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地球生命の起源

ドキュメント内 地球惑星圏物理学 (ページ 95-98)

第 9 章 生命の起源 93

9.2 地球生命の起源

進めるのに十分なエネルギーを取り出すことができない。一方、エネルギー量の下限値につ いては、タンパク質中のアスパラギン酸のラセミ化の反応速度などから見積もられている。

これを下回った場合、生体を維持しようとする反応より、生体が壊れる反応が打ち勝ってし まう。

9.2 地球生命の起源

9.2.1 生命の材料物質

生命の起源に関する基本的な考え方は、生物が進化するのと同様に、物質も単純なものか ら複雑なものへと進化し、その結果として生体機能を持つ複雑な有機物が生まれ、生命誕生 に至ったというものである。この考え方は1920年代にOparinによって提唱され、化学進化 説と呼ばれている。化学進化の起点となる単純な有機物の起源としては、以下の2つの起源 が提案されている。

原始大気中での化学進化

図9-3. Millerの放電実験装置。日本評論社『太陽系と惑星』より転載。

1950年代に行われたMillerの実験(図9-3)によって、化学進化の材料となった有機物は原 始地球の大気中で合成されたという説が検証され始めた。この実験では、原始大気を想定し た強還元的ガス(CH4、NH3)に火花放電を行った。その結果、いくつかの単純な有機物(ギ 酸、ホルムアルデヒドなど)が合成された。ただし、その後惑星形成過程に関する研究が進 むと、原始大気はMillerが想定したような強還元的大気ではないことがわかってきた。地球 に揮発性元素をもたらしたとされる炭素質コンドライト隕石から想定される原始大気組成を 図9-4に示す。実際の原始大気は、CO2を主成分とし、少量のCOやCH4を含む弱還元的大 気であったと考えられる。弱還元的大気の場合、放電による有機物の収率は大きく下がるが、

宇宙放射線や天体衝突時の高温プラズマによる有機物合成は可能である。

図9-4. 炭素質コンドライト隕石から推定される原始地球大気の組成。ある温度・圧力下にお いて化学平衡となった組成をプロットしたもの。圧力は1気圧を想定し、温度はパラメータ としている。実際の天体衝突において発生した高温の脱ガス気体は徐々に冷却し、400-1000 K程度まで冷却すると反応速度が遅くなり、その時の平衡組成で反応が事実上止まると考え られる。日本評論社『太陽系と惑星』より転載。

天体衝突による有機物供給

図9-5. 左手型(L体)のアミノ酸と右手型(D体)のアミノ酸。日本評論社『太陽系と惑星』よ り転載。

地球に水をもたらしたと考えられている小惑星・彗星は、他種類のアミノ酸が含まれてい ることが、地球に落下した隕石やサンプルリターン探査によって明らかになっている。原始 地球においては小惑星や彗星の衝突は現在よりはるかに頻繁に起こっていたため、これらの 天体衝突も生命の材料となった有機物の起源である可能性がある。

天体衝突による有機物供給が重要であったと考えられている一つの証拠として、アミノ酸 の光学活性がある。アミノ酸には、その構造上、L-アミノ酸とD-アミノ酸と呼ばれる2つの 異性体がある(図9-5)。地球上の生物はほぼL-型アミノ酸のみを用いるが、そうなった理由 はよくわかっていなかった。しかし、1997年にマーチソン隕石という隕石中のアミノ酸から

9.2. 地球生命の起源 97 L体の過剰が発見されたことから、小惑星が地球に持ち込んだ有機物から地球の生命が誕生 したことがその起源であるということが示唆された。一方で、Millerの実験で生成するアミ ノ酸はL体とD体が等量である。

原始大気中で生成した有機物と天体衝突由来の有機物のどちらかのみが生命の材料となっ た必然性はなく、実際の生命の材料物質は、両者の混合であったと考えられる。

9.2.2 生命誕生の場

生命の体の大部分は水で構成されている(表9-1)ことから、原始大気と天体衝突を起源と する有機物から生命が誕生した場所は、液体の水に富んだ場所であったと考えられている。

