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成人小腸間膜リンパ管腫の1例 第76巻03号0534頁

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Academic year: 2021

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  症  例

成人小腸間膜リンパ管腫の 1 例

市立芦屋病院外科 田 守 登茂治  浦 野 尚 美  田 中 靖 士 水 谷   伸  小 川 法 次  小 関 萬 里  症例は78歳,男性,左側腹部腫瘤を主訴に受診.腹部CT検査で左側腹部に多房性腫 瘤を認めた.腸間膜嚢胞腺癌などの悪性病変の可能性を考慮して開腹手術を施行した. 開腹所見では空腸間膜に表面平滑な腫瘤を認めた.一部空腸を含めて腫瘤を全摘出した. 病理組織学的に腸間膜リンパ管腫と診断した.成人の腸間膜リンパ管腫は比較的稀な疾 患であり若干の文献的考察を加えて報告した. 索引用語:成人小腸間膜リンパ管腫 緒  言  リンパ管腫は小児の頭頸部に発生する良性腫瘍であ るが,成人の腸間膜に発生するリンパ管腫は比較的稀 な疾患である.今回われわれは,腹部腫瘤を契機に切 除された成人小腸間膜リンパ管腫を経験したので若干 の文献的考察を加えて報告した. 症  例  症例:78歳,男性.  主訴:左側腹部腫瘤.  現病歴:数カ月前から左側腹部に腫瘤を触知してい たが放置していた.腹部圧迫感が出現したため精査目 的にて来院.  既往歴:痛風,腰部脊柱管狭窄症.  家族歴:特記すべきことなし.  初診時現症:身長167cm,体重62.5kg,血圧139/89 mmHg,体温36.8℃,脈拍78回/分,腹部は平坦・軟で, 圧痛を認めず,腹膜刺激症状も認められなかった.左側 腹部に手拳大の弾性軟で可動性のある腫瘤を触知した.  初診時検査所見:CRP 4.0mg/dlと上昇を認めた.そ の他には明らかな異常所見は認められなかった.腫瘍 マーカーCA19-9は7.4U/mLと正常範囲内であった. sIL-2レセプターも563U/mlと正常範囲内であった.  腹部超音波検査:左側腹部に隔壁を伴う多房性嚢胞 性腫瘤を認める(Fig. 1).  腹部CT検査:左側腹部に約18cm大の造影効果を 認めない多房性嚢胞性腫瘤を認める.内部に石灰化像 を認める(Fig. 2).  腹部MRI検査:左側腹部にT1 とT2 強調像でとも に高信号を呈する隔壁を伴う多忙性嚢胞性腫瘤を認め た(Fig. 3,4).  注腸造影検査:回盲部まで造影剤は容易に通過し, 結腸内に明らかな腫瘍性変化を認めなかった.  以上より,腹腔内腫瘍に対して腫瘍が大きく腸間膜 嚢胞腺癌や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の可能性も否 定できないため開腹手術を施行した.  手術所見:腹腔内には腹水および播種性変化を認め なかった.Treitz靱帯から約10cmの空腸間膜に約 15cm大の腫瘤を認めた.下行結腸や後腹膜などの周 囲組織との癒着は認めず可動性は良好であったが空腸 と接しており,空腸への血流保持を考慮し,空腸を含 めて腫瘤摘出を施行した.  摘出標本:腫瘍は18×12× 8 cm大の多房性腫瘤で 内部に茶褐色の液体を多量に認めた(Fig. 5).小腸 内腔との交通は認めなかった(Fig. 6).重量は空腸 を含めて825gであった.  病理組織学的所見:小腸間膜に拡張したリンパ管が みられた.脈管内にマクロファージの集簇像を認めた. D2 -40陽性であり免疫染色で小腸間膜リンパ管腫と 診断した.嚢胞液にも悪性所見を認めなかった(Fig. 7,8).  術後経過:術後経過は良好で術後10日目に退院とな った.現在も再発を認めず外来通院中である.  2014年10月 6 日受付 2014年12月21日採用  〈所属施設住所〉   〒659-8502 芦屋市朝日ヶ丘町39- 1

