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施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差およびセルフ・エフィカシーとの関連

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(1)理学療法学 第 90 43 巻第 2 号 90 ∼ 97 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 研究論文(原著). 施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差 およびセルフ・エフィカシーとの関連* 有 田 真 己 1)2)# 万 行 里 佳 3) 岩 井 浩 一 4). 要旨 【目的】施設および在宅での運動を想定した場合,それぞれ実施する自信の差を運動種目別に明らかに し,差の大きさを効果量により判定する。さらに,各運動種目を実施する自信と行動の予測因子である自 己効力感(以下,SE)との関連について明らかにする。 【対象】要支援・要介護者 114 名を対象とした。 【方法】施設および在宅での運動を想定した場合,各運動種目を実施する自信について 5 件法で調査し た。また,在宅運動 SE 尺度(以下,HEBS)を用いて,SE の程度を得点化した。【結果】在宅を想定し た場合における運動の自信は施設と比較し有意に低く,効果量は高値を示した。各運動種目すべてにお いても同じく有意に低い結果となった。運動種目別の自信の量と HEBS 得点は有意な正の相関を示した。 【結語】受け入れやすさおよび自信といった心理指標を用いることで,より対象者に適した運動内容の作 成へとつながることが示唆される。 キーワード 施設と自宅,セルフ・エフィカシー,運動. 助」「共助」「公助」の 4 つを柱に掲げている。4 つの柱. はじめに. のうち「自助」は,自分のことを自分ですること,およ.  我が国における高齢化はいうまでもなく大きな問題と. び自らの健康管理(セルフケア)と定義づけられてい. されている。なかでも,医療や介護を必要とする高齢者. る. 人口の増加に対し,病院や施設の数には限りがあること. は疾病や障害の重度化を予防する意味を含んでいる。健. から在宅医療,在宅介護,および予防を含むリハビリ. 康を管理するうえで重要となる要素のひとつは,自ら進. テーションの強化,整備が急務となっている。したがっ. んで運動を実施することである。つまり,在宅における. て,在宅における高齢者の健康をいかに管理,維持でき. 高齢者は,自ら積極的に在宅運動を実施するために「自. 1). 1). 。健康を管理することは,健康の維持,向上あるい. るかが重要な課題として挙げられている 。. 助」の力を高める必要がある。「自助」の力を高めるこ.  我が国の取り組みのひとつとしては,要介護状態と. とによって運動の開始・継続といった行動変容につなが. なってもできる限り住み慣れた地域で在宅を基本とした. り,目的とされる健康の維持・向上,予防に近づくこと. 生活の継続をめざす地域包括ケアシステムの構築が推し. が可能といえる。. 進められている。地域包括ケアシステムは,「自助」「互.  しかしながら,高齢者において「自助」の力を高める. *. Difference in Confidence for Exercises when Conducted at Care Facilities and at Home, and the Relations between Self-efficacy 1)つくば国際大学 (〒 300‒0051 茨城県土浦市真鍋 6‒8‒33) Naoki Arita, PhD: Tsukuba Internatinal University 2)茨城県立医療大学大学院保健医療科学研究科 Naoki Arita, MS: Graduate School of Ibaraki Prefectural University of Health Sciences 3)目白大学 Rika Mangyo, PT, PhD: Mejiro University 4)茨城県立医療大学 Koichi Iwai, PhD: Ibraraki Prefectural University # E-mail: [email protected] (受付日 2015 年 8 月 21 日/受理日 2015 年 12 月 24 日) [J-STAGE での早期公開日 2016 年 2 月 29 日]. ことは,簡単なことではない。高齢者の多くは,加齢に 伴い身体機能の低下はもちろん認知機能も低下する。こ の機能低下をきっかけに自己効力感(Self-Efficacy:以 下,SE)の低下,否定的考えの保持(やってもムダ) , 内部の安定した原因への帰属(もう年だからしょうがな い),および動機づけの低下につながる。そして,次第 に自ら進んで運動を実施しなくなりその結果,身体不活 動から廃用症候群に陥りやすいとされる. 2). 。さらに,多. くの高齢者は実際,不十分であるにもかかわらず,健康 を維持するための運動量が日常生活における運動で十分.

