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初期条件・境界条件

ドキュメント内 生物資源の基礎数学教材 (ページ 131-135)

26.2 初期条件・境界条件

現実の問題では,解は「任意の定数」を含まない特定 の関数として定めたい。でないと, 波動現象(津波の到 達範囲や規模など)を予測・解明できない。

P.106あたりでも述べたように, 一般的に, 式(26.1) のような,時刻tと位置xに関する2変数の偏微分方程 式の解を定めるには2種類の付帯条件が必要だ:   1. 初期条件(initial condition)

  2. 境界条件(boundary condition)

初期条件とは,時刻の最初(t= 0)でどうあるかである。

境界条件とは, xの端でどのようになるかである。初期 条件・境界条件は,波動のメカニズムで決まるのではな く,個々の問題設定に応じて,解析者が与えるものだ。

ここでは,例として以下のような付帯条件を与えて式 (26.1)を解いてみよう: 波はx= 0からx=Lまでの 線上だけに存在し,

ψ(x,0) =





0 (0≤x <3L/8のとき) h (3L/8≤x <5L/8のとき) 0 (5L/8≤x≤Lのとき)

(26.27)

∀x, ∂ψ

∂t(x,0) = 0 (26.28)

∀t, ψ(0, t) = 0 (26.29)

∀t, ψ(L, t) = 0 (26.30)

とする。ここでhは適当な定数とする。

図26.1 式(26.27)のグラフ。波は最初はこういう形

の静止状態から出発すると仮定する(初期条件)。

式(26.27)は初期条件である。波が最初に図26.1のよ

うな形から始まる,ということを言っている。式(26.28) も初期条件である。波は静止状態から始まる, というこ とを言っている(初期条件がこのように2つ必要なのは, こ の 方 程 式 が 時 刻 t に 関 す る 2階 の 微 分 を 含 む か ら で あ る)。式(26.29), 式(26.30)は境界条件である。波は左 端(x= 0)と右端(x=L)では0に固定されていて変 位できない,ということを言っている。

式(26.1)の解でこれらの条件を満たすような関数を,

変数分離法による解(つまり式(26.20)のような関数)

の重ね合わせによって求めてみよう。

とりあえず式(26.27)は手強いので後に回し,まず式 (26.28),式(26.29),式(26.30)を満たす解を見つけよう:

● 問696 式(26.20)のような関数を考える。この関

数は「恒等的に0」ではないとする。

(1) 式(26.29)を満たす場合,b2= 0となることを示せ。

(2) さらに式(26.28)を満たす場合, a1 = 0となること を示せ。

すると, 式(26.20)は次式のようになる: ψ(x, t) =Acosωt sinωx

c (26.31)

ここで,a2b1=Aと置き直した。言うまでもなく,Aは 任意の定数である。

● 問697 式 (26.31) の よ う な 関 数 を 考 え る 。式 (26.30)より,次の2つの式を示せ(nは任意の整数):

ω

cL= (26.32)

ω=cnπ

L (26.33)

その結果,式(26.31)は次式のようになる: ψ=Acoscnπt

L sinnπx

L (26.34)

● 問698 式(26.34)は式(26.1)を満たし, なおかつ, 式(26.28),式(26.29),式(26.30)を満たすことを,確認 せよ。(まだ式(26.27)は満たしていない。)

当初は任意の数が許されていたωが, 式(26.32)に よって,ある値の整数倍に限定されてしまった! ωは,時 刻tに関する三角関数(つまり振動)の中のtの係数に なっている。つまり, ωは振動の角速度である。これが 連続した値ではなく, ある値の整数倍という離散的な値

(とびとびの値)になった。これが起きたのは,境界条件 (式(26.29)と式(26.30))を課したからである。

ここでは詳述しないが,一般に,波動現象の多くは,有 限な領域に局在するような条件を課すと, 振動の角速度 や波数は離散的な値しか許されなくなる。これに対応す る現象が, 弦楽器や管楽器の共鳴(弦や筒の長さによっ て特定の周波数の音を出す現象)である。また, 原子内 部で電子のエネルギー準位が離散的な値になるのも, こ

れと本質的には共通した仕組みである。これについては 後でもう少し詳しく調べよう。

さて,式(26.34)は, いい線まで行っているが,残念な

がら式(26.27)をまだ満足していない。そこで, いよい

よ「重ね合わせ」を使うのだ。

● 問699 式(26.34)のような関数の重ね合わせ:

