調 査 報 告
ホッキガイの資源管理型漁業 †
―
釧路支庁,根室支庁の事例
―福島大学経済経営学類
井 上 健
福島大学経済経営学類
阿 部 高 樹
福島大学人間発達文化学類
小 島 彰
関西学院大学経済学部
東 田 啓 作
1.序
本稿は,ホッキガイの漁獲管理および資源管理に関 連して,釧路支庁および根室支庁管内の漁業協同組合 で実施した訪問調査に関する調査報告である。訪問先 は,釧路市漁業協同組合・白糠漁業協同組合(2007年
9
月5
日訪問),野付漁業協同組合・別海漁業協同組合・根室湾中部漁業協同組合(2008年
3
月18日訪問),落石漁業協同組合・浜中漁業協同組合・厚岸漁業協同組 合(2008年
3
月19日訪問)である1。北海道では,東田・井上・小島(2009)で紹介した網走支庁の
4
漁協に続 く調査となる。以降は,それぞれを釧路市漁協,白糠 漁協,野付漁協,別海漁協,根室湾中部漁協(湾中漁 協),落石漁協,浜中漁協,厚岸漁協と表記する。以下,第2節で釧路支庁管内4漁協,第3節で根室 支庁管内
4
漁協についての調査報告を行い,第4
節を 結語とする。<図1> 調査地域周辺図
※図中に示した日付は北海道の調整規則上,ホッキガイの採捕が可能な期間を示している。
釧路支庁
根室支庁
白糠
釧路市 厚岸
浜中
落石 別海 野付
根室湾中部
オホーツク海
太平洋
8/1〜5/31
9/1〜5/31
9/16〜6/15
2.各漁協の特徴〜釧路支庁
2. 1 はじめに
この地区を代表する魚種としては,サンマ,スケ トウダラ,コンブなどが挙げられる。釧路支庁管内 には沿岸漁業に関する漁業協同組合が
7
つある(図2
)。本調査報告の対象である4
漁協について市町 村との対応を確認しておく。白糠漁協,厚岸漁協に ついては町内唯一の漁協となっている。釧路市内に は釧路市漁協以外にも釧路市東部漁協があり,ほっ きがい漁業も営まれている。浜中町内には浜中漁協 以外にも散布漁協があるが,ほっきがい漁業は営ま れていない。この地区のホッキガイの禁漁期は北海 道の調整規則上は6月16日から9月15日までとなっている。図
3
,図4
は釧路支庁全体における近年の ホッキガイに関する漁獲実績を示している。漁獲量 は図中の10年間で大幅に増加している。一方,1998 年には500円を超えていた平均単価が2002年には300 円を切るまでに下がり,それ以降は300円程度を推 移しているため,漁獲金額の増加は漁獲量の増加ほ どにはなっていない。この地区では,厚岸町にある 釧路地区水産技術普及指導所がホッキガイの資源量 の推定を担当している。2. 2 白糠漁協
2. 2. 1 組織の概要
組合員数は120名で,すべて正組合員となって いる2。漁獲金額で見るとサケ,タコ,シシャモ の割合が高い漁協である。ほっきがい漁業に従事
<図2> ホッキガイの漁場(釧路支庁)
厚岸町
厚岸 釧路市
釧路市東部 白糠
白糠町 旧音別町
釧路市
浜中 浜中町
釧路町 海岸線
市町村境界
漁場境界 漁業協同組合
A
B
C
D
E
F
G 昆布森
散布
<図3> ホッキガイの漁獲金額の推移
『平成19年度 釧路の水産』,『北海道水産現勢』
を元に作成,図4も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 1998 100 200 300 400
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図4> ホッキガイの漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
200 400 600 800 1,000 1,200
200 300 400 500 600 漁獲数量 平均単価
する船は全部で13隻あり,うち
3
隻は2
名共同経 営となっている。操業は基本的に1
隻2
名体制で,共同経営以外の10隻については乗組員が
1
人ずつ 乗船している。共同経営の場合の2
人については 収入を均等に分け合う形だが,乗組員については 船ごとの雇用契約により決まる。ほっきがい漁業 に従事する組合員16名は部会を組織しており,ほ とんどが60代であるという。この操業体制(13隻16人)はおよそ20年継続している。
ほっきがい漁業に限らず,組合全体として若い 世代が減る傾向にあるという。それでも,後継ぎ が全くいないわけではない。2006年については新 たに後継ぎとして
4
名の組合員が増加している。ただし,同時に
9
名が組合を辞めているため,全 体としては減少となっている。9名の多くは年齢 による引退である。後継ぎ以外で,新たな組合員 となる形が明示的に禁じられていることはないよ うだが,現実的にはほぼないようだ。2. 2. 2 漁場・漁期
釧海共第6号の部分が白糠漁協のホッキガイの 漁場となっている(図
2
のA
〜B
の部分)。この 範囲については,密度の差はあるとしても,ほぼ どの部分にもホッキガイが生息しているとのこと である。ただし,他の多くの地区と同様に,陸か ら離れた部分では資源密度が低く,操業はかなり 陸よりの部分で行われている。漁期は12月〜6月15日であり,この間は基本的にほっきがい漁業に
専念している。体調不良等により休む船がある日 を除き,基本的には13隻全船が5時頃に一斉に出 港する。荷受が9
時から14時の間と決められてい るため,それまでに帰ってくる必要がある。大体,午前中にはすべて終わるという。輪採制は実施し ていないが,
1
漁期中で6
月に集中的に採捕する 場所を,適宜,定めている。この場所は,毎年,漁期前に部会内での話し合いにより決められ,
5
月までの間は基本的に操業対象とはしない。6
月 の重点操業は,比較的平均単価が高くなることを 期待して実施している。北海道内ではほとんどの 地区で,6
月は休漁期間と設定されているためで ある3。2. 2. 3 操業・漁獲実績
組合で年間総漁獲量を定め,漁期内で達成させ ていく。近年は220t程度に設定されている。
1
隻当たりの年間漁獲量は明示的に定めていない。
漁期が始まると,市場価格や需要動向を見ながら,
日ごとに
1
隻当たりの漁獲目標が設定される。多 いときで300㎏,価格が安いときなどは100㎏程度 まで下げることもある。2
名共同経営の場合も1
日当たりの漁獲目標量は同じである。1
日の漁獲 目標の設定値を越えていた場合,超過分は部会の 収入となる。この収入は,菌の検査,貝毒の検査 などに利用される。単価が低いときには休漁措置 をとる。特に,4
月は多くの地区で漁獲されるた め,他の月と比べて操業日数が極端に少ない。日々 の漁獲量を記録し,年間の総漁獲量に対する達成 度を確認し,最終的に達成した時点でその期の漁 を終了させることになる。ただし,5
月までで達 成させることはしない。6月の重点操業を経て達 成させるようにしている。天候等により,漁が不 可能と判断した場合には,一斉休漁となる。各船 の操業場所は船ごとに自由に決定する。図
