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<グラールの語り>における5脚のヤンブス詩行の問題 : ヴァーグナーの《ローエングリン》における音楽とことばの関係-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

ヴァーグナーの《ローエングリン》における音楽とことばの関係

はじめに

稲 田 隆 之

1.1本論の目的  本論は、リヒャルト・ヴァーグナーRichard Wagner (1813 一83)のロマン的オペラ《ローエングリ ンLohengrin》における音楽とことばの関係をめぐる研究の一端として、第3幕第3場のくグラール の語り〉における5脚のヤンブス詩行の問題を考察することを目的とする1。  《ローエングリン》はヴァーグナーのドレスデン時代鍛後の作品で、3つのロマン的オペラの鍛 後の作晶に当たる。リブレット(オベラ台本)は1845年11月に、音楽スコアは1848年4月末に完成 された。伝統的な番号オペラの様式をとるが、レチタティーヴォとアリアに当たるものに番号は付 けられていない。また各幕において、ドラマは比較的大きな場面によって形成されており、その場 面において各曲が接続されている。

一般にヴァーグナーのオペラは、四部作《ニーペルングの指環Der R≒des Nibelungen》 《ラ

インの黄全Rheingold》ヽ《ヴァルキューレWalkUre》ヽ《ジークフリート.Si雁ried》ヽ《神々の黄昏 G6tterdammerung》 以降の作晶を[楽劇Musikdrama]とし、《ローエングリン》以前の作晶は伝統 的な番号オベラに則ったものとして「歌劇」とされる。そして《ローエングリン》は、伝統的な番号 オペラの枠組をもちながら、続く「楽劇」的な新しい要素をみせ始めている。  通常ヴァーグナー研究において、《ローエングリン》における新しい音楽的要素は第2募との関 連で論じられる2。《ローエングリン》のドラマは、[ローエングリンとエルザ]対「フリードリヒ・ フォン・テルラムントとオルトルート」の対立によって展開し、このとき両者の違いが音楽的に明 確に描き分けられるわけである。そして後者の、とりわけオルトルートの音楽において、《ローエ ングリン》の中で最も革新的な音楽が書かれており、その意味で《ローエングリン》における鍛も楽 劇的な音楽は第2幕にあるといっていい。  しかし本論では、第3募第3場、ローエングリンが自らの出白について明かす〈グラールの語り〉 における音楽とことばの矛盾が、ヴァーグナーによる楽劇創作へのきっかけのひとつとなったこと を指摘したい。その鍵を握っているのが、〈グラールの語り〉のリブレットに用いられた5脚のヤ ンブス詩行である。なお本論におけるリブレット対訳には、高木卓氏のもの3を使用させていただ いた。 1.25脚のヤンブス詩行の問題  まず《ローエングリン》が番号オベラの枠組を残している −1− ことは、リブレットによく現れている。

(2)

稲 田 隆 之 というのも、そこに韻文テクストが存在しているからである。そもそも、オペラのドラマトゥル ギーでは、ドラマはレチタティーヴォまたは台詞によって進行し、アリアや重唱のなかで登場人物 たちが、あるいは合唱のなかで人々が感情を旺露する。このとき、前者のテクストは韻文ではな く 後者のテクストは韻文で書かれるのが特徴である。言い換えれば、後者の韻文とは詩なのであ る≒  オベラにおいて、各アリアで選ばれる韻律と詩形は、イタリア・オペラであろ `つ とドイツ・オペ ラであろうと、登場人物が吐露する感情内容と少なからず関係している。しかし、オペラ史をひも 解けば明らかなようにそのテクストがもつ詩的表現は、歌われることによっておろそかにされる ことも少なくなかった。だからこそ、「音楽が先か、ことばが先か」といった美学上の論争も起こっ たわけである。  周知のように、ヴァーグナーは音楽とことばの関係を重視した。それを鍛もはっきりと言明した

のが、《指環》の理論的著作である『オペラとドラマOper und Drama』(1851)においてであった。そ

して問題となるのは、ドイツ語テクストの問題を論じるなかで、ヴァーグナーが5脚のヤンブス詩 行について批判していることである。では、5脚のヤンブス詩行の何が問題なのか。まずは、『オ ペラとドラマ』におけるヴァーグナーの主張を、若干長いが引用しておこう。 「詩句によるリズム上のどんな明確な表現も私たちの言語には不可能であるが、そのことは なんらかのリズムの装いを身にまとって できるだけ控え目に 姿を現すさいに用いら

れる最も単純な韻律に最も明白に露呈する。ここで問題にしているのはふつうヤンブスと呼

ばれているものであるが、私たちの言語がこの韻律を用いると五本脚の性物と化して私たち

の目の前に立ち現れ、 残念なことに しげしげと私たちの耳にも訪れてくる。この韻 律がわが国の演劇などで絶え間なく用いられたとたん、それ自体の醜悪な姿が感情を阻害し はじめる。さらにリズムの単調さのために これは不可避なことなのだが一言語本来の

生き生きとしたアクセントに尉え難いほどの圧力が加わることになるが、そうなるとこうし

た詩句を聞くことは完全な拷問と化す。なぜなら聞き手は正確な言葉本来のアクセントが

切り刻まれることによって表現内容の迅速な理解から目を背けさせられ、みずからの感情

をこうした疏行するヤンブスに力づくで乗せられた末に疲労困煙させられるからである。」

(Wagner 1851:251−2、邦訳:366 −7.強調は原文のまま。)

 まずここで批判しているのは、ヤンブスについてである。ヤンブスとはドイツ詩の韻律のひと

つで、Senkung(弱音節)とHebung(強音節)の組み合わせにより、弱強格をとる。通常韻律法では、

特定の韻律の規則的反復によって詩行が形成されるのだが、ヤンブスをとると言葉本来のリズムが

壊されてしまう、というわけである。さらにヴァーグナーはその詩が付曲される問題について書

く。

「リズミカルだった詩がメロディーによって実際上まったくリズミカルでない成分に分解さ

れ、さらにはリズミカルなメロディーという絶対的尺度に従ってまったく新たに構成しなお

されたのである。そこで脚韻は聴覚に轟き渡るメロディーの大波に呑まれて響きを失い、跡

形もなく消え去った。」(Wagner1851:259、邦訳:376。)