ψ=

n=1

Ancoscnπt

L sinnπx

L (26.35)

の よ う な 関 数 も, 式 (26.1) を 満 た し, な お か つ, 式 (26.28), 式(26.29), 式(26.30) を満たすことを, 確認 せよ。ここで,Anは任意の定数である。

式(26.35)は式(26.27)以外の条件を既に満たしてい ることが問699 でわかったので, 心置きなく式(26.35) を使って式(26.27)に挑戦しよう。式(26.35)でt= 0 と置くとtに関するcosの項が全部1になるので,

ψ(x,0) =

n=1

Ansinnπx

L (26.36)

となる。従って, 式(26.35)が式(26.27)を満たすよう にするためには,次式が成り立つように, Anの値を決め ればよいのだ:

n=1

Ansinnπx L =





0 (0≤x <3L/8のとき) h (3L/8≤x <5L/8のとき) 0 (5L/8≤x≤Lのとき)

(26.37) これを実現するためにフーリエ級数展開を使う。まず, 式(26.37)の右辺はx= 0からx=Lまでで定義され ているが, これを便宜上, x=−Lからx= 0に, 奇関 数として拡張しよう(これはフーリエ級数展開を楽にす るための工夫。実体としては, x <0への拡張には意味 が無いが, 数学的操作のためには有用なのだ)。これを ϕ(x)と書く。ϕ(x)の式とグラフは以下のようになる:

ϕ(x) =















0 (−L≤x <−5L/8のとき)

−h(5L/8≤x <−3L/8のとき) 0 (3L/8≤x <3L/8のとき) h (3L/8≤x <5L/8のとき) 0 (5L/8≤x≤Lのとき)

(26.38)

そして, 次式が成り立つようにAn を定めるのが, 当 面の目標である(これが成り立てば式(26.37)は自動的

図26.2 ϕ(x),つまり式(26.38)のグラフ

に成り立つ):

ϕ(x) =

n=1

Ansinnπx

L (26.39)

そのためにはϕ(x)をフーリエ級数展開したいのだが, 諸君が知っているフーリエ級数展開は, −π≤x≤πで 定義された関数に関するものなので, この場合の定義域 (−L≤x≤L)とは少し違う。なので, フーリエ級数展 開のやり方もちょっと変えなければならない:

● 問700 x=−Lからx=Lの間で定義された実数 関数(正確に言えば, 2乗して積分できる関数の集合)の集合 W を考える(それはRを体とする線型空間である)。W の任意の要素f(x), g(x)について,

⟨f(x), g(x)= 1 L

L

L

f(x)g(x)dx (26.40)

という演算を内積として導入する(これが内積の公理を 満たすことは,少し考えればわかるだろう)。

(1) 以下の集合は,W の正規直交基底であることを示せ

(ただし, W の任意の要素をこの線型結合で表現で きる,ということの証明は難しいので省略せよ)。

{ 1

2,cosπx

L ,cos2πx

L ,· · · ,cosnπx L ,· · ·, sinπx

L, sin2πx

L ,· · · ,sinnπx L ,· · ·}

(26.41) ここでnは1以上の任意の整数。

(2) W の任意の要素f(x)を,

f(x) = P0

2 +

n=1

{Pncosnπx

L +Qnsinnπx

L } (26.42) と表すとき(P0, P1, P2,· · ·, Q1, Q2,· · · は適当な定

26.2 初期条件・境界条件 125 数),次式を示せ:

P0= 1 L

L

L

f(x)

2 dx (26.43)

Pn= 1 L

L

L

f(x) cosnπx

L dx (26.44)

Qn= 1 L

L

L

f(x) sinnπx

L dx (26.45)

● 問701 式(26.39)で定義したϕ(x)を式(26.42)の ように表すと,次式が成り立つことを示せ:

(1) P0= 0 (26.46)

(2) Pn= 0 (26.47)

(3) Qn= 4h sin

2 sin

8 (26.48)

(4) ϕ(x) =

n=1

4h sin

2 sin

8 sinnπx

L (26.49)

式(26.39)と式(26.49)を見比べてみよう。目標が達 成できたことがわかるだろう。つまり,式(26.39)のAn を,式(26.48)のQnのように定めればよい。その結果, 式(26.35)は次式のようになる:

ψ=

n=1

4h sin

2 sin

8 coscnπt

L sinnπx

L (26.50)

式(26.50)が, 求める解である。すなわち, 式(26.50) は, 式(26.1) を満たし, なおかつ, 式(26.27) から式

(26.30)までの条件(初期条件と境界条件)を全て満た

す,パーフェクトな関数である。お疲れ様!!