5
,図6
に近年のホッキガイの漁獲実績を示 す。漁獲数量は2005年から2007年の3
年続けてそ れまでと比べると高い水準となっている。一方,平均単価が下がっているために,漁獲金額はそれ ほど大きな増加となっていない。
2. 2. 4 資源管理
採捕対象を殻長
8
㎝以上と定めている(道の規 則では7.5㎝以上)。8㎝未満のものは船上で選別 して,その場で放流する。以前には,移殖をして いたこともあったが,大きな効果が確認できな かったため,現在では実施していない。噴流式マ<図5> ホッキガイの漁獲金額の推移
白糠漁協提供資料および北海道水産現勢を元に 作成,図6も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
ンガン導入から20年ほど経つ。導入以前は,毎年,
部会員が費用を負担して稚貝を購入,放流してい た。導入後,資源が安定するようになり,現在で は稚貝の購入は行っていない。導入の正確な経緯 は確認できなかったが,全船一斉導入であったよ うだ。ロープの長さ,網目の大きさ,曳網速度,
曳網回数には明示的な制限は設けていない。
2. 2. 5 選別・出荷
出荷の際には,大(9.5㎝以上)と中(
8
㎝以 上9.5㎝未満)の2
分類に選別しなければならな い。地元を中心とした仲買人が組合併設の市場に 集まり,入札が行われる。9
時に実施されるため,操業中にその日の相場が明らかとなる。この情報 は漁業者に無線で伝えられるため,漁獲行動に一 定程度の影響を与える。例えば,大が高い場合に は大の比率を高める努力をする船が出てくる。こ れは船ごとの判断であり,全体として一貫したも のではない。帰港後,船ごとに大,中,壊れ貝(剥 き身扱い)の
3
分類で漁獲量が記録される。市場 での取引は全てを一括して行うため,単価は全船 について共通である。例えば,大が高い場合に大 の比率を高める努力を行った場合とそうでない場 合とでは収入に差が生じる。ただし,実際のとこ ろ年間収入に顕著な差はないという。2. 2. 6 罰則
資源の管理と価格の安定を損ねる行為に対して は,罰則規定を設けている。この規定は,10年ほ ど前に,組合以外の場所に出荷していた行為が明 らかになった際に部会の内部規定として作成さ れ,実際に罰則が適用された(当日の漁獲物の没 収および10日間の出漁停止)。それ以降,罰則を
適用するような事例は生じていない。もしも,漁 業権の剥奪までの処罰を行う場合には,部会の範 囲を超えているため理事会決議となるが,そのよ うな前例はない。
2. 2. 7 加工品・直売
組合で代表的な魚種について加工品を作ってお り,ホッキガイの加工品も扱っている。開発から 完成品作成までのすべてが組合の事務所内で行わ れている。販売価格を低く抑えるために,組合の 直売所と地元の道の駅での販売としている。原料 となるホッキガイは組合が市場で購入する。
2. 3 釧路市漁協 2. 3. 1 組織の概要
釧路市漁協には,正組合員55名,准組合員
4
名 の計59名が所属している(2006年12月末時点)。後継ぎについては楽観視できる状況にはないよう だが,青年部に相当する世代が10名ほどいる。調 査時点におけるほっきがい漁業の操業隻数は
6
で ある。船主6名の年代は50代後半から,60代中頃 までで年齢層の幅は比較的狭い。乗組員1
名を合 わせた2
人乗りが主な形態であるが,1
人乗りの 船もあるという。家族が乗組員の船もあるが,多 くの船は,昔から乗組員を生業とするものを雇用 している。ほっきがい漁業に関する部会の部会長 は任期が3年で,現在の会長は2期目となってい る。基本的な役割は取りまとめ役である。2. 3. 2 漁場・漁獲実績
図
2
のB
〜Cの部分が釧路市漁協におけるホッ キガイの漁場である(釧海共第5
号)。この漁場 は隣接する釧路市東部漁協との共有海面であるた め,漁獲管理などの実際の操業に関する方針や規 則は基本的に両漁協が共同で定めている。図7
は 釧路市漁協周辺の拡大図となっている。近年の実 質的な漁場は釧路港(西港)の白糠町よりの部分(図
7
の斜線部分)とのことである。また,斜線 部分における生息密度は一様ではなく,他の多く の地区と同様に,陸よりの部分に多く分布してお り,実際の操業箇所は陸から見える範囲となって いる。図8,図9は釧路市内における近年の水揚げの 実績を表している(釧路市漁協と釧路市東部漁協 の合計)。2002年に漁獲量が大きく上昇している
<図6> ホッキガイの漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
50 100 150 200 250
0 100 200 300 400 500 600 漁獲数量 平均単価
一方,平均単価が大きく低下しており,漁獲金額 はわずかな上昇程度となっている。2003年以降,
漁獲数量はほぼ同水準を維持しているが,平均単 価がやや上昇にあり,漁獲金額もやや増加傾向に ある。
2. 3. 3 漁期・漁獲割当
漁期は12月から
3
月までである。漁期に入る直 前に資源量調査が行われる。当日は釧路市漁協,釧路市東部漁協からほぼ全船が参加し,割当箇所 の調査を担当する。この調査の結果から,釧路地 区水産技術普及指導所により,漁場内の総資源量 が推定される。[推定された総資源量の3.5%]
÷
[両漁協を合わせた許可上の隻数(釧路市漁協
8
+釧路市東部漁協6)]が,各船の年間の漁獲量
の上限となる。漁期中であってもこの上限に達し た場合には,その期の漁は終了となる。正確な時 期は不明だが(おそらく1990年前後),この海域 ではかつてホッキガイ資源が枯渇している。この ような経験もあり,漁獲量許容量をかなり厳しく 設定している。
2. 3. 4 操業・出荷
出港時刻は朝5時前後で,具体的な操業場所に ついては各船の判断になるが,比較的近い範囲内 での操業となる。帰港後,漁獲したホッキガイを 漁協の蓄養施設に入れて砂出しを行う。翌日,市 場から来た注文量を頭割りした量だけ剝き身に し,滅菌した海水とともに袋詰めする。袋には船 の名前・加工日・消費期限が印字されている。こ
<図7> ホッキガイの漁場(釧海共第5号)
釧路港(西港) 釧路港(東港)
釧路市漁協
釧路市東部漁協
<図8> ホッキガイの漁獲金額の推移
マリンネット北海道および北海道水産現勢を元に 作成,図9も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80 100
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図9> ホッキガイの漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
100 200 300 400
0 100 200 300 400 漁獲数量 平均単価
