災害から防災へ
九州北部豪雨災害の経験をもとに
九州大学大学院工学研究院
附属アジア防災研究センター
三谷 泰浩
http://asia.doc.kyushu-u.ac.jp/geotechlabo/
防災について
美しい日本の国土
急峻な山々
もろい地盤と地質
活発な造山運動
多くの降水量
日本は,災害多発地帯
3自然災害による死者・行方不明者数
144人 (0.0001%) 18559人 100人 48人 昭和30年中頃から激減する 伊勢湾台風 S28災害 4災害とは・・・
災害
とは,「暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪水,崖崩れ,土
石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑りその他の異常な
自然現象または大規模な火事もしくは爆発その他その
及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定め
る原因により生じる被害」
(災害対策基本法より) 「
自然
災害」
地震,津波,火山噴火,地滑り,台風,豪雨,洪水など
異常気象:かんばつ,長雨,冷害など
「
人為的
災害」
事故:航空機事故,海難,火災,爆発など
環境問題:大気汚染,海洋汚染,温暖化,砂漠化など
5防災とは・・・
あらかじめ危険な現象を想定し,対応策を考える
・災害に強い構造物をつくる
・災害を事前に予測し,その対応を考える
自然外力に対して強い社会をつくること=
防災
防災とは,「災害を
未然に防止
し,災害が発生した
場合における
被害の拡大を防ぎ
,及び
災害の復旧
を図ること」
(災害対策基本法より)
6防災サイクル
災害
(発災)
災害応急対応
復旧・復興
減災
事前準備
被災時の対
応
平常時の対
応
7復旧
とは
「旧に復す」:原形復帰を基本とする災害対応。
災害によって破壊された施設や機能を災害前の状態に戻す。
復興
とは
災害前と同じ機能に戻すのではなく,災害に見舞われる前
以上の機能を備えるように,再建すること。
被災前よりも災害に強い,よりよいものにすること。
Build Back Better
復旧と復興
従来は,「復旧」が基本とされていたが,
現在は,「復興」が目標とされるようになった。
復興計画について(朝倉市を例に)
復興計画の目的
大災害後の復興を行うために
行政
が必要とする計画
法律上,策定の義務はない
なぜ,「復興計画」を作るのか?
・住民に復興の
方向性
を示すため
・復興に向けた
希望や指針
を住民に与えるため
・膨大な事業の
全体像や具体策
を提示するため
・事業の
必要な予算
の根拠とするため
・無秩序な建設,開発などの
再建を制限
するため
11復興計画策定のポイント
ステークホルダー
の結集
→様々な立場の人や組織が関与。要(かなめ)は住民。
専門家
の英知の結集
→ステークホルダーは計画策定の専門家ではない
被災地の
状況
を知ること
→災害前の状況も含めて,地域の特徴や長期計画を知る
信頼関係
の構築
→市民,事業者,行政相互の信頼関係をつくること
リーダーシップ
と熱意
→核となる人物が必要であり,長い時間がかかるため
モチベーションを確保する必要がある
12復興計画策定のための準備段階
①復興計画の基本的な
方向性
を考える
・すまいと暮らしの再建
・安全な地域づくり
・産業・経済復興
②復興計画策定のための
組織
の検討
・復興計画策定委員会
・地区別復旧・復興推進協議会
③復興計画策定のおおまかな
スケジュール
・復興計画骨子の策定:12月
・復興計画の策定:3月
13復興計画策定に向けた計画
(1) 朝倉市復興計画策定委員会
平成29年度末を目標に
復興計画を策定
するための委員会。
委員会の中に各部会(すまいと暮らしの再建,安全な地域づくり,産業・経済
復興)を設置し,計画策定を支援
(2) 地区別復旧・復興推進協議会
被災地を中心として市内
8地区
で朝倉市が実施する「
地区別復旧・復興推進
協議会
」を開催し,地区ごとに復旧・復興に向けた意見・要望を把握する会議。
当初は,上記2つの組織であったが,自律的に以下の組織が形成された。
