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大学生の金融に関する知識についての調査研究 : 大学生を対象にした質問紙調査の分析から

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Ⅰ.はじめに─研究の背景

 日本では,政府・日銀は,2005 年を「金融教育元 年」と位置づけた。2005 年はペイオフ解禁となった 年であり,その前後から政府としても「貯蓄から投 資」へ流れを制度的に進めるようになってきている。 そういった中で金融教育の重要性が広く認識されるよ うになってきている。ただ,金融教育について古徳1) が指摘するようにお金に関する教育については金融教 育以外にも,金銭教育,金融経済教育,消費者教育, パーソナル・ファイナンス教育,投資教育などの類似 の用語が使用されているのが現状である。  ここではその議論には立ち入らず,金融広報中央委 員会2)作成の『金融教育プログラム社会の中で生き る力を育む授業とは─』の定義を用いることにする。 その定義は「金融教育は,お金や金融の様々なはたら きを理解し,それを通じて自分の暮らしや社会につい て深く考え,自分の生き方や価値観を磨きながら,よ り豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて,主体的 に行動できる態度を養う教育である」としている。さ らにそれを具体化するために以下の 4 つの分野に分 類・整理している。「A.生活設計・家計管理に関す る分野」,「B.経済や金融のしくみに関する分野」, 「C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野」, 「D.キャリア教育に関する分野」の 4 分野である。 このことからも金融広報中央委員会による金融教育の 定義は幅が広く多面的であることがわかる。  さらに現在,金融商品・サービスの多様化が進み消 費者にとって選択肢が広がる中で,ペイオフが全面実 施され,自己責任がそれまで以上に意識されるなど, 金融知識が不可欠となっている。さらに学生は大学 1, 2 年次に成人となり,カードや多重債務問題などの金 融トラブルに直面することも予想される。  上記のことを踏まえると大学教育の中でも金融教育 をおこなう必要があるのではないかと考えている。特 に金融に関する知識などを学ぶ機会が少ない経済・経 営・商学部以外の学部・学科であってもカリキュラム に金融教育を入れることは必要ではないだろうか。  そこで,金融教育を実施する前に大学生(本調査で は文系学生が対象)が基礎的な金融に関する知識など をどれくらい習得しているかを知ることは重要である。 本論文はこの視点からの調査研究である。

Ⅱ.研究の目的

 前述したように金融に関する知識などを学ぶ機会が 少ないであろう経済・経営・商学部以外の学部・学科 でも金融教育をおこなう必要があるのではないかと考 えている。そこで,本論文では,金融教育をする前に 大学生(本調査では文系学生が対象)が基礎的な金融 に関する知識をどれくらい習得しているかの調査研究, 分析である。  前述の金融広報中央委員会3)では,金融教育を 4 分 野に分けているが,本調査では,B.経済や金融のし くみに関する分野,C.消費生活・金融トラブル防止 に関する分野に限定して分析をおこなう。  この分野の先行研究として,楠元4)は,この分野の 金融基礎知識について,5 分野(一般常識,家計の管 理,退職後の備え,進学の心構え,預金・貯蓄)につ いて質問をおこない,日本と米国の高校生の比較をお こなっている。日本の高校生は米国の高校生に劣って いる分野は少なく,日本の高校生は授業で習った分野 は正答率が高かったこと,それに対して給料や各種 カードの仕組みなどの回答が低く,日本の金融教育で は実社会を反映した内容が不足していること,日本も 米国も投資に関することは正答率が低く,米国でも投 資教育は成功していないことを指摘している。  別の先行研究として早稲田大学山岡道男教授らが中 心になって 10 回実施した生活経済テスト(1,2 回目

大学生の金融に関する知識に

ついての調査研究

─大学生を対象にした質問紙調査の

分析から─

The Journal of Economic Education No.33, September, 2014

A Study on Financial Knowledge of College Students : An Analysis of Questionnaire to College Students

Iijima, Kaori

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は経済理解力テストという名称)がある。このテスト の結果は多くの研究論文や報告などがある。ここでは, 本論文で参照または参考にしたものの紹介のみにとど める。淺野5)は高校生と大学生を対象に実施した第 3 回生活経済テストを詳細に分析して高校生と大学生の 回答率の比較をおこなっている。高校生と大学生は全 30 問で全体として大学生の方が平均で 9.8%正答率が 高いこと,ただこの調査の大学生の回答者の約 70% が経済・経営・商学部に所属し,そこでの経済学や金 融についての学習が教育上の効果をもち,それが高校 生よりも高い得点になったことの要因ではないかとし ている。