の作業は,家族などの手も借りながら,漁業者自 身が行う。袋詰めをした後は,船ごとに市場まで 運ぶ。日々の漁獲量は市場からの注文に応じられ るように調整される。注文には大・中・小の
3
分 類で対応する必要がある。もしも,注文量に応じ られなかった船があった場合には,他の漁業者が 不足分を補うことになる。そのような場合,後 日,借りた分を返す形で多く出荷する。袋に入れ る海水については定期的に菌数の検査を実施して いる。全てを剥き身出荷にしたのは2006年からで,数 年かけて徐々に剝き身の割合を高くしていったと いう。剝き身にするには手間がかかるが,その分 単価が上がる。また,単価の相場変動が殻付きほ ど大きくはなく,下がりづらい傾向があるという。
剝き身出荷への移行に際しては,釧路市漁協,釧 路市東部漁協のそれぞれのほっきがい漁業の部会 による話し合いが行われている。
操業の有無に関する意思決定は相互の話し合い で行われる。実際に漁場に行った後に,操業が無 理だと判断した場合には,無線で連絡を取り合い 戻ってくることもあるという。時化などが続いて,
月曜日の出荷に応じ切れない場合を除き,日曜日 は休漁としている。月平均の操業日数は15日から
20日程度となっている。
2. 3. 5 資源管理・漁具・罰則
8
㎝以上を漁獲対象として定めているが,実際 には8.5㎝以上のものを漁獲することが多い。船 上で選別を行い,漁獲対象外のものについてはそ の場で放流する。一方,移植放流も実施してい る。釧路港(西港)の造成のために消滅した漁場 がある。ホッキガイが生息している場所であるた め,操業している漁場への移殖作業を現在行って いる。12月と3
月に2
回ずつの計4
回実施してい るが,放流場所と放流数量は日誌に記録される。記録した内容は普及指導所に送られ資源管理の基 礎データとして活用される。また,漁期終了後 に,他の地区から購入した稚貝の移植も実施して いる。稚貝は,2006年までは根室から,2007年に ついては試験的に白糠から購入している。
噴流式マンガンの導入は,おそらく1977,1978 年頃であるとのことで,北海道の日本海側の地区 への視察を行った後に導入を決めたようだ。多く の船は
5t
から10tの範囲のもので,他の地区よりも少し大きめのものが使われている。これらの 船はほっきがい漁業専用船となっている。
横流しや過剰な賄いについては罰則規定が設け られており,操業停止処分等も含まれる。人数が 少ないため,基本的には相互監視体制であり,あ からさまな違反行為は生じにくいと言えるかもし れない。
2. 4 厚岸漁協
2. 4. 1 組織の概要
厚岸町はカキの産地として知られているが,そ の他の主要魚種としては,サンマ,コンブ,アサ リなどが挙げられる。近年における厚岸町全体の 水揚金額に占めるホッキガイの水揚金額の割合は
1%弱となっている。2008年1月末時点で,正組
合員538名,准組合員40名を有する。2005年時点 では正組合員が559名であり,3
年間の間に20名 程度減少している。現在,厚岸町内で漁業が営ま れている地区(集落)は9
つ(苫多・門静・真竜・筑紫恋・床潭・奔渡・若竹・湾月・小島)あるが,
漁業者の人数の今後の動向については地区により 差異がある。漁業者の高齢化が進み,新しい漁業 者の加入もほとんど見られない地区もあれば,順 調に新規加入があり平均年齢がそれほど高くない 地区もあるという。
ほっきがい漁業に関する部会として,『ほっき がい漁業班』があり,2007年については80名が所 属している。役員である班長(
1
名),副班長(4
名)が意思決定や合意形成に関して中心的な役割 を果たす。表
1
は2007年時点におけるほっきがい漁業の操 業体制である。中心は1
隻3
名体制であり(22件),それ以外に
1
隻2
名体制が4
件,1
隻4
名体制と1
隻1
名体制がそれぞれ1
件ある4。ここで,1
<表1> ホッキガイの漁業の操業体制(地区別)
地 区 人 数 隻 数
苫 多
15 5
門 静
11 4
真 竜
24 9
筑 紫 恋
14 5
床 潭
16 5
計
80 28
隻に乗り合わせる漁業者同士は,船主と乗組員と いう関係ではないことを確認しておきたい。それ ぞれ船を所有しているが,おもには経費の節約の 理由から,交互に船を出し合っているのだ。なお,
厚岸漁協でほっきがい漁業に利用されている船の 多くは船外機船であるが,これらの船はほっきが い漁業以外にも利用されている(昆布漁など)。
2.4.2 漁場・漁期・漁具・漁獲実績
漁業権上設定されているホッキガイの漁場は図
2のD〜Eの部分であるが,実質的な漁場は5つ
の地区(苫多・門静・真竜・筑紫恋・床潭)の前 浜に相当する部分で,陸から1
km程度の範囲内 にあると考えてよい。したがって,それぞれの前 浜の漁場で操業する限り,陸から漁場までは数分 で到着可能である。出港場所は地区ごとに異なり,苫多は厚岸港(図10の
b
),門静・真竜・筑紫恋 は各前浜の船揚場,床潭は床潭港(図10のc
)か ら,それぞれ出港する。ほっきがい漁業を営む漁業者の
1
年は,まず,小定置漁業や刺網漁業から始まり,その後,昆布 漁に移行し,10月から12月の間のほっきがい漁業 で終了する。操業時間は,10月〜11月については 朝6時30分から12時30分,12月については朝7時
30分から12時30分と定められている。日々の操業
の有無の判断は操業可否旗揚委員(役員が担当)<図 10 > 厚岸漁協周辺図
厚岸湖
床潭地区 筑紫恋地区 真竜地区
門静地区
苫多地区 a
2.5km
b 厚岸漁協
c 厚岸湾
<図11> ホッキガイの漁獲金額の推移
厚岸漁協提供資料および北海道水産現勢を元に 作成,図12も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図 12 > ホッキガイの漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
50 100 150 200
0 100 200 300 400 500 漁獲数量 平均単価
が行い,全船が従う。したがって,操業時間,操 業日数ともに,すべての船についてほぼ同じにな る。操業する漁場の決定も役員に一任されている が,現状としては,個々の船による漁場選択の自 由度は高いようだ。
ほっきがい漁業の際には,船外機船に噴流式マ ンガンを載せて操業する。厚岸漁協では,1997年 から噴流式マンガンの試験導入を行い,1999年に 一斉導入している。当時,資源が減少傾向にあっ たことに加え,先行して導入していた昆布森漁協 における成功例(資源・漁場の改善)が導入への 誘因として働いたようだ。購入は漁協が必要台数 を一括する形で行っており,その費用は漁業者か らの徴収金,漁協負担分,町からの補助金により 賄われている。導入に際しては,必ずしも積極的 に賛成する漁業者ばかりではなかったようだが,