 そのほか5脚のヤンブス詩行がもつ問題を、山□1982を参照に整理しておく。第3に挙げられる のは、詩行冒頭でアクセント転置が起こりやすいことである。アクセント転置がなぜ問題なのかに 9 ︼   一

(3)

【資料1:韻律の特徴】 −  Auftakt系 (上昇的リズム)  Abtakt系 汀降的リズム) altemierendな韻律 ヤンブス(弱強格)

トロヘーウス(強弱格)

altemierendではない韻律 アナペースト(弱弱強格)

ダクテュルス(強弱弱格)

ついても、説明が必要であろう。 ドイツ詩の4つの韻律は資科1のように特徴を整理できる。本論 で問題とするヤンブスというのは、Auftakt系のaltemierendな韻律5であることから、上昇的なリズ ムをもっている。そして、詩行冒頭でアクセント転置が起こると、その詩行全体の韻律が変化して しまう。ということは、詩行全体がもつニュアンスも変化してしまうということである。つまり、 詩行冒頭のSenkungがHebungに置き換わると、冒頭の韻律はヤンブスからダクテュルス(強弱弱格) に変化し、それ以降はaltemierendな韻律をそのまま引き継ぐため、韻律はトロヘーウス(強弱格) となる。その結果、下降的なリズムが生じ、詩行全体のニュアンスが変化するわけである。  しかし、こうした詩行冒頭のアクセント転置は、詩的意図をもって用いられれば、極めて重要な 意昧をもつことになる。《ローエングリン》第1幕第2場で用いられる〈禁問の勤機〉は、その好例 である(譜例1)。裁判をかけられているエルザを款うためにローエングリンが現れ、彼女を款う 条件として、自らの素性を問わないように約束させる。このとき歌われるのが、《ローエングリン》 において最も重要な[ライトモティーフ]である〈禁問の動機〉である。 【譜例1:〈禁問の動欄〉】 L L E 〈禁問の動囃〉 乃に 〃 l   l々ぐ心ゝ> こ> 遡  Lム.͡ 〃 l i タ h   r j   l   1 r j     x     l     - | r J   ;     L ゝ f       y 〃   l j 】 r J   -     l       l   f j 匹 L 1   「 〃 皿   1 」 ¶ 1     1   ● 4 ● l i i     - / m   l l   y ‘ 1 1   1   / - z X ゝ 1 タ       1 1       1 ノ   i ノ   y   l l tJ      r 1       1 r      ・

      fragen,nochM'issensSor。ge tra-gen,鳩'o−her ichkamder Fahrt, nochwiemein Nam und

       -Elsa(leise, fast bewl)6tlol

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朱 ・ 資 r ・ ・ ︱ 稲 田 42:〈禁問の動欄〉を含むリブレットの韻律】         テクスト

Elsa,soll ich dein Gatte heiBen,

soll Land und Leut' ich schirmen dir,

soll nichts mich wiedcr von dir reiBen,

muBt eines du geloben mir:

Nie sollst du mich be丘agen,

noch Wissens Sorge tragen,

woher ich kam der Fahrt,

noch wie mein Nam' und Art!

瓦□ ♪n ♪Jコ ♪n Jス「 ̄J J ̄n ♪n ♪n 隆 之 韻律 JコJコ Jコ月 J ̄ ̄JJコ ー  り nn −  − 月月 nn nJ 月♪ J ̄] ♪ n ♪ 脚 a b a b c d c d     備考 4脚、アクセント転置 4脚 4脚 4脚 3脚、アクセント転置 3脚、アクセント転置 3脚 3脚 (n=長母音、D==軽強剖  このローエングリンの歌詞は8行からなり、前半4行は4脚のヤンブス、後半4行が3脚のヤン ブスで書かれている(資科2)。そしてその後半4行が〈禁問の勣機〉のテクストにあたる。このテ クストの冒頭、「nie」は韻律上Senkungに当たるが、強い意味をもったことばであることから、言 語上強く発音されることが考えられる。続く行の冒頭、「noch」も同様である。このテクストが通常 の詩であれば、これらのシラブルをどう発音するかは解釈者の解釈に委ねられるが、ヴァーグナー 白身はここに強い意昧上のアクセントを認め、このシラブルを1拍目にもってきている。その処理 は、意味上のアクセントをもったSenkungとして、というよりも、アクセント転置を行ったHebung というべきものである。それによって、これらの詩行に下降的なリズムが生まれ、〈禁問の勤機〉 のもつ意昧と相挨って、垂々しい響きが加えられたわけである。とはいえ、〈グラールの語り〉の テクストは同様の効果を目論んで、詩行冒頭でアクセント転置を行うものとは異なっていよう。  引き続き5脚のヤンブス詩行の問題の第4として、文章のシンタックス上のつながりが複数の詩 行や詩節にまたがる、いわゆるアンジャンブマンが生じやすいことがあげられる。シンタックス上 のつながりは朗読上も連続して語られるから、脚韻がもつ意昧や効果が減少することになろう。最 後に第5として、そもそもこの詩形が、イタリア詩に由来するエンデカシラボ(endecasihbo、11 音節の意)を原型としていることが挙げられる。つまり根本的に ドイツ語のリズムとこの詩形に は矛盾が内包されているわけである。  では、これほどまでも問題の多い5脚のヤンブス詩行を、なぜヅァーグナーは《ローエングリン》 の核心部分ともいえる〈グラールの語り〉のテクストとして用いたのであろうか。そして、くグラー ルの語り〉における音楽とことばの関係はどのような意味をもつのか。

1.3分析方法

 歌唱旋律における音楽とことば(詩)の関係の分析では、韻文テクストにおける3つのアクセン

ト 韻律上のアクセント、言語上のアクセント、意味上のアクセント 音強アクセント、音長アクセント、音高アクセント と音楽的アクセント の関係が重要である。この問題につい

