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甲殻類の寄生・共生と生物多様性 : 企画趣旨とシンポジウム内容(シンポジウム報告 甲殻類の寄生・共生と生物多様性)

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Academic year: 2021

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(1)

甲殻類の寄生・共生と生物多様性

一企画趣旨とシンポジウム内容

Carcinological Society 0 1 Japan

Parasitism and symbiosis of crustaceans and biodiversity: symposium objectives and contents

逸見泰久

l

Yasuhisa Henmi

甲殻類には,

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寄生種

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が多い . Rohde (1993)は, 甲殻類の少なくとも1 0 %以上は「寄生種

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である としている. 一方,他種の「宿主」となる種も甲殻 類には多く,多くの種が,体表や体内,あるいは巣 穴を,他種の住み場所として提供している. そのた め,寄生性甲殻類や宿主となる甲殻類を研究材料と している研究者は少なくない. しかし,その 一方 で,

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寄生 ・共生」を主要な研究テ ーマとした研究 は多いとはいえない. これは,本シンポジウムでも 触れられているように,寄生性甲殻類や宿主となる 甲殻類の研究上の困難さ( 対象種が微小であると か,移動性が高いとか,飼育が難しいといった点) とは無関係ではないだろう . 本シンポジウムでは,

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甲殻類の寄生 ・共生」を 主要な研究テ ーマとしている研究者に講演を依頼 し,寄生性の甲殻類,宿主となる甲殻類,甲殻類に 寄生する甲殻類など,甲殻類の寄生 ・共生の多様な 世界を紹介して頂いた. 以下に,プログラムを掲載 する . 日本甲殻類学会第 50 回 熊 本 大 会 一 般 公 開 シ ン 1 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センタ一 合津マ リンステーション 干861-6102 熊本県上天草市松島町合津6061 合津 マリンステーション

Aitsu Marine Station, Center for Marine Environment Studies, Kumamoto University, 6061 Aitsu, Matsushima, Arnakusa, Kurnamoto 861-6102, Japan

E-mail: henmi@gpo.kumamoto-u凪 jp ポジウム 「甲殻類の寄生・共生と生物多様性」 2012年10月21日( 日) 9:00 - 12:00 熊本大学工学部2号館223講義室 逸見泰久 ・伊 谷 行 ( 世 話 役 ) (1)甲殻類の寄生・共生と生物多様性( 趣旨説明に 代えて) 逸見泰久( 熊本大学沿岸域環境科学教育研究セ ンター) (2)寄生者・共生者の宿主となる甲殻類 伊谷行( 高知大学教育学部) (3)カクレガニにみられる宿主特異性および生活史: ヒラピンノの場合 渡部哲也( 西宮市貝類館) (4)深海の海綿を宿主とするエビ類 斉藤知己( 高知大学総合研究センター) (5)魚類に寄生するウミクワガタ科幼生の宿主利用 太田悠造( 広島大学 ・院 ・生物圏科学) (6)ウミシダ類を宿主とする十脚目甲殻類の種多様 性と生態 藤田喜久( 琉球大学 ・大学教育センタ ー)

園語吾言す語

コメント ( 1 ) 海草を宿主とする甲殻類 青木優和( 東北大 ・院・農) (2)レッドリストと寄生・共生 逸見泰久( 熊本大学沿岸域環境科学教育研究セ ンタ ー)

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(3)外来種と寄生 ・共生 伊谷行( 高知大学教育学部) シンポジウム は,日本甲殻類学会の会員以外の一 般の市民にも公開して行われた . そのため, シンポ ジウムの冒頭で,世話役のひとりである逸見から, M o巾 n(1988)のイラスト等を使用し, 一般向けの 寄生 ・共生に関する解説が行われた. 内容は,以下 のようなものであった. 「寄生種」ゃ「宿主」という言葉は,一般の人に は馴染みのない言葉かもしれない. このシンポジウ ムを始めるには,まずこれらの言葉を定義する必要 があるだろう. ある生物の体表,体内,あるいは巣 内で生活する種が,その種( 宿主) から栄養や住み 場所を奪い,何らかの不利益を与える場合を「寄 生」と呼ぶ. 一般に,

