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脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした生活期の理学療法

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(1)理学療法学 第 47 巻第 5 号 491 ∼ 脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした生活期の理学療法 498 頁(2020 年). 491. 理学療法トピックス シリーズ 「脳卒中重度片麻痺者の歩行再建を図る理学療法技術の進歩」. 連載第 3 回 脳卒中重度片麻痺者の歩行再建を. めざした生活期の理学療法* 芝 崎   淳 1). けではなく,もっとも回復が期待できる時期に体制の. はじめに. 整った医療機関で十分な量のリハを受けることができな.  脳卒中発症後のリハビリテーション(以下,リハ)は,. い場合,身体機能の改善が滞ることもある。また,その. 急性期,回復期,生活期に分類されることが多く,急性. 改善は提供されるリハの量だけではなく,リハの質にも. 期や回復期は機能障害および日常生活動作(Activities. 影響されることから,生活期に移行するすべてのケース. of Daily Living:以下,ADL)の改善・向上にもっとも. が,その身体機能や能力を十分に高められた状態にある. 重要な時期であり,退院後を見据え生活機能の再建を図. かは不明である。つまり,生活期にはなんらかの支援や. る場でもある。一方,生活期はどうであろう。筆者が理. 介護を必要とし,身体機能や動作能力の改善の可能性を. 学療法士として働きはじめた約 20 年前には,生活期と. 残す脳卒中後遺症者が多く存在するため,リハの必要性. いう概念はなく,慢性期や維持期といわれることが多. や需要は高いと思われる。. かったと思う。この慢性期や維持期という言葉にどのよ. 生活期脳卒中片麻痺者の歩行再建と実現に向 けた課題. うな印象をもたれるだろうか。その名の通り,急性期や 回復期のリハで得られた身体機能や動作能力を,極力低 下させることなく生活を送るための時期であって,機能.  脳卒中の理学療法において,歩行能力の再獲得はもっ. 改善や ADL の向上を図る場ではないという印象をもつ. とも重要な目標のひとつである。なかでも,歩行速度は. 方も多いのではないかと思う。長期の経過の中で生じる. 歩行レベルや活動範囲の広狭を決定する因子のひとつで. 体や環境の変化に伴い,廃用や誤用の出現は十分に考え. あり. られるため,維持を目的としたリハの実施は当然必要に. 期のリハでも,集中的な下肢筋力強化や歩行トレーニン. なる。しかし,運動量の確保やトレーニング内容の再考. グによって,歩行速度の改善が期待できるとされてい. に伴い,身体機能や動作能力の改善や向上が十分可能な. る. 時期でもある。.  しかし,在宅生活では,時間の経過とともに身体に.  生活期のリハは介護保険の適応となるが,全国で介. 様々な変化が現れる。したがって,急性期や回復期で. 護認定を受けた人数を調べてみると,平成 29 年度では. は可能であった歩行トレーニングも適応とならない場. 1). 3‒6). ,多職種連携や環境調整に注目されがちな生活. 7‒10). 。. 。これを,介護が必要になった原. 合もあり,治療方法選択や難易度調整のための知識や変. 因で見てみると, 「脳血管疾患」が約 17% で,認知症に. 化に応じ適切な装具を選択するなどの創意工夫が必要. 641.2 万人にのぼる. 2). 次いで 2 番目に多い 。また,要介護度別にみた介護が. になる。著者は,通所リハ利用開始時にロフストラン. 必要になったおもな原因の構成割合では,要介護度が重. ド杖とシューホーンタイプの短下肢装具(Ankle Foot. 2). 。急性期の. Orthosis:以下,AFO)を使用し歩行に見守りを要した. 重症例は,平均的な回復曲線に沿って改善がみられるわ. 視床出血例に対し,軟性の膝装具と油圧制動付短下肢装. 度になるほど,脳卒中の割合が増している. 具(Gait Solution Design:以下,GSD)を使用したス *. The Physical Therapy for Reconstruction of Gait Function in Sever Hemiplegic Patients in Chronic Phase 1)社会医療法人将道会 総合南東北病院リハビリテーション科 (〒 989‒2483 宮城県岩沼市里の杜 1‒2‒5) Jun Shibasaki, PT: Department of Rehabilitation, Social Medical Corporation Syodokai Minamitohoku General Hospital キーワード:生活期,片麻痺,歩行. テップおよび歩行トレーニングを 1 年間実施した結果, 快適歩行速度が 24.8 m/min から 54.7 m/min に改善し, 復職が可能となったケースを経験したことがある。発症 から時間が経過した症例であっても装具やトレーニング 方法の再考によって歩行機能が改善する可能性は十分に.

(2) 492. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 図 1 補装具費支給までの流れ 機能障害の固定後に日常生活の向上を目的に作製される装具は福祉の制度(障 害者総合支援法)を利用する.手続きが複雑であることが制度浸透につなが り難いひとつの原因であると思われる.. ある。. 具を所有する片麻痺者を対象としたアンケート調査の結 果では,下肢装具の再作製の制度や