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ワークライフバランスの現状と課題

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産研通信No.75(2009.7.31) 10

ワークライフバランスの現状と課題 

鬼 丸   朋 子 

1. ワークライフバランスとは 

  21 世 紀 にはいって、日 本 でも「ワーク ラ イ フ バ ラ ン ス ( 仕 事 と 生 活 の 調 和 ) 」 (Work Life Balance:以 下 WLB と記 す)という言 葉 が頻 繁 にメディアに登 場 しはじめた。WLB 推 進 の動 きは日 を 追 うごとに加 速 し、2007 年 12 月 には

「仕 事 と生 活 の調 和 (ワーク・ライフ・バ ランス)憲 章 」及 び「仕 事 と生 活 の調 和 推 進 のための行 動 指 針 」が、政 労 使 による調 印 の上 決 定 された。同 憲 章 は、

(1) 企 業 と そ こ で 働 く 者 、 (2) 国 民 、 (3) 国 、 (4) 地 方 公 共 団 体 による 取 組 み を 通 じて、「国 民 一 人 ひとりがやりがいや 充 実 感 を感 じながら働 き、仕 事 上 の責 任 を果 たすとともに、家 庭 や地 域 生 活 などにおいても、子 育 て期 、中 高 年 期 と い っ た 人 生 の 各 段 階 に 応 じ て 多 様 な 生 き 方 が 選 択 ・ 実 現 で き る 社 会 」 の 実 現 を目 指 している。また、実 現 に向 けた行 動 指 針 や数 値 目 標 も提 示 され て い る。 その 後 、 同 憲 章 や 行 動 指 針 を軸 にした各 種 調 査 ・分 析 やキャンペ ーン等 を通 じて、多 くの取 組 みが展 開 され、今 日 に至 っている。 

2.  日 本 における WLB の推 進 状 況     先 述 の通 り、日 本 で WLB が政 策 面 で 包 括 的 に 議 論 さ れ る よ う に な っ た の はごく最 近 である。もちろん、WLB につ ながるいくつかの政 策 的 な流 れは、以 前 か ら 存 在 し てい た。ま ず 、女 性 が 差 別 されることなくやりたい仕 事 を続 けら

れ る よ う 男 女 平 等 の 観 点 か ら の 対 策 が 講 じ ら れ て き た 。 ま た 、 労 働 時 間 短 縮 (以 下 時 短 と記 す)という観 点 からみ れば、1986 年 の前 川 レポートを契 機 と した 法 改 正 や 通 達 等 に よ る 労 働 時 間 規 制 及 び労 働 時 間 の弾 力 化 が進 展 し て い る。 一 方 、 企 業 で も 徐 々 に 女 性 活 用 策 施 策 が導 入 されてきた。 

 だが、近 年 の日 本 における WLB 推 進 は 、 こ れ ま で の 経 緯 を ふ ま え つ つ 、 急 速 な少 子 高 齢 化 の進 行 による労 働 力 人 口 の減 少を抑 制 するために、女 性 に労 働 市 場 への積 極 的 な参 加 を働 きかけることにもある。具 体 的 には、働 きたいと希 望 しているにもかかわらず家 事 や 育 児 ・ 介 護 の 制 約 か ら 働 け な い 女 性 にもっと活 躍 してもらうために、仕 事 と 子 育 て の 両 立 の た め の 制 度 の 推 進 ・定 着 ・充 実 や、子 育 てをしながら働 き や す い 雇 用 環 境 の 整 備 が 進 め ら れ ている。 

 さらに、WLB 政 策 では、これまでの流 れに加 えて、多 様 な働 き方 ・生 活 のあ り方 の社 会 的 容 認 が男 性 にとっても充 実 した仕 事 と生 活 の実 現 につながると している。例 えば、『平 成 19 年 版  労 働 経 済 白 書 』では WLB 導 入 の定 性 的 効 果 を説 明 し、WLB の推 進 が企 業 に と っ て も プ ラ ス に な る こ と を 強 調 し て い る10。また、 男 女 共 同 参 画 会 議 ・ 仕 事 と生 活 の調 和 (ワーク・ライフ・バランス) に関 する専 門 委 員 会 が 2008 年 に発

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産研通信No.75(2009.7.31)

