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デジタルとフィジカルを融合する
「顧客接点管理」と「目標設定」の重要性
佐々木 卓也
コロナウィルスの影響もあり、今まで通りの営業活動等がうまくいかず新規顧客を獲得しづ らい中、離れている顧客とどう繋がるか、といった課題が表層化しており、各社知恵を絞り対 応し始めている。マーケティング関連メディアでも「CRM」「LTV」などの言葉が最近特に 躍っている。 一方で、マーケティングの世界では昔から「カスタマードリブン」や「カスタマーセントリ ック」という言葉がある。最近では「クッキーイズノットカスタマー(Cookie is not customer)」、 つまりWEBログのクッキーは顧客ではなく、真の顧客をちゃんと見つめましょうという、ア メリカのマーケターがよく語るような言葉もある。そんな今の状況や、昔から言われている 「顧客を中心に据える」事を中心に本レポートは述べていきたい。 1.ダイレクトマーケティングの3つのポイント コロナ禍前からではあるが特に重要性が叫ばれているのは、CRM(顧客関係管理)といわ れる活動で、ダイレクトマーケティングの世界だとリテンション(維持・関係深耕)領域の中 に相当している。もう1つはLTV(顧客生涯価値)の最大化である。顧客との取引を通じて生 涯価値をどう高めていくか、長いお付き合いをどうやって維持していくかという事は、国内の マーケティングカンファレンス等でもよく語られている。 それらの考えは何を源流とした考え方かというと、実はダイレクトマーケティングである。 ダイレクトマーケティングというのは、主に1960年代から提唱された、半世紀以上も歴史が 続くマーケティングの原理原則に近い活動の1つである。 そのダイレクトマーケティングには主に3つのポイントがある。- 2 - (1)個にアプローチし、レスポンスを得る事
1つ目は個にアプローチする、そしてレスポンスを得る事(One to one & Response)であ る。 顧客は皆違い、同じではない。多様性の時代にマスだけで捉えるのではなくて、なるべく個 に向かう。個が叶わないのであれば、細かなグルーピングやセグメントをして、どうやって顧 客に対して適切なメッセージ、適切なクリエイティブ、企業と顧客にとって互いに適切な行動 変容を促していくかという考え方である。 (2)ロイヤリティとLTV最大化 もう1つはロイヤリティとLTV最大化である。一度きりのレスポンス数値だけを求めるので はなく、1人の顧客をきちんと見つめ、長いお付き合いをどうやって作っていくか。顧客が今 どんな状態なのか、初めて触れたサービスなのか、それとも長年利用してくださっている方な のかを企業側が把握可能な環境を構築しないといけない。 (3)データとテクノロジー活用と、クリエイティブ 3つ目に上記2つを下支えするのは何かというと、これは60年前からずっと言われているが レスポンスのデータである。そして最近だとデジタル時代にテクノロジー活用も考えなければ ならない。最後に最も重要なのはクリエイティブ。同じ商品を紹介されても、同じ情報でも、 クリエイティブやデザインがしっかりしているもの、「Wow(ワオ)」があるようなものとい うのは人の心に響き、その後の行動や態度変容に移行しやすい。ではデータを使い、またテク ノロジーを使ってWowを生み出す施策というのは何だろう、と。 これら3つの要素を「考え続ける」のがダイレクトマーケティング活動であり、醍醐味でも ある。 紙のDMもこの考え方の中で長年かけて進化してきている。 2.コロナ禍で表層化した2つのマーケティング課題 ではダイレクトマーケティングの考え方がこのコロナ禍で表層化し重要度が高い現在、各企 業では今どんな考えが生まれているか、主に2つある。
- 3 - (1)離れている顧客に「第一想起」される為には 1つ目は接客ができない、密を防ぐために集客もできない、セールのピークを作れないとい った時に、どうやって顧客と接触し続けるのか。沢山の顧客を一度に集客しようではなく、一 人ひとり個別に長いお付き合いをするために、自社サービスやブランドを忘れないで欲しい、 と伝える活動を続けている。 「第一想起」という言葉があるが、顧客に最初に思い浮かんでもらう状態になる様、ブラン ドやお店やサービスの価値を伝えていく活動は、離れていてもつながり続けるためにより重要 になっている。特に今はデジタルとアナログ両方の力を借りながら、施策を実施しないといけ ない。