ては、拙論において論じたが6、本諭でも硝認しておきたい。

 韻律上のアクセントは、文宇通り、HebungとSenkungの規則的な反復による韻律のなかで、

Hebungにあたるシラブルに生じる。そこで語られる内容にとって、そのシラブルをもつことばが

重要なものであろうとなかろうと、詩において規則的なリズムを生むためには、韻律上のアクセン

(5)

トが不可欠なのである。  言語上のアクセントは、書かれたテクストが朗唱される際に付されるアクセントを指す。通常、 韻律上のアクセントと言語上のアクセントは一致する。しかし、単語として本来アクセントをもた ないシラブルが、韻律上のアクセントをもつことが少なくない。このとき、そのシラブルを強く発 音するのかあるいは弱く発音するのかは、解釈者の解釈に委ねられるわけだが、後者の場合は、そ のシラブルに言語上のアクセントを認めなかった、ということになる。そして、言語上のアクセン トを認めなかったということは、そこに意昧上のアクセントも認めなかったということになる。  最後に、その意味上のアクセントは、そこで書かれる内容にとって重要な意昧をもったことばに おけるシラブルに生じる。 ドイツ詩の基本としては、意昧上のアクセント、韻律上のアクセント、 言語上のアクセントはほぼ一致するが、当然ながら、意昧上のアクセントをどう見出すのかは、解 釈者に委ねられているわけである。明らかに意味上のアクセントをもったことばとしては、脚韻の 存在が挙げられよう。脚韻は各詩行末に置かれることによって詩行全体に構造を形成するだけでな く 脚韻をもつことば同士が文章のシンタクスを越えた意昧を生み出す。その点からすれば、脚韻

もまた意昧上のアクセントをもったことばということができよう。だからこそ、ヴァーグナーが

『オペラとドラマ』のなかで指檎したように、付曲することによって脚韻のもつ効果が減少するこ

とには問題があるわけである。なお、朗唱においてそこに付されるアクセントは強弱の2種類にと

どまるものではなく、さまざまなレヴェルや種類のアクセントが付されることはいうまでもない。

 続いて、音楽的アクセントについても触れておこう。まず音強アクセントは、音楽の拍節法との

関連で生じる。〈グラールの語り〉の4拍子でいえば、4つの拍それぞれに内包されているアクセ

ントは「強(重)・弱(軽)・中・弱]である。従って、重要なことばは各小節の1拍目に置けば、必然

的に音強アクセントが生じることになる。

 音長アクセントは音の長さ、音高アクセントは音の高さによってアクセントを付けるものであ

る。意床上のアクセントをもったことばに、長い音や高い音を与えることによって、そのことばを

強調することができる。重要なのは、これら3つのアクセントの関係であろう。詩のことばを音楽

の拍節に乗せる場合、意昧上のアクセントをもったことばを、必ずしも1拍目に置けるわけではな

い。また、1拍目に必ずしも重要ではないことばがくる場合も少なくない。このとき、1拍目に置

かれたことばは、全般に低めの音で書かれ、音強アクセントを弱めるわけである。結論を先取りす

れば、こうした手法は、ヴァーグナーの〈グラールの語り〉においても踏襲されていることが分か

る。

 では、こうした3種のことばのアクセントと3種の音楽的アクセントの関係を分析することによ

り 〈グラールの語り〉からどのような問題が見えてくるのであろうか。次節で検討したい。 2.〈グラ一ルの語り〉の分析 2.1〈グラールの語り〉について  〈グラールの語り〉は、《ローエングリン》第3幕第3場でローエングリンによって歌われ、ドラ マの最後の核心部分にあたる。そもそも、ローエングリンはエルザを、自分の素性を尋ねないこと を条件に救ったわけだが、フリードリヒとオルトルートの策略によって、エルザはローエングリン に素性を尋ねてしまい、ローエングリンはそれに答えざるを得なくなった。そしてその名乗りの歌 が、この〈グラールの語り〉なわけである。この〈グラールの語り〉がドラマの核心部分であること は、この音楽がオベラ全曲中、最初に作曲されていること、および第1幕への前奏曲でも使用され       −5−

(6)

【資料3:〈グラールの語り〉リブレット】

稲 田 隆 之

       テクスト

ln fbmem Land, umlahbar euren Schritten,

liegt eine Burg, die Montsalvat genannt;

ein lichter limpel stehet dort innlitten,

so kostbar, als auf Erden nichts bekannt;

dril! ein GefliB von wundertat'gem Segen

wird dort als h6chstes Heiligtum bewacht:

es ward, daB sein der Menschen reinste pnegen,

herabvoneiner Engelschar gebracht;

alUahrlich naht vom Himmel eine Thube,

um neu zu starken seine Wunderkraft:

es hei13tder Gral, und selig reinster Glaube

erteiltdurch ihn sich seiner Ritterschan:.

Wer nun dem Gral zu dienen ist erkoren,

den rnstet er mit nberirdischer Macht −

an dem istjedes B6sen Trug verloren,

welm ihJl er sieht。 weicht 4em des lodes Naeht;

selbst wer von ihm in &me Land' entsendet,

zum Streiter fUr der Tugend Recht emalml,

dem wird nicht seine heil'ge Kran entwendet,

bleibt als sein Ritter dort er unerkannt;

so hehfer Art doch ist des Grales Segen,

enthullt −muB er des Laien Auge niehn: −

des Ritters drum sollt Zweif111 ihr nicht hegen,

erkennt ihr ihn −dann muB er von euch ziehn. −

Nun h6rt, wie ich verbotner Frage lohne: −

vom Gral ward ich zu euch daher gesandt;

mein Vater Parzival trligtseine Krone −

sein Ritter ich −bin Lohengrin genannt.