資源の持続的利用の観点から合意が形成されたと のことである。
図11,図12に近年の厚岸漁協におけるホッキガ イの漁獲実績を示す。数量・金額ともに大きな変 化は見られないが,2006年以降の平均単価がそれ までの300円台から400円台に上昇しており,それ にともない金額も増加している。
2. 4. 3 資源管理・漁獲量管理・価格調整
殻長制限値は8.5㎝以上と定められている。た だし,筑紫恋,床潭の漁場については9.0㎝以上 と0.5㎝大きいサイズとしている。厚岸湾内の漁 場と比べ,外海に面している筑紫恋,床潭の漁場 には大きいサイズのホッキガイが生息しているた めである。操業中に船上で専用のスケールを用い て殻長制限未満のものは選別され,操業海域で放 流される。漁場の一部は稚貝育成のために禁漁区 に設定されており,一定程度まで成長した後に,操業する漁場に移殖している。
漁獲量の制限の仕方は,年間漁獲量については 個別の割り当てはせず全体の総量のみの制限,
1
日の漁獲量について個別の上限を設定する方法を 採用している。漁期前(7
月頃)に資源量調査を 実施し,推定された総資源量の7%
〜10%の範囲 内で年間の漁獲許容量が決定される。この漁獲許 容量は漁場単位(苫多・門静・真竜・筑紫恋・床潭)で設定され,各漁場における漁期中の漁獲量が上 限に達した時点で,その漁場での操業は終了とな る。出港場所は地区単位であるが,操業場所につ
いては,地区単位の制限があるわけではない。例 えば,筑紫恋や真竜の漁業者が床潭の漁場で操業 することもある。日々の操業では,毎日,
1
人当 たりの漁獲量の上限が設定されている。例えば1
人30㎏が上限であるとすれば,3
人1
隻の船では90㎏まで採捕可能ということになる。この 1
日1
人当たりの上限の水準は市場価格等を勘案し,役 員(班長・副班長)を中心に決定し,全船これに 従うことになる。ただし,所得均衡の観点からこ の原則に一定程度の例外措置が講じられることも ある。この点については,後ほど改めて説明する。
ホッキガイの採捕中に混獲されるエゾバカガイ については,殻長6.5㎝以上,
1
日1
人につき6
㎏以内と定められている。
2. 4. 4 配分方法・所得政策
漁獲金額は基本的に船ごとの個別精算となっ ている。ホッキガイは当日出荷と定められてお り,各漁業者は陸揚げされたホッキガイを漁協の 市場(図10の
a
)まで運ぶ。市場に出荷する際に は,操業区域と同乗者を報告することになってい る。また,操業日誌の作成が義務付けられてお り,操業区域,漁獲量,曳網回数,制限値未満の ホッキガイの放流場所などの情報が漁協に集約さ れる。同一の船の中での配分方法に決まりはない がほぼ均等に分けているようである。稚貝の移殖 作業,漁場耕運の際にはプール精算が採用されて いる。これらの作業は全員参加を原則としており,作業欠席者には一定額の負担金の支払い義務が生 じる。
厚岸湾内の漁場と外洋に面した漁場とで資源の 質に違いがあることは,すでに述べたとおりであ る。資源密度に違いがあるため,同じ量を採捕す る場合でも湾内の漁場の方が多く網を入れなけれ ばならないといったことも生じる。ただし,操業 時間が
6
時間あるため,設定されている1
日の上 限(30㎏前後/1
人)を達成するのは,現状とし てはそれほど難しくはない。日々の操業の有無に ついても全船同一であるため,船による(人によ る)漁期中の漁獲量の差はそれほど大きくはなら ない。それでも,個別精算の際の単価が漁業者ご とに異なるため,所得の差は生じ得る。実際,外 海に面している筑紫恋,床潭の漁場では他の漁場 よりも大きいホッキガイの採捕が可能となるた め,漁獲量は同じでも結果的な所得に差が生じる。このような要因で生じる所得の差を一定程度 埋めるために,一律に設定されている
1
日1
人当 たりの漁獲量の上限を部分的に変更することがあ る。漁期に入りある程度の操業日が経過した後に,その間の累積所得が低い漁業者に対しては,
1
日 の上限を他の漁業者よりも少し多めに設定すると いった形の調整が行われる。2. 4. 5 操業秩序・罰則規定
規則違反に対する罰則は,他の魚種も含めた一 般的罰則適用基準である「各種漁業違反処分基準」
に基づいて行われる。例えば,殻長制限値未満の ホッキガイを採捕した場合には,
7
日以内の操業 停止および当日の精算額の15倍以内の過怠金の支 払が処分内容となっている。いわゆる横流しにつ いては,明示的な罰則規定はないようだが,これ までにホッキガイについて横流しが問題になった ことはない。2. 4. 6 加工品・直売
漁協の市場に近接する位置に漁協直売店があ る。この直売店は漁協市場で仲買人として登録さ れており,競りで購入したものを店舗販売すると ともに,インターネット販売も行っている。
2. 5 浜中漁協
2. 5. 1 ほっきがい漁業に関する沿革
この地域では,1920年にはすでにほっきがい漁 業が始まっており,資源量調査も1960年代から実 施されている。1977年までは,
4
つの海区(図13 参照)分けによる,輪採制を採用していたが,4
区の資源状態が悪化したため,同制度の維持が困 難となった。翌年から,4
区を漁場から除き,1
区から3区のそれぞれに特定の船を張り付ける形 での操業が10年ほど続いた。各区に割り当てられ た船団の操業方法は独立に決められていたよう で,1区と3区ではプール制が採用されていたの に対して,2
区では個人割当が行われていた。こ の期間を経て,特に問題として浮かび上がったの が,2区における資源状態の悪さであった。そこ で,1989年から3
年間,2
区を禁漁にするととも に,水産試験場や普及指導所の協力を得ながら,資源状況に関する調査を実施している。調査結果 を受け,
2
区における資源補充状況を改善すべく,購入した稚貝の放流,
1
区からの移殖を行った。この間,これらの取り組み以外に,噴流式マンガ ンの導入,殻長制限値の引き上げ,プール制の導 入,
1
隻3
名体制原則の導入が行われた。噴流式 マンガンの導入は操業の際の稚貝の破損を減らす<図 13 > 浜中漁協周辺図
(図2のF〜Gの範囲を拡大したもの)a 琵琶瀬湾
浜中湾
浜中漁協
2.5km 2区
3区
4区
1区
ことを目的としている。殻長制限値を引き上げる ことは,資源補充を増加させると期待される。プー ル制は,全船による資源管理体制を履行する上で 最良の方法という判断で選択されたようだ。その 後の期間における資源量調査の結果を見る限り,
成果はあったと言って良いだろう。1995年の卓越 発生の影響もあり,近年における
2
区の資源量は,禁漁を実施していた当時の10倍以上の水準となっ ている。この卓越発生は2区以外の資源状態にも 良い影響を与えており,海域全体の資源量水準も 以前と比べて非常に高い水準になっていると判断 できる。
2. 5. 2 組織の概要
浜中漁協の組合員数は2007年時点で416名(内 准組合員
1
