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アーキアにおける補酵素A(coenzyme A)の生合成機構

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(1)

アーキアは真核生物やバクテリアとは区別される第3のドメ インを構成し,真核生物やバクテリアには見られない数多く の生命機能・生命機構を有する.本稿では全生物に共通して 存 在 す る 補 酵 素Aに 焦 点 を 当 て,ア ー キ ア に お け る そ の 生 合成経路や制御機構の興味深い特徴について,バクテリアや 真核生物のものとの違いを中心に紹介する.

超好熱性アーキア

1977年にWoeseとFoxは16S rRNAの構造に基づいた 生物の分類を進め,真核生物やバクテリアとは区別され る第3の生物群の存在を提唱した(1).当時の解析ではメ タン生成菌のみがその構成員として認識されていたが(1), その後,多数の好塩菌(2)や超好熱菌(3)も含まれることが

わかり(4, 5),現在ではアーキアと呼ばれる(6).いままで

に分離・解析されてきたアーキアは,高塩濃度や高温な どに代表される極限環境に生息するものが多く知られて いるが,生態学的研究からアーキアは地球上のあらゆる 環境に存在し,アンモニア酸化などグローバルな物質循

環に深くかかわっていることが示唆されている(7, 8). アーキアを対象とした研究は,それらに対する認識の遅 れやそれらの取り扱いの煩雑さから,バクテリアや真核 生物と比べて大きく遅れをとっているのが現状である が,近年ではゲノム情報の蓄積も加わり,さまざまな生 命機能においてアーキアが真核生物やバクテリアとは異 なる戦略をとっていることが示唆されており,注目を集 めている.

われわれは超好熱性アーキアの1種である

(9, 10)を対象に,主にその代謝や遺伝

子発現制御に興味をもって研究を進めている.既にゲノ ム解析を終えており,本菌ゲノム上に2,306個のopen  reading framesの存在が推定されている(11).またわれわ れは,超好熱性アーキアでは報告例が限られている遺伝 子操作系の確立にも成功している(12〜14)ことから,個々 の遺伝子に対する生化学的な解析に加え,遺伝学的な解 析も行えるので, における機能検証が可能と なっている.このように, はアーキア を研究するうえで格好の研究材料であると考えられる.

本稿では, を対象としたアーキアに おける補酵素A(coenzyme A; CoA)の生合成機構に

アーキアにおける補酵素A

(coenzyme A)の生合成機構

冨田宏矢 * 1 ,横大路裕介 * 1 ,跡見晴幸 * 1 , 2

Mechanisms of Coenzyme A Biosynthesis in the Archaea Hiroya TOMITA, Yuusuke YOKOOJI, Haruyuki ATOMI, *1 京都 大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻,*2 JST, CREST

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

(2)

関する研究について紹介する.

補酵素Aの役割とその生合成経路

CoAはすべての生物が利用する重要な補酵素であり,

1945年にLipmannらによって発見された(15〜17).CoAは その分子末端にチオール基を有し,これがさまざまなカ ルボニル化合物とチオエステル結合を形成してアシル CoAとなることで,カルボニル基の反応性を上昇させ る.細胞内ではTCA回路や脂肪酸の合成・分解などさ まざまな代謝反応に関与しており,特に酢酸と結合した アセチルCoAやコハク酸と結合したスクシニルCoAな どがよく知られている.

CoA分子はパントテン酸(pantothenate),ATP,そ してL-システイン(L-cysteine)に由来する基本骨格か ら構成されている(図1.CoAの生合成については,

これまでバクテリアや真核生物で詳細に研究が進めら れ,アミノ酸の一種であるL-バリン(L-valine)の生合 成の前駆体である2-オキソイソ吉草酸(2-oxoisovaler- ate)から8段階の酵素反応で合成されることが知られ

ている(18〜20)(図2.この生合成経路では,まずケトパ

ントイン酸ヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(keto- pantoate hydroxymethyltransferase; KPHMT) が2-オ キソイソ吉草酸にヒドロキシメチル基を与える.この反 応では,C1ドナーとして 510-メチレンテトラヒドロ

図1補酵素ACoA)の構造

システイン,パントテン酸,ATPに由来する部位を示した.

図2バクテリアや真核生物におけるCoA生合成経路

酵素の表記は以下のとおりである.KPHMT: ketopantoate hydroxymethyltransferase, KPR: ketopantoate reductase, PS: pantothenate  synthetase, PanK: pantothenate kinase, PPCS: phosphopantothenoylcysteine synthetase, PPCDC: phosphopantothenoylcysteine decarbox- ylase, PPAT: phosphopantetheine adenylyltransferase, DPCK: dephospho-CoA kinase.

