• 検索結果がありません。

アダム・スミスといわゆる"安価な政府"-香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "アダム・スミスといわゆる"安価な政府"-香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

アダム・スミスといわゆる

“安価な政府”

山 崎 怜 「文明国の政府は,野蛮な国におけるよりもはるかに費 用がかかるといえよう。そして一・方の国が他方の国より も費用がかかるとわれわれがいうばあい,それはあたか もー・方の国が他方のそれよりも進歩しているというのと おなじだ。政府に費用がかかり,人民が抑圧されていな いというのは,人民が富裕であるということである。文 明国にあってこは,野蛮な国には用のないおおくの出資が 必要である。軍備・艦隊・要塞および公共の建物や裁判 官・収入官吏が維持されなければならない。もし,それ らを無視すればすぐさま混乱がおこるだろう。」(Adam Smith,Leciures,Cannan’s ed・,1896,p.239) Ⅰ.もんだいの設定と課題の限定。ⅠⅠ.スミス経費論と‘‘安価な政府”。 ⅠⅠⅠ.‘‘安価な政府”とアダム・スミスーむすぴにかえて−−−○ Ⅰ 安価な政府といえぼ,ただちにスミスの名を想起するはど,この両者は同一 異名にちかいのが一・般の通念であろう。「■自由主義財政思想・……によれば,国家 ●●●●● は「必要な災厄」であり,したがっでその活動に要する経費もまた,たとえ有 用ではあってもなんらの富をも生産するものではなく,その意味において不生 産的であり,失費であるといわなければならないとされ,こうしてこの財政思 ●●●●●●● 想ほ,国家活動は国防,司法およびある種の公共土木事巣等の必要最小限皮に

==…=======■

かぎられるべきであり,経費もまたなるべくすくないことが望ましいとして, いわゆる「やすあがりの政府」の理想をかかげた.」し,「■またこの思想によれば

(2)

アダム・スミスといわゆる“安価な政貯, −ムだトー ●●●○●●●●●●●●●●●●●●● …租税はなるべく少楓であることが望ましいばかりでなく,そ・の徴収の方法 についても適当な考慮がほらわれなければならないとされた。こうしてまた, ●●●●●●●●●●●● この思想は,「やすあがりの政府」を前提しつつ租税総額の縮小を要求するばか りでなく,その徴収に∴ついてもいわゆる「課税の原則」なるものをかかげて, 資本主義固有の分配関係をなるべく変更せず,かつ費用や摩擦のなるべくすく ないような方法がとられるぺきであると主張した」が,「七こに・みたような財政 思想を述べた者としては.,イギリスにおいてほ,なによりもまず,スミス(1723 −90)ヤ」だといわれたり,「■スミ.スによれば,国家経費もまた右の諸義務 に対応する国防費,司法費,公共事業費の8つに・,元首の威厳を維持するため

●● の経費をくわえ.た,4つの経費に制限されなければならないことになるが,こ

れが有名な「安価な政敵」の理念である2)」とか,ト…スミスの財政論はまこ とに明快である。それほ自由主義の明快さである。彼によれば,財政ほ国民の ナチュラル●コ−ヌ・オブ・シングス 年々の労働の生産物の増加をさまたげて−はならない。それは「事物の当然たる」 ■7リー●コムペティション 自由競争を妨げてはならない。資本の蓄積を妨げてはならない。即ち国家は必 ネセツサリー・・イヴル 要なものであるが,それ紅しても社会(資本)にとって−必要的害悪である。故 チ・−プ●ガプアメン† 紅われわれほ「安価なる政府」を要求する。租税の公平を要求すると。この要 求ほ.まさに.18世紀末に‥おける資本の立場における政治的宣言であったS)」し, さらに,「スミス財政論を」1署Lている「安価な政府」への志向」,「18世紀中英 のイギリスにとっては,「もっとも安価な政府こそ,最長の政府」‥‖いであっ た」,「’「安価な政府こそ最良の政膵」というスミ.スの考え4)」とまでいわれ,「周 ●●●●●●● 家ほ「やむをえざる災厄」(Necessary evil)とされ,また,スミスにみられる ●●●●● ように,国家の任務を,社会秩序の維持と国家防衛という必要最低限に・限定し ● ようとする要求が時代の思潮を支配するようになった5)一」とされ,「■スミスは国 ●、も ・最 ●そ ●こ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 家活動を極度に縮小した。最も安価なる国家 1)武田隆夫・遠藤湘吉・大内力『改訂・近代財政の理論』(時潮社),1961年9月・52 −・4ぺ一−ジ 。以下,傍点はすぺて引用老のもの。 2)鈴木武雄・武田隆夫編『財政学』(背林書院),1961年1月,107ぺ−ジ。森垣泉氏執乳 3)大内兵衛・武田隆夫『財政学』(弘文堂),1955年7月,34−5ぺ」−ジ0 4)森七郎『古典派財政思想史』(白桃書房),1964年5月,8生−93ぺ・−ジ0 5)遠藤湘吉編『財政学』情林書院),1958年9月,78ぺ・−ジ。遠藤湘吉成執筆○

(3)

香川大学経済学部 研究年報 5 J96∂ ーヱ44− するのがスミスの国家観である8).」し,スミスでは,「そ・の財政的基礎として は,生産力阻害の最も少い租税を基本的収入とする租税国家,そして一同時にそ れは生産力と徴税費の観点から安価な政府二無産国家でなければならない7)。」 こうした規定ほ,すべてスミスの所説にちかい真実性をもたぬわけでほない が,また,おおくの根も葉もない伝説の起源となった。たとえ.ば,スミス自身 は,い}ままで知られでいる資料では,“安価な政府”(Cheap Government)とい うことばも,“必要悪”というタ・−ムも使用したことは一度もないのだが,さも, かれの創始ないしは使用するかのようにおもぁせるだろうし,「租税総額の縮小 を要求する」というのもごく自然な表現にきこえはするが,かれはそうした要 求をそれ自体としてのべたてたことは,これまた一度だってない。 ということほ.,じつは,たんなる用語あらそいなのではなくて,たしかにス ミスにおける〃安価な政府”の存在構造紅かんする重大な再検討をせまっている のであり,そして,そのことは,同時に,つぎのような諸論点の解剖への礎石 となるにちがいない。 第1に,おなじ古典経済学における財政思想にも段階的相違のあること(ス ミスとリカ−ドゥ)やおなじ自由主義財政思想での国別のちがい−むろん段 階的相違ほこれと交錯する∼(ケネーとスミスとリカ−・ドゥとセイ)のみら れることをあらいざらい確認する。 第2に.,いわゆる産業資本の立場とプル汐ユワ・ラディカリズムの立場とを 分離=統一・の両面から内在的に把挺する。‘‘安価な政府”は.,むしろ,すぐれて プル汐ユ、ワ・ラディカリズム(とくに19世紀のそれ)の側から主張されたのであ り,産業資本はそれをみずからの体系にくみこみながら,逆手をとって思惟構 造をひっくりかえしたふしがある。 第3に,産英資本のヌミス段階とりか−ドゥ段階とをかみわけたうえで,基 礎過程自休の構造とイデオロギ・一上のもんだいとの必然的な帝離を規定し再構 成する。恩恵ほ,つねに現実を−・面化し抽象化したうえでのみ,基礎過程をつ きうごかす。段階的にほ,“安価な政府”のスロ・−ガンは,なぜ紅,19世紀前半 6)井手文雄『増訂新版・古典学派の財政論』(創造社),1960年6月,273ぺ・一汐。 7)能勢哲也『近代租税論′印(中央経済祉),1961年1月,65〟6ぺ−ジ。