(2) 施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差. 91. であると感じている 3)。つまり,高齢者は身体機能の低. すなわち SE が高まることへつながる。SE は,一貫し. 下が引き金となり廃用症候群に陥る負の連鎖に加え,適. て運動を実施する行動へ強い正の影響をもたらす一方,. 度な運動量に対する認識のズレが原因で運動行動に至ら. 行動の予測因子としての働きも併せもつ心理的指標であ. ないことがわかる。このような複雑な特徴を抱える高齢. る. 者に対する介入には,単に身体機能の向上をめざした介. とつの要因であると解釈できる。SE を測定する尺度は,. 入をするだけでなく心理的要素を含んだ介入が必要不可. 文脈や状況に依存性が高いため,特異な状況や場面,あ. 欠である。. るいは課題や活動に関するものでなければならない。竹.  リハビリテーション分野において,在宅生活を送る高. 中ら(2002). 齢者あるいは退院後の患者に対し,疾病や障害の重度化. した 1)課題 SE,運動の妨げとなるバリアに抗して運. を防ぐことを目的とした在宅運動の支援は欠かせない。. 動を行う自信を表した 2)自己調整・バリア SE,およ. 支援のひとつとしては,在宅運動メニューの作成および. び能力があると判断する活動の範囲がどの程度,般化す. 指導による支援である。しかしながら,在宅運動継続率. るかを表した 3)一般性 SE,の 3 つに分類している。. は一定して高い値を示すとは限らない。たとえば,大. この特徴を踏まえ,これなら「できる」といった SE を. 骨頸部骨折後の在宅運動継続率は,14 ∼ 80%と幅広い. 多角的に評価することは,「自助」の力がどの程度であ. 4‒6). 12‒14). 。つまり,SE は「自助」の力を高めるためのひ. 15). の研究報告によれば,運動内容を基に. 。さらに,在宅運動は 6 ヵ月以上. るかを量的に把握することにつながり,今後の運動を開. にわたると確実に継続率が下がり,6 ヵ月以内に 48%も. 始・継続する可能性を見積もることができるといった点. 報告がされている. の高齢者が離脱することが明らかとなっている. 7)8). 。ま. 9). で重要である。. た,Simek ら(2012) の高齢者を対象とした在宅運動.  在宅生活を送る高齢者あるいは退院後の患者に対し,. 継続率に関するレビュー結果から,その継続率は 21%. 疾病や障害の重度化を防ぐことを目的とした在宅運動を. ときわめて低いことが報告されている。したがって,指. 支援する際,運動メニューの受け入れやすさを探るこ. 導の際,理学療法士は運動を自ら実践させるための「自. と,および SE を評価することのふたつを工夫すること. 助」の力を高める工夫が必要とされる。その工夫にはふ. により「自助」の力が高まることへつながる。その結果,. たつある。. 在宅運動を開始・継続する可能性を高め,目的である健.  まずひとつ目は,在宅運動メニューの受け入れやすさ. 康の維持,向上,および疾病や障害の重度化の予防に近. (Acceptability)を探ることである。受け入れやすさを. づける。. 探ることは,その後の運動を開始・継続できる可能性を.  しかしながら,運動メニューの作成においてメニュー. 高める意味でも重要である。なぜなら,たとえ運動が健. 内容と受け入れやすさの整合性を個人レベルで調整する. 康の維持や障害の予防として重要であると認識しても,. 具体的な方法が明確ではない。臨床経験や指導者側の主. その運動メニューの内容事態が難しければ開始・継続す. 観的な見積もりに頼っている面は否めない。また,病院. る可能性は低くなるからである。対象者にとって運動メ. や施設における運動と比較し,在宅における運動は器. ニューの内容が受け入れやすいものであることは,運動. 材,器具,およびマンパワーの不足からその実行の可能. を開始・継続する可能性を高めることにつながる。した. 性が低いことが予想される。実際,在宅における筋力ト. がって,運動メニューの作成においては,その内容と受. レーニングおよびバランストレーニングの実施率は 60. け入れやすさの整合性を個人レベルに合わせ吟味したう. 歳代で 2.5%,70 歳以上ではわずか 0.6%ときわめて低. えで調整することが重要である。. い状況である.  運動メニューの内容について World Health Organi-. と受け入れやすさの整合性を調整する方法を明らかにす. zation(WHO)の高齢者を対象とする運動ガイドライ. る必要がある。. ンでは,施設や器具を使用する必要がなく限られた環境.  さらに,高齢者に対し推奨されている運動種目は提示. 下においても有効なプログラムの提供が可能であること. されているものの病院や施設の整った環境と自宅の環境. 10). 11). 。このことからも,運動メニュー内容. は,椅子を利. の違いによる各種目の受け入れやすさ,あるいは「やれ. 用した自体重による筋力トレーニングを作成し 10 回連. る」といった見込み感について,客観的数値で表した研. 続で行うことを勧めている。したがって,高齢者を対象. 究は見あたらない。数値化することにより,指導者側の. とした運動種目は,高齢者にとって受け入れやすいもの. 主観的に見積もっている部分の客観的な裏付けにつなが. が推奨されており,在宅運動のメニュー作成に有効活用. り,経験に頼らなくともある程度の整合性の精度を高め. できる。. ることにつながる。.  ふたつ目は,SE を評価することである。運動メニュー.  そこで,本研究の目的は,①運動メニュー内容につい. の受け入れやすさが高まることにより,目標とする運動. て,施設および在宅で実施することを仮定した場合,そ. をどの程度成功裏に遂行できるかについての見込み感,. れぞれの環境の違いによる自信の差を明らかにすること. を述べている. 。また,久野(2009). 16).

