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ファージを利用した青枯病防除技術の開発

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【解説】

病 原 菌 を 自 然 界 の 天 敵 フ ァ ー ジ を 用 い て 駆 除 す る 技 術

(フ ァ ー ジ セ ラ ピ ー,フ ァ ー ジ バ イ オ コ ン ト ロ ー ル) の 研 究・技術開発が欧米を中心に急激に再燃している.長年の抗 生物質を中心とした薬剤使用によって自然界に蔓延した膨大 な薬剤耐性菌への対応策である.すでにファージによる多剤 耐性菌感染治療の成功例が蓄積し,微生物ウイルス国際学会

(第 一 回,20106月 パ ス ツ ー ル 研 究 所,フ ラ ン ス;第 二 回

20126月ブリュッセル,ベルギー)での主要トピックスと

なり,大きな潮流が起ころうとしている.本稿では,農業分 野で大きな問題となっている青枯病のコントロールをめざし て,ファージを利用した「診断・予防・防除」システムの開 発動向を紹介する.特に巨大ファージRSL1と繊維状ファー

RSM1‒3を用いた持続的な病原菌制圧と植物予防効果につ

いて解説する.

はじめに

近年の抗生物質・薬剤耐性菌の蔓延が引き金となり,

病原菌を自然界の天敵ファージを用いて駆除する技術の 研究・技術開発が欧米を中心に注目を集めている(1〜7)

農業分野においても,農薬の過剰使用による環境汚染・

生態系破壊,耐性菌増大,残存農薬による健康への悪影 響に加え,消費者の食に対する信頼を回復するべく,

2002年の農薬取締法改正後,農薬使用・開発のあり方 が厳しく問われている.最も重要な植物病害の一つに青

枯病がある.青枯病菌 ( ) は,

ナス科やマメ科など経済的に重要な農作物を含む50科 200種以上の植物に感染し,世界各地で甚大な被害をも たらしている(ジャガイモ被害,年間950億ドルの損 失).青枯病の特徴は,土壌中の病原菌が生長期植物の 根部から導管に侵入し,増殖と急速な移動を繰り返し,

導管内部にバイオフィルムを形成して大量の多糖質 

(EPS) によって導管を閉塞し通水機能を遮断すること にある(8) (青枯れまたは立枯れと呼ばれる).収穫期を 前にした夏場に多く発生するので被害は深刻である.

元々は,熱帯,亜熱帯など温暖な地域に発生したが,近 年では地球温暖化傾向の中で,被害地域は大きく拡大 し,また寒冷地に適応した青枯病菌株も多く報告されて いる(9).一度病害が発生すると病原菌は長期にわたり土 壌中に滞留し病害を繰り返す.その防除に使用されてき た主農薬は劇物(土壌燻蒸剤)であるクロルピクリンや Biocontrol of Bacterial Wilt Disease : Utilization of Jumbo Phage 

RSL1 and Filamentous Phage RSMs

Takashi YAMADA, 広島大学大学院先端物質科学研究科

ファージを利用した青枯病防除技術の開発

巨大ファージRSL1と繊維状ファージRSMsの有効性

山田 隆

(2)

臭化メチルであったが,後者はオゾン層破壊物質であ り,2005年に生産および使用が中止となっている.有 効な防除対策がないまま,青枯病菌の蔓延と農作物生産 低下による地球規模の食糧不足が危惧されている.した がって,ここに病原菌に高い特異性を示す,安全かつ持 続的な代替農薬・防除技術の開発が強く望まれている.

その有力候補として,筆者らは青枯病菌特異的バクテリ オファージの利用に着目した.まず,(1) 自然界からの 多種のファージの分離,(2) ゲノム解読によるファージ の高度な特徴づけ,(3) ゲノム情報を基にした感染特 性・宿主との相互作用の分子基盤の理解のもとに,

ファージの特性を生かした青枯病菌バイオコントロール 技術「診断・予防・防除」の開発を行った(10, 11).ここ では主としてファージを用いた予防・防除技術について 述べる.

