◆はじめに
1 本年3月 11 日(金)の東日本大震災の発生から約 9ヶ月経過しました。震災の復旧・復興にはまだ まだ時間がかかる状況ですが、その後の調査など で次第に今回の地震や津波のメカニズムがわか ってきました。 今回の東日本大震災の発生を受けて、次に起きる 大地震と想定されている首都直下地震や東海・東 南海・南海地震への対応の見直しに向けて、国や 地方自治体などで様々な対策が検討されはじめ ています。東日本大震災での未曾有の経験や教訓 から、国や地方の防災計画も大きく見直されるも のと思われます。そして、次の大地震・大津波へ の対応は、行政・企業・住民が一体となって連携 して対応する必要があるため、政府や地方自治体 などの防災計画の見直しは企業の災害対策や事 業継続計画(BCM/BCP)などにも大きく影響し てくるものと思われます。 そこで、今回は「東日本大震災リスク・レポート」 の締めくくりとして、「次の大地震・大津波への対 応:防災計画の見直しと企業に求められる対応」 と題して、国や地方の動向のうち企業に係わる取 組みを中心にレポートいたしたいと思います。 各企業の皆様の災害対策や事業継続計画の見直 しに、多少なりとも参考となりましたら幸甚でご ざいます。 2 今回の内容 ① 中央防災会議の動向 ② 東京都の取組み ③ 静岡県の取組み ④ 中部圏の取組み ⑤ 企業に求められる対応◆中央防災会議の動向
「防災対策推進検討会議」を設置し、東日本大震災 の総括と首都直下地震、東海・東南海・南海地震など に対する防災対策の充実・強化を図る 内閣総理大臣を会長とする中央防災会議が開催(平 成 23 年 10 月 11 日)され、下記の事項の推進が 確認された。 1 「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対 策に関する専門調査会」報告のポイント ①防災対策で対象とする地震・津波の考え方は、古 文書等の分析、津波堆積物調査、海外地形などの 知見にもとづき、「あらゆる可能性を考慮した最 大クラスの巨大な地震・津波」を検討する。 ②津波対策を構築するにあたっては、「発生頻度は 極めて低いものの甚大な被害をもたらす最大ク ラスの津波」と「発生頻度は高く津波高は低いも のの大きな被害をもたらす津波」の二つのレベル の津波を想定する。前者は人命保護を最優先とし、 後者は人命保護に加え、住民財産の保護や効率的 な生産拠点の確保などの観点から、海岸保全施設 の整備等のハード対策を実施する。 ③この他、揺れによる被害を軽減するための対策と して、建築物の耐震化の計画的推進、天井落下 防止対策や長周期地震動対策、液状化対策を着 実に進める。 2 今後の防災対策に関する各府省庁の主な取組み ①地震・津波に関する調査・研究 *文部科学省「地震に関する評価方法の見直し」 →発生履歴等知見が不足している巨大地震についても評 価できるよう評価方法を改善する *内閣府「地震・津波による被害実態調査」 →発災時の避難行動や避難状況などを網羅的に調 2011 年 12 月15日発行東日本大震災 リスク・レポート(第5号)
「次の大地震・大津波への対応:防災計画の見直しと企業に求められる対応」
発行:三菱商事インシュアランス株式会社 リスクコンサルティング室
査・分析し、今後の地震・津波対策の充実強化を図る。 ②災害対策全般 *内閣府「災害対策法制の見直し」 →災害対策基本法をはじめとする災害対策法制のあり方 を検討する。 *内閣府「防災基本計画の見直し」 ③その他、「予防・復旧・復興対策」「応急対策」「被災 者支援」「三連動地震、首都直下地震等大規模地 震・津波対策」についても、各府省庁による検討が 進めらている。 *消防庁「危険物施設等の地震津波対策」 *農林水産省・国土交通省「海岸対策」 *国土交通省「港湾における津波対策」 「支援物質の輸送」 *経済産業省「電気設備の地震津波対策」 *内閣府「東日本大震災対応の全般的な検証」 「避難のあり方の検討」 「災害時要援護者対策」 「三連動地震対策」 「首都直下地震の見直し」 「帰宅困難者対策」 など 3 「防災対策推進検討会議」の設置 ①中央防災会議に新たな専門調査会として、「防災 対策推進検討会議」が設置されることが決定され た。 ②この調査会は、未曾有の甚大な被害をもたらした 東日本大震災における政府の対応を検証し、この 大震災の教訓の総括を行うとともに、首都直下地 震や東海・東南海・南海地震(いわゆる三連動地震) 等の大規模災害や頻発する豪雨災害に備え、防災 対策の充実・強化を図る目的で設置され、平成 24 年夏頃に検討会議の最終報告が出される予定 となっている。 ③この最終報告は、災害対策基本法をはじめとする 災害対策関連法制の改正や大規模地震・津波対策 の見直しなどに反映させていくとしている。