(4)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −−J45一 に集中的にあらわれたかを追跡する。“安価な政府”は,「■18世紀末における資本 の立像」の要求でほなかったし,ましてや,「18世紀中葉のイギリスにとっては, 「もっとも安価な政府こそ,最良の政府」‥‥…であった」なぞでは,まったく, ありえ.なかった。 第4に.は,時論と体系的思惟とを,やほ.り分離=統一・のふたつの側面から構 成する。〃安価な政府”は,すぐれて二時論であり,また事実,時論家のあみだし たスロ・−ガンであった8)。 小論は,こうした展望をもちながら,さしあたりスミス経済学における‘‘安 価な政府”の存在状況について内在的にあとづけることを目的とする。分析の 結果ほ依然としてもんだいの端緒にすぎぬのでほあるけれども,それでも従来 かならずしも,かえりみられなかった側面にいくらかの光はあてるであろう。 Ⅱ スミス『諸国民の富』での,通常,“安価な政府”のよりどころとされるのは, 第2篇第3章,第4篇第5,7,8の章,とくに第8章(初版,第3版以降は 第9章)のさいごの部分,それに第5儲第3蕃の3箇所であって,すでに引用 した諸説からも知れるように,とりわけ,第2篇第3章と第4篇第8茸のさい ●●● ごの部分である。このふたつの叙述部分が,おしつめていけば他の部分をも代 表するものとかんがえられるので,いまは,それについて−のぺよう。 ●●● まず,第2篇第3章であるが,それは政府経費の浪費的性格,ないしは政府 ●●●● 従業者の不生産的性質を論定したものであって,およそ,つぎのごとき筆致で あった−「社会におけるもっとも尊敬すべき諸階層のうちの,若干のものの 労働は,家庭の召使の労働のようになんの価値も生産しないし,また,労働が すんだのちまで持続して,のち紅等量の労務をひきかえに入手しうるような, どんな永続的な対象つまり販売しうる商品にも,固定ないし実現するのではな ●●●●●●●●●●●●●● い。たとえば,主権者はかれのもとにつかえるすべての司法官僚および軍将校 8)N.E.DK,よれば,“Cheapgovernment’’の用語をはじめて使用したのは,ト マス・アトウッドであった。参照,大内兵衛・武田隆夫,前掲執 76ぺ−ジ。筆者ほ, いずれとおくないうちに.,歴史的パ−スぺクティグのもとでこの点をあきらか乾した い。

(5)

香川大学経済学部 研究年報 5 J96β −J46−

====…=●00●●●

とともに,そして」唾海軍の全体も1不生産的労働者である。かれらは公共の召 使であって,他の人々の勤労の,年々の生産物の1部で維持されてこいるのであ

==…==…===○●●●

る。かれらの労務は,どれはど名誉であり,どれはど有用であり,あるいほど ●●●●●●●●●●●● れはど必要であるにしても,あとで等量の労務をひきかえに入手しうるような, コモンウェルス なにものをも生産しない。共同社会の保護,安全,防衛,すなわちかれらの今 年の労働の成果は,来年におけるそれの保護,安全,防衛を,購入しないであ ●●●● ろう9)。」(これは不生産的性質の指示)し,「ぉぉきな諸国民が,私的な浪費やま ●●●●●●

● ずい行動によって貧乏になることは.,けっして−ないが,ただ,公共のそれによ

=…○=

===○●●●●●●●●●●●●●

って貧乏になることは,ときどきある。公収入の,全体あるいははとんど全体

…=●○==…=○●●●●

が,たいていの国で不生産的な人手の維持に使用される。そういう人々が,人 数がおおく壮麗な宮廷,おおきな教会関係の機関,大艦隊や大陸軍を構成する のであって1大艦隊や大陸軍は,平時にほなにも生産しないし,戦時にほ戦争 がつづいているあいだだけの自分たちの維持費をつぐないうるものさえ,なに も獲得しないのである。・そういう人々は,かれら自身でほなにも生産しないの ●●●● で,すべて,他の人々の労働の生産物によって維持される10)一」(これは浪費的な 性格の指示)−から,なるはど,スミスはかかる理由で,司法も軍備も艦隊

●●●● も宮廷も教会もすべて不要である,つまりは財政規模の可能なかぎりの縮小を

●● 意味するものとしてこの砧安価な政府”を主張して:いるかにみえるし,軍備撤廃を

●● 力説する絶対平和主義(無防備・無抵抗)者スミスよ,と人ほ熱っぽくよぴか

けたくなるのもむりからぬのではあるが,それはかれの意図をおもいちがえた (あるいは,かれの陥穿におらいった)ひいきのひきたおしである。つづいて の叙述がこれを示唆する。「けれども,この倹約とりっばな行動とは,経験から しられるところでは,たいていのばあいに,個々人の私的な乱費とまずい行動だ = ● ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● けでなく,政府の公的なつかいすぎをも,つぐなうのに十分なのである。各人 がその生活状態をよくしようとする,かわることなく,恒常的で,さまたげ られることのない努力,すなわち,公共的国民的な富裕と私的富裕とがともに

9)Adam Smith,肋alth ofNations,Cannan’s ed小.VOl.Ⅰ,p.314.水田洋訳『国

富論』・く上>,世界の大思想14,1965年6月,以下では邦訳と略称,281欄82ぺ・一汐。 10)J∂∠d.,p‖324‖邦訳く上>,291ぺ−ジ。

(6)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −・J47− ●●●●●●●●●●●●● そ・こから本源的にひきだされるところの原理ほ,政府のつかいすぎや行政上の ●●●●●●●●●●●●●●●● 最大の誤謬との双方にかかわりなく,改良にむかう事物の自然の進展を,維持

● するにたりるはど強力であることが,しばしばである。動物の生命における未

●●●● ●●●●●●●●●●●●●●● 知の原理のように,それほ,病気だけでなく医師のとんでもない処方にもかか ●●● わらず,身体に健康と活気をとりもどすことがしばしばある11)。」政府の公的な 浪費はイ努力」や「嘩理」によって補填されるのだから,浪費をいたずらにお ・それるよりも,やすんじて−「努力」や「原理」や「’事物の自然の進展」の「’強 力」を信じま−た讃美せよ,「医師のとんでもない処方」を心配するより咋,「健康 ●●●●●●●● と活気をとりもどす」生命のみえ.ざる手をたたえよ,とするのがスミスのひめ やかなどんでんが.え.しであり,したがって浪費を浪費としてあくまで責めたてこ る(プル汐ユ.ワ・ラディカリズム)ことを忌避し,かつ,しうる所以ほ「浪艶」 の対象となる生産物をうみだす生産的労働の「■強力」をかれが考慮しえたから であった。やや結論をさきどりしていえば,むしろ「名誉.」であり「竃用.」で あり「必要」でもあるのが,政府経費であって\そ・れほ生産的労働の生産物を くいつぶし,みずからその生産物を作出しないという点で「浪費」的である が,かんじんなことは「浪艶」をそれ自体としてとりあげるべきなのではなく て,「浪費_jをささえる(政府経費を維持する)「原理.」をこそ信ずること,い いかえると,「■浪賢」というまぶしいタームで小生産者急進主義を味方にひきつ ●●●● けながら,じつは「努力」または「原憩」すなわち生産資本の確保と充実こそ・

● が政府経費を維持しうるし,しなければならぬことにあり,「■浪監」の非難にみ

●● えて,そのじつ,高度な意味では「浪費」のすすめこそがかれの真意にちかい ●●●● とすれば,のちにもんだいとするように,スミスにおける“安価”ほ絶対的なか

●● たちでの縮小をを意味しないのではないか。

つぎに,もうひとつの,‘‘安価な政府”の解釈をゆるしたとみられる第4篇第 8葦の終末の部分にうつる。ここは,第5貸国家収入への移行をのぺた有名な 箇所だが,周知のように「明白で単純な自然的自由の体系が,おのずから樹立 される」ところでは,「主権者ほ,つぎのようなひとつの義務から,完全に解除 されるのであって,その義務とほ,それを遂行しようとくわだてれば,かれは 11)J∂J♂.,p、325邦訳<上>,292ぺ一汐。

