ブリネル硬さ= N/ 2
目視による木材腐朽の 6 段階評価(森林総研)
0・健全
1・部分的に軽度の腐朽または虫害 2・全面的に軽度の腐朽または虫害
3・2の状態の上に部分的に激しい腐朽または虫害 4・全面的に激しい腐朽または虫害
5・虫害または腐朽によって形がくずれる
0 20 40 60 80 100 120
- 5 . 00 . 0 5 . 0 1 0 . 01 5 . 02 0 . 0 質量減少率(%)
せん断強度残存率(%)
腐 朽に よ る変 色なし 一 部に腐 朽に よ る変 色あり 腐 朽に よ る変 色あり
図-2.5.2 変色と強度残存率・質量減少率の関係
2.5.2 定性的観察結果
SEM 観察試料の定性的観察は、以下に述べる①せん断破壊面における腐朽の進行に伴う破 壊形態の変化、②せん断破壊面早材部に観察される“ささくれ”の腐朽の進行に伴う変化の2 点に着目して行った。なお、今回の研究に使用したSEM画像の全データは付録のCD-Rに収 録、そのうち一部データについては本論付録4.2に示す。
〔観察ポイント①:腐朽の進行に伴う破壊形態の変化〕
既往の木材のフラクトグラフィー研究より、細胞壁の破壊形態は(細胞)壁切断破壊
(trans-wall fracture)と(細胞)壁界破壊(inter-wall fracture)の2つに分類できる20)。 図-2.5.3に示すように、壁切断破壊は文字通り細胞壁を切断するような破壊を呈し、壁界破壊 は細胞間層~S1 層で破壊を示す。腐朽が進むにつれて、せん断破壊面におけるこれらの破壊 形態がどのように変化するのかを観察した。
〔観察ポイント②:せん断面における“ささくれ” 〕
健全材の早材部せん断破壊面においては、破壊面が“ささくれ”てけばだっているように見 える。こうした“ささくれ”はせん断破壊面特有のものであり、ここではその大きさや発生頻 度を観察することにした。なお、健全材早材部のせん断破壊面にこのような“ささくれ”が生 じることは既にCoteら11)によって報告されており、Coteらはこの“ささくれ”を“flags”
と表現している。
〔定性的観察の結果〕
観察結果のより詳細な記録については付録4.2を参照するものとする。ここでは以下図
-2.5.4~図2.5.15に抜粋した10例のSEM観察例(倍率:×50)を示すことにした。
図-2.5.4 健全材の定性観察例:観察片A
・晩材部は壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。早材部では多くの大小の“ささくれ”がみられた。
図-2.5.5 健全材の定性観察例:観察片B
・晩材部は壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・早材部では多くの大小の“ささくれ”がみられた。また、の一部(画像右下)で“段差”がみられた。
図-2.5.6 腐朽処理材(せん断強度減少率0%未満)の定性観察例:観察片A
・晩材部は健全材同様に壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・早材部では多くの“ささくれ”がみられ、複数仮道管による大きなものもみられた。
図-2.5.7 腐朽処理材(せん断強度減少率0%未満)の定性観察例:観察片B
図-2.5.8 腐朽処理材(せん断強度減少率約20%)の定性観察例:観察片A
・晩材部は健全材同様に壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・早材部では“ささくれ”が確認できるが、仮道管断片由来の小さいものが主となった。
図-2.5.9 腐朽処理材(せん断強度減少率約20%)の定性観察例:観察片B
・晩材部は健全材同様に壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・早材部では“ささくれ”が多数確認できた。
図-2.5.10 腐朽処理材(せん断強度減少率約30%)の定性観察例:観察片A
・晩材部は主に壁界破壊(一部壁切断破壊)、早材部は壁切断破壊を示した。
・早材部では“ささくれ”が確認できたが、その構成要素は小さくなっているように思える。
図-2.5.11 腐朽処理材(せん断強度減少率約30%)の定性観察例:観察片B
図-2.5.12 腐朽処理材(せん断強度減少率約40%)の定性観察例:観察片A
・晩材部は健全材同様に壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・ 早材部では目立った“ささくれ”はほとんど確認できず、散見される程度であった。
・ 早材部仮道管に微小クラックが散見された。これに関しては、2.5.4を参照とする。
図-2.5.13 腐朽処理材(せん断強度減少率約40%)の定性観察例:観察片B
・晩材部は健全材同様に壁界破壊、早材部は壁切断破壊を示した。
・ 早材部においては、 “ささくれ”は散見される程度で、直線的な破壊部もみられた。
図-2.5.14 腐朽処理材(せん断強度減少率約75%)の定性観察例:観察片A
・晩材部、早材部共に壁切断破壊を示し、破壊形態の移行が認められた。
・早材部においては、 “ささくれ”が全く見られない。
図-2.5.15 腐朽処理材(せん断強度減少率約75%)の定性観察例:観察片B
先に述べた2つの観察ポイントから定性的観察結果をまとめると、以下の点が示唆された。
① 晩材部における破壊形態の移行は初期腐朽段階では見られなかった。
② 早材部の“ささくれ”は初期腐朽段階においても矮小化する傾向がみられた。
③ 腐朽による強度低下がみられなかった試験体においては仮道管由来の“ささくれ”がみ られたが、腐朽の進行に伴い仮道管断片由来の“ささくれ”が主となった(即ち、腐朽 の進行に伴って“ささくれ”の構成単位が小さくなる傾向にあった)。
④ 観察片 A とB ではさほど差異は見られなかった(少なくとも、破壊形態及び“ささく れ”には目立った差異はなかった)。しかし、観察片B には時として早材部などに“段 差”が見られた。
以上より、“ささくれ”が初期腐朽を把握する上でのキーポイントになると考えられた。2.