名)である。第11次センサス(2003年)の「営んだ漁業種類別経営体数」の項目を見ると,
浜中漁協に所属する全422経営体中398経営体が
「採藻」を営んでいる。これは,同漁協においては,
ほとんどの漁業者が昆布漁業に携わっているとい う事実を反映したものである。総漁獲金額に占め る割合を見ると,コンブが30%程度,ホッキガイ が
3%
程度となっている(2007年)。割合として はコンブほどではないが,ホッキガイも浜中漁協 における主要魚種の1
つと言えるだろう。それ以 外のおもな魚種としては,サンマ,秋サケなどが 挙げられる。ほっきがい漁業に携わる漁業者の組織として
『ほっき漁業部会』があり,90名5が所属してい る(2008年3月時点)。漁協の承認方針上,「3漁 家
1
隻の共同経営」と定められているため,30隻90名体制となる。この30隻体制になるまでの推移
について簡単に確認しておく。1989年には37隻で あったが,その後,資源状態を鑑み,退職者を不 補充としたことから,隻数は次第に減っていった。補充を解禁したのは2000年代に入ってからであっ たが,この頃の隻数は28隻であった。新規の承認 は依然として行わなかったため,2007年までは28 隻で推移した。資源状態の改善がほぼ確実である と判断したため,2008年におよそ20年ぶりに新規 承認を行い,
2
隻増加し30隻体制となった。共同経営の
3
漁家については,通常,長期間同 じ組み合わせであり,辞めた漁家がいた場合には,その分の補充を行うことが原則となっている。共 同経営内の船の所有形態の方法は,共同で所有す
る場合,
1
人が所有して2
人が船代を支払う場合 など一様ではないが,全体として3
人共同所有に 移行する傾向にある。この場合,それに伴う漁船 保険料や経費の部分も3
人で持つことになる。2. 5. 3 漁期
漁協が定める禁漁期は
5
月14日から9
月15日ま でだが,近年の実際の漁期は3
月上旬6から5
月 の上旬までである。通常の休みは日曜日のみだが,市場価格が低くなった場合には,役員会(ほっき 漁業部会の部会長,班長,副班長を含む17名で構 成)での話し合いによって一斉休業とする場合が ある。2007年については漁期中の操業日数は34日 程度であった。
2. 5. 4 殻長制限・漁獲管理・漁獲実績
1990年頃に実施した殻長制限値の変更以降,
9
㎝以上を「中」,10㎝以上を「大」とし,「中」以 上のみを採捕している。推定資源量をもとに各海 区の年間漁獲許容量を決定し,部会全体として各 海区の許容量の範囲内で操業している。推定資源 量に対する年間漁獲許容量の割合は近年では
4%
を超えない程度である。殻長
9
㎝以上という原則 に対して,2003年からは,「消費拡大対策事業」として8.5〜
9
㎝のものを解禁している。これは,やや小さめのホッキガイに対する需要7に応じる ための方策であり,9㎝以上のものとは別枠で漁 獲許容量が設定されている(推定資源量の1.5%
程度)。なお,
1
隻当たり(1
人当たり)の割当 は行っておらず,各海区における漁期中の総漁獲 量が許容量に到達した場合に,その海区での操業 は終了となる。プール制を前提とした集団操業体<図 14 > ホッキガイの漁獲金額の推移
浜中漁協提供資料を元に作成,図15も同様年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
制であるため,獲得競争になることはない。
図14,図15に浜中漁協における近年のホッキガ イの漁獲実績を示した。2000年以降は推定資源量 に対する漁獲許容量の比率はほぼ同水準に設定さ れていたが,資源量が増加していたため,漁獲許 容量も増加している。実際の漁獲数量の増加は,
これに対応したものである。一方,平均単価が一 定程度下がっているため,漁獲金額の上昇の程度 は漁獲数量ほどではない。
2. 5. 5 集団操業
朝7時に全船が一斉に出港し,その日に決めた 海区に向かう。30隻が
6
班に分かれ,5
隻ずつ6
班で出ることになる。海区内の具体的な操業場所 については各船の裁量となる。年間の漁獲許容 量の他に1
日の漁獲量の上限も定められており,2008年の場合には 6t
となっている。ただし,実際にはこの値を超えることが多く,目安と考えた 方が良いのかもしれない。プール制のもとでは各 船が漁獲量を増やす誘因が強くならない傾向にあ るため,最低でもこの程度の結果は出そうという 目標値と解釈することもできる。
操業開始後,一定時間が経過すると(
1
,2
回 の曳網後),班長が班内の漁獲状況を確認し,部 会長に報告する。部会長(指揮船の船長)は全体 の漁獲状況を集約した上で,残り時間の曳網回数 の調整をすることで1
日の漁獲量を目標値に近づ ける。帰港時刻は操業海区によって多少の差があ るが,3
区で操業した場合で11時を回る程度,1
区や2
区ならばもう少し早くなる。2. 5. 6 市場出荷・プール制
帰港後,漁獲されたホッキガイを,班ごとにト
ラックで市場(図13の
a
)まで運ぶ。大(10㎝〜),中(
9
㎝〜10㎝),対策(8.5㎝〜9
㎝)に選別し,班単位で入札にかけられる。大は中の1.5倍程度 の価格がつくことが多いという。プール配分なの で,すべての班についての漁獲金額の合計を頭割 りすることになる。
1
日1
隻当たりという形でのノルマを設定して はいないので,漁獲量に大きな差があっても収入 が同じという結果は当然起こり得る。もしも漁獲 量の差が,漁獲努力の差に起因する場合には,漁 業者同士の不和の要因となり得るが,現状として は,それほど大きな問題とはなっていない。2. 5. 7 移殖・操業日誌
漁獲対象外も含めると4段階の選別を行うこと になるが,この作業は船上で専用のノギスを用い て行う。対象外のものはその場で放流するのが原 則である。ただし,全船で一斉に移殖作業を行う 場合には,漁場を移動しての放流となる。移殖は おもに陸(おか)から沖へという形で実施される。
まず,陸の漁場で数回網を曳いて,その後,一斉 に沖寄りの漁場に移動して放流する。
日々の操業において各船は丹念な操業日誌を記 録している。海区別に曳網回数,水深,漁獲サイ ズごとの漁獲量などを記録していく。さらに,稚 貝やヒトデなどの外敵生物の漁獲量についても記 録される。
2. 5. 8 鎌堀
1区と2区では,干潮時に鎌でホッキガイを採 捕することが出来る(船による操業海域よりも陸 よりの部分)。この「鎌堀」については,船を用 いた「貝桁網漁業」とは別に行使承認しており,
80名程度の漁業者が承認を得ている。貝桁網漁業
との兼業者はいない。第1
種共同漁業権上の行使 限度数はもっと多いが,漁獲量管理の目的で承認 数を制限している。承認する漁業者の選定に当た り,1
つの判断材料となるのが,「昆布漁業にお ける実績」であるという。昆布の出荷量に応じて 点数をつけ,この点数が高いものを優先的に承認 していく。漁期は,貝桁網による操業が終わった