その候補として議論されているのが、原始海洋と陸上温泉である。

原始海洋

表9-2. ヒト・海水・地殻・大気・宇宙の元素組成。化学同人『アストロバイオロジー』より 転載。

生物の元素組成と様々な環境の元素組成を比較すると、生物の元素組成は海水の元素組成 とよく似ていることがわかる(表9-2)。この類似性から、生命誕生の場として、原始海洋が候 補に挙げられてきた。生命が誕生した原始海洋は、材料となる有機物が溶け込んだ比較的温 度の高い海水という意味で、「生命のスープ」と形容されていた。

しかし、1977年に深海探査船によって300℃を超す熱水が噴き出す海底熱水噴出孔とそれ を取り巻く生態系が発見され、さらに、1980年代には、地球上の生物のタンパク質や核酸の 配列から生物間の遺伝関係を調べた分子系統樹によって、全生物の共通祖先は高温環境でし か生きられない高度好熱菌であることがわかると、生命のスープのイメージは覆された。つ まり、海底熱水噴出孔こそが生命誕生の場であるという考えが広く支持されるようになった。

原始地球においては地球形成時の余熱によって現在より多くの海底熱水噴出孔が存在してい たと考えられ、生命誕生の場になった可能性がある。

陸上温泉

海底熱水噴出孔を生命誕生の場とする説には、いくつか反論がある。その一つは、海水の K/Na比は非常に小さいが、細胞内のK/Na比は1より大きいことである。周期表で同じ族 にあるこれらの元素について、生物がKを選択的に利用するようになったのかは定かではな い。もう一つの反論は、有機物を脱水重合して高分子化するための濃縮・乾燥が困難なこと である。海洋中では液体の水が常に豊富に存在するため、高分子を生成することが困難であ る可能性がある。

このような問題を回避する別の仮説として、陸における熱水である、陸上温泉を生命誕生 の場とする説がある。陸上温泉においては、海水と比較してNaが少ない環境がありえる。ま た、濃縮・乾燥も容易であると考えられる。ただし、原始地球大気にはオゾン層が存在しな いため、有機物を分解しうる紫外線から遮蔽された環境が必要である。

パンスペルミア説

地球上での化学進化説と同時期に、生命は地球外から到来したとするパンスペルミア説(胚 種普遍説)が浮上した。パンスペルミアについては、生命の起源の問題に答えを与えていない こと、生命が宇宙線や高真空という過酷な宇宙環境を生き延びることができるか、という点 で批判があり、高い支持は得ていない。しかし、近年では微生物の中にそのような極限環境 でも生存可能なものが見つかってきていること、火星起源の隕石によって物質の惑星間移動 が現実に起こっていることが立証されたことを受け、生命の惑星間移動の可能性は見直され つつある。

9.2.3 生命誕生の過程

生命の材料物質、生命誕生の場に加えて、もう一つの大きな謎として、生体機能がどのよ うな順番で獲得されて現存する生命に至ったかという問題がある。

前節で紹介したように、代謝を担うタンパク質、自己複製を担う核酸、外界と自己を隔て る膜を担う脂質が、生命の主要な機能である。この中で、特にタンパク質と核酸は互いに助 け合いながら生命活動の根幹を担っており、代謝と自己複製のどちらが先に生まれたかとい う「ニワトリとタマゴ」論争が続いてきた。

1982年に触媒活性をもつRNA、リボザイムが発見されたことで、核酸が最初の生命活動 を担っていたとするRNAワールド説が提唱された。生命誕生の頃には、RNAが自己複製 と代謝の両方を担っていたとする説である。ただし、現実的に化学進化の過程においてRNA が自然に合成されるかは不明であり、また、生命誕生の場が熱水環境であった場合、RNAが 熱に弱いことも問題点の一つである。

この他にも代謝に重きをおくパイライトワールド説や、様々な有機物を取り込んだ原始的 な膜構造こそが最初の生命であったとするゴミ袋ワールド説といった、異なるシナリオも提 案されている。

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