病 等 の 内 部 的 な 要 因 に よ ら ず 、 同 人 の 身 体 の 外 部 に あ る こ と を 主 張 立 証 し な け れ ば な ら な い と す る 。 そ の 上 で 、 入 浴 時 の 温 度 変 化 等 に よ る 熱 中 症 や 起 立 性 低 血 圧 等 の 生 理 的 な 身 体 的 反 応 に よ る 一 時 的 意 識 消 失 は 、 直 接 の 原 因 は 溺 水 の 吸 引 と い う 外 部 の 要 因 に あ る 突 発 的 な 溺 死 事 故 で あ る と い う べ き で あ る と し た 。 ま た 、 こ の よ う な 態 様 の 事 故 に は 、 高 齢 者 の 老 齢 に と も な う 反 射 機 能 や 身 体 防 御 能 力 の 衰 え な ど の 身 体 的 な 条 件 も 溺 死 の 結 果 招 致 に 大 き く 関 係 し て い る こ と が 考 え ら れ る が 、 老 化 は 一 般 的 な 生 理 現 象 で あ り 疾 患 と は い え ず 、 そ の こ と の 故 に 事 故 の 外 来 性 を 否 定 す べ き で な い こ と は い う ま で も な い と し て 、 外 来 性 は 認 め た 。

b)交 通 事 故

① 大 阪 地 判 平 成 12 年 9 月 28 日 交 通 民 集 33 巻 5 号 1595 頁 ( 疾 病 要 因 ) 肝 硬 変 症 お よ び 心 機 能 障 害 の 既 往 症

交 通 事 故 か ら 死 亡 に い た る 機 序 に 高 度 の 蓋 然 性 が 認 め ら れ る と し て 、 本 件 交 通 事 故 と 被 保 険 者 死 亡 と の 間 に 相 当 因 果 関 係 が あ る こ と は 認 め て い る 。 な お 、 「 本 件 交 通 事 故 が 亡 A に 内 在 す る 原 因 の み に よ っ て 発 生 し た と は 認 定 す る こ と が で き な い か ら 」 外 来 性 が な い と は い え な い と の 判 示 部 分 か ら は 、 事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る ケ ー ス で も 外 来 性 を 認 め る も の と 理 解 で き る 。

② 奈 良 地 判 平 成 14 年 8 月 30 日 金 ・ 商 1157 号 51 頁

( 疾 病 要 因 ) 糖 尿 病 お よ び 脳 動 脈 硬 化 症 、 薬 剤 ( パ ナ ル ジ ン ) の 服 用

直 接 の 死 因 で あ る 小 脳 出 血 が 、 交 通 事 故 に よ る 外 傷 に よ っ て 発 症 し た 外 傷 性 小 脳 出 血 で は な く 、 病 的 素 因 に よ り 発 症 し た も の と す る 。 ま た 、 交 通 事 故 に よ る 衝 撃 な い し 精 神 的 シ ョ ッ ク は 、 病 的 素 因 を 有 し な い 通 常 人 に と っ て は 小 脳 出 血 の 要 因 と な る と は 考 え ら れ な い と し て 、軽 微 な 外 因 に 該 当 し な い と は い え な い と し た 。

(6)

③ 横 浜 地 横 須 賀 支 判 平 成

16

3

29

日 交 通 民 集

37

2

446

( 疾 病 要 因 ) 高 齢 者 の く も 膜 下 出 血 と し て 脳 動 脈 瘤 破 裂 の 疑 い

交 通 事 故 は 、 脳 動 脈 瘤 破 裂 に よ る 意 識 障 害 に よ り 運 転 者 の 正 常 な 判 断 能 力 を 喪 失 し た こ と に よ り 惹 起 さ れ た に す ぎ ず 、 被 保 険 者 の 死 亡 の 直 接 の 原 因 で は な い と し た 。

④ 東 京 地 判 平 成

16

10

22

日 交 通 民 集

37

5

1404

( 疾 病 要 因 ) 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 等 の 既 往 症

既 往 症 が 原 因 で 意 識 が 朦 朧 と な っ て 転 倒 し た こ と に よ り 、事 故 が 発 生 し た 可 能 性 を 否 定 す る こ と は で き な い と し て 、本 件 事 故 が『 急 激 か つ 偶 然 な 外 来 の 事 故 』で あ る こ と に は 合 理 的 な 疑 い を 容 れ る 余 地 が あ る と い う べ き で あ る と し た 。

c)第 三 者 ( 保 護 義 務 者 等 ) の 過 失

① 大 阪 地 判 平 成 11 年 1 月 14 日 判 時 1700 号 156 頁 ( c-② の 原 審 ) ( 疾 病 要 因 ) 糖 原 病 に よ る 脳 障 害 ( 高 齢 者 で は な い ) + 看 護 職 員 の 過 失 外 来 性 を 認 め つ つ も 、「 て ん か ん 発 作 の 原 因 と な っ た 糖 原 病 に よ る 脳 障 害 が 看

護 婦 の 過 失 よ り も 強 く 寄 与 し て い る 」 と し て 免 責 を 認 め た 。

② 大 阪 高 判 平 成 11 年 9 月 1 日 判 時 1709 号 113 頁

原 審 同 様 、外 来 性 を 認 め つ つ 、て ん か ん 発 作 は「 そ れ 自 体 生 命 に 別 状 の あ る も の で は な く 」 溺 水 の 直 接 の 原 因 で は な い と し て 、 疾 病 免 責 を 否 定 し た 。

③ 東 京 地 判 平 成

16

1

16

日 判 時

1879

147

頁 (

c-④ の 原 審 )

( 免 責 要 因 ) 検 査 技 師 の 過 失 医 療 処 置 ?

本 件 事 故( 検 査 技 師 が ベ ッ ド の 背 も た れ を 倒 し た 際 に 気 管 切 開 チ ュ ー ブ が 脱 落 し て 呼 吸 不 全 に 陥 っ た )を 外 来 の 事 故 で あ る と し た 上 で 、「 上 記 条 項 は 、患 者 の 疾 病 に 対 す る 検 査 、診 断 、治 療 を 目 的 と し た 医 療 行 為 の 一 環 と し て 行 わ れ た 処 置 」と し て と 解 し て 、 「 医 療 処 置 」 に 該 当 す る と し た 。

④ 東 京 高 判 平 成

16

7

13

日 判 時

1879

145

医 療 処 置 は そ も そ も 外 来 性 、 偶 然 性 に 欠 け 、 保 険 事 故 の 要 件 を 満 た さ な い こ と

(7)

に な り 、 疾 病 治 療 免 責 条 項 は 念 の た め に 定 め ら れ た 規 定 に す ぎ な い と 解 し た 上 で 、

「 『 医 療 処 置 』 と は 検 査 、 診 断 、 投 薬 、 治 療 等 の 医 療 処 置 そ の も の を 指 し 、 医 療 処 置 を 行 う た め の 準 備 行 為 、 あ る い は そ れ 自 体 医 療 処 置 と は い え な い 行 為 は 含 ま な い 」 と し て 、 「 医 療 処 置 」 該 当 性 を 否 定 し た 。

