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人についての錯誤

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人 に つ い て の錯 誤

岡 田

は じめ に 二 人 に つ い て の錯 誤 1 契 約相 手 の 同一 性 の 錯 誤 2 契 約 の 目的 とな る人 の 錯 誤 三 判 例 1 契 約 相 手 の 同 一性 の 錯 誤判 例 2 契 約 の 目的 と な る人 の錯 誤 判 例 四 検 討 1 契 約 相 手 の 同 一性 の錯 誤 に つ い て 2 契 約 の 目的 とな る人 の錯 誤 に つ い て 五 お わ りに 一 は じ め に 民 法95条 本 文 は 、 「意 思 表 示 は、 法 律 行 為 の 要 素 に 錯 誤 が あ っ た と き は、 無 効 とす る 。」 と規 定 して い る。 民 法 は、 錯 誤 を意 思 の不 存 在 の 場 合 、 す な わ ち 内心 的効 果 意 思 と表 示 の不 一 致 の 場 合 と位 置 づ け て お り(101条 参照)、 そ の 態 様 は表示 上 の錯 誤(い わ ゆ る書 き間 違 い な ど)と 表 示 内容 の錯 誤(ポ ン ド と ドル を 同 じ価 値 だ と思 っ た な ど表示 の 意 味 の 錯 誤)に 区 別 され るが 、 通 説 ・判例 は さ らに、 本 来 意 思 の 要 素 で は な い動 機 と表 示 の不 一 致 で あ る動 機 の錯 誤 に つ い て も、 例 外 的 に動 機 が相 手 方 に表 示 され れ ば意 思 表 示 の 内容

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6 京女 法 学 第1号 と な り、 そ の 錯 誤 が 重 要 で あ れ ば 、 要 素 の 錯 誤 と し て95条 の 錯 誤 に含 め る と す る(1)。 法 律 行 為 の 要 素 と は 、 法 律 行 為 の 内 容 の う ち 重 要 な 部 分 、 す な わ ち 、 も し 錯 誤 が な か っ た な ら ば 、 表 意 者 は も ち ろ ん 他 の 通 常 一 般 人 も 当 該 の 場 合 に 意 思 表 示 し な か っ た で あ ろ う と 認 め ら れ る ほ ど重 要 な 部 分 を い う が 、 要 素 の 錯 誤 の 態 様 と し て 、 学 説 で は 、 人 に つ い て の 錯 誤(error in persona)と 、 物 に つ い て の 錯 誤(error in objecto)と に 区 別 し て 分 類 し て き た 。 も っ と も 、 人 に つ い て の 錯 誤 が 生 じ る 場 合 は 珍 し く、 あ ま り先 例 が な い 。 一 般 的 に は 、 ① 人 に つ い て の 同 一 性 の 錯 誤 と 、 ② 人 の 身 分 ・資 産 に つ い て の 錯 誤 と を 区 別 して 、 ① 人 に つ い て の 同 一 性 の 錯 誤 に つ い て は 、 贈 与 や 賃 貸 借 契 約 な ど の よ う に 、 相 手 が 誰 で あ る の か とい う相 手 方 の 個 人 性 に 重 き を 置 く法 律 行 為 に つ い て は 要 素 の 錯 誤 と な る が 、現 実 売 買 な ど で は 要 素 の 錯 誤 に 当 た ら な い と し、 ま た ② 当 該 人 の 身 分 ・資 産 な ど の 錯 誤 は 、 動 機 の 錯 誤 で あ る の で 原 則 は 錯 誤 に 当 た ら な い が 、 そ の 身 分 ・資 産 が 契 約 上 重 要 な 意 義 を 有 す る 場 合 は 要 素 の 錯 誤 と な り、 相 手 方 に 表 示 が あ っ た か 否 か 検 討 す べ き と して い る(2)。 も っ と も、 人 の 同 一 性 に つ い て の 錯 誤 の 先 例 を検 討 し て い く と、 錯 誤 法 理 で 処 理 す る の で は な く代 理 法 理 で 処 理 す べ き で あ っ た と考 え ら れ る 事 案 や 、 保 証 契 約 に お け る 主 債 務 者 の 同 一i生が 問 題 と な っ て い る 事 案 に つ い て 、 契 約 当 事 者 の 同 一 性 の 錯 誤 と の 区 別 を 意 識 し な い ま ま95条 に よ り無 効 とす る も の が あ る 。 こ れ は 、95条 の 錯 誤 に 動 機 の 錯 誤 を含 め る こ と に よ っ て 生 じ る 理 論 (1)錯 誤 が 問 題 とな る ほ と ん どの 事 案 は 、 要 素 の 錯 誤 に 当 た る か 否 か が が 争 わ れ た も の で あ る が 、 こ れ まで 要 素 の 錯 誤 に 関 す る 数 多 くの 論 文 や 判 例 研 究 が 公 に さ れ て い る 。 古 い も の で は 、 杉 之 原 f「 『法 律 行 為 ノ 要 素 』 の 錯 誤 に 関 す る一 考 察(一)(二)」 法 協 43巻10号1841頁 、11号2069号 、 舟 橋 諄 一 「意 思 表 示 の 錯 誤 一 民 法 第95条 の 理 論 と判 例 」 九 州 大 学 法 文 学 部 十 周 年 記 念 法 学 論 文 集594頁 な ど が あ る 。 ま た こ れ ら の 学 説 を客 観 的 に ま と め た もの と して 、 中松 櫻 子 「錯 誤 」 『民 法 講i座1』 星 野 編(1984年 有 斐 閣)、 ま た フ ラ ン ス 法 の コ オ ズ 理 論 に 着 目 した も の と し て 森 田 宏 樹 「民 法95条(動 機 の 錯 誤 を 中 心 と して)」 『民 法 典 の 百 年H』 広 中 ・星 野 編(1998年 有 斐 閣)が あ る。 (2)我 妻 榮 『新 訂 民 法 総 則(民 法 講 義1)』300頁(1965年 岩 波 書 店)、 幾 代 通 『民 法 総 則 現 代 法 律 学 全 集5』271頁(1969年 青 林 書 院 新 社)、 な ど 。

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人 に つ い て の 錯 誤(岡 田) 7 上 の 混 乱 で あ る と考 え る。本 稿 で は 、 これ まで あ ま り考 察 され て こ な か っ た 人 につ い ての 錯 誤 につ い て 、動 機 の錯 誤 は95条 の錯 誤 に含 め るべ きで は ない とい う 自説 の 立 場 よ り、代 理 法 理 な ど他 の法 理 との 関係 を意 識 しつ つ 先 例 を 検 討 す る。

二 人 につ い ての錯 誤

人 に つ い て の錯 誤 を論 じる と き、 主 に 契約 の相 手 の 同一 性 に錯 誤 が生 じた 場 合 を念 頭 に お い て議 論 され て きた 。 しか し他 方 で 、 保 証 人 が 、保 証契 約 に お け る 主債 務 者 が 誰 で あ る の か とい う点 を誤 っ て契 約 して しま っ た よ うに、 契 約 の 目的 とな る人 を錯誤 した事 案 もあ り、 この 場 合 は契約 の 当事 者 が 誰 で あ るか を誤 った 契 約相 手 の 同一 性 の錯 誤 とは場 面 が 異 な る。 よっ て、 以 下 こ の 両 者 を分 けて 論 じる。 1 契 約 相 手 の 同 一 性 の 錯 誤 民 法95条 の錯 誤 は、 前 述 の とお り表示 上 の錯 誤 と表 示 内容 の錯 誤 の 、 い わ ゆ る 表示 錯 誤 が典 型 的 な もの で あ るが 、 実 際 に訴 訟 で争 われ る事 案 の ほ とん どは動 機 錯 誤 で あ る。 そ して 現 在 の 通 説 ・判 例 は、 動 機 錯 誤 は原 則 と して錯 誤 に 当 た らな いが 、 例 外 的 に明示 又 は黙 示 に相 手 方 に表 示 され れ ばそ の動 機 が 意 思 表 示 の 内容 に な り、要 素 の 錯 誤 に なっ て95条 で処 理 で きる、 とす る(3)。 契 約 相 手 の 同一 性 の錯 誤 につ い て は 、人 の 同一・性 の 錯 誤 と人 の 身分 ・資産 な どにつ い ての 錯 誤 が あ り、後 者 も、 そ の 身分 ・資 産 が 重 要 な意 義 を もつ 法 律 行 為 に つ い て は要 素 の錯 誤 とな るが 、 「この 種 の錯 誤 は 、多 くの 場 合 、 動 機 の 錯 誤 で あ る か ら、 表 示 さ れ て い る か ど うか を慎 重 に検 討 す べ きで あ る。」(4) とされ て きた 。 私 見 で は 、動 機 の錯 誤 は95条 の 予 定 す る錯 誤 で は な く、 動 機 (3)川 井 健 執 筆 部 分 『新 版 注 釈 民 法(3)』407頁 以 下(2003年 有 斐 閣) (4)我 妻 榮 『新 訂 民 法 総 則(民 法 講 義1)』300頁(1965年 岩 波 書 店)