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考  察  リンパ管腫は小児期の頭頸部に発生することが多 く1),好発年齢は10歳までの小児期と40歳台に多いと されている.発生部位として腹部に発生することは 5 %未満といわれており,腹部に発生した場合は約69% が腸間膜に発生する2)  発生機序は胎生期のリンパ管の形成異常などの先天 的原因3)と放射線治療などによる炎症や外傷などによ るリンパ管閉塞や鬱滞などの後天的原因4)が言われて いる.本症例は比較的高齢ではあるが外傷などの後天 的原因は認めておらず先天的原因であると考えられ た.  病理組織学的には単純性リンパ管腫・海綿状リンパ 管腫・嚢胞状リンパ管腫の 3 種類に分類され,約86% は多房性嚢胞状であり本症例も多房性嚢胞状であっ た.  リンパ管腫瘍の組織学的診断基準として,①嚢胞内 の内腔は立方状,円柱状上皮よりも扁平な内皮で覆わ れる,②嚢胞壁に小リンパ腔が存在する,③嚢胞壁に リンパ球の集簇がある,④脂質を含んだ泡沫細胞が存 在する,⑤嚢胞壁に平滑筋が存在する,の 5 項目が挙 げられる5).合併症として腸閉塞,腸軸捻転,嚢腫内 出血,嚢腫内感染,悪性化などである6) Fig. 1 超音波検査にて多房性嚢胞を認める. Fig. 2 造影効果を認めない多房性腫瘤を認める. Fig. 3 T1 強調画像で高信号を呈する隔壁を伴う多房性 腫瘤を認める.

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 医学中央雑誌刊行会,医中誌Webにて検索語「成人」 「腸間膜リンパ管腫」,検索対象期間1998~2013年で, 最新 5 年間の検索を行い,自験例を含めて15例につい て考察(Table 1)7)~19)すると,男女比は 1 : 2 と女 性に多く,平均年齢は41歳であったが自験例は78歳と 比較的高齢であった.症状としては腹痛 9 例(60%), 腹部膨満 2 例(約13%),症状なし 2 例(約13%)な どがある.腹痛の原因としては,食後の小腸へのリン パ流の増大で腫瘤部位にリンパ液が鬱滞することや, 腫瘤による腸間膜動静脈の圧迫で循環障害が生じるこ となどが挙げられている20).また,腸管の捻転が腹痛 の原因と考えられる症例も報告されている.発生部位 は小腸間膜が約73%(空腸 5 例,回腸 6 例)と多く, 結腸間膜が約26%(横行結腸 2 例,S状結腸 2 例)で あった.感染を起こしているものは 4 例(約26%)で Fig. 4 T2 強調画像で高信号を呈する隔壁を伴う多房性 腫瘤を認める. Fig. 5 混濁した内容液に悪性所見を認めず. Fig. 6 18×12× 8 cmの多房性腫瘤で腸管との交通は認 められず. Fig. 8 D2 -40 免疫染色 Fig. 7 H.E.染色 ×200倍.脈管内にマクロファージの 集簇像をみる.

