京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座
ディスカッションペーパー
RE100 企業の加盟特徴の実証分析
Empirical Analysis of Joining Characteristics of RE100 Companies
2022 年 6 月
June 2022
京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 研究員
栗田 郁真
Ikuma KURITA Researcher,
Research Project on Renewable Energy Economics, Graduate School of Economics,
Kyoto University
RE100 企業の加盟特徴の実証分析
Empirical Analysis of Joining Characteristics of RE100 Companies
京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 研究員 栗田 郁真
Ikuma KURITA Researcher,
Research Project on Renewable Energy Economics, Graduate School of Economics,
Kyoto University
Abstract:
This study aimed to quantify the characteristics of companies that are members of the RE100, an initiative to voluntarily procure renewable energy by accepting the goal of achieving 100% renewable energy. We conducted a binomial logit analysis of the S&P 500 companies in the US, Nikkei 225 companies in Japan, and FTSE 350 companies in the UK, categorizing companies into those that joined RE100 by 2020 and those that did not; further, we used industry, sales, number of employees, electricity consumption, and energy intensity as explanatory variables. The analysis revealed that the propensity of companies to join the RE100 differs by country, and that the US and UK companies have relatively similar characteristics, while Japanese companies have unique characteristics. Understanding the characteristics of companies that commit to 100% renewable energy will increase our understanding of the characteristics of companies that need policy incentives to adopt renewable energy. In particular, the study results could help governments to implement financial supports to encourage companies to adopt renewable energy during financial constraints.
Keywords: Renewable Energy; RE100; Binomial Logit Analysis; Voluntary Approach
要旨
本研究は、再生可能エネルギー
100%
化を自らに課して自発的に再生可能エネルギーを調達するイニシアテ ィブであるRE100
に着目して、RE100に加盟する企業の特徴を定量的に把握することを目的としている。アメリカの
S&P500
企業、日本の日経平均株価企業、イギリスのFTSE350
企業を対象として、2020
年までにRE100
に加盟した企業とそうでない企業に分類した上で、業種・売上高・従業員数・電力消費量・エネルギー集約度を説明変数として、二項ロジット分析を行なった。分析の結果、企業の
RE100
への加盟傾向は国に よって異なり、アメリカとイギリスの企業は比較的よく似た特徴を持ち、日本の企業は独自の特徴を持つこ とが明らかとなった。再生可能エネルギー100%化に取り組む企業の特徴を理解することで、再生可能エネル ギー導入に政策的なインセンティブを必要とする企業の特徴に対する理解が深まる。特に、本研究結果は、政府に財政上の制約があるなかで、企業の再生可能エネルギー導入を促進するための財政的支援を実施する 際に役立つ可能性がある。
キーワード: 再生可能エネルギー、RE100、二項ロジット分析、ボランタリー・アプローチ
2023年06月
1
1.はじめに
2015
年にパリで開催されたCOP21
において気候変動対策の新たな国際的枠組みで あるパリ協定が採択された。パリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よ りも2
度高い水準を下回るものに抑えるという目標を定め、今世紀後半に人為的な温 室効果ガス(以下、GHG)の排出量と吸収量の均衡を目指すことを記された。パリ協 定の下で各国は2050
年までにGHG
排出量を実質ゼロにするなどの長期的な削減目 標を掲げており、全ての部門において、大幅な排出削減を実現するために、エネルギ ーの生産、輸送、消費の方法を変革する必要に迫られている。エネルギー分野においては、化石燃料の代わりに再生可能エネルギーが主な基盤と なると考えられる。この
10
年ほどの間に、再生可能エネルギーの発電技術が大幅に 発展し、すべての国と多くの用途で信頼性が高く、ますます手頃な価格で利用できる 選択肢となってきた。IEA(2021)が提唱した2050
年までにGHG
排出量を実質ゼロに する道筋においては、2050
年の総エネルギー供給量の3
分の2
は、風力、太陽光、バ イオエネルギー、地熱、水力エネルギーによるものとなり、現在から2050
年にかけ て、太陽光発電の容量は20
倍、風力発電は11