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(3)

葉酸( 510-methylenetetrahydrofolate)が基質に用 いられると考えられている.この反応によって生成した 2-オキソパントイン酸(2-oxopantoate)は,続いてケトパ ントイン酸レダクターゼ(ketopantoate reductase; KPR)

によりNADPH依存的にパントイン酸(pantoate)に還元 される.そしてパントイン酸は,パントテン酸シンセ ターゼ(pantothenate synthetase; PS)によるATP依 存的な

β

-アラニン(

β

-alanine)との縮合反応を経て,パ ントテン酸(pantothenate)が合成される.ヒトを含め た動物および一部の寄生性バクテリアなどでは,ここま での3つの酵素が存在しない.そのためパントテン酸の 合成はできず,これらの生物は外来のパントテ ン酸を利用している.ヒトにおいてパントテン酸はビタ ミンB5として知られており,食物から必要量を摂取す る必要があるが,通常の食生活で十分量を摂取できるた め,その欠乏症はあまり知られていない(21)

以上の3ステップからなる一連の酵素反応をパントテ ン酸生合成経路,その後の5つの反応をCoA生合成経路 と区別することもあるが,本稿ではすべての反応を総じ てCoA生合成経路と呼ぶことにする.さて,合成ある いは細胞外から取り込まれたパントテン酸は,次にパン トテン酸キナーゼ(pantothenate kinase; PanK)によ るリン酸化を受け4′-ホスホパントテン酸(4′-phospho- pantothenate)となり,続いてホスホパントテノイルシ ステインシンセターゼ(phosphopantothenoylcysteine  synthetase; PPCS)によってシステインと縮合し,そし てホスホパントテノイルシステインデカルボキシラーゼ

(phosphopantothenoylcysteine decarboxylase; PPCDC)

によりシステイン由来のカルボキシ基が取り除かれ,4′- ホスホパンテテイン(4′-phosphopantetheine)となる.

さらに4′-ホスホパンテテインはホスホパンテテインア デニリルトランスフェラーゼ(phosphopantetheine ad- enylyltransferase; PPAT)によってアデニリル基が付 与されてデホスホCoA(dephospho-CoA)となり,最 後 に デ ホ ス ホCoAキ ナ ー ゼ(dephospho-CoA kinase; 

DPCK)によるリン酸化を受けてCoAが完成する.

アーキアにおける4-ホスホパントテン酸の生合成 これまで述べたように,バクテリアや真核生物におい て,CoAは2-オキソイソ吉草酸から8段階の酵素反応に よって合成される.しかし,ここでアーキアのゲノムに 注目すると, を含むほぼすべてのアー キアにはPSおよびPanKのホモログ遺伝子が存在しな いことがわかった.すなわち,アーキアではパントイン 酸から4′-ホスホパントテン酸を合成する機構が不明で あった(18)

われわれは,アーキアにおいて新規な構造をもった PanKが存在する可能性を考え,比較ゲノム的手法によ る探索を行った(22)(図3.最初に がも つすべてのタンパク質のうち,その一次構造から “ki- nase” とアノテーションされているものを探索したと ころ,51個が見つかった.そのうち,まず既存のキ ナーゼと高い相同性を示すものを除外することにより機

図3比較ゲノム的手法による

のパントテン酸キナーゼ(pantothe- nate kinase)およびホスホパントテン酸 シンセターゼ(phosphopantothenate syn- thetase)の探索

パントテン酸キナーゼの探索では,結果とし てパントイン酸キナーゼ(pantoate kinase)

の発見となった.

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(4)

能が未知であるものに候補を絞ると,20個となった.

さらに,PSやPanKはほぼすべてのアーキアに存在し ないことから,われわれが 内で探して いる遺伝子のホモログはアーキアに広く保存されている と考えた.そこで,アーキアに広く分布する遺伝子に限 定したところ,10個にまで候補は絞られた.最後に真 核生物やバクテリアには既存のPanKが存在することか らわれわれが求めている遺伝子はこれらの生物には必要 ないと考えた.アーキアだけに存在する遺伝子を選抜す ると,最終的に4個の「推定キナーゼ遺伝子」として,

TK0939, TK1473, TK2141, TK2242だけを抽出すること ができた.