Ⅲ . 調査の概要

 本調査は,神戸山手大学で 2011 年度に『生活設計 を中心においた金融教育の取り組み』(久富健治,飯 嶋香織)の調査研究として実施された。本報告はその 調査の分析である。  本調査は,兵庫県,大阪府,京都府,東京都にある 大学に在籍する学生を対象に質問紙調査を実施した。 調査の概要は以下の通りである。  なお,本調査は無作為抽出ではない。 ・調査対象:兵庫県,大阪府,京都府,東京都が所在 地の 4 年制大学と短期大学に在学する大 学生       学部は主として文系学部である ・調査期間:2011 年 12 月 ・調査方法:授業で配布して回答─自記式 ・有効回答:715 名       大学─5 大学 短期大学1 短期大学  上記の回答者には,さまざまな属性の学生が含まれ ていた。そこで,今回の調査の回答者のうち,以下の 条件で限定することにした。  年代─10 歳代,20 歳代(除く 30 歳代以上)  学生の種類─4 年制大学生,短期大学生のみ        (除く大学院生,科目等履修生)  学年─1 年生から 4 年生のみ(除く 5 年生以上)  留学生か─留学生を除く  上記の 4 つの条件にあてはまる学生のみを対象とし, かつ上記の 4 項目の中に無回答があった学生を除いた。 上記の条件でデータを作成すると以下の結果となり, 547 名を今後の分析の対象にすることにした。 図表 3-1 男女比(データ削除後) 回答数 % 男性 254 46.4 女性 293 53.6 合計 547 100.0 図表 3-2 年代(データ削除後) 回答数 % 18 〜 19 歳 259 47.3% 20 〜 22 歳 274 50.1% 23 〜 24 歳 12 2.2% 25 〜 29 歳 2 0.4% 合計 547 100.0% 図表 3-3 留学生か(データ削除後) 回答数 パーセント 留学生ではない 547 100.0 図表 3-4 学校の種類   回答数 % 4 年制大学 394 72.0% 短期大学 153 28.0% 合計 547 100.0% 図表 3-5 学年(データ削除後)   回答数 % 1 年生 259 39.5% 2 年生 274 38.0% 3 年生 12 15.9% 4 年生 2 6.6% 合計 547 100.0% 図表 3-6 学部