[︰一月[J[リ 俎只 ♪  一♪♪

m月

♪月Jコ

♪月月

♪Jコn

韻律

nこにJ

♪ 月 ♪ 月 一♪ 月 一♪ 月珀月召[い[︰[い [︰一[い ・ ﹁ヅ﹂︰[︰一[︰[︰ ♪J ̄]JコJ ̄JJ ̄コJ ̄ ̄J ﹁?﹂︰ ・[い﹁﹂︰ ‘ [︰一[︰ 一 n[︰︰ ・[い召月月[い月月・[︰一﹁ヅ﹂︰月 [い[い[︰一月[い[︰一[︰一出[︰[雪ヅい﹁ヅ﹂一[︰[︰[︰ ・[い[い ♪♪♪♪♪♪♪   ♪♪   ♪♪♪♪♪♪♪♪ [い[い ・ [い[︰一珀ト︰ ・ [い[︰︰[い月月[︰珀[︰﹁﹂一[︰一[︰[い[い ‘ ﹁?﹂︰ ・[い﹁﹂︰ ‘ [︰一[︰ 一 n[︰︰ ・ [い召月月[い月月 ・ [︰一﹁ヅ﹂︰月 ♪︶ [ぃ♪[い♪[ぃ♪[ぃ♪﹁﹂い♪[い J [ぃ 一丿 月 一♪ [ぃ 一♪ [︰一[︰一[ぃ[ ヅい [︰ぃ﹁リ﹂︰月月月[い﹁ヅ﹂一[︰一珀 ・[︰[い[︰︰゛ (転置:詩行冒頭でアクセント転置が −6− 脚 a b a b C d c d e f f g︸h g h ● − 」 s ︲ 」 c k c k | b l 転置 一一 有 一 ︸ 有 一 -一 -一 -一 一 ︷ ︸ 有 一 一 有 一 一 -一 一 -一 i起きているかどうか)

(7)

ていることからも明らかであろう。  ローエングリンはこの〈グラールの語り〉によって白らの聖なる出自を明かし、人々に決然と別 れを告げる。そのため、その音楽も全体にポジティヴな表現をもっている。だが、この音楽には重 要な問題が起こっている。そしてそれを引き起こしているのが、5脚のヤンブス詩行の存在なので ある。以下、具体的に分析したい。〈グラールの語り〉の韻律を分析したものが、資料3と譜例2 ∼8である。全体は28行からなり、4行ずつのまとまりが7つあることが分かる。そこでそれぞれ を第1節、第2節と呼ぶことにする。  テクストを観察すると、各節の4行は交差韻をとっており、脚韻は同じ響きのことばが交互に現 れる。さらに観察すれば、4行のうち畜数行は、女性格でヤンブスの余り脚となり、Senkungがひ とつ多い形で、偶数行は男性格をとりヤンブスの足り脚、つまり、SenkungとHebungが同じ数に なっている。その結果、奇数行の行末のSenkungが、次の行、すなわち偶数行の冒頭のSenkungと 衝突するかたちになっているのが特徴である。これが、リズムの変化を生んでいることは間違いな い。  テクストの7つの部分に対応して、音楽もまた7つの部分からなる。第6節を除いて和声的にも 安定し、ヴァイオリンのフラジョレット音を代表とした高音域中心のオーケストレーションが特徴 である。また概ね4小節フレーズが遵守されていることにも気付く。従って、聖杯の高貴な存在を 象徴するポジティヅな表現の音楽が支配的となっている。  重要なことば、すなわち意昧上のアクセントをもったことばは小節の1拍目に置かれるか、そう でなくても、長い音や高い音、すなわち音長アクセントと音高アクセントを加えて強調される。と りわけ重要なことばが「Gra1」(聖杯)であることは明らかであろう。脚韻は、1拍目(拍の重点)か 3拍目(副次重点バこ必ず置かれ、音強アクセントが加わっている。そのほか、聖なる意昧をもっ たことばには3連符が用いられている。例えば第4節2行目、「uberirdischer」のことばは、本来 「uberi 「scher」のように1シラブル省略されないと韻律の規則性が乱れてしまうのだが、作曲され た音楽においては1シラブル加えられ、それによって3連符が生じている(譜例5参照)。  その一方で、一見ポジティヴに聴こえる〈グラールの語り〉であっても、歌唱旋律における音楽 とことばには矛盾が生じている。分析によってそうした矛盾を抽出した上で、その矛盾がもつ意昧 について考察したい。なお紙数に限りがあるため、最も問題の多い第1節、および第5∼7節を中 心に分析することをお断りしておく。 2.2第1節の分析  対訳は「皆さまの近づきえない、はるかな国に、/モンサルヴァートという城があります。/明 るい殿堂が、そのただ中に立っていますが、/この世では、まったく知られていない、貴い殿堂で す」。  1∼3行目は、1拍目に8分休符を置いたのち、アウフタクトのシラブルから始まる。ただし 2行目では詩行冒頭でアクセント転置が起こっている。しかし問題なのが3、4行目である。3 行目、「TemPel stehet」の部分は本来、韻律上「強弱強弱」と発音されるべきであろう。しかしヴァー グナーの処理は、「強強弱弱」ないし「強弱弱弱」である。すなわち、「Tempe1」を「強強」と強調する 一方で、「stehet」がもっているHebungが犠牲にされたわけである。言い換えれば、「stehet」のもつ Hebungは「実行されないHebung」となってしまった。  「実行されないHebung」については説明が必要であろう。ダールハウスは、フーゴ・ヴォルフ のリートにおけるDeklamationの問題を論じるなかで、「実行されるHebung」と「実行されない Hebung」を区別すべきだとした7.「実行される」とは、Hebungがもっている韻律上のアクセントが       −7−

(8)

【譜例2:〈グラールの語り〉第1節】 稲田隆之 」のための間 脚韻⇒副次重点 溜めの闇 ・ l   .     J    J  J 4  Jダエr9・ / た↓4 L°rllr191 HI , / , /,11 〃 〃 1 1 T I 八       八   − 汽 1 t / ` X   l   k l -64七皿七-LJ・哨一貼 ヨ・F-一阿一癖乙哩- J-・IJリf l f ● . 1 1   1 1 i 皿 ● 皿 ノ r     l j X 1 /     W J J / j S . J j     k _ / ・   L /   l j   y Z | / J W       F     ぱ