(3) 集落会議
上記2つの行政主導の活動で反映しきれない、
集落(区)単位
での復旧・復
興のために,住民が主体となって実施する区毎の話し合い。
朝倉市の復興計画策定に向けた取り組み
14<復興計画策定委員会>
<地区別復旧・復興協議会>
<集落会議>
1.平成29年7月九州北部豪雨災害の概要 及び被害の状況 2.復興計画の基本的な考え方 (1)復興計画の目的 (2)復興計画の位置づけ (3)復興計画の構成 (4)復興ビジョン・基本理念 (5)復旧計画のポイント 3.復興・復旧に向けた基本施策 4.地区別計画 5.計画の推進 資料1 これまでにいただいた主な意見と その対応 資料2 主な事業予定箇所一覧 資料3 朝倉市復興計画の策定経過
朝倉市復興計画の構成
朝倉市復興計画策定にあたっての目的や計 画の位置づけ等の概要を示すととともに, 復興の基本理念を明らかにする。 平成29年7月九州北部豪雨災害の概要と市 の被害状況等を整理。 復興計画策定までの記録とその他の個別の 情報を取りまとめる。 復旧・復興施策を地区別のロードマップ として整理する。 市の復興に向けた計画への取組体制等につ いて整理する。 基本理念に基づく復旧・復興の基本施策を 基本理念に沿って取りまとめる。 16復興計画の基本的な考え方
(1)復興計画の目的
復興計画は,復興の理念を定めるとともに,今後取り組むべき復旧・復興の基本施 策を体系的にまとめた復興の指針となるもの。(2)復興計画の位置づけ
「第1次朝倉市総合計画」や「朝倉市総合戦略」等の長期計画との整合性を図る。策 定予定の「第2次朝倉市総合計画」も見据える。復興計画策定後も市民・関係機関 等と継続して協議。市民ニーズの変化や新たな課題等が生じた場合には、必要に応 じて施策の見直しを行うなど柔軟性を持って対応。(3)復興計画の構成
復興ビジョンの実 現に向けた復旧・ 復興の推進 復興ビジョン・基本理念 市全体の復旧・復興に向けた 取組方針(分野別方針) 市域を9つの地区に分け、地区別 の復旧・復興に向けた取組方針 朝倉市復興計画 復旧・復興に向けた基本施策 地区別計画 17復興計画の復興ビジョンと基本理念
「山・水・土、ともに生きる朝倉」という復興ビジョンには、今回の災害を乗り越え、これ からも山・水・土を大切にし、人々と共に生きる朝倉づくりを進めていこうという思いを 込めました。 18 当初の基本理念:すまいと暮らしの再建・安全な地域づくり・産業・経済復興復興計画のポイント①
(1)復旧・復興の主体
市民と市が主体となり,国・県、関係機関等と協働で取り組む。市民の「思い」,「願 い」を反映しながら、市民に寄り添い、市民の思いを大切にしたまちづくりに取り組む。 市民・行政・学識経験者(大学)による協働の取組を進める。(2)対象地域
市全体を復興計画の対象。それぞれの地区における復旧・復興への取組方針となる 地区別計画を策定。 (3)市民との協働、積極的な情報共有 市民の理解と市民との協働が必要不可欠。それぞれの強みを活かす役割分担のも と,一丸となって復旧・復興に取り組む。特に被害が大きい地区では地域住民と協議 の場を設け,地域を離れている被災者を含めた全市民に対して,積極的かつ早期の 情報共有に努める。(4)国・県、他市町村との連携・協力
国や県,他市町村と連携・協力。必要な事業の実施や支援等について,国や県に要 請。特に,各事業で連携を図り、相互に情報共有しながら取り組む。 19復興計画のポイント②
(5) 計画期間
今回の豪雨災害発生から概ね10年後の姿を見据え,段階的かつ着実に取り組む。 ・復旧期:平成29年度から概ね平成31年度まで。生活や産業の再開に不可欠な住宅, 生活基盤,インフラ等の復旧に加え,再生・発展に向けた準備を進める期間。 ・再生期:概ね平成32年度から概ね平成35年度まで。復旧期に取り組んだ残りの復 旧を進めるとともに被災前の活力を回復し,地域の価値を高める期間。 ・発展期:概ね平成36年度から平成38年度まで。被災地が新たな魅力と活力ある地 域として生まれ変わり,発展していく期間。(6) 総合的な視点に立った復興計画の立案
