• 検索結果がありません。

はじめに 「わが政権は、1兆ドル以上の(財政)赤字だけでなく

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "はじめに 「わが政権は、1兆ドル以上の(財政)赤字だけでなく"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

「わが政権は、1兆ドル以上の(財政)赤字だけでなく、大恐慌以降で最も深刻な経済非常 事態をも引き継いだ。この危機は普通の景気後退ではなく、大恐慌以来最悪の経済危機だ。

この国が再び正常に機能するよう、私は何でもする」―オバマ米新大統領は2009年2月9 日、大統領就任後初めての記者会見の冒頭、直面する経済危機の深刻さを強調するととも にその克服への断固たる決意を表明した。対外政策では、1月20日の就任演説と同様、対話 と協力をベースとするとし、ブッシュ前政権時代の「単独主義」路線からの決別を表明した。

一連の発言で示された外交の中心はイランとの対話、アフガニスタン問題などもっぱら 安全保障問題であり、対外経済政策に関してはほとんど言及がない。ただ、現時点で明ら かに言えることがある。それはオバマ政権の対外経済政策が基本的には国内経済危機克服 策の投影となるということである。また、その基本的な原理は、就任演説で「今日問うべ きは政府が大きすぎるか小さすぎるか、ではなく、どう機能するかだ」と述べたように、い わゆる原理主義型ではなく、現実主義、機能主義であり、また「結果重視」の方向だろう。

1 「蜜月」がない新政権と議会

世界同時不況のなかで世界各国が現在注視しているのは、米国が危機克服の過程で内向 き志向となり、保護貿易へ傾斜するのではないかという点である。同時不況だから各国と も自国の危機対策に懸命であり、その過程で保護主義的な動きがにわかに顕在化しつつあ るが、自由貿易の旗振り役である米国までが保護主義に走ったら、世界的な保護貿易への 傾斜に拍車がかかってしまう。

当面の関心事は米議会が景気政策に盛り込もうとしている自国製品優先購入を義務付け る「バイアメリカン」条項の行方である。米国をはじめとする20ヵ国・地域の首脳たちは 金融危機を受けて2008年11月にワシントンで開いた首脳会議(金融サミット)で「今後1年 間は新たな貿易障壁を設けない」こと、および保護貿易を防ぐために世界貿易機関(WTO)

の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の早期合意を目指すことを申し合わせた。しかし、

現実には、保護貿易措置が増えつつある。

ロシアは2009年1月に外国製自動車の輸入関税を引き上げた(乗用車とトラックの関税を

25%から30%へ引き上げ)のに続き、同2月には一部鉄鋼製品についても関税を引き上げた。

(2)

鉄鋼製品の関税引き上げも5―10%幅であり、ごく短期の措置とされているが、状況次第で 長期化する可能性も指摘されている。

その他、インドが鉄鋼製品について、韓国は原油に対する関税引き上げに踏み切ってい る。中国も豚肉や豆かすなどの輸入関税を2009年早々から引き上げた。さらに欧州連合

(EU)は2008年10月の段階で、それまで停止していた穀物輸入関税を再導入している。

WTOの緊急調査によれば、米国発の金融危機が深刻化した2008年秋以降、世界16ヵ国・

地域が合計19件の保護貿易措置を導入した(『日本経済新聞』2009年2月1日)。

そうした状況のなかでの米国のバイアメリカンの動きであり、その行方が世界貿易に及 ぼす影響が懸念されるわけである。バイアメリカン条項は、政府提案の8000億ドル(約72 兆円)を超える規模の景気対策法案に議会下院が議員修正の形で盛り込んだもので、公共事 業における米国製品の使用を義務付けている。

まず、議会下院が鉄、鉄鋼を対象にした案を可決、ついで上院が対象をさらに工業品全 般に広げ、「および工業製品(and manufactured goods)」と書き加えた法案を審議しだした。鉄 以外の金属の建築資材やセメント、コンクリート、木材、化学製品等が対象となる案である。

こうした米議会の動きに対して、欧州委員会は「可決されれば看過できない」と反発、

日本も二階俊博経済産業相が金融サミットの宣言違反だと警告した。4月には第2回の金融 サミットがロンドンで開かれるが、保護貿易問題が重要テーマの一つになり、オバマ政権 の姿勢が問われる。