Ⅳ.金融に関する知識の現状─高校生との

比較

 まず,金融に関する知識の中で,「経済や金融のし くみに関する分野」「消費生活・金融トラブル防止に

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関する分野」に関して,「複利計算」,「リボルビング 払い」,「多重債務問題」,「ペイオフ」,「消費生活セン ター」,「クーリング・オフ」,「日本銀行の働き(機 能)」,「リーマンショック」の 8 項目について質問を おこなった。回答はあくまでも本人の自己評価である が,「聞いたことがあり,内容もほぼわかる」「聞いた ことはあるが,内容はわからない」「聞いたことがな い」の 3 つの選択肢から選んでもらった。図表は省略 するが,「クーリング・オフ」が最も知っている割合 が高く,次に「リーマンショック」,「消費生活セン ター」の順であった。「複利計算」,「リボルビング払 い」の二つは最も認知度が低いという結果となった。 リボルビング払いについては,カード会社がテレビな どの CM で広告をしている「リボ払い」と同一である と,理解されていない可能性が高そうである。  また正しく理解しているのかについての知識を問う テスト問題を 8 問おこなった。問題と正答率は,図表 5-1 である。この問題は,金融広報中央委員会『子ど ものくらしとお金に関する調査(第 2 回)平成 22 年 度』6)(調査対象:高校生)と全く同じ問題にしてある ので,高校生との比較が可能である。  図表 5-1 の「100 円を年利 2%で複利で 5 年間預ける と,つく利子は 10 円である」は,本調査のみのテス ト問題である。質問がわかりにくかったこともあるか と思うが,正答率は非常に低く,複利計算についての 知識の習得状況は全体に低いといえそうである。  大学生の方が高校生に比較して約 10%以上正答率 が高かった質問項目は「代金前払い方式のカードをク レジットカードという」「100 円を年利 2%で 1 年間預 けると 2 円の利子がつく」「契約はすべて書類に記名 し,印を押すことで成り立つ」「1 ドル= 100 円から 1 ドル=80円になったら円高(ドル安)である」の4つ である。ほぼ同じ回答率なのは,「インフレが進むと, 同じお金で買えるものは少なくなる」で,逆に高校生 の方が大学生よりも正答率が高かったのは,「日本銀 行の金融政策は現在主にオープンマーケットオペレー ション(公開市場操作)である」であった。  ただ,このテスト問題の結果について今回の調査結 果と金融広報中央委員会7)の調査結果を単純に比較す ることは出来ない。なぜなら,今回の調査は無作為抽 出によるものではなく,サンプルに偏りがあるからで ある。前述の金融広報中央委員会8)の調査のサンプリ ングの方法は,無作為抽出で選ばれた群とそうでない 方法によって抽出された群の 2 群が混ざっているとし ているが,その割合は不明である。また前述の淺野9) の調査も無作為抽出ではない。  そこで本論文では,高校生との比較ではなく,大学 入学後の学習で金融に関する知識が増えるであろう経 済・経営・商学部などの学部とそれ以外の学部・学科 に在籍している学生の比較,さらに大学のランク(入 学時の偏差値)を利用して,学部・学科と大学のラン クと金融に関する知識の関係について考察することに した。  各大学の入学時の偏差値は発表している予備校など によって値は少しずつ異なるが,河合塾,代々木ゼミ ナール作成のデータを参考している。A 群は河合塾, 代々木ゼミナールでも偏差値 60 以上,B 群の偏差値 は 50 〜 59,C 群は 49 以下である。(図表 5-1 参照) 図表 4-1 金融知識(大学生) 正答 誤答 わからない 合計 1 100 円を年利 2%で 1 年間預けると,2 円の利子がつく 回答数 327 43 154 524 % 62.40% 8.20% 29.40% 100.00% 2 100 円を年利 2%で複利で 5 年間預けると,つく利子は10 円である 回答数 156 57 308 521 % 29.90% 10.90% 59.10% 100.00% 3 「1 ドル= 100 円」から「1 ドル= 80 円」になったら円高(ドル安)である 回答数 359 56 109 524 % 68.50% 10.70% 20.80% 100.00% 4 代金前払い方式のカードを,クレジットカードという 回答数 241 139 140 520 % 46.30% 26.70% 26.90% 100.00% 5 インフレが進むと,同じお金で買えるものは少なくなる 回答数 246 92 184 522 % 47.10% 17.60% 35.20% 100.00% 6 契約はすべて書類に記名し,印を押すことで成り立つ 回答数 158 178 188 524 % 30.20% 34.00% 35.90% 100.00% 7 日本銀行の金融政策は,現在,主にオープンマーケットオペレーション(公開市場操作)である 回答数 147 56 319 522 % 28.20% 10.70% 61.10% 100.00%