防災の観点に加え,自然環境や景観,歴史,文化,生活等を総合的にとらえ,地域 の価値や生活の質を向上させる復興計画の立案を目指す。また、復旧・復興に当 たっては,高齢者や障がい者,女性,児童,外国人などの多様な市民に配慮する。 20復旧・復興に向けた基本施策
基本理念① 安心して暮らせるすまいとコミュニティの再生
地域とのつながりを維持しながら、住み慣れた地域で安心して暮らせる住 環境を整備し、すまいと暮らしの再建、コミュニティの再生を図ります。基本理念② 市民の命を守る安全な地域づくり
基本理念③ 地域に活力をもたらす産業・経済復興
農地等の産業基盤の早期復旧を行うとともに、農業や林業、商工業等の産 業復興に向けた取組を支援し、地域産業の再生と地域経済の活性化を図り ます。 国や県、地域と協働し、防災・減災のためのハード事業とソフト事業を総合 的に取り組み、今回の災害と同規模以上の降雨に対応する安全な地域づく りを進めます。基盤整備に当たっては、地域住民の意見や必要に応じて自 然環境、景観等を考慮します。 (1)安心して暮らせる住環境の整備,(2)コミュ二ティ等の維持・再生 (1)防災・減災のための基盤整備,(2)地域防災力の向上 (1)産業基盤の早期復旧,(2)産業・経済の振興 21地区別計画
今回の豪雨災害では,市内一様の被害ではないため,市全体を9つの地区に区分 し,それぞれの地区における復旧・復興への取組方針となる地区別計画を示す。
計画の推進
地域住民 朝倉市 朝倉市復興計画推進委員会(仮称) 学識経験者(大学) ボランティア等 地 区 別 復 興 推 進 協 議 会( 仮 称) 集 落 会 議 報 告 提 言 連携 プロジェクトチーム ・住宅再建 ・出水期対策 ・農地復興 連携 朝倉市議会 国・県 他市町村 関係機関 協働 説明 意見 支援 平成29年7月九州北部豪雨 災害復旧・復興推進本部 本 部 長:市長 副本部長:副市長 本 部 員:教育長、部長等 地域支え合いセンター等 公共土木施設災害対策室(仮) 農地等・林道災害復旧班 … 連携 連携 ①庁内の体制,②市民との協働・情報共有,③国や県,他市町村との連携・協力体 制と計画,④進捗管理。 24 ① ② ③ ④策定した復興計画の特徴
復興の
理念
を定め,あくまでも,今後取り組むべき復旧・復
興の
基本施策
を体系的にまとめたもの→全体像を明示した
もの,具体性には欠ける
地区別計画においては,策定時点で
確定している事業
の
みを掲載→将来的に
更新
することが前提
朝倉市全体を対象としたものであるため,
個別の意見
が反
映されていないように見える→協議会で出された意見が基
本施策のどれに
対応
するかを明示
今後,進めていく復旧・復興施策がよりよいものとなるよう,
市民との協議
を継続し,
協働
で復旧・復興に取り組んでいく
ことが必要であることを明示
26具体的な復興に向けての動き
「減災」の考え
東日本大震災を契機に,被害の発生を抑止するという
防災思想の限界を認識。
巨大な自然外力に対して災害を完全になくすことはで
きない。
発生時期の予測,規模の推定には限界がある。
ある程度の被害を想定し,その被害を最小限にすること
=
減災
27災害リスクマネジメント
被害評価
災害対応
復旧
復興
被害抑止
被害軽減
災害予知と早期警報
発災
クライシスマネジメント
リスクマネジメント
災害リスクに対して守るべきものの優先順位を設定すること
→最大限の減災を達成することが目標
ハード技術+ソフト技術 29被害抑止に対する2つの対策
ハード対策:structural measures
なんらかの構造物による被害軽減手法
ダム・堤防・耐震補強など
一般的に多くの費用が必要 多額の費用を投じても,いつ必要になるかわからない 想定外の事象には対応できない 人間活動の拡大に伴い整備が追いつかない ソフト対策:non-structural measures
構造物によらない被害軽減手法
ハザードマップ,避難計画,防災まちづくり など
利用者による理解・利用のプロセスが必要 29ハード対策とソフト対策
災害の規模と被害の大きさ 災害の発生頻度 10年に 1度 100年に 1度 1000年に 1度 無対策:大きな災害ほど頻度は小さい 30ハード対策とソフト対策