オバマ大統領自身、こうした議会のバイアメリカンの動きに対して、見直しを表明した。

最終的には「国際的な貿易協定を順守する」という趣旨の一部が加えられるとみられるが、

現実にどう運用されるか不透明である。

日本、韓国、スイス、ブラジルなど15ヵ国・地域は、保護主義に反対する共同声明をま とめ、WTOに提出した(『日本経済新聞』2009年2月9日)。金融危機のなかで各国に広まる保 護主義を牽制するのが狙いである。声明は特に反ダンピング措置の急増回避を狙っており、

米国のいわゆる「ゼロイング」制度がターゲットとなっている。

「ゼロイング」制度は、ごく一部の取引だけであってもダンピング的な安値輸出があれば、

輸入品に上乗せ関税を課する仕組みである。WTOはこれを協定違反だとする判断を下した が、米国は撤回していない。

バイアメリカン制度や「ゼロイング」制度の取り扱いを含め、オバマ政権がどういった 貿易政策を展開するかまだ不透明である。オバマ政権の経済政策チームの中心人物はオバ マ大統領と同じ歳のガイトナー財務長官である。同長官は外交評議会で貿易政策タスクフ ォースを取り仕切った際には、WTOのドーハ・ラウンドの早期妥結を提言し、自由貿易を 主張していた。

ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、「ガイトナー氏はオバマ政権のなかで中心人物 だし、最も強力な自由貿易論者だ」と評している。また、国家経済会議(NEC)を取り仕切 るサマーズ氏はマクロ経済学者であり、明らかに自由貿易派である。

しかし現在の米国は、ともかく深刻な経済状況にある。2009年1月の米新車販売台数は前

(3)

年同月を37%も下回り、27年ぶりの低水準に落ち込んでいる。単月の販売台数はついに中 国を下回ったようだ。自動車ビッグスリーの経営はほとんど破綻状態である。米国全体の 失業も急増し、それを反映した議会内の保護主義ムードは決して軽視できない。オバマ大 統領自身は基本的に「現実主義」者であり、議会の声を全面的にはねつけることもできな いだろう。

バイアメリカンの適用を「国際協定に反しない」形で行なうなら、日本を含め政府調達 に協定を結んでいる国は適用対象外となるはずであり、直接的な実害は少ないだろう。ま た、バイアメリカン政策をとったところで、米国内の供給能力には限界があるとの指摘も ある。鉄鋼メーカーなどはその典型例だという(『ナショナル・ジャーナル』誌寄稿家、ブル ース・ストークス氏)。

しかし、米国の動き次第で、すでに広がりつつある各国の保護貿易傾斜に拍車がかかる ことが懸念される。さらに、輸出については米国は「相互主義」に立ち、各国の政府調達 における米国企業の対等の取り扱いをより強く求めるだろう。オバマ政権としても、産業 界、議会の保護主義傾斜を抑制するには、景気対策においても米国の輸出拡大においても、

成果を上げる必要がある。

「結果」あるいは「成果」に米議会は注目する。議会筋は新政権と議会との「蜜月」はな いと言う。たとえばボーカス上院財務委員長(民主党)は、1月26日にガイトナー氏の財務 長官指名承認の後に声明を発表して、蜜月を否定し、議会が厳しい姿勢で新政権の政策を 監視する意向を示した。

世界銀行の見通しによれば、2009年の世界全体の貿易は小幅ながら縮小する。2009年の 世界貿易環境はWTOのドーハ・ラウンドが停滞したままであることも加わり、歴史的にも 厳しく、世界経済にとって試練の年となりそうだ。

2 グローバル不均衡と為替をめぐる摩擦

為替レートをめぐってオバマ政権と中国の関係が緊張している。きっかけはガイトナー 財務長官の言動である。オバマ大統領から財務長官に指名されたガイトナー氏が、1月下旬、

上院財政委員会所属議員の質問に対する書面での回答で、「オバマ大統領は中国が為替レー トを操作しているものと確信している。その確信は多くのエコノミストの一致した結論に 基づくものだ。新政権の経済政策チームは現下の経済環境においていかに最良の為替調整 を実現するか、協力して戦略を構築するだろう」という趣旨の発言をした。

ブッシュ前政権は政治的にも微妙な「通貨操作」という言葉を慎重に避けていた。政府 が特定の国を「為替操作国」だと公式に認めると、それを除去するための交渉に入らなけ ればならなくなるからである。ポールソン前財務長官は、中国対しては「市場の実勢をよ り反映した為替レートが望ましい」というような一般論的な表現を使い、婉曲的に人民元 の切り上げを求めたことはあるが、「為替操作」という表現は使わなかった。