倍に増加すると見込まれる。そして上 記の道筋を実現するためには2030
年時点で年間1.3
兆ドルにのぼる再生可能エネル ギーへの大規模な投資が必要と計算される。そのような投資の移行に向けて、IRENA(2021)は、機関投資家が中心的な役割を果 たし、世界的な気候変動対策に沿っていない資産への支出を制限し、グリーンな資産 に資金を流す行動をとることにより、必要な資金総額の増加は民間部門によってカバ ーされると論じている。実際に、65 兆ドル以上の運用資産を持つ
615
の投資家がClimate Action 100+を結成し、気候変動に関するガバナンスの改善、排出量の削減、気
候変動関連の財務情報開示の強化について企業に働きかけている。再生可能エネルギー由来の効率的な発電技術に消費者の支出と産業界の投資を誘 導するためには、化石燃料補助金の段階的廃止、炭素価格設定、また再生可能エネル ギーの義務化と基準などの政策の明瞭化が不可欠である。その政策設計をめぐって経 済学の手法から多くの文献で議論がなされてきた。例えば、Fell and Linn(2013)は異な る再生可能エネルギー政策の費用対効果をモデル化し、Jenner et al.(2012)は様々な再 生可能エネルギー政策が採用される要因を調査し、また
Schmalensee(2012)はアメリカ
とEU
の経験を踏まえて再生可能エネルギーの増加を目指す政策についての命題を議 論している。しかし、再生可能エネルギー政策の研究の多数は、Fouquet(2018)が整理 しているように、Renewable Portfolio Standard (RPS)とFeed-in Tariff (FIT)の比較を主眼
としてきた。一方で、実社会において、再生可能エネルギーの導入をめぐる注目すべき企業側の 動きが生まれている。それは年間
100GWh
以上の電力を消費している企業を中心に、自らの事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化を公約する企業が年々増加
していることである。それらの企業は
RE100
というイニシアティブを結成している。企業がそのイニシアティブに加盟するためには、その企業が自ら定めた年限(遅くと も
2050
年)までに再生可能エネルギー100%を達成することを公表し、その進捗状況 を毎年報告する必要がある。これまでの再生可能エネルギー政策の経済学的検討においては、
RPS
にせよFIT
に せよ、発電事業者あるいは電力使用事業者に効率的に再生可能エネルギーを導入させ るためのインセンティブの付与の在り方が問われてきた。しかし、RE100
に加盟する 企業はたとえそのような政策的なインセンティブが与えられなくても、再生可能エネ ルギー100%化を自らに課して自発的に再生可能エネルギーを調達するという点でこ れまでにない特徴がみられる。現在
RE100
に加盟している企業がどのような産業や地域に属しているか、それらの企業の電力使用量、再生可能エネルギー由来の電力使用量やその調達手段等は、
RE100
を 運 営 す るThe Climate Group
お よ びCDP
年 次 報 告 書 (The Climate Group and CDP(2022))のなかで記されているが、その加盟企業の特徴を実証的に分析した研究
は現時点では見られない。再生可能エネルギーの導入に向けて、政策的インセンティブがなくても再生可能エ ネルギー100%化を公約する企業の特徴を理解することは、その特徴に該当しない企 業、換言すれば、再生可能エネルギーの導入のためには政策的インセンティブが必要 な企業の特徴の把握につながり、再生可能エネルギーの義務化や基準といった政策の 設計ならびに実践に向けた有益な情報をもたらす。特に、財政上の制約があるなかで 政府が企業の再生可能エネルギーの導入を促すため財政的支援を行う際にはその支 援対象を選定するのに役立つと考えられる。
本稿の目的は、
RE100
に加盟している企業の特徴をRE100
加盟企業数の多いアメリ カ、日本、イギリスについて明らかにすることである。具体的には、アメリカのS&P500
企業、日本の日経平均株価企業、イギリスのFTSE350
企業について、2020 年までにRE100
に加盟した企業とそうでない企業に分類し、RE100
加盟企業の特徴をいくつかの企業属性によって二項ロジット分析を行なう。ただし、前述のとおり、RE100加盟 企業を対象とした実証分析の前例は見つからなかったため、環境問題におけるボラン タリー・アプローチの一つである環境マネジメントシステム
ISO14001
の認証取得の 要因を明らかにした実証分析を参考に分析モデルを設定した。残りの構成は以下のとおりである。第
2
章でRE100
の加盟要件と現況について述べ る。第3
章で環境問題におけるボランタリー・アプローチの類型を概説し、その枠組 みにおいてRE100
がどのように位置付けられるかを検討する。第4
章で分析モデル と説明変数について、第5
章でデータについて説明する。第6
章で分析結果およびそ れに基づく議論を行い、第7
章で結論を述べる。2023年06月
3
2.RE100 について
RE100
について明確な定義はなされていないものの、「世界で影響力のある企業が、事業で使用する電力の再生可能エネルギー
100
%化にコミットする協働イニシアティ ブ」と説明されることが多い(The Climate Group and CDP (2022)
)。その加盟要件につ いて、RE100 Joining Criteria
(The Climate Group and CDP (2021b)
)では年間電力需要が100GWh
以上の企業としているが、それを満たさなくとも・
RE100
の優先地域における主要企業・
RE100
のターゲットセクターにおける主要企業・
RE100
の優先地域での政策提言活動に参加する意思がある企業・世界的または国内的に認知され、信頼されているブランドまたは主要な多国籍企 業(フォーチュン
1000
またはそれに相当する企業)・その他、国際的または地域的に明らかな影響力を持ち、それが
RE100
の目的に適 っている企業のいずれかに該当する企業も加盟できる。ただし、発電事業・化石燃料事業・軍需事 業・タバコ事業・ギャンブル事業を営む企業は対象外となっている。加盟を申し込む 企業は遅くとも
2050
年までに再エネ100%
を達成する目標を公表し、2030
年までに60
%、2040
年までに90%
を目安とした中間目標を設けることが求められる。RE100
は2014
年の発足後毎年拡大し、2021
年12
月までに世界全体で315
社まで増加している。
315
社の電力消費量の合計は340TWh
に上り、その量はイギリス国内の 全電力消費量を上回る。そのうち、152TWh
が再生可能エネルギーで調達されている。最も加盟企業数が多いのはアメリカ(