災害の規模と被害の大きさ 災害の発生頻度 10年に 1度 100年に 1度 1000年に 1度 ハード対策:ある頻度以下の災害は発生しない。しかし,想定を超える規模の 災害が発生すると被害が発生する。 ハード対策 31ハード対策とソフト対策
災害の規模と被害の大きさ 災害の発生頻度 10年に 1度 100年に1度 1000年に 1度 ソフト対策:一定の被害軽減効果はある ソフト対策 32ハード対策とソフト対策
災害の規模と被害の大きさ 災害の発生頻度 10年に 1度 100年に1度 1000年に 1度 ある頻度以下の災害はハード対策によって防ぎ,想定を超える規模の災害に はソフト対策で被害を防ぐ。 ハード対策 ソフト対策 33災害軽減のための情報の活用
量
人
に
よる
意味
づ
け(価値)
データ
(Data)
情報
(Information)
知識
(knowledge)
雨量・水位
警報,ハザードマップ
避難所への移動
豪雨と災害に関する知識体系
→蓄積された情報の活用
情報そのものに価値はない。 情報は活用されて初めて価値をもつ。 情報の価値は人によって異なる 34ハザードマップ
自然災害の予防に際して,完全な予防的対策をとること
は不可能であり,そのために被害を最小限に抑えるよう
な
減災
対策として,予測情報の充実を図る必要がある
そのため,自然災害によってどのような被害が想定され
るかを
地図
上に表現したもの
自然災害に応じたハザードマップが国や各地方自治体
毎に整備されている
http://disapotal.gsi.go.jp/
35ハザードマップの問題点
あくまでも想定した自然災害に対する
想定被害
を示した
ものである。(想定被害域であり,
絶対安全域
ではな
い)
局所的かつ確率的
に発生する現象を表現することは難
しい(土砂崩れ,雪崩など)
紙の上で表現しているため,情報が
限定的
である
非現実的
な避難ルート,避難所の記載
住民
の意見・考えが未反映
防災に関する
行政への依存
36災害リスクコミュニケーション(東峰村の事例)
事前調査(15行政区) <進捗状況モニタリング> 第1回 行政区部会(15行政区) (災害リスクコミュニケーション①) 事後調査(15行政区) 第2回 行政区部会 (災害リスクコミュニケーション②) <進捗状況モニタリング>
東峰村の復興に向けた計画
復興計画を着実にすすめるための仕組み作り
第1回 復興計画推進委員会 第2回 復興計画推進委員会 2018.7.31開催 2018.10~11開催予定 第3回 復興計画推進委員会 2019.2~3開催予定 第1回 地域住民協議会 2018.6 4大字にて開催 第2回 地域住民協議会 2019.2~3開催予定 2018.9までに 終了予定 38地域住民協議会
行政+住民の両者による復興計画の推進体制
復興計画の進捗状況についての
情報共有
今後の
避難行動のあり方,方向性
についての議論
を目的とした協議会
住民の細かな視点からの意見を集約するために
行政区部会
(15行政区)を設置する。
避難場所,避難経路,危険箇所の洗い出し
→
地区防災マップ
の作成
→復興計画推進に向けた
地区の方向性
の提示
39災害リスクコミュニケーション
行政,住民,専門家の三者で地区防災について議論
し,自然災害に対する理解を深め,最適な地区防災計
画を検討
成果として,
地区防災マップ
を作成
災害リスクコミュニケーションの様子 地区防災マップの例 40災害リスクコミュニケーションの目標
北部豪雨災害での被害結果をもとに,住民自らが情報
を書き加えていくことで
役に立つ,住民のための地区
防災マップ
を作成する。
行政・住民・専門家による
調査
,一次避難場所・避難経
路などに関する専門家を交えた住民同士の
議論
など
を通して,
各集落独自の地区防災計画
を策定する。
上記の内容を含んだ「地区防災マップ」を活用して,
地
域防災力,住民の防災意識の向上
を図る。
「情報」を「知識」へと変えるための取り組み
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