(3) 92. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 表 1 対象者の属性. である。また,差の大きさの程度を効果量により数値と して評価することである。さらに,②運動メニューを作 成する際,整合性の精度を高めるひとつの手段材料にす. 属性. n(114). 性別. 男性. 52. 女性. 62. 年代. 75 歳未満. 27. 75 歳以上. 87. 整形. 56. 中枢. 40. 内部・特殊. 18. 要支援 1・要支援 2. 29. 要介護 1・要介護 2. 73. 要介護 3 以上. 12. るため,各運動メニューを実施する自信と行動の予測因 子でもある SE との関連について明らかにすることを目 的とする。以上の 2 点を明らかにし,今後リハビリテー ション従事者が具体的な在宅運動メニューを提供する. 主疾患. 際,受け入れやすさ,および SE といった心理的指標を 用いた定量的な評価の実践につながることを期待する。 介護度. 対象および方法  介護老人保健施設 A および B において通所リハビリ テーションを利用する要支援・要介護者 114 名(男性;. 運動変容ステージ. 52 名,女性;62 名,平均年齢 80.0 ± 9.2 歳)を対象と した。対象者の採択基準は,認知症高齢者の日常生活自 立度判定基準Ⅰ以下の者とし,調査にあたり言語指示が 理解可能であり,コミュニケーション能力に支障をきた. 1 前熟考期. 9. 2 熟考期. 23. 3 準備期. 30. 4 実行期. 15. 5 維持期. 37. 本研究の対象者における属性を示した表である.. さないと理学療法士が判断した者を対象とした。  本研究は,理学療法科学学会研究倫理委員会の承認を 得て実施した(承認番号;SPTS2012002)。調査対象者. 表 2 施設と自宅における運動実施に対する自信の差. 明した。  調査項目は,対象者の属性(性別,年齢,主疾患,介 護度,運動変容ステージ. 17). ) ,運動 12 種目(座位:①膝. 伸展・②もも上げ・③両膝伸展,立位:④片膝屈曲・⑤ 片股外転・⑥両踵上げ・⑦スクワット・⑧手放し立位・ ⑨閉脚立位・⑩片脚立位・⑪横歩き・⑫タンデム歩行) の実施に対する自信について,それぞれ, 「1.まったく. Cohen’s d. Mean. SD. 施設. 51.78. 7.9 ***. 自宅. 36.55. に本研究の目的,協力の任意性等を文書および口頭で説. 1.48. 12.3. 施設と自宅における運動実施に対する自信の差を表した. 平均値,標準偏差および効果量を明記している. Cohen’s d の基準は,小さい> 0.20,中等度> 0.50,大きい > 0.80 である. ***:p < 0.001 Mean:平均値 SD:標準偏差 Cohen’s d:効果量. 自信がない」 ,から「5.絶対自信がある」 ,までの 5 件 法で調査した。なお,12 種目の運動について,それぞれ 施設および在宅で実施することを仮定した場合における. び自宅における自信の平均得点についてピアソンの積率. 自信の程度を聞き取った。本研究で取り扱う運動の種目. 相 関 係 数 を 用 い て 算 出 し た。 効 果 量 の 指 標 で あ る. 11). は,久野(2009). および Prtricia(2006)18) を参考に. Cohen’s d における数値の解釈は,小さい> 0.20,中程 20). 。なお,データ解析. 理学療法士が日常的によく使うと判断した 12 種目を抽. 度> 0.50,大きい> 0.80 とした. 出した。さらに,在宅運動を実施する自信との関連を明. には,SPSS21.0 for windows を使用した。有意水準は. 19). らかにするため,有田ら(2014). の開発した「疲労」 ,. 「痛み」 , 「気分」 , 「時間」 , 「道具・環境」 , 「単独」の 6 項目からなる在宅運動セルフ・エフィカシー尺度(Home. 5%とした。 結   果. Exercise Barrier Self-Efficacy Scale:以下,HEBS)を用.  本研究における対象者の属性について表 1 に示す。. いて,SE の程度を得点化した。HEBS は,下位 6 項目. 主疾患,介護度,運動変容ステージに偏りは見られな. のバリア要因に抗してでも自宅で運動を実施する自信の. かった。. 程度について計測する 5 件法を用いた評価尺度であり,.  施設および自宅において運動を実施することを仮定し. 信頼性および妥当性が確認されている。. た場合における自信の差を表 2 に示す。その結果,自宅.  統計解析は,12 種目の運動に対する自信の得点につ. で運動を実施すると仮定した自信は,施設で運動を実施. いては対応のある t 検定を用いた。12 種目の因子を確. すると仮定した自信より有意に低い値となった(p <. 認するため主因子法,プロマックス回転による因子分析. 0.001) 。また,その効果量は,1.48 ときわめて高い値を. を行った。さらに,立位・座位運動の自信の合計得点と. 示した。そこで,各運動種目別に施設および自宅それぞ. HEBS の関連,および HEBS の下位 6 項目と施設およ. れの自信の差について表 3 に示す。12 種目の運動項目.

