第 4 章 環 98
4.7 単項イデアル整域
4.7.1 整数環の素因数分解の一意性
整数論において基本的でかつ結構難しいのは、素因数分解の一意性である。例えば、2nが 3で割り切れないことはよく知られている。
2n= 3x
とすると、右辺でxを素因数分解することで素因数3を含んだ分解が得られるが、左辺には 3は現れないから素因数分解が二通りあることになり矛盾である。
この証明には、「自然数は素数の積にかける。その表し方はただ一通りである。」という定 理、すなわち「素因数分解の一意性」が使われている。しかし、なぜ素因数分解はただ一通り なのか?中高の数学の教科書は、これについて証明を与えていないものが多い。
整数環において素因数分解がただ一通りなのは、つきつめれば次の定理による。
定理4.7.1. Zにおいて、可逆でない既約元は素元である。
なんのことだかは、以下に説明する。
単位的可換環Rにおける素元aとは、a∈Rであって(a)が素イデアルとなるもののこと であった。これは、x, y, z∈Rに対して
xy=az⇒(∃b∈R, x=ba)または (∃c∈R, y=ca)
が成り立つことであった。(定義4.6.22。)
既約元の方も復習しておく(定義4.6.17)。
定義4.7.2. 単位的可換環Rにおいて、a∈Rが既約元(irreducible element)であるとはaの 約元が自明なものに限られることである。すなわち、xy=aならばxかyが積の可逆元(す なわち単元)となることを言う。
ただし、0は既約元とみなさない。
問題4.34. Rが整域の時は、a∈Rが既約元であることはa̸= 0で xy=a⇒(∃b∈R, x=ba)または(∃c∈R, x=ca) がなりたつことと同値であることを示せ。
次の定義は実質的に中学か高校で習うものである。
定義4.7.3. Zにおいて、可逆でない既約元のうち正のものを素数(prime number)という。
これで、定理4.7.1に現れた既約元、素元の定義が明らかになった。
命題4.7.4. 整域Rにおいて、素元は既約元である。
証明. 素元ならば、問題4.34の条件を満たす。とくにz= 1でもこの条件を満たす。これが、
aが既約元であることに他ならない。
では、定理4.7.1がなぜ素因数分解の一意性を導くのか。そもそも素因数分解の一意性とは 何か。
定義4.7.5. 単位的可換環Rにおいて、二つの元a, bが同値であるとは、a=ubとなる単元 u∈R×があること。このときa∼bであらわす。
問題4.35. Rが整域であるとき、上の条件は、二つの単項イデアルが一致すること
(a) = (b) と同値であることを示せ。
定理4.7.6. x∈Zとし、x̸= 0とする。Zの1でない互いに同値でない素元p1, p2, . . . , psと 自然数n1, n2, . . . , ns (>0)が存在して
x=upn11pn22· · ·pnss
と書けたとする(ここにu=±1)と、このような書き方は±1倍を除いてただ一通りである。
すなわち、他に
x=vq1m1qm22· · ·qtnt
とかけたとする(vは±1、qiは相異なる既約元)と、s=tでqiの番号を入れ替えれば±pi
と一致しmi=niとなる。
4.7. 単項イデアル整域 115 証明. p1は素元であるから、p1|x=vq1m1· · ·qtntよりp1|vまたはp1|q1または. . .またはp1|qt。 p1|vとすると、可逆元の約数は可逆元だからp1が素元であることに反する。よってp1はqi
のいずれかの約数。qの添え字をとりかえることによりp1|q1としてよい。q1は既約元なので p1=±q1である。よって
upn11pn22· · ·pnss=vqm11q2m2· · ·qntt であり、両辺をp1=±q1で割ること(問題4.12)で
upn11−1pn22· · ·pnss = (±v)q1m1−1qm22· · ·qntt
これを次々繰り返していけば、p1=±q1は同時につきるはずである。なぜならば、もしもど ちらか片方が先に尽きたとして、かりにq1が先に尽きたとする。p1は左辺に残っているから、
この証明の先頭に書いた議論によりp1はq2, . . . , qtのいずれかを割り切り、(qiの既約性から)
割り切ったものと同値となる。しかるに、p1とq1は同値であるから、q1, q2, . . . , qtのいずれ も同値ではない、という仮定に反している。
こうして次々に既約元をキャンセルしていくことで、このような分解は±1倍と積の順序の 入れ替えを除いてただ一通りであることがわかる。
xが可逆元であるときには、s= 0として上の定理は成立しているものとみなす。
定理4.7.7. Zの全ての0でない元xに対し、xは既約元の積としてあらわされる。
証明. xが既約元でないとする。x = yz (y, zは単数でない)という形にできる。すると、
|y|,|z|は|x|より真に小さい。|x|に関する帰納法を使う。|x|= 1ではx=±1より0個の既約 元の積としてあらわされる。|x| ≤n−1ならば既約元の積に分解される、と仮定して|x|=n の時を証明すればよい。が、x=yzよりy、zの既約分解は帰納法の仮定により存在するので それらを合わせたものがxの既約分解である。
以上により、「整数はすべて素数の積に分解され、その分解の仕方は一意である」という定 理が証明された。ただし定理4.7.1はまだ証明していないのでその証明を以下に与える。
命題4.7.8. 整数環では、最大公約数が存在する。すなわち、a, b∈Zに対してd|a, d|bなるd であって、他にc|a, c|bを満たすcに対してはc|dとなるようなものがある。dをgcd(a, b)と 記す。
証明. am+bnの形にかける正の整数のうち、最小のものをdとすると上の性質を満たしてい る。ということが、定理2.4.64の証明に示されている。
命題4.7.9. a∈Zを可逆でない既約元とすると、それは素元である。
証明. az=xyとする。gcd(a, x)|aであり、aは既約元だからgcd(a, x)∼aまたはgcd(a, x)∼ 1.
前者の時にはa∼gcd(a, x)|xとなるからa|xで、素元の条件を満たす。後者のとき、同様 にgcd(a, y)∼aならばa|yで素元の条件を満たす。問題がおきるのは
gcd(a, x)∼1,gcd(a, y)∼1
のときであるが、このとき
an+bx= 1, am+cy= 1 が解けるので、辺々掛けて
a(anm+ncy+bxm) +bxcy= 1 よって定理2.4.64より(aX+ (xy)Z= 1の形なので)
gcd(a, xy) = 1 である。一方az=xyより
a|gcd(a, xy) であるからこれは矛盾である。