(7)

ーJ4β− 香川大学経済学部 研究年報 5 J965 無数の欺瞞につねにさらされるにちがいないし,それの適切な遂行のため紅 は,人間のどんな知恵または知識も,けっして十分でほありえないものであっ て,すなわち,私人たちの勤労を監督する義潜,およびそれをそ・の社会の利益 紅もっとも適した業務にふりむける義務である」といい,つづけて「自然的自

●● 由の体系にもとづけば,主権者はみっつの義務だけに注零すべきである12)」と

した。こ.の「だけ」に最大の垂心をおいて,人ほおそらく「必要最小限度」と か「■制限」とか「■必要最低限」に「限定」するといい,ただちに・こ.れを「経費

もまたなるべくすくない.」とか,「■租税総額の縮小を要求する」とか,これこそ

が有名な〟安価な政府”の「理念_トであるとする規定にひたすらながしこんだよ

● うにおもわれる。だが,こ.れほ.,費目の数を制限したものであり,また「国家

● 宿敵」の数を「極度に縮小した」ものでは.あるが,「経費」の「■総額」という,

● いわば盈をすくなくせよ,とは.ひとこともかたってはいないはずだ。「私人たち

の勤労を監督する義務,およびそれをその社会の利益にもっとも適した業務に ●● ふりわける義洛」を排除はした(そういう貿の「制限」をはどこして数を「限 定_jほした)が,「■だけ.」になったみっつの義務を物質的に保証する経費ないし

● は財政規模の「総額」またほ鼠の大小についてほ.,スミスは.ここでな紅も指摘

●● して−はいず,したがって「だけ」というのは,すなおによめば,質あるいほ数

● のもんだいであって−,量のそれではないはずである。13)

こうした疑問ないしもんだい点にほいりこめば,当然ながら,われわれほ第 5芳書第1章での経費論の性格をかえりみなけれほならない。ところで,ここで

● もいくらか結論をさきまわりしていえ.ば,スミ.スは.「限定」された費目の畳に

おける大小をスコットランド歴史学派の中心人物たるにふさわしく,「■社会のさ まざまの状態により,進歩のさまざまな時期により14)」,「統治のさまざまな形 12)J∂摘.,VOl.ⅠⅠ,p184邦訳く下>,世界の大恩想15,1965年7月,148

ぺ一汐。

13)スミスに「強い国庫原理の主張」のみられることを鋭利にみぬかれた故花戸儲蔵

博士もまた,かれがわずかにみっつの義務に「限定して,国家経費減縮の必要を」主

張したとされる。費目の数の「減縮」と経費規腰の鼠の「減縮」とが,あいまいに溶融

しあう。参照,花戸龍蔵『財政原理学説』(千倉書房),1951年2月,69ぺ」⊥汐。 14)A.S皿itb,纏い 招.,ppい18ち202,214and299.邦訳く下>,149,164,176および 232の各ぺ・−ジ。

(8)

アダム・スミスといわゆる“安価な政府’’ 一一J49−−

●● 態におうじて15)_ト険討をすすめ,野蛮な段階または国々では盈における小を,

● 「富裕で文明化した国民」での大を論定したはずなのである。

= ●○● まザ,みっつのうちの第1のもの,防衛費。スミスが絶対の平和の戦士であ ●●●● り,旧帝国主義の侵略戦争にたいする不屈の絶対的な批判者であるならば,そ して,しばしば防衛の美名のもとにくりかえされるのが侵略戦争であることを ●●●● ●●●● 悪眼にも知るならば,防衛費の絶対的な削減を,軍備の絶対的な廃棄を主張し てふつうであろうし,そのいわゆる国内市場をとら.え.た平和の経済学によっ て,他国の「暴力と侵略から」みずからをまもるには,祖国を人民がまもる紅 イ敵するとかんがえるような,かれらのゆたかな生活を保証することこそが真の

●● 防衛だとしてもいいであろうし,またもし,軍備こそが浪費のなかの浪費であ

●●●●●●● り不生産的なものであるのならば,「■・平和と豊富」の友人たるスミスがこれを廃 絶することこそに生涯をかけたの牢としていいのかも知れない。だが,かれほ このようには,ひとことものべなかったほかりか,主権者の義務たる「その社 ●●● 会を他の独立の諸社会による暴力と侵略から保護するという義務は,軍事力と

○●●○ いう手段によってのみー遂行されうる16)」といい,しかもなお,この軍事力を

●●● 維持する費用は歴史の進歩とともにそれ自体としてほ高価になる。人民みずか らが自衛する未開な段階から民兵へ,民兵から常備軍へ,さらに軍事力の機械 化・火器の発達へ,とすすむにつれて,すなわち「製造其の発展と,戦争技術 の改良17).」の2原因がつよくはたらくにつれて,いいかえれば「主権の第1の

●●●00●○=

●○●○●● 義務ほ.,しだいに,社会が文明において:進歩するにつれて,費用のかかる(mo工e

and more expensive)ものとなってくる。もとほ平時においても戦時におい ても,主権者にとってなんの費用もかからなかった,社会の軍事力は,改良の 進行につれて,はじめは戦時において−かれによってこ維持され,のちにほ平時に おいてさえそうされるに.ちがいな」く,「火器の発明によって戦争の技術のなか ●● にもちこまれた,おおきな変化は,平時において一億数の兵士に訓練と規律を ●●●●●

●●●●●● あたえる費用と,戦争においてかれらを使用する費用とを,ともにいっそうた

15)J∂柑.,p299.邦訳< ̄F■>,232ぺ一汐。 16)J∂∠d.,pい186邦訳く下二>,149ぺ−・ジ。 17)J∂∠dい,p.189け 邦訳<下>,152ぺ−ジ。

(9)

香川大学経済学部 研究年報 5 ーJ50け− J9β5 ●●● ●●●●●● かめた。−かれらの武器もかれらの弾薬もともに,まえより費用がかかる(mofe expensive)ようになった。小銃は,投槍や弓矢よりも費用のかかる機械であ ヾリスク カ タ レ タ るし,大砲あるいは臼砲ほ投石機や発射概よりもそうである。近代の閲兵紅消 費される火薬は,うしなわれてとりかえ.しがつかず,きわめておおきな眉用を 必要とする。古代の・それにおいて投げちれ,あるし1は射られた,投槍や矢ほ., 容易にふたたびかろいあげるこ.とができたし,そのうえ,きわめてわずかな価 ●●●● 値しかなかった。大砲および臼砲は,投石機あるいは発射機よりも,はるかに ●●●○● 高価であるだけでなく,はるかにおもい機械であり,そ・して,それらを戦場の ためにととのえるだけでなく戦場へほこぶためにも,【二投石敵および発射概より も:)おおくの費用を必要とする。近代砲兵が古代の・それにたいしてもつ優越性 もまた,たいへんおおきいので,そのため,ひとつの都会を,その優越した砲 兵の攻撃にたいして数週間でも抵抗するように防備することほ,古代よりもほ ●●●●●● るかに困難に,したがってはるかに‥おおくの費用がかかる(muchm9reeXpe■ nsive)ものに,なったのである。近代においてほ,社会の防衛の費用を増大