⑤ 大 阪 地 判 平 成

18

11

29

日 判 タ

1237

304

( 疾 病 要 因 ) 認 知 症 + 介 護 職 員 の 過 失

判 旨 は 、 「 外 来 性 に つ い て は , 被 保 険 者 の 身 体 の 外 部 に 存 す る 事 情 が 主 た る 原 因 と な り , こ れ が 結 果 の 発 生 に 直 接 作 用 し た と い え れ ば 足 り る 」 と し 、 「 本 件 の よ う に , 被 保 険 者 の 疾 病 等 の 内 的 要 因 と 外 的 要 因 が 併 存 す る 場 合 に つ い て は , 被 保 険 者 に 疾 病 等 の 内 的 要 因 が 存 す る と の 一 事 を も っ て し て 直 ち に 外 来 性 の 要 件 を 欠 く も の と 判 断 す る の は 相 当 で は な く , そ れ 以 外 の 外 的 な 事 情 が 主 要 な 原 因 を な し , こ れ が 直 接 的 に 結 果 の 発 生 に 作 用 し た と 認 め ら れ る 場 合 に は , 外 来 性 の 要 件 を 満 た す も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 」 と し た 上 で 、 本 件 事 案 で は 、 介 護 職 員 の 過 失 と い う 外 的 な 事 情 が 主 要 な 原 因 と な っ て い る こ と を 理 由 と し て 、 外 来 性 を 許 容 し た疾 病 免 責 条 項 は 、 確 認 的 規 定 と 解 し て い る 。

(2)平 成 1 9 年 の 3 つ の 最 高 裁 判 例 の 理 解 最 二 小 判 平 成

19

7

6

6

事 故 類 型 : も ち を 喉 に 詰 ま ら せ た こ と に よ る 窒 息 死 ( 認 容 ) 被 保 険 者 :

82

歳 男 性 疾 病 等 内 的 要 因 : パ ー キ ン ソ ン 病

保 険 種 類 : 災 害 補 償 共 済 ( 共 済 ) ※ 疾 病 免 責 条 項 あ り 最 一 小 判 平 成

19

7

19

7

事 故 類 型 : 浴 槽 内 溺 死 ( 原 判 決 破 棄 差 戻 し ) 被 保 険 者 :23 歳 男 性 疾 病 等 内 的 要 因 : 知 的 障 害 、 て ん か ん 発 作

保 険 種 類 : 傷 害 保 険 契 約 ( 損 保 ) ※ 疾 病 免 責 条 項 あ り

6

民 集

61

5

1955

頁 、 判 時

1984

108

頁 、 判 タ

1251

148

頁 等 。

7

判 例 集 未 登 載 。

(8)

最 二 小 判 平 成

19

10

19

8

事 故 類 型 : 交 通 事 故 に 伴 う 溺 死 ( 原 判 決 破 棄 差 戻 し ) 被 保 険 者 :

73

歳 男 性 疾 病 等 内 的 要 因 : 狭 心 症 発 作 の 疑 い

保 険 種 類 : 自 動 車 保 険 人 身 傷 害 補 償 特 約 ( 損 保 ) ※ 疾 病 免 責 条 項 無 し

外 来 事 故 の 定 義 と し て 、こ れ を「 被 保 険 者( 被 共 済 )者 の 身 体 の 外 部 か ら の 作 用 に よ る 事 故 」と す る 点 で は 共 通 す る 。外 部 か ら の 作 用 が 傷 害 事 故 に お け る 諸 原 因 の う ち 何 を 指 す の か に つ い て は 必 ず し も 明 ら か で な い が 、被 保 険 者 以 外 の 者 の 行 為 を「 外 部 か ら の 作 用 」と し た 上 で 、「 作 為 義 務 を 負 担 す る 者 の 不 作 為 」 ( 安 全 確 保 義 務 違 反 ) も こ れ に 含 む と す る 。

外 来 性 の 立 証 責 任 に 関 し て は 、 最 判 平 成

19

7

6

日 が 「 請 求 者 は , 被 保 険 者 の 身 体 の 外 部 か ら の 作 用 に よ る 事 故 と 被 共 済 者 の 傷 害 と の 間 に 相 当 因 果 関 係 が あ る こ と を 主 張 ,立 証 す れ ば 足 り る 」と 判 示 し て お り 、い ず れ の 判 決 も ほ ぼ 同 様 の 立 場 に 立 つ も の と 解 さ れ る 。

こ れ は 、外 来 性 を 、傷 害 保 険 契 約 に お け る 保 険 事 故 の 一 要 素 と 解 し て 、請 求 原 因 事 実 と し て 、保 険 金 請 求 者 側 に 主 張・立 証 責 任 を 課 す も の と 理 解 で き る 点 で 一 貫 し て い る 。 さ ら に 重 要 で あ る の は 、 最 判 平 成

19

7

6

日 と 最 判 平 成

19

10

19

日 を 整 合 的 に 理 解 す る か ぎ り 、 疾 病 免 責 条 項 は 単 な る 確 認 的 規 定 で は な く 創 設 的 規 定 と な る 点 で あ る

9

従 来 の( と り わ け 保 険 実 務 に お け る )支 配 的 見 解 は 、疾 病 起 因 性 の 有 無 を 外 来 性 の 判 断 の 中 に 組 み 入 れ る も の で あ る た め に 、疾 病 を 免 責 条 項 等 に よ り 別 途 排 除 す る と い う 必 要 が 生 じ な い 。現 行 の 傷 害 保 険 に 類 す る 各 種 約 款 に お い て 、疾 病 免 責 条 項 が 常 に 存 在 す る わ け で は な い の は 、こ の よ う な 理 由 に よ る 。し か し な が ら 、上 記 判 例 の 理 解 か ら す れ ば 、と り わ け 外 来 性 を 満 た す た

8

判 時

1990

144

頁 、 判 タ

1255

179

頁 等 。

9

潘 阿 憲「 判 批 」2007

11

8

日 付 保 険 毎 日 新 聞

5

頁 は 約 款 解 釈 と し て 論 理 必 然 的 な 結 論 で あ る と し 、 山 野 嘉 朗 「 判 批 」 ジ ュ リ

1354

121

頁 は 明 快 な 解 決 を 与 え た も の と し て 評 価 す る 。他 方 、甘 利 公 人 ・

2008

3

12

日 付 保 険 毎 日 新 聞

4

頁 は 、被 保 険 者 の

(9)

め に は 、 外 部 か ら の 作 用 と 傷 害 事 故 と の 相 当 因 果 関 係 が あ れ ば 充 分 で あ り 、 疾 病 が 原 因 と な っ て い る か 否 か は 問 題 と な ら な い た め 、外 来 性 要 件 に 、疾 病 に 起 因 す る 傷 害 事 故 を 排 除 す る 機 能 を 求 め る こ と が で き な い と い う こ と に な る 。換 言 す れ ば 、疾 病 起 因 性 の 傷 害 事 故 を 保 障 対 象 か ら 除 外 す る に は 、約 款 の 除 外 規 定 な い し 免 責 規 定 の 存 在 が 必 要 な の で あ る