85
社)、次いで日本(56
社)、イギリス(44
社)の順となっており、
2021
年は日本や韓国などのアジアの企業の加盟が相次いでいる。業種に関して、加盟企業数、電力消費量ともに最も多いのはサービス部門、次に製造 部門、リテール部門の順となっている1。
RE100
加盟企業が再生可能エネルギー由来の電力を調達する手段として、直接調達、電力購入契約(
Power Purchase Agreement: PPA
)、再生可能エネルギー電力証書の購入 等があるが、証書を購入する場合、再生可能エネルギーでない電力購入と比べて証書 購入分のコストがかかることになる。1 ただし、RE100 の年次報告書が採⽤している業種分類と本稿の分析で採⽤している業種分類は異なる。
3.ボランタリー・アプローチ
環境問題において、規制当局や政策当局の関与がない下で、企業が自ら環境汚染物 質の削減や管理に取り組む手法はボランタリー・アプローチとして研究が進展してき
た。
Baranzini and Thalmann(2004)
は気候政策におけるボランタリー・アプローチに関する諸研究を体系的に整理している。ボランタリー・アプローチは、規制当局のコン トロールの度合いとコミットメントの拘束力の度合いによって、自主規制、交渉型協 定、パブリック・ボランタリー・プログラムの類型に分類される。そのうち、自主規 制は「規制当局による実質的対応を伴わない、企業による環境汚染物質の削減努力」
と定義され、規制当局のコントロールの度合いもコミットメントの拘束力の度合いも 弱い性質を有する。環境マネジメントシステムである
ISO14001
は自主規制の代表例 であり、双方の度合いが緩いこともあって、世界中の企業がISO14001
を認証取得してきた。
ISO14001
に関する経済学ならびに経営学の立場からの最新の文献調査はSartor et al.(2019)
であり、企業の環境マネジメントシステムの導入の要因と障壁に関する分析、そしてその導入が企業の環境パフォーマンスならびに経営パフォーマンス に及ぼした影響に関する分析を包括的に整理している。
RE100
は規制当局の関与がない下で企業が自ら再生可能エネルギー100%
化に取り組む行動であり、ボランタリー・アプローチの一種と位置付けられる。ボランタリー・
アプローチの類型について、
RE100
には規制当局による介入はない。一方で、コミッ トメントの拘束力については、目標を達成できなかった場合の明確な罰則規定は設け られていないものの、脱炭素が社会的使命とされるなかで未達成にともなう企業イメ ージの低下は軽微ではない。また、ISO14001
は組織が自ら直面する環境課題を洗い出し、
Plan-Do-Check-Action
のサイクルで継続的に改善していくことに主な目的がある一方で、
RE100
は自ら使用する電力について決められた年限までに再生可能エネルギー
100%
化を達成するという具体的数値および具体的期限を自らに課すことに特色が ある。第2
章で述べたように、再生可能エネルギーの導入は調達手段によっては費用 が上乗せされる可能性も存在するなかで、それでも企業が自発的に再生可能エネルギ ー100%
化を公約するRE100
は、他のボランタリー・アプローチと一線を画す枠組み であると言える。2023年06月
5
4.モデルと説明変数
4.1 モデル
本稿で用いる二項ロジットモデルは以下のとおりである2。
𝑅𝐸 1 𝑖𝑓𝑦 0
𝑅𝐸 0 𝑖𝑓𝑦 0 (1)
𝑦 𝛼 𝛽 𝑋 𝜀 (2)
Pr 𝑅𝐸 1|𝑋
′′ ′(3)
𝑅𝐸
はRE100
加盟に関する被説明変数であり、企業i
が2020
年までにRE100
に加盟している場合は
1
、そうでない場合は0
の値をとる。𝑦
は潜在変数であり、𝑦
は定 数項α
、係数ベクトルβ
、説明変数ベクトル𝑋
、誤差項𝜀
で構成される。Pr 𝑅𝐸 1|𝑋
は説明変数ベクトル𝑋
が与えられたときに𝑅𝐸
が1
の値をとる確率で、ロジットモデ ルではその確率が式(3)
のように定義される。4.2 説明変数
本稿は上記の二項ロジットモデルにおいて、説明変数の組み合わせにより
3
つのモ デルで分析を行なった。最初に3
つのモデルに共通する説明変数について述べ、次に、各モデルで用いた説明変数について述べる。
・[一般消費財]に関する業種ダミー(全モデル)
一般消費財は自動車・耐久消費財・アパレル等の製造業ならびにその小売業を示す。
ISO14001
に関する文献調査(Sartor et al. (2019))において、認証取得要因として最も多く「企業イメージの向上」が挙げられており、最終消費者への売上割合が認証取得 に影響を与えるかを分析した研究として
Melnyk_et_al(2003)を紹介している。RE100
についても、最終消費者への売上割合が高い業種ほど企業イメージの向上を期待して 率先して加盟しているという仮説を立て、一般消費財の業種のダミー変数がRE100
へ の加盟に正の影響を与えるかを分析する。具体的には、[一般消費財]の業種に属する企業を
1、そうでない企業を 0
とするダミー変数を作成して分析した。・[金融]に関するダミー変数(全モデル)
現在の脱炭素に向けた世界的潮流の特色の一つは、第
1
章で言及したように、投資 機関や金融機関による関与が積極的であることである。その点を考慮して、金融業に2 被説明変数が連続変数ではなく離散変数をとる場合離散選択モデルを用いた分析を行う。本稿の場合、被説明 変数が「企業がRE100に加盟している/加盟していない」の二項であるあるため二項選択モデルと呼ばれる。
確率変数への変換に正規分布を用いるプロビットモデルとロジスティック分布を用いるロジットモデルがある が、本稿では決定係数の大きかったロジットモデルを採用した。離散選択モデルの解説として松浦他(2009)。
含まれる企業は投資先や融資先に対する温室効果ガスの排出削減の働きかけととも に、自身の事業で使用する電力についても再生可能エネルギーの利用割合の拡大を進 めているという仮説を立て、金融業のダミー変数が
RE100
への加盟に正の影響を与 えるかを分析する。具体的には、[金融]の業種に属する企業を1、そうでない企業を 0
とするダミー変数を作成して分析した。・売上高(全モデル)
環境マネジメントシステムの構築や
ISO14001
の認証取得は費用がかかる事業であ ることを踏まえて、売上高とISO14001
の認証取得の関係を実証分析したいくつかの 研究がある(例えば、Delmas and Toffel (2008)、Gupta and Innes(2014))。RE100におい ても、企業は再生可能エネルギー100%の調達を達成するために複数の選択肢を持つ が、いずれに選択肢においても費用負担の問題に向き合うことにある。具体的には、自ら再生可能エネルギー発電設備を設置する場合は多額の初期費用を投資する必要 がある。小売電気事業者から再生可能エネルギーで発電された電力を購入する場合は、