既存アナログ施策だけでは不足しているのでDX、デジタルシフトといったキーワード がトレンドになっていると思われる。 (2)ロイヤリティを高める為には 2つ目は、ロイヤリティを高める為にどうするか。 現在はフィジカルな営業活動、イベントや店舗での集客など、新規の顧客を獲得する事が難 しくなっている。よって今いる顧客をどう維持するか、またロイヤリティを高めるかという事 に注力しないといけない状態である。今までのダイレクトマーケティングの考え方では、新規 顧客の獲得コストが一番高く、顧客維持にはコストをかけなくてもある程度勝手に顧客は買っ てくれるとされてきた。要は「利用したら私たちの良さはわかる」の様な考えが提供側にあっ たと思うが、どんどん通用しなくなっているのが現在である。顧客維持コストが徐々に上がり 始めている。 ではそれに気づいた企業は、どの様な施策で維持のためのコストを使っていくか、かつ投資 対効果を生んでいくかを考えている。顧客維持、ロイヤリティを高める為の活動への予算配分、 投資が今のコロナ禍で新しい当たり前になるのではないか。また活動をどう具現化していくか の答えとして、道具としてCDPや、プライベートDMP、CRM、予測などテクノロジーの力を 借り取り組む、または検討している、という状況ではないだろうか。 3.デジタルとフィジカルの融合 今回のレポートを通じ皆さんに伝えたい事は1つである。
- 4 - 表題にもある通り「デジタルとフィジカルを今こそ融合」すべきという事である。 デジタルというのはまさしくオンラインの施策の事を指すが、フィジカルというのはオフラ イン・アナログな施策の事を指す。店頭での接客もあれば、リアルイベント、紙のダイレクト メールもある。デジタルはオンラインなので、メール、アプリ、動画、チャット、Webミーテ ィング、チャットボット、サイトとこの数年で爆発的に手法や道具が増えた。 今こそそれらを融合すべきである。 課題と背景をお伝えしたいのであるが、下記の状態になっていないだろうか。 例としてデジタル推進部署とフィジカル推進部署が分かれてしまっている状態が挙げられ る。 デジタルの部署はWebサイト運営、メールマガジンのライティングをして配信をする。 Facebook、Twitter、LINEもやらなきゃいけない。最近だとnoteでも発信をする等、次々と 発生する様々なデジタルの施策に対応しないといけない。その他にはホワイトペーパーを作っ てダウンロードできるようにする、チラシやリーフレットもWebで見られるようにして、アプ リもECも運営して売上に寄与する。デジタル広告で販促をして、デジタルだけで完結するキ ャンペーンをQRコードなどで応募してもらって実行する。Webで問い合わせを受けてWebや チャットボットで返答して、自社宛のレビューも他社に書かれている口コミも見て、「自社の 商品はどう評価されている、自社のサービスはどう比較されている」というようなリサーチ活 動までしている。 逆にフィジカルの部署は、集めた名刺を管理しないといけない、イベントやセミナーをやら なくてはいけない、カタログ発送や、紙のDMのレスポンスも追いかけないとならない。 また店舗の運営、接客、販売をしなくてはいけない。店頭にPOPを置く、マスの広告を実施 する。チラシなどの既存のアナログな販促を前年通りやらないといけない。店頭にカスタマー サービスカウンターやハガキ、コールセンターなど設置し、問い合わせを受け付け対応しない といけない。
- 5 - それぞれ組織もマネジメントの仕方も、依頼する外注先も違う。そんな状況だと思われる。 では各目標設定はどうだろうか。 デジタル施策のKPIだと、WebサイトはPV・アクセス、メルマガは配信の数と開封率、SNS はファンの数、ホワイトペーパーはダウンロード数、アプリもダウンロードの数、ECの売上、 デジタル広告やキャンペーンはCVやCPO、CPRなど。Webはレビューや問い合わせの数が KPIになるだろう。 フィジカル施策のKPIも、集客や紙DM送付の数、カタログ配布物の発送数、来店客数、接客 数、問い合わせ数、視聴数、等様々な形でそれぞれの目標があって、前年から増えた、あるい は減ったという話をしていると思われる。 しかしながら、その目標値が1つの方向に向いているか、というと決してそうではない会社 もあるのではないだろうか。且つこれは私が提言したい理由の一つなのであるが、それぞれの 担当者の方は素晴らしく優秀であり、結果を出そうと一生懸命だけれども、それは究極の部分 最適を追い求め過ぎていて、実は全体最適になってない、というのがマーケティングコンサル 等で第三者視点で見ながら筆者が感じる事でもある。 