(4) 施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差. 93. 表 3 施設と自宅における各運動項目を実施する自信の差. 運動種目. 施設で実施する自信. 自宅で実施する自信. Mean. Mean. SD. SD. t(113). Cohen’s d. 座位:膝の伸展. 4.67. 0.61. 3.70. 1.11. 12.9 ***. 1.09. 座位:もも上げ. 4.67. 0.63. 3.63. 1.11. 13.7 ***. 1.15. 座位:両膝伸展. 4.61. 0.67. 3.56. 1.15. 14.1 ***. 1.11. 立位:片膝屈曲. 4.34. 0.75. 2.92. 1.29. 17.0 ***. 1.35. 立位:片股外転. 4.34. 0.71. 2.92. 1.24. 18.1 ***. 1.40 1.32 0.75. 立位:両踵上げ. 4.30. 0.78. 2.89. 1.30. 17.1 ***. スクワット. 4.54. 0.69. 3.82. 1.16. 8.5 ***. 手放し立位. 4.59. 0.70. 3.80. 1.31. 9.2 ***. 0.75. 閉脚立位. 4.37. 0.86. 2.93. 1.43. 15.7 ***. 1.22. 片脚立位. 4.09. 0.99. 2.34. 1.40. 17.7 ***. 1.44. 横歩き. 4.06. 0.93. 2.42. 1.48. 15.6 ***. 1.33. タンデム歩行. 3.21. 1.29. 1.61. 1.09. 15.5 ***. 1.34. 各運動項目別の実施する自信の差(施設と自宅での比較) 平均値,標準偏差および t 値を明記している. ***:p < 0.001 Mean:平均値 SD:標準偏差 Cohen’s d:効果量. 表 4 運動種目の因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン) Ⅰ. Ⅱ. 0.98. ‒ 0.10. 6.立位での踵上げ運動. 0.83. 0.12. 9.閉脚立位. 0.82. 0.01. 0.82. ‒ 0.05. 0.79. 0.17. 10.片脚立位. 11.横歩き 5.立位での股関節外転運動. 0.78. ‒ 0.14. 4.立位での片膝屈曲運動. 0.76. 0.18. 8.手放し立位. 0.58. 0.17. 7.スクワット. 0.43. 0.42. 2.座位でのもも上げ運動. ‒ 0.08. 1.05. 1.座位での膝伸展運動. ‒ 0.07. 0.98. 0.06. 0.89. 12.タンデム歩行. 3.座位での両膝伸展運動 因子間相関. 0.68. 各運動種目の因子分析結果である. 2 つの因子が抽出され,因子間相関は,0.68 であった. 因子負荷量は 0.40 以上を基準に採択している.. すべてにおいて,自宅で実施する自信が施設で実施する.  次に,12 種目の運動項目について因子分析(主因子. 自信と比較し有意に低い値となった。特に,タンデム歩. 法,プロマックス回転)を行った(表 4)。その結果,. 行などのバランス能力を必要とする運動項目における自. 解釈可能性から 2 因子を抽出した。第 1 因子に負荷量の. 信の程度は,自宅で実施する場合きわめて低い結果と. 高い項目は, 「片脚立位」「立位での踵上げ」「閉脚立位」. なった。一方,平均値の高い上位項目は,「座位での膝. 「横歩き」 「立位での股関節外転運動」 「タンデム歩行」. 伸展運動」「座位でのもも上げ運動」「座位での両膝伸展. 「立位での片膝屈曲運動」 「手放し立位」 「スクワット」. 運動」であった。さらに,スクワットおよび手放し立位. であった。したがって,いずれも立位における運動を表. の効果量は中等度の値を示したが,それ以外の運動種目. す因子と解釈された。そこで,この因子は“立位運動の. はすべて大きい数値を示した。. 自信”と命名された。第 2 因子に負荷量の高い項目は,.