青枯病菌ファージの多様性

青枯病菌は宿主域によって5つのレース (race), 糖類

(二糖,糖アルコール)の代謝型によって6つの生理型 

(biobar) に細分される(12).さらに,遺伝子情報を基に した ( ,  ,  ,  ) 4つの系統型 (phylo- type) にも区別される(13).日本には主としてrace 1, 3,  4 ; biovar 3, 4, N2 : phylotype I, IVが分布している.こ のように多様な宿主菌に感染するファージもまた多様で あ る.筆 者 ら が 研 究 を 開 始 し た2005年 当 時 ま で に ファージの報告はいくつかあった(14, 15).それらはいず れも実体は不明で,宿主域は狭かった.多種多様な ファージの取得を目的として,異なるrace, biovarの青 枯病菌株計15株を宿主検定菌として,広島県,愛媛県 を中心に行った筆者らのスクリーニングで多数のファー ジプラークを検出した.ファージ粒子の形状,ゲノムの 性状,感染特性,ゲノム配列などから,それらはIno- viridae, Podoviridae, Myoviridae, Jumbo phages (Myo- viridae), Siphoviridaeの 各 ウ イ ル ス 科 に 分 類 さ れ た(11, 16).また最近(2013年2月),JST戦略的国際科学 技術推進事業JST/BIOTEC「バイオテクノロジー」研 究で行ったチェンマイ(タイ)トマト農場での大規模サ ンプリングでは計13種のファージを取得した(図1 その大半は,Podoviridae科のファージであったが新し いタイプの jumbo phage も発見した.ファージはその 特性に応じて,病害菌のバイオコントロールに使い分け る必要がある.そのためにはファージ自体を,そのゲノ ム情報や感染特性,変異機構などにより,高度に特徴づ ける(ゲノム情報,感染特性,変異機構など)必要があ

る.また,ファージストックが大きいほど臨機応変の持 続的なバイオコントロールが可能となる.各ファージタ イプについて,以下その特徴と応用範囲について述べ る.

1.  Inoviridae

このファージのグループは,大腸菌のM13ファージ に代表されるが,約6 〜9 kbの一本鎖環状DNAをゲノ ムとする繊維状ファージである.宿主のIV型線毛 (pi- lus) を受容体として感染し,複製型二重鎖ゲノムから ローリングサークル型のDNA複製を行う.ファージ粒 子タンパク質は細胞膜上で会合し,生成されたファージ 粒子は細胞外に放出される (17, 18).したがって,この ファージ感染では宿主細胞の溶菌は起こらない.感染菌 は生きながらファージを生産することになる.M13を 利用したベクター系,ファージディスプレイ技術などに 見られるようにこの種のファージは極めて有用である.

筆者らは,青枯病菌では小型のファージ RSS (6.6 kb) 

と中型の RSM (9.0 kb) が取得できた(図2A, B).RSS の複製領域を用いたクローニング用ベクター(pRSS12 など)は極めて安定であり,選択圧の利用できない土壌 環境,植物体内などでの利用に特にメリットがある(19). GFP遺伝子などの蛍光標識を導入したファージやプラ スミドは青枯病菌の高感度検出,植物体内,自然環境中 での菌体モニタリングなどにも有効である(20).一方,

RSMは以下に述べるように青枯病ワクチンとして有用 である.また,より小型の青枯病菌繊維状ファージ PE226(21) も報告されている.

図1トマト農場でのファージサンプリング

チェンマイ(タイ)郊外のトマト農場でのサンプリング風景

(2013年2月).雨期には稲作,乾期にはトマトの大規模な栽培が 行われる.青枯病が一度発生すると一帯はトマト栽培ができなく なる.

(3)

2.  Podoviridae

この科のファージのうち大腸菌T7型ファージが青枯 病菌で高頻度に検出された.小型の正二十面体ヘッドに 短い尾部を有するのが形態的特徴であり,ゲノムは30

〜 60 kbpの二重鎖DNAである(図2D).T7型ファー ジにおいてはゲノム上に自前のRNAポリメラーゼ遺伝 子が存在し,感染サイクルにおいて中期‒後期遺伝子発 現を独自に行う(22).溶菌性が極めて高く,寒天プレー ト上に大きな透明プラークを形成し,基本的に溶原化サ イクルを有さない.筆者らは,宿主域およびゲノム DNA制限酵素切断パターンの異なる20種以上のファー ジを単離した.取得したファージのうち,RSB1(23),  RSB2, RSB3, RSK1のゲノム解読結果を比較すると,遺 伝 子 構 成 はRSB2が 比 較 的T7型 に 近 い の に 対 し て,

RSB1, RSB3はRNAポリメラーゼ遺伝子が中期発現モ ジュールに移動しており,緑膿菌に特徴的なファージ KMV(24)  に類似していた.このタイプでは前期‒中期‒

