第 2 章 マグマ、半群、モノイド、群 30
2.3 モノイド
2.3.3 写像が演算を保つこと
二項演算をn項演算に一般化して、次のように「写像が演算を保つ(保存する)こと」(mapping preserves operation)を定義する。
定義2.3.7. Sをn項演算αS:Sn→Sの与えられている集合、Tをn項演算αT :Tn →T の与えられている集合とする。写像f :S→TがαS, αT を保つとは、
∀s1, s2, . . . , sn f(αS(s1, s2, . . . , sn) =αT(f(s1), f(s2), . . . , f(sn)) が成立すること。添え字を落として「fはαを保つ」ということが多い。
この定義は、図式
Sn f
→n Tn
↓αS ↓αT
S →f T
が可換であるとも言い換えられる。ここに上の行のfn:Sn →Tnは、
fn(s1, . . . , sn) = (f(s1), . . . , f(sn)) で定義される。
この用語を使うならば、「マグマ準同型とは、台集合の間の写像であって、指定された二項 演算◦を保つもの」と言い換えられるし、「モノイド準同型とは、台集合の間の写像であって、
指定された二項演算◦ならびに指定された0項演算eを保つもの」と言い換えられる。
後の節で扱う「群」でも「環」でもそうだが、「準同型」を定義するときに写像に要請され る条件は、「指定された演算を保つこと」のみであり、公理は構わなくて良い。
注意2.3.8. 写像f に対し、fnという記法には二つの違った意味がありうる。上の場合には
f :S→T で
fn:Sn→Tn であるが、一方f ∈Map(S, S)のときには関数の合成
fn:=f◦f◦ · · · ◦f ∈Map(S, S)
をあらわしている可能性がある。(定理2.2.14参照。)文脈に従って、どちらのことなのかを 各自判断して欲しい。
命題 2.3.9. (S, αS), (T, αT), (U, αU) を、それぞれ集合とn項演算の組とする。f :S →T がαS, αT を保ち、g:T →UがαT, αU を保つならば、
g◦f :S→U はαS, αU を保つ。
証明は機械的である。次の図式を使うこともできる。
Sn f
→n Tn g
→n Un
↓αS ⟳ ↓αT ⟳ ↓αU
S →f T →g U
注意2.1.9参照のこと。
問題2.13. 上の命題2.3.9を証明せよ。
系 2.3.10. 二つのモノイド準同型の合成は、モノイド準同型である。
証明. 証明するべきことはg◦f が二項演算◦ならびに0項演算eを保つことである。が、命
題2.3.9からどちらも従う。なお、系としてではなく、直接証明することも易しい。命題2.1.8
により、◦が保たれていることがわかる。eについては、f(eS) =eT(f の準同型性から従う)
の両辺のgによる像をとるとg(f(eS)) =g(eT) =eU である。ここで、二番目の等号に、gの 準同型性を用いた。
次は、二項演算に関する系1.3.23の一般化である。
2.3. モノイド 47 定理2.3.11. Sをn項演算α:Sn →Sの与えられている集合とし、∼をαとコンパチブル なS上の同値関係、すなわち任意のs1, s′1, . . . , sn, s′n∈Sに対し
s1∼s′1, s2∼s′2, . . . sn∼s′n⇒α(s1, . . . , sn)∼α(s′1, . . . , s′n) とする。このとき、商集合S/∼にはn項演算α¯ であって
¯
α([s1], . . . ,[sn]) =α(s1, . . . , sn) となるものが唯一つ存在する。
すなわち、商写像qがα,α¯ を保つようなα¯が唯一つ存在する。
例 2.3.12. (Mn(R),×, En)はモノイドである。ここにEnはn次単位行列である。
n次正方行列の下に一行と右に一列、0のみからなる行と列を付け加える写像f :Mn(R)→ Mn+1(R)は、積に関して半群の準同型であるがモノイドの準同型ではない。単位元が単位元 にうつされないからである。
定義2.3.13. (S,◦S, eS)をモノイドとする。idS :S→Sはモノイド準同型となり、恒等射と 呼ばれる。
(T,◦T, eT)もモノイドとする。モノイド準同型f :S→Tとg:T →Sであって g◦f = idS, f◦g= idT
となるものがあるとき、gをf の、fをgの逆射という。逆射を持つような準同型を可逆射、
または同型射、同型写像、または単に同型という。モノイドであることを強調してモノイド同 型ともいう。
このような状況のとき、モノイドSとTはモノイドとして同型であるという。
半群の場合の定義2.2.5と全く同じであることに注意してほしい。
注意2.3.14. カテゴリー論(圏論)を学ぶと、逆射の定義を統一することができる。
命題 2.3.15. f :S→T がモノイド準同型でかつ全単射であるとする。このとき、fの逆写
像gが存在し、g:T →Sもモノイド準同型となり、したがってfの逆射となる。
証明. gが半群準同型であることは命題2.2.6から従う。あとはg(eT) =eSを言えばよい。f は単射なので、両辺をfで送って一致することを見ればよい。左辺の行先はf(g(eT)) =eT (f がgの逆写像であるから)、右辺の行先はf(eS) =eT (f が単位元を保つから)なので、一致 する。
定義2.3.16. S,S′をモノイドとする。SからS′へのモノイド準同型(monoid homomorphism) の集合を
Hommonoid(S, S′) で表す。特に、S =S′のとき
Endmonoid(S) := Hommonoid(S, S)
とおいてSのモノイド自己準同型(monoid endomorphism)の集合という。(Endmonoid(S),◦,idS) はモノイドとなる。
なお、定義2.2.7に現れる(Endsemigp(S),◦,idS)や(Endmagma(S),◦,idS)もモノイドである。