==00●

させるのに,おおくのらがった原因がほたらいている。進歩の自然的発展(na− turalprogress ofimprovement)の,不可避的な諸けっかほ,この点で,戦 争の技術払おける1大革命紅よって,おおいにつよめられたのであるが,その 革命ほ,たんなる偶然的な事件,すなわち火薬の発明によって,うみだされた もののようである18)」,と。 まったくはっとする文章の連続である。「」、銃」やイ■大砲」やを機関砲やミサ イルやに.,「■閲兵.」を巨大なパレードや合同演習に,「火蓋」をロケットや核エネ ルギー・に,「砲兵.」をミサイル部隊におきかえてみよ。にわか紅生々しい様相を 呈してくるし,かれの論理のおどろくべき頂点はこうだ−「火器の発明〔ミサ イルや原子爆弾〕ほ,一・見したところたいへん有害におもわれる発明であるが, それはあきらかに,文明の永続と拡大との双方にとって1有利なのである19)。」 18)∫∂∠♂.,pp..201−2.邦訳<下>,163叫64ぺ−ジ。 19)′∂よd・,p.202.邦訳く下>,164ぺL−・汐。ここでキャナツほヒュ−ムの『イギリス史』 から引用する。大砲は「狂暴な兵器であって,人類の滅亡と帝国の転覆とを▼めざして考 案されたものだが,結局は戦争の流血をすくなくし,市民社会により大きい安定を・あた えた。」両名の思惟方法がうりふたつだというのでほないが,スコヅトランド歴史学派 に共通のリアリズムを示すものとして興味ふかい。

(10)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −J5J− ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

=●○==…=○==○●●●○●

の技術ほ,たしか紅すべての技術のなかでもっとも高貴なものであるから,そ イン70ループメソ†=●○●● こで,文明〔改良〕の進歩につれでそれは必然的に,それらのなかでもっとも ●○●○=…

○●●● 複雑なもののひとつとなる。機械技術の状態は,それ【戦争の技術〕が必然的

=●○●●●00●●○●○=…○●

にかんれんをもつ他の若干の技術の状態とおなじく,それがある特定のときに ●●●●●● おいて到達させられうる,完全さの程度を決定する20)。」機械技術ほ戦争技術の なかでこそ・,みずからの水準のたかさをもつ。そして,「労働をそれはど容易に 省略するこれらの機械のすべてこの発明が,もとほ分業償よる21).」ように,「・それ をこの程度の完全さに㌧到達させるにほ,それが市民の特定の階級の,唯一−・また

……=●○●

は主要な生業となることが必要であり,そして,分業は,他の技術についてと

=…=○●●○=…○●●

もおなじく,この技術の改良についても,必要である22).」,つまり,常備軍とい う分兼労働が必要であるのだが,これはふつうの分菜のごとき個々人のいわゆ ●○ る慎慮(pI・udence)紅よって「−自然に導入される」のとちがって,もっぱら ●●●○●

●● 「国家の知恵(wisdomof the state)のみ.」によるのであって23),「常備軍と

●●●● いう手段によってのみ,どんな国の文明でも,永続させられうるのだし,ある

●● いは,ある相当の期間紅わたって保持されることさえ,それ紅よって.,のみ可能」

●○● であり,「■よく規制された常備軍という手段によってのみ,文明国が防衛されう

○ ● ○ ● ● 0 0 ● ● 0 0 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● るのとおなじく,その手段によってのみ,野賓国がとつぜん紅かなり文明化さ

●●●●●●● れうるのである24)。」 これを要するに,かれは軍事好の巨額さをそれ自体として称揚することほ避 ●●●● け,まず,それを歴史的に.論じて一文明化と軍事費増大との緊密なかんけい,す

●●●● なわち,ひとつには巨大な軍事費をささえうるのほ文明社会であるからこそで

あり(「近代の戦争においてほ,火器紅ついてのおおきな費用が,その費用をも っともよく支はらいうる国民を,明確に有利にする.」),ふたつにほ,文明社会 ●● を防衛するのが巨大な軍事費によってのみであるという,かんけいをあきらか ●●● ●●●● にして,論理的には巨額な軍事費のあるとこ.ろ,必然的にその背後に富裕な文 20)∫∂∠d・,p.191い 邦訳<下>,154ぺ・−ジ。 21)∫∂∼♂.,VOl−Ⅰ,p.11.邦訳く上>,16ぺ一汐。 22),23)J∂∠♂l,VOlⅠⅠ,pp小191−92.・邦訳く下>,15卜55ぺ・−ジ。 24)′∂∠d・・,p..200邦訳<下>,162ぺ・−汐。

(11)

香川大学経済学部 研究年報 5 J965 −」且㌢− 明社会をみるのであり,また,ゆたかな文明社会のあるところ,膨大な軍事費 ●●●● と常備軍とを必然的な契機として想定するのであった。 ●●● 第2のもの,司法費。これもまた軍事費とおなじように「社会のさまざまの

●● 時期においで」ことなるが,粗野未開の状態では皆無紅らかく,文明化する(財

●●● 産の蓄横がすすむ)につれてふえるのだ。財産のないところでは,「裁判につい マジストレー† ての,なにかきまった為政者も,なにか正規の運営も,めったに存在しない25).」 が,財産ができ貧富がうまれると,「金持においては貪欲と野心,貧乏人におい てほ労働への嫌悪と眼前の安楽および草受への愛好とが,財産を侵略するよう に.そそのかす情念であって,それらの情念はその作用においで…・・強固であり ‥…普遍的である。おおきな財産があるばあいには.,つねにおおきな不平等が

…==○…==○●●●●●

ある。・ト・・・だから,高価あるいほ広大な財産の獲得ほ,必然的に,市民政府の ●○●●●●● 樹立を要求する。28)」もとより,かつてほ司法ほ「費用の原因となるどころのも のではなく,ながいあいだ,かれ〔主権者〕にとっては収入源であった27)。」が, 司法的権威を公的ならしめ,文字どおりの正義を厳密に実施するためには,1 部ほ手数料としてのこると 労働,あるいはおそらく継続したおおくの世代の労働によって,獲得される高 価な財産の所有者が,1夜でも安全を保障されてねむることができるのほ」 −そして,そうできなければ文明社会は1日たりとも成立しえ.ないはずだが

●● 岬「市民的為政者の庇護のもとにおいてのみ」であり,ーたえ.ずふりあげられ

●● ている,市民的為政者の強力な腕によってのみである立8)」から,たとえ,司法

幾が「どの文明国においても,統治の費用全体のうちのきわめてとる紅たりな い部分をなすにすぎない29)」し,できるだけ手数料収入に.依存しうるようにつと

●●●●● めたとしても,なおかつ,その費用ほ歴史的には巨大な増加率をもつことは当

然であろう。 ●●●●●●●●●● さらに,第3にば.,公共事業および公共施設。これほ,こまかく分析すれ >>>>> 下下下下下 くく<くく 訳訳訳訳訳 邦邦邦邦邦 2 3 73 0 0 0 0 1 2 2 2 2 2 p p F p p 宜∴払﹂払 ︶仇J .一■ .I− .−− ■一 .−− ∂,八U・ク,β▼ t〃 ′一r一r▲−/一′一 ︶ ヽノ ︶ ︶ ︶ 5 22 164〟−65ぺ−・ジ。 165ぺ」−・ジ。 169ぺ・−ジ。 165ぺ−汐。 172ぺ一汐。

(12)

アダム・スミスといわゆる“安価な政府ソ’ −−ヱさβ−… ぼ,やや複雑ではあるが,事態ほ.,前2者と比較して,別段かわらない。まず, ●● 商業から。「どんな国でも,その商業に便宜をあたえ.る公共事業,すなわちいい ○●●●●● 道路,橋,可航運河,港などのようなものの,設立と維持には,社会の時期の =●○●●● ちがいにおうじてひじょうにちがった程度の費用が必要であるにちがいないこ とは,なにも証拠がなぐてもあきらかで」r■どんな国でも,公道をつくり維持 する費用は,あきらかに,その国の土地と労働の年々の生産物とともに,増加 する.に.ちがいない。いいかえれば,それらの道路上を往来して輸送することが 必要になる財貨の,墓と蛋さとともにある。橋のつよさは,そのうえを通過し そうな車両の数と重さとに,適合させ一」「可航運河の深さと給水ほ.,そのうえ で財貨をはこ.ぶことになりそうなはしけの,隻数とトン数とに,比例させられ なければならない。港のひろさは,そこに碇泊しそうな船舶の数にたいして, そうである$0)。」とすれば,生産物の横溢サーる,ゆたかな生産力を実現しうる文 ●● ●●●●●●● 明社会こ.・そ・がこの「商業に便宜をあたえる」事業と施設のための多大の費用を必 ●●●