次にこれら4個のキナーゼの機能を調べるため,それ ぞれの組換え型タンパク質の調製を行った.各遺伝子を 大腸菌内で発現させたところ,TK1473産物とTK2242 産物のみが可溶性であった.しかしながら,両タンパク 質はパントテン酸およびATPと混和しても4′-ホスホパ ントテン酸を与えず,これらはPanK活性を示さないこ とがわかった.続いてTK0939とTK2141の可溶性タン パク質を得るため,これらの遺伝子を

の細胞内で発現させた.本菌において恒常的に高発現さ れているcell-surface glycoprotein( )遺伝子のプロ モーター配列をTK0939とTK2141の上流に配置した高 発現カセットをそれぞれ作製し,これらを

のゲノムに挿入した.作製された高発現株から目 的のタンパク質を精製してPanK活性を検証したとこ ろ,TK2141タンパク質はPanK活性を示し,本遺伝子 が におけるPanKであることが示唆さ れた.

しかしながら,TK2141タンパク質が示したPanKの 酵素活性は非常に低いものであった.そこでわれわれ は,PSとPanKが担う酵素反応に着目した.これら2つ の酵素はそれぞれ縮合反応とリン酸化反応を触媒する が,これらの反応はパントイン酸分子上の異なる部位で 起こる反応であった.すなわち,縮合反応とリン酸化反 応はこの順番で起こる必要性はなく,その順番が逆で あってもCoAの合成は可能であることに気がついた.

このことを踏まえ,先にパントイン酸のリン酸化が起こ る可能性を検証するため,TK2141タンパク質のパント イン酸キナーゼ(pantoate kinase)活性を調べた.そ の結果,TK2141タンパク質はパントイン酸に対しパン トテン酸と比べてはるかに高いキナーゼ活性を示したこ とから,TK2141が新規な酵素パントイン酸キナーゼ

(PoK)をコードすることが強く示唆された(22). 以上のように, におけるパントイン

酸キナーゼが見つかったことおよび ゲ ノム上にバクテリアや真核生物のPPCSホモログが存在 することから,PoK反応の生成物である4-ホスホパント イン酸(4-phosphopantoate)と

β

-アラニンの縮合反応 を触媒するホスホパントテン酸シンセターゼ(phospho- pantothenate synthetase; PPS)の存在が予想された.

そこでTK2141と同様の分布パターンを示し,かつ機能 が未同定である遺伝子を探索した.その結果,“Unchar- acterized protein conserved in archaea” としてアノテー ションされていたTK1686遺伝子が候補として浮かび上 がった.そこで組換え型TK1686タンパク質を,大腸菌 を用いて調製し,その酵素活性を調べた結果,TK1686 はPS活性を示さなかった一方で,明確なPPS活性を示 すことがわかった.このことから,本酵素が新規酵素 PPSであることが明らかになった(22)

このように, はバクテリアや真核生 物が利用するPSやPanKではなく,これまで全く知ら れていなかったPoKおよびPPSという2つの酵素によっ て4′-ホスホパントテン酸を合成することが明らかに なった(図4.さらにこれらのホモログ遺伝子はPSと PanKをもたないほぼすべてのアーキアのゲノム上にも 存在することから,両酵素は のみなら ず,アーキア全体にわたって幅広く使われていることが 示唆された.このことより,従来CoAの生合成に使わ れると普遍的に考えられていたパントテン酸が,ほとん どのアーキアでは使われていないことが明らかとなっ た.メタン生成アーキアの1種

においてもPoKとPPSの各ホモログがそれぞれ PoKおよびPPS活性を示すことが報告されている(23). 一方,Thermoplasmatales目に属する一部のアーキアは PoKホモログをもたず,代わりに従来のPanKホモログ

を保有している.特に 由来の本タ

ンパク質はPanK活性を示すことが報告されている(24). なぜThermoplasmatales目アーキアのみが異なる生合 成機構を利用しているのかは不明であるが,生合成経路 の進化を考えるうえで非常に興味深い.

新規酵素パントイン酸キナーゼおよびホスホパント テン酸シンセターゼ

われわれが発見したPoKは,これまで知られていな かったパントイン酸のリン酸化反応を触媒する酵素であ る.そのため,われわれはPoKの酵素学的解析および 点変異導入による活性中心のアミノ酸残基の同定を進め た(25)

組換え型PoKタンパク質を用いた速度論的解析の結

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(5)

果,PoKはATPに対してはMichaelis‒Menten型の挙動 を示した一方で,パントイン酸による基質阻害を受ける ことがわかった.加えて,4-ホスホパントイン酸による 生成物阻害を受けることも明らかになった(26).また PoKは,ATPのみならずGTPやUTP, CTPもリン酸基 供与体として利用できたことから,ヌクレオチド特異性 の低いキナーゼであることを発見した.