後期におけるRNAポリメラーゼの使い分けが全く不明 である(23).さらに,RSK1はRNAポリメラーゼ遺伝子 を有さず,遺伝子からの転写は宿主に依存している.ま た,通常の溶菌酵素系 (lys) に加えて特殊な糖鎖分解酵 素遺伝子を有し,これは以前報告された青枯病菌の ファージP4282の溶菌酵素に一致する(25).したがって RSK1はP4282に近いファージと言える.このグループ のファージゲノムは基本的にclass 1(初期遺伝子群), class 2(DNA代謝遺伝子群),class 3(構造形成遺伝子 群)の3つの機能モジュールから成り立つが,その配

置,遺伝子構成に大きな多様性があり,頻繁な組み換え が示唆された.宿主域が非常に広いものから,限定され た株にのみ感染するものまで多彩であった.宿主域の広 いものはバイオコントロール剤として有望である.

3.  Myoviridae

大腸菌のT4, P1, P2などに代表されるこの科のファー ジは,比較的大型ゲノムを有する溶菌性の強いものが多 い.頭部‒尾部‒微繊維構造を呈し,宿主吸着後,尾部が 収縮することによってファージゲノムを宿主細胞内に注 入する(26).青枯病菌に検出されたmyovirusの中で特に 大型のもの(ゲノムが200 kbp以上)は,本稿において jumboファージとして別括りとする.RSA1(図2C)は 特殊な尾部構造をもつファージとして認識されたが(16), これは粒子の不安定さに起因し基本的にP2ファージに 類似している.約40 kbpの二重鎖DNAをゲノムとし,

その末端に 配列を有していた.青枯病菌ゲノム解読 第1号となったGMI1000株の中には4種のプロファージ 配列が検出されていたが(27),そのうちの一つ(RSXと 命名)がRSA1に高い相同性を示した.遺伝子構成は基 本的にP2型であり,溶原化サイクル遺伝子を保持して いたが,RSA1自体はファージリプレッサーによる制御 を解除されたエスケープ変異株であり,溶原株を含め検 定菌株全18株に感染した.溶原性が抑圧される限りに おいてバイオコントロール目的に有用である.

図2 青 枯 病 菌 

 に感染するさまざまな ファージ

繊 維 状 フ ァ ー ジ (inovirus) RSS1 

(A),  RSM1 (B); P2 型  myovirus  RSA1 (C); T7 型 podovirus  RSB1 

(D); 大 型jumboフ ァ ー ジRSL1

(E);λ型siphovirus RSC1 (F)  な ど が 検 出 さ れ た.Bar=100 nm. TS :   tail sheath.

A

B

C D F

E

(4)

4.  Jumbo Phage

最近数年来,次々と大きなファージが報告されるよう になった.ゲノムサイズ200 kbp以上のものはたとえ ば,  ファージ 

ϕ

KZ (280 kbp),  Vibriophage KVP40 (245 kbp),   phage  EL (211 kbp),    phage 

ϕ

SMA5 (250 kbp), Yersinophage 

ϕ

R1‒37 (270 kbp) な どである.これらの大型ファージには今のところ共通構 造,遺伝子構成は見られず系統的関係は不明である.こ れらファージ(jumbo phargeと定義(28))の研究は始 まったばかりであり,新規な感染機構,宿主相互作用,

生態系への影響が興味深い.青枯病菌に対しても,プ ラーク検出時に上層寒天濃度を0.45%程度に下げ,大型 粒子の拡散を促進させることでこの種のファージ検出が 可能となった.これまでに筆者らは RSL1 (240 kbp) 

(図2E)とRSL2(224 kbp)の全く異なる2種類を検出 した.RSL1についてはその特徴とバイオコントロール への応用例を後述する.

5.  Siphoviridae

自然界より分離した青枯病菌には多くのプロファージ が存在する.細胞培養中の刺激(温度変化,光照射,薬 剤処理,他ファージ感染など),菌株保存過程での凍 結/溶解処理などによって,容易にファージは誘発され る.この意味で宿主域検定などでインプットファージと 出現ファージの同一性を常にチェックする必要がある.

RSC1(図2F)はRSB1ファージを感染させたMAFF  301558株(青枯病罹患ジャガイモからの分離株,race  3, biovar N2, phylotype IVに属する)から出現したプ ロファージであった.約40 kbpの二重鎖DNA末端には 配列を有していた.長い非収縮性尾部を有する ファージ粒子は大腸菌 

λ

 ファージと類似していた.宿主 域は広いが(供試20菌株中80%に感染),この種の溶原 性ファージはバイオコントロールには適していない.