10

※ 傷 害 事 故 の 疾 病 起 因 性

・ 疾 病 免 責 条 項 が あ る 場 合

→ 疾 病 起 因 性 は 抗 弁 事 由 で あ り 、 保 険 者 が 主 張 ・ 立 証 責 任 を 負 う 。

「 被 共 済 者 の 傷 害 が 被 共 済 者 の 疾 病 を 原 因 と し て 生 じ た も の で は な い こ と ま で 主 張 , 立 証 す べ き 責 任 を 負 う も の で は な い 」 ( 最 判

H19.7.6

・ 疾 病 免 責 条 項 が な い 場 合

→ 疾 病 起 因 性 は 免 責 事 由 に 当 た ら な い 。

「 本 件 特 約 は 、… … 運 行 事 故 が 被 保 険 者 の 疾 病 に よ っ て 生 じ た 場 合 で あ っ て も 保 険 金 を 支 払 う こ と と し て い る も の と 解 さ れ る 」 ( 最 判

H19.10.19)

3 . 外 来 性 要 件 に 関 す る 若 干 の 検 討

(1)外 来 性 を め ぐ る 紛 争 類 型

① 死 亡 原 因 が 、外 部 か ら の 作 用 に よ る も の か 、疾 病 に よ る も の か が 不 明 で あ る ケ ー ス ( な ん ら か の 事 情 に よ り 死 亡 原 因 が 特 定 で き な い )

→ 外 来 性 の 立 証 責 任 の 問 題

② 死 亡 原 因 は 明 確 で あ る が 、 外 部 か ら の 作 用 と 疾 病 と が 協 働 的 原 因 と な っ て 、 被 保 険 者 の 身 体 傷 害 を 生 じ さ せ る ケ ー ス

→ 外 来 性 な い し 外 来 事 故 と の 因 果 関 係 の 問 題

a)被 保 険 者 の 直 接 の 死 因 は 疾 病( 発 作 性 の 疾 病 等 )で あ る が 、当 該 疾 病 の

死 亡 原 因 が 明 ら か で な い こ と 等 を 理 由 と し て 最 判 平 成

19

10

月 1 9 日 を 批 判 さ れ る 。

1 0

西 嶋 梅 治 「 外 来 性 要 件 の 再 検 討 」 損 保 研 究

70

2

24

頁 以 下 も 、 早 急 に 疾 病 免 責

(10)

発 作 が 何 ら か の 外 部 的 作 用 に よ っ て 生 じ た も の で あ る ケ ー ス( 外 来 事 故 先 行 型 )

eg.

高 血 圧 症 の 既 往 症 + 低 温 下 で の 作 業 → 急 性 心 不 全 で 死 亡

11

自 宅 で の 火 災 が 発 生 し て 消 火 活 動 → 急 性 心 不 全 で 死 亡

12

b)被 保 険 者 の 直 接 の 死 因 は 外 部 的 作 用( 溺 死 や 転 倒 )で あ る が 、当 該 外 部

的 作 用 を 惹 起 し た 原 因 が 被 保 険 者 の 疾 病 で あ る ケ ー ス ( 疾 病 先 行 型 )

ア)内 部 的 要 因( 病 状 の 進 行 )の み で も 結 果 が 発 生 す る 蓋 然 性 の 高 い 場 合

( 外 部 的 作 用 が 因 果 の 流 れ の 中 に あ る だ け で 、結 果 発 生 の 時 期 を 早 め た に 過 ぎ な い 場 合 )

eg.

心 臓 発 作 等 の 疾 患 → 走 行 し て き た 自 動 車 に 轢 過 → 傷 害 事 故 ( 生 命 に 重 大 な 影 響 を 与 え る も の )

)た ま た ま 発 作 が 起 き た 場 所 が 悪 か っ た た め に 外 部 的 作 用 に よ り 傷 害

事 故 は 発 生 し た 場 合

( 発 作 だ け で は 傷 害 事 故 発 生 の 可 能 性 が な い + 予 見 可 能 性 が な い )

eg.

急 性 心 疾 患 や 貧 血 等 の 発 作 → 路 上 に 転 倒 → 傷 害 事 故

( 生 命 に 影 響 し な い 程 度 の も の )

ウ)疾 病 そ の 他 の 身 体 内 部 の 原 因 に よ り 傷 害 事 故 発 生 の リ ス ク が 高 ま る 場 合

( 発 作 だ け で は 傷 害 事 故 発 生 の 可 能 性 が な い + 予 見 可 能 性 あ り ) 食 事( 誤 嚥 )、入 浴( 溺 死 )、自 動 車 の 運 転( 事 故 )等( 傷 害 事 故 )

→ 高 齢 、 認 知 症 、 身 体 障 害 、 気 管 疾 患 ・ 心 疾 患 等 の 既 往 症 ( 内 部 的 素 因 )

eg.

脳 疾 患 、 心 臓 疾 患 等 の 既 往 症 + 入 浴 → 意 識 障 害 → 溺 死

の 明 文 の 規 定 を 置 く 必 要 性 を 強 調 す る 。

1 1

大 阪 地 判 平 成

4

12

21

日 判 時

1474

143

頁 。

(11)

(2)外 来 性 要 件 と 因 果 関 係

a)外 来 事 故 の 意 義

外 来 性 に つ い て は 、外 部 か ら の 作 用 に よ る 被 保 険 者 の 身 体 傷 害 、す な わ ち 原 因 が 外 来 の 作 用 で あ る こ と を 意 味 す る と 説 明 さ れ る が 、外 来 性 要 件 は 、あ く ま で 原 因 事 故 の 要 素 と し て の「 外 部 か ら の 作 用 」の 存 否 で あ り 、そ れ が 被 保 険 者 の 身 体 傷 害 の 原 因 と い え る か 否 か は 因 果 関 係 の 問 題 で あ る 。し た が っ て 、外 来 性 の 有 無 に つ い て は 、被 保 険 者 の 身 体 に 影 響 す る「 事 故 」と し て の 外 部 か ら の 作 用 が 存 在 す る か 否 か を 問 題 と す れ ば よ い は ず で あ る 。

外 部 か ら の 作 用 は 、物 理 的 な 力 が 働 く 場 合 に 限 ら ず 、低 温 や 日 射 も 含 ま れ る

13

。 交 通 事 故 に 伴 う 物 体 と の 衝 突 、 溺 死 ( 溺 水 の 吸 引 ) 、 滑 り や す い 路 面 で の 転 倒 等 の 外 部 か ら の 作 用 が 存 在 し て い れ ば 、外 来 性 を 充 足 す る こ と に な る 。し た が っ て 、前 掲 最 判 平 成