例えば、顧客の問い合わせで考えると、上記図の一番下の部分、Webの問い合わせと店頭で の問い合わせが全体で管理されていない企業が結構な割合で存在している。 スーパーなどに行くと、「顧客の声」などが手書きであるが、Webサイトでの問い合わせは、 その店舗の事であっても貼り出す事は無い。しかし顧客側にしてみれば、それは企業や店舗に 対して言っている事で、デジタルもフィジカルも気にはしていない。 店舗でもWebでも関係なく、企業に対して意見している、と思っている。しかし企業側が対 応しきれずに、別な組織、目標、マネジメントで仕事をしてしまっている、というのが現状で はないだろうか。 私自身もチラシを見て「やっぱり実物を手に取りたい」と思い店に行き、商品を手に取って 「あぁ、これはやはり買おう」と思って店頭で買うとか、逆に「ECで一番安いところはどこ
- 6 - か?」といった事を、消費者としてよくやる。デジタルとフィジカルを行ったり来たりしなが ら意思決定し、お財布が開くというような消費行動である。顧客はデジタルとフィジカルを区 別も意識もしていない。 そうすると顧客側からすると、デジタルでの対応とフィジカルでの対応の両方が合わさり印 象が決まる。ブランド、サービス、店舗などの各評価も、もしかすると片方の印象で決めてい るかもしれない。Webでの問い合わせに返事がこないので「もうあのリアル店はダメだ」と決 めつけられる。それぐらいデジタルとフィジカルの両方で企業の評価が決まる時代になって しまっている。 一方でコロナ禍において、デジタルシフトやDXの名の下、早いスピードで社内投資、販管 費を含む費用配分がデジタル施策にシフトしている。これは間違った事ではないが、それぞれ のメリットとデメリット、役割をちゃんと理解している方は少ないのではないだろうか。 例えばデジタル担当の方で、興味はあるが印刷の事は全くわからないと仰る方は多い。紙の ダイレクトメールをやりたいが、Web(デジタル)で集めた顧客を対象とするとき、どれぐら いのコストと効果を考えたら良いか?といった問い合わせが我々にもある。そうなるとデジタ ル担当部署だけで、1つの目標値を考えていかないといけない。デジタル担当部署のメンバー がフィジカル施策に対する興味を持った際に、フィジカル担当部署の方がデジタル関連施策は 自分たちの仕事じゃない、と考えていたら、顧客とのコミュニケーションにとって不和が生ま れてくる。 よって施策も組織体制も含めデジタルとフィジカルを融合すべきと考える。 では融合する為には何をするべきだろうか。やはり冒頭でお話しした、顧客を中心に据える 事が重要になってくる。取り組みとしては2つある。 今日のテーマでもある「顧客接点管理」と「目標設定」である。 (1)融合のための「顧客接点管理」と「目標設定」
- 7 - 「顧客接点管理」には3つのプロセスがある。 ・1つは全ての顧客との接点を洗い出す作業。 店舗もECも、店頭接客も、イベントも、紙のDMもデジタルキャンペーンも関係なく、顧客と 触れ合う全ての瞬間の施策を年間で全部洗い出す。今、デジタルとフィジカルで何が起きてい るかを部門横断で洗い出す。 ・2つ目は、企業規模にもよるが、顧客接点の「数」と「量」と「質」の現状把握。 要は、「Facebookのいいね!の数は50人しかいません。施策をやっていると社内では言って いるが、本当にやっている事になっているかどうか」という話である。 「数」というのは、いろんなチャネルの種別である。「量」は、年間通数、本数、送付数、フ ァンの数、レビュー数、レスポンスの量のイメージである。最後は「質」である。レスポンス 率の高さ、ロイヤルカスタマーからの注目度や利用頻度、ROIの高さ、など。これらをきちん と把握する。 ・3つ目は「部分最適から全体最適にするにはどうしたら良いか」という事を考える。 年間の施策を通じて顧客全員にアプローチできているのか、いないのか。大事な顧客でも初回 の取引顧客にも同一メッセージやアプローチの仕方をしてしまっているのではないか。 施策1回あたりの送付量は、コロナ禍でコストもあるので削減していくが、施策全体量で顧客 に接触する数はなるべく増やして、第一想起可能な状態を生み出して、その為のコントロール はどうするべきか考えていく。 次に「目標設定」である。コロナ禍においては、目標設定が難しい状態である。 今までよく利用してきたKPIである「前年比」では何も語れないからである。 特に小売業などだと、前年を超える事は非常に重要なKPIだと思うが、来年の今頃を予想す ると「もう前年はアテにならないから、一昨年と比べようか」みたいな話をしているかもしれ ない。 それぐらい目標設定が難しくなってしまった。よって新しい目標(KPI)設定をどう作るか