次にさまざまなアーキアがもつPoKタンパク質の一 次構造を比較し,反応性が高く,かつ広く保存されてい る7個のアミノ酸残基を選抜した.そしてこれらをそれ ぞれAla残基に置換した変異型PoKタンパク質を調製 し,活 性 測 定 を 行 っ た.そ の 結 果,Ser104Ala, Glu- 134AlaそしてAsp143Alaの3種の変異体は全く活性を 示さなかったため,これらのアミノ酸残基はPoKの触 媒活性に必須であることが示唆された.一方,活性を示 した4種類の変異型タンパク質に対して速度論的解析を 行った結果,Ser28, His131およびThr186はパントイン 酸の認識,またArg155はパントイン酸およびATPの 両基質の認識にそれぞれかかわることが明らかとなっ た.

もう一つの新規酵素であるPPSに関しては,速度論 的解析の結果,

β

-アラニンに対してはMichaelis‒Men- ten型の挙動を示した一方で,4-ホスホパントイン酸お よびATPによる基質阻害を受けることがわかった(26). またATP, GTP, UTPそしてCTPを用いたリン酸供与 体についての検証を行ったところ,PPSはATPのみを 利用することがわかった.アミノ基供与体に関しては,

β

-アラニンよりも炭素鎖が一つ分長い

γ

-アミノ酪酸

γ

-aminobutyrate; GABA)や一つ分短いグリシンなど について検証を行ったが,PPSは

β

-アラニンのみを認識 することが判明した.これらの結果より,PPSはATP

および

β

-アラニンに対する厳密な基質特異性を示すこと が明らかとなった.

CoA生合成の制御機構

さて,1分子のCoAを合成するためには,各1分子の 2-オキソイソ吉草酸,

β

-アラニン,システインおよび5 分子のATPやNADPHなど,多大な材料やエネルギー を必要とする.そのため,どの生物においても,過剰な CoAの生合成を回避するための制御機構が備わってい ると予想される.

この制御機構について,これまでバクテリアや真核生 物では研究が進められてきた.なかでも大腸菌に関する 研究は最も精力的に行われ,大腸菌のPanKにはCoAが 結合することがわかっている(27, 28).このCoA結合サイ トは,PanKの基質の一つであるATPの結合サイトと重 複しており,その結果PanKはCoAによる競争的なフィー ドバック阻害を受ける(27, 28).この阻害はとても強力で,

μ

MオーダーのCoA濃度でPanKの酵素活性はその80%

以上が失われる(29, 30).またこのPanKに対するフィード バック阻害機構は真核生物においても報告されており,

やマウスのPanKもCoAあるいは アセチルCoAなどによるフィードバック阻害を受け

(31〜34).このような阻害機構によって,バクテリアや

真核生物における細胞内CoA量は厳密に調節されてい る.一方で,上述のとおり多くのアーキアにおける CoA生合成はPanKに依存しない.すなわち,バクテリ アや真核生物においてCoA生合成の制御に重要な役割 を果たすPanKが存在せず,アーキアにおける制御機構 は未解明であった(22)

この点を解明するため,われわれはまずアーキア特有 図4パントイン酸から4-ホスホパントテ ン酸までの変換経路

バクテリア・真核生物での経路は右側に,

アーキアでの場合は左側の赤色表示にて示し た.

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(6)

の酵素であるPoKやPPSがバクテリアや真核生物の PanKと同様に,CoAなどによる阻害を受ける可能性を 検証することにした(22, 25, 26).具体的には,PoKおよび PPSの組換え型タンパク質を使った 活性測定系 に対してCoAやアセチルCoAを添加し,それらの酵素 活性の変化を調べた.しかしながら,2 mMまでCoAな どを添加しても両酵素ともにその活性値に全く変化は見 られず,これらの酵素はフィードバック阻害のターゲッ トではないことが示唆された(25, 26)

アーキアのKPHMTおよびKPRの解析と制御機構 の発見

PoKやPPSがCoAによる阻害を受けなかったことか ら,われわれは新たな可能性として,CoA生合成経路 の第1および第2ステップの反応を触媒するKPHMTお よびKPRの特性について解析を進め,これらの酵素が CoAやアセチルCoAにより阻害を受けるかどうかを検 証することにした(35).なお,これまでアーキア由来の KPHMTとKPRに関する解析例は報告されていなかった.