ジャンボファージRSL1の特徴と青枯病コントロール 上述のようにRSL1はゲノムサイズ240 kbp(

λ

ファー ジの約5倍)もある大きなファージであった.感染サイ クルに約3 〜4時間を要し,これは宿主の増殖倍加時間 より長い.この理由もあって溶菌性ファージでありなが ら,宿主の増殖を抑制しながら一定の共存状態を持続で きる.この効果は青枯病の防除に極めて有効であること がわかった.さらにこのファージの宿主域は非常に広く 基本的にすべての試験株(19株)に溶菌性を示した.

以下にこのファージの特徴と利用の実例について紹介す る.

1.  ゲノムの特徴

ファージRSL1について,そのゲノム231,255 bpを決 定し343個のORFを検出した (AB366653).図3に示す ようにゲノムは大きく4つの領域 (I 〜 IV) に分かれ,

遺伝子は機能ごとにゲノム上に集約されているように見 えるが,多くは機能未知のままである(29).塩基配列相 同性からは,脂質,糖鎖,補酵素,ポリアミンなどの代 謝系遺伝子が含まれる.DNAマイクロアレイ解析に よって,各遺伝子の経時的発現(感染早期発現型と後期 発現型),持続的宿主抑制状態における特異的遺伝子発 現(12個の高発現遺伝子)などのデータを得ている 

(GSM567022‒GSM567026).

2.  構造特性

フ ラ ン スCNRSの IBS (UMR 5075) 電 子 顕 微 鏡 グ ル ー プ(Schoehn研 究 室) と の 共 同 研 究 に お い て,

RSL1のcryo-EM-イメージ3D再構成を行った結果,

=27という珍しい構造をもつことが判明した. =27 のファージはこれまで jumbo phage である 

ϕ

KZただ一 つしか知られておらず(30),しかもRSL1と 

ϕ

KZの粒子 構造は全く異なるものであったため,これまでに報告例 のない新奇な構造を有することが示された(図4 RSL1の頭部は少なくとも5種のタンパク質から構成さ れ,その中には三脚サブ構造や粒子表面にキノコ状突起 の特殊な修飾構造が観察された.このようなRSL1カプ シドの独特な構成が,高い粒子安定性(特に熱(後述))

の要因であると考えられる.さらにRSL1尾部では,頭 部に近い特徴的な尾繊毛 (wisker) が存在し,直接細胞 表面に接触しているtail fiberを安定的に固定する機能 を果たしていると考えられる.先端がかぎ爪型となって いるspikeと長いtail fiberは,吸着の際に有利に働くと 思われる.このように宿主に吸着しゲノムを挿入する際 の高度なメカニズムは,特に大きなゲノムを挿入する jumbo phageにとって,重要であるのかもしれない.

3.  感染特性

RSL1は特徴的な感染パターンを示す.比較のため,

異なるタイプのファージ3種 (RSA1, RSB1, RSL1) の単 独,および混合剤 (phage cocktail) を用いて各種青枯 病菌株に感染させ,その増殖を調べた結果,RSA1や RSB1による早期の溶菌が引き起こされた場合,約30時 間後に耐性菌の出現が顕著となる.しかしながらRSL1

(5)

を単独で用いた場合,適当な条件でのファージ投与によ り,増殖抑制は実験室条件下2週間以上も継続した(図5 すなわち,phage cocktailを用いた耐性菌抑制は長期間 にわたる青枯病菌増殖コントロールには必ずしも有効で はなく,RSL1の単独感染で持続的細菌増殖抑制が見ら れた(31).RSL1感染下では細菌の増殖とファージによる 溶菌が平衡状態にあると解釈される.

4.  青枯病コントロールへの利用

RSL1感染による持続的細菌増殖抑制効果に注目し,

実験室レベルでのトマトを用いた青枯病菌モニタリング とファージによる予防効果を検証した(図6.トマト 実生を用いた青枯病菌接種(コントロール)では,24 時間後に導管内侵入・増殖が顕著となり,72時間で菌 体が主根から漏出し,96時間で胚軸と,小葉は完全に 図3青枯病菌ジャンボファージ RSL1のゲノム地図

231,255 bpの dsDNA  上に 343  個の ORFを検出した.ゲノムは大きく4 つの領域 (I 〜 IV) に分かれている.

