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計量空間

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 96-99)

さて,ここではR2×R2からRへの写像fを, f(u,v) =x1x2+y1y2 (23.6) と定義してみよう。f は我々が高校以来なじんできた,

「数ベクトルの内積」である。でも,本当にこれを内積と 呼んでもよいのだろうか? 換言すれば, この写像は, 上 の内積の公理をみたすのだろうか?

まず公理の1)について。f(u,u) = x21+y12となる が, x1y1も実数なので, これは明らかに0以上にな る。従って公理の1)は成り立つ。

● 問636 同様にして, 式(23.6)のf が内積の公理の 2)から5)も全て満たすことを示せ。

● 問637 R2×R2 からRへの様々な写像を考えてみ よう。u= (x1, y1), v= (x2, y2)とする。

(1) 次式の写像fは内積であることを示せ:

f(u,v) = 2x1x2+ 3y1y2 (23.7) (2) 次式の写像fは内積でないことを示せ:

f(u,v) =x1x2 (23.8)

ヒント: 公理の2)が成り立たない。その反例を示 せばよい。

(3) 次式の写像fは内積でないことを示せ:

f(u,v) =x21+y12+x22+y22 (23.9) ヒント: 公理の4)と5)が成り立たない。そのどち らかの反例を示せばよい。

● 問638 1 x 1 の範囲で積分可能*4な関数 f(x)からなる線型空間Xを考える。f(x), g(x)∈Xに ついて,

1 2

1

1

f(x)g(x)dx (23.10)

という演算を考える。この演算は内積である(内積の公 理を全て満たす)ことを示せ。

普通はR2の内積と言えば, 式(23.6)のことである。

*4(発展)厳密に言えば, 2乗可積分

実際, 例23.1と問636でみたように, 式(23.6)は内積 の公理を満たすから内積と呼んでよい。しかし, 数学的 には, それ以外にも式(23.7)のようにR2の内積といえ るものが存在するのだ。また, 関数の集合が作る線型空

間には, 式(23.10)のように積分で表されるような内積

が存在するのだ。要するに, 内積は諸君が思うよりも広 くて柔軟な概念なのだ。

f が内積であるとき,慣習的に,f(u,v)を

uv (23.11)

(u,v) (23.12)

u,v (23.13)

u|v (23.14)

と書いたりする。式(23.11)は物理学や工学等の応用数 学で, 特に幾何ベクトルの内積や, 数ベクトル空間の内 積のときによく使われる。式(23.12),式(23.13)は,純 粋数学の分野や, 応用数学でも関数空間の内積によく使 われる。式(23.14)は量子力学で使われる。

● 問639 u= (1,2),v= (3,−4)とする。

(1) R2の内積を式(23.6)で定義すると,uv=5で あることを示せ。

(2) R2の内積を式(23.7)で定義すると, uv =18 であることを示せ。

● 問640 1≤x≤1の範囲で積分可能な関数f(x) からなる線型空間X を考える。X の内積を式(23.10) で定義する。このとき

f(x) =x2∈X (23.15)

g(x) =x+ 1∈X (23.16)

について,内積⟨f(x), g(x)1/3になることを示せ。

23.2 計量空間 89 ルムと呼び*5,|u|と書く*6。つまり,

|u|=

uu (23.17)

と定義する。ノルムは, ベクトルの「大きさ」とか「長 さ」のような概念である。実際, 式(23.17)を見ればわ かるように, |u|は常にゼロ以上の実数であり,それがゼ ロのときはu=0である。これらは幾何ベクトルに関 する「大きさ」の性質とよく似ている。

ならば式(23.17)を「ノルム」なんて呼ばないで「大

きさ」と呼べばいいではないか,と思うところだが,「大 きさ」というと,どうしても線分をイメージして,線分の 端から端までというイメージが湧いてしまう。しかし一 般的なベクトルには線分のイメージは無い。だから「大 きさ」というと紛らわしいので, 少しなじみの薄い「ノ ルム」という語を使うのである。

ノルムが1であるようなベクトルを「単位ベクトル」

と呼ぶ(定義)。

● 問641 計量空間とは何か。

● 問642 計量空間において, ノルムとは何か。ヒン ト:「ノルムは,ベクトルの長さのような概念である」と いう答えはダメ。定義を述べよ。

● 問643 単位ベクトルとは何か。

● 問644 u= (1,2), v= (3,−4)とする。

(1) R2の内積を式(23.6)で定義する。このとき,

|u|=

5, |v|= 5 であることを示せ。

(2) R2の内積を式(23.7)で定義する。このとき,

|u|=

14, |v|= 66 であることを示せ。

*5厳密に言えば,ノルムは内積を使わなくても定義できる。線型 空間XからRへの写像がいくつかの条件(ノルムの公理)を みたせば,その写像をノルムと言う。

uuはその公理を満 たすからノルムと呼べるのだ。

*6||u||と書く場合もある。

この問題で気持ち悪くなった人もいるかもしれない。

u= (1,2)の「長さ」は, ピタゴラスの定理から, 5で ある。それが,式(23.7)というヘンテコリンな内積でノ ルムを考えると

14になってしまう! 何かがおかしい 気がする。

実は, 何もおかしくはないのである。我々が, 「u= (1,2)の長さは

5である」と考えるのは,もともと,ほ とんど無意識のうちに次のようなことを考えているの だ: まず,平面の上に,原点を定めて,図形的に直交する 2つの軸を設定する。次に,片方の軸上に,原点から長さ 1の点をとり,もう片方の軸上に原点から長さ2の点を とる。これらの点と原点を頂点とする四角形を考えて, その対角線に相当する平面ベクトルを考える。これが, (1,2)に対応する平面ベクトルである, と考える。その 平面ベクトルの長さは確かにピタゴラスの定理によって