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寄生虫」と呼ばれるが,寄 生生物は,動物から植物,菌類など,あらゆる生物 群に及んでいる. また,逆に,住み着いている生物 に利益を与えている場合や利益 ・不利益が不明な場 合を「共生」と 呼ぶ. さ らに ,寄生 ・共生されてい る生物を「宿主」と呼び,寄生 ・共生している生物 を「寄生者」 ・「共生者」と呼ぶ( 宿主と寄生者の複 雑な種間関係については,伊谷行さんの本シンポジ ウム報告に詳しい) . アサリRuditapes philippinarum の中に小さなカニ が入っていることがある. このカニは,アサリに食 べられたわけではなく,アサリに寄生し,アサリの 餌を横取りしているのである. オオシロビンノ Pinnotheres sinensis と呼ばれるピンノ類( カクレガ ニ科) であることが多いが, この場合,アサリが宿 主,オオシロビンノは寄生者ということになる. 他 にも,カギツメピンノPinnotheres pholadis など多く のピンノ類が知られるが,分類学的研究が遅れてお り,また,利用している宿主の種類やピンノ類自体 の生活史などもよくわかっていない場合が多い. 本シンポジウムでは ,

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甲殻類の寄生 ・共生」を 主要な研究テーマとしている研究者に講演を依頼し た.

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寄生や共生」は,書物やテレビ番組で扱われ ることが少ないため,一般の人には馴染みのない生 物の生き方かもしれないが,どの講演からも,

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多 様で独特な寄生 ・共生の世界

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を垣間見ることがで きるはずである. さらに,寄生 ・共生の具体例として,逸見の研究 室で行われた 2 つの研究が紹介された. (1)ウミホタルガクレの寄生と性転換 寄生種の中に は, 変わった生活史を持つものが多 い. 等脚目ヤドリムシ亜目に属するウミホタルヵーク レOnisocryptus ovalis は,雄性先熟の生活史を持つ 寄生性の甲殻類で, ウミホタル均rgula hilgendoぞか ( 甲殻類貝形虫亜網) を宿主とする(Henmi & Okamoto, 2002; 逸見, 2004) . 体長はオスで約 1 m m,メスで は成熟状態で異なるが最大で約1 .9 m m である( 図 1). 宿主のウミホタルは,体長最大約 3 m m で,ア マモが生育するような砂泥質の海底に生息する . 体 全体が透明な二枚貝状の殻で覆われているため,背 甲内に産卵した卵の状態や,寄生者であるウミホタ ルガクレを生きたまま観察できる . ウミホタルガクレは雄性先熟の性転換を行い,性 転換に伴って体制が大きく変化するという特殊な生 活史を持つ. また,メスに性転換すると付属肢をな くし,体が大きく膨れて移動能力を失い,宿主を変 えることができない. そのため繁殖成功の可否は宿 主の生死に左右される . さらに,ウミホタルガ、クレ のメスは幼生を放出した後すぐに死んでしまうた め,性転換後に繁殖に参加できる機会は一度きりで ある. このように,ウミホタルガクレが性転換する ことにはいくつものリスクが伴う . 岡本 ・逸 見 (2002) は,

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ウミホタルガクレにとって最適な繁殖 戦略は,可能な限り多数回オスとして受精した後に 性転換し,宿主内の単独メスとしてより多くの卵を 産卵し死ぬことである』と推測している. ただし, たとえオス期に多数回受精することが繁殖上有利で あっても,メスがいなければ繁殖は成り立たない. そのため,ウミホタルガクレの性転換には,実効性 比が影響するだろう . 6月) には複数のウミホタルガクレがl個体の宿主 に寄生し,多くの個体がオスとして交尾し,卵を受 精させていた( 松原・逸見準備中) . また,室内実験では,ウミホタルガクレのオスに 2 個体の異なる条件の宿主( ウミホタルガクレのメ

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図1 . ウミホタルのメス (a,b とも) とそれに寄生したウミホタルガクレ( 白丸内, a: オス, b : メス) アリアケヤワラガニ (カニ類・巣壁) N = 8 9 A地点 5 .8% B地点 0 .1% C地点。% ヒメムツアシガニ (カニ類・巣壁) N = 2 3 8 図 2. トゲイカリナマコの寄生者の寄生場所と寄生率 スが寄生している抱卵していないウミホタルのメス A と,産卵間近の未寄生のウミホタルのメスB) を 与えた結果,ウミホタルガクレのオスが寄生したの はA の み で あ っ た ( 松 原 ・逸見準備中) . このこと より,ウミホタルガクレは,オスとして繁殖するこ とを選んだと考えられる . こ のように,ウミホタル ガクレは,少なくとも繁殖期前半には,性転換する とl度の産卵で死亡してしまうメスになることより も,オスとして繁殖することを選ぶと考えられた .