データベースに相同性を示す遺伝子 が少なく,珍しいファージである.

図4Cryo電顕解析によるジャンボ

ファージRSL1の構造モデル

頭部は少なくとも5種のタンパク質か らなる正二十面体 ( =27) であり,

特殊なキノコ型突起が見られる (A). 尾部には特徴的な尾繊毛 (wisker) が 存在し (B),スパイクは先端がかぎ爪 型となっている.複雑な構造は大型ゲ ノムの保持と宿主挿入機能と関係して いると思われる.また,RSL1は高度 な熱耐性と粒子安定性を有し,構造と の関係が興味深い.尾繊毛 (wisker) 

先端部分(C, D横向き矢印)は尾部収 縮のストッパーとなっている(D,  カ ギマーク).DNA注入孔が明確に見え る(C, 下向き矢印).

(6)

しおれた.一方,ファージ処理トマトでは,細菌接種後 120時間でも細菌侵入・増殖は顕著とならず,側根が生 長し288時間後も病徴は皆無であった(図6C).その 後,ポット移植したトマトは1.5カ月後も健全に生長し た.このように植物の生長初期段階でのRSL1処理は青 枯病予防に極めて効果的であることが判明した.一方,

ファージを現場で使用する場合,自然環境下における安 定性のデータが必要となる.上記,トマト2被験体から 4カ月後,ファージの検出を行った.2被験体とも根部,

根圏土壌から一定量のRSL1ファージが安定的に検出で きた.また土壌存在下でのファージの安定性に及ぼす温 度の影響をRSA1, RSB1とRSL1を比較し調べたところ,

28˚Cではそれらの間では大差がなかったが,37˚Cで RSA1とRSB1は不安定となり,50˚CでRSL1のみが顕 著に高い温度耐性を示した.青枯病が発生する夏場での ファージの安定性は重要である.このようにRSL1は自

然環境下における持続安定性も保持している.土壌に付 与する場合には,紫外線によるファージの失活を大幅に 軽減できる(32)

5.  病原菌のファージ耐性への代償(コスト)

ファージを用いるうえで耐性菌の出現が問題視され る.当初,そのような視点から耐性菌の出にくい条件

(たとえば,phage cocktailの使用)を検討してきた.

しかし,青枯病の予防・防除においては,ファージ耐性 は比較的問題にならないかもしれない.青枯病菌におけ るファージ耐性機構を調べるために,トランスポゾン 

(EZ-Tn5 Transposome) を用いたランダム変異ライブ ラリーを作成し,各種ファージに対する耐性菌を多数選 別し5つの変異座を同定した(33).その結果,それらの 多くはリポ多糖生合成系に関与しており,ファージとの 相互作用におけるリポ多糖の重要性が示唆された.そし 図5青枯病菌の増殖に及ぼすファージ の影響

対数増殖初期(OD600=0.3, 矢印)に単独,

もしくは混合剤 (cocktail) としてファー ジを添加した.RSL1単独で感染させた場 合,低菌体レベル状態が長期にわたり継続 した.

図6 青 枯 病 菌 モ ニ タ リ ン グ と ファージによる予防効果

トマト実生 (A) を用いたGFP標識青 枯病菌接種(B, コントロール)では,

24時間後に導管内侵入・増殖が顕著 となり,72時間で菌体が主根から漏 出し,96時間で胚軸と,小葉は完全 にしおれた.一方,ファージ処理ト マト (C) では,細菌接種後120時間 でも細菌侵入・増殖は顕著とならず,

側根が生長し288時間後も病徴は皆 無であった.

(7)

て興味深いことに,これらの耐性菌の,トマトを用いた 病原性を調べたところ,いずれの変異においても完全に 病原性は失われていた.この結果は,リポ多糖が青枯病 菌の病原性発現において重要な因子であるという報 告(34) と一致する.結局,ファージ耐性を獲得した青枯 病菌はそのコストとして病原性を失うことになったわけ である.したがって,ここにファージの病害防除・予防 効果は二重に期待できる.ちなみに,青枯病菌において はCRISPR配列(35) は希であり,この機構によるファー ジ耐性の可能性は低い.