5
月中旬 以降で,1日4時間×10日という制限が設けられ ている。漁獲許容量を定めておらず,操業時間数 と人数による管理を行っている。採捕する日時お<図 15 > ホッキガイ漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
50 100 150 200 250
0 100 200 300 400 500 漁獲数量 平均単価
よび海区は全員共通であり,基本的には貝桁と同 様の8.5㎝以上のものを採捕する。北海道の規則 上の下限である7.5㎝以上のものについては,移 植放流用に漁協が買い取ることがある。個人ごと に市場に出荷し,収入も個人ごととなる。鎌堀の 漁獲量についての正確な記録はないが,全部で40
t
程度にはなるようだ。3.各漁協の特徴〜根室支庁
3. 1 はじめに
図16は根室支庁の主要魚種についての漁獲金額を 表している。サケ,ホタテガイ,サンマ,コンブ,
タラの上位
5
つの魚種で全体の80%弱を占めている ことが分かる。この地区では6月1日からホッキガ イの禁漁期となる。漁の解禁は,根室市東端の納沙 布岬より北側すなわちオホーツク沿岸地域では8
月1日から,同岬の南側すなわち太平洋沿岸地域では 9
月1
日からとなっている。図17,図18は根室支庁全体における近年のホッキ ガイに関する漁獲実績を示している。漁獲数量はほ ぼ同じ水準を推移しているものの,平均単価は減少 傾向にあり,漁獲金額もやや減少傾向が観測できる。
平均単価の減少傾向は変化の大きさとしては釧路支 庁ほどではないものの,傾向は非常に似ている。地 理的に近いことから市場を少なくとも一定程度は共 有していると考えられる。
3. 2 野付漁協
別海町には野付漁協と別海漁協の2つの漁協があ り,いずれもホッキガイの漁獲量は全国的にも大き い。まずは,野付漁協の状況について紹介する。
3. 2. 1 組織の概要
野付漁協は,正組合員261名と14名の准組合員 から成る(2007年末)。後継者の心配は特にない という。ほたてがい漁業や秋鮭の定置漁業で水揚 げ高の
9
割に達し,ホッキガイは全漁獲金額の1%
程度である。漁協下部組織としての「ほっき部会」には組合 員41名が所属し,20隻での漁となっている。
8
名 の部会役員は,部会長,副部会長,総船団長,会計,監事2,船団長2となっている。年5〜6回の役 員会のほか,春・秋に操業指導会議も開催される。
船は
2
名の共同所有であり(「2
共」),1
隻あ<図 16 > 根室支庁主要魚種別漁獲金額
(2007年,単位10億円)
<図 17 > ホッキガイの漁獲金額の推移
『北海道水産現勢』を元に作成,図18も同様 サケ21.8
40%
ホタテガイ 12%6.4 サンマ4.6
9%
コンブ4.5 8%
その他13.0 24%
タラ3.9 7%
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 1998 100 200 300 400 500
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図18> ホッキガイの漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
200 400 600 800 1,000 1,200
200 300 400 500 600 漁獲数量 平均単価
たりその
2
名による共同操業体制となっている。船長と乗組員という役割分担があるが,持分
2
分 の1による対等な関係であり,1隻あたりの利益 配分も均等である。この2
名共同所有・共同操業 体制は,長らく続いてきたものであって,2
名の関係は,兄弟や親戚関係にある場合のほか,戦後 引揚者において同郷同士であったことから始まっ たものもある。
ところで,
1
隻において3
名体制になっている(「
3
共」)。平成11年頃にほっきがい漁が芳しくな い時期があり,一部,ほたてがい漁への移動によっ て調整したときに,1
隻だけ3
名体制にする必要 があった。この船については,3
人分の所得が確 保される。このように,現在の体制は組合全体の 所得均衡策が反映された結果であり,この特徴的 な制度については,後述する。3. 2. 2 漁期・漁場・漁具・漁獲量
漁期は,2月15日から5月31日,12月1日から
12月31日となっており,北海道の調整規則よりも
厳しく設定されている。当初は3
月から5
月までの3カ月間であったが,価格の点から,12月にも 操業することになり,また,2008年からは,
2
月15日の開始となった。これは,組合・部会での協
議の結果であり,最終的には前年12月の総会で決 定された。日曜日が休漁であり,実際には,天候 により,ひと月当たり16〜18日程度の出漁になる という。ホッキガイの漁場は,野付地先海域であり,巽・
野付地区(図20の①),春別・床丹地区(図20の②)
の
2
つの漁場がある。2
つの漁場に対応した2
班 体制であり,朝の5
時半〜6
時に船団を組んで出 漁する。漁自体は5
時間程度で,セリに合わせ午 後1
時〜2
時頃に戻ってくる。荷揚げ時に港が船 で一杯になった場合,一部は少し離れた場所に着 岸して車で市場に運ぶこともある。漁具は噴射式(噴流式)マンガンで,網の目の
<図 19 > ホッキガイの漁場(根室支庁)
野付
別海町
海岸線 市町村境界
漁場境界 漁業協同組合
別海
落石
根室
根室市 オホーツク海
太平洋
納沙布岬
A
B
C D
E
F
風連湖 根室湾中部 a
b
c
歯舞
大きさは部会で決定している。船は貝桁網漁専用 である。
毎年資源量調査を行い,その15%〜20%をその 年の総漁獲許容量とし,これを参考に漁獲目標を 設定する。2008年度(平成20年度)では,一人当 たり年間4.5トンと設定されている。一隻あたり
9トンということである(3共の場合は13.5ト
ン)。漁獲実績は,図21,図22の通りである。資源管 理を反映して漁獲量はほぼ一定であるが,近年の 平均単価の下落によって,漁獲金額はやや減少傾 向にある。
3. 2. 3 共同漁業権行使方法
野付漁協の漁業権行使方法,特に,各種漁業の 着業資格ルールは特徴的である。野付漁協では,
ほとんどの組合員が従事する秋鮭の定置漁業・ほ たてがい漁業で,組合の水揚げ高の
9
割に達する が,これら基幹漁業の所得を5
年に亘って把握し,それが相対的に少ない組合員に対しては,所得の 均衡化を図るため,他の漁業においてより多くの 所得獲得機会が付与される。このルールは,多種 漁業の同時操業を,所得水準に応じて制限する効 果をもっており,過当競争排除,資源管理にもつ ながるものである。この考え方により,ほっきが
い漁業の着業においても,所得制限が設けられて いる。さらには,着業形態の固定化も重要な目標 とされ,これら諸目標のバランスを,組合員の「譲 りと協調」「報徳の精神」8のもとに達成すること が目指されている。