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あった.感染を起こしている場合は,発熱などの症状 を伴っており腹膜炎との鑑別も必要と考えられた.治 療については嚢胞状リンパ管腫や嚢胞の占拠部位によ り完全切除ができなかった症例では嚢胞液の吸引,硬 化療法なども有効であり,開窓術やアルコール, OK423(ピシバニール)などを用いた硬化療法の報告 もある21)が,海綿状リンパ管腫では外科的切除が最も 治療成績がよいといわれている22).完全切除された症 例には再発の報告はなく予後は非常に良好であること から,治療の第一選択は嚢胞の完全切除となっており 今回の報告例も全て外科的切除であった.腸管との交 通を疑う場合や切除により血流障害が予想される場合 には腸管合併切除も積極的に考慮すべきと考えられ本 症例でも合併切除となっている.嚢胞が良性疾患であ る場合には腹腔鏡の良い適応と考えられ,腹腔鏡によ る切除の報告も増加している.本症例も腹腔鏡でのア プローチを考慮すべきであったと考えられる.しかし, 不完全切除が原因と考えられる再発の報告23)や他の腸 間膜腫瘍としての嚢胞壁の不整・周囲浸潤・充実性・ 内部石灰化などの場合は腸間膜嚢胞腺癌や平滑筋肉腫 などの悪性腫瘍の報告24)もあるため,術前の鑑別診断 が困難な症例では腹腔鏡下手術の適応に注意が必要で あり被膜遺残や術中被膜損傷にも注意が必要である.  また鑑別診断として,嚢状中皮腫・平滑筋腫瘍・偽 嚢胞・消化管重複症などの他の腸間膜嚢腫との鑑別が 重要となるが頻度はリンパ管腫が最多である.超音波・ 腹部CT検査・腹部MRI検査等により術前診断も可能 であり待機的手術が可能となるが,急性腹症によって 緊急手術となる場合は術前診断が困難となる.成人の 腹腔内腫瘍に腸間膜リンパ管腫も考慮する必要がある と考えられた. 結  語  比較的稀な疾患である成人に発症した小腸間膜リン パ管腫の 1 例を経験したので若干の文献的考察を加え て報告した. 文  献  1) 広瀬弘明,岡部郁夫,森田 建:小児リンパ管腫 88例の検討.日臨外会誌 1987;48:1833-1839  2) 石井義縁,正岡直子,小川匡市他:急性腹症を呈 した後腹膜原発のリンパ管嚢腫の 1 例.日臨外会 誌 1996;57:2813-2816

 3) Godart S : Embryological significance of lymph-angioma. Arch Dis Child 1966 ; 41 : 204-206  4) Greene EI, Kirshen MM, Greene JM :

Lymphan-gioma of the transverse colon. Am J Surg 1962 ; 103 : 723-726

 5) Takiff H, Calabria R, Yin L, et al : Mesenteric cysts and intra-abdominal cystic lymphangio-mas. Arch Surg 1985 ; 120 : 1266-1269  6) 福里吉充,大浜用克,新開真人他:腸軸捻転を合 併した腸間膜嚢腫の 2 例.小児外科 2003;35: 755-760  7) 藤原康博,唐崎秀則,鈴木茂貴他:小腸軸捻にて 発症した成人小腸間膜リンパ管腫の 1 例.日臨外 会誌 2013;74:1295-1299  8) 脇ノ上史朗,山中章義,高橋顕雅他:卵巣嚢腫茎 Table 1 成人腸間膜リンパ管腫の本邦報告例 年齢 性別 主訴 発生部位 組織 感染 ① 34 女性 腹痛 空腸 多房性 無 ② 27 女性 下腹部痛 S状結腸 多房性 有 ③ 43 女性 下腹部痛 回腸 嚢胞状 有 ④ 30 男性 腹痛,発熱 空腸 海綿状 有 ⑤ 19 女性 下腹部痛 横行結腸 嚢胞状 有 ⑥ 27 男性 下腹部痛 回腸 多房性 無 ⑦ 20 男性 上腹部痛 空腸 多房性 無 ⑧ 37 男性 下腹部痛 回腸 多房性 無 ⑨ 67 女性 心窩部痛 回腸 多房性 無 ⑩ 48 女性 腹痛,発熱 S状結腸 海綿状 有 ⑪ 71 女性 腹部違和感 回腸 多房性 無 ⑫ 37 女性 腹部膨満 回腸 嚢胞状 無 ⑬ 48 女性 腹痛 空腸 多房性 無 ⑭ 29 女性 なし 横行結腸 多房性 無 ⑮ 78 男性 腹部腫瘤 空腸 多房性 無