(5) 94. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 表 5 HEBS 得点と立位・座位運動の自信との相関. HEBS. HEBS. 立位運動の自信. 座位運動の自信. 1. 0.62 **. 0.66 **. 1. 0.68 **. 立位運動の自信 座位運動の自信. 1. 表 3 で抽出された 2 因子(立位運動の自信,座位運動の自信)と HEBS 得点との相関を示した. HEBS 得点と立位および座位運動の自信は正の相関関係にあることを示し ている. **:p < 0.01. 表 6 HEBS 下位項目と施設および自宅における自信の相関 下位項目. HEBS. 施設. 自宅. 疲労. 0.47 **. 0.58 **. 痛み. 0.53 **. 0.58 **. 気分. 0.46 **. 0.50 **. 時間. 0.41 **. 0.50 **. 道具・環境. 0.46 **. 0.52 **. 単独. 0.49 **. 0.53 **. HEBS の下位項目得点と施設および自宅それぞれにおける自信の相 関について示した. 下位項目すべてにおいて施設および自宅と正の相関関係にあること を示している. **:p < 0.01. 「座位での膝伸展運動」「座位でのもも上げ運動」「座位. 際,整合性の精度を高めるひとつの手段材料にするた. での両膝伸展運動」であった。したがって,この因子は. め,各運動メニューを実施する自信と行動の予測因子で. 座位における運動を表す因子と解釈された。そこで,こ. もある SE との関連について明らかにすることを目的と. の因子は“座位運動の自信”と命名された。. した。.  このように,12 種目の運動項目は, “立位運動の自信”.  表 2 の結果から,要支援・要介護者における運動の実. “座位運動の自信”ふたつの因子から構成されているこ. 施に対する自信は,施設で実施すると仮定した自信と比. とが明らかとなった。. 較し,自宅で実施すると仮定した自信がかなり低いこと.  そこで,HEBS 得点と立位・座位運動の自信における. が明らかとなった。この結果から,様々な要因が自宅に. 関連性の結果について表 5 に示す。自宅で運動を実施す. おいて運動を実施する自信に対し負の影響を及ぼしてい. る自信(HEBS)の得点と立位・座位運動の自信は,そ. ると考えられる。たとえば,1)なんらかの疾病や傷害. れぞれ高い正の相関関係にあることがわかった。さらに,. を抱える要支援・要介護者は,虚弱あるいは痛みといっ. HEBS の下位 6 項目(疲労,痛み,気分,時間,道具・. た身体機能面の要因が運動を実施する自信を低く見積. 環境,単独)と施設および自宅における運動の自信につ. もっている。2)自宅において運動を実施する環境は,. いての関連性を表 6 に示した。その結果,下位 6 項目と. 施設と比較し器材および道具といった面で整っていな. 施設および自宅を仮定した運動実施の自信との関連性. い。3)施設は,リハビリテーションの専門家が常駐し. は,いずれも有意な正の相関関係にあることがわかった。. ていることから,運動した際の怪我および傷害への対処. 考   察. が可能である。これが運動を実施する安心感を生み,そ の結果,自信につながっている。4)施設における運動.  本研究の目的は,①運動メニュー内容について,施設. は,同じような境遇にいる友人が多く存在し,その友人. および在宅で実施することを仮定した場合,それぞれの. の一生懸命,運動を実施している姿が励ましとなり自信. 環境の違いによる自信の差を明らかにすることである。. を高める。これらの要因が自宅における運動の自信の程. また,ふたつの環境の違いによる差の有無を検定するだ. 度を低く見積もっている原因であると推測する。有田ら. けでなく差の大きさの程度を効果量により数値として評 価することである。さらに,②運動メニューを作成する. 21). (2013). による要支援・要介護者を対象とした在宅運. 動の実施に影響を与えるバリア要因を検討した研究結果.