◆東京都の取組み
関東大震災級の大地震などを想定する地震に追加 1 東京都は11月25日に「東京都防災対応指針」 を発表した。 首都直下地震の想定地震について、従来の「東京湾 北部地震」に加え、「関東大震災型の地震」や「立川 断層帯地震」などが追加された。今後、津波の被害 想定などが大幅に見直されるものと思われる。 【東京都防災対応指針の概要】 ①東京を襲う地震像 ○ 首都直下地震:「東京湾北部地震(M7.3)」「プ レート境界多摩地震(M7.3)」など ○ 海溝型地震:「大正型関東地震(M7.9 程度)」 「元禄型関東地震(M8.1 程度)」など ○ 活断層で起こる地震:「立川断層帯地震(M7.4 程度)」など ○ 連鎖的被害が懸念される地震:「東海・東南海・ 南海連動地震」「東北地方太平洋沖地震」「新潟 県中越沖地震」など こうした地震によるリスクに加え台風や高潮な どの自然災害が複合的に発生する可能性も否定 できず、災害への備えを固め直すことが必要とし ている。 ②東京の防災対策の目指すもの ○ 東京都防災対策の目的:「都民の命を守るこ と」「都市の機能を維持すること」 ○ 今後の防災対策の方向性: 「多様な主体が個々の防災力を高めるととも に、主体間の連帯を強化する」 「あらゆる事態に備え、個別対策の徹底強化 と施策の複線化・多重化を促進する(バックア ップの確保)」ことを2本の柱として、「東京の 防災力の高度化」を目指している。 2 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の設置 内閣府と東京都が共同事務局となり、国の関係省 庁・首都圏の地方公共団体、関係民間企業・団体等 の31機関をメンバーとして、「首都直下地震帰 宅困難者等対策協議会」が本年9月に設置された。平成 24 年春に中間報告を行い、夏から秋に最終 報告を行うスケジュールとなっている。 帰宅困難者等の対策のイメージは下記の通り。 ①一斉徒歩帰宅者の発生の抑制 ○ 「むやみに移動を開始しない」という基本原則 の周知・徹底 ○ 安否確認手段の周知、企業等における安否確 認体制の先進事例共有 ○ 企業等における一時収容対策(備蓄、従業員等 の行動ルールの検討等) ②円滑な徒歩帰宅等のための支援体制 ○ 帰宅困難者等への一時滞在施設の確保 ○ 帰宅困難者等の搬送体制の検討 ○ 徒歩帰宅への支援体制(飲料水やトイレ等の 提供) ○ 駅周辺における混乱防止・円滑な誘導体制の 検討
◆静岡県の取組み
大津波対策の検討を開始 1 静岡県は同県の防災・原子力学術会議に津波対策 分科会を設置し国の防災計画と同時並行的に次 の大津波への対策を検討している。 2 アクションと具体目標は次の通りである。 ①住民等への防災情報の伝達 災害時における情報伝達の強化促進 ②的確な避難の実施 住宅の耐震化の促進 市町津波避難計画の充実・強化 津波避難施設の拡充 ③津波避難施設の整備 既存公共土木施設等への津波避難用階段等の設 置 ④津波避難地・避難路(避難階段等)を確保した急 傾斜地崩壊防災施設の整備 ⑤津波避難施設等の整備及び耐震調査の実施 3 静岡県は、国の「東海・東南海・南海地震」の地震・ 津波モデルが検討され、3連動地震による地震動・ 津波の高さ等の想定が出た段階で、速やかに津波ア クションプログラム(中長期)やアクションプログラ ムの見直し・修正を行うとしている。◆中部圏の取組み