繊維状ファージRSM1RSM3の特徴と青枯病   ワクチン利用

病原菌の非病原性変異株を用いて拮抗的に病害を予 防・防除する方法は,バイオコントロールの常套手段で ある.非病原性変異株を植物と接触させることによっ て,植物生来の自己防御機構を発動させて強病原性菌に 対抗させるのは「植物のワクチン」効果とも言えよう.

病害発生現場より病原菌を分離し,その場で非病原化し て周辺の未感染植物に接種し,病害の拡大を防ぐことが できればその効果は大きい.青枯病を対象にRSM1と RSM3を用いてこの方向の技術開発を行った.

1.  ゲノムの特徴

RSM1, RSM3は約9 kbの環状一本鎖DNAをゲノムと するinovirusである.RSM1のゲノム地図を図7Aに示 す(RSM3もほぼ同様).M13型遺伝子配置(複製,構 造,会合・分泌各モジュール)(17, 18) に加えて2カ所の挿 入領域があり,複製モジュール内の挿入領域にはインテ グラーゼ ( , ), ファージ組換え部位 ( P), およ び転写制御因子 ( ) がコードされていた(36). P は tRNA (Ser/UCG) の3′ 末12 bに相当し,宿主ゲノム の対応tRNA遺伝子 ( B) 座に組み込まれる.RSM1 とRSM3における大きな相違点は宿主認識コートタンパ ク質 pIII (ORF9) の配列にあった.全長498アミノ酸 のうちN末端側の155アミノ酸(N1ドメイン),C末端 側の280アミノ酸(Cドメイン)は両者で高度に保存さ れていたが,内部の70アミノ酸(N2ドメイン)の配列 に差があった(36)

2.  感染特性

繊維状ファージ粒子の末端に位置するコートタンパク 質pIIIは宿主菌のIV型線毛をファージ受容体として認 識し結合する.上記のように,RSM1, RSM3はpIIIの構 造を異にする.したがって両者の宿主域は異なるはずで

ある.青枯病菌株は基本的にRSM1, RSM3のどちらか に感受性であった(ごく一部の株は両者に感受性).こ のことは青枯病菌株には2タイプのIV型線毛があるこ とを示している(36).RSMファージ (RSM1, RSM3) は inovirusであるので,ファージ感染による宿主細胞の溶 菌は起こらない.しかしながら,感染菌は生きながら ファージを生産し,細胞表面から分泌放出する.当然,

増殖速度は低下し細胞表面の性質が変化する.RSM感 染 菌 の コ ロ ニ ー は 小 型 化 し 粘 性 が 低 下 し,さ ら に twitching運動性(線毛による単収縮運動性)も大幅に 低下した.最も重要な変化は病原性の低下である.トマ ト茎への直接接種法で見た病原性は,RSM感染菌では 図7繊維状ファージRSM1のゲノムマップとRSM-ORF15に よる病原性抑制機構モデル

(A) RSM1ファージゲノムにはM13型遺伝子配置(複製,R ; 構 造,S ; 会合・分泌各モジュール,A-S)に加えて2カ所の挿入領 域があり,複製モジュール内の挿入領域にはインテグラーゼ ( ,

), ファージ組換え部位 ( P), および転写制御因子 ( )  がコードされている.(B) ファージ感染に伴い転写抑制因子 ORF15によって宿主  ,  の発現が抑制されることが病原 性低下の主因であると考えられた.  は多数の病原性遺伝子 

( ,  ,  ,  ,  ) の発動遺伝子であり, はクオラム センシングシグナル物質3-OH PAME の生成遺伝子である.3-OH  PAMEの情報はPhcS/PhcRの2成分制御系を介して細胞内に伝わ り の 活 性 化 に つ な が る.T3SS, 3型 分 泌 シ ス テ ム; ,  T3SSの制御遺伝子.細菌細胞膜を示す二重の線を貫通する矢印 は,物質の移動の方向を示す.

(8)

全く喪失していた(37).病原性喪失の理由を知るために,

qRT-PCRを用いてファージ感染菌における病原性遺伝 子の発現を調べた.その結果,各種病原性遺伝子に加え て  ,   がファージ感染菌で大幅に低下している ことが判明した. は多数の病原性遺伝子の発動遺 伝子であり(38), はクオラムセンシングシグナル物 質 3-hydroxypalmitate methyl ester (3-OH PAME) の 生成遺伝子である(38).3-OH PAME  の情報はPhcS/

PhcRの2成分制御系を介して細胞内に伝わり の活 性化につながる.すなわち,ファージ感染によって ,  の発現が抑制されることが病原性低下の主 因であると考えられた(37).さらに,ファージゲノム上 の挿入領域遺伝子をランダムに欠損させた場合,