(6) 施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差. 95 22)23). では,身体,心理,社会,環境的要因が運動実施に影響. る因子であることが多くの研究で示されている. していることを明らかにしている。このように,多様な. したがって,HEBS を高めることが立位,および座位運. 要因が自宅における運動の実施に対し自信を低下させて. 動の自信につながり,運動の実施に至ることが示唆され. いる可能性が考えられる。理学療法士がこれらの妨げと. る。Bandura(1977). なっている要因を特定し対処することによって,対象者. 経験すると即時的な結果を求めるようになり,そのよう. 自身の「自助」の力が高まるのではないかと考える。. にして構築された自信は失敗体験により簡単に崩壊しう.  さらに,効果量の値がきわめて高い数値を示したこと. る。SE の確固たる向上は,辛抱強い努力により困難や. から,施設と自宅それぞれにおける運動の自信の差異は. 障害を克服してこそ得られるものである」と述べてい. 非常に大きいことがわかる。効果量を示したことにより. る。この提言を考慮すれば在宅運動メニューを作成する. リハビリテーション従事者をはじめ,在宅運動を支援す. にあたり,対象者にとって少し難しくも超えられる種目. る立場の者は,自宅におけるバリア要因に目を向けた支. および負荷といった課題全体の質と量について専門家の. 援の強化を図る必要性が高まるのではないかと考える。. 視点を駆使しデザインすることが望ましいといえる。. また,今後の在宅と施設における運動の研究を研鑽する.  さらに,HEBS の下位 6 項目と施設および自宅におけ. うえで比較検討しやすい指標となる。. る運動実施に対する自信との関連性を検討した結果,疲.  次に,運動の種類に着目した表 3 の結果では,タンデ. 労,痛み,気分,時間,道具・環境,単独の 6 項目のス. ム歩行といったバランストレーニングは,たとえ施設内. コアは,いずれも施設および自宅における自信と正の相. で実施するとしても自信の程度は低いことがわかった。. 関関係にあることが示された。このことから,HEBS の. 一方,座位を中心とした運動種目は,自信の程度が高く. 評価を実施することにより対象者の在宅運動を実施する. 要支援・要介護者にとって受け入れやすい運動種目とい. 自信について,負の影響を及ぼしている詳細な要因を絞. える。この結果は,自信と密接な関係にある転倒への恐. りこむことが可能となる。こうして,絞られた要因に的. 怖心が絡んでいると推測する。一般に座位運動と比べ立. を絞った対策を作成,実行することにより,運動を実施. 位運動は転倒の危険性が高まる。このことが,直接的に. する自信を高めることができる。Vidmar ら(1994). 自信を低下させていると考える。また,自宅には,転倒. は,課題 SE と比較しバリア SE 尺度の方が運動行動測. を回避するための十分な環境が整っていないことも作用. 度と高い相関係数を示すこと,また,運動行動測度を基. しているものと考える。たとえば,自宅にはしっかりと. 準変数とする重回帰分析においてもバリア SE が重要な. 安定した手すりがないため,立位での運動を実施する. 説明変数であることを報告している。つまり,HEBS の. 際,転倒恐怖心が高まり結果的に自信が低下するといっ. 下位 6 項目に対する対策は,対象者の運動を開始,継続. た負の考えに陥る。特に退院を控える高齢者の場合,住. させるうえできわめて重要なポイントであるといえる。. み慣れた住環境がそのまま在宅運動の実施につながるか. また,HEBS の得点を高めることが,施設および自宅に. 十分に事前評価することが重要といえる。. おける運動を実施する自信を高めることが明らかとなっ.  今回,12 種目の運動項目すべてにおいて,施設で実. たことから,施設や病院にいる対象者から在宅高齢者ま. 施すると仮定した自信と比較し自宅で実施すると仮定し. で,幅広い対象者への対策につながることが示唆され. た自信が有意に低い結果を示した。このことから,在宅. る。また,リハビリテーション従事者にとって,運動を. 運動メニューを提供する際,運動種目それぞれにおいて. 実施する環境の違いが運動を実施する自信に影響するこ. 実施する自信,および受け入れやすさを評価することが. とを十分に知ることとなった。. 重要である。これらを事前に評価することにより,運動.  最後に,本研究は横断研究であるため,各運動種目の. 種目と受け入れやすさの整合性が高まり,結果的に在宅. 自信の高まりが運動の開始,継続につながっていること. における運動の開始・継続へとつながる。つまり,「自. を確かめるためには限界がある。今後は,在宅運動の実. 助」の力を引きだすうえで,まずは受け入れやすさを吟. 施率につながるかどうかについて,縦断的な研究を検討. 味し,次に運動の実施に対する自信につながったかどう. する必要がある。また,本研究の対象者は,要支援・要. かについて十分に検討する必要がある。. 介護者であったため,今後は実際に入院している対象者.  運動 12 種目について因子分析をした結果,立位運動. と比較検討することにより,施設と自宅における運動の. の自信および座位運動の自信といったふたつの因子が抽. 自信についてより明確な知見を得ることができる。さら. 出された。この 2 因子と HEBS の関連について検討し. に,対象者の平均年齢が 80 歳と高齢であったことから,. た結果,高い正の相関係数が示されたことから,HEBS. 少し若い中高年者層と比較するなど,幅広い年齢層への. の得点が高いほど立位運動および座位運動の自信が高ま. 適応も視野に入れた研究が必要と考える。. る可能性が明らかとなった。SE は対象とする課題に特 異的に働き,身体活動・運動の増強に強くかかわってい. 24). 。. は,「個人が簡単な成功ばかり. 25).

