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人口減少・高齢化社会と観光

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Academic year: 2023

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産研通信 No.56(2003・3・31)

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1. 今日と明日

明日は果して、明るいことを約束するもの であろうか。ともすれば我々は明るい社会、幸 せな人生が明日には可能になるであろうと期 待しがちである。いわば明日は(あるいは来 年は)楽観的で、夢想的な状況になるはずで あると、願望に近い思いを込めているようで ある。

しかし、1995年の阪神大震災を、また2001 年の世界同時テロ事件をみても、明日に明る さの正反対である大惨事が待ち構えている、

と誰が予想しえたであろうか。そして、現時 点においても近い将来にイラク、北朝鮮や中 近東など世界平和に対する不安が暗雲のよう に立ち込めている。このような事例から見て も、明日(未来)が必ずしも手放しで喜べる 明るい社会経済の到来を約束するものではな さそうである(このことを知りながらも、多 くの人々は(小生を含めて)現在の課題、悩 みや不安を先送りすることで取り敢えず今日 一日をやり過ごしている(少なくとも小生に ついては)のが実情のようである。

2.「日々是好日」の意義

それゆえ、いたずらに明日に期待をかけ今 日一日を疎かにすることを避け、今日を大事 な日と認識することが重要である。この心掛 けは明日が必ずしも明るい未来をもたらすも のではないが、少なくとも納得のできる明日

につながることは確かであろう。言い換えれ ば、明日は、実は今日という一日の中にあ り注1)、この今日の一歩、小さい努力が明日の ステップ・アップをもたらし、より確かな生 活や生産の土台づくりにつながるのである。

このことはガウディの教会建築やローマ帝国 の構築に代表されるように、とくに永続的な 仕事はおしなべてこの一日一日の積み重ねの 結果として出現している。そして、その一日 の過ごし方は、これまでの過去の経験・反省 にもとづいて行われる行為の延長線上にあり、

その道筋の最先端に位置するものである。こ の意味において、今日という一日は(概念的 に)明日への一歩の足掛かりとなるものであ り、またこれまでの人生の頂点でもある。こ の日々の「1日」とは、我々が現実に生きてい るその一日であり、再び帰らない貴重なもの であるとともに、若者に希望を、中年には自 信を、そして高齢者には安息をもたらす可能 性をもたらす日でもある。

それだけに、自分で出来る限りの力を尽く して働き、友と語り、読書したり、家族と触 れ合うなどたえずわずかでもその日に喜びを 感じることができたならば、その一日を感謝 の下に眠りにつくことができるのでなかろう か。このような一日の過ごし方、あるいは人 生 の 日 々 の 生 き か た を 唐 代 の 禅 僧 雲 門 は

「日々是好日」注 2)と表現している。

人口減少・高齢化社会と観光

―日々是好日を支える時と場を考える―

中崎    茂

産研通信 No.56 執筆者一覧(執筆順)

中 崎   茂 本学経営政策学部教授

渡 辺 修一郎 本大学院国際学研究科老年学専攻助教授 鬼 丸 朋 子 本学経済学部講師

藤 川 まなみ コア教育センター講師 田 村 考 司 本学経済学部講師 長 浜 昭 夫 経営政策学部教授 田 中 慎 也 本学文学部教授 野 田 秀 三 経営政策学部教授

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産研通信 No.56(2003・3・31) 3 3. 高齢化社会と「日々是好日」

日野原重明氏は、この「日々是好日」を高 齢者の生き方に照らして、「生を許された今日 を自分を活かし好き日として精いっぱい、あ るいは淡々と静かに生きる人の姿を写し出す 言葉」注3)とみなしている。とはいえ、高齢者 はほぼ共通して眼、耳、運動反射  等肉体的に 衰退の様相を示すようになるが、この高齢者 が日々をどう受け止め、どう向き合うかはか なり個人差がある。ある人は、日々を恵みと して享受するが、他の人は職場社会と接点が 少なくなり虚脱感や無力感に苛まれるなど、

日々の過ごし方や考え方に個人差が大きい。

また『清貧の思想』で知られた中野孝次氏 は、自主定年の後に読書と執筆に日々を過ご しており、ある契機からこの状態を「日々是好 日」と実感するようになったと述べている注4) 。 その契機となったのは唐代の禅宗語録「五灯 会元」を読み、人の生きている時間を暦や時 計で計るのは間違いであると認識してからで ある。暦や時計は時間を過去から無限の未来 に向かう棒のように伸びたものとみなし、人 はその中の 70 〜 80 年を生きているにすぎな い。多くの人々は人生を長い棒のごく一部に 過ぎないと認識しており、そのため人生を「短 い」、「儚い」という感じをもつことになる。こ れに対して、禅僧は時間を次のように考えて いる。「昨日:過去」は既に過ぎ去って無く、