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表 した「企 業 が仕 事 と生 活 の調 和 に取 り組 むメリット」をみると、残 業 時 間 が従 業 員 1 人 当 たり 1 日 30 分 短 くなること により企 業 全 体 で一 年 間 に削 減 される コストは、従 業 員 1,000 人 の企 業 で約 3 億 70 万 円 、従 業 員 500 人 の企 業 で 約 1 億 3,500 万 円 、従 業 員 50 人 の企 業 で約 1,180 万 円 にのぼるといったコ スト削 減 効 果 の試 算 を通 じて、WLB 導 入 の効 果 を定 性 的 ・定 量 的 に示 そうと 試 みている11。 

3.  企 業 における WLB の取 り組 み    次 世 代 育 成 支 援 対 策 推 進 法 の 施 行 以 降 、企 業 による均 等 ・両 立 推 進 の 動 きがいっそう 進 みつつあ る。個 別 企 業 における WLB 施 策 をみると、(1)1 日 の労 働 時 間 に 関 連 する も の(例 : 短 時 間 正 社 員 制 度 、 勤 務 時 間 の 繰 り 上 げ・繰 り下 げ)、(2)各 種 休 業 ・休 暇 に関 連 するもの(例 :育 児 ・介 護 休 業 制 度 )、

(3) 働 く 場 所 に 関 連 す る も の ( 例 : 在 宅 勤 務 制 度 、 地 域 限 定 社 員 制 度 ) 、 (4) 子 ど も に 関 連 す る も の ( 例 : 企 業 内 保 育 所 、各 種 育 児 関 連 支 出 に対 する経 済 的 支 援 )、(5)自 己 啓 発 に関 連 するも の(例 :ボランティア休 暇 、各 種 資 格 取 得 補 助 制 度 ) 、 (6) そ の 他 ( 例 : 再 雇 用 制 度 、各 種 情 報 提 供 ・ 相 談 窓 口 の設 置 )、とおおまかに分 類 できよう12。    とはいえ、制 度 の整 備 が即 WLB の 実 現 に 結 果 す る わ け で は な い 。 制 度 面 の 充 実 に 加 え て 、 雇 用 形 態 を 問 わ ず 職 場 に お い て 「 同 じ 職 場 で 働 く 仲 間 」に柔 軟 な処 遇 をおこなっていこうと する姿 勢 が重 要 である13。とりわけ、企 業 トップのリーダーシップと、管 理 職 の 意 識 改 革 が ポ イ ン ト で あ る14。 効 果 的 な WLB 推 進 のためには、全 社 的 な取

り組 みが求 められる。 

4. WLB の実 現 に向 けて 

  「それぞれの労 働 者 が置 かれた状 況 を 理 解 し あ い 、 お 互 い に 譲 り 合 う 心 を 持 て る よ う な 職 場 の 実 現 」 を 目 指 す も のと考 えれば、WLB を意 識 した様 々な 取 り組 みは歓 迎 すべきことである。 

 現 在 日 本 で進 められている WLB へ の 取 り 組 み は 、 労 働 力 政 策 の 色 彩 が 濃 い。本 来 の WLB は、現 在 の長 時 間 過 密 労 働 問 題 の是 正 について、根 本 的 な働 き方 の再 考 を視 野 に入 れて考 えるべき問 題 である。しかし、現 在 の日 本 の場 合 、各 種 WLB 施 策 の導 入 によ って、働 きづらさの問 題 を根 本 的 に問 い 直 す こ と な く 、 個 人 の 自 由 選 択 ・ 自 己 責 任 で働 き方 を選 択 するという側 面 だ け を 強 調 す る ケ ー ス も 少 な く な い 。 WLB は、ともすれば、育 児 や介 護 を中 心 的 に担 う人 間 (多 くの場 合 女 性 )が、

自 己 選 択 ・自 己 責 任 によって、特 定 の 働 き 方 ( 多 く は 非 正 規 労 働 者 と し て の 働 き方 )を選 択 して仕 事 と生 活 の両 立 を図 らざるを得 なくなるような運 用 に陥 る危 険 性 があることを看 過 してはなるま い。 

 また、現 在 の WLB 施 策 は、企 業 に 貢 献 できる正 社 員 の女 性 を中 心 に展 開 している。こ れを、 非 正 規 労 働 者 や 非 労 働 力 人 口 に拡 張 していくことも課 題 である。育 児 や介 護 といった目 的 に 限 定 されることなく、すべての労 働 者 が 真 の WLB を達 成 できるよう現 状 を根 本 的 に変 える取 り組 みに期 待 したい。 