では, 苦労して導いた式(26.50)をグラフに描いてみ よう。といっても, n= まで計算することはできな いので, ここではn= 11までとしよう。

● 問702  

(1) 式(26.48)において, nが偶数の時はAn = 0とな ることを示せ。

(2) 次式を示せ: A1= 4h

π sinπ 8 A3=4h

π 1 3sin3π

8 A5= 4h

π 1 5sin5π

8 A7=4h

π 1 7sin7π

8 A9= 4h

π 1 9sin9π

8 A11=4h

π 1

11sin11π 8

· · · (26.51)

(3) L= 4, h = 1, c = 1とする。表計算ソフトを使っ て,式(26.50)のグラフを, t= 0,0.5,1,2,3,4のそ れぞれについて描け。ただし, 和はn= 11までで 打ちきってよい(やる気のある人はもっとたくさん までやってもよい)。縦軸のスケールをグラフ間で 統一すること。

図26.3に, この解のグラフの例を示す。ただし, こ のグラフは厳密な解ではない。例えば, t = 0では式 (26.27)からずれている部分がある。式(26.27),つまり 図26.1では,グラフの山はx= 3L/8とx= 5L/8で垂 直な壁を持ち, その間ではフラットな山頂と裾野を持つ はずだが, 図26.3のt= 0では,壁が崩れているし, フ ラットであるべきところもフラットではない。これは,

式(26.50)をn= 11 までしか計算していないからであ

る。もっと多くの項まで計算すれば, よりシャープに式

(26.27)を再現するはずである。

式(26.50)をn= 31まで計算したグラフを図26.4に 示す。図26.3よりもシャープに波形を再現しているこ とがわかる。このグラフの細かい特徴を見ていこう:

t= 0.5では,山の高さが半分に, 幅が2倍になってい る。これは,最初の山の半分(上下の半分。左右方向の 半分ではない)が左方向へ, もう半分が右方向へ進む波 になったからである。実際, 波は速度がc = 1なので, t = 0.5のときに, x方向は0.5だけ移動しているはず だ。もとの山の半分を左に0.5だけずらし,もう半分を 右に0.5だけずらせば, このようなグラフになることは 明らかである。うまくつじつまがあっているではないか

(形が若干崩れているのは仕方ない。計算を有限項で打 ち切ったことによる誤差である)。

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=0.5

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=1.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=2.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=3.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=4.0

O x

ψ

図26.3 式(26.50)のグラフ。L = 4, h = 1, c= 1 とする。n= 11まで。

t = 1では, 半分半分に分かれた波が, 左と右にそれ ぞれさらに進んで,完全に分離した状態である。この後, 間もなく,それぞれはx= 0とx= 4の境界にぶつかる ことになる。

t= 2では, それぞれの波が境界にぶつかり,既に反射 した波が, まだ反射していない波と重なり合って, 互い に打ち消し合った瞬間である。一見, 波は消えてしまっ て静穏が訪れたように見えるが, そうではない。波は動 いており,ψは今にも上下に変化しようとしている(ψ は0でも∂ψ/∂tは0ではない)。

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=0.5

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=1.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=2.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=3.0

O x

ψ

-1 -0.5 0.5 1

1 2 3 4

t=4.0

O x

ψ

図26.4 式(26.50)のグラフ。L = 4, h= 1, c= 1 とする。n= 31まで。

t= 3では, それぞれの波が境界に衝突し終わり,反射 した波だけが存在する状態だ。境界(つまり両端)では ψ= 0という条件のために,ψは0以外の値をとりよう がない, つまりそこで波は変位できないから, 反射波は 上下がひっくり返った形になる。(こういう条件を固定端 条件と言う。ちなみに境界条件には「自由端条件」というの もある。自由端条件では,反射波は上下がひっくり返らない。

固定端条件と自由端条件を線型結合したような境界条件もあ

る)。その理由を簡単に言うと,ひっくり返った反射波が

もとの波と重ね合わさることで, 両者が境界で互いに打 ち消し合って,そこではψが常に0になるのである。境

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