19

7

19

日 を は じ め 、従 来 の 裁 判 例 の 多 く が 、介 護 職 員 等 の 被 保 険 者 以 外 の 者 の 過 失 を も っ て 外 部 か ら の 作 用 と 認 定 し て い る が 、厳 密 に は 、そ れ に 伴 う 溺 水 の 吸 引 を も っ て 外 来 性 が 認 め ら れ る の で あ り 、 不 作 為 や 過 失 を も っ て 外 部 か ら の 作 用 と い う の は 妥 当 で な い 。 問 題 は 、そ れ と 被 保 険 者 の 疾 病 等 内 部 的 要 因 が 競 合 し て い る 場 合 に 、因 果 関 係 が 認 め ら れ る か で あ る 。

b)因 果 関 係

従 来 の 裁 判 例 の 少 な か ら ず 多 数 な ら び に 学 説 は 、外 来 性 を 因 果 関 係 の 問 題 を も 含 め た 問 題 と し て と ら え て お り 、さ ら に 実 務 的 に は 疾 病 起 因 性 排 除 の 機 能 を も 外 来 性 の 判 断 の 中 に 組 み 入 れ て き た( そ れ 故 に 必 ず し も 疾 病 免 責 条 項

1 2

浦 和 地 越 谷 支 判 平 成

3

11

20

日 判 タ

779

259

頁 。

1 3

山 下 友 信 ・

454

頁 等 。 な お 、 こ の 点 の 理 解 は ド イ ツ 学 説 に お い て も 同 様 で あ り 、 作 用 自 体 は 、 力 学 的 、 電 気 的 、 化 学 的 そ の 他 の 性 質 の も の で あ っ て よ い と さ れ る 。

Grimm,Unfallversicherung, AUB-Kommentar, 3. Aufl.2000, Anm.28 zum

§

1, Prölss/Martin, Versicherungsvertragsgesetz, 26 Aufl.1998, Anm. 6 zum

§1 AUB 88.

ド イ ツ 学 説 の 詳 細 に つ い て は 、 山 下 丈 「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 傷 害 概 念 ( 一 ) ( 二 ・ 完 ) 」 民 商

75

5

753

頁 以 下 、6

883

頁 以 下 (1977年 ) 、 潘 「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 傷 害 事 故 の 外 来 性 の 要 件 に つ い て 」 都 法

46

2

209

頁 以 下

(2006

)

参 照 。

(12)

が 存 在 し て い な い )

14

。 し か し そ の こ と が 、 外 来 性 要 件 の 該 当 性 に つ い て の 判 断 基 準 は 、事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る ケ ー ス で は 、相 当 程 度 複 雑 で 不 明 確 な も の と な っ て い る と の 指 摘 が あ る

15

基 本 的 に は 、特 段 の 事 情 の な い か ぎ り 、保 険 者 は 、保 険 事 故 と 相 当 因 果 関 係 に あ る 損 害 に つ い て 保 険 金 支 払 義 務 を 負 う と 解 し て よ い が 、保 険 金 支 払 事 由 と 免 責 事 由 と が 前 後 因 果 関 係 的 に 、あ る い は 競 合 的 に 作 用 し て い い ず れ も 相 当 因 果 関 係 が あ る と 認 め ら れ る と き に は こ の 原 則 だ け で は 決 定 的 な 解 決 基 準 と は な り え な い

16

。 こ の よ う に 原 因 が 競 合 す る 場 合 に 因 果 関 係 の 有 無 を 判 断 す る 考 え 方 は 、 以 下 の よ う に 大 別 で き る 。

① 排 他 的 原 因 説 ←

a-① ・ ③ ? ・ ⑤ ・ ⑥ 、 b-④

外 来 性 と は 、「 専 ら 」外 部 か ら の 作 用 を 原 因 と す る も の と と ら え 、疾 病 が 身 体 傷 害 の 原 因 と な っ て い な い こ と と す る 考 え 方 で あ る 。が 、従 来 の 学 説 ・ 裁 判 例 に お い て 支 配 的 で あ っ た と 思 わ れ る 。

② 主 要 原 因 ( 最 有 力 条 件 ) 説 ←

a-② 、 c-⑤

「 主 と し て 」 外 部 か ら の 作 用 を 原 因 と す る も の と と ら え る 考 え 方 で あ り 、 事 故 と 疾 病 の い ず れ が 優 勢 か を 判 断 し て 因 果 関 係 の 有 無 を 判 断 す る

17

③ 直 接 原 因 ( 近 因 ) 説 ←a-④ 、

b-③

被 保 険 者 の 身 体 傷 害 に 最 も 近 接 す る 原 因 が 外 部 か ら の 作 用 で あ れ ば 、因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る と す る 考 え 方 で あ る

18

④ 相 当 因 果 関 係 説 ←

b-① ( 前 掲 最 高 裁 判 例 )

外 部 か ら の 作 用 に よ る 事 故 と 被 保 険 者 の 身 体 傷 害 と が 相 当 因 果 関 係 に

1 4

西 嶋 ・ 前 掲 損 保 研 究

70

2

7

頁 。

1 5

潘 ・ 前 掲 論 文

270

頁 。

1 6

大 森 ・ 保 険 法 〔 補 訂 版 〕

152

頁 以 下 。

1 7

加 瀬 ・ 前 掲

82

頁 等 。 な お 、 中 西 正 明 ・ 傷 害 保 険 の 法 理

33

頁 は 、 疾 病 の 死 亡 原 因 と し て の 意 味 が 傷 害 と だ い た い 同 程 度 か ま た は こ れ よ り 少 な い と き は 、 保 険 者 有 責 と す る 結 論 を 認 め ざ る を 得 な い と さ れ る 。

1 8

横 尾 登 米 雄 「 近 因 主 義 の 考 察 」 保 険 学 雑 誌

395

35

頁 以 下 (

1956

年 ) 参 照 。 イ ギ リ ス 海 上 保 険 法

55

1

項 は 近 因 説 に 立 つ と さ れ る 。 な お 、 横 尾 「 保 険 法 に お け る 因 果 関 係 論 の 構 想 」 保 険 学 雑 誌

407

1

頁 以 下 (

1959

年 ) 参 照 。

(13)

あ る こ と と と ら え る 考 え 方

19

で あ り 、 必 ず し も 事 故 が 主 要 な 原 因 ( 相 対 的 に 優 勢 な 原 因 ) と な っ て い な く と も よ い 。

事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る ケ ー ス に つ い て は 、疾 患 に よ る 発 作 が 生 じ た 場 所 が 悪 か っ た た め 外 来 的 力 が 作 用 し た 場 合 等 に は 、保 険 金 の 支 払 い を 肯 定 す べ き と す る 見 解 が あ る

20

。 既 存 の 疾 病 か ら 不 慮 の 事 故 が 生 じ 、 そ れ を 直 接 の 原 因 と し て 死 亡 し た が 、疾 病 の み で は 死 ぬ こ と は な か っ た よ う な 場 合 ( 入 浴 中 の て ん か ん 発 作 に よ る 溺 死 ) に は 担 保 す る と の 見 解

21

も 同 旨 と い え る 。ま た 、脳 溢 血 や 心 臓 発 作 等 の 発 作 を 起 こ し た た め に 転 倒 し た り 溺 死 し た り と い う よ う な 場 合 に 、こ れ を 外 来 性 を 欠 く と 説 明 す る の は 正 し い が 、 因 果 関 係 の 認 め 方 に よ っ て は な お 傷 害 に 当 た る 場 合 が あ る と す る 見 解