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Ⅴ.金融に関する知識の大学群別による分析

1.大学のグループ化  前述の図表 3-6 にあるように,本調査では商学部・ 経営学部系の学生が 44.8%,経済学部系が 7.0%の割 合を占めている。そこで,この 3 つの学部を一つにま とめ,それ以外にグループ化した。さらに前述の大学 の偏差値で A,B,C とランク分けをして,グループ 化して,大学ランクと学部系列を組み合わせたのが, 図表 5-2 である。グループ化した理由は,商学部・経 営学部系,経済学部系の学生は,それ以外の学部・学 科の学生に比較して,上記のような経済や金融に関す る授業も多く,関心も高いことが予想されるからであ る。 2.金融に関する知識について大学別の分析  ① 金融教育を受けた段階との関係  では,経済・経営・商学部系の学生は他の学部の学 生に比較して,金融に関する知識はより多く習得され ているのであろうか。  そこでまず,学校段階のいつの時点で以下の質問項 目を学んだのかについての分析をおこなった。この質 問項目は,それぞれの項目でその項目を最も多く学ん だ学校段階はどれですかという質問で,回答は「小学 校〜高校までで学んだ」「大学で学んだ(学んでい る)」「学んだことはない」から選んでもらった。実際 の質問では小学校,中学校,高校,大学と学校段階を 分けて質問しているが,ここでは「小学校,中学校, 高校」を一つのまとまりにして分析している。  まず「お金の大切さの理解」「悪徳商法・消費生 活・金融トラブルの防止」を学んだかの質問で,学部 とランク別の 5 グループで大きな差がみられないこと がわかる。(図表 5-3,5-4 参照)  それに対して「基礎的な金融・経済のしくみの理 解」(図表 5-5)と「老後の生活を支えるしくみの理 解(年金等)」(図表 5-6)は,いずれも経済・経営・ 商学部系の学生は「大学で学んだ(学んでいる)」の 回答が非常に多くなっている。これは高校までの学習 よりも大学でこういった分野についてより深く学ぶた めに,最も多く学んだ学校段階として大学と回答した 結果であると推測される。  ② 金融に関する知識との学部との関係(1)  ─消費生活・金融トラブル防止に関する分野─  では,経済・経営・商学部系の学生は他の学部の学 生に比較して,消費生活・金融トラブル防止に関する 分野の知識はより多く習得されているのであろうか。 図表 4-2 高校生の金融知識 正しい(%) 間違っている(%) わからない(%) 正答者 1 100 円を年利 2%で 1 年間預けると,2 円の利子がつく 45.7 7 45.6 45.7 2 「1 ドル= 100 円」から,「1 ドル= 80 円」になったら,円高(ドル安)である 59.6 16 22.9 59.6 3 代金前払い方式のカードを,クレジットカードとい 41.4 26.5 30.5 26.5 4 インフレが進むと,同じお金で買えるものは少なくなる 46.4 14.2 37.8 46.4 5 契約はすべて書類に記名し,印を押すことで成り立 60.3 20.9 17.5 20.9 6 日本銀行の金融政策は,現在,主にオープンマーケットオペレーション(公開市場操作)である 33.2 7 57.9 33.2 引用 金融広報中央委員会『子どものくらしとお金に関する調査(第 2 回)平成 22 年度』調査対象 高校生 より一部抜粋 図表 5-2 大学の 3 分割と学部系列別 回答数 % A ランクで経済・経営・商学部系 175 31.99 A ランクで経済・経営・商学部系以外 44 8.04 B ランクで経済・経営・商学部系 106 19.38 B ランクで経済・経営・商学部系以外 43 7.86 C ランクで経済・経営・商学部系以外 175 31.99 不明(分析から削除) 4 0.73 547 100.00 図表 5-1 大学の 3 分割 回答数 % A ランク 219 40.0 B ランク 152 27.8 C ランク 176 32.2 合計 547 100.0

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 「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」につ いて学生の自己評価でどの程度知っているかについて 質問した。「多重債務問題」(図表 5-7)と「クーリン グ・オフ」(図表 5-8)について,「聞いたことがあり, 内容もほぼわかる」「聞いたことはあるが,内容はわ からない」「聞いたことがない」かで,回答しても らった。2 つの質問とも「C ランクで経済・経営・商 学部系以外」を除くとほぼ似たような割合で,多重債 務問題」(図表 5-7)は約 8 割の学生は,「聞いたこと があり,内容もほぼわかる」かまたは「聞いたことは あるが,内容はわからない」と回答している。「クー リング・オフ」(図表 5-8)については,約 9 割の学生 が「聞いたことがあり,内容もほぼわかる」と回答し ている。クーリング・オフについては,高校段階まで の教育で多くの学生に浸透している結果となっていた。  しかし,実際の知識を問うテスト問題で,「代金前 払い方式のカードをクレジットカードという」(図表 5-9)の回答率は,全体では 46.3%にとどまっていた。  前述の「多重債務問題」(図表 5-7)と「クーリン グ・オフ」(図表 5-8)について知っているかどうか の自己評価でも知っている割合が低かった「C ランク で経済・経営・商学部系以外」の学生では特に正答率 が低い。  前述の金融教育を受けた段階との関係(図表 5-4) 図表 5-8 クーリングオフ 図表 5-5  基礎的な金融・経済の仕組みの理解─学習 時期別 図表 5-6  老後の生活を支えるしくみの理解(年金 等)─学習時期別 図表 5-9  代金前払い方式のカードを,クレジット カードという 図表 5-7 多重債務問題 図表 5-4  悪徳商法・消費生活・金融トラブルの防止 ─学習時期別 図表 5-3 お金の大切さの理解(学習段階別)