●○●● 要とするのほ,いうまでもないし,教育費についても,「層少年の教育のため

●●●○●●●●●●● ●●●● の」費用は,「文明化した商業的な社会では,一般民衆の教育は,おそらく,い くらかの身分と財産のある人々の教育よりも,公共の配慮を必要とする叫。」−

●● 分業の発展による「精神の麻楓」と「個体」の「腐敗」82)をもつ民衆ほ,かえ

って「教育のためにさく時間3a).」もないうえ,食うだけがやっとである,かれ らの無学な親たちほ子供に私的教育をはどこす能力や余裕なぞほありえないか ●●●○●●●●●●●● ら−が,「狩猟者の社会,牧畜者の社会,および製造業の改良と外国貿易の拡 ●●●●●●●● 大とに先行する,農耕の未開な状態においては……各人の多様なしごとのた めに,各人は,かれの能力を発揮せざるをえなくなり,たえず発生する困

難を除去する手段を,発明せざるをえなくなる。発明力はいきいきとし

たままに保持され,人間の精神ほ.,文明社会ではとんどすべての下層階 級の人々の理解力を麻痺させるようにみえる,あのねむったような愚昧に おちいるという日に・あわされていない。.」したがって教育ないしは教育費は 30)∫∂≠d。,p.215・邦訳く下>,176−77ぺ・−汐。 31)J∂∠♂.,pい269“邦訳<下>・,202ぺ−ジ。 32)Ibid・,Ppい267and272−M73邦訳<下>,201,205L・6各ぺ・−Li7。 33)J∂∠d.,p269邦訳く下>,203ぺ一汐。

(13)

香川大学経済学部 研究年報 5 J965 ーヱ∂4一−− 不要であろうが,他方,「各個人の業務に.はかなりの多様性がある紅して:も,社 会全体の業務に.ほ多様性ほおおくない。各人は,他のどんな人がすること,な しうることを,はとんどすべて,じっさいにするか,する能力をもつ.」こ.れら ●●● の社会では,「各人は,かなりの程度の知識と巧妙さと発明力をもつが,だれも

●●○●●00●●○…=00●

これをおおきな程度でほ,めったに.もたない.」,つまりほ社会ほ文明化しえない のだから,「反対に,大部分の個人の業務紅ほはとんど多様性がない〔したがっ て∴精神が麻痺する一〕けれども,社会全体のそれにほはとんど無限の多様性があ る呵」「文明化した国家.」を導入したうえ.で,これを是正するはかはない。属 ○●● 衆教育費ほ新設され,かつまた,ふえ.るとするのがスミスの基調であ った。さ ●○●●○●●● らに,「あらゆる年齢の人々を指導するための」費用もまた,「あらゆる文明社会 において−,身分のちがいがひとたび完全に樹立されたあらゆる社会において, つねに,ふたつのちがった遺徳主義叫‥‥ひとつは厳格なまたほ厳粛な体系とよ んでいいし,他方は,自由な,あるいほもしそうよびたければ放任的な,体系」 ●●●○ で,「前者は,一般民衆紅よって称讃され尊敬され……・後者ほたいてい,とりわ けいわゆる上流の人々によって尊重され採用される8∂).」が,後者ではなく前 ●000 ●○● 者を尊敬する一般民衆ほ.「大都市〔文明化のひとつの象徴〕紅くるとたちまち, かれはあいまいさとくらさのなかに.しずむ。かれの行動は,だれに.よっても観 察されず注目もされないし,したがってかれは自分でもそれを閑却して,あらゆ る種類の低級な道楽と悪徳に自己をゆだねること紅,たいへんなりやすいbか

…=●○●●●○=…=○●●●

れがひとつのちいさな宗教的宗派の成員紅なるという手段紅まさって,効果的 紅かれをこのあいまいさのなかから脱却させるもの,かれの行動がなにかの尊

●○ 敬すべき社会の注目をおおくひくようにするものは,けっしてない。・川…こ.う

して,ちいさな宗教的諸宗派では,−・般民衆の道徳がはとんどつねに.,いちじ るしく規則と秩序をもっていた」ので,スミスに.よれば,それがか.え.って,小 宗派の道徳を「むしろ不愉快なはど苛酷で非社交的」たらしめたから,これを

○● 効果的に匡正しなけれほならず,「国家ほ,暴力なしに」これを第1には中流あ

るいは中流以上の身分のもの紅「科学および哲学の研究.」をひろめ,その手段と して,自由職兼や名誉ある職務をめざサーものに高等な科学にかんする国家試験 34)′∂∠dィ′,pp・268−−69′′邦訳く下考,202ぺ一汐。 35)∫∂i♂∩,p2矧.邦訳く■F>,212ぺ・−ジ。

(14)

アダム・スミスといわゆる“安価な政府,’ −J55− パブリック 制度を設置することで匡正し,第2・に」はたびかさなる「快活な公共娯楽」すなわ ち「■絵画や詩や音楽や舞踊によって,あらゆる種類の劇の演出および公演紅よ って,人民をたのしませ気ばらしをさせ……はとんどつねに.民衆の迷信と熱狂 の温床であるあのゆううつで陰気な気持を,かれらの大部分に.おいて容易に.追 いはらったであろう。公共の気ばらしほ,それらの民衆的狂乱の狂信的煽動老 のすべて紅とって,つねに.恐怖と憎悪の対象であった。それらの気ばらしがふ きこむ快活さと上機嫌ほ,かれらの目的紅もっとも適した,あるいほかれらが もっともよくはたらきかける,あの精神の調子〔暴動と内乱をくわだてるさも しい嫉妬心〕と,まったく両立しえないもが6)一」をあたえるととであり,こと ばをかえ.ていえば,ひとつには国家が「中流あるいは中流以上の身分と財産を もつ,すべての人々」紅教師自体を提供しないで科学することの必要のみを課 したならば,「かれらはまもなく,国家がかれらに提供しえたどんなものより も,すぐれた教師を自分でみつけ」るだろうし,「熱狂と迷信の毒にたいするお おきな解毒剤」たる「科学」を身につけた「上流身分の人々がすべて,その毒 ●●●●●●● ●●●●●● からまぬがれて−いたところでは,下級身分がそれ〔熱狂と迷信〕におおいにさ ●●●●●●●●●●●

●● らされることは,ありえなS7)」いし,ふたつには国家が娯楽をあたえで民衆の

とげとげしいこころを発散させ,かれらが煽動着たちの手紅のらないようにす ることなのであり,それ故紅,「政治が,けっして宗教のたすけをもとめな.」い, 「勝利する党派があるひとつの宗派の信条を,他の宗派の信条よりもまさって ●●●●●●●● 採用すること」のない想像上の文明社会では,「各人がみずから適当だとかんが え.たとおりに.自分の僧侶と自分の宗教をえ.らぶのを,ゆる」すから,「こ.のばあ ●●●● いには.,うたがいもなく,ひじょうに.おおくの宗教的宗派が存在し.」,「はとん コングリケしション 00● どすべてのちがった宗教集会が,おそらくそれ自体でひとつの小宗派をなし.」 て,おたがい紅よく尊敬しあい,「背理,欺瞞,あるいは狂信のどんな混合物も ●●●○●● はいらない,純粋で理性的な宗教38)」が支配す−るのではあるが,現実の文明社 ○ 会でほ,こういうばあい,「’民衆の迷信と熱狂.」がすくなからず作用し,とき紅

●●●● 「公共の平穏を撹乱」しさえするので,科学と娯楽をあたえよ,というもので,

36)ム鋸d.,pp280∬81、邦訳<下>,213−15ぺ−汐。 37)′∂≠d.,p..281.邦訳<下>,214ぺ・−・汐。 38)∫∂どd・,ppい277−78小 邦訳<下>,210−11ぺ−ジ。