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sJhritten,   −W 1ieかeineBurgクdie− りり −  り 溜めの間 脚韻⇒副次重点 □  唯一の3小節フ・しーズ 胃めの間  r“−  lieがeineBul`gjdie  − UU −  U アぢ石刀i置 実行されないHebung L L 脚敲゛゛副汎里照 | ・sg、..、u         ぺ      喫茄。副が蕭占 乃1n1    j悶gJv/191 v f /   X       ’ /八k      1 匹 一 ・   ・ 万 皿     S K l   k l k x 心 / ー J ゝ j   l i     l j N S l i - ●     I Y &   1 ・ I I I /   し /     y / |     皿 』 Jト″= i l     - J i 1   1 ヘ 4 W r     「 L / - 7   J j に M?'≒1痢tが- lannt5

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円ダ柘裕守叫レ

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贈白・ソ レ二コで

X /       ゝ       /       v ぺ      `     ´ 実行されないHebung 言語上もアクセントをもつことを意昧し、「実行されない」とは、そのシラブルが言語上のアクセ ントをもたないことを意味する。そして、音楽とことばの関係における矛盾として重要なのは、実 行されるべきHebungが実行されず、本来アクセントをもたないSenkunがこ強いアクセントが加わ ることなのである8。  従って、この第1節3行目における「Tempel stehet」の処理は、「Tempe1」の不白然な強調と、 「stehet」の不自然な曖昧化であり、音楽とことばの関係の矛盾として指摘できよう。この処理から、 「Tempe1」が堅固で立派な外観をもっているが、だがそれは弱弱しく「stehen」していることが読み取 れるのである。

 続く4行目も問題が生じている。「kostbar als auf」も「強弱強弱」と発音されるはずが、ヴァーグ

ナーは「kostbaf」の「(-)bar」に「kostO」より高い音を当て、このことば全体に言語上のアクセント を与えた。これを「均衡強音」的処理とみなすことはできよう。しかし、均衡強音とは「語が本来も つ強音、ないしは文意上もつべき強音と、額律論上もっべき強音と対立、矛盾する場合、この対 立、矛盾を調整ないしカモフラージュして両者のバランスをとること」9である。つまり、「kostbar」 の処理にはこの条件が当てはまらないことになる。  均衡強音が生じるのは、2つのシラブルの本来の韻律上のアクセントが「弱強」のときが基本で、 〈グラールの語り〉でいえば、第3節1行目、「a1卵hrnch」の単語が好例であろう。このことばは、 韻律上は「弱強弱」だが、言語上は「強強弱」である。すなわち、2つのアクセントが対立しており、 それをカモフラージュするため均衡強音と解釈すればいいのである。ところが、ヅァーグナー自身 はこのことばを均衡強音としては処理しておらず、歌唱旋律上は単純な[弱強弱]として作曲して いる。言い変えれば、ヅァーグナーはこのことばを白分で詩行冒頭に選んでおきながら、その詩的 な効果を歌唱旋律には活かさない、という奇妙な現象が起きているのである。  第1節における問題は、こうした韻律に関するものだけでない。基本的に4小節のフレーズ構造 が遵守される〈グラールの語り〉において、第1節3∼4行目に当たる音楽はそのフレーズ構造が 壊されている。これについては、鍛後の考察のところで後述する。 −8

(9)

−9− 2、3第2∼4節  第2∼4節については分析を省賂し、譜例のみを挙げるにとどめたいが、ひとつだけ特徴的な箇 所について触れておく。嬉4節4行目、5脚のヤンブスを形成するHebungはしっかりと実行され ている。だがこの詩行は、中間に「、(コンマ)」が挿入されている。ことばのリズムに忠実な旋律 を書こうとするならば、「、」を活かす「問」を挿入すべきであろう。また、「、」のあとの「weicht」(逃 げて)は意昧上のアクセントが強いことばであり、歌唱旋律のなかでは、意床上のアクセントを もったSenkung、ないしは、「、」を挿入することでアクセント転置を行い、Hebungとして処理すベ きことばだと考えられる。しかし、ヅァーグナーが「weicht」を特に強調せずに扱っていることは注 目されよう。 【譜例3:〈グラールの語り〉第2節】 脚韻⇒拍の重点 L , drin ein Qe ,   − tj  心 アクセント転置 脚韻⇒副次重点 U。 -1 芦 p μ   p J / ゝ 工 j l い 「 ̄ ̄ア ̄1 1    1   k r   = r  ̄ '  ̄ ' 腫  ̄ ● ・  ̄ ' -   - &       k ゝ j ゛ i 1 1     1 1 S i - 阿   同   F   -   . 1   1 「   口   目     - h I   S 4   l i       〃   押 i i l 「     i ノ 豺 門   | /   □   1   1   阿   I   1 y   y J   │ ノ     | λ 皿 - 「 - ノ 亀 ノ   ー / 声   門     I     F / j   t / l   f   r   に   |   | ノ   l   y     r   F     y / ダ     1 ノ   ノ     i     f Se−gen  − リ

wia dort ils h6ch.sies Hei.lig-tum bj wacht:  −        r 「es  ward7 d訪sein(1er Mensehen

迫匹

L 十音高アクセント 脚韻⇒副次重点 +音長アクセント 【譜例4:〈グラールの語り〉第3節】 L L L

    a11-jar-lidl nallt vom     r ∼いJ −  kJ 本来は均衝強音 脚韻⇒拍の重点 脚韻⇒副次重点 十音長アクセント 脚韻⇒副次重点 ヤンプスの上昇リズム⇒順次上行旋律 +音長アクセント フェルマータによる時間の静止        脚韻⇒拍の重点

ぶ1j

勺 へf膏 聊 明 ’ T o v ノ 亭 ょ 7 て X l   l − ヽ t l - ミ ー ・       ミ 「   い N         F ¶ r   ミ - - R   R       ●     1 角三ltニ 1   亀 J 1 l l       l i l 1 「 /  ̄  ̄ Jよ J L 皿 ● ● ば j l     l l t 4 l j g l   皿 i l   l 1     ● 皿   W     I ゝ |   / L /   S       ● j r / l t j   l J   y l i     L / t j y j L /   l j - / - /   -   I J   I     一 1 l   l       f r r   y   r j r   Z     y 1 ノ   y j   l     w tJ kraft:

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(10)