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捻転との鑑別が困難であった成人腸間膜リンパ管 腫を腹腔鏡手術で行えた 1 症例.日産婦内視鏡会 誌 2012;28:542-546  9) 阿部勇人,平田 泰,南村圭亮他:嚢胞内感染が 疑われた成人の腸間膜リンパ管腫の 2 例.日臨外 会誌 2012;73:1269-1273 10) 森田 亮,大熊勝彰,横道憲之他:炎症反応が高 値を示した骨盤内腫瘤の 1 例.日産婦神奈川会誌  2011;48:18-21 11) 中村謙一,早川哲史,北上英彦他:小腸捻転によ るイレウスで発症した成人小腸間膜リンパ管腫の 1 例.日臨外会誌 2011;72:2956-2959 12) 草間 啓,袖山治嗣,長谷川智行他:腹腔鏡下手 術を施行した腸間膜リンパ管腫合併中腸軸捻転を 伴 う 成 人 腸 回 転 異 常 症 の 1 例. 日 消 外 会 誌  2011;44:738-744 13) 尾崎邦博,平城 守,小野博典他:腹腔鏡補助下 に切除した成人小腸腸間膜リンパ管腫の 1 例.日 臨外会誌 2011;72:1569-1572 14) 岡本経子,渡邉 純,望月康久他:腸閉塞を呈し た成人小腸間膜リンパ管腫の 1 例.日臨外会誌  2011;72:1038-1041 15) 西澤竜矢,菊池一公,深作慶友他:感染を合併し た成人腸間膜リンパ管腫の 1 切除例.札幌病医誌  2011;70:221-224 16) 枝園和彦,久保義郎,小畠誉也他:FDG集積亢 進を認めた成人小腸間膜リンパ管腫の 1 切除例. 日臨外会誌 2010;71:1056-1060 17) 竹束正二郎,濱田清誠,笠間和典他:妊娠出産後 に発症し腹腔鏡下に摘出された腸間膜リンパ管腫 の 1 例.日臨外会誌 2009;70:2158-2161 18) 松原健太郎,北郷 実,秋山芳伸他:成人小腸間 膜リンパ管腫の 1 例.日臨外会誌 2009;70: 1213-1216 19) 張 文誠,宮坂芳明,三井照夫:成人巨大腸間膜 リンパ管腫の 1 例.日臨外会誌 2008;69:2114 -2118 20) 帖地憲太郎,間嶋 崇,初瀬一夫:成人にみられ た稀な小腸間膜リンパ管腫の 1 切除例.埼玉医会 誌 1999;33:719-772 21) 徳原克治,濱田吉則,渡邉健太郎他:巨大腸管膜 嚢腫に対し腹腔鏡補助下嚢腫亜全摘術と硬化療法 を併用した 1 例.日小児外会誌 2003;39:970 -975 22) 飯塚 崇,横井秀格,春山琢男他:診断に苦慮し た 成 人 発 症 の 頸 部 リ ン パ 管 腫 例. 耳 鼻 臨 床  2009;102:1065-1069 23) 横井健二,川上和之,川浦幸光:再発腸間膜リン パ管腫の 1 例.日臨外会誌 1995;56:2726- 2730 24) 原川伊寿,蜂須賀喜多男,山口晃弘他:腸間膜嚢 胞腺癌の 1 例.日消外会誌 1987;20:2397- 2400  

A CASE OF JEJUNAL MESENTERIC LYMPHANGIOMA IN AN ADULT  

Tomoharu TAMORI, Naomi URANO, Yasusi TANAKA, Sin MIZUTANI, Noritugu OGAWA and Masato KOSEKI

Department of Surgery, Ashiya Municipal Hospital

 

  A 78-year-old man consulted his doctor for a mass in the left side of the abdomen. Abdominal com-puted tomography scan revealed a multilocular tumor in the left side of the abdomen. Considering the possibility of the mass being malignant, a laparotomy was performed. The tumor was found located in the mesentery of the jejunum and adhered closely to the jejunum wall. Therefore, tumor removal with partial resection of the jejunum was performed. The final pathological diagnosis was lymphangioma of the jeju-nal mesentery. The patient was discharged 10 days after the surgery. This report documents a rare case of lymphangioma of the jejunal mesentery in an adult.

Key words:jejunal mesenteric lymphangioma in an adult

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