5.3ではこの“ささくれ”の定量評価の可能性について検討する。
2.5.3 表面粗さの計測結果
2.5.2で述べたように、早材部破壊面に生じる“ささくれ”は腐朽の進行に伴い矮小化 していく傾向がみられた。また、破壊形態の移行は腐朽がある程度進行しなければ見られない 一方で、早材部の“ささくれ”の矮小化は初期腐朽段階においても進行しているように思われ た。
そこで、この“ささくれ”の定量評価を試みることにし、2.4.3で述べたようにレーザ ー顕微鏡を用いて、各観察試料(観察片A、B)の表面粗さ及び表面積を測定した。なお、今 回は用いた表面粗さの指標はRa:算術平均粗さ、Rq:RMS(二乗平均粗さ)、の2つであり、
概要を以下の図-2.5.16 に示す 28)。表面粗さの指標としては、この他代表的なものに Ry:最 大高さがあるが、これは高低差の著しい観察試料には不向きであるため今回の計測では省略し た。
図-2.5.17、図-2.5.18にこれら各指標の計測結果を、図-2.5.19に3D観察画像の例を示し た。観察片 A においては、せん断強度の低下に伴い表面粗さ及び表面積の低下(指数関数的 減少傾向)がみられ、腐朽の進行による強度低下に伴い破壊面が平滑化していく傾向がみられ た。しかし、観察片 B においては目立った傾向がみられなかった。これは、2.4.2で述 べたように、ブロックせん断破壊面は加力面から遠ざかるほど、木理由来の凹凸が大きくなる 傾向にあり、観察片 B においては“ささくれ”以外の要素による凹凸が大きいためと考えら れる。
以上のように、いくつかの課題点はあるものの、観察片 A における表面粗さの測定結果に より、“ささくれ”の定量的表現の可能性が示唆された。
算術平均粗さ:Ra
dx x l f
l
) 1 (
Ra
0
RMS(二乗平均粗さ):Rq
dx x l f
l
0
)
31 ( Rq
図-2.5.16 表面粗さの定義式
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
せん断強度減少率(%)
Ra:算術平均粗さ(μm)
0 50 100 150 200 250 300
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
せん断強度減少率(%)
Rq:RMS(二乗平均粗さ)
0 50 100 150 200 250 300
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
せん断強度減少率(%)
表面積/面積
図-2.5.17 各表面粗さ指標とせん断強度減少率の関係(観察片A)
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
せん断強度減少率(%)
Ra:算術平均粗さ(μm)
0 50 100 150 200 250 300
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
せん断強度減少率(%)
Rq:RMS(二乗平均粗さ)
0 50 100 150 200 250 300
-20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0
表面積/面積
図-2.5.19 3D計測画像の例
(上:せん断強度減少率30%(試験体名B28)、下:せん断強度減少率0%(試験体名B33))
“ささくれ”の影になっている部分も表面として表現されるため注意が必要である。
2.5.4 微小クラック及び菌糸の観察
【微小クラック】
破壊性状とは関係ないが、腐朽材のせん断破壊面より、仮道管上にミクロクラックの走向方 向と無関係に生じる図-2.5.20(左)のような微小クラックが観察された。このクラックは図
-2.5.20(右)に示す 3 つの試験体で観察され、おおよそ材の変色段階とリンクするものと思
われた。
【菌糸の観察】
2.5.2で述べたように、主に早材部でのせん断破壊面は壁切断破壊を示し、細胞内腔が 露出する。腐朽菌糸は内腔に沿って伸長するため、せん断破壊面は菌糸の伸長状況を把握する のに適していると考えられた。しかし、今回の観察では、最も腐朽が進んだ試験体であっても 腐朽菌糸の確認ができなかった。参考に、ニセアカシア腐朽材において観察された白色腐朽菌 の菌糸を図-2.5.21、今回の試験で最も腐朽が進んでいた試験体の早材部の画像を図-2.5.22 に 示す。
既往の研究より、腐朽菌は非酵素的な細胞壁構成成分(セルロース及びヘミセルロース)の 分解機構を有することが知られており 29)、菌糸より分泌される拡散物質(明らかにはされて いないが、シュウ酸などとの関係が指摘されている 30))によって細胞壁を“遠隔攻撃”する ことが知られている。今回の観察結果はそれらを裏付けるものであったと考えられる。
図-2.5.21 ニセアカシアに侵入した白色腐朽菌糸(著者撮影)