それ以外の由来の電力を購入する場合と比べてコスト高になるかどうかは契約の内 容次第である。また、再生可能エネルギー電力証書を購入する場合は証書購入分のコ ストを追加的に支払うことになる。CDP and The Climate Group (2022)は、現在
RE100
に加盟している企業の40%が再生可能エネルギー電力証書を購入していると報告し
ている。このような現在の再生可能エネルギーの調達環境において、売上高の多い企 業はその調達のための資金の余裕があるという仮説を立て、売上高がRE100
への加 盟に正の影響を与えるかを分析する。・従業員数(全モデル)
従業員数は多くの
ISO14001
の実証研究のなかで企業規模を表す変数として用いら れてきた(例えば、Nakamura et al.(2001)、 Gonzalez-Benito, J., and O. Gonzalez-Benito.(2005)、 Gupta and Innes(2014))
。規模の大きい企業ほどより多様なステークホルダーの よる要求に向き合い、また、社会的に認知され、より多くのエネルギーを消費しGHG
を排出していると見なされうるため、気候変動を防止する企業行動をとるべきという 社会的要請により直面すると考えられる。また、RE100
に加盟し再生可能エネルギー100%の調達を達成するために金銭的資源ならびに人的資源を投入する必要があるが、
従業員が多いことは人的資源の観点からより実行可能であると考えられる。上記の
2
つの理由から従業員数の多い企業はRE100
に加盟する傾向にあるという仮説を立て、従業員数が
RE100
への加盟に正の影響を与えるかを分析する。・[電力使用量データの公表]に関するダミー変数(モデル 1)
RE100
に加盟した企業は毎年報告用スプレッドシートに進捗状況を記入してRE100
事務局に提出する必要があり、そのスプレッドシートには電力使用量の記入欄がある ことから、
RE100
加盟を目指す企業は自社の電力使用量を測定して公表する体制を整2023年06月
7
備する必要がある。本稿では、電力使用量に関するデータを環境報告書等で公表して いる企業を
1、公表していない企業を 0
とするダミー変数を作成した。電力消費量に 関するデータを公表している企業はRE100
に加盟するために必要な準備が整ってい るという仮説を立て、上記のダミー変数がRE100
への加盟に正の影響を与えるかを 分析する。・電力使用量(モデル 2)
第
2
章で述べたようにRE100
への基本的な加盟要件は年間電力需要が1,000GWh
以 上であるが、本稿が対象とするアメリカのS&P500
企業、日本の日経平均株価企業、イギリスの
FTSE350
企業の電力消費量は1,000GWh
以上の企業がほとんどである(P10の表
2
参照)。したがって、自らの事業で使用する電力を全て再生可能エネルギ ー由来の電力に転換するというRE100
の公約の実現可能性を考慮すると、RE100 の 要件を上回る電力を消費する企業のグループのなかでも、電力消費量の比較的少ない企業が
RE100
に加盟しているという仮説が考えられる。それらの仮説を検討するために、電力使用量が
RE100
への加盟に負の影響を与えるかを分析する。・エネルギー集約度(モデル 3)
IRENA(2017)はパリ協定の 2050
年目標に向けて再生可能エネルギーの導入促進とエネルギー効率性の向上の相乗効果を実現する必要性を記している。本稿が対象とす る企業の産業構造の種類は多様であり、エネルギーを多く消費する産業もさほど消費 しない産業も存在する。
RE100
はあくまで事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化を公約するものであり、電力は様々なエネルギー源のうちの一つにすぎない
が、各企業のエネルギー集約度(すなわち、各企業のエネルギー消費量を売上高で割 った値で算出される値)がRE100
への加盟に関係しているどうかを分析する。仮に、各企業のエネルギー集約度と
RE100
加盟状況との間に有意に負の関係が示されるの であれば、エネルギーをあまり消費せずに売上を達成する企業が再生可能エネルギー を意欲的に導入している状況を表わしているため、再生可能エネルギーの促進とエネ ルギー効率性の向上の同時実現の一端を実証的に示すことができる。以上の説明変数の一覧をモデルごとに整理すると表
1
のように記される。表 1 各モデルの説明変数
モデル 1 モデル 2 モデル 3
一般消費財ダミー
〇 〇 〇金融ダミー
〇 〇 〇売上高
〇 〇 〇従業員数
〇 〇 〇電力公表ダミー
〇電力使用量
〇エネルギー集約度
〇2023年06月
9
5.データ
本稿は
RE100
加盟企業が多いアメリカ・日本・イギリスを分析対象とする。アメリカの
S&P500
指数、日本の日経平均株価指数、イギリスのFTSE350
指数は、各国の主要企業のなかで業種等のバランスを考慮して構成されており、それぞれの指数は各国 の株式市場の動向を代表しているとされることから、それぞれの指数に組み込まれて いる企業を選んだ。さらに、それらの企業から自国外の企業、説明変数に欠損値があ る企業を除外した。その結果、モデル
1
での分析対象となる企業数(括弧内はそのうち
2020
年までにRE100
に加盟した企業数)は、アメリカは432
社(45
社)、日本は217
社(21
社)、イギリスは202
社(25
社)である。モデル2
はモデル1
のサンプル のうち電力消費量に関するデータが入手可能であった企業を対象としており、アメリ カは192
社(34
社)、日本は127
社(15
社)、イギリスは71
社(16
社)である。モデ ル3
はモデル1
のサンプルのうち、エネルギー集約度を計算するのに用いるエネルギ ー消費量に関するデータが入手可能であった企業を対象としており、アメリカは224
社(35
社)、日本は161
社(18
社)、イギリスは111
社(20
社)である。被説明変数については
RE100 Annual Report 2020
(The Climate Group and CDP (2021a)
) に掲載されているRE100
加盟企業を参照し2020
年までにRE100
に加盟した企業を1
、そうでない企業を0
とする変数を作成した。説明変数は全てBloomberg Database
を 参照した。被説明変数は2020
年時点の状況を表わすデータを用いた一方、説明変数 は全て2019
年のデータを採用した。その理由は、第一に、説明変数で表されるよう な企業特有の条件が満たされたうえでRE100
への加盟を申請するという関係を考慮 したため、第二に、2020
年の企業状況を表わす説明変数におけるCOVID-19