稲 田 隆 之

 対訳は「霊験あらたかな祝福の杯が、/そこに最高の宝物として、奉安されています。/天使の

群れが地上にもたらした杯なので、/もっとも純潔な人々が、その守護にあたってきました」(第

2節)。

 「毎年天国から1羽の鳩が、杯の/霊験を、あらたに強めるため、舞い下りてきます。/それは

グラールの杯といい、至福至純な信仰が、/その杯をとおして、守護の騎士一同に与えられるので

ある](第3節)。

 「この聖杯グラールに、奉仕するようにえらばれた者は、/杯の豊験によって、神通力をさずけ

られるので、/どんな邪悪な者のたくらみも、その騎士には刃向かえず、∠騎士がグラールの杯を

奉拝すれば、暗い死の影さえ逃げていきます」(第4節)。

【譜例5:〈グラールの語り〉第4節】 L L b 脚韻⇒拍の重点

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tj   dem(les TQ . desNacht,  − 【譜例6 L L , :〈グラールの語り〉第5節】 L 意味上のアクセントをもったSenkung         1  「.」を活かす間を挿入して、  Hebungとして処理すべきことぱ アクセント転置 匹 .実行されないHebung 脚韻゛拍の重点 脚韻⇒副次重点 +音高、音長アクセント

  /−−ヘ J--一膏一癖-/

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1      ,   V ● ● l     -   r x         皿 I X       S ミ ● \ L       F I   - ●   S I   I ¶       1 / l i j F ・ ● -   l l   l l   r l     l l - ・   ・ ・         -→ → j       L /   r ノ - y i l   i       l ノ   1 1 xl / L / l j l   F         y     y I Z   I       r     y l i       r     l tリ Strei 。ter   −  tノ jザフTyg?dRやtッー nanntフ  ー

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脚韻⇒拍の里点 〈ローェングリンの動樅〉     のリズム型 脚韻⇒拍の重点

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´ノ ゛'`エ        ZyΨn}i lQりノjiijiR  /  Xここ), /  鴨 4=!!i ニ聘二戸Fニ -- ● -粂-トi7t− -   -   - l l   - ● ● 一 芦 − 一 阿 2 - ー ・ − ミ l     l l   l j t /   1 i 鉢 「   / | / k 1 / r   y l     y   r F   r / i /   1 ノ   ● lー 』 1   「 に wen-deち  − kノ

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レノ

X  / ダクセノト転厦 十音長アクセント 一 10−

(11)

 対訳は「さて、聖杯グラールによって遠方へ遣わされ、ノ徳の正しさをまもる騎士に任ぜられた 者もまた、/聖杯派遣の騎士という身分を知られないかぎりは、/神通力を奪われずにいるので す」。  問題が起こっているのは2行目である。「Streiter狛r der」の部分も、韻律上は「強弱強弱」だが、 「狛r」からアクセントが排除され、Hebungが実行されていない。その結果、脚数は5つから4つに 減少した。特徴的なのは、結果的に《ローエングリン》のライトモティーフのひとつである、くロー エングリンの動機〉のリズム型が生じたことである。言い換えれば、このリズムはローエングリン の象徴なのである。  さらに3行目では、1つ目のHebungである[wird]からアクセントが外され、詩行が「弱弱」で始 まっている。これはアナペースト(弱弱強格)の韻律に当てはまる。ただしドイツ詩の韻律法では、 詩行全体がアナベーストによって形成されても、冒頭だけはSenkungをひとつにするのが基本であ るため、この詩行の処理もまた不自然であるといわざるを得ない。おそらくヴァーグナーは続く 「nicht」の否定語を強調したかったのであろう。だが、「nicht」を強調するために、韻律が犠牲になっ ていることをどう考えたらいいのか。

2.5第6節

 対訳は「このように聖杯グラールの祝福は、気高いものながら、/ひとたび秘密がうち明けられ

れば、派遣の騎士は、もう世間の人々の目を、のがれなければなりません。ノですから皆さまは、

聖杯の騎士に疑いを抱いてはならないのです。/身分を知られれば、騎士は皆さまとお別れしなけ

ればなりません且。

【譜例7:〈グラールの語り〉第6節】 脚韻⇒副次重点 L 十音高アクセント 脚敲⇒拍の重点 L L 心01    、 k - m   -r - j ? ・   皿 ・ -   -   - l 丿 ● 1 1 一 亀 4   -   1 1     1 1 7 1   1       ● l j l     j l 1 1     1 j   Z 1   四 r     F ¶ j   l l   S /     y ダ V ノ     l       t / 1     L / |     r   r タ   〃 j ・     y j 「 / ¶ ● ば   r     「 竜ノ  Gra − 14s      −  り Se.ge狗  − kノ Jnt −hiilltmu5 Jr心s り   −  V − り        ¬ Lai.ぷ1 ∽ ・j  「Au。ge 一  心 fliehn:_  − des Rit。ters  Qノ ー tノ 言語上⇒ 脚韻⇒拍の重点 不白然なアクセント転置 脚韻⇒柏の重点 凋丿鵠⇒田の里息      ハ ¥,

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//MふM ・.     冶脚, /1?N /7、 y i l 1 1   1 ● - - -   I L - ミ 1   -匹4H r j 参 l   l 1 i     x   l - 1 ^ r ・   〃 - ● - l f   j J I l j   ● j 1 /   l h l ー ・ ● l l 1     1 } |   | f l 亀 4   1 1   1 r f ? ・ i l   ・ l ノ ・   r ノ f   F r     j / / y i ;     l / l l     ● K I   1 1   F ¬ ● ● l j - S I I   皿 J   | x l j       r y       「 1       l   y   l / l l l w 1         1 竜J  drum      −

sollt Zweifel ihr nicht   −W− W he.gen,  − kノ ツヤmtヤヤーヤ¨≒吟ぐづ?ch jziehn..  −

∧≒ノ

 ニ       アクセント転置N犬   ゝ   z 意味上のアクセント      本来は軽強音ないし 意味上のアクセント をもったSenkung 十音長アクセント  実行されないHebungとして本来は軽強音ないし       姑理されることば −n

(12)