「明日:未来」は未だ来ずして無いものであり、

あるのは「今:現在」だけである。したがっ て、今日こそが現在の確かな存在であり、こ れ以外(今日)に生きる時は無い、と強く認 識することが重要である、と。時間をこのよ うに認識して今日を大事に(こだわりをもち)

生きることは、時間の面から個人の生きる意 欲を高め、その人の存在意義を高めることに なる。また、高齢化社会においては、これま での時間の観念を変え、今日に生きることの

意義を再認識することによって、人々は日々 に生き甲斐を見いだし、そのことが家庭や地 域にも生き生きした雰囲気を醸し出すことに つながる。このことを学生など若者も日々の もつ意義を再認識し、日常生活を見つめ直し 一日一日を大切に生きる契機となることを

(自己反省を込めて)期待したい。

4.「日々是好日」と観光リゾート この日々の生活を重視する生きかたは、過 去、現在そして未来という時間にかかわるも のである。それでは、この一日一日の意義を 再認識し時間を有意義に過ごすための場所や 空間は、今後の社会経済環境の下でどう確保 し活用すべきであろうか。これまで多くの人

・・ ・・・・・

はテレビ、自動車など物の所有や身体の一部 の機能(例えば、景観を鑑賞する、フランス 料理を食する)を満たすだけで十分な幸せを 感じてきたが、社会経済の成熟化や高齢化に 伴い、物の利用(車によるドライブ) や体験・

交流・参加など身体全体や生態;生きるもの・・・・

に価値意識が移行している。この身体全体や 生態や自然環境との係わりを求めて、人々が 生活の一部として定着をしている活動の代表 例の一つは観光旅行である。例えば、

総務庁「高齢者の日常生活に関する調査結 果報告」(平成 6 年)によると、内向的な楽し み(「テレビ」79.4%、「新聞雑誌」37.0%)と ともに外向的な楽しみ(「旅行」30.6%、「散歩、

ウオーキング」17.4%)の中で、観光を含む「旅 行」は上位に位置している。ちなみにこれを男 性でみると外向的な楽しみが主流であり、し かも旅行に対する関心が高い(「男性が老後に 楽しむ趣味」(日経新聞:平成 13 年 10 月 20 日)

高齢者およびその予備軍といえる国民の多 くにとって、旅行や観光が生活の一部を構成 している。余暇時間を享受できる多くの人々 が多様な生活形態と広範な行動を指向するも

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産研通信 No.56(2003・3・31)

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のとすれば、国民が日々を有意義に過ごせる 余暇空間を拡大しかつその柔軟な対応(例え ば、年代、体力、意向、経験の程度に応じた多 様な観光レクリエーションを享受できる場と それを支援するサポート機能の提供)を図る ことが必要となる。

今後はこのような幸せを享受できる場所の 確保と整備、それをサポートする宿泊、旅行、

情報等のサービスを持続的に享受できること が、とくに望まれている。これまでは 所得、

雇用、マンパワーなどが右肩上がりで推移す ることはほぼ確かな条件とみなし、その前提 にたって社会経済、あるいは観光リゾートが 展開されてきた。言うまでもなく現在の社会 経済環境は、地球環境の複雑性、資源エネル ギー等の有限性が明確になるにつれて、その 見直しを余儀なくされている。総人口の減少、

少子・高齢化の進展5)、それに伴う経済所得の 低迷等がほぼ確かな方向であると認識した上6)

で、人々が日々是好  日を実感し有意義にすご すための空間(その中でも関心の高い観光、交

流、体験、静養等の空間)の再検討が必要と なる。このような空間の意義、機能、位置な どの再構築は、これまでとは異なる環境条件

(例えば、人口分布や産業配置、交通条件の整 備、土地  利用の動向、自然生態環境等)の 下で展開する必要がある。その意味において 土地・空間のあり方を探究したチューネン、

ウエーバー等の古典を改めて繙く日もそれほ ど遠くないかも知れない。

注 1)亀井勝一郎『黄金の言葉』大和書房、

1981 年、p.28

2)日野原重昭『老いを創める』朝日新聞 社、2002 年、p.59

3)同上 p.59

4)中野孝次「老年を楽しむ」日経新聞、

2003 年、1 月 20 日

5)国立社会保障・人口問題研究所「日本の 将来推計人口」

6)松谷明彦、藤正  巖『人口減少社会の設 計』中央公論新社、2002 年

(経営政策学部教授)

参照

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