が及ぼす 影響を回避するためである。業種は、世界産業分類基準(
Global Industry Classification Standard
:GICS
)に基づく11
業種を参照し、そのうちの一般消費財(Consumer Discretionary
)、金融(Finance
) に分類される企業に対してダミー変数への変換を行なった。売上高は米国ドル換算した額であり、単位は
100
万ドルである。電力消費量および(エネルギー集約度の分子である)エネルギー消費量は各企業が 環境報告書等で公表している数値を用いた。電力消費量の単位は
GWh
である。エネ ルギー消費量は所有または管理されているボイラー、炉、車両での燃焼、あるいは所 有または管理されているプロセス機器での化学生産によって直接消費されるエネル ギーが含まれる。また、電気として消費されるエネルギーも含まれる。また、エネル ギー消費量の表記は電力換算されており、エネルギー集約度の単位はMWh
/1000
ド ルである。モデル
1
・モデル2
・モデル3
で用いた説明変数の記述統計量を表2
・表3
・表4
に、モデル
1
・モデル2
・モデル3
で用いた説明変数の相関係数を表5
・表6
・表7
に示す。表 2 記述統計量(モデル 1)
アメリカ n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 432 0.141 0.349 0 1
金融ダミー 432 0.144 0.351 0 1
売上高 432 25,391 48,385 511 514,000 従業員数 432 55,896 131,772 175 2,200,000
電力公表ダミー 432 0.444 0.497 0 1
日本 n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 217 0.138 0.346 0 1
金融ダミー 217 0.101 0.303 0 1
売上高 217 19,225 29,471 247 273,000 従業員数 217 44,342 63,098 142 419,912
電力公表ダミー 217 0.585 0.494 0 1
イギリス n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 202 0.193 0.396 0 1
金融ダミー 202 0.183 0.388 0 1
売上高 202 8,549 16,275 11 93,736 従業員数 202 27,923 67,696 28 596,452
電力公表ダミー 202 0.351 0.479 0 1
注:売上高の単位は100万ドル。
2023年06月
11
表 3 記述統計量(モデル 2)
注:売上高の単位は100万ドル、電力消費量の単位はGWh。
アメリカ n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 192 0.125 0.332 0 1
金融ダミー 192 0.130 0.337 0 1
売上高 192 31,611 45,488 1,133 260,000 従業員数 192 64,594 88,195 175 495,000 電力消費量 192 2,990,674 17,887,546 3 245,240,992
日本 n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 127 0.150 0.358 0 1
金融ダミー 127 0.102 0.304 0 1
売上高 127 22,797 33,597 2,049 273,000 従業員数 127 54,484 66,951 2,974 370,870 電力消費量 127 1,660,072 3,110,185 20,937 27,444,400
イギリス n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 71 0.169 0.377 0 1
金融ダミー 71 0.127 0.335 0 1
売上高 71 12,713 20,070 114 86,674
従業員数 71 39,939 80,828 28 596,452 電力消費量 71 850,188 2,227,622 97 13,131,700
表 4 記述統計量(モデル 3)
注:売上高の単位は100万ドル、エネルギー集約度の単位はMWh/1000ドル。
アメリカ n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 224 0.125 0.331 0 1
金融ダミー 224 0.116 0.321 0 1
売上高 224 30,594 45,260 818 260,000
従業員数 224 62,424 85,923 175 495,000 エネルギー集約度 224 0.651 2.866 0.002 34.437
日本 n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 161 0.161 0.369 0 1
金融ダミー 161 0.075 0.263 0 1
売上高 161 21,816 32,275 443 273,000
従業員数 161 50,070 62,536 456 370,870 エネルギー集約度 161 0.744 1.613 0.004 11.682
イギリス n 平 均 標準偏差 最小値 最大値
一般消費財ダミー 111 0.180 0.386 0 1
金融ダミー 111 0.144 0.353 0 1
売上高 111 11,585 19,079 101 93,736
従業員数 111 38,027 82,844 28 596,452 エネルギー集約度 111 0.420 1.163 0.000 8.700
2023年06月
13
表 5 相関係数(モデル 1)
アメリカ 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力公表 ダミー 一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.166 1.000
売上高 0.000 0.023 1.000 従業員数 0.111 -0.040 0.762 1.000
電力公表ダミー -0.042 -0.034 0.115 0.059 1.000
日本 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力公表 ダミー
一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.135 1.000
売上高 0.228 0.047 1.000 従業員数 0.212 -0.031 0.746 1.000