3. 2. 4 全船プール制に基づく操業体制
全船プール制が採用され,ホッキガイの総水揚 げは,すべての従事者で平等に配分される。これ は,およそ10〜13年前に導入された(それ以前は,
1
隻あたりの数量規制)。プール制の導入により,日々の市況に応じて全船総漁獲量を調整すること ができる。例えば,単価が安いときには,一部の 船が移植作業やヒトデ駆除に回る一方,ホッキガ イの売上は全船で均等に分配するといったことが 可能になる。
一日当たり総漁獲の目標達成は全船の連帯責任 である。したがって,
1
隻あたりの目標が例えば<図 20 > 野付漁協周辺図
(図19のA〜Bの範囲を中心に拡大したもの)
野付漁協
①
② 野付湾
<図 21 > ホッキガイの漁獲金額の推移
野付漁協提供資料を元に作成,図22も同様年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80 100
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図 22> ホッキガイ漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
50 100 150 200 250
0 100 200 300 400 500 漁獲数量 平均単価
400㎏であるとき,ある船がそれを達成できなけ
れば,他の船がそれを被ることになる。漁場では 無線で連絡を取り合い,目標達成に向けて互いに 激励しあっており,プール制といっても漁獲努力 を怠る誘因はないという。なお,なんらかの理由で漁に出られなかった場 合には,その理由に応じて,負担金を拠出するよ うなルールも併せて設けられている。
また,船ごとに,マンガンを曳いた場所や回 数,漁獲状況が組合に報告される。これは,資源 状況を把握するための重要な参考データとなって いる。
3. 2. 5 体長規制と移植・放流
巽・野付地区は殻長9.5㎝以上,春別・床丹地 区は,
9
㎝以上という体長制限を設けている。地 区による違いは,生育条件の良し悪しを反映させ たものである。なお,制限未満のものはその場で 海に戻したり,別の場所に放流したりする。平成17年から平成18年に推定資源量が大幅に増 加した。移植・放流事業の効果とも考えられる。
近年まで北海道の保護水面であったところは,そ のまま禁漁区としている。一方,明示的な輪採制 はとらず,むしろ,耕運をしながらその場所に小 さな貝を放流する形が選択されている。
3. 2. 6 手堀り・鍬掘り
野付漁協では,ほっきがいの手堀り・鍬掘りも 行われている。組合全体で年間
4
から5t
であり,上述の漁獲量に含まれている。着業者は,上述の ほっきがい桁網漁を行っていない組合員であり,
組合で定められた人たちである。年間一戸あたり
500㎏の漁獲制限で,漁の日も指定される。殻長8.5
㎝と,貝桁漁の場合よりもやや小さめのものの採 捕も認められる。胴付長靴を着用して作業する。
潮が引く時間帯には,漁場監視員が見張りをして,
密漁対策にあたっているとのことである。
3. 3 別海漁協
3. 3. 1 組織の概要
正組合員96名,准組合員
1
名の計97名が所属し ている(2008年3
月時点)。准組合員は一定の年 数と条件を満たすことで,正組合員となることが できる。過去数年内では,組合員数に大きな変動 はない。ほっきがい漁業については,部会長1
名,副部会長
2
名を含む50名からなる部会がある。船 を2
名ないし3
名で共同所有する形態で操業して おり,23隻体制となっている。共同操業の組み合 わせは基本的に固定されており,何か特別な事態 が生じない限り変わることはない。ほっきがい漁 業では40,50代の比較的若い世代が多く,今のと ころ,漁業者の継続性についての問題はない。3. 3. 2
漁場・漁獲許容量・漁獲実績図17の
B
〜Cの範囲がホッキガイの漁業権上の 漁場であり,実際の操業範囲もこの範囲のほぼ全 域に及んでいる。漁獲許容量の設定において,漁 場は4
つに分類されている。おもに黒ボッキが生 息する漁場,茶ボッキが生息する漁場,造成区,未利用区である。造成区は沖寄りの部分に新たに 造成された漁場で,元々は他の漁場から小さめの 貝を放流し,成長後のホッキガイを採捕してい た。現在では,利用の仕方が多様になってきてお り,以前よりも大きめの貝を放流することもある。
未利用区は漁場としての利用頻度が低かった部分 で,利用を推進している場所である。
資源調査の結果を参考にしながら,漁協全体の 漁獲許容量を定める。これは,上記
4
区分ごとに 設定され,その値をもとに1人当たりの年間漁獲 許容量が定まる。基本的には均等割りと考えてよ いが,新規着業者については最初の5
年間は他の 漁業者の80%となる。近年の資源調査からは資源 量は増えているという結果が得られているが,漁 獲許容量の設定値は変更せずに推移している。許容量が個人別に設定されている場合,一般的 には許容量の残量を確認しながら,各人が漁期中 の日々の漁獲量を決定していくことになる。とこ ろが,別海漁協では,黒ボッキ漁場で操業した場 合を除き,プール配分が採用されており,実際に は一般にいう個人割り当てに分類されるものでは ない。日々の操業では,
1
人当たりの漁獲目標量 が決められ,残量を計算する際には,すべて同じ だけの量が減らされることになる。もちろん,実 際の漁獲量については多少の差が生じるため,少 なかった場合には翌日多少多めに獲るといった形 で調整が行われる。実際の漁獲量が少なすぎた場 合の罰則等はなく,そのような場合でも,同じだ けの配分を受ける仕組みになっている。したがっ て,漁獲努力を怠るものも出てくる可能性もある が,実際のところそのような事態にはなっていないという。そこで,プール制を採用してはいるも のの,現状としては最終的な実際の漁獲量がすべ ての漁業者でほぼ同じ水準となっている。黒ボッ キを採捕する場合には,個人配分であるため,漁 獲努力の仕方に違いがあり,単価の高い大きめの ものを選んで漁獲する傾向がある。この部分につ いては船による収入差の源泉となり得るが,実際 のところは大きな差にはなっていないようであ る。黒ボッキについてもプール制にするという案 もあるようだが,調査時点においては実現してい ない。
図23,図24は近年の別海漁協についてのホッキ ガイの漁獲実績である。平均単価については減少 傾向にあると言えるだろう。そのため,漁獲量の 増加の程度に比べると,漁獲金額の増加の程度は 緩くなっている。
3. 3. 3 操業・漁期
出港は原則として全船一斉となる。出港時間は 日の出の時間によって前後するが,朝
6
時半〜7
時頃で,競りが始まる10時半頃までには戻ってく る。出漁の有無に関する意思決定は全船共通とな る。23隻は2