られる (Kai & Henmi, 2008). 例えば,有明海・八 代海に多いトゲイカリナマコとその巣穴には, 3種 のカニ類( アリアケヤワラヵーニE /amenopsis ariakensis,

ヒメムツアシガニHexapus 叫斤'actus,ヨコナガモド キAsthenognathus inaequipes), 3種 の 二 枚貝( ヒナ ノズキンD evonia semperi,ツルマルケボリB orniopsis tsurumaru,アリアケケボリB. ariakensis), 1種 の ゴ カ イ 類 ( ト ゲ イ カ リ ナ マ コ ウ ロ コ ム シ d陀tonoe//a sp.) の少なくとも7種が寄生している( 他に,未同 定 の 二 枚 貝l種も寄生) . ただし, トゲイカリナマ (2) 卜ゲイカリナマコを宿主とする多くの寄生種 コがいれば,必ずこの7種が寄生しているわけでは 1種 類 の 宿 主 に 多 く の 寄 生 種 が 寄 生 す る 場 合 も 見 ない. また,場所によって寄生率は大きく異なり,

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ほとんど寄生が見られない場所もある. 我々が定量 調 査 を 実 施 し た3調 査 地 全 体 ( 熊 本 県 の 上 天 草 市 教 良木川・永浦干潟,字城市の氷川河口) における各 種 の 寄 生 率 ( 卜 ゲ イ カ リ ナ マ コ の 5,278個 の 巣 穴 の うち,各寄生種がいた割合) は,アリアケヤワラガ ニ 1.7%, ヒメムツアシガニ 10.4%, ヨコナガモドキ 12. 9 %, ヒ ナ ノ ズ キ ン 0.9 %, ツ ル マ ル ケ ボ リ4.5%, アリアケケボリ 0.1%, 卜 ゲ イ カ リ ナ マ コ ウ ロ コ ム シ 15.3% で あ っ た ( 図 的 . 一 方, 各 地 点 の 寄 生率 は,アリアケヤワラガ、ニを例に取ると,氷)115.8%, 教 良 木 川 0.1% で , 永 浦 干 潟 か ら は ア リ ア ケ ヤ ワ ラ ガニは見つからなかった. さらに,それぞれの寄生種の住み場所も同じで は なかった. 二枚貝のヒナノズキン,アリアケケボリは卜ゲイ カリナマコの体表を,カニ類のアケヤワラガニ, ヒ メムツアシガニ , ヨコナガモドキやゴカイ類のトゲ イカリナマコウロコムシは卜ゲイカリナマコの巣壁 に定位していた. さらに,ツルマルケボリはヒメム ツアシガニの体表に定位しており, ヒメムツアシガ ニにおけるツルマルケボリの寄生率は 10. 4 % であっ た. 一方,甲殻類が宿主になる場合も多い. アナジャ コ( 有明海 ・八 代 海 で は 「シャク 」 と呼ばれる) の 巣穴には, トゲイカリナマコ同様,多くの種類の寄 生穫が生活している( 伊谷氏の報告を参照のこと) . トゲイカリナマコやアナジャコは,有明海・八代海 では普通種であるが,寄生している動物には希少種 が多く,生息条件は宿主以上にデリケー卜なのかも しれない. シンポジウムでは,絶滅危倶種や外来種 の観点からも,寄生 ・共生関係が議論された .

園 支 一

Henmi, Y., & Okamoto, N., 2002. 陥rgula hilgendo柿 (Os回coda: Myodocopida) and the occu汀ence of its

Crustacean ectoparasite Onisocη'Ptus ovalis (lsopoda: Epicaridea). Benthos Research, 57: 103-111.

逸見泰久, 2004. 宿主の卵を食べて性転換するウミホ タ ル ガ ク レ " 長 津 和 也 編,フィールド の寄生虫 学,東海大学出版会,東京,pp.27-40.

Kai, T., & Henmi, Y., 2008. Description of zoeae and habitat of Elamenopsis aria/a,即 日 ( Brach戸JI'lI: H戸nenoωmatidae)

living within the burrows of the sea cucumber Protan

ra bidentata. Joumal of Crustacean Research, 28: 408-4 17.

Morton, 8., 1988. Partnerships i目 白e sea. Hong K o n g University Press, H o n g Kong, 124 pp

岡本直子・逸見泰久, 2002 寄生性等脚類ウミホタル ガクレ Onisocヮ'ptus 0悶lis の繁殖戦略. 日 本ベント

ス学会誌. 57: 75-78

Rohde, K., 1993. Ecology of marine parasites: an introduc-tion to marine parasitology. pp. xiv

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298 pp.

参照

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