↓ 2 稲 田 隆 之  こうした現象は第6節でも起きている。2行目、「muB er」は韻律上「弱強」だが、言語上「強弱」 に転換される。これもまた「muB」を強調したかったからに違いないが、規則的な韻律のリズムから は外れる処理である。それに対して3行目の「sollt」は、意昧上のアクセントをもったSenkungとし て処理されているといえよう。というのも、続く[Zweifel]において明確にHebungが実行されてい るからである。そして「sollt」のシラブルは、本来3拍目に向かうアウフタクトに音長アクセントが 加わったものだ、と理解できるわけである。  4行目でも特徴的なことが起こっている。ひとつは、詩行中間におけるアクセント転置で、これ によって、ローエングリンが去らなければならないことばの重みが加わる。もうひとつは、前置詞 「von」に対する強度の高いアクセントである。前置詞のような中立的なアクセントによるシラブル をもつことばは、本来は軽強音ないし実行されないHebungとして処理されることばであろう。し かしヅァーグナーは、あなたがた「からvon」離れなければならないことの意昧の重大さを表現して いるのである。 2.6第7節  対訳は「さあ、いまこそおききください、禁句の問いにお答えします。/私は、聖杯グラールに よって皆さまのところへ遣わされてきた者、/私の父のパルツィヴァルは、聖杯奉仕の王であり、 /私はその騎士、ローエングリンと申す者です」。 【譜例8:〈グラールの詰り〉第7節】 L L , L L , 脚韻⇒拍の重点 +音高、會長アウセント 岬 ・ M 八   J M v / ヱ 吊 S f 心H1 こら/ 〃 − l k i ● S - 1     -〃 k   l ・   -     W I   - ●   皿 ミ ・     ミ   ミ     ー ● f −   F I ● f     l l−--一一ヱニ界二 i f l ・ 1 1   1       j 「   】 J   1 1 「       i 」   I       l i 1     1 ノ r い ゝ L y       l       r   −     r j F       y r       ・ / T     「

       l l  r     f  j   ltノ  h6rち  wie ich ver

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      −    り−  U  −  り  −  り’ loh。ne!− W vom Gral   − wara iJh 瓦  kノ _  kノ 脚韻⇒副次重点 −意 も 味上のアクセントを ったSenkung x 言謳上⇒c三FニΞニ〕 不白然なアクセント転置 脚7二こ竺!1≒里忌     ゛゛り-゜゛「I°「lg \     咽」順⇒嗣次Ⅲ原 な□t        レ 々     .   . ・   1 L 一尹−← ¥    。・・ J 鮒 1 1 1 1 1 ● r   ミ   ͡ F寿一林阿- ゝ   皿   l       l 四 |   ● - l j   l /   皿 皿 1     1 /   ● y ー   1     1       皿   l -i j r   r   l j   l ly l   y l r   / f x       l       l j   l X L /     「     r 」   | /   r / L / − f l y   y y ノ   I

に  9chみ-hjら

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(13)

 では最後の第7節をみておこう。ここでも同様の現象が2行目に起きている。すなわち「ward ich」における不自然なアクセント転置である。これは前節の「muB er」と同じことが当てはまる。す なわち、「ward」の助動詞を強調したいがために、規則的な韻律のリズムを壊したのである。  さらに重要なのは3行目である。詩行全体でHebungとSenkungの転換が行われており、完全な る4脚詩行となった。父パルジファルの名前を告げるときに、明確な4脚詩行になっていることは 重要であろう。そして最終行で、ローエングリンは力強く白分の名を名乗る。このとき4小節フ レーズが破壊されることは注目に値する。〈グラールの語り〉において4小節のフレーズ構造が壊 れるのは、第1節3∼4行目問と、この第7節の4行目のみなのである。最後、ローエングリンが 名乗り終えて「genannt」と言うと、オーケストラによって〈ローエングリンの動機〉が鳴り響く。こ れは、第5節2行目の処理で生じたリズム型に呼応したものと考えられる。 3.考察  以上、〈グラールの語り〉における韻律と歌唱旋律の関係から両者の矛盾を抽出した結果、その 意昧は次のように考察できる。  そもそもヴァーグナーが〈グラールの語り〉に5脚のヤンブス詩行を用いたのは、『オペラとドラ マ』の記述からも分かるように名前は直接挙げてはいないが、ゲーテやシラーらの伝統に即した ものであろう。すなわちそれは、5脚のヤンブス詩行が叙事詩に用いられる伝統である。言い換え れば、5脚のヤンブス詩行は、特定の詩形が詩的意図をもって用いられる場合を除けば、詩だとし ても、主人公が感情を吐露する内容よりも淡々と事実を語る内容にふさわしいわけである。  しかし、本論で分析したように、その歌唱旋律には多くの矛盾が生じていた。それは、5脚のヤ ンブスというある種の規則的な秩序が、4小節のフレーズ構造のなかで、破綻を生じた結果といえ よう。まず4小節のフレーズ構造は、古典派以来、音楽のフレーズ構造の基本であり、均斉の取れ た美を象徴する音楽表現といっていい。従って《ローエングリン》のドラマの構造において、ロー エングリンというポジティヴな登場人物と関連付けられ、〈グラールの語り〉においても基本的に それが遵守される。いわば、4小節のフレーズ構造は、聖杯の殿堂の純潔さや高貴さの象徴なので ある。だからこそ《ローエングリン》のドラマにおいて、それを否定するオルトルートらの音楽と コントラストが形成されたのであった。  その〈グラールの語り〉のなかで、ローエングリンは4小節のフレーズ構造を破壊した。すなわ ち、第1節3∼4行目問と第7節の4行目においてである。前者では、「Tempel」と「kostbar」とい うポジティヴな意昧をもつことばが、韻律上、矛盾を起こしていた。だとすれば、これはローエン グリンによる聖杯の股堂に対する皮肉の表現と解釈できるのではないか。また後者では、自分の名 を名乗ることによって4小節のフレーズ構造を壊したことから、聖杯の殿堂の破壊者が白分である ことを暗示していると考えられるのである。すなわち、ローエングリンは地上においてもアウトサ イダーだったが、聖杯の殿堂においてもアウトサイダーであることがここから読み取れるわけだ。  その一方で、5脚のヤンブス詩行もひとつの秩序を象徴していよう。ただしそれは、矛盾を孕ん だ秩序とでもいうべきものである。そして、その存在こそローエングリンである。彼は第5∼7節 で、禁問を破ることの厳しさや聖杯の神聖さなどを語ったのち、父パルツィヴァルの名と自分の名 を明かす。その語りのなかで、5脚のヤンブス詩行の韻律が乱れ、4脚になろうと強引に不白然 な力が働いた。とりわけそれを代表しているのが第5節2行目の「Streiter犯r der」の部分であろう。 「Streiter」(戦士)の有無を言わせぬ力によって、Hebungのひとつが実行されず、5脚のヤンブス詩