 

引 用 文 献  

・ 伊 藤 セ ツ ・ 天 野 晴 子 ・ 水 野 谷 武 志 ・ 天 野 寛 子 (2005) 『 生 活 時 間 と 生 活

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産研通信No.75(2009.7.31) 12

福 祉 』  光 生 館 。 

・ 鬼 丸 朋 子 (2009) 「 ワ ー ク ラ イ フ バ ラ ン スの現 状 と課 題 」石 畑 良 太 郎 ・牧 野 富 夫 編 『 よ く わ か る 社 会 政 策 』 180-181 頁 。 

・ 鹿 嶋 敬 (2003) 『 男 女 共 同 参 画 の 時 代 』岩 波 書 店 。 

・ 神 長 唯 (2009) 「 男 女 平 等 政 策 の 歴 史 的 変 遷 」 石 畑 良 太 郎 ・ 牧 野 富 夫 編 『 よ く わ か る 社 会 政 策 』 172-173 頁 。 

・ 熊 沢 誠 (2000) 『 女 性 労 働 と 企 業 社 会 』岩 波 書 店 。 

・ 独 立 行 政 法 人 労 働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 編 (2005) 『 労 働 力 需 給 の 推 計

−  労 働 力 需 給 モデル(2004 年 版 ) による将 来 推 計 −独 立 』JIL  PT 資 料 シリーズ No.6。 

・内 閣 府 編 (2009)『平 成 21 年 版   少 子 化 社 会 白 書 』佐 伯 印 刷 。 

・ 内 閣 府 男 女 共 同 参 画 局 編 (2009)

『平 成 21 年 版   男 女 共 同 参 画 白 書 』佐 伯 印 刷 。 

・ 萩 原 久 美 子 (2009) 「 ジ ェ ン ダ ー 視 覚 か ら の 「 ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス 」 政 策 (2003-2007 年 ) の 検 討 」 女 性 労 働 問 題 研 究 会 編 『 女 性 労 働 研 究 53 号 加 速 す る 雇 用 破 壊 』 60-74 頁 。 

       

  1.WLB に関 する国 際 的 に統 一 された 定 義 ・概 念 が存 在 するわけではない。

英 米 圏 における WLB の定 義 や日 本 に おける WLB の展 開 に関 しては、萩 原

(2009)で手 際 よく整 理 されている。な お、日 本 の WLB の定 義 の詳 細 は http://www8.cao.go.jp/wlb/towa/def inition.html(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 )を 参 照 されたい)。 

2.内 閣 府 は、2008 年 1 月 に「仕 事 と生 活 の調 和 推 進 室 」を立 ち上 げ、各 主 体 の協 働 のネットワークを支 える中 核 的 組 織 として、「『仕 事 と生 活 の調 和

(ワーク・ライフ・バランス)憲 章 』及 び

『仕 事 と生 活 の調 和 推 進 のための行 動 指 針 』に基 づく、仕 事 と生 活 の調 和 の実 現 のために必 要 となる企 画 、立 案 及 び総 合 調 整 に関 する事 務 」を行 うと している。詳 しくは、「仕 事 と生 活 の調 和 推 進 (ワーク・ライフ・バランス)ホーム ページ」(http://www8.cao.go.jp/wlb/ 

2009 年 7 月 1 日 閲 覧 )を参 照 された い。 

3.詳 細 は、鬼 丸 (2009)参 照 のこと。 

4.「仕 事 と生 活 の調 和 」実 現 度 指 標 は、

2009 年 4 月 に改 訂 された。詳 細 は、

http://www8.cao.go.jp/wlb/governm ent/top/index.html#working-group(2 009 年 7 月 1 日 閲 覧 )を参 照 されたい。 

5.内 閣 府 の代 表 的 な取 組 みとして、長 時 間 労 働 抑 制 を呼 びかける「カエル!