(15)

香川大学経済学部 研究年報 5 J965 −J56− これは,そ。くりそのまま,苓きの「多様性」と「分業」に・よる「愚昧化」の,

民衆教育に.よる是正−・こんどは「分共」という「多様性」ではなく,「小宗泥」

という「多様性」による「愚昧化」の匡正一と軌を−・にしていよう○ ●●● ●●● われわれは,こ.こでふたつの注意を喚起したい。ひ・とつは,司法彗と公共事 巣および公共施設の費用に.まつわるもんだいであって,周知のよう紅,これら ほ「社会全体の−・般的毘納によってまかなわれる」部分と直接紅利益をうける 受益者の負担する手数料ないしは個別貢納による部分とにわかれ,しかも,ス ○===○= …= ●○ ミスの強調が個別嘉納に.よるのを原則とし,−・般嘉納を例外視しているかのよ うに.うけとれ,したがって,これらの費用があたかも政府費用であるべきでな

●● いかのごとき印象をあたえ,つづいてほ,こ・うした費用が公共負担によらない

●○● ○●○●● ものであるから,公共経費ほ.第1の防衛費とあとで追加する第4の主権者の威 ●●○…●○●●

厳をたもつための費用の両者だけに(第2,第8鱒いわばゼロに・なる)しばら

●● れるか,もしくはすくミなくとも,第2,第3の両費用の可能なかぎりの軽微を,

●●●● ●● だから,・そうした点での公共経費全体の絶対的な“安価”を主張しているかのご とき解釈をともすれば誘引しがちであるのだが,それはまったくの誤解であ ●●● る。なぜなら,まず第1に.,主権者の義務のみっつはすぺてスミスのいうー・般 的利益の実現をはかるものであって\個々の人民に・たいして個別分割的に・帰属 させえない−そうでなければこれらを主権者の義務としてわざわざ提起する ことはいらぬ−ものである。受益者負担の原則を長広舌でならべたてるのほ, この根本的立場をきめでおいて(そうした安心感のうえ.にたって),その内部に いくらかでもつらぬきうる功利主義的合理性をうたいあげようとする面と,そ の実現性をときには不問にふして−も,みずからの全般的利益説39)をすこしでも

●● 個別利益説的に粉飾しつつ,流行の「統治の第1原理」的議論,すなわち自然

● 権論的国家把握と租税抵抗権的主張の逆手をとって,自他ともにあざむきつ

っ,ひそかに公収入の必然性をはめこんで,プルジュワ・ラディカルを煙にま こうとする面とが,かさなりあったのであり,おもてむきの「原則」と「例外」 ●●●●● とは実質的にはむしろ逆である。もし万一・にも個別分割的に利益をかんぜんに 39)全般的租税利益説と個別的租税利益説についてほ,らかく創刊される日本財政学会 の機関誌所載の小論をみよ。

(16)

アダム・スミスといわゆる‘一安価な政貯’’ −ヱ57一 利用者紅分解しうるのであれば,「■それらほ,ひとつのおおきな社会に.とっては 最高度に有益でありえても,それに.もかかわらず,そ・の佐賀上,どんな個人に たいしても,個人の小集団紅たいしても,その費用をけっしてつぐなうことが できなかったのであり,そしてそれゆえ軋,どんな個人あるいは個人の小集団 がそれらを設立し維持するととも,期待できない40)」のではなくて,受益者た ちにその費用を必要なだけ正確紅負担させればそれでよいではないか。また夢 2に,かりに1歩をゆずって■,公共収入が第2,第3の義務に.ついてほ減少し たとしよう。だが,それほその負担配分方法が公共収入に依拠しないだけであっ て−,実額としての,事実上の司法費や公共施設費やの減少をまったく意味しな ●●● い。それらほ,社会の文明化とともにふえるばかりで削減されることはない。 ●●● ●●●●●●● ふたつには,スミスが国家の機能を論ずる紅あたって社会秩序の維持紅極度 に敏感であるという点で,それほこうである。まず騒動をおこしそうな民衆に むかって常備軍の効用をといて:いう−「常備軍はけっして,自由に.たいして 危険なものではありえない。反対に,・それは,若干のばあいには自由にとって 有利であるだろう。それが主権者に.あたえる安全保障ほ,あのやっかいな暫戒 心〔公安調査,弾圧〕を不必要紅するのであって,その轡戒心は.,若干の近代 共和国に.おいては,もっともこまかい行動にわたって注視し,いつでも各市民 の平和をみだそうとまちかまえている・…‥為政者の安全保障が,その国の主要 な人民に.よって支持されていて−も,〔常備軍がなく〕民衆のあらゆる不満に.よっ て危険になるところでほ…い政府の権威のすべては,それに.反対するあらゆる つぶやきと不平を抑圧し処罰するのに.,使用され」るが,「反対濫,自分が…… よく規制された常備軍紅よっても,支持されていると感じる主権者叱とっては, もっとも粗野で,もっとも無根拠で,もっともかってな抗議も,はとんど動揺 をあたえることはできない。かれはそれらを,ゆるしたり放置したりしても安 全でありうるし,かれ自身の優越性についての自覚は,自然に,そうしようと いう気持をかれにもたせる。放慈濫ちかい程度の自由が,ゆるされうるのほ, ● 主権者がよく規制された常備軍紅よって安全を保障されている国々においてだ

●●● けで…い・そういう国々紅おいてのみ,公共の安全は,この放慈な自由の,見当

40)乃∼d.,p.214.邦訳く下>,176ぺ−ジ。

(17)

∫965 香川大学経済学部 研究年報 5 →∵たほトー ちがいの奔放にさいしてさえ,・それを抑圧するためのどんな裁塩梅をも,主権 者に.信託すべきことを必要としないのである41)。」常備軍ほ民衆が自由に・騒動を おこせるように.,また弾圧を排除して,でたらめな抗議をも放置されるよう に.,つくられるものだとしながら,じつはそれが文明社会に.おける革命への終 局の防波堤であるこ.とをいんぺいする。つぎに教育に・政府がとりわけ配慮しな ければならぬ意義について言及する−「下層階級の人民」が「熱狂と迷信の 欺瞞に.とらわれることが,すくないの」は教育によるのであって−,「■・そ・の欺瞞 は,無知な諸国属のあいだでは,しばしばもっともおそるべき秩序破壊をひき おこす。州…ものわかりのいい人民はまた,つね紅,無知で愚昧な人民よりも, つつしみぶかく,秩序がある。かれらほ.〔後者にくらぺて〕自分たちをそれぞ れ個人としてもっと尊敬すべきだと感じているし,かれらの合法的な上級者た ちの尊敬を,える可能性がもっとおおきい。したがってかれらは,そ・れらの上 級者を尊敬する気持に,もっとなりやすいのである。 こ・の理由でかれら ほ,政府の施策に.たいするなに.かの気ままな,あるいは不必要な反対へと,ま ちがってみちぴかれるという傾向が,すくないのである。政府の安全が,それ の行動にかんして人民が形づくるこ.とのある好意的な判断に・たいへんおおく依 ●●●●● 存する,自由な諸国では,かれらがそれの行動について性急紅あるいは気まぐ れに判断する気持にならないというこ.とが,たしかに最高の重要性をもつにち がいない。42)」さらにもう1カ所,民衆娯楽の政府推進に・よる騒擾の未然防止が あったが,これについてはすでにのべた。いずれに・せよ,「自由な諸国」におい