ガイトナー発言に対して中国は即座に反応した。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁 は2月4日付けの同行機関誌『金融時報』で人民元政策について、「現在、政策を考える際に

(4)

最も重要な要素は国際金融危機だ。特殊な時期には政策も一般の状況下とは違ったものと なる」と述べ、さらに「人民元相場は合理的で均衡のとれた水準で基本的に安定しており、

大きく変動させるべきではない」と強調した。これは、米国が求めるような人民元切り上 げの考えがないことを示したものと受け止められている。

人民元は2005年7月に約2%切り上げられた。その後、2008年7月ごろまで緩やかに上昇 を続け、3年間で20%ほど切り上がった。しかし、その後は、中国の輸出が減少するなかで 人民元相場は下落しだしている。

中国政府は市場の需給を反映する動きだと説明しているが、米政府は元安に意図的に操 作していると受け止めだしているようだ。同行の蘇寧副総裁も「ガイトナー発言は金融危 機の原因分析を誤った方向に導く」と反論した。中国語を話すガイトナー氏には中国政府 内に期待も生まれていたというが、それだけにガイトナー発言は中国にとって期待を裏切 られた格好でもあり、ショックだったろう。

ただ、現実問題として中国の国内には人民元の対ドル・レート切り下げを求める声も出 ている。それは中国が2年間で総額4兆元(約54兆円)にのぼる大型の景気刺激策を打ち出 したものの、これまで成長を牽引してきた輸出が2008年末以降、急減しだしたためである。

2月8日付けの『北京晩報』は「多くの人が元切り下げによる輸出促進を政府に要望してい る」と報じた。

為替政策をどうするか、今後の米国政府にとっては、複雑な難問でもある。理由は、第 一に、米国が世界中の経常収支赤字を一国で生み出し、中国や日本など、その他の世界が 大幅な経常黒字を累積させるという格好の、国際収支構造の両極分解(いわゆるグローバル 不均衡)の存在が世界の為替市場の不安定構造となっているためだ。

第二の理由は、米国の貿易赤字全体に占める対中国赤字が最大であり突出して大きいが

(2008年1―11月で、2465億ドル)、中国は同時に米国国債の最大の保有国であり巨額の赤字 である米国の財政は中国の引き続く米国債購入なしには成り立たない構図になっているこ とである。

2月初めに開いた米財務省の国債発行に関する諮問会議の分析報告によると、世界経済が 失速し中国への資本流入が減速すると、人民元買い、したがって人民元切り上がり圧力が 弱まる結果、人民元高を抑制するために米国債を購入する必要性はそれだけ薄れる。米国 はしばらく毎年1兆ドルを超す財政赤字を出す見通しであり、それを賄うために巨額の国債 発行が続く。その赤字国債の買い手である中国の動きは米国にとってきわめて重要であり、

中国の行動が大いに気になるところだろう。

この国債消化という点では、一国としては中国がとりわけ重要だろうが、その他の黒字 国による米国債購入も重要である。米国債の保有残高に占める外国全体の比率は1994年当 時は19%程度だったものが最近では50%を上回るに至っている。もちろん中国の比重は高 いが米国が中国だけウォッチしていればいい状況でもない。

財務省当局者が明らかにした市場予想によると、2009年度の米国連邦政府の財政赤字は1 兆6000億ドル、国内総生産(GDP)比で10%超にまで膨張する。そうした財政赤字拡大見通

(5)

しのなかで、2月に入って米国の長期金利が上昇気配をみせるなど、金融・資本市場が微妙 な動きをしだした。金利の上昇は財政面からの景気刺激策の効果を減殺させると同時に、

為替市場を不安定にする。

こうした複雑な状況から、行天豊雄元財務官(現国際通貨研究所理事長)はロイター通信 とのインタビューで「オバマ経済チームは為替相場を政策手段に使う発想はないのではな いか」と次のように解説している(ロイターのウェブサイト、2009年1月13日)。