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8 京 女法 学 第1号 部 分 に錯 誤 が 生 じて 契約 した場 合 を予 定 して い る詐 欺 や担 保 責 任 、 不 当 利得 な ど他 の規 定 に よ り処 理す べ きで あ る し、又 は 契 約 当事 者 間で 明 示 ・黙 示 に 合 意 が あ っ たの で あ れ ば保 証 合 意 の 有 無 や 条件 、又 は前 提 の 欠 如 に よ って処 理 す べ きで あ る と考 える(5)。した が って 、い か に そ の 身分 ・資 産 が 重 要 で あ り、 相 手 に表 示 され て い て も錯 誤 法 理 で 処 理 す る こ とは な く、 この 点 通 説 の 立場 と異 な るが 、 契 約相 手 の 同一 性 の錯 誤 と身分 ・資 産 の錯 誤 を区 別 す る点 は同 じで あ る。 動 機 の 錯 誤 を表示 錯 誤 と区別 した サ ヴ ィニ ー は 、意 思 欠 歓錯 誤(い わ ゆ る 「本 質 的錯 誤 」)と して、 ① 法律 関 係 の性 質 、② 法律 関係 の相 手 方 で あ る人 、 ③ 法 律 関 係 の 対 象 で あ る物 、 の3つ をあ げ 、 この 部分 に錯 誤 が あ れ ば意 思 が な い以 上 そ の意 思 表示 は無 効 で あ る とす る。 そ して② 相 手 方 で あ る人 の 錯 誤 の具 体 例 と して、 遺 言者 が あ る相続 人 を書 面 で指 名 す るが 、 そ の 遺 言 者 が 別 の人 を考 えて い る こ とが 証 明 で き る場 合 、 また遺 言者 が ロ頭 で 遺 言 し相 続 人 を手 で示 した際 、視 力 が弱 って い て 人 を取 り違 えた場 合 や 、 一 度 も会 った 事 の な い特 定 の 人 に贈 与 し よう と した 際 に別 人 とす りか え られ る場 合 、 また特 定 の芸 術 家 に作 品 を一 つ注 文 しよ う と した 際 に 別 人 が そ の芸 術 家 だ と自称 し て 自分 と契 約 す る場 合 、 をあ げ て、 こ れ らの場 合 は 当然 無効 に な る とす る(6)。 こ れ らの 例 か らみ る に、 人 の 同一 性の錯 誤 は 、 ま さに法 人格 の 同一 性 を誤 っ た場 合 で あ り、 単 に相 手 方 の資 産 ・身 分 に 関 して錯 誤 が あ っ た場 合 は同 一性 の錯 誤 に含 む べ きで は な い とい え る。 契 約 相 手 の 同一性 の錯 誤 が 生 じる具体 的場 面 と して は、BがAを 詐 称 した り、Aと い う名 を通称 と して用 い た り、 また代 理 人 と して直 接 本 人 で あ るA 名 義 で契 約 す る場合 な どが 想 定 され るが 、各 場 合 の処 理 につ い て は、 先 例 を 検 討 した 後 で 論 じる 。 (5)高 森 八 四 郎 『法 律 行 為 論 の 研 究 』239頁 以 下(1991年 関 西 大 学 出 版 部)、 拙 稿 「相 手 方 の 言 動 に基 づ く契 約 締 結 と動 機iの錯 誤 につ い て 」 法 律 時 報78巻1号68頁 (6)サ ヴ ィ ニ ー 小 」 郎 訳 『現 代 ロ ー マ 法 体 系 第3巻 』245頁(1998年 成 文 堂)

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人 に つ い て の錯 誤(岡 田) 9 2 契 約 の 目 的 と な る 人 の 錯 誤 保 証 人 が、 債 権 者 と保 証 契 約 を締 結 す る 際 に 主債 務 者 の 同一 性 につ い て錯 誤 に陥 っ て契 約 をす る こ とが あ る。 この場 合 は、 契 約 の 当事 者 の 同 一性 に つ い て 誤 っ た わ け で は な く、 い わ ばサ ヴ ィニ ーが 述 べ る とこ ろ の③ 法律 関係 の 対 象 で あ る物 の錯 誤 、 す な わ ち 目的 物 の錯 誤 で あ る 。 この場 合 、 他 の 人 と取 り違 え て い た の で あ れ ば要 素 の錯 誤 で あ り、主 債 務 者 の 身分 ・資 産 な どを誤 っ て保 証 した の で あ れ ば動 機 の錯 誤 にす ぎな い。 ゆ え に、 通 説 ・判 例 の立 場 で も原 則 と して95条 の錯 誤 に含 め ない し、私 見 で は、 そ もそ も錯 誤 に当 た らず 詐 欺 や不 当利 得 な ど他 の法 理 で 処 理 す る か、 又 は 当事 者 間の 保 証合 意 の有 無 や条 件 の成 就 ・不 成 就 、 前 提 の 欠 如 に よ り無 効 とな る と解 す る。 そ もそ も錯 誤 は、特 定 物 の取 引 にの み適 用 され る。特 定 物 と不 特 定物 は、「当 事 者 が物 の個 性 に着 眼 して取 引 を した か ど うか 」 に よっ て 区別 す る とさ れ る が(7)、「個 性 」 とい う言 葉 で は 具体 的 に 目的物 の どの よ う な部 分 に着 目 した の か 明 らか に で きな い。 表 意 者 の 意 図 は 「そ こ に あ る そ れ」 を取 引 した い と い う こ とであ り、 したが って 時 間 と空 間 に よ っ て個 別 化 され た 物 が特 定 物 で あ る と考 え る(8)。仮 に そ の物 が代 替 可 能 な もの で あ っ た と して も、 当事 者 が 「そ こ にあ るそ れ 」 を取 引 の 目的 物 と して 意 図 して い た 以 上 はそ の 物 が 目的 物 で あ り、 思 っ て い た品 質 や性 能 を備 え て い なか っ た場 合 は動 機 の錯 誤 にす ぎず 、 動 機 に錯 誤 が 生 じる こ と を想 定 して規 定 され た詐 欺 や 理 疵担 保 とい っ た他 の 法 理 で 処 理 す る か 、 これ らの 規 定 に 当 て は ま ら ない よ う な場 合 に は、 契 約 当事 者 間で そ の 品質 や 性 能 が前 提 や条 件 、 も し くは保 証 合 意 され て い な い 限 りは法 的 保 護 の 範 囲 外 で あ る と考 え る(9)。 (7)我 妻 榮 『新 訂 民 法 総 則(民 法 講 義1)』209頁(1965年 岩 波 書 店) (8)高 森 八 四 郎 「売 主 の 殻 疵 担 保 責 任 の 本 質 」 甲 南 法 務 研 究No 211頁 、 三 宅 正 男 「売 主 の担 保 責 任 と錯 誤 」 『契 約 法 体 系II』121頁 以 下(1962年 有 斐 閣) (9)も っ と も、 代 替 可 能 な 目的 物 で あ る 場 合 は 、 特 定 後 で あ っ て も 引 渡 債 務 者 の ほ う か ら 変 更 権 を行 使 す る こ と は 可 能 と考 え る(大 判S12.7.7株 式 の 引 渡 請 求 に お け る債 務 者 の 変 更 権 を認 め た 事 案)。

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10 京女 法学 第1号 こ の 考 え は 、サ ヴ ィ ニ ー の 考 え を 承 継 し た ツ ィ ー テ ル マ ン の 理 論 に 基 づ く。 ツ ィ ー テ ル マ ン は 、 客 体 の 錯 誤 に つ い て 、 意 図(日 本 法 に お け る 効 果 意 思 に 相 当 す る)は 「原 則 と して 特 定 の 法 律 効 果 に 向 け ら れ る か ら 、 客 体 が 個 別 化 さ れ る こ と に よ っ て 意 図 も 個 別 化 さ れ ね ば な ら な い 。 か よ う な 客 体 の 個 別 化 は 特 定 の 客 体 に お い て は 一 定 の 時 間 ・場 所 に お け る 客 体 の 感 性 的 知 覚 に よ っ て の み 規 定 さ れ る 。」(10)とし、 原 則 的 に 客 体 は 「感 性 的 」 に 「個 別 化 」 さ れ る と す る 。 し た が っ て 、 仮 に 目 の 前 に 主 債 務 者 が い て 、 こ の 人 物 の 債 務 を 保 証 す る つ も りで 保 証 人 に な っ た の で あ れ ば 、 債 務 者 の 資 産 ・身 分 が 思 っ た も の と 異 な っ て い た と し て もそ れ は 動 機 に 過 ぎ な い と考 え る 。 以 下 、 こ れ ま で 人 に つ い て の 錯 誤 が 問 題 と な っ た 先 例 を 紹 介 し 、 そ れ ぞ れ 検 討 す る 。