地域一体となった戦略会議を立ち上げ、地域連携 BCP の構築を目指す 中部圏では「東海・東南海・南海地震対策中部圏戦略 会議」を立ち上げて、地域一体となって検討を進め ている。本年 12 月 28 日に基本戦略を公表する予 定となっているが、それに先立って、「地震・津波対 策アドバイザリー会議」が開催され、「中部圏地震防 災基本戦略(中間とりまとめ(素案)の方針)」、「東海 地域の新たな産業防災・減災」への取組などが発表 された。 1 基本戦略の基本方針の主なポイント ①人の命を最優先とする ②従来から取組んできた施設整備等を着実に進め る ③守りきれない規模の外力に対しては、減災の考え 方を重視して、バランスの取れたハード施策とソ フト施策を総合的に推進する ④広域的な支援・連携・受入体制を確立する ⑤緊急対応・復興を見据えた地震防災に関するオペ レーション計画を事前に策定する 2 東海地域の新たな産業防災・減災 東海地域の産官学により構成される「東海地域の 新たな産業防災・減災を考える研究会」が本年 8 月に設置された。 大規模災害においては、個社の BCP のみでは充 分でない場合が想定されるため、「地域」を単位と した連携メカニズム(地域連携 BCP=地域内もし くは地域間の BCM/BCP)の構築が急務として、 下記の検討を行う。 ①企業防災・減災のあり方 ○ BCM/BCP の現状と課題 ○ 地域連携による BCP の先行事例調査○ 「連携」による BCM/BCP の新たなあり方(ガ イドライン化の検討) ②地域連携 BCP 策定マニュアルの検討 ③地域連携 BCP の普及促進のあり方 〔中部圏地震・津波対策アドバイザリー会議資料より〕 http://www.chubu.meti.go.jp/tisin/download/111213bosai-chuka n-press.pdf
◆
企業に求められる対応
日本全国のどの地域でも強い地震が発生する 可能性がある 1 次の図は今後30年以内に震度6弱以上の地震 が発生する確率を示したものですが、太平洋沿岸 をはじめとして日本列島のどの地域で発生して もおかしくありません。 【今後30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率】 液状化は海岸沿岸部だけではなく内陸部でも 発生する 2 下記の図は東日本大震災により発生した関東地 方の液状化の発生分布図です。関東地方では少な くとも96の市町村で液状化が発生しました。液 状化は、沿岸部の埋立地や利根川の旧河道など地 盤の軟弱な場所で広範囲に発生し大きな被害が 出ています。 【東日本大震災による関東地方の液状化】 〔地震調査研究推進本部ホームページより〕 自社の立地条件を十分に確認すること 3 災害対策・BCP の構築にあたっては、まずは自社 の各事業所(本社・工場・倉庫・物流センターなど) の立地条件と耐震性などを十分に確認し、地震の リスク・津波のリスク・液状化のリスク・洪水のリ スク・台風のリスク・火山のリスク・山崩れのリス ク・原子力発電所のリスクなどを把握しておく必 要があることを強調しておきたいと思います。 ①地理的条件(海岸沿岸部、河川、湖、低地、火山、 原子力発電所からの距離など) ②敷地の地盤(海岸沿いの埋立地、元は谷や池や川 や沼地などであったかなど) ③周囲の状況(石油コンビナート、化学工場、病院、 学校、住宅、鉄道、高速道路など) 4 今回の東日本大震災の発生を受けて、従来の災害対策・防災対策の抜本的な見直しが必要となり、 政府や次の大震災・大津波が懸念されている東京 都・静岡県・中部圏などでは防災対策・減災対策が 総合的に検討され始めています。 大震災・大津波では行政・企業・住民など地域全体 が一体となった対応が求められるので、国や地方 自治体などの防災計画の見直しは、各企業の災害 対策にも大きく影響してくるものと思われます。 5 中部圏では産官学が一体となって地域単位の BCP を検討していく方針が打ち出され検討が開 始されています。 このような動きに対応して、企業活動を継続し、 社会的責任を果していく上でも、自社の災害対 策・事業継続計画(BCM・BCP)を構築しておくこ と、見直しておくことは非常に重要であると思わ れます。 6 まとめ 以上をまとめると下記の通りとなります。 次に来る大地震・大津波に備え、自社の被害を最小 限に留め、サプライチェーンの供給責任を果し、地 域社会に貢献していく上で、これらの取組みを推進 されることをお奨めいたします。 ①政府や地方自治体の動向や取組みを常に注視し 把握しておく。 ②自社事業所の立地条件や耐震性を十分確認して おく。 ③今後政府や各自治体が改定する予定の被害想定 やハザードマップなどを参考にして自社の被害 想定の見直しを行う。 ④自社の災害対策・BCP の策定・見直しを実施する。 ⑤サプライチェーン全体の BCP、地域連携型 BCP の取組みを検討する。 《リスクコンサルティング室長 寺田祐治》