(7) 96. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 結   論  今回の結果から,なんらかの障害や疾病を抱える要支 援・要介護者は,自宅を想定した際,施設で実施する場 合と比べて運動を実施する自信がきわめて低いことが明 らかとなった。また,立位・座位運動を実施する自信は, HEBS 得点と正の相関関係にあることから,HEBS 得点 が高い対象者は,立位・座位運動を開始・継続する可能 性が高いと考えられる。在宅運動メニューを提供する 際, 運 動 種 目 と 受 け 入 れ や す さ, お よ び 心 理 指 標 (HEBS)を絡めた評価の実践が,より対象者との整合 性のとれた運動メニュー内容の作成へとつながることが 示唆される。本研究の結果は,自宅退院を控える患者, 訪問リハビリテーションにおける在宅患者,あるいは通 所リハビリテーションに通う在宅高齢者といった在宅運 動が必要であろう対象者にとって「自助」の力を高める 一助につながるものといえる。 文  献 1)厚生労働省ホームページ.http://www.mhlw.go.jp/(2015 年 7 月 29 日引用) 2)Lachman ME, Jette A, et al.: A cognitive behavioral model for promoting regular physical activity in older adults. Psychol Health Med. 1997; 5: 251‒261. 3)McAuley E, Lox C, et al.: Long-term maintenance of exercise, self-efficacy, and physiological change in older adults. J Gerontol. 1993; 48: 218‒224. 4)Tsauo J, Leu W, et al.: Effects on function and quality of life of postoperative home-based physical therapy for patients with hip fracture. Arch Phys Med Rehabil. 2005; 86: 1953‒1957. 5)Mangione KK, Craik RL, et al.: Can elderly patients who have had a hip fracture perform moderate-to highintensity exercise at home? Phys Ther. 2005; 85: 727‒739. 6)Sherrington C, Lord SR, et al.: A randomized controlled trial of weight-bearing versus non-weight-bearing exercise for improving physical ability after usual care for hip fracture. Arch Phys Med Rehabil. 2004; 85: 710‒716. 7)Spink MJ, Fotoohabadi MR, et al.: Predictors of adherence to a multifaceted podiatry intervention for the prevention of falls in older people. BMC Geriatr. 2011a; 11: 51. 8)Morey MC, Pieper CF, et al.: Exercise adherence and 10-years mortality in chronically ill older adults. J Am. Geriatr Soc. 2002; 50: 1929‒1933. 9)Simek EM, McPhate L, et al.: Adherence to and efficacy of home exercise programs to prevent falls: A systematic review and meta-analysis of the impact of exercise program characteristics. Prev Med. 2012; 55: 262‒275. 10)Chdzko-Zaicho WJ: The world health organization guidelines for promoting physical activity among older persons. J Aging Phys Act. 1997; 5: 1‒8. 11)久野譜也:介護予防のための筋力トレーニング指導法:マ シンを使わない自体重による筋力トレーニング(第 2 版) . ナップ社,東京,2009. 12)竹中晃二:高齢者に対する健康エクササイズプログラムの 考え方―行動科学の立場から―.日本臨床スポーツ医学会 誌.2000a; 8: 235‒241. 13)Stretton CM, Latham NK, et al.: Determinants of physical health in frail older people: the importance of self-efficacy. Clin Rehabil. 2006; 20: 357‒366. 14)Boyd CM, Xue QL, et al.: Hospitalization and development of dependence in activities of daily living in a cohort of disabled older women. Biol Sci Med Sci. 2005; 60: 888‒893. 15)竹中晃二,上地広昭:身体活動・運動関連研究における セルフ・エフィカシー測定尺度.体育学研究.2002; 47: 209‒229. 