三 判例

1 契 約 相 手 の 同 一 性 の 錯 誤 判 例 契 約相 手 の 同 一性 の錯 誤 が 争 わ れ た事 案 は少 な い 。 これ まで に、① 実在 す る別 人 と法律 行 為 を行 っ た場 合(判 例 【1】 ∼ 【4】)と 、② 架 空 人 と法 律 行 為 を行 った 場 合(判 例 【5Dが あ る(11)。 【1】 小 切 手 の 割 引 をす る相 手 方 につ い て、 相 手 方 か らの 術 策 に よ り別 人 と 割 引 契 約 をす る と誤 信 して取 引 した場 合 に、 錯 誤 が 存 す る と認 め られ た事 例 大 判 昭 和12年4月17日 損 害 賠 償 請 求 事件(大 審 院 判 決全 輯4輯8号3頁) 金 融 業 者 のXは 、 訴外Aが 振 り出 した小 切 手 を、Aの 代 理 人 で あ る訴 外B (io)磯村 哲 『錯 誤 論 考 一 歴 史 と理 論 一 』12頁(1997年 有 斐 閣) 01)判 例 【1】 の 前 に も、人 の 同 一 性 の 錯 誤 が 問 題 と な っ た事 案 と して 、大 判M40.2.25(民 録13輯157頁)が あ る が 、 不 動 産 売 買 の 買 主 が 誰 か は 要 素 の 錯 誤 に 当 た ら な い と し て 同 一 性 の 錯 誤 を 否 定 し た 。

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人 に つ い て の 錯 誤(岡 田) 11

が 割 引 を依 頼 して きた と判 断 してBと 取 引 を した と ころ 、 実 は 、Bは 金 融 業 者Yの 代 理 人 で あ り、Yが す で にAか ら割 引 い た小 切 手 を取 引 した こ とが判 明 した。 当 時 、 再割 引が な され た手 形 小 切 手 は不 払 い が多 い た め、 金 融 業者 間 に は再 割 引 をな さな い習 慣 が あ り、Xは 、 Yの 依 頼 と知 っ て い た な ら到底 応 じなか った と錯 誤 を主 張 した。 大 審 院 は、 金 融 業者Yの 依 頼 と知 って い れ ば割 引 に応 じる こ とは なか っ た とい え 「右 割 引 ヲ求 メ タル者 力Aナ リヤ 将 タ 又Yナ リヤハ 主観 的 ニ モ 又 客 観 的 ニ モ重 要 ノ事 項 二 属 ス ル モ ノ ト謂 フヘ ク」 当 事 者 を誤 って 手形 割 引 に応 じた とす れ ば要 素 の錯 誤 が あ り無 効 とな る と判 示 した 。 本 件 は、BがAの 代 理 人 で あ る とXに 明 示 した か否 か 資料 か ら明 らか に で きな い が 、XはBをAの 代 理 人 だ と思 って 取 引 を して お り、 Aを 契 約 相 手 で あ る と誤信 して い た と考 え られ る。 その た め か 、Xが 錯 誤 無 効 を主 張 して こ の 点 の 判 断 が され た こ とか ら、 こ の判 例 は人物 の 同 一・性 の錯 誤 の先 例 と して あ げ られ て い る(12)。また 本 件 と類 似 の事 案 と して、 意 匠権 の 無 償 譲 渡 契 約 に お い て、Cが 、 Aの 代 理 人 と誤 信 してBの 代 理 人 と契 約 を締 結 した 場 合 に、 Cの 錯 誤 無効 を認 め た事 例 が あ る(東 京 地 判S39.4.21)㈱ 。 しか し両事 案 と も、 表 意 者 か らみ れ ば、 自己 が取 引す る相 手 と考 えて い た 相 手 の 代 理 人 が 実 は無 権 代 理 人 で あ った とい う場 合 で あ る。確 か に今 回の事 (12)我妻 榮 『新 訂 民 法 総 則(民 法 講 義1)』300頁(1965年 岩 波 書 店) (13)東京 地 判S39.4.21(判 タ161号151頁)。 外 国 会 社Xは 代 理 人Aを 通 じて 、 Yか ら意 匠 権 の 無 償 譲 渡 を 受 け る 契 約 を 締 結 し た と こ ろ 、Aが 交 渉 中 にB社 社 長 の 書 簡 をYへ 持 参 す る な ど し て い た た め 、Yは 、 AをB社 の 代 理 人 と信 じて い た 。 Xか らの 意 匠 権 移 転 登 録 手 続 の 請 求 に 対 し てYが 錯 誤 無 効 を主 張 し た の に 対 し、 裁 判 所 は、AはXの 代 理 人 と し て 譲 渡 契 約 を 締 結 し た の で こ の 点 に つ きYに 錯 誤 が あ っ た と し た う え で 「本 件 無 償 譲 渡 契 約 に お い て 譲 受 人 がXで あ る か 、B社 で あ る か は 、 そ の 性 質 上 、 契 約 の 要 素 を な す 」 と して 、 譲 渡 契 約 の 無 効 を 認 め た 。 こ の 事 案 も、 ど の よ う に 顕 名 した の か 認 定 し て お らず 微 妙 な 事 案 で あ る が 、YはX社 を 認 識 して い な か っ た と主 張 し て お り、B社 と 代 理 人 を 通 じ て 契 約 す る 意 図 で あ っ た 以 上 は 無 権 代 理 の 法 理 で 処 理 す べ き と考 え る 。

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12 京 女法 学 第1号 案 で は、 代 理 権 を授 与 した本 人 が 別 に存 在 して お り、 そ の本 人 との法 律 関係 だ け を と らえ れ ば契 約相 手 の 同一 性 に錯 誤 が あ っ た と言 え そ う で あ るが 、 む しろ相 手 方 は本 人 の存在 を知 らず 、別 人 の代 理 人 と思 っ て取 引 に入 っ てお り、 そ の代 理 人 が 無 権 代 理 人 で あ った 事 案 で あ る 。後 述 の とお り、 無 権 代 理 の場 面 で は、 当該 人 物 が 有効 な代 理 権 を有 す る代 理 人 で あ る と思 っ て取 引 関係 に 入 っ た の で あ り、 そ の相 手 方 を保 護 す る た め にそ の契 約 の効 果 は113条 で 原 則 無 効 と定 め られ てい る こ とか ら、錯 誤 無効 を主 張 す る必 要 性 は な い。 こ の 事 案 は、 代 理 の法 理 を適用 して処 理 す べ き事 案 で あ っ た とい え る。 【2】 契 約 相 手 を 国 と誤 信 して締 結 した 売 買 契 約 につ い て錯 誤 無 効 の 主 張 が 認 め られ た事案 最 判 昭和29年2月12日 所 有 権 確 認 等 請 求 上 告 事件(民 集8巻2号465頁) Xら は、 戦 争 中 に小倉 陸 軍造 兵 廠付 属技 能 要 請所 の所 長、 教 頭 ら陸軍 将 校 か ら交 渉 を うけ て、 そ の所 有 す る防 風 林 、 保 安林 で あ っ た土 地 を、 買 主 が軍 す な わ ち 国 に よる買 収 で あ る か らや む を え ない と考 えて 、Yの 作 成 した売 渡 証 書 な どに 内容 を よ く読 まず押 印 し売 却 した 。 しか しXは 、終 戦 後Yは 軍 の 外 郭 団体(当 時財 団法 人 共 栄会)で あ った こ と に気 付 き、売 買 の 当事 者 に錯 誤 が あ った と主 張 した。 最 高裁 は、 「買 主 が 国 で あ る かYで あ るか は主 観 的 に も客 観 的 に も重 要 の 事 項 に属 す る もの と認 む べ きで あ るか ら、本 件 売 買 の 買 主 につ い て のX等 の 前 記 錯 誤 を以 て要 素 の 錯 誤 で あ る とす る原 判 示 は相 当」 と して錯 誤 無 効 の 主 張 を認 め た。 本 件 は、 具 体 的 に将校 らが どの よう に名 乗 り、 また 契 約書 な どの買 主 を ど の よ うに記 載 して いた の か裁 判 所 が 認 定 して お らず 、 当 事者 を誰 と解 す る の か事 実 認 定 が 難 しい事 案 で あ る。 一 般 に、今Cの 目の 前 にAと 名乗 る男 性(実 はB)が 来 て取 引 の 申込 を した の に対 し、CがAな ら資 産 が あ る か ら大 丈夫 と考 え て こ れ に応 じた場 合 は 、Cは 目の前 にい る男 性 と取 引 す る意 図 で あ り、