22

が あ る 。 こ れ ら の 見 解 は 、 外 部 か ら の 作 用 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る 場 合 に 、疾 病 的 原 因 の 存 在 の み で 外 来 性 及 び 因 果 関 係 を 否 定 す べ き で は な い と す る 趣 旨 と 理 解 さ れ 、 上 記 分 類 で は ② ~ ④ に 含 ま れ る も の と 思 わ れ る 。

他 方 で 、 内 因 的 疾 患 が な け れ ば 致 死 的 結 果 を 生 じ る こ と は あ り え な い し 、 入 浴 中 以 外 の 歩 行 や 食 事 、ト イ レ な ど 日 常 の あ ら ゆ る 場 面 で 死 亡 が 生 じ う る 状 態 で あ っ た 以 上 、疾 病 と 死 亡 の 間 の 因 果 関 係 の 存 在 が 明 確 で あ る か ら 、発 作 の 生 じ た 場 所 や タ イ ミ ン グ で 不 運 が 認 め ら れ る と い う 理 由 で 因 果 関 係 が 遮 断 さ れ る こ と は な い と の 指 摘 が あ る

23

。 こ の 見 解 は 、 疾 病 と の 因 果 関 係 が 認 め ら れ る か ぎ り 、外 来 事 故 に よ る も の と は 認 め ら れ な い と す る も の で あ る た め 上 記 ① に 近 い も の と 思 わ れ る 。

1 9

な お 、 大 阪 高 判 昭 和

56

5

12

日 判 タ

443

134

頁 参 照 ( 「 複 数 の 主 要 な 併 存 要 因 が お お む ね 同 程 度 に 影 響 を 与 え た こ と が 認 め ら れ れ ば そ れ で 足 り 、 そ れ 以 上 に 他 の 併 存 原 因 と 比 較 し て よ り 有 力 な 原 因 で あ る と 認 め ら れ る こ と ま で は 必 要 と し な い 」 と 判 示 す る )

2 0

江 頭 ・ 前 掲 書

487

頁 。

2 1

古 瀬 ・ 前 掲 論 文

132

頁 。

2 2

山 下 丈 「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 傷 害 概 念 ( 2 ) 」 民 商

75

6

885

頁 。

2 3

西 嶋 梅 治 「 浴 槽 内 の 溺 死 ( 風 呂 溺 ) と 外 来 性 の 要 件 」 損 保 研 究

65

1=2

37

頁 。

(14)

ま た 、入 浴 中 の 溺 死 の ご と き 事 例 は 、日 常 生 活 で 通 常 行 わ れ る 入 浴 と い う プ ロ セ ス の 中 で 疾 病 に よ る 発 作 が 生 じ て 、そ れ を も っ ぱ ら の 原 因 と し て 溺 死 し て い る の で あ る か ら 、 自 動 車 に 轢 か れ た ケ ー ス と は 同 日 に は 論 じ ら れ ず 、 死 亡 は 疾 病 に よ る 結 果 と み る べ き で 、傷 害 保 険 に 基 づ く 保 険 給 付 と す る の は 不 適 切 で あ る と の 指 摘 が あ る

24

。 こ の 見 解 で は 「 日 常 生 活 で 通 常 行 わ れ る プ ロ セ ス 」で は 疾 病 が 溺 死 の 唯 一 の 原 因 と 評 価 さ れ る こ と に な る が 、こ れ が 事 故 性 が 乏 し い と い う 理 由 で あ れ ば 疑 問 で あ る 。自 動 車 を 運 転 中 に 発 作 に よ り 事 故 を 惹 起 し た 場 合 に は 、因 果 関 係 の 問 題 は 残 る に し て も 、外 来 事 故 の 存 在 を 認 め ざ る を 得 な い が 、自 動 車 の 運 転 も 日 常 生 活 で 通 常 行 わ れ る プ ロ セ ス と い う こ と も で き る 。入 浴 中 の 溺 死 事 例 に 関 し て は 、医 学 統 計 に よ れ ば 入 浴 中 の 溺 死 が 高 齢 者 に は 特 に 顕 著 に 発 生 し て い る 事 例 で あ り 、法 医 学 的 に は 病 死 で あ る と み る べ き こ と を 根 拠 と す る 見 解 が あ る

25

。 被 保 険 者 の 属 性 に よ っ て は 、こ の よ う な 日 常 生 活 で の プ ロ セ ス で も 極 め て 事 故 発 生 リ ス ク が 高 い 場 合 が あ り う る が 、内 部 的 な 要 因( 疾 病 )の み で 傷 害 事 故 は 発 生 し 得 な い 以 上 、少 な く と も 外 部 か ら の 作 用 が 影 響 し て い る と い う べ き で あ り 、因 果 関 係 の 問 題 と し て 処 理 さ れ る べ き 問 題 で あ ろ う 。後 述 す る よ う に 、割 合 的 認 定 を 認 め る 立 場 を と る 場 合 に は 、外 来 事 故 と の 因 果 関 係 を 肯 定 し 、請 求 原 因 と し て の 保 険 事 故 の 発 生 を 認 め る 必 要 が あ り 、し た が っ て 、保 険 保 護 の 対 象 と し て 適 切 か 否 か は 、 保 険 者 免 責 ( 抗 弁 ) の 問 題 と し て 考 慮 さ れ る べ き で あ る 。

c)疾 病 免 責 条 項 等 と の 関 係

外 来 性 の 意 義 に つ い て 、分 類 ① の よ う に「 専 ら 」外 部 か ら の 作 用 が 原 因 と な っ て い る こ と 、換 言 す れ ば 、疾 病 が 原 因 で な い こ と と 解 し た 場 合 、外 来 性 が 認 め ら れ る 限 り 当 然 に 疾 病 起 因 性 は 否 定 さ れ る た め 、両 者 は 表 裏 の 関 係 と い う こ と に な り 、疾 病 免 責 条 項 は 確 認 的 規 定 に 過 ぎ な い と い う 理 解 が 、前 掲

2 4

山 下 友 信 ・ 前 掲 書

482

頁 。

2 5

西 嶋 ・ 前 掲 論 文

30

頁 。

(15)

最 判 平 成

13

年 と も 整 合 的 で あ り 、 従 来 、 こ の よ う な 理 解 が 支 配 的 で あ っ た と 思 わ れ る

26

他 方 、 分 類 ② ~ ④ の よ う に 、 外 部 か ら の 作 用 と 疾 病 と を 協 働 原 因 と し て 、 外 部 か ら の 作 用 が 被 保 険 者 の 身 体 傷 害 と の 間 に 少 な く と も 相 当 因 果 関 係 が 認 め ら れ る 限 り 、外 来 事 故 と し て 認 め る 場 合 、疾 病 が 間 接 的 な 原 因 で あ っ て も 外 来 性 が 認 め ら れ る と こ と か ら 、外 来 性 と 疾 病 起 因 性 と は 併 存 し う る の で あ り 、外 来 性 を 認 め る こ と と 疾 病 免 責 条 項 に 基 づ く 免 責 を 認 め る こ と と は 矛 盾 し な い 。 そ の 意 味 で 疾 病 免 責 条 項 は 単 な る 確 認 的 規 定 で は な い 。