まず におけるKPHMTの候補遺伝子 を探索するため,すでに解析が報告されている大腸菌お

よび結核菌( )のKPHMT

と相同性を示すタンパク質を探索した.その結果,

TK0363がコードするタンパク質が唯一既存のKPHMT と相同性を示したため,TK0363を の KPHMT遺伝子と予想し,その解析を行った.大腸菌内 で調製したTK0363の組換え型タンパク質を用い,最初 にKPHMT活性の有無を調べたところ,TK0363は確か に期待どおりの酵素活性をもつことが確認された.そこ でCoA存在下での酵素活性を検証したが,PoKやPPS と同様に,その活性には全く変化が見られなかった.す なわち,KPHMTも阻害のターゲットではなかった(35). 続いてKPRについて同様の検証を進めることにした.

すでに解析された大腸菌および出芽酵母(

)のKPRと相同性を示す唯一のタンパク質を コードするTK1968を見いだし,これを

のKPR遺伝子と予想した.まず遺伝学的にTK1968の役 割を調べるため,TK1968遺伝子を破壊した株(ΔTK1968)

を作製してその増殖特性を解析した.その結果,通常の 培地においてΔTK1968株は宿主株と比べて顕著な生育 遅延を示したが,培地にKPR反応の生成物であるパン トイン酸を添加することによって,その生育は宿主株と 同程度にまで回復した.このことから,TK1968はパン トイン酸およびCoAの生合成に重要であることが明ら かとなった.さらに生化学的解析を進めるため,TK1968

の組換え型タンパク質を,大腸菌を用いて調製した.こ のタンパク質を用いて解析を行ったところ,TK1968タ ンパク質は2-オキソパントイン酸に対する厳密な特異性 を示したことから,TK1968がKPRをコードすることが 生化学的にも示唆された.また,既存のKPRはすべて NADPHを補酵素として利用するが,興味深いことに TK1968はNADHに対してより高い反応性を示した.ま た,CoAやアセチルCoAの添加の影響を調べたところ,

TK1968の酵素活性は顕著に低下することがわかり(図 5 のKPRはCoAによるフィードバッ ク阻害を受けることが明らかとなった.さらにさまざま な濃度のCoA存在下でNADHに対する速度論的解析を 行った結果,CoA濃度が上昇しても max値は変化しな かったが, m値は大幅に増加した.この結果より,CoA はNADHと競争的にKPRを阻害することがわかった(35)

以上のように, においてはKPRに対 するフィードバック阻害によってCoAの生合成を制御 することが示唆された.これはバクテリアや真核生物に おけるPanKを介した制御機構とは大きく異なるもので あり,新たなアーキア特有の生命機構の存在が証明され た(35)

CoAの構成成分である

β

-アラニンの生合成機構

β

-アラニンはCoAの分子骨格の構成成分であり,真 核生物・バクテリアのPSおよびアーキアのPPSの基質 の一つである.その生合成経路は,真核生物やバクテリ アにおいては,アスパラギン酸-1-デカルボキシラーゼ

(aspartate 1-decarboxylase; ADC) に よ るAspの 脱 炭

(36, 37),ウラシルの分解(38),そしてスペルミンの分

図5 由来ケトパントイン酸レダクターゼ

KPR)の活性に対するCoAおよびアセチルCoAの影響 反応系における2-オキソパントイン酸とNADHの濃度は0.2 mM である.

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● 化学 と 生物 

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(39, 40)の計3種類が知られている.しかしながら,

を含む多くのアーキアにはそれらのホモロ グ遺伝子は存在せず,アーキアにおける生合成機構は不 明であった.

われわれは,アーキアがもつグルタミン酸デカルボキ シラーゼ(glutamate decarboxylase; GAD)のホモロ グ遺伝子に着目した(41).GADはバクテリアや真核生物 に広く分布し,Gluの脱炭酸反応を触媒してGABAを合 成する酵素としてよく知られる.しかし,アーキアにお けるGADあるいはGABAの生理的な役割は解明されて いない.ただ, と近縁の超好熱性アー

キア において,GADホモログは

でGluだけではなくAspに対しても酵素活性を 示すことが報告されていた(42)ことから,われわれは アーキアにおいて

β

-アラニンはGADホモログによって 合成される可能性があると考えた.