●●●● てこそ,目的と手段の転倒法則のみに.よって自然に公安が保持されるのではな

●● く,政府の棍極的な施策こそが民衆の不穏な空気や主権者の弾圧政策をあらた

め,また防止するのである。 ●●●●●●●●●●●●●●●● さいごに第4のもの,主権者の威厳をたもつための諸費用。これは主権者み ずからが自己のために出費するものであったから,かれの義務としてほかぞえ られなかったものである。「この費用は,進歩のさまざまな時期におうじて−,か つ統治のさまざまな形態におうじて−,変化する」が,「■さまざまな階層の人々が 41)∫∂友一d.,pp.200−1‖ 邦訳く下>,163ぺ−ジ。 42)J∂柑.,pp272−73い 邦訳<下>,206ぺ−ジ。

(18)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −ヱ∂9− ●●●●●●●●● …日に.1ヨに.高価なものをつかうように.なっている,富裕で進歩した社会で, 主権者だけが流行おくれのままでいることほ,とうてい期待できない。・か れはとうぜんに・,あるいはむしろ必然的紅,それらのすべて−のさまざ草な品物 ●●●●●●● 〔住居,家具,テ・−プル,衣服など〕についても,い・つそう高価になる。かれ の尊厳は,かれがそうなることをもとめている」し,「尊厳という点では,君主.」 ほ「どんな共和国の最高為政者」よりもまさって.「臣民たちからぬきんでてい る」ので,「われわれはとうぜん,国王の宮廷に.おいて−,都市共和国長官または 市長の邸宅よりもまさる豪華さを,期待鳴)」していい。ところで,なんのため に臣民が主権者の威厳をたもつ必要があるとかんがえるか,それほ臣民に.もと もとそ・なぁる高貴な「地位にたいする讃嘆のため」(作用原因)であって−,この 「讃嘆」が結果としての「階級区分や社会秩序の基礎」(目的原因)をうむのだ ●●●●●●● から44),この費用もまた,いまのべた社会秩序の維持紅すこぶるかんれんした ●● ことを,そして同時紅「富裕で進歩した社会」においてこそ,この費用の「高 価に](more expensive)なることをくれぐれも銘記したい。 ●●●●● 以上によってはば理解されるように,スミスは歴史的方法を前面におしだし =●○ ●●●○●●●○●● つつ,これを論理的方法に,ないしほ結果論的因果かんけいにくみかえて,そ の『諸国民の富』の公共経費論の主たる脈賂に,「文明国の政貯は,野蛮な国に おけるよりもはるかに.費用がかかる(much more expensive)といえ.よう。 そして−・方の国が他方の国よりも費用がかかる(more expensive)とわれわ れがいうはあい,それはあたかもー・方の国が他方のそれよりも進歩していると いうのとおなじだ。‥文明国にあって−は,野蛮な国には用のないおおくの出 費が必要である。軍備・艦隊・要塞および公共の建物や裁判官・収入官吏が維 持されなければならない。もし,それらを無視すればすぐさま混乱かおこるだ ろう45)」とする『グヲ・−スゴク講義』での叙述の,よりくわしい論証をあてが 43)ム鋸d.,p小299。邦訳<下>,232ぺ−ジ。 44)小論「スミス財政恩恩の基礎視角−イギリス近代思想における国家の把握とアダ ム・スミスー」,『財政学の課題』(千倉番房),1962年9月,611ぺ一汐以下をみよ。 しかもなお留意すべきことほ,この威厳をたもつ費用を防衛費とならべて「その社会全

体の−・般的利益のために,投下される」とみる点であって,スミスのこ.の費用にたいす

る,なみなみならぬ関心をあらわしている。

(19)

香川大学経済学部 研究年報 5 J965 −J6クー ●●●●●● うのであった。それが単純直戴な政策論的方法をむしろ慎重なまでにI司適して いるだけに,公共費用の山高価’’性にかんする,われわれの追跡の目を眩惑させ

る深長なヰりかたというはかほなく,われわれもまた次節においてかれの方法

を別の視角から点放したい。こ.のことほ,同時紅いま引用した『講義』での叙 述の故意に,省略した部分,すなわち「政府に費用がかかり(expensive),人民 が抑圧されていないというのほ,人民が富裕であるということだ」とする1文

●● の解明紅もむすぴついて,スミス像のよりいっそうの実像の彫塑に.なるであろ

う。 Ⅱ スミスの叙述でさらにわれわれをまどわすものにいわゆる租税国家論的主張 があって,まえに.も示したどとく,租税国家→無産国家→い安価な政府”の系 譜ができあがるだろうし,また,たとえば「自由主義財政思想の三つの特徴た る,1.無産国家論,2.経費縮小論,8.公債拒否論が,スミスに.よってもっとも 明確に基礎づけられた46)」といわれる。2については前節でのべたし,8は小 論の領域をこえるので,いよいよ,1に.ついて検討しなければならない。 ●●● ●●● 王領地や公有地,それに前期的官営企業や特権的公営事業などを所有またほ ●●●● 直接に経営して獲得する収入ないしは利潤を財政収入とするいわゆる家産国家 47)にたいして,みずからはそうした所有または経営をおこなわず,もっぱら民 間における私人の所得または財産への課税権にもとづく村税収入を公収入とす 1896,pい239.高島善哉・水田洋訳『グラスゴク大学講義』(日本評論杜),1947年11月, 431−32ぺ−汐。 46)木村元一・『近代財政学総論』(春秋社),1958年12月,82ぺ−汐。

47)家産国家は,主権者が世襲的な土地財産に上位所有権をもつことを基盤にして成立

し,それから従属的に派生する封建特権や前期的事業にも手をだしたものであって,19 世紀以降の資本主義国家の1特徴たる企業国家があたらしい家産国家といいえても,そ れはあくまで比喩的なものである。企業国家が前期的土地所有の家産国家よりも掩疇的 把.近代生産力的なものであれば,スミスのいいたいことのニュアンスをやや強調的にい

うと,ここではたんに指摘するにとどめざるをえないが,家産国家には反対だったが,

企業国家にはときに賛成しさえするという方法で近代資本主義の歴史的行方を独自のリ アリズムでとらえたのである。

(20)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −J6J− ●●●

●●●● る租税国家の弁証を,スミスはふたつの論拠で遂行したとおもわれる。

●●●●

●●● ひとつ軋 膨大な公収入を必要とする文明社会の政府としてこは,家産国家の

●●● 収入はあまりに硬直的で,多収性を必須の条件とする文明社会では「不十分な.」

● (insufficient)つまり量的に不足な収入だとする点であり,48)有名なこ・とば「■商

人の性格と主魔者の性格はど両立しないふたつの性格はない49)」というのも,

主権者が商人になる(いいか.え.るとみずから資本をもって公収入に帰すぺき利 潤をえ.ようとする)と損ばかりをして所期の収入をあげえないからであり,お なじく,主権者が資本を運用しても「資財や信用の不安定で消滅しやすい性質 ●●●●●●●●●●●●● は,それらを,確実で安定的で永続的な収入〔であるべき財政収入〕の,主要 ●●● な財源として信頼するには,不適当(unfit)なものとするのであって,そうい

==…===00●●●●●●●●●●●

う確実で安定的で永続的な収入だけが政府に安全と尊厳を付与するのである」 ファンド し,土地はたしかに「安定的で永続的な性質の財源」ではあるが,「≡仁一ロッパ

●●●●●● の文明化された君主国の大部分の現状では,そ・の国の土地全体の地代は,それ

がすべて一人の所有者のものであるばあい〔徹底した公有地制〕のような仕方 ●●●●●●●● で管理されるならば,おそらく平時においてきえ〔だから,すぐあとで引用す

==○●●●●

るように,軍事費が不断に増大する歴史的現実ではなおさら〕国民から徴収さ れる,通常の収入の額に.たっしない」のだから,土地を「公売するのがいちば ●●●●●●●●●●●● んいい」と主張し,「王領地が私有財産になれば,土地は数年のあいだに,よく ●●●●●●●● 改長され耕作され」−・挙両得にも「土地の生産物の増大は,国民の収入と消費 ○●●●●● を増加させることによって,その国の人口をふやすだろう。ところが,王権が エクサイズ ●●●●●●●●●●●●●● 関税や消費税からひきだす収入というものは,国民の収入と消費に.歩調をあわ