前 述 の よ う に 、 前 掲 最 高 裁 判 例 は こ の 立 場 を 採 用 す る 。 し た が っ て 、 疾 病 免 責 条 項 は 、 疾 病 が 間 接 原 因 で あ る 傷 害 が 免 責 と な る こ と に 意 義 が あ り 、 逆 に 、本 免 責 条 項 が な い 交 通 事 故 傷 害 保 険 等 で は 、疾 病 に よ っ て 偶 然 な 事 故 が 発 生 し た 場 合 に は 免 責 と は な ら な い と い う 帰 結 が 導 か れ る

27

。 こ こ で 、 傷 害 事 故 の 偶 然 性 は 保 険 金 請 求 者 が 立 証 す べ き で あ り 、 故 意 免 責 条 項 は 、 確 認 的 注 意 的 規 定 に 過 ぎ な い と 判 示 し た 前 掲 最 判 平 成

13

4

20

日 と の 関 係 が 問 題 と な る が 、両 者 を 整 合 的 に 解 す る 必 要 は 必 ず し も な い よ う に 思 わ れ る 。傷 害 事 故 の 偶 然 性( 被 保 険 者 の 意 思 に よ ら な い )と 被 保 険 者 の 故 意 な い し 自 殺 行 為 と は 、完 全 に 表 裏 の 関 係 に あ り 、両 者 が 併 存 す る こ と は お よ そ あ り え な い が 、外 来 事 故 と 疾 病 と は 併 存 し う る の で あ っ て 、外 来 事 故( 直 接 の 原 因 が 外 部 か ら の 作 用 で あ る こ と )と 疾 病 と は 、そ れ ぞ れ 被 保 険 者 の 死 亡 な い し 傷 害 と の 間 に 相 当 因 果 関 係 を 生 じ さ せ う る か ら で あ る

28

。 こ の よ う に 解 す る と 、疾 病 が 被 保 険 者 死 亡 の 原 因 と な っ て い る こ と は 、抗 弁 事 実 と し て 、保 険 者 側 で 立 証 す る こ と が 必 要 で あ り 、例 え ば 、溺 死 の ケ ー ス で は 、溺 水 の 吸 引 と い う 外 来 性 の 要 因 と の 間 に 相 当 因 果 関 係 が 認 め ら れ る 限 り 外 来 性 は 肯 定 さ れ る こ と に な る が 、疾 病 免 責 条 項 が あ る 場 合 に は 、溺 死 の 原 因 が

2 6

南 出 行 生「 保 険 事 故 の 外 来 性 と 疾 病 」安 田 火 災 ほ う む

45

9

頁 、肥 塚 肇 雄「 傷 害 保 険 契 約 に お け る 事 故 の 外 来 性 と 医 学 鑑 定 」 賠 償 科 学

24

51

頁 (

1999

年 ) 等 参 照 。

2 7

奥 川 昇

=

渋 江 克 彦 「 傷 害 保 険 」 東 京 海 上 火 災 保 険 編 ・ 新 損 害 保 険 実 務 講 座 第 9 巻 新 種 保 険 ( 下 )

45

頁 (

1968

年 )

(16)

「 脳 疾 患 、疾 病 ま た は 心 神 喪 失 」で あ る こ と を 立 証 す る こ と に よ り 、保 険 者 は 免 責 を 主 張 で き る

29

な お 、生 命 保 険 災 害 関 係 特 約 で は 、別 表 2 に お け る 不 慮 の 事 故 の 定 義 に お い て 、「 軽 微 な 外 因 」に よ る 場 合 を 除 外 し て い る 。こ れ を 素 直 に 読 め ば 、外 部 か ら の 作 用( 外 因 )が 軽 微 で あ る 場 合 に 、傷 害 保 険 の 給 付 対 象 と し て の 不 慮 の 事 故 の 射 程 か ら 除 外 す る も の と 解 す る こ と が で き る の で あ り 、軽 微 な 外 因 は 、も と よ り 外 来 性 を 満 た す の で あ り 、通 常 人 に と っ て は 、ほ と ん ど 影 響 の な い 外 因 を 奇 貨 と し て 、傷 害 と し て の 請 求 を 防 止 す る た め の 規 定 と 解 す る こ と に な る

30

。 他 方 で 、 こ れ を 相 当 因 果 関 係 の 問 題 と し て と ら え る の で あ れ ば

31

、 当 該 除 外 規 定 は 、 確 認 的 規 定 に す ぎ な い こ と に な る 。

(3)外 来 性 の 立 証 責 任

傷 害 事 故 発 生 の 事 実 は 請 求 原 因 事 実 で あ り 、 約 款 解 釈 上 、 保 険 金 請 求 者 が 主 張 ・ 立 証 す べ き 事 項 で あ る

32

。 こ れ は 急 激 性 、 偶 然 性 、 外 来 性 の 3 要 件 の い ず れ に つ い て も 共 通 す る

33

。 前 掲 最 高 裁 判 例 も 、 外 来 性 を 請 求 原 因 事 実 と し て 解 し て い る も の と 評 価 で き る 。

偶 然 性 の 立 証 責 任 に つ い て は 、 約 款 上 の 故 意 免 責 条 項 を 確 認 的 注 意 的 規 定 に す ぎ な い こ と と な り 、 立 証 負 担 と し て 保 険 者 に 有 利 に 働 く こ と が 問 題

2 8

潘 ・ 前 掲 論 文

269

頁 以 下 。

2 9

潘 ・ 前 掲 論 文

274

頁 以 下 。

3 0

古 瀬 政 敏 「 生 保 の 傷 害 特 約 に お け る 保 険 事 故 概 念 を め ぐ る 一 考 察 」 保 険 学 雑 誌

496

134

頁 。

3 1

東 京 地 判 昭 和

56

10

29

日 判 タ

473

247

頁 。古 瀬 村 邦 夫・生 命 保 険 判 例 百 選( 増 補 版 )

260

頁 。 な お 、 甘 利 公 人 「 判 批 」 判 例 評 論

424

54

頁 参 照 。

3 2

大 森 忠 夫 「 商 法 に お け る 傷 害 保 険 契 約 の 地 位 」 保 険 契 約 法 の 研 究

119

頁 以 下 (

1969

年 ) 、 石 田 ・ 前 掲 書

349

頁 等 。

3 3

今 年 施 行 さ れ た ド イ ツ 保 険 契 約 法 (

VVG)178

条 の 規 定 は 、 同

2

項 に お い て 傷 害 概 念 に 関 す る 旧 法 の 規 定( 同

180a条 )を 基 本 的 に 維 持 し つ つ 、そ の 明 確 化 を 図 っ て い る 3 3

傷 害 の 概 念 も 具 体 的 に 規 定 さ れ 、普 通 傷 害 保 険 約 款(

AUB

)の 規 定(1

3

項 )に い う

「 急 激 に(

plötzlich

)」、「 外 来 か ら(

von außen

)」、「 意 思 に よ ら ず(

unfreiwillig

)」

の 3 要 件 も 法 的 な 根 拠 を 得 た 。

2

項 が 規 定 す る 「 非 意 思 性 (

Unfreiwilligkeit

) 」 に つ い て は 推 定 が 及 ぶ こ と か ら 、 い わ ゆ る 偶 然 性 に つ い て は 、 保 険 者 側 に 立 証 責 任 が 転 換 さ れ て い る 。