電力公表ダミー 0.039 0.004 0.144 0.191 1.000
イギリス 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力公表 ダミー 一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.232 1.000
売上高 -0.114 0.222 1.000
従業員数 0.029 -0.083 0.442 1.000
電力公表ダミー -0.045 -0.107 0.189 0.131 1.000
表 6 相関係数(モデル 2)
アメリカ 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力消費量 一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.146 1.000
売上高 0.043 0.054 1.000 従業員数 0.257 -0.015 0.639 1.000
電力消費量 -0.021 -0.056 0.025 0.010 1.000
日本 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力消費量 一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.142 1.000
売上高 0.157 0.155 1.000 従業員数 0.175 0.040 0.738 1.000
電力消費量 0.054 -0.132 0.382 0.373 1.000
イギリス 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 電力消費量
一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.172 1.000
売上高 -0.125 0.459 1.000 従業員数 0.177 -0.005 0.434 1.000
電力消費量 -0.001 -0.117 0.167 0.165 1.000
2023年06月
15
表 7 相関係数(モデル 3)
アメリカ 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 エネルギー 集約度
一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.137 1.000
売上高 0.022 0.041 1.000 従業員数 0.236 -0.011 0.663 1.000
エネルギー集約度 -0.046 -0.080 -0.081 -0.078 1.000
日本 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 エネルギー 集約度
一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.125 1.000
売上高 0.218 0.159 1.000 従業員数 0.204 0.072 0.755 1.000
エネルギー集約度 -0.145 -0.128 -0.110 -0.140 1.000
イギリス 一般消費財
ダミー 金融ダミー 売上高 従業員数 エネルギー 集約度 一般消費財ダミー 1.000
金融ダミー -0.192 1.000
売上高 -0.135 0.415 1.000
従業員数 0.064 -0.027 0.330 1.000
エネルギー集約度 -0.074 -0.146 0.011 0.012 1.000
6.分析結果と議論
6.1 分析結果
モデル
1
・2
・3
の分析結果は表8
・表9
・表10
に示される。表 8 モデル 1 の分析結果
アメリカ 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -3.739 0.387 2E-16 *** 0.024
一般消費財ダミー 0.772 0.455 0.090 * 0.063 2.163 金融ダミー 0.869 0.432 0.044 ** 0.071 2.385 売上高 9.38E-06 3.74E-06 0.012 ** 7.65E-07 1.000 従業員数 3.51E-07 1.52E-06 0.817 2.87E-08 1.000
電力公表ダミー 1.563 0.386 5.07E-05 *** 0.128 4.774 AIC 257.9
対数尤度 -122.9 決定係数 0.148
日本 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -2.890 0.470 7.81E-10 *** 0.056
一般消費財ダミー 0.877 0.563 0.119 0.073 2.404 金融ダミー -0.590 1.073 0.582 -0.049 0.554 売上高 -8E-06 9.85E-06 0.416 -6.67E-07 1.000
従業員数 6.8E-06 4.1E-06 0.097 * 5.66E-07 1.000 電力公表ダミー 0.512 0.516 0.321 0.043 1.669
AIC 141.8 対数尤度 -64.9 決定係数 0.059
イギリス 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -3.525 0.511 4.98E-12 *** 0.029
一般消費財ダミー 0.457 0.666 0.493 0.036 1.579 金融ダミー 0.572 0.686 0.404 0.045 1.773
売上高 5.97E-05 1.71E-05 0.000 *** 4.66E-06 1.000 従業員数 1.83E-07 3.34E-06 0.956 1.43E-08 1.000
電力公表ダミー 1.212 0.527 0.021 ** 0.095 3.359 AIC 124.2
対数尤度 -56.1 決定係数 0.258
注:***は1%、**は5%、*は10%有意であることを示す。表9・表10についても同様。
2023年06月
17
表 9 モデル 2 の分析結果
注:***は1%、**は5%、*は10%有意であることを示す。表9・表10についても同様。
アメリカ 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ 定数項 -2.175 0.302 6.32E-13 *** 0.114 一般消費財ダミー 0.651 0.571 0.254 0.087 1.918 金融ダミー 0.752 0.524 0.151 0.100 2.122 売上高 0.0000124 4.71E-06 0.008 *** 1.65E-06 1.000 従業員数 -4.34E-07 2.61E-06 0.868 -5.77E-08 1.000 電力消費量 -1.1E-08 3.79E-08 0.771 -1.47E-09 1.000 AIC 177.3