「為替については、そもそも今度の危機の結果、国際通貨情勢は大きく変わった面もあるが、

変わっていない面もある。つまり、特に日本などでは、今回の危機で、ドルの国際的な基軸通 貨としての地位も弱体化しドルが暴落するのではないかという話が多いが、実際には逆のこと が起こっている。実質実効レートでみると、ユーロや途上国通貨が安くなったことの反面でも あるが、危機の間にドルは強くなった。ドルが下落している相手は、円と人民元だけだ。今度 の危機は、ドルという通貨の国際的地位の下落と直接関係していない。ドルをめぐる情勢は単 純ではない。基本的には為替レートは市場が決めるもので、政府は介入すべきではない。オバ マ政権の経済チームは、為替相場を政策手段に使う発想があまりない人たちではないか。マク ロ経済について理論的にみている人が多く、為替が大事な政策上の武器としてそれをいじるこ とに興味をもっている人はあまりいないのではないか」。

米国の財政赤字は経済危機による税収減少と景気対策、金融安定化策のための追加支出 で危機的なまでに拡大しつつあるが、目先的には世界的なドル不足という奇妙な状況にあ る。グローバル不均衡はなお拡大しているにもかかわらず、である。それは、市場の混乱の なかで目先的にドルの保有者がリスク回避のためドル投資を極端に抑制しているためだろう。

それはグローバル不均衡の調整と、それがスムーズにいかない場合に起こるかもしれな いとされるドル暴落の危険性が、ともに 先送り されているということではないか。危 機は目先の現実の危機と長期構造的な不均衡を背景とした潜在的な危機と二つ存在してい る。それだけに、政策選択、政策運営が難しい。

3 動き出すエネルギー環境政策

オバマ政権は、地球環境問題への取り組みが後ろ向きで世界から批判されたブッシュ政 権とは一変し、スタート直後からこの問題への積極姿勢を明確に示している。オバマ政権 のエネルギー・環境政策の担当者の顔ぶれは「夢の環境派チーム」と称されるほどである。

オバマ大統領自身も「米国が気候変動問題のリーダーになる」と宣言し、景気対策も環 境・エネルギー分野への投資で内需拡大と雇用拡大を図ろうとする グリーン・ニューデ ィール 政策を打ち上げている。

まず、「環境派ドリームチーム」の顔ぶれであるが、エネルギー省(DOE)長官のスティ ーブン・チュー氏(60歳)はレーザー光による原子冷却および捕足法の開発で1997年にノ ーベル物理学賞を共同受賞し、化石燃料よりも太陽光・バイオ燃料など再生可能エネルギ ーの利用を推進する中国系科学者である。政治とは無縁で、石油業界の利権や癒着が絡む 可能性が少なく、透明性の高い革新的なエネルギー政策を進めやすいとみられている

(6)

(yamada-shuzo.blog.drecom.jp/archive/122)。

エネルギー・気候変動問題担当の大統領補佐官であるキャロル・ブラウナー氏(52歳)は、

クリントン政権時に8年間、連邦環境保護局(EPA)長官をつとめた実績をもつ。大気汚染 の規制強化に手腕を発揮した。チュー長官を支えながら、環境政策を統括する。なお、こ のポストはオバマ大統領肝いりで新設された。

ホワイトハウス環境評議会議長となったナンシー・サトリー氏(46歳)はロサンゼルス市 副市長としてEPA顧問をつとめた。市の大気汚染低減に尽力、カリフォルニア州の温室効 果ガス削減法案の成立にも関与した。

EPA長官のリサ・ジャクソン氏(46歳)はニュージャージー州知事首席補佐官で同州の温

室効果ガス削減の目標設定で功績がある。ブラウナー、サトリー両氏とともに女性が環境 チームの柱として起用された。

このほか、さらに、地球温暖化問題を広く世界に訴え続け2007年にノーベル平和賞を受 けたアル・ゴア元副大統領がこのドリームチームをバックアップするという体制である。

「環境派ドリームチーム」の4人は、石油の国外依存から持続可能なエネルギーへの転換 というオバマ大統領の持論の具体化にあたるわけである。

石油の外国依存からの脱却は容易ではないだろう。しかし、中東など地政学的に不安定 な地域へのエネルギー依存の引き下げは、そうした地域への米経済の依存を引き下げるこ とにより、結果として米国の外交選択をより柔軟なものにしうる。むしろ逆に、外交上の 選択の範囲を広げ外交力を強化するために、その方法論としてエネルギーの外国依存を引 き下げるという発想だろう。