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人 に つ い て の 錯 誤(岡 田) 13 そ の男 性 がAだ か ら資 産 が あ る だ ろ う とい うの は 動 機 に過 ぎ ない とい え る。 こ れ に対 し、 目の前 の男 性Aと 取 引 を した つ も りであ った の に 、 実 は法 人 格 の異 な るBと の 問 で 取 引 が成 立 して い る場 合 が 同 一 性 の錯 誤 で あ る。 した が って 今 回、 仮 にXら が 目の前 に い る将 校 らに売 り渡 す 意 図 が あ り、 そ れが 国 だか ら、 と考 え た ので あ れ ば、 取 引 相 手 の属 性 を誤 った とい う こ とで動 機 の錯 誤 に な るが 、 本 件 事 実 関係 か らみ る とXは 、 将 校 ら と取 引 をす る とい う 意 図 は な く、 初 め か ら取 引相 手 を 国 と思 っ てお り、 しか し実 際 は法 人 格 の 異 な る財 団 法 人Yと 取 引 して い た の で あ るか ら、 契 約相 手 の 同一・性 につ い て錯 誤 が あ った と考 え る。 この判 例 の よ うに、 別 人 に な りす ま して契 約 をす る よ う な場 面 で は、 人 物 の 同 一性 を誤 った ため に契 約 を した の か、 属 性 を誤 った た め な の か 、 実 際 に は判 断が 難 しい こ とか ら、 人物 の 同 一性 錯 誤 と属 性錯 誤 を区 別 す る必 要 性 につ い て 疑 問 を呈 す る見 解 が あ る(4)。しか し、動 機 の錯 誤 は錯 誤 に含 め な い とす る 私 見 か らす れ ば、 「誰 と契 約 す る意 図 で あ つた か」 とい う契 約 相 手 そ の もの の錯 誤 と、 「どの よ うな 人 物 と契 約 す る意 図 で あ っ た か」 とい う属 性 の錯 誤 は、 法 的 判 断 が 異 なる重 要 な 区別 で あ る。 実 際 の事 案 に お け る事 実 関係 の判 断の 難 し さは伴 うが 、 や は り明確 に 区別 す るべ きで あ る と考 え る 。 【3】 債 権 者 が 相 手 を 間 違 え て 発 し た 債 務 免 除 の 通 知 に つ き 、 相 手 方 の 同 一 性 の 錯 誤 を 認 め た 事 例 東 京 地 判 昭 和33年8月22日 請 求 異 議 事 件(判 時163号17頁) Xら は 、 訴 外A(宮 坂)のYに 対 す る 借 用 金 債 務 に つ い て 連 帯 保 証 し た 。 Y代 表 者 は 事 務 員Bに 対 し、Yの 「宮 内 」 に 対 す る 債 務 免 除 の 通 知 を 口 頭 で 命 じ た と こ ろ 、Bが 誤 聞 してA(宮 坂)に 対 し通 知 を 行 っ た 。 程 な くY代 表 (14)米倉 明 「買 主 につ い て の錯誤 」 別 冊 ジ ュ リス トNo1014頁 、 「同 一性 錯 誤 と属 性錯 誤 」 北 大法 学 論集17巻2号40頁 。 また、契 約 当事 者 を 国 とXら と考 えて無権 利 者 か らの土 地取 り戻 しの問題 とす る見解 もあ る(河 上正 二 「買 主 に 関す る錯 誤 を要素 の錯 誤 と し て売 主 の売 買無 効 の主 張 を認 め た事例 」法 協106巻4号698頁)。

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14 京女 法学 第1号 者 はBの 誤 りを知 り、A(宮 坂)に 対 し内容 証 明郵 便 で前 記債 務 免 除 の取 消 を通 知 した 。 そ の 後YがXら に強 制執 行 した とこ ろ、Xら が 、債 務免 除 に よ るYのAに 対 す る債 務 の消 滅 を主張 した。 判 決 で は 「債 務免 除 の 通知 は相 手 方 の 同 一性 に つ い て の錯 誤 が あ っ て、 要 素 に錯 誤 あ る無 効 の もの とい うべ き で あ る。」 と して 同一 性 の錯 誤 を認 め た。 本 件 は 、使 者 の 立場 に あ った と判 断 さ れ る事 務 員 が 、 債 務免 除 の相 手 方 に つ い て誤 っ て表 示 した事 案 で あ る。 表 意 者 の内 心 的 効 果 意 思(宮 内 に対 す る 債 務 免 除)と 表 示 行 為(宮 坂 に対 す る債 務 免 除)に 不 一 致 が あ る、 い わ ゆ る 書 き間 違 い な どの 表示 上 の錯 誤 に あ た る。 典 型 的 な人 の 同一性 の錯 誤 で あ る とい え る。 【4】 ア パ ー ト賃 貸 借 契 約 に お い て 借 主 の 同 一 性 に つ い て の錯 誤 が 認 め られ た事 例 東 京 地判 平 成2年4月24日 損害 賠 償 請 求 事 件(判 タ738号131頁 判 時1368 号79頁) 建 物 所 有 者Y1は 、 不 動 産 業者Y 2に 本 件 賃 貸 借 契 約 の 手続 を一任 し、 借 主Xの 代 理 人Aと の 間 で、Y1を 貸 主 、 Xを 借 主 とす る本 件 賃 貸借 契約 を締 結 した。 契 約 締 結 の際 、 まず前 日に、 建 設 会 社 社 長 と称 す る男 がAと と もに 翌 日本 人 を行 かせ る と述 べ て従 業 員 用 アパ ー トの紹 介 をY2に 依 頼 して い た が 、 当 日Aは 、Xと は別 人 をXで あ る と紹 介 した こ とか ら、 Y 2は 、 右 男 性 が借 主 とな るX本 人 であ る と信 じて契 約 した とこ ろ、Xは 年齢84歳 の別 人 で あ った。 そ の後Yら は、Xが2ヶ 月 ほ ど不 在 に して い た 問 に室 内 のX所 有 の 動 産 を無 断 で搬 出 し、 本 件 貸 室 を第 三 者 に賃 貸 した こ とか ら、Xは 、 違 法 に 借 家 権 を喪 失 させ た と して 損 害賠 償 を請 求 した 。 これ に対 しYら は、Xに つ い て の 同一 性 に錯 誤 が あ り賃貸 借 契 約 は不 成 立 で あ った と主 張 した。 判 決 で は 、 「賃 貸 借 契 約 締 結 につ い てY1を 代 理 したY2は 、 Aが 同 行 した年 齢35、