対数尤度 -82.6 決定係数 0.078
日本 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -2.093 0.411 3.42E-07 *** 0.123 一般消費財ダミー 1.352 0.664 0.042 ** 0.131 3.864 金融ダミー -0.967 1.198 0.420 -0.094 0.380 売上高 1.08E-05 0.000015 0.471 1.05E-06 1.000 従業員数 6.53E-06 6.18E-06 0.291 6.33E-07 1.000 電力消費量 -6.37E-07 3.81E-07 0.095 * -6.17E-08 1.000 AIC 96.2
対数尤度 -42.1 決定係数 0.087
イギリス 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ 定数項 -1.856 0.452 4.03E-05 *** 0.156 一般消費財ダミー 0.531 0.818 0.517 0.076 1.700 金融ダミー -1.470 1.478 0.320 -0.212 0.230 売上高 5.883E-05 2.35E-05 0.012 ** 8.47E-06 1.000 従業員数 -1.49E-06 3.91E-06 0.703 -2.15E-07 1.000 電力消費量 -1.71E-07 2E-07 0.392 -2.46E-08 1.000 AIC 76.7
対数尤度 -32.4 決定係数 0.146
表 10 モデル 3 の分析結果
注:***は1%、**は5%、*は10%有意であることを示す。表9・表10についても同様。
アメリカ 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -2.012 0.322 4.02E-10 *** 0.134 一般消費財ダミー 0.768 0.538 0.154 0.092 2.155 金融ダミー 0.443 0.542 0.414 0.053 1.557
売上高 1.08E-05 4.58E-06 0.018 ** 1.29E-06 1.000 従業員数 -6.8E-07 2.68E-06 0.800 -8.14E-08 1.000
エネルギー集約度 -0.952 0.705 0.177 -0.114 0.386 AIC 187.1
対数尤度 -87.5 決定係数 0.098
日本 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ 定数項 -1.639 0.454 3.E-04 *** 0.194 一般消費財ダミー 0.884 0.587 0.132 0.083 2.420 金融ダミー -0.623 1.128 0.581 -0.058 0.537 売上高 -4.4E-06 1.13E-05 0.694 -4.16E-07 1.000
従業員数 1.15E-06 5.6E-06 0.837 1.08E-07 1.000 エネルギー集約度 -2.074 1.435 0.148 -0.195 0.126
AIC 114.4 対数尤度 -51.2 決定係数 0.092
イギリス 係数 標準誤差 p値 限界効果 オッズ
定数項 -1.743 0.501 0.001 *** 0.175 一般消費財ダミー -0.079 0.766 0.918 -0.009 0.924 金融ダミー -0.579 0.920 0.530 -0.063 0.561
売上高 5.77E-05 1.93E-05 0.003 *** 6.32E-06 1.000 従業員数 -7.2E-07 3.25E-06 0.825 -7.87E-08 1.000
エネルギー集約度 -3.403 2.648 0.199 -0.373 0.033 AIC 91.7
対数尤度 -39.8 決定係数 0.239
2023年06月
19
上記の表から分かるとおり、国によって有意である変数は異なり、そのことは企業
の
RE100
への加盟傾向は国によって異なることを意味する。その詳細を観察すると、全てのモデルにおける分析結果についてアメリカとイギリスの企業は比較的よく似 た特徴を持ち、日本の企業は独自の特徴を持つことが分かる。
アメリカおよびイギリスにおいては、全てのモデルにおいて売上高が有意に正の結 果となった。すなわち、売上高の多い企業ほど
RE100
に加盟する傾向にある。ただ し、その限界効果はアメリカでは0.00008%~0.00017%、イギリスでは 0.00047%~
0.00085%と極めて小さい。また、モデル 1
においてエネルギー消費量のデータ公表に関するダミー変数も両国において有意に正となった。その効果をオッズ(RE100に加 盟する確率/RE100に加盟しない確率)で測ると、エネルギー消費量のデータを公表 している企業におけるオッズはアメリカでは
4.8
倍、イギリスでは3.4
倍になる。加えて、アメリカにおいてはモデル
1、すなわち全てのサンプルを対象に分析した
モデルにおいて、売上高およびエネルギー消費量データ公表の他に、一般消費財の業 種に関するダミー変数、金融業に関するダミー変数もそれぞれ有意に正となった。そ の効果をオッズで測ると、一般消費財を扱う業種、金融業におけるオッズはそれぞれ2.2
倍、2.4倍になる。日本においては、モデルによって有意な変数が異なる3。モデル
1、すなわち全ての
サンプルを対象に分析したモデルにおいて、従業員数が有意に正の結果となった。た だし、限界効果は0.00006%と極めて小さい。また、エネルギー消費量に関するデータ
を公表した企業を対象としたモデル2
においては、一般消費財の業種に関するダミー 変数が有意に正、および電力消費量が有意に負となった。すなわち、一般消費財を扱う業種は
RE100
に加盟する傾向にあり、電力消費量が少ない企業ほどRE100
に加盟する傾向にある。一般消費財業のオッズは
3.9
倍、電力消費量の限界効果は0.000006
倍となった。最後に、いずれの国においてもエネルギー集約度は有意な結果を示さなかった。す なわち、本稿のモデルでは、企業がエネルギー集約的産業にあるかどうかは
RE100
へ の加盟に影響を与えていない。6.2 議論
上記の分析結果を踏まえて
5
つの議論すべき点について考察を加えたい。第一は売上高と従業員数についてである。これらの変数は
ISO14001
の実証分析に 関する多くの文献で企業規模を表わす変数として用いられてきた4。表5
・表6
・表7