それを実現するためにオバマ政権は再生可能エネルギー開発を促進する。したがって、

再生可能エネルギー開発の促進は、国内的な雇用促進策であると同時にオバマ政権の外交 政策の重要な一環だと言うことができよう。

今年は地球温暖化対策の国際ルールを決める節目の年にあたる。現行のルールを定めた 京都議定書の対象期間は2008―12年であり、それに続く2013年以降の枠組みをつくる交渉 が本年末のタイムリミットに向けて大詰めを迎える。

米国は現行の京都議定書を批准しながら2001年3月にそれからの離脱を表明してしまっ た。世界最大の二酸化炭素排出国である米国の議定書離脱は京都議定書の効果を脅かすも のであり、各国はブッシュ政権の環境問題に腰が引けた姿勢を批判した。一方で、ブッシ ュ政権は国際社会の十分な支持を得ないままイラク戦争に踏み切り、米国の一国主義、単 独行動主義が世界の批判の的となっていた。米国内でも、多くの識者が「こうした単独主 義で米国のソフトパワーが犠牲になった」と論じた。

しかし、ホワイトハウスの主が変わった途端、米国はこの分野で方向転換したわけだ。

今回のエネルギー・気候変動担当の大統領補佐官ポストの新設は、「気候変動問題で国際的 なリーダーシップを発揮する」というオバマ大統領の決意の表われとみていい。

京都議定書は、二酸化炭素などの地球温暖化の原因となるガスの排出量削減の目標を史 上初めて国際的に定めた取り決めである。文字どおり歴史的な取り決めである。日本が

(7)

1979年に主催した京都での第3回国際連合気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)で採択さ れたこともあり、日本は「環境立国」の国としてのリーダーシップを誇りにしてきた。

ただ、京都議定書は温暖化ガスの最大排出国である米国が離脱したうえ、急激な経済成 長で排出量が急増している中国やインドが「発展途上国に義務なし」ということで事実上 不参加。その結果、削減義務を負う国を全部合わせても排出量は世界全体の3割でしかなく、

議定書の効果に限界がある。このため、京都議定書に続くポスト京都議定書づくりでは、

環境消極派の米国と途上国をどう参加させられるかが重大な課題となっている。

しかし、オバマ政権の登場で状況が変わった。米国は今後積極的にポスト京都の交渉に 参加するだろう。オバマ大統領は上記のような環境派ドリームチームをつくり、積極的に 動き出した。大統領就任の1週間後に、オバマ大統領は自動車の排気ガス規制厳格化など新 たな環境政策の指針を盛り込んだ大統領令に署名した。排ガス中の温暖化ガスの3割削減を 義務付けるカリフォルニア州の規制を容認し、連邦の燃費規制も厳しくした。それにより 米国は日本とほぼ同じ水準の排ガス規制を採用することになった。

カリフォルニア規制はブッシュ政権が2007年に不承認を決めたが、今回の連邦政府によ る規制容認により、ニューヨーク州など他の13州もカリフォルニア州と同様の規制を採用 するものとみられており、「事実上、連邦基準が生まれる」格好となった(『日本経済新聞』

2009年1月27日)。

ブッシュ政権の政策を覆した今回の大統領令署名に際してオバマ大統領は記者会見し、

「今回の決定は資源の海外依存脱却に向けた第一歩だ」と述べるとともに、「米国が地球温暖 化問題で世界を主導する準備は整っている」と宣言した。

こうした米国の方向転換とくらべ、「環境立国」を売り物にしてきたはずの日本のポスト 京都への取り組みはもたついている。オバマ大統領はすでに「2020年までに温暖化ガス排 出量を1990年レベルまで削減する」とする中期目標も打ち出した。EUは加盟国全体で1990 年より20%削減するとの目標を決めた。ドイツは同40%、フランス20%、英国は少なくとも 26%の削減という方向を出している。ところが京都議定書の取りまとめ役となった日本は、

中期目標をいまだに示せないでいる。現状では欧州、米国が主導しており、国際会議の場 で日本の存在感は薄い。というより、日本の消極姿勢ばかりが目立っている。

4 日米関係と米中関係

米国の外交全般について言えば、①軍事力だけに偏りがちだったブッシュ政権とは異な りハードパワーとソフトパワーを組み合わせた「スマートパワー」(駐日大使に起用されると みられるハーバード大学のジョセフ・ナイ教授の持論)を志向する、②米国のソフトパワーを 犠牲にして進められたブッシュ政権の単独主義、一国主義から決別し、対話と交渉、協力 を重視する、③結果、成果を重視する、④そのためテーマごとに協力すべき重要な国との 関係を強化する、⑤その際、当然のことながら中国、インドなど経済力を隆起させている 新興経済との関係を重視する―などの方向となるだろう。