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人 に つ い て の錯 誤(岡 田) 15 6歳 位 の男 性 を借 主 と誤 信 してXと の 問 で本 件 賃 貸 借 契 約 を締 結 した もので あ る か ら…Y1も 、84歳 に もな る高齢 者 に賃 貸 す る こ とに な る とは全 く思 っ て もい なか っ た」 「建 物 賃 貸 借 の よ う な継 続 的 な 契約 関係 にお い て は、 契 約 当事 者 間 の 個 人 的 な信 頼 関係 が 重 要 性 を もつ 」 と した う えで 、 「本 件 賃 貸 借 契約 にお い て借 主 が どの よ うな 人 か、 こ とに借 主 が 高 齢 者 か ど うか は契 約 の 要 素 で あ って 、 … 借 主 とな るべ きX本 人 の 同一 性 ない し年齢 につ い ての 錯 誤 は、 要 素 の錯 誤 に当 た る」 こ とか ら、 本 件 賃 貸 借 契 約 は要 素 の錯 誤 に よ り無 効 で あ った と した 。 本 件 は 、賃 貸 借 契約 の借 主 と して契 約 時 に貸 主(の 代 理 人)と 対 面 して い た 人物 が借 主 とは別 人 で あ っ た とい う事 案 で あ る。 真 の借 主 が 、 若 い男 性 を い わ ば 身代 わ りに利 用 して賃 貸 借 契 約 を締 結 した詐 欺 的 な事 案 で あ るが、 貸 主 は 目の前 に い る若 い男 性 を借 主 と して 契約 を締 結 した ので あ り、 この男 性 と貸 主 との 問 で賃 貸 借 契 約 が 成 立 す る余 地 は あ る もの の、 少 な くと もXを 契 約 相 手 と して意 図 して い なか った とい え、 人物 の 同一 性 につ い て錯 誤 が あ っ た とい え る(15)。 【5】 法 人 格 を 有 し な い 会 社 の 代 表 者 と 、 会 社 と 取 引 す る 意 図 で 契 約 し た 相 手 方 に つ い て 、117条 を 類 推 適 用 し て 会 社 代 表 者 に 対 す る 報 酬 請 求 を 認 め た 事 例 最 判 昭 和33年10月24日 報 酬 金 請 事 件(民 集12巻14号3228頁) 設 立 準 備 中 で 未 だ 設 立 登 記 未 了 で あ っ た 法 人 格 の な い 会 社 の 代 表 者Yが 、 将 来 設 立 す るA社 の 宣 伝 目 的 でX野 球 株 式 会 社 を招 聰 し 、A社 主 催 で の 野 球 試 合 の 開 催 を 企 画 し た 。 そ の 際YはA社 代 表 取 締 役 を 名 乗 り、 他 方Xは す で (15)もっ と も、 た とえ錯 誤 に よ り契約 が無 効 であ っ た と して も、 自力救 済 の禁 止 に触 れ な いか 、 また これ まで 支払 って きた 賃料 は どの ように清 算 すべ きか とい った継 続 的契約 の錯 誤無 効 の処 理 も問題 と なる との指摘 が あ る(山 田卓 生 「借 家契 約 にお け る賃 借 人 の年齢 と要 素 の錯誤 」 ジ ュ リ1009号106頁)。

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16 京女 法学 第1号 にA社 は実 在 しYが そ の代 表取 締 役 で あ る と信 じて 契約 を締 結 した。 しか し 出場 報酬 金 な どが支 払 われ なか っ た た め、Xが 、 YはA社 の代 表 者 と して の 資格 が な い の にXと 契 約 した とい う関係 は無 権代 理 の場 合 と同様 で あ る と主 張 して 、Yに117条1項 を根 拠 に支 払 を求 め た 。 最 高 裁 は 「民法117条 は、 元 来 は実在 す る他 人 の代 理 人 と して 契約 した場 合 の規 定 で あ って、 本 件 の如 く 未 だ存 在 しな い会 社 の代 表 者 と して契 約 したYは 、 本 来 の 無権 代 理 人 に は 当 た らな い け れ ど も、 同条 は も っぱ ら、 代 理 人 で あ る と信 じて これ と契約 した 相 手 方 を保 護iする趣 旨 に 出た もの で あ るか ら、 これ と類 似 の 関係 に あ る本 件 契 約 につ い て も、 同 条 の類 推 適用 に よ り、 前 記 会 社 の代 表 者 と して 契約 した Yが そ の責 に任 ずべ き もの と解 す る」 と してXの 主 張 を認 め た 。 本 件 は 、本 人 た るA社 が まだ存 在 して い な い に もか か わ らず 、 そ の代 表者 を名 乗 っ て相 手 方 と取 引 を した事 案 で あ る。 今 回 は本 人A社 に法 人格 が な い た め117条 を直接 適 用 す る こ とが で きな い こ とか ら、 最 高 裁 は117条 を類 推 適 用 してYに 対 す る報 酬請 求 を認 め た 。 そ の後 同様 に設 立 中 の会 社 の代 表 取締 役 と して相 手 方 と取 引 した場 合 に、相 手 方 と当該 代 表 取 締 役 の 関 係 につ い て 117条 を類 推 適用 す る判 決 が あ り、 裁 判 所 の見 解 は ほ ぼ確 定 して い る とい え る(16)。本 件 で は 、 相 手 方Xは 法 人格 の ないA社 と取 引 す る 意 図 で あ り、 契 約 の 相 手 方 の 同 一 性 に錯 誤 が あ っ た と もい え る が 、 事 実 関係 が117条 で想 定 し て い る状 況 と類 似 して お り、 相 手 方保 護 の趣 旨 も当 て は ま る こ とか ら、 最 高 裁 は錯 誤 無 効 で 処 理 す る の で は な く代 理 法 理 で 処 理 す べ き と判 断 した とい ⑯ 東 京 高 判S41.12.12(判 時473号32頁)、 東 京 高 判S51.7.28(判 時831号94頁)、 浦 和 地 判S60.3.22(判 タ559号274頁)が あ る。 ま た 、 類 似 の 事 案 に 最 判S44.7.4(民 集 23巻8号1347頁)が あ る。 詳 細 は、 高 森 八 四 郎 「労 働 金 庫 の 員 外 貸 付 の 効 力 とそ の 債 務 を 担 保 す る た め に 設 定 さ れ た 抵 当 権 の 実 行 に よ る所 有 権 の 取 得 を 否 定 す る こ と が 信 義 則 上 許 さ れ な い と さ れ た 事 例 」(名 古 屋 大 学 法 政 論 集51号125頁)参 照 。

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入 につ い て の 錯 誤(岡 田) 17 え、 学 説 も概 ね 賛 成 の 立 場 を とっ て い る(1の。 厳 密 に区 別 す れ ば、 法 人格 を有 しな い相 手 との取 引 には 、① 設 立 中 の会 社 との取 引 、 ②歴 史 上 あ りえ な い人 (い わ ゆ る 虚 無 人)と の 取 引 が 考 え られ るが 、 い ず れ も効 果 に差 異 は な く、 これ らの 場 合 に は最 高裁 の判 断 と同様 に、 錯 誤 で は な く代 理 の 規 定 を類 推 適 用 す るべ きで あ る と考 え る。 2 契 約 の 目 的 と な る 人 の 錯 誤 判 例 【6】 契 約 書 の持 参 人 が 主 債 務 者 とな る と信 じて 主 債 務 者 が 空欄 の 連 帯保 証 契 約 書 に署 名 捺 印 した が、 そ の後 別 人 の 氏 名 が 記 入 され た 場 合 に、主 債 務 者 の 同 一性 に つ い て錯 誤 が あ る と認 め られ た 事例 大 判 昭和9年5月4日 講 金 請 求 事 件(大 審 院民 事 判 例 集13巻633頁) 講 の管 理 人が 、 講i金630円 を訴外Bに 貸与 し、Y等 は そ の連 帯 保 証 を した。 こ の連 帯 保 証 契 約 は、Cが 借 主 の氏 名 が 未記 入 の借 用 証 書 を持 参 してCの た め に保 証 人 とな って 欲 しい と依 頼 し、Y等 が署 名 捺 印 したが 、 そ の 後Cは 借 主 にBと 書 き入 れ て債 権 者 に差 し出 して い た とい う経 緯 が あ った 。 主債 務 の 履 行 が な い ため 、 管 理 人XがY等 に対 し連 帯 保 証 債 務 の 履 行 を請 求 した の に 対 して、Y等 は、 主債 務 者 がBで あ れ ば保 証 をす る意 思 は な く、 当 該 意思 表 示 は錯 誤 無 効 で あ る と主張 した。 大 審 院 は、 甲(本 件 のC)が 自己 の債 務 に つ き保 証 人 と な る こ と を乙(Y)に 委 嘱 し、 乙(Y)が 借 主 空欄 の借 用 証 書 に保 証 人 と して 署名 捺 印 し甲(C)に 交 付 した 場 合 に、 特 別 の事 情 が な い限 り、乙(Y)は 甲(C)の 債 務 につ い て保 証 す る意 思 を現 す と と もに 甲(C) を使 者 と して 表示 し よ う と し、 甲(C)も 使 者 と な る こ と を承 諾 した と解 さ れ るか ら、 「甲 カ …他 人 ヲ主 債 務 者 トシテ 記 入 シ之 ヲ某(債 権 者)二 致 シ而 シテ 某 ハ 之 ヲ以 テ右 ノ他 人 ノ債 務 二付 保 証 人 タ ラム トス ル 乙 ノ 意思 表 示 ナ リ (17)遠田新 一 「設 立登 記 未 了の 会社 の代 表 取締 役 と して 契約 を締 結 した者 の責 任」 民 商法 雑 誌40巻5号820頁 、 大 原 栄 一 「開業 準備 行 為 と発 起 人 の責 任 」 別 ジ ュ リ29号23頁 、 長 浜 陽一 「発起 人 の 開業準備 行為 」 別 ジ ュ リ63号16頁