の欠損 (Δ ) の場合だけ,感染菌における  ,  の発現が正常であった(図7B).このことから,

RSMファージゲノム上の が感染後,宿主細菌の  ,  を何らかの機構で抑制するものと考えられ た(37)

3.  青枯病コントロールへの利用

RSMファージ感染によって青枯病菌の病原性が抑制 される.感染菌は溶菌せずファージを生産しながら生育 する.ほとんどの青枯病菌はRSM1かRSM3のどちらか に感受性を示す.これらの結果をもとに,病害発生現場 から単離した病原株をRSMファージを用いて非病原化 し,周囲の未発生領域作物(根圏)に接種することに よって病害の拡大を防ぐ技術の検討を行った.トマト苗

にRSM3を感染させた病原株(ワクチンと仮に定義)を 一次接種し,一定間隔後(1日から2カ月)茎の接種点 1 cm上部に未感染株を二次接種し,病徴を追跡した.

その結果,対照区(20検体)においては100%発病し,

ワクチン処理した植物(各実験区20株)では多少病徴

(I-II)が見られる場合もあったが(約10%の割合で病徴 を観察),萎凋に至る例は一つもなかった(39) (図8.ワ クチン処理したトマトにおいては,各種デフェンス遺伝 子 ( ,  ,  ,  ) が誘導され(40, 41),それ ぞれ特徴的な発現パターンを示した(39).まだ予備観察 レベルであるが,ワクチン処理したトマトで 

 pv.  および     pv.  の二次接種に対しても病害予防効 果が見られた.

おわりに

気候変動,農地砂漠化,発展途上国の人口増,環境汚 染,病害増大などにより地球規模での食料不足が危惧さ れている.安全・安心な食料を持続的に生産するために は高度な技術が必要である.さまざまな取り組みの中 で,本稿で紹介した方向が少しでも役立てば幸いであ る.重要なポイントは,植物は自然界において単独で生 育しているのではなく,土壌微生物を含め多様な生物か らなる生態系の中にいることである.ほかの生物との相 互作用は,青枯病菌のような敵対関係のみでなく,多く の場合が共生的(植物を含めた生態系バランス保持)で ある.化学合成薬剤などによる病害防除法は対象病原菌 のみでなく,植物根圏を守る善玉菌(Plant Growth  Promoting Microbes ; PGPMなど)も無差別に除去し,

生態系を不安定にする.結果的に植物の生育に不都合な 環境が生じる.青枯病菌は土壌中遍在する.病害が生じ るには細菌の植物への適合と細菌密度の増加の条件が揃 うことである.青枯病菌との共存を前提とし,ここにそ の生態系での位置をファージという因子を使ってコント ロールするという考え方が大事である.これは,青枯病 菌に限らず動植物の病原菌すべてにあてはまる.

本稿のデータは実験室レベルあるいは小スケールで得 たものにすぎず実用化に向けて実証試験中である(平成 25年度「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」

研究課題25037B).生物農薬の開発動向と実用化におけ る問題点については本誌(42) において詳細に述べられて いる.本研究の一部は科学研究費助成事業(基盤B)

24380049,およびJST戦略的国際科学技術協力推進事 業「日本‒タイ研究交流」の支援を受けた.

図8RSM‒感染菌のワクチン効果

トマト苗にRSM3を感染させた病原株(ワクチンと仮に定義)を 一次接種し,一定間隔後,茎の接種点1 cm上部に未感染株を二次 接種し,病徴を追跡した.対照区(図中の左側サンプル)におい ては100%発病し,ワクチン処理した植物では萎凋に至る例は一つ もなかった.

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プロフィル

山 田  隆(Takashi YAMADA)    

<略歴>1977年大阪大学大学院工学研究 科発酵工学専攻博士課程前期修了/同年

(株)三菱化成生命科学研究所(研究員,副 主任研究員,主任研究員)/1986年米国カ リフォルニア大学 (UCLA) 生物学科客員 研究員/1990年広島大学工学部第三類化 学系助教授/1995年同教授/2001年より 広島大学大学院先端物質科学研究科教授

<研究テーマと抱負>生物間相互作用(共 生・寄生)の分子機構解明(ゲノムレベル 相互作用も含めて),と相互作用による新 規生物機能開発を主テーマとしている

参照

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