ジャパンキャンペーン」や「仕 事 と生 活 の調 和 推 進 プロジェクト」の推 進 等 が、

民 間 団 体 として、次 世 代 ネット

(http://www.jisedai.net/(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 ))や財 団 法 人 21 世 紀 職 業 財 団

(http://www.jiwe.or.jp/index.html(2 009 年 7 月 1 日 閲 覧 ))等 が挙 げられて いる。また、民 間 では、企 業 における WLB 導 入 のサポートをコンサルティン グする株 式 会 社 ワーク・ライフバランス

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産研通信No.75(2009.7.31)

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(http://www.work-life-b.com/(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 ))が設 立 されるといっ た動 きもみられる。 

6.  日 本 では、戦 後 直 後 の GHQ 占 領 課 の民 主 化 政 策 の一 環 として進 めら れた男 女 平 等 原 則 の制 度 化 、1975 年 の国 際 婦 人 年 にはじまり今 日 に至 る 男 女 共 同 参 画 に関 する一 連 の国 内 法 整 備 を中 心 とした政 策 が展 開 されてい る。詳 細 は、神 長 (2009)を参 照 のこと。 

7.近 年 の法 改 正 によって、労 働 者 の WLB が実 現 したり時 短 に繋 がったりし たとは限 らないようだ。この点 に関 する 比 較 的 入 手 が容 易 な文 献 として、熊 沢 (2000)、鹿 嶋 (2003)、伊 藤 他 編 (2005)、内 閣 府 男 女 共 同 参 画 局 編 (2009)が挙 げられる。 

8.例 えば、独 立 行 政 法 人 労 働 政 策 研 究 ・研 修 機 構 編 (2005)をみると、労 働 市 場 への参 加 が進 まない場 合 、労 働 力 人 口 は、2004 年 6,642 万 人 から 2030 年 には 5,597 万 人 へと 1,000 万 人 以 上 減 少 すると推 計 されている。 

9.具 体 的 な施 策 は、例 えば内 閣 府 編 (2009:108-120)を参 照 されたい。 

10.『平 成 19 年 版   労 働 経 済 白 書 』に は、WLB の効 果 として次 の点 が指 摘 さ れている。まず、WLB によって、短 期 的 には長 時 間 労 働 の是 正 や仕 事 の 効 率 化 を通 じた労 働 者 の勤 労 意 欲 ・ 労 働 生 産 性 の向 上 が図 られること。さ らに中 ・長 期 的 には、女 性 の労 働 力 人 口 の上 昇 や少 子 化 対 策 に貢 献 するこ とを通 じて、企 業 に必 要 な人 材 の確 保 が可 能 になること。そのうえ、今 後 の人 口 減 少 社 会 を支 える社 会 的 基 盤 づく りや、消 費 支 出 を通 じた国 内 の経 済 循 環 の円 滑 な展 開 に役 立 つこと。 

11.  「企 業 が仕 事 と生 活 の調 和 に取 り 組 むメリット」(2008 年 4 月 9 日 発 表 ) の詳 細 は、

http://www.gender.go.jp/danjo-kaig i/wlb/index-wlb200409.html(2008 年 6 月 9 日 閲 覧 ))を参 照 されたい。 

12.  今 回 は、

http://www8.cao.go.jp/wlb/company /index.html(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 )、

http://www.jisedai.net/kigyo/index.

html(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 )に掲 載 さ れていた先 進 的 な企 業 の取 組 み例 を 中 心 に仮 説 的 に分 類 を試 みた。 

13.  類 似 の調 査 は枚 挙 に暇 がないが、

例 えば(株 )富 士 通 総 研 「中 小 企 業 の 仕 事 と育 児 に関 する調 査 」(2005 年 )を みると、「従 業 員 が利 用 を躊 躇 してしま うような雰 囲 気 があるため」仕 事 と育 児 の両 立 支 援 制 度 があまり利 用 されてい ないと回 答 した従 業 員 が 58.2%にの ぼっている。 

14. 内 閣 府 が 2008 年 に調 査 した「仕 事 と生 活 の調 和 (ワーク・ライフ・バラン ス ) に 関 す る 意 識 調 査 」 に よ れ ば 、 「 ワ ー ク ・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス が 実 現 さ れ た 社 会 」に近 づくためには、企 業 による取 り 組 みとして、「無 駄 な業 務 ・作 業 をなく す」が必 要 と考 えている割 合 は 88.0%、

「 も っ と も 重 要 」 な 取 り 組 み と し て 最 多 であ ったのは「 社 長 や取 締 役 がリーダ ーシップを発 揮 してワーク・ライフ・バラ ン ス に 取 り 組 む 」 の 27.3 % で あ っ た (http://www8.cao.go.jp/wlb/researc h/pdf/wlb-net-svy.pdf(2009 年 7 月 1 日 閲 覧 ))。 

(5)

産研通信No.75(2009.7.31) 14

参照

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