定理 G.1 (偏角の原理 (argument principle)) Dは C の有界領域で、その境界 ∂D は 有限個の互いに交わらない区分的にC1級の単純閉曲線であるとする。D のある開近傍で 有理形の関数f に対して、
Z
C
f′(z)
f(z) dz = 2πi(N −P).
ただしf は C の中に零点をN 個、極を P 個持つとする (どちらも位数の分だけ重複し て数える)。
有理形でなく正則とすると、P = 0 なので、右辺は 2πiN. f′(z)
f(z)dz =dargf(z) と書けることから、偏角の原理と呼ばれている。
定理 G.2 (Rouch´e の定理) D はC の有界領域で、その境界∂D は有限個の互いに交わ らない区分的にC1級の単純閉曲線であるとする。D のある開近傍で正則な関数 f, g に 対して、|f(z)| >|g(z)| が成り立つならば、D 内の零点の個数は N(f +g) = N(f) を満 たす。
例 G.3 |z| ≤1 の近傍で正則な関数 g が、|z|= 1 で |g(z)|<1 を満たせば|z| <1の範囲に z =g(z)の解がただ一つ存在する。
参考文献案内
チェックすべき本 「複素関数」でも紹介した、1変数複素関数論入門の定番のテキスト(例 えば、神保 [10], 杉浦 [19], Ahlfors [23], 高橋 [18] など) は、もちろん参考になるが、留数定 理の説明が終わったところから、十分なページを割いているテキストにも目を向けるべきであ ろう。
例えば、田村[7],笠原 [25], 藤本[26], 野口[15]などがあげられる27。
[7]は、微分積分の延長として、関数論の初等的範囲から重要な話題をピックアップして作っ た、とあり、確かに標準的な関数論入門の少し先を初等的に取り扱っている(格好良く出来た りもするところを初等的に押し通すのは好感が持てる)。「地味」と捉えられがちであるが(普 通の関数論入門で重要視されるような計算問題の解き方を詳しく解説する、という本ではない ので、一般受けしないのだろう)、思いの外参考になる。
[25], [26], [15] も、それぞれ特色のある良書である。自分の目的に合うかどうか知るため、
めくってみることをお勧めする。
(脱線になるけれど、これらの本は、ネットで酷評されたりすることがある。関数論入門の 参考書として使う場合は、難しいし、試験対策に役立たないかもしれないので、点が低くされ たりするのかも。そういうのに惑わされないように。)
書籍ではないが、大島[27]は、色々なことが簡潔に説明されていて便利かもしれない(非常 に情報量が多い)。
Riemann面 関数論で、少し突っ込んだ話をする場合、Riemann 面を避けて通ることは出
来ない。
昔の関数論の本は、多価関数の Riemann 面の素朴な説明が載っていることが多かったが、
最近はあまり見かけない。(いいのないかなあ?)
本格的なテキストは、非常に多く出版されている。ワイル[28] が有名な古典である(3つの 版があるが、どれも重要という人もいる。邦訳は初版を訳したもの(?))。基本的なところから の接続が良い本を紹介したいが、どうすべきだろう…
Riemann面について学ぶには、多くの数学的常識 (位相空間,多様体, etc.) が必要となる28。
そういう意味で敷居が高いかもしれない。
ポテンシャル問題 (準備中)
多変数関数論 多次元化に目を向けると、多変数関数論や複素多様体論というものがある。最 近は日本語に限っても色々なテキストが出版されているが、筆者は不勉強なので省略する。
佐藤超関数
27これらの本は、関数論の入門講義のテキストとしては“難しめ”で、正直勧めにくいが、入門の先を学ぶ場 合は推奨本になる。
28例えば位相空間については、とっつきやすそうな新しいテキストも増えているが、松坂[13],河田・三村[14]
をあげておく。また、多様体については…これはヘビー級で、どうしたら良いかなあ…
122
“数値関数論” Henrici [1], [2], [3]は、厚手の本 3冊からなる数値的な応用複素関数論のテキ ストである。ややクラシックな応用数学の本と言うべきかもしれないが、私には、ある意味で は逆に時代を先取りしているように思える。20世紀の数学では、対象の存在が証明出来れば、
それを求めるアルゴリズムを必須とせずに議論を進めるようになった。それは数学の大きな進 歩ではあったが、行き過ぎの面があったのではないか。具体的に計算できる場合は、計算で求 めてしまった方が良い場合があるのは当然である。それなのに計算の価値を不当に低く評価し てきたようなところがある。最近は、アルゴリズムの追求が尊重されるようになって来てい る。(解析学では、微分方程式の解を近似的にでも計算することに、従来から一定の価値が認 められてきたが、最近では代数学(Gr¨obner 基底に基づく様々な計算法など) や幾何学の分野 でも変化が進んでいるように見受けられる。)
参考文献
[1] Henrici, P.: Applied and Computational Complex Analysis Volume 1: Power Series Inte- gration Conformal Mapping Location of Zero, Pure & Applied Mathematics, John Wiley
& Sons Inc (1977, 1988 (Paperback)).
[2] Henrici, P.: Applied and Computational Complex Analysis Volume 2: Special Functions, Integral Transforms, Asymptotics, Continued Fractions, Pure & Applied Mathematics, John Wiley & Sons Inc (1977, 1991 (Paperback)).
[3] Henrici, P.: Applied and Computational Complex Analysis Volume 3: Discrete Fourier Analysis, Cauchy Integrals, Construction of Conformal Maps, Univalent Functions, Pure
& Applied Mathematics, John Wiley & Sons Inc (1986, 1993 (Paperback)).