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18 京女 法学 第1号 ト領 会 シ テ 之 ヲ受 納 シ タ ル トキ ハ 弦 二 使 者 タ ル 甲 ノ 失 行 二 因 リ 乙 ノ 意 思 ト其 ノ 表 示 トノ 問 二 不 一 致 ヲ来 シ タ ル 」 と し て 、Y等 の 錯 誤 無 効 の 主 張 を 認 め た 。 本件 事 案 は 、表 意者YがCの 債 務 を保 証 す る意 思 で あ った の が 、 使 者 で あ るCに よっ て誤 っ てBの 債 務 を保 証 す る 旨債 権 者 に表 示 され た と構成 し、Y 等 の錯 誤 無 効 を認 め た もの で あ る。 こ れ も、 判 例 【3】 と同 じ く、 表 意者 の 内 心 的 効 果 意 思(Cの 債 務 を保 証 す る)と 表 示 行 為(Bの 債 務 を保 証 す る) に不 一致 が あ る、 い わ ゆ る書 き間違 い な どの 表 示 上 の 錯 誤 にあ た り、 契 約 の 目的 で あ る 人 の 同 一i生の錯 誤 が あ る とい え る。 【7】 銀 行 を通 じて な した登 記 簿 上存 在 す る だ け の実 体 の ない 会 社 の債 務 の 保 証 契 約 に つ い て 、 保 証 会社 の 銀 行 に対 す る錯 誤 無効 の 主 張 が認 め ら れ た事 案 東 京 地判 昭和53年3月29日 保 証債 務 請 求 事 件(下 民 集29巻1∼4号153頁) X銀 行 は 、A商 事 の専 務 で 尾 崎 と名乗 る男 か らの 中 し入 れ を受 け て銀 行 取 引 を開始 し、 そ の後 尾 崎 を通 じてB商 工 、C産 業 と も取 引 を 開始 した 。 一 方 Y信 用 保 証 協 会 は 、X提 出の 信 用 調査 書 等 各 書 類 の 内容 を机 上 調 査 した 結 果 、 本 件 三社 に 関 す るXの 所 見 が 良 か っ た こ とや、 本 件 各 契 約 に は連 帯 保 証 人 も つ い て い た こ とな どか ら、ABC各 社 のXに 対 す る債 務 を保 証 す る契 約 をX と締 結 した 。 しか し本 件 三 社 は、尾 崎 らがXか ら金 員 を騙 取 す る た め作 出 し た登 記 簿 上 存 在 す る だ け の実体 皆 無 の会 社 で あ り、 各 種 書 類 は偽 造 ・作 出 さ れ た もの で あ る こ とや、BCの 二社 につ い て は各 信 用 保 証 委 託 書 の連 帯 保 証 人 欄 の記 載 も本 人 の 承 諾 な しに尾 崎 らが 勝 手 に 記 入 した こ とな どが 判 明 し た 。 手形 が不 渡 りとな っ た こ とか らXがYに 保 証 債 務 の 履 行 を求 め たの に対 し、Yは 、本 件 三社 が実 際 に事 業 を営 む 中小 企 業 者 で あ り、 BC社 につ い て は各代 表 取 締 役 が 連 帯 保 証 人 とな っ て い る と信 じて本 件 各 契 約 を締 結 した 以 上 、Yの 本 件 各 契約 締 結 の意 思 表示 は そ の重 要 な部 分 に錯 誤 が あ り無 効 で あ

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人 に つ い て の錯 誤(岡 田) 19 る と主 張 した 。 判 決 で は 「Yの 本 件 各 契 約 に よ る信 用 保 証 の意 思 表 示 は、 そ の 重 要 な部 分 に … 要 素 の 錯 誤 が あ る とい うべ きで あ る。」 と してXの 請 求 を 棄却 した 。 こ の 事 案 と ほ ぼ 同 じ事 実 関 係 の 判 例 と し て 、東 京 高 判 平 成19年12月13日(判 時1992号65頁)が あ る(18)。 両 事 案 と も、 詐 欺 師 が 登 記 簿 上 存 在 す る だ け の 実 体 の な い 会 社 を作 出 し て 銀 行 か ら金 員 を 詐 取 し、 そ の 債 務 を 保 証 会 社 が 保 証 し た ケ ー ス で あ り、 い ず れ も保 証 契 約 の 錯 誤 無 効 の 主 張 が 認 め ら れ た 。 こ れ ら の 場 合 は 、 主 債 務 者 た る 法 人 は 登 記 簿 上 存 在 し て い た 以 上 、 そ の 活 動 実 体 は 伴 っ て い な か っ た と し て も 法 人 格 は 有 し て お り、 よ っ て そ の 錯 誤 は 法 人 の 同 一 性 で は な く法 人 の 属 性(実 体 が あ っ て 弁 済 す る 能 力 が あ る)の 錯 誤 に あ た る と い え る(19)。よ っ て 自説 で は 、 動 機 の 錯 誤 で あ る た め 、95条 の 錯 誤 で は な く前 提 の 欠 如 に よ っ て 無 効 とす べ き事 案 で あ っ た と 考 え る 。 主 債 務 者 の 属 性 に 関 す る 錯 誤 の 判 例 は 多 数 あ る が 、 私 見 で は 、 当 該 主 債 務 者 の 債 務 を 保 証 す る つ も りで 保 証 人 に な っ た の で あ れ ば 、 主 債 務 者 の 資 産 ・ 身 分 が 思 っ た も の と異 な っ て い た と し て も そ れ は 動 機 に 過 ぎず 、 動 機 の 錯 誤 は 錯 誤 に 含 め ず 詐 欺 や 前 提 の 欠 如 な ど他 の 法 理 論 に よ り処 理 す べ き と 考 え る の で 、 こ れ ら判 例 の 結 論 は と も か く、 動 機 の 錯 誤 と し て95条 で 処 理 を す る 理 (is)東京 高裁H19判 決 は、 Y銀 行 がA社 に対 し約4千 万 円 を貸 し付 け、 そ の際X信 用 保 証 協 会がYか らの 依頼 を うけてAの 債 務 を保 証 したが 、 その後A社 は登 記 簿上 存 在す る だ けの実 体 の ない会 社 で あ るこ とが分 か 駄 またAの 代 表者 は金員 詐取 目的 で書類 を 偽 造す るな ど して詐 欺 で実 刑判 決 を受 け た こ とか ら、XがYに 対 し保証 契約 の錯 誤 無 効 を理 由に、 保 証 した 金員 の不 当利 得 返還 請 求 を求 め た事案 であ る。判 決 で は、Xが 保 証 した 企業 が 企業 と しての実 体 を有 す る こ とは、Xが 保 証 をす るた めの重 要 な要 素 であ る とい うこ とがで き、 本件 保証 契 約 はそ の重 要 な部 分 に要 素 の錯誤 が あ った とい う こ とが で きる と判示 され 、錯誤 無効 の主張 が認 め られ た。 (19)これ に対 し、人 の 同一性 の錯 誤 に近い と考 える見解 もあ る(滝 沢 昌彦 「私法 判例 リマー クスNo38」10頁)。 この見解 は人 の性 質 の錯 誤 を動 機 の 錯誤 と して扱 う ことそ の もの に疑 問 を呈 してお り、 そ の点 は 自説 に近 いが 、特 定物 ドグマ を否定 す る立場 か らの見 解 で あ る点 が根 本 的 に異 なる。

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20 京 女 法学 第1号 論 構 成 に は賛 成 で きな い。 これ まで も保 証 契 約 にお け る主 債 務 者 の弁 済 能 力 につ い て錯 誤 に陥 っ て いた こ と を理 由 に保 証 人 が 契約 の無 効 主 張 を した事 案 が多 くあ るが 、 判 例 は動 機 が相 手 に表 示 され た か 否 か とい う事 実認 定 で結 論 が分 か れ てい る。む しろ前提 の欠如 で無 効 と判 断 すべ きものが多 い と考 え る⑳。