における売上高と従業員数の相関がやや高いことは双方の変数が企業規模を表わす 類似した傾向を持つことを示しているが、分析の結果、アメリカとイギリスでは全て3 日本においてモデル1とモデル2において有意な変数が異なることは、電力消費量に関するデータを公表して いる企業のみを分析対象とするというサンプル抽出条件が、日本企業のRE100加盟要因に影響を及ぼしている ことを意味している。[一般消費財]のダミー変数について有意な結果でないモデル1でもp値が0.119と低値 である一方(表8)、従業員数は有意な結果出ないモデル2でp値が0.291と高値となっている(表9)。
4 例えば、双方の変数を用いた分析としてGupta and Innes (2014)がある。
のモデルで売上高が、日本ではモデル
1
で従業員数が有意に正となった5。RE100 に 加盟し自発的に再生可能エネルギーを調達するためには、前者の国々では金銭的資源 が、後者の国では人的資源が重要であると言える。特に、前者においては全てのモデルで
1%あるいは 5%の水準で正であることからその傾向は極めて強い。中小企業では
再生可能エネルギーの自主的な導入に対してやや消極的であるため、政策的インセン ティブの付与が必要となってくるであろう。その政策の一例として中小企業に対象を 絞った資金助成が考えられるが、その際、その企業規模を表わす指標は国によって適 切に選択すべきである。
第二は金融ダミーについてである。アメリカのモデル
1
において有意に正であった が、金融の業種特有の傾向であるためか、あるいは他の業種と比べて事業で使用する 電力が少ないためかを確認する必要がある。表6
のアメリカにおける金融ダミーと電 力消費量の相関係数は-0.056でありほぼ無相関であるため、金融の業種特有の傾向で あると解釈される。第4
章で言及したような投資機関や金融機関が脱炭素に向けた積 極的な関与の一環として、自身の使用電力を再生可能エネルギーに転換する取り組み が実証的に示されたものと言える。第三はモデル
1
における電力消費量データの公表についてである。アメリカとイギ リスにおいて有意に正であった一方、日本においては有意な結果は示されなかった。その理由として表
2
のその変数の平均値が日本において最も高いこと、すなわち日本 においては電力消費量データを公表している企業が他の2
国と比べて多いことが挙 げられる。電力消費量データの公表企業数と未公表企業数およびRE100
加盟状況の 内訳である表11
からもその傾向を読み取ることができる。表 11 電力消費データの公表/未公表企業数と RE100 加盟状況
アメリカ 日本 イギリス
公表 未公表 公表 未公表 公表 未公表 全数 192 240 127 90 71 131 RE100加盟数 34 11 15 6 16 9 割合 17.7% 4.6% 11.8% 6.7% 22.5% 6.9%
日本企業においては環境報告書等での電力消費量の公表が進んでいる一方、アメリ カやイギリスでは、本稿が分析対象とした主要企業でさえも、その公表が進んでいな い現状を鑑みると、自社の電力消費量の測定ならびに公表の体制を整備することが、
アメリカとイギリスでは企業の再生可能エネルギーの導入促進の素地となりうる。
第四はモデル
2
の結果についてである。電力消費量のデータを公表している企業を 対象としたモデル2
において、日本で一般消費財ダミーが有意に正、電力消費量が有5 ISO14001の認証取得要因に関する実証分析において、Delmas and Toffel (2008)はアメリカ企業を対象に売上 高の多い企業、Nakamura et al.(2001)は日本企業を対象に従業員数の多い企業がISO14001の認証をより取得 していることを示している。ただし、他方で、Gupta and Innes(2014)はアメリカ企業を対象に従業員数の多い 企業がより取得していることを示しており、日本企業を対象に売上高を企業規模の変数に用いたISO14001の認 証取得要因の実証分析はないため、ISO14001の認証取得要因における売上高・従業員数の企業規模と国別との
2023年06月
21
意に負となったことは、日本企業が企業イメージや再生可能エネルギー100%の実現 可能性を重視して
RE100
への加盟の意思決定を行なっていることを表わす6。一方で、アメリカとイギリスについては双方の変数とも有意でないため上記の傾向は当ては まらず、電力消費量の多寡とは関係なく、売上高の多い企業が
RE100
に加盟している ことが示されている(表3
および表7
参照)。第五はモデル
3
のエネルギー集約度についてである。全ての国において係数は負で あったものの有意な結果でなかったことは、エネルギー集約度の低い企業がRE100
に 加盟している訳ではないことを意味する。IRENA(2017)は再生可能エネルギーの導入 促進とエネルギー効率性の向上を両立させる重要性を論じているが、2020 年時点で は、(エネルギーを多く消費せずに売上高が多いという意味で)エネルギー効率性の 高い企業がRE100
加盟という形で率先して再生可能エネルギーの導入を加速させて いる訳ではないという現状が明らかとなった。6
7.結論
本稿は、再生可能エネルギー
100%
化を自らに課して自発的に再生可能エネルギーを 調達するイニシアティブであるRE100
に着目して、RE100
に加盟する企業の特徴を 定量的に明らかにするため、アメリカのS&P500
企業、日本の日経平均株価企業、イギリスの
FTSE350
企業を対象として、2020
年までにRE100
に加盟した企業とそうでない企業に分類した上で二項ロジット分析を行なった。分析結果はアメリカおよびイ ギリスの
2
国と日本との間で大きな違いが見られた。RE100
は、規制当局や政策当局の関与がない下で、企業が自ら環境汚染物質の削減や管理に取り組む手法であるボランタリー・アプローチの一つと位置付けられるが、
同じボラタンタリー・アプローチであり世界中の企業に広がった
ISO14001
のように、今後経済学あるいは経営学の視点からの研究が進展すると期待される。本稿はその端 緒であるため、今後の研究課題が残されている。最も重要な問題点は限られたサンプ ル数である。本稿は
RE100
加盟企業数が多いアメリカ・日本・イギリスを対象とした が、それでも分析の対象としたRE100
加盟企業は最も多いアメリカでも50
社を下回 る。モデル2
およびモデル3
ではさらに数が限られたため、分析結果の頑健性は弱い。今後も
RE100
に加盟する企業が増加することが予想されるなかで、それらのサンプルを追加することで特に
10%
有意であった変数を中心に結果は変わるかもしれない。しかし、そのサンプルが増えるにつれて分析結果の頑健性は強まると考えられるため、
今後も最新の状況を反映した分析を更新していくことが必要である。
2023年06月
23
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