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でみたように,「経済・経営・商学部系の学生」と 「それ以外の学生」の両者とも高校まで学んだという 回答が最も多かった。消費生活・金融トラブル防止に 関する分野は,それをそのまま反映する結果となって おり,経済・経営・商学部系の学生が特に知識面でも 正答率が高いという結果は得られなかった。  それと同時に「代金前払い方式のカードを,クレ ジットカードという」の正答率の低さから,前述の楠 元10)の指摘,つまり給料や各種カードの仕組みなど の正答率が低いことは日本の金融教育では実社会を反 映した内容が不足していることを裏付ける結果となっ ているといえる。  ③ 金融に関する知識と学部との関係(2)  ─経済や金融のしくみに関する分野─  「金融・経済のしくみに関する分野」で,学生の自 己評価でどの程度知っているかについて質問した。 「ペイオフ」(図表 5-10),「複利計算」(図表 5-11), 「日本銀行の働き」(図表 5-12)である。「聞いたこと があり,内容もほぼわかる」「聞いたことはあるが, 内容はわからない」「聞いたことがない」かで,回答 してもらった。「ペイオフ」(図表 5-10),「日本銀行 の働き」(図表 5-12)の 2 つの質問に回答傾向に共通 しているのは,「聞いたことがあり,内容もほぼわか る」と回答した人の割合が,「A ランクで経済・経 営・商学部系」「A ランクで経済・経営・商学部系以 外」,……,「C ランクで経済・経営・商学部系以外」 という順で並んでいることである。  「複利計算」(図表 5-11)は,「経済・経営・商学部 系」の学生の方が「聞いたことはあるが,内容はわか らない」と回答している割合が他の群に比較して少し 高い傾向が見られる。金融広報中央委員会はペイオフ 解禁となった 2005 年度を「金融教育元年」としてい るが,ペイオフについての理解は全体として非常に低 いといえよう。  ただ図表 3-5 学年の内訳からわかるように回答者は 1,2 年生がほとんどのため大学での在学年数によっ て知識や理解が深まるかどうかの検証はできない。  この分野に関連することで,実際の知識を問うテス ト問題で,「1 ドル= 100 円から 1 ドル= 80 円になっ たら円高(ドル安)である」(図表 5-13),「100 円を 年利 2%で 1 年間預けると 2 円の利子がつく」(図表 5-14),「100円を年利2%で複利で5年間預けるとつく 利子は 10 円である」(図表 5-15),「日本銀行の金融政 策は現在主にオープンマーケットオペレーション(公 開市場操作)である」(図表 5-16)についての結果を 以下に示す。  「1 ドル= 100 円から 1 ドル= 80 円になったら円高 (ドル安)である」(図表 5-13)は,「C ランクで経 済・経営・商学部系以外」以外は 7 割から 8 割の正答 率である。それに対して,「100 円を年利 2%で 1 年間 預けると2円の利子がつく」(図表5-14)と「100円を 年利 2%で複利で 5 年間預けるとつく利子は 10 円であ る」(図表 5-15)の質問は「経済・経営・商学部系」 に在学の学生が他の学部・学科の学生よりも正答率が 高いという傾向が見られた。 図表 5-11 複利計算 図表 5-12 日本銀行の働き 図表 5-10 ペイオフ 図表 5-13  「1 ドル= 100 円」から,「1 ドル= 80 円」になったら,円高(ドル安)である

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 「日本銀行の金融政策は現在主にオープンマーケッ トオペレーション(公開市場操作)である」は,高校 生の方が大学生よりも正答率が高かったテスト問題で ある。この問題の正答率の傾向は,大学の偏差値(入 学時)と関係が見られるテスト問題であった。  「1 ドル= 100 円から 1 ドル= 80 円になったら円高 (ドル安)である」という内容は高校までで学習され, 多くの学生に理解されていると考えてよいであろう。  また,利息の計算について正答率が高いのは,A ラ ンクおよび B ランクの「経済・経営・商学部系」で, 正答率が高かった。これは大学での教育の効果が見ら れたといえるかもしれない。  「日本銀行の金融政策は現在主にオープンマーケッ トオペレーション(公開市場操作)である」(図表 5-16)は,現在の所属学部の影響よりもむしろ高校ま での学習が正答率に影響を与えている結果となってい るようである。図表 5-12「日本銀行の働き」の回答と テストの正答率は図表 5-16 と類似の傾向をしめして いる。