四 検討

1 契 約 相 手 の 同 一 性 の 錯 誤 に つ い て 人 の 同一 性 の錯 誤 に あた る と され る先 例 を検 討 して み る と、 判 例 【3】 の よ うに、 相 手 方 か らの 誘 引 な く表 意 者 自 らが 契 約相 手 を誤 る よ うな、 典 型 的 な 人物 の 同一 性錯 誤 の事 案 は む しろ まれ で 、相 手 方 か ら何 らか の誘 引が あ っ て契 約 相 手 の 同一 性 に錯 誤 が生 じた事 案(判 例 【1】 【2】 【4】 【5】)が 一 般 的 とい え る。そ の 中 に は、無権 代 理 に当 た る事 案 で は な い か と思 わ れ るケ ー ス(判 例 【1】)や117条 を類 推 適 用 した ケ ー ス(判 例 【5】)の よ う に、 錯 誤 で は な く代 理 の 法 理 で 処理 す る のが 適 当 な事 案 が あ る。 す な わ ち、 無 権 代 理 が 問題 とな る具 体 的 場 面 は 、実 は代 理権 を有 しな いBが 本 人Aの 代 理 人 で あ る と取 引 の 相 手 方Cに 顕 名す る た め、Cが 自分 の取 引相 手 をAと 思 っ て い る場 合 で あ る。 した が って 、無 権 代 理 人Bと 取 引 を したCは 、 契約 の相 手 方 に つ い て錯 誤 に 陥 っ て い る とい え るが 、 そ の効 果 につ い て は113条 でAが 追 認 しない 限 り無 効 と定 め られ て お り、 そ もそ もCが 錯 誤 無 効 を 主張 す る必 要 性 が な い こ とか ら錯 誤 が 問題 とな る こ とはな い 。 また設 立 中 の会 社 な ど未 だ 法 人格 を有 し ない 本 人 を代 理 す る か の よ うに 装 っ た場 合 は117条 を類 推 適 用 す れ ば足 り、 この 点 最 高 裁 の見 解 は妥 当 で あ る。 した が っ て 、代 理 法 理 が 適 用 され る場 面 は代 理 の 法 理 で処 理 す べ きで あ り、代 理 法 理 が適 用 され ない 場 合 に は じめ て 人 の 同 一 性 の錯 誤 を錯 誤 法理 で処 理 す る こ とを、 法 は予 定 して (zo)野口大作 「保証 と錯誤:破 綻状 態 にあ る主債務 者 の た めの連 帯 保証 契 約 が錯 誤 に よ り 無効 とされ た事例 」(札 幌法学19巻2号33頁)と 同 旨。

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人 につ い て の 錯 誤(岡 田) 21 い る と考 え る。 一 般 に契 約相 手 の 同 一 性 に錯 誤 が生 じる た め に は、Bが 、 別 人 で あ るAを 名 乗 る必 要 が あ るが 、 さ ま ざ まな理 由 で別 の名 を称 す る こ とが あ る の で、 以 下 場 合 を分 けて 検 討 す る。 (1)Bが 自 己 に 効 果 を 帰 属 せ しめ る意 図 で 実 在 す る別 人 のAと 名 乗 っ た 場 合 Bが 、 自 分 が 契 約 当 事 者 と な る つ も りで あ っ た が 、 実 在 の 別 人Aを 名 乗 る 場 合 の 先 例 と して 、 夫 が 平 常 取 引 上 妻 の 氏 名 を 用 い る こ と を 常 と して お り、 手 形 の 署 名 に 妻 の 氏 名 を 表 示 し た 場 合 に 、 夫 に 効 果 が 帰 属 す る と さ れ た 事 例 が あ る(大 判 大 正10.7.13民 録27輯1318頁)。 こ の よ う に 、 日 ご ろ か ら別 人 の 名 を 名 乗 る場 合 も あ り う る が 、む し ろ 、資 産 や 信 用 の あ るAに な りす ま し て 、 詐 欺 的 に相 手 方Cと 契 約 す る 場 合 が 一 般 的 で あ ろ う 。 こ の 場 合 は 、BにAの た め に す る 意 思 は な く、代 理 の 法 理 は 適 用 さ れ な い 。 相 手 方Cは 、BをA(多 くの 場 合Bよ り も 資 産 ・信 用 の あ る 実 在 す るA)と 信 じて 取 引 を す る こ と に な る が 、 前 述 の と お り、Cが 、 Bと 取 引 を す る 意 図 で あ っ た 場 合 は 、 あ く ま でCは 「そ こ に い る そ の 人 」 と契 約 す る 意 図 で あ っ た こ と か ら人 物 の 同 一 性 の 錯 誤 は な く、Bの 資 産 ・信 用 な どの 属 性 の 錯 誤 が あ っ た に 過 ぎ な い と考 え る 。 実 在 の 他 人 に な りす ま し た ケ ー ス と し て 、 大 判 大 正5年4月8日(法 律 新 聞1130号14頁)が あ る 。 こ れ は 、Aの 恩 給 証 書 を 盗 ん だ グ ル ー プ の 一 員 で あ るBが 、Aに な りす ま し てCか ら金 を 借 りた と い う 事 実 の も と で 、 CがA に 対 し て 返 済 を求 め た の に 対 し、 裁 判 所 は 「本 件 消 費 貸 借 に お い て はA名 又 は其 代 理 人 の 意 思 表 示 な きが 故 に 右 消 費 貸 借 はCとAの 問 に 成 立 を 認 む る を 得 ざ る も の と云 ふ 可 く現 に 其 行 為 を 為 した るBとCと の 間 に 成 立 し た る も の

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22 京女 法学 第1号 と認 む る の 外 な し」⑫Pとし た 事 案 で あ る 。 ま さ に 契 約 当 事 者 の 属 性 の 錯 誤 で あ り、 妥 当 な 判 断 で あ る と い え る 。 (2)A代 理 人Bが 、Aの 名 の み を相 手 方Cに 名 乗 って契 約 した場 合 判例 は、 代 理 人が 直接 本 人 の 名 を相 手方 に示 して代 理 行 為 を行 っ た 場合 も 有 効 な代 理 の形 式 で あ る と判 断 して い る。 これ ま で争 わ れ た 事 案 と して は 、 支 配 人 が本 人 か ら預 か っ て い た印 を用 い て直 接 本 人 の 名 で 手 形 の 裏 書 き を し た 場 合 に効 力 が 本 人 に生 じる と した事 案(大 判 大 正9.4.27民 録26輯606頁)、 また 、本 人 が事 実上 支 配 人 と して 包括 的代 理 権 を与 えて い た 者 が な した本 人 の 名 に よ る代 理 行 為 を有 効 と した 事 案(最 判 昭 和41.10.18裁 判 集 民 事84号 583頁)な どが あ る。 い ず れ も本 人 が 、相 手 方 か らの請 求 に対 してそ の履 行 を免 れ る た め に顕 名 の効 力 を争 った事 案 で あ っ たが 、 判 例 は この 場合 も顕 名 が あ っ た と解 釈 して本 人へ 効 果 を帰属 させ た。 結 論 は妥 当 で あ るが 、 これ を 一 般 化 して 、代理 人が直接本 人 の名 を相 手 に示せ ば顕名 があ った と解す る 見 解(22)には賛 成 で きな い。 相 手 方 は本 人 の 名 を名 乗 られ た だ け で は代 理 人 か どうか分 か らな い以 上 、 本 人 の 名 の み を相 手 方 に名 乗 った 場 合 は、 原則 非 顕 名 と して処 理 すべ きで あ り、 例 外 的 に相 手 方 が 本 人 との 取 引 を望 む場 合 は、 相 手 方保 護 とい う顕 名 の趣 旨 に反 せ ず 、 また本 人 も代 理 権 を与 えて い た 以 上 不都 合 は な い こ とか ら本 人 に効 果 が帰 属 す る と解 釈 しう る と考 え る。 判例 の 事 案 は、 い ず れ も相 手方 が本 人 へ の効 果帰 属 を求 め て いた 事 案 であ り、 例外 的 な事 案 で あ る とい え、 よ って 代 理 人Bが 本 人Aの 名 の み を示 した場 合 は、 ⑳ 続 け て 「CはAを 借 主 と な す こ と を 以 て 右 契 約 の 要 素 と為 した る も の と認 む 可 きが 故 にCとBと の 間 の 本 件 消 費 貸 借 契 約 は其 要 素 に 錯 誤 あ る も の と し て 無 効 な る こ と勿 論 な り」 と述 べ て 、CとBと の 間 の 契 約 の 効 力 に つ い て も錯 誤 無 効 に よ り無 効 で あ る と 述 べ るが 、 本 件 はCのAに 対 す る 請 求 が 問 題 と な っ て い る の で あ り、 こ の 部 分 は 傍 論 に あ た る 。 (22)浜上 則 雄 執 筆 部 分 『注 釈 民 法(4)』21頁(1967年 有 斐 閣)、 我 妻 榮 『新 訂 民 法 総 則(民 法 講 義1)』346頁(岩 波 書 店1965年)、 星 野 英 一 『民 法 概 論1』219頁(1981年 良 書 普 及 会)な ど。