●●●●●●● せて,必然的紅ふえ.るはずであ50)」り,かかる歴史的推理は,すでにかれの歴史

●●●●● 的方法が明快にも防衛費(というよりもその支出たる戦争)を主導とする財政 ●●●●●● 需要の拡大とそれ紅強いられた王領地の売却(これには議会軍の没収と売却も ふくまれる)にささえられているのであり,しかもその血なまぐさい過程をふ ●●●●● せたままであることはスミスの歴史的方法の性格を示している−「さまざま 48)A.Smith,Ob・Cii・,pl309邦訳<下>・,240ぺ−ジ。 49)J∂まd.,pい304.邦訳く下>,235ぺ−ジ。 50)J∂j♂・・,pp.302−9邦訳く下>,234−−240ぺ一汐。

(21)

香川大学経済学部 研究年報 5 ⊥9β5 −J62−−

●●●● な原因から,〔しかし〕主としてその国民を他の諸国民の侵略〔内戦がいんぺい

●●●● される〕にたいして−防衛する費用〔戯争がかくされる〕の,継続的な増大から,

●●● 主権者の私的な領地〔−権力がかくされる〕が,主権の費用をまかなうに.は,ま ○●●● ったく不十分に,(insufficient)なってしまった〔権力の交替すなわち革命がか くされる〕ときに.1‥い人民がかれら自身の安全のために,さまざまな種類の租 税に.よって,この費用紅貢献するととが必要町」なったさ1),と。こ.れは,みら れるように.,「軍事費の.」「継続的な増大」を家産国家がまかないえ.ないし,ま ○●● た,えなかったという公収入の不足性の見地,いいかえれば家産国家(PatIi− ●●●●●●●

●● monialstaat)の公私未分の家父長的不合理という質的欠陥を,もっぱら量的欠

●●●●● 陥にすりかえて−の生産力論的見地,または,家産国家の公収入における不安定

●●●●● 性や非多収性の排撃を,文明社会固有の膨張につぐ膨張の財政需要をみたしえ

●●●●●●●●●●●

●● ないとする文明社会の政府の立場からみた,国庫主義的家産国家批判ともいう

る あ で の も き ベ ○ ●●●●● もうひとつは,その非多収性の王領地収入さえもが人民匿犠牲をおわせてい ●●●● るから,「不適当」(improper・)だとする点で,スミ.スほいうー「どの文明化し

● た君主国でも,王権が王領地からひきだす収入は,個々人にはすこしも負担

(cost)をかけていないよう軋みえ.るが,じっさいには,おそらく王権が皐受 する同額の収入のなかで,これほど大きな負担を社会紅おわせるものは.ない。 かれのこの収入を,なにか他の同額の収入ととりかえ,その土地を国民に分与 するのほ,どんなばあいでも社会の利益であろうさ2)。.」生産性の低い王領地を民 間に分与すれば,「土地の生産物」が増大し,王権の地租収入のはかに「関税や 消費税からひきだす収入」も「必然的に.ふえる」ので土地全体の,したがって スミスでは人民または社会全体の利益からすれば負担のおもさが軽くなるとい

●●●● うのである。つまり,この方ほ文明社会の人民の立場からみた負担の軽重とい

●●●●●●●●●●

●● う鼠的批判ないしほ負担率的家産国家批判というべきである。両者ともに盈

●●●● 的視点紅たつために政府と人民との双方からの,この家産国家への両面批判

51)J∂よd.,p210小 邦訳<下>,172ぺ一汐。なお,「戦争と戦争準備〔こそ〕は,近代に おいて,すべての大国の必要経費の大部分をひきおこす,ふたつの事情である」(∫∂よd., p、306.邦訳<下>,237ぺ−ジ)。 52)J∂オd.,p」・309邦訳<下>,240ぺ一一汐。

(22)

アダム・スミスといわゆる‘‘安価な政府” −J63− 53) ,ことばをかえれほ相税国家の両面希求はつぎのごとき論理に統一・・されるで あろうし,これこそがじつはアダム・スミ.スの産業資本的立場による,いわゆる

● 生産力論的視座の超生産力論的極致なのであった。

●● 一方では増大する財政需要の確保を,他方でほ人民の犠牲塁の軽減を,とも

● に両立させるのは民間における(私人間に.おける)「収入と消費を増加させる.」

●○

===…=○●●●●●●●●●●

しかないが,それには財政需要の増加率ないしは膨張率をこえる民間の生産力 ●●●●●●●●●●●●

●● の発展率を実現すればよいのであって,商業的分業社会または文明社会こ.そは

これを十分に可能ならしめる。「政府に.費用がかかり,人民が抑圧されていな い」ために.ほ,「人民が富裕である」ことが必要であるのだが,どの程度紅「富 ●●●●●●●●●● 裕」でなければならぬかといえば,いまいったように.,政府の経費増大率以上

…=●○●●●●●●●●

に人民の富裕化率がたかければよいのだ。そして.かかる条件をみたさなけれ

●● ばならぬ「富裕で文明化した国民」,「富裕で進歩した社会」こそがこれを満足

● させうる,と。家産国家と租税国家の優劣比較における量的基準と,前者から後

● 者への体制的移行の量的把撞,と。かれは,別のところでは,わざわざ両者の

● 比較をやや質的にしかもあざやかに指摘していたはずだった−「租税を支は らう人にとっては,すべての相税は奴隷のしるしでほなくして−,自由のしるし である。たしかに租税ほ.,かれが統治に服していることを意味してはいるが, 同時に,かれはいくらか財産をもっているから,かれ自身がある主人の財産 〔そのもの〕であるこ.とはありえない54).」と揚言しつつ,ここで折角にも租税 53)この両面批判の,すなわち,「主権者あるいほ国家に直属してこいる収入源泉は, おおきくしかも文明化したどんな国の必要経費をまかなうにも,不適当であるとともに 不十分な基金であるから,あと・ほ,この必要経費の大部分〔全部ではないこと紅留 意〕をなんらかの種類の租税によってまかなうことである紅ちがいない」とのスミスの叙 述における,「不適当」は人民の側から,「不十分」は政府の側からの,それぞれの批判の, 共存性ないしは調和論的特質がみのがされてはならない。スミス経済学の,ひろくは.その 仝思想体系のもつ批判的性格が冤裕や正義ではなくして便宜であるのは,このinsuffi− Cientやimproperやがunfitになり,ひいてはimpoliticに,さいごにはinexped・ ientに収赦することにあり,これはかれの経済学がもと♪¢Jgcβから下降したものであ るし,ミラ−のいう β.材融‰鋸γにこそあったこととおもいあわせて,かえりみられな ければならぬ方法意識である。 54)A・Smith,Ob・Ciin,pl341小 邦訳<下>,268ぺ・−・ジ。しかし,この説明すらも, 第1に税額ほ自由の代償だから,貢納は.当然だとする,第2紅自然権論を労働力をもつ

参照

関連したドキュメント

大きな要因として働いていることが見えてくるように思われるので 1はじめに 大江健三郎とテクノロジー

テキストマイニング は,大量の構 造化されていないテキスト情報を様々な観点から

東北大学大学院医学系研究科の運動学分野門間陽樹講師、早稲田大学の川上

200 インチのハイビジョンシステムを備えたハ イビジョン映像シアターやイベントホール,会 議室など用途に合わせて様々に活用できる施設

  中川翔太 (経済学科 4 年生) ・昼間雅貴 (経済学科 4 年生) ・鈴木友香 (経済 学科 4 年生) ・野口佳純 (経済学科 4 年生)

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

ダブルディグリー留学とは、関西学院大学国際学部(SIS)に在籍しながら、海外の大学に留学し、それぞれの大学で修得し