中国に関しては、同国が金融サミットに不可欠の存在として参加したように、米国にと

(8)

っても世界全体にとっても、とりわけ経済問題において中国の関与をいかに確保するか、

いかなる形の関与を実現するかがポイントとなる。最近は経済分野では「米中G2」論が米 国で浮上している。その典型はピーターソン国際経済研究所(IIE)のC・フレッド・バーグ ステン所長の「米中によるG2形成」論である。同氏は『フォーリン・アフェアーズ』誌 2008年7/8月号に寄せた論文で「米中G2の形成」を呼びかけた。

論文は「経済超大国とみなされるには、世界経済に大きな影響を与えるだけの経済規模 とダイナミックスをもつとともに、世界経済に統合されていることが条件になる。現在、

この条件を満たしているのは、米国、EU、それと中国の三つだけだ」と断じ、為替政策で もグローバル貿易システムの運営においても、中国は米国の要請を拒否しているが、さま ざまな問題に対処するには「ワシントンは北京に対する経済政策戦略を大胆かつ細心の注 意をもって変えていく必要がある、ワシントンは短絡的に二国間ばかりに焦点をあてるの ではなく、北京とグローバル経済システムを共同で主導していくための真のパートナーシ ップを構築していくべきだ」と論じている。

また「グローバルな経済超大国、正当な制度設計者、国際秩序の擁護者としての中国の 新たな役割に向けて環境を適正化できるのは、また適正化に向けた試みとみなされるのは G2構想だけだろう」と述べている。

バーグステン氏はインドについてはGDPが中国の半分もないと指摘し、日本については

「1970年代初頭から80年代にかけて日本が急成長したときもグローバル社会は状況を懸念し たが、日本はほとんどすべての国際的な案件について受動的で場当たり的な態度に終始し た」と厳しい評価をしている。

このG2論にショックを受けた日本の政策当局者、識者も多いだろう。しかし、結果重視 のオバマ政権のもとで日本がしかるべき位置と影響力を確保するには、経済危機対策にお いても、ドーハ・ラウンドの交渉においても、さらに地球温暖化問題などにおいても、日 本が主体的に明確な方針を示し、行動して実績を示すしかない。

オバマ大統領が駐日大使に知日派であるだけでなく国際政治学の世界で圧倒的な評価と 影響力をもつナイ氏を起用しようとしていること、同じく知日派で安全保障問題の専門家 として高く評価されているカート・キャンベル元国防次官補代理を国務次官補に配してい ることなどから考えると、新政権が日本を軽視しているわけでは決してないと言える。だ が、それは日本への期待が高いということでもあり、日本がそうした知日派人物の起用に 喜んでいるだけでは、とても米中G2論に異論を唱えることはできないだろう。

ただ、米国がアジ太平洋地域の経済と安全保障を重視するなら日米中3国の協調と協力が 不可欠である。対話と協調を謳うオバマ政権の登場で日本の外交は構想力と実行力を試さ れる。日本にとって、それは試練であると同時にチャンスでもある。問題は混乱状態を続 ける日本の政治状況のなかで、いかに本格的で真摯な政策論議を確保するかにある。

こじま・あきら 日本経済研究センター特別顧問 http://www.jcer.or.jp/

[email protected]

参照

関連したドキュメント

い。例えば、連邦法人税率に関してトランプ氏は 最高税率を現行の 35%から 15%へ引き下げる提 案をしているのに対し、共和党の案による最高税 率は

ら,中華民国時代からの課税権を引継いで日 本人に対する課税を強化したい満州国の税務 当局と,満蒙条約とその

なる。もちろん,税源の地方への大幅な委譲ほ,地域間に経済力の大き

(主として『居住地』),サービスについては,『サービスの供給地』と考えるべきである」と

日本の財政赤字は,1975 年度では一般政府部門全体で約 37 兆円(名目国 内総生産比 24.8%)であったのに対して,2005

上記のように分類された各政府支出について,68SNA と 93SNA では支出項目の内容が異

トランプ大統領は、鉄鋼とアルミニウムへの関税賦課を発表 トランプ大統領は 3 月 8 日、通商拡大法

が得られるのである。ただし、日本での先行研究 21 と比べるため、ここでは、集権度の計算は