Ⅵ.まとめと今後の課題

 以上のことから,「消費生活に関する分野」の教育 は,「金融・経済のしくみに関する分野」よりも高等 学校までの段階で,きちんと学ばれている傾向がある ことがわかる。ただ「代金前払い方式のカードを,ク レジットカードという」の正答率の低さから,「消費 生活に関する分野」での教育が実社会を反映した内容 が不足していることを推測させる結果となっている。  この分野は大学での専攻学部・学科の影響をあまり 受けていないことがわかった。これは,経済・経営・ 商学部系であっても,「消費生活に関する分野」での 授業が開講されていないか,開講されていたとしても 教育内容が実社会を反映した内容になっていないこと を示唆しているかもしれない。  それに対して,「金融・経済のしくみに関する分野」 については,質問によっては大学,学部での教育の影 響を受けているテスト問題と,大学の偏差値と関係の あるテスト問題があり,テスト問題でばらつきが見ら れた。利息の計算について正答率が高いのは,A ラン クおよび B ランクの「経済・経営・商学部系」で,大 学での教育の効果が見られたといえる。  ただ,ペイオフについての理解は今後の長い人生で の資産形成などでは非常に重要な知識であると考えら れる。しかし現時点では全体として認知度が低い傾向 が見られ,どの学校段階でどのように教えていくのか は今後の課題であろう。さらに多重債務問題などを考 えるときに複利計算などの知識は必須であると考えら れるが複利計算についての理解も低い傾向がみられた。 現在大学進学率が約 50%であると考えると,こう いった内容については,高校までの学校段階で教える ことを検討すべきであるかもしれない。  さらにどの質問,どのテスト問題でも「C ランクで 経済・経営・商学部系以外」の学生の認知度,正答率 は非常に低かった。これは高校までの学習の積み重ね がないことを意味している。だからこそ,こういった 大学でこそ積極的に金融教育は取り組むべきであると 考える。なぜなら,知識が少ない学生も大学 1,2 年 次に成人となり,カードや多重債務問題などの金融ト ラブルに直面することになるからである。さらに金融 商品・サービスの多様化が進み消費者にとって選択肢 図表 5-14  100 円を年利 2%で 1 年間預けると,つ く利子は 2 円である 図表 5-15  100 円を年利 2%で複利で 5 年間預ける と,つく利子は 10 円である 図表 5-16  日本銀行の金融政策は,現在,主にオー プンマーケットオペレーション(公開市 場調査)である

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が広がる中で,大学の初年次教育のように全員が受講 する課目の中に金融教育を導入することを検討すべき であると考える。  そして金融教育の教育内容が実社会を反映していな いのではないかと考えられ,さらに学生にこういった 分野により興味・関心を持ってもらうためにも,実社 会を反映した内容での教材の開発などが求められてい る。 引用文献 1) 古徳佳枝「大学におけるパーソナル・ファイナンス教育の 現状と課題─全国大学シラバス調査を通して─」『ファイ ナンシャル・プランニング研究』No.6,2006 年,pp.23-46 2) 金融広報中央委員会,『金融教育プログラム─社会の中で 生きる力を育む授業とは─』2006 年 3) 金融広報中央委員会,2006 年,前掲書 4) 楠元町子「日本の金融教育とその課題─日米高校生の金 融基礎知識の比較を中心に」『愛知淑徳大学現代社会研究 科研究報告』No.1,2006 年,pp.143-156 5) 淺野忠克,「日本の高校生・大学生の金融リテラシーの現 状:『第 3 回生活経済テスト』の分析結果をめぐって」『山 村女子短期大学紀要』No.12,2000 年,pp.1-35 6) 金融広報中央委員会,『子どものくらしとお金に関する調 査(第 2 回)平成 22 年度』2012 年 7) 金融広報中央委員会,2012 年,前掲書 8) 金融広報中央委員会,2012 年,前掲書 9) 淺野,前掲書 10) 楠元,前掲書

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