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人 に つ い て の 錯 誤(岡 田) 23 原 則 非 顕 名 と して100条 本 文 を適 用 す べ きで あ り、 この場 合 も錯 誤 で は な く 代 理 の 法理 で処 理 さ れ る事 案 で あ る とい える0 (3)無 権 代理 人Bが 、 本 人Aを 名 乗 っ て相 手 方Cと 契約 す る場 合 上 述(2)と 異 な り、 そ もそ も代 理権 が な い に もか か わ らず 本 人 の名 で無 権 代 理 人 が 取 引 した 場合 、 そ の効 果 は 、相 手 方 の 選 択 に従 って履 行 又 は損 害 賠 償 の いず れか 無 権代 理 人 が 責任 を負 う こ とに な る(117条)。 相 手方 にす れ ば、BをAと 信 じてAと 取 引 す る 意 図 で契 約 した の で あ るか ら、取 引 相 手 に 関 して 錯 誤 が あ った か の よ うに も見 え るが 、 そ もそ も契約 の効 果 が生 じない 以 上 錯 誤 の 適 用 か ら外 れ る と考 え る。 最 高 裁 も(最 判 平 成20.5.1金 法1842号 103頁)、 実 兄 の 店 を手 伝 っ て い た妹Yが 、 兄 が 銀 行 か ら受 け た融 資金 につ い てX信 用 保 証協 会 が代 位 弁 済 した場 合 の求 償 債 務 及 び損 害金 債 務 を連 帯保 証 す る 旨の 契 約 を、兄 に頼 ま れ て夫 に無 断 で 、 契 約 書 に 夫 の名 で署 名 ・押 印 し た(い わ ゆ る署 名代 理)場 合 に、 「本 件 は、 い わ ゆ る署 名 代 理 の方 法 に よ り 無 権 代 理 行為 が な され た場 合 であ るが 、 この よ うな場 合 、無 権 代 理 人 に無権 代 理 人 と して の責 任 を負 わせ る こ とにつ き、 顕 名(代 理 意 思 の表 示)に よ り 代 理 行 為 が な され た場 合 と取 り扱 い を異 に す る理 由 は な い と解 され る か ら、 本 件 に つ い て も、 民 法117条 の 適 用 が あ る とい うべ きで あ る。」 と して 、錯 誤 で は な く代 理 法 理 で処 理 を した。 (4)Bが 架 空 のAに な りす ま した場 合 Bが 架 空 の人 物 に な りす ま して相 手 方 と契約 を し、 契 約 相 手 が 人 物 の 同一 性 の錯 誤 を主 張 した とい う先例 は 見 当 た らな か っ た が、 相 手 方CがAと 取 引 す る意 図 で あ っ た と して もそ のAは 実在 せ ず 、Aの 実 体 はBで あ る こ とか ら、 仮 にCの 目の前 にBが い てBがAを 名乗 っ た の で あ れ ば、Cは そ の 人物 と取 引 す る意 図が あ っ た とい える の で 、BC間 で契 約 が 成 立 す る と考 え る。 そ し て、Cが 、 Aに は資 産 ・信 用 が あ るか ら取 引 に応 じた ので あれ ばそ れ は取 引

(20)

24 京女 法学 第1号 す るつ も りで あ っ た人 物(B)の 資 産 ・信 用 や 身 分 を誤 っ た に す ぎず 、属 性 の錯 誤 が 問題 とな る だ け で人 物 の 同 一性 の錯 誤 は問 題 とな らな い 。 2 契 約 の 目的 と な る 人 の 錯 誤 に つ い て 契約 の 目的 とな る人 の錯 誤 は、 目的物 の錯 誤 と同様 に、 そ の 同 一性 に錯 誤 が あ れ ば要 素 の錯 誤 に あ た り錯 誤 無効 の主 張 が 可 能 で あ る が、 性 質(人 の場 合 は 身分 ・信 用 とい っ た属 性)に 錯 誤 が あ る場 合 は動機 の錯 誤 にす ぎず 、私 見 で は錯 誤 に 当 た らない 。 通 説 ・判 例 は、 そ の 動 機 が相 手 方 に 表示 され た か 否 か で判 断 す るが 、 保 証 債 務 にお け る主 債 務 者 の 資 産 や信 用 に つ い て の錯 誤 は 、 そ の悪 化 した状 況 を債 権 者 も知 っ て い る よ う な場合 は 、 む しろ前 提 の 欠 如 に よ り無 効 とす べ きで あ り、 た また ま債 権 者 に対 して大 丈 夫 か 否 か尋 ね た か ど うか とい う偶 然 の事 実 状 況 を根 拠 に、 動 機 が 相 手 に表示 され た か ら無効 な ど と解 釈 す るべ きで は ない と考 え る。

五 おわ りに

人 につ い て の錯 誤 は、 サ ヴ ィニ ー や ツ ィー テ ルマ ンが 論 じて い た 際 には 契 約相 手 の 同一 性 の錯 誤 を念 頭 にお い て議 論 され てい た 。 しか し、 わ が 国 で は 大 審 院判 例 が(23)、原 則 と して動 機 の錯 誤 は 意 思 表示 の 内 容 に含 ま な い が 、例 外 的 に 「表 意 者 が こ れ を以 て意 思 表示 の 内容 に加 え る意 思 を明示 又 は黙示 し た る」 と き は意 思 表 示 の 内 容 と な り、 「合 理 的 判 断 を下 す も、 其 錯 誤 な か り せ ば表 意 者 が 其 意 思 表 示 を為 さ ざるべ か り しもの と認 め られ る場 合 」 に要素 ㈱ 大 判T3.12.15清 酒送 荷 請 求 ノ件(民 録20輯1101頁)。 買 主 の不 動産 を担保 に清 酒 の売 買 契約 を締 結 したが 、 当該不 動 産価格 が 予想 よ り大 幅 に安 か った こ とか ら売 主 が契 約 の錯 誤 無効 を主張 した事 案 。 また、 大判T6.2.24売 買無 効確 認 及代 金 返 還損 害賠 償 請 求 ノ件(民 録23輯284頁)。 売 買 目的物 たる馬 が、 買 主が 思 っ てい た性 状 を備 えて いな か っ た と して錯 誤 無 効 を主 張 した事 案。 いず れ も動 機 の錯 誤 であ るが 無効 主 張 を認 め てお り、 わが 国に お ける動機 の錯 誤 の先例 となっ た判決 で あ る。

(21)

人 に つ い て の 錯 誤(岡 田) 25 の 錯 誤 とな る と判 示 して 以 降 、(a)動 機 の表 示 の有 無 、 ま た(b)そ の 動 機 の錯 誤 の 重 要性 、 とい う二 つ の要 件 を検 討 して 、 動機 の錯 誤 を95条 で 処 理 す るに至 って い る。 この よ うに、95条 の錯 誤 に動機 の錯 誤 を含 め る とい う独 特 の 判例 法 理 を形 成 した た め、 人 につ い て の錯 誤 には、 ① 契 約 相 手 の 同 一性 の錯 誤 と、② 契 約 の 目的 とな る人 の錯 誤 、 さ ら に③ 人 の属 性 ・性 質 に関 す る 錯 誤 の 三 つ が 混合 した ま ま、 区別 され ず に含 まれ る こ とに な って しま って い る。私 見 は 、 上述 の 通 り、 特 に① にお いて は代 理法 理 を優 先 させ るべ きで あ り、 また③ に つ い て は 、特 定 の人 物 の 属 性(資 産 や 身分)の 錯 誤 が い か に重 要 で あ っ て も、 そ れ は本 来動 機 の 錯 誤 にす ぎず 、 む しろ前 提 の 欠 如 な ど に よ り無 効 とすべ き とい うのが 自説 の 立 場 で あ る。 この点 、 判 例 は黙示 の 表示 が あ っ た と事 実 を解 釈 す る こ とで無 効 を認 め る こ とが あ るが 、 黙 示 の 表示 とは つ ま り、 お互 いが そ の事 実 を 当然 の もの と して お り、 い ちい ち確 認 を して い な か っ た とい う状 況 とい え、 そ れ は ま さ に前提 と して い た とい う こ とで あ ろ う。 ま た 明 示 に相 手 に動 機 を表 示 し、 相 手 が 大 丈 夫 で あ る 旨答 え て い れ ば 、 そ れ は 当該 事 実 に つ い て の保 証 合 意 が な され た とす れ ば足 り、 い ず れ に して も95条 の錯 誤 に動 機 の錯 誤 を含 め て 、錯 誤 の 適用 範 囲 を拡 大 す る必 要性 は な い と考 え る。

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