(17)

と な る と こ ろ 、前 掲 最 判 平 成 13 年 は 、そ の 理 由 と し て「 保 険 金 の 不 正 請 求 が 容 易 と な る お そ れ が 増 大 す る 結 果 ,保 険 制 度 の 健 全 性 を 阻 害 し ,ひ い て は 誠 実 な 保 険 加 入 者 の 利 益 を 損 な う お そ れ が あ る 」こ と を あ げ る 。こ れ に 対 し て 、外 来 事 故 起 因 性 が 問 題 と な る ケ ー ス で は 、被 保 険 者 の 死 亡 等 の 原 因 は 明 ら か で あ り 、不 正 請 求 が 問 題 と な る こ と は な い の で あ る か ら 、こ の 説 明 は 妥 当 し な い 。ま た 、偶 然 性 の 立 証 に お け る 被 保 険 者 の 意 思 と い う 、場 合 に よ っ て は 間 接 証 拠 に よ っ て し か 判 断 で き な い よ う な 事 実 と は 異 な り 、外 来 性 や 疾 病 起 因 性 は 、客 観 的 に 医 学 的 証 拠 に よ っ て 確 認 で き る こ と が 少 な く な く 、実 際 に 、 こ れ ま で に も 保 険 者 は 外 来 性 を 争 う た め に 、 事 故 の 内 容 や 死 亡 原 因 、 疾 病 の 有 無 等 に つ い て 十 分 な 事 実 確 認 を 行 っ て お り 、そ う し た 証 拠 収 集 能 力 お よ び 分 析 能 力 の 観 点 か ら 、実 質 的 に も 保 険 者 側 に 立 証 責 任 を 課 す の が 望 ま し い と い う こ と が で き る 。し た が っ て 、請 求 原 因 事 実 と し て の 外 来 事 故 起 因 性 と 、抗 弁 事 実 と し て の 疾 病 免 責 条 項 該 当 性 と を 併 存 し う る も の と す る 構 成 は 、 立 証 責 任 の 面 か ら も 妥 当 で あ る と い え る 。

(4)割 合 的 認 定 の 可 否 a)法 的 根 拠

① 傷 害 保 険 約 款 ・ 限 定 支 払 条 項 の 適 用 な い し 類 推 適 用

② 割 合 的 因 果 関 係 論 な い し 「 損 害 の 公 平 な 分 担 」 b)肯 定 例

名 古 屋 高 金 沢 支 判 昭 和

62

2

18

日 判 時

1229

103

頁 ( 条 項 あ り )

→ 軽 度 の 脳 卒 中 + 交 通 事 故 ( 寄 与 度

10% )

大 阪 地 判 平 成

12

9

28

日 交 通 民 集

33

5

1595

頁 ( 条 項 あ り ) → 肝 硬 変 症 お よ び 心 機 能 障 害 の 既 往 症 + 交 通 事 故 ( 寄 与 度

50% ) c)否 定 例

京 都 地 峰 山 支 判 平 成 元 年

9

4

日 判 時

1371

135

頁 ( 条 項 な し ) 大 阪 地 判 平 成

11

1

14

日 判 時

1700

156

頁 ( 条 項 あ り )

(18)

傷 害 保 険 に お い て 、 事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る よ う な 場 合 に は 、保 険 者 の 保 険 金 の 支 払 査 定 に お い て オ ー ル・オ ア・ナ ッ シ ン グ 的 な 処 理 で は な く 、 割 合 的 認 定 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ る

34

裁 判 例 を 概 観 す る と 、割 合 的 認 定 を 認 め る 裁 判 例 に お い て も 、そ の 法 的 根 拠 は 必 ず し も 一 致 し な い 。名 古 屋 高 金 沢 支 判 昭 和 62 年 2 月 18 日 は 、限 定 支 払 条 項 の 趣 旨 を「 保 険 事 故 が 発 生 し て も 、保 険 事 故 以 外 の 原 因 が 付 加 さ れ る こ と に よ っ て 、本 来 の 保 険 事 故 に 相 当 す る 傷 害 以 上 に そ の 程 度 が 増 大 し た 場 合 、保 険 事 故 以 外 の 原 因 に よ り 生 じ た 傷 害 分 を 差 引 い て 本 来 の 傷 害 の 限 度 に ま で 修 正 す る こ と を 定 め た も の 」と 解 し た 上 で 、「 保 険 事 故 と 疾 病 と の 競 合 に よ り 傷 害 が 発 生 し た 場 合 に も 、右 規 定 に 準 じ た 割 合 的 認 定 を 行 な い 、保 険 に よ っ て 担 保 す べ き 適 正 な 傷 害 の 程 度 を 算 定 す る こ と が 許 さ れ る 」 と す る 。 他 方 で 、大 阪 地 判 平 成

12

9

28

日 は 、「 損 害 の 公 平 な 負 担 」を 直 接 の 理 由 と し て お り 、限 定 支 払 条 項 の 趣 旨 を 援 用 す る 形 を と っ て い る 。い ず れ に せ よ 、 肯 定 例 は 限 定 支 払 条 項 が 存 在 し て い る 事 案 で あ る 。

他 方 で 、限 定 支 払 条 項 が 存 在 す る 場 合 で も 、事 故 と 疾 病 が 協 働 原 因 と な っ て い る 場 合 に 、必 ず し も 同 条 項 を 根 拠 と し て 割 合 的 認 定 を 認 め る わ け で は な い 。否 定 例 の 京 都 地 峰 山 支 判 平 成 元 年

9

4

日 は 、損 害 の 公 平 な 負 担 の 観 点 か ら 、割 合 的 因 果 関 係 論 の 適 用 の 余 地 が あ る と の 主 張 に 対 し て 、損 害 保 険( 共 済 )の 対 象 保 険 事 故 で あ る か ど う か の 本 件 に は そ も そ も 適 用 が な い と し 、大 阪 地 判 平 成

11

1

14

日 は「 被 保 険 者 が 死 亡 し て し ま っ た 場 合 、死 亡 と い う 結 果 が 一 つ で あ る 以 上 、原 則 と し て 程 度 又 は 分 量 の 観 念 を 入 れ る 余 地 は な い 」 と し て 、 割 合 的 認 定 の 可 能 性 を 否 定 し て い る 。