5になる。

しかし,このようなやり方で幾何ベクトルと数ベクト ルと同一視するのは, 便利ではあるが,必然的ではない。

以前も述べたように, いろんなベクトルと数ベクトル を同一視するときは, その背後にどのような基底をとる か, が重要である。基底のとり方が変われば, 結果も変 わるのだ。この場合では, 基底となる幾何ベクトルが直 交していなかったり, 大きさが1でなかったりしたら,

「(1,2)の長さは

5」とはならない場合もあることがわ かるだろう。

ちなみに, 問644の(1)と(2)は, 同じ線型空間では あるが, 内積の定義が違う。従って, 数学ではこれらは 異なる計量空間とみなすのである。

● 問645 1≤x≤1の範囲で積分可能な関数f(x) からなる線型空間X を考える。X の内積を式(23.10) で定義すると,Xは計量空間になる。このとき

f(x) =x2∈X (23.18)

g(x) =x+ 1∈X (23.19)

について, |f(x)|=√

1/5, |g(x)|=√

4/3 であること を示せ。

● 問646 計量空間X における, 0でない任意のベク トルuについて,

u

|u| (23.20)

は単位ベクトルであることを示せ。

ところで, 高校数学では, 平面や空間(ユークリッド 空間)の幾何ベクトルa,bについて,

ab=|a||b|cosθ (23.21) というのを内積の定義としたが, これはあくまで幾何ベ クトルの内積のひとつであり, 内積の一般的・本質的な 定義ではない。内積とは, 上述の公理を全て満たすよう な写像のことである。それが内積の一般的・本質的な定 義である。ただ,式(23.21)は上述の公理を全て満たす し(ここでは確認しない), 高校数学ではそれ以外の内 積は出てこないから, 教育的な配慮(高校生にいきなり 抽象的なことを教えこむと混乱するという危惧)で式

(23.21)を内積と定義したのである。要するに式(23.21)

は内積の一例にすぎない。

ならば式(23.21)は幾何ベクトルにしか通用しないの

かというと,そうでもないのだ。実は,式(23.21)は,む しろ角(角度)の定義として, 「幾何ベクトルの集合」

以外のあらゆる計量空間について通用するのだ。それは こういうことだ: 2次元平面や3次元空間の幾何ベクト ルどうしがなす角は, 図形的に定義できるが, それ以外 の計量空間に属するベクトルには, 角の概念が存在する とは限らない。しかし計量空間である以上は内積は存在 する。ならば,その計量空間の任意のベクトルa,bにつ いて,

ab

|a||b| (23.22)

という量は計算できる。そこで,

cosθ:= ab

|a||b| (23.23)

という式(これは式(23.21)と同じこと)によって, 必 ずしも幾何ベクトルとは限らないような2つのベクトル a,bどうしの「なす角θ」を定義するのだ。

角が決まれば, 「直交」という概念も導入できる。す なわち,直角のコサインはゼロであることから類推して,

式(23.22)の値がゼロのときを「直交」と定めるのだ。

つまり,計量空間Xにおいて,0でない2つのベクトル a,bが,

ab= 0 (23.24)

となるとき,「abは直交する」と言おう(定義)。

ここで「直交」が出てきたので, ついでに「平行」と いう概念も確認しておこう。一般に, 0でない2つのベ クトルa,bが,適当なスカラーαによって

a=αb (23.25)

とできるとき,「abは平行である」と言おう(定義)。 これは明らかに, 幾何ベクトルや数ベクトルの「平行」

と整合的である。

さて,これらの直交と平行の定義を較べて欲しい。「直 交」には内積が必要だったが,平行には内積は必要ない。

つまり, 平行はどんな線型空間にも存在する概念だが, 直交は計量空間にしか存在しない概念なのである。

● 問647 計量空間において, 2つのベクトルのなす角 とは何か。

● 問648 計量空間において, 2つのベクトルが直交す るとはどういうことか。

● 問649 u= (1,2),v= (3,−4)とする。

(1) R2の内積を式(23.6)で定義する。このときuv のなす角θを求めよ。ヒント: 式(23.23)を使う。

(2) R2の内積を式(23.7)で定義する。このときuv のなす角θを求めよ。ヒント: 式(23.23)を使う。

● 問650 1 ≤x 1の範囲で積分可能な関数から

なり, 内積を式(23.10)で定義される計量空間X を考

える。

f(x) =x2∈X g(x) =x+ 1∈X

について,f(x)とg(x)のなす角θを求めよ*7。ヒント: 式(23.23)を使う。

*7このθは,f(x)g(x)のグラフの上での傾きや角度とは全く 関係ない。もはや,「図形的な意味を持たない角」である。図 形的な意味を持たない角など,何の意味があるのだ!と叫びたく なる。しかし数学とはそういうものなのだ。数学は,人間の経 験的な直感や感覚や先入観や想像力を超越して,どんどん抽象 的で普遍的な世界を作っていくのだ。

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 96-99)