(14)

       -13-稲 田 隆 之 行の統一性が破壊される。そしてそれが、〈ローエングリンの動機〉のリズム型であることが重要 であろう。つまり、ローエングリンの存在そのものに、ある種の暴力性が込められているのであ る。  それでいて、4小節のフレーズ構遺が基本的に遵守されることもまた重要である。ローエングリ ンは、旧態依然とした聖杯の殿堂のなかで、白らの矛盾と葛藤する。〈グラールの語り〉の音楽で は、一見聖なるものを象徴しているようでいて、実は両者の対立関係を表現していると考えられる のである。  とはいえ、こうした解釈は深読みに過ぎるかもしれない。だがいずれにせよ、ヅァーグナーが5 脚のヤンブス詩行に不自然なものを感じていたことは問違いなく、4拍子の4小節フレーズと5脚 のヤンブス詩行の関係には、すでに矛盾が内包されていた。そして、その矛盾と向き合うことで、 次のオペラでは従来の韻文テクストによるリブレットを排除し、頭韻を用いたリブレットを導入す ることになった。それが《ニーペルングの指環》なのである。〈グラールの語り〉はその意味で、伝 続的な手法によるオペラが行き詰ったことを象徴する音楽であり、ヴァーグナーが楽劇の創作へと 転換していくきっかけになった音楽なのである。 圧 1)本論は、平成19年度仝四国犬学音楽学会(2007年12月1日、香川大学)における研究発表「ヴァーグナーの 《ローエングリン》における5脚のヤンブス詩行の問題・ めぐって 」に基づく。 〈グラールの語り〉における音楽とことばの関係を 2)《ローエングリン》の音楽については、Breig 1986および三宅1993に詳しい。《ローエングリン》における対  立構造は調や楽器法、音色、旋律のフレーズ構造などと結び付けられる。 3)チャンパイ&ホーラント編1989収録の対訳。 4)ドイツ詩の韻律法については、山口1982のほか、一ノ瀬1967およびStorz 1970を参照した。またその分析

 はDe la Motte 2002を参照にしているが、Hebungにおける長母音と軽強音の区別を行っている。

5)「alternierendな韻律」とは、強・弱音節、つまりHebungとSenkungが規則正しく交替するものをいう。当然、  ヤンブス詩行かトロヘーウス詩行のいずれかになる。 6)稲田2007を参照のこと。 7)Dahlhaus 1989 :448 −9を参照。 8)この問題については、日本音楽学会第57回全国大会研究発表、稲田隆之「H.ヴォルフの歌曲集《メーリケ詩 集》におけるリート創作理念再考・ 詩の韻律、Deklamationと朗唱的旋律の関係をめぐって」(2006年10月28  日、九州大学)のなかで発表したが、別途論文を準偏中である。 9)山□1982:41頁を参照。 10)3行目、原文は「〔…〕疑いを抱いていはならないのです」となっているが、本論では修正した。 参考文献

Breig,-1「ner.1986.“Wagners Kompositorisches Werk", 飛2gsr瓦罰ぶ現&,hrsg. von Ulrich Miiller und Peter Wapnewski.  Stuttgard: Alfred Kr6ner Verlag, pp. 353 − 470.

チャンパイ&ホーラント編1989『ワーグナー:ローエングリン』,本文訳:宇野道義・西久保康博・三瓶憲彦・  山地良造,リブレット対訳:高木卓。東京:音楽之友社,1990年(名作オペラ・プックスとして)。

Dahlhaus,Carl.1989.“Deklamationsproblem in Hugo Wolfs 7zaljajsc&削£jg&池z4一'≒£j 殱zMjj,?,・・l秘的,2zzg Q 「2咆y       −14−

(15)

 z凹zg.G&zzrfslαg, hrsg. von Martin Just und Reinhard Wiesend. Tutzing: Hans Schneider: 441 − 52.

De la Motte, Diether.2002.Gdj一lg 5j 「MMs沃。・M心沃 「j5dzg Azzalμg,lv∂,2G 殃c/zza2αMsS卯jα/1・az.Kassel:  Biirenreiter. 一ノ瀬恒夫1967『ドイツ詩学入門』,東京:大学書林。 稲田隆之2007「ドイツ詩における音楽的要素とドイツリートにおける歌唱旋律の関悟 ヴォルフのくエオリア  ン・ハープに寄せて〉を例に」、『香川大学教育学部研究報告第1部』第128号、25−40頁。 三宅幸夫1993「《ローエングリン》における秩序と破綻」、日本ワーグナー協会編『ワーグナー・ヤールブーフ  1992』、東京:東京書糖、52∼75頁。

Storz、Gerhard.1970.£)a・辿タ引12&z・zl召£&?n!タ2&z出ご紬Jj出凹g. Stuttgart:Philipp Reclam Jun. (邦訳:シユトルツ『詩  とリズム:ドイツ近代韻律論』、坂田正治訳。福岡:九州大学出版会、1978年。)

山□四郎1982『ドイツ詩を読む人のために』、東京:郁文堂。

Wagner、Richard.1851.Q、gr z4、 「ZM2、72α、hrsg.und kommentiert von Klaus Kropfinger. Stuttgart:Phmpp Reclam Jun、  1984/1994.(邦訳:ワーグナー『オペラとドラマ』、杉谷恭一・谷本慣介訳。東京:第三文明社、1993年。)

使用楽譜

拓一a 「荒1一εΓ£晶e昭r訥.・ Q77εΓ泌丿陀jA辿!n, WWV 75. Klavierauszug mit Text von Felix Mottl. Frankfurt: C. R Peters,

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