つの船団に分かれて操業する。日々 の操業場所は,黒ボッキ漁場,茶ボッキ漁場,造 成区,未利用区の中から適宜選択し,船団ごとに 選択した漁場に移動する。例えば,黒ボッキ漁場 での操業と決めた日には,黒ボッキの漁場に移動 し,具体的な操業場所については船ごとの自由度 はあるものの,お互いに見える範囲で操業する。1
つの船団が造成区,もう1
つが未利用区に行く という場合もある。以前は3月から5月いっぱいまでを漁期として いたが,
2
,3
年前から11月または12月から年内 いっぱいの操業も行うようになった。市場価格が 低い場合には全船で休漁することもある。そのよ うな場合も含め,春の漁期のみで漁獲許容量まで 届かないことが多くなったため,残量について秋 以降に採捕することになったようだ。春の漁期,秋以降の漁期それぞれの具体的な開始時期につい ては,直前の時期に役員
8
名が参加するホッキ部 会役員会,部会員全員が参加する着業者協議会を 通じて決定される。日曜日のみが定期的な休漁日 であり,秋以降の漁期も合わせると大体70日程度 の出漁となる。3. 3. 4 資源管理
全船噴流式を利用しているが,導入から少なく とも10年は経過している。殻長制限値を9.3㎝と 定め,10.5㎝未満を「大」,それ以上を「特大」
として区別している。船上で選別し,その場で放 流するのが原則となっている。それとは別に漁期 中に移植放流を行うこともある。その
1
つはすで に述べた造成区への放流であり,おもには小さい 大きさのホッキガイが集中的に生息している漁場 からの移殖作業となる。また,各船が操業の際に 記録している操業日誌をもとに,操業が集中した 部分を確認し,その場所に放流するといったこと も行われている。3. 3. 5 市場出荷・直販
各船で揚げられたホッキガイは採捕した船が分 かるように名前が書かれたカゴに入れた状態で漁
<図 23> ホッキガイの漁獲金額の推移
別海漁協提供資料を元に作成,図24も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 80 60 120 100 140
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図 24 > ホッキガイ漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
100 200 300 400
0 100 200 300 400 500 漁獲数量 平均単価
協併設の市場に出される。「大」,「特大」の選別 が不適切であったり,殻長制限値未満のものが混 ざっていたりした場合にはこの時点で判明するの で,船上での選別で手を抜くことは起こりにくい。
市場では,個人別の漁獲量が記録される。おもな 仲買業者は地元以外では,野付,標津の業者であ る。漁協独自の取り組みとして,併設する市場で 販売会を実施している。町内全域にチラシを撒く 形で集客し,販売単価を非常に低く設定している。
3. 4 根室湾中部漁協 3. 4. 1 組織の概要
根室市内には根室湾中部漁協,根室漁協,歯舞 漁協,落石漁協の
4
つの漁協がある。根室湾中部 漁協には正組合員116名,准組合員8名の計124名 が所属している(2007年現在)。正組合員は1
家 族につき1
人とされている。年代別では60歳代が 多く,後継者がいない漁家も少なくないため,今 後の漁業者の継続性については決して楽観視でき ない状況にあるようだ。遠浅の漁場が中心で貝類 には適した海域を有しているものの,魚種の多様 性の点からは不利な点も多く,高所得を期待でき る漁業種類に恵まれていないことも後継者問題の 一因と言えるかもしれない。ほっきがい漁業は全船
2
名共同体制(2
名で船 を共同所有)で実施されており,16隻(32名)体 制となっている。16隻は3つの船団(6隻,5隻,
5
隻)に分かれており,それぞれの船団に船団長 が1
名,さらに,全体を統括する総船団長がいる。船団の構成は基本的に固定されており,船団長は
1
年交代となる。また,総船団長はほっきがい漁 業(桁曳)9の部会の部会長が当たる。3. 4. 2 漁場・漁期・漁獲管理・漁獲実績
図17のC〜D
の範囲がホッキガイの漁場となっ ている。漁期は9
月から11月前半程度までである。日曜・祝祭日の必ず休む日に加えて,時化などで 休むこともあり,
1
漁期中の操業日数は50〜60日 程度となる。資源量調査の結果をもとに推定された資源量か ら
1
段階目の漁獲許容量を決定し,さらにその一 定割合という形で最終的な漁獲許容量10を設定す る。2005年〜2007年については1隻11tが1漁期 中の許容量で,全隻数の合計である176tの推定 された資源量に対する比率は5%
前後である。許容量が変化していないのは資源量が安定的に推移 しているためである。
1
日の許容量は特に定めて おらず,漁期内で残量を確認しながら消化してい くことになる。ただし,日々の水揚金額について は32名による均等配分,すなわち,プール配分を 採用しており,各人が日々独立に漁獲量を決定す る一般的な漁獲割当とは基本的には異なる。日々 の操業では市場価格の動向に合わせて積極的に漁 獲量調整を行っており,全船が協力してその日の 目標値を達成する体制になっている。漁獲量調整 の水準については総船団長が市場や仲買業者から の情報をもとに決定する。図25,図26に近年のほっきがい漁業の漁獲実績 を示す(桁曳きのみで手掘りは含まない)。漁獲 許容量が大きく変化していないことが実際の漁獲 数量にも反映しているのが確認できる。平均単価 がやや下がっているため,漁獲金額についてはや や減少している。
<図 25 > ホッキガイの漁獲金額の推移
根室湾中部漁協提供資料を元に作成,図26も同様
年 漁
獲 金 額︵ 百万 円︶
0 2000 20 40 60 80 100
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
<図 26 > ホッキガイ漁獲数量及び平均単価の推移
年 漁
獲 数 量︵ t︶
平 均 単 価︵ 円/
㎏︶ 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0
50 100 150 200
0 100 200 300 400 500 600 漁獲数量 平均単価
3
.4
.3 操業桁曳きについては全船噴流式マンガンを導入し ている。操業の有無については,毎朝の話し合い によって決められ,全船が協調行動を取る。集ま る時間は日の出の時刻により異なるが,
4
時〜5
時程度となる。操業は原則船団単位で行うが,3
船団ともに同じ漁場で操業する場合もあれば,そ れぞれが異なる漁場で操業する場合もある。1
つ の船団が移殖作業(後述)を行い,残りの2つ の船団が通常の操業を行うといった場合もある。プール制を採用しているため,そのような場合で も全員の所得額は同一となる。市場での競りの開 始時刻が
9
時なので,それに間に