- 8 - を考えていかなくてはならない。そのポイントは3つある。 ・1つ目は、デジタルとフィジカルそれぞれの延べの数の合算をやめ、テクノロジーの力を 使ってユニーク顧客数でカウントするという事である。 メルマガは毎回50万人に送っている、ポイントカードの顧客は100万人いる、と延べで話を してしまいがちだが、それをマージして「ポイントカードかつメルマガのアドレスを持ってい る人」は何人いるか、「Webサイトで登録していて、アプリもポイントカードもあって、メル マガも送れている人」はどれだけいるのかを知る事が必要である。そのユニーク顧客数が真の 顧客の数であり、ユニーク顧客数からの売上で企業が成り立っているという事をはっきりさせ る。 よって「クッキーイズノットカスタマー」である。Webログの中のクッキーのデータで顧客 の数を数えると、本当の顧客が見えなくなってしまう。 また細かなセグメントにこだわりすぎて、実は年間に一度も何もアプローチしていない顧客が いた、というのはよくある話である。 他に最近の話だと、紙のDMは10代後半から20代前半の人たちのレスポンスが今大変高くな っている話を聞く。アパレル業界だとか、コスメ、通販、教育系の企業では、敢えて紙のDM を送付し関係を獲得している。この現象は若者全てがデジタルネイティブだと思い込み、デジ タルばかりでコミュニケーションをとろうとしていたが、実はデジタル施策自体を受け手が多 すぎて流してしまい、閲覧されていない、という事があった理由からである。デジタルとフィ ジカルのバランスをうまくとる事が重要である。 ・2つ目は、年間接触数をカウントし、適切な接触回数をコントロールする事である。 それぞれ1回1回のコンバージョンを考えすぎて、セグメントもしすぎて、一度も接点がない顧 客がいるのではないか。デジタルを意識しすぎて、フィジカルの体験がない顧客はいないのか。 デジタルを一度も体験してないお客さんはいないのか。 今はWebサイトのほうが店頭の情報より多い時代である。店頭は人もモノもあるからたく さん情報があると思いがちであるが、意外とブランドの創業ストーリーや、歴史、作り手の思 い、ビジョン、素材の事などは全部Webサイトに書いてあって、店頭でそれを表現できている かというと、できていない。店にしか来ていない、フィジカルしか体験してない人にデジタル 体験をさせたら「そんな想いで商品を作っていたのか」と思う顧客がいるかもしれない。フィ ジカル体験が中心な人にデジタル体験させる事というのも、1つの施策になるのではないだろ うか。 ・3つ目は、顧客の理想の体験をデータから把握し、促す目標を決める事である。 私たちは「キーアイテム」「キーアクション」という言葉を用いているのであるが、キーとな るアイテムやサービスの利用体験をさせ、顧客の理想の体験に近づけていくといったシナリオ を設計する。 例えば通販の企業様なら、敢えて一度は工場見学に来てもらうのをイベントとして大事にし たり、店舗だったら、カウンセリングでお肌のチェックをするとか、採寸をしてそのデータを 取っておく事等。コーディネートの経験があるとか、カウンセリングの様な経験がロイヤリテ ィを高めるようなキーアクションになる事もある。
- 9 - (2)本当のPDCAとは 目標設定の話をしてきたが、最後にPDCAの話をする。 「PDCAサイクル」という言葉がある。PDCAサイクルではなく、これが本当のPDCAの図 だと私も最近学んだので、これを読む皆さんにも紹介したい。 最初に右上にPlanを掲げて、Doしたら必ず誤差が生まれるので、その誤差のギャップを Checkして、またPに向かってActionする。 下に時間軸があるが、Pに向かって時間も経過していく。 Pを回すのではなく、Pに向かいたいんだ、計画を成就させたいんだという事が、本当の意 味でのPDCAと学んだ。 不安定な世の中の今だからこそ、Pが一番重要と考える。逆に言えば、Pが決まらないのに DCAしろと言っても、どこに向かって何をやるのか?と悩んでしまう。この絵を見たときに 私はそう思った。是非参考にしてほしい。 佐々木 卓也 フュージョン株式会社 代表取締役社長