16)Harada K, Oka K, et al.: Prevalence and Correlates of Strength Training among Japanese Adults: Analysis of the SSF National Sports-Life Survey. International Journal of Sports and Health Science. 2008; 6: 66‒71. 17)岡浩一郎:運動行動の変容段階尺度の信頼性および妥当性 ―中年者を対象にした検討―.健康支援.2003; 5: 15‒22. 18)Patricia AB:高齢者のための生活関連体力強化法.田中 喜代次,奥野純子(訳),ナップ社,東京,2006. 19)有 田 真 己, 竹 中 晃 二, 他: 高 齢 者 に お け る 在 宅 運 動 セ ルフ・エフィカシー尺度の開発.理学療法学.2014; 41: 338‒346. 20)水本 篤,竹内 理:研究論文における効果量の報告の ために―基礎的概念と注意点―.英語教育研究.2008; 31: 57‒66. 21)有田真己,竹中晃二,他:要支援・要介護者における在 宅運動の実施に影響を与える要因の検討.理学療法科学. 2013; 28: 83‒88. 22)Conn VS: Older adults and exercise: Path analysis of selfefficacy related constructs. Nurs Res. 1998; 47: 180‒189. 23)McAuley E, Jacobson L: Self-efficacy and exercise participation in sedentary adult females. Am J Health Promot. 1991; 5: 185‒191. 24)Bandura A: Self-Efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev. 1977; 84: 191‒215. 25)Vidmar PM, Rubinson L: The relationship between selfefficacy and exercise compliance in a cardiac population. J Cardiopulm Rehabil. 1994; 14: 246‒254..

(8) 施設および在宅での実施を想定した運動種目に対する自信の差. 〈Abstract〉. Difference in Confidence for Exercises when Conducted at Care Facilities and at Home, and the Relations between Self-efficacy. Naoki ARITA, PhD Tsukuba internatinal University Graduate School of Ibaraki Prefectural University of Health Sciences Rika MANGYO, PT, PhD Mejiro University Koichi IWAI, PhD Ibraraki Prefectural University. Purpose: Assuming that exercises are conducted in care facilities and at home, differences between them related to self-confidence should be estimated by the type of exercise. The magnitude of the difference should be judged by that of the effect. Furthermore, the relation should be shown between self-confidence to perform each exercise and a feeling of self-efficacy (SE), predictive effects of action. Subjects: Subjects of this study were 114 people requiring support or care. Methods: Assuming exercise at care facilities and at home, the self-confidence to perform each exercise was surveyed using a five-point scale. Additionally, the degree of SE was scored using a home exercise barrier SE scale (HEBS). Results: Self-confidence in exercises assumed to be performed at home was significantly lower than that at care facilities, indicating a high level of effect. It was also significantly low for all exercises. The self-confidence for exercises was significantly and positively correlated with HEBS scores. Conclusion: Using an acceptable psychological index such as self-confidence is expected to facilitate planning of exercise contents that are more appropriate to individual subjects. Key Words: At facilities and at home, Self-efficacy, Exercise. 97.

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