[4] 桂田祐史:複素関数論ノート, 現象数理学科での講義科目「複素関数」の講義ノー ト. http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/lecture/complex-function-2020/
complex2020.pdf (2014〜).
[5] 森正武, 杉原正顯:複素関数論, 岩波書店 (2003).
[6]
ひとつまつ
一 松
しん
信:留数解析— 留数による定積分と級数の計算, 共立出版(1979), 第5章は数値積 分の高橋-森理論の解説。
[7] 田村二郎:解析関数,裳華房 (初版1962, 新版1983).
[8] 鹿野健:リーマン予想, 日本評論社 (1991).
[9] Bak, J. and Newman, D. J.: Complex Analysis, Second Edition, Springer (1999).
[10]
じんぼう
神保道夫:複素関数入門, 現代数学への入門, 岩波書店 (2003), 丸善 eBook ではhttps:
//elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000006063でアクセスできる.
[11] 楠幸男, 須川敏幸:複素解析学特論, 現代数学社 (2019/11/21).
[12] 志賀浩二:複素数30講, 朝倉書店 (1989).
[13] 松坂和夫:集合・位相入門, 岩波書店 (1968).
[14]
か わ だ
河田ゆきよし敬義, 三村雄征:現代数学概説ゆ き お II, 岩波書店 (1965), 古いテキストであるが、位相空 間論で大事なことが証明付きで程よく網羅されているので、辞書として使うのに好適で ある。
[15] 野口潤次郎:複素解析概論, 裳華房 (1993/5/1).
[16] 辻正次, 小松勇作:大学演習函数論, 裳華房 (1959), 辻・小松は編著者で、執筆はそれ以 外に田村二郎、小沢満、ゆうじょうぼう祐 乗 坊ずいまん瑞満、 水本久夫。
[17] 斎藤正彦訳・討論フレシェ著, 森毅解説・討論, 杉浦光夫討論:抽象空間論, 共立出版 (1987/11/5).
[18] 高橋礼司:複素解析, 東京大学出版会 (1990), 最初、筑摩書房から 1979 年に出版さ れた.丸善 eBook では、https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/
3000049441 でアクセスできる.
[19] 杉浦光夫:解析入門II,東京大学出版会(1985),丸善eBookでは、https://elib.maruzen.
co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000046844 でアクセスできる.
[20] Abikoff, W.: The Uniformization Theorem,The American Mathematical Monthly, Vol. 88, No. 8, pp. 574–592 (1981).
[21] 高木貞治:函数論縁起, 共立出版 (1946),高木[29] に収録されている。
[22] Conway, J. B.: Functions on One Complex Variables I, II, Springer (201x).
[23] Ahlfors, K.: Complex Analysis, McGraw Hill (1953), 笠原 乾吉 訳,複素解析,現代数学社 (1982).
[24] Dixon, J. D.: A Brief Proof of Cauchy’s Integral Theorem, The American Mathematical Monthly, Vol. 29, No. 3, pp. 625–626 (1971).
[25] 笠原乾吉:複素解析, 1変数解析関数, 実教出版 (1978), 2016 年にちくま学芸文庫に 入った (ファンとして非常に嬉しい)。新井仁之先生の書評が http://researchmap.jp/
joqp1cgc9-1782088/ にある。ついにKindle 化されたので買えなくなることはなくなっ たが、数式の見栄えがpoorである。文庫に入ったのは最近のことなのに、なぜこうなる??
[26] 藤本ひろたか孝坦:複素解析,岩波書店 (2006/5/10).
[27] 大島利雄:関数論 (複素解析IIの講義のためのノート), http://akagi.ms.u-tokyo.ac.
jp/CAMPUS/ca.pdf (2003〜2008).
124
[28] H.ワイル:リーマン面, 岩波書店 (1974/5/27, 2003/5/23), 田村二郎訳.
[29] 高木貞治:近世数学史談及雑談,共立出版 (1946), 1996年に「近世数学史談・数学雑談復 刻版」として復刻されている。また1995年に岩波文庫に「近世数学史談」が入った。
索 引
analytic, 95
analytic continuation, 96 biholomorphic, 75
conformal mapping, 86 essential singularity, 52 homeomorphism, 47 M¨obius transformation, 68 meromorphic, 65
monodromy theorem, 99 neighborhood (of a point), 107 neighborhood (of a subset), 107 rational function, 59
Riemann sphere, 48
stereographic projection, 47 univalent function, 87,91 一意化定理 (Riemann面の),94 1次元複素射影空間,46
1次分数変換, 68 一様収束, 23
Wirtingerの微分係数, 120 解析関数 (Weierstrassの), 97 解析接続, 96
解析接続 (曲線に沿う), 96
解析的, 95 回転数, 110 各点収束, 23 関数要素, 96 基本近傍系,108 共形変換, 86 極 (∞ が), 52
曲線に沿う解析接続, 96 近傍(点の),107
近傍(部分集合の), 107 近傍系,107
Cayley変換, 82 広義一様収束, 25 孤立特異点 (∞が),52 指数, 110
写像関数, 75
収束する (無限積が),36
主部(∞のまわりのLaurent展開の), 53 Schwarzの補題, 77
除去可能特異点 (∞ が), 52 真性特異点 (∞ が),52 真性特異点 (一般の),67 ゼータ関数, 28
絶対収束する(無限積が), 37 双正則,75
素数定理, 29 単葉関数, 87, 91 直接解析接続, 96 等角写像, 75, 86 同相写像, 47 二重級数定理, 28 非調和比, 72 部分分数分解, 59 Hurwitzの定理, 87,91 Bernoulli数,34
補完実数直線, 46
ホモロジー同値 (0に), 112
126