な お 、広 島 地 判 平 成

2

5

10

日 交 通 民 集 23 巻 3 号 619 頁 は 、「 定 額 保

3 4

石 田 満「 判 批 」保 険 判 例 の 研 究 Ⅱ178 頁 以 下(1995年 )、山 下 友 信・前 掲 書

482

頁 。 な お 、 ド イ ツ 普 通 傷 害 保 険 約 款 (

AUB2000

で は

11

条 、

AUB1988

で は

8

条 ) は 、 「 病 気 ま た は 疾 患 が 、 傷 害 事 故 に よ っ て 生 じ た 健 康 傷 害 ま た は そ の 結 果 に 協 働 作 用 し た と き は 、 給 付 は 病 気 ま た は 疾 患 の 寄 与 分 に 応 じ て 減 額 さ れ る 。 寄 与 分 が

25

% に 満 た な い

(19)

険 金 は 具 体 的 損 害 額 と 関 係 な く 一 律 に 支 給 さ れ る の が 原 則 で あ る こ と 、不 法 行 為 に よ る 損 害 賠 償 事 案 と の 均 衡 等 を 考 え る と 、右 素 因 に よ る 減 額 を 考 慮 す る の は 、素 因 の 占 め る 要 素 が 極 め て 高 い 場 合 、す な わ ち 、保 険 事 故 が な く て も い ず れ 被 保 険 者 の 体 質 的 素 因 を 主 因 と し て 損 害 が 発 生 し た 蓋 然 性 が 高 い 場 合 等 保 険 金 全 額 を 保 険 会 社 に 支 給 さ せ る こ と が 公 平 の 観 念 に 照 ら し 著 し く 不 当 と 認 め ら れ る よ う な 場 合 に 限 ら れ る も の と 解 す る の が 相 当 で あ る( 右 減 額 事 情 の 立 証 責 任 は 保 険 会 社 が 負 担 す る も の と い う べ き で あ る 。)」と 判 示 し て 、 寄 与 度 減 額 す な わ ち 割 合 的 認 定 を 制 限 し て い る 。

学 説 に お い て も 、定 額 保 険 に お け る 保 険 者 の 責 任 は 二 者 択 一 的 で あ り 、割 合 的 認 定 は 定 額 保 険 性 に 反 し 、あ る い は 保 険 契 約 者 に 不 利 な 類 推 適 用 な い し 拡 張 解 釈 に 当 た る と し て 否 定 的 な 見 解 が あ る

35

。 他 方 で 、 理 論 上 は 定 額 保 険 で も 割 合 的 な 支 払 を 認 め る よ う な 設 定 ( 商 品 設 計 ) は 可 能 で あ り 、 実 際 、 割 合 的 な 認 定 を し な け れ ば 全 部 免 責 と な る 可 能 性 が 極 め て 高 い 事 案 が 少 な く な く 、和 解 実 務 に お い て も 割 合 的 な 支 払 を 行 う 形 で の 解 決 が 図 ら れ て い る と の 指 摘 も あ る

36

。 そ う で あ る と す れ ば 、 約 款 上 、 事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る 場 合 に つ き 、割 合 的 認 定 に よ る 給 付 を 認 め る た め の 手 当 て を し て お く こ と は 理 論 上 も 実 際 上 も 必 ず し も 不 当 で は な く 、 保 険 者 に と っ て も 、査 定 の 複 雑 化 は 否 め な い と し て も 、一 定 の 場 合 に は 有 用 性 が 認 め ら れ る も の と 思 わ れ る 。

4 . む す び に 代 え て

外 来 事 故 と 疾 病 と が 協 働 原 因 と な っ て い る 事 案 に つ い て 、 疾 病 が 被 保 険 者 の 死 亡 や 傷 害 の 相 当 程 度 重 大 な 原 因 と な っ て い る 場 合 で も 、 請 求 原 因 事 実 と し て の 外 来 性 要 件 は 満 た さ れ る こ と が 判 例 理 論 と し て 明 確 と な っ た 以 上 、 傷 害 保 険 実 務 と し て は 、 疾 病 免 責 規 定 や 除 外 規 定 の 明 確 化 に よ る 早 急

と き は 、 減 額 は 行 わ れ な い 。 」 と 規 定 す る 。

3 5

肥 塚 ・ 前 掲 論 文

51

頁 、 加 瀬 ・ 前 掲 書

97

頁 。

(20)

な 対 応 が 求 め ら れ る こ と が 明 ら か で あ る 。 換 言 す れ ば 、 外 来 性 と 疾 病 起 因 性 と を 表 裏 一 体 の も の と し て と ら え 、外 来 性 要 件 の み で 傷 害 保 険 に よ る 保 護 の 射 程 を 画 そ う と す る こ と は で き な い の で あ り 、外 来 性 は そ れ 自 体 と し て 明 確 化 す る と と も に 、技 術 的 な 保 障 範 囲 の 限 定 に つ い て は 、約 款 に お け る 除 外 規 定 や 免 責 規 定 な ど に よ り 別 途 明 確 化 が 図 ら れ る べ き で あ る 。

傷 害 保 険 に よ る 保 護 の 対 象 と す べ き か と い う 問 題 は 、保 険 商 品 設 計 の 問 題 で も あ る が 、保 険 種 目 ご と の 分 野 調 整 の 側 面 も あ る 。例 え ば 、疾 病 治 療 免 責 条 項 と し て「 医 療 処 置 」に よ る 身 体 傷 害 は 保 障 の 対 象 か ら 除 外 さ れ る が 、こ れ は 医 師 賠 償 責 任 保 険 に よ る 保 障 と 重 複 す る こ と に も よ る

37

。 そ れ 故 、 免 責 条 項 の 解 釈 に あ た っ て も 、こ の よ う な 賠 償 責 任 保 険 や 疾 病 保 険 等 、隣 接 す る 保 険 種 目 と の 調 整 の 観 点 か ら 、合 理 性 が 検 討 さ れ る 必 要 が あ る 。今 後 、約 款 の 明 確 性 を 高 め る べ く 免 責 条 項 や 除 外 規 定 の 追 加 や 明 確 化 が 図 ら れ る こ と が 予 想 さ れ る が 、 あ る 事 故 類 型 を 全 て 除 外 す る こ と ( 例 え ば 、 「 入 浴 中 の 溺 死 」 を 留 保 な く 除 外 す る 等 ) は 、 上 述 し た よ う な 分 野 調 整 の 観 点 、 す な わ ち 疾 病 起 因 性 の 排 除 や 他 の 保 険 種 目 に よ っ て 保 障 さ れ る こ と を 理 由 と す る も の は 許 容 さ れ る と し て も 、 そ う で な い 場 合 に は 正 当 化 さ れ な い 余 地 も あ る と 思 わ れ る 。

3 6

佐 野 「 判 批 」 損 保 研 究

65

3=4

合 併 号

420

頁 以 下 。

3 7

石 田 満「 判 批 」損 保 研 究

68

2

230

頁 は 、医 師 賠 償 責 任 保 険 に お け る 保 障 と の 関 係 を 考 慮 し つ つ 、 前 掲

c-

④ 判 決 ( 東 京 高 判 平 成

16

年 ) の 「 医 療 処 置 」 の 解 釈 に 反 対 。

参照

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