これを遺伝学的に検証するため,まず

がもつGADをコードする遺伝子ホモログである TK1814の遺伝子破壊株(ΔTK1814)を作製し,その増 殖特性を調べた.その結果,ΔTK1814株は通常の培地 において明確な生育を示さなかったが,培地にCoAや

β

-アラニンを添加することでその生育は回復した.一方 で,GAD反応の生成物であるGABAを添加した場合で は生育は全く回復しなかった.この結果より,TK1814

遺伝子産物は においてGADではなく ADCとして機能し,

β

-アラニンおよびCoAの合成に重 要であることが遺伝学的に示された.

さらに組換え型TK1814タンパク質の酵素学的解析を 進めた結果,TK1814タンパク質はGluあるいはAspの どちらに対しても酵素活性を示すものの,Aspに対する

cat/ m値はGluに対する値よりもはるかに大きいこと がわかった.このことから,生化学的にもTK1814産物 がADCとして機能することが示唆された.

以上の結果から,アーキアにおける

β

-アラニンは,

GADホモログ産物がもつADC活性によってAspから合 成されることが明らかとなった(41)

結論と今後の展開

これまで記したように,アーキアの1種である は,バクテリアや真核生物とは大きく異なる 機構によってCoAを合成していることが明らかとなった

(図6.バクテリアや真核生物はパントイン酸の4′-ホスホ パントテン酸への変換においてPSとPanKを利用する が, を 含 む 多 く の ア ー キ ア はPoKと PPSというこれまで知られていなかった新規の酵素を使 うことがわかった(22, 25, 26, 43).PPS反応の基質である

β

-ア ラニンについては,GADがADCとして機能することで

図62-オキソイソ吉草酸から4-ホスホパ ントテン酸までの変換経路

バクテリア・真核生物の経路(右側)および アーキアの経路(左側,赤色にて示す)を,

β-アラニンの合成様式およびCoA生合成にお けるフィードバック機構の作用点(├─)も 入れて示した.

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● 化学 と 生物 

(8)

Aspから合成されることが明らかとなった(41).また経路の 制御機構については,バクテリアや真核生物ではPanKが CoAによる強い阻害を受けることでCoA合成を厳密に調 節しているのに対し, ではKPRが阻害 を受けることでその制御を行っていることがわかった(35). なお,ほかのアーキアにおいても,PPCSおよびPPCDC

( 由来)(44)やPPAT(

由来)(45, 46)の生化学的解析が行われ,それ

ぞれ予想どおりの酵素活性を示すことが報告されてい る.これらの成果と本研究の成果から,アーキアにおけ るCoA生合成機構の全容はほぼ解明された.今後の課 題としては,生合成経路の最後の反応であるデホスホ CoAのリン酸化を触媒する酵素の同定が残されている が,比較ゲノム的手法や生化学的な解析を通じて本酵素 の同定を進める予定である.またCoA生合成の制御が アーキアとバクテリアでその作用点(アーキア:KPR,

バクテリア:PanK)が異なることから,これらを組み 合わせることにより,フィードバック制御のかからない 生合成経路の構築も可能であると期待している.

文献

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45)  J.  Armengaud,  B.  Fernandez,  V.  Chaumont,  F.  Rollin- Genetet, S. Finet, C. Marchetti, H. Myllykallio, C. Vidaud,  J.  L.  Pellequer,  S.  Gribaldo  :  , 278,  31078 (2003).

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Blanchard:  , 39, 296 (2005).

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(9)

プロフィール

冨田 宏矢(Hiroya TOMITA)

<略歴>2009年京都大学工学部工業化学 科卒業/2011年同大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻修士課程修了/2014 年同博士後期課程修了/現在,東京大学大 学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻 特任研究員<研究テーマと抱負>放線菌の 二次代謝<趣味>旅行,カメラ

横大路 裕介(Yuusuke YOKOOJI)

<略歴>2007年京都大学工学部工業化学 科卒業/2013年同大学大学院工学研究科 博士課程修了/2013同博士研究員<研究 テーマと抱負>アーキアの代謝機構<趣 味>読書,散歩

跡見 晴幸(Haruyuki ATOMI)

<略歴>1987年京都大学工学部工業化学 科卒業/1989年同大学大学院工学研究科 工業化学専攻修士課程修了/1992年同博 士後期課程修了,同大学工学部助手/1994

〜1995年ドイツシュツットガルト大学博 士研究員/1997年京都大学大学院工学研 究科助教授/2009年同教授<研究テーマ と抱負>極限環境微生物の代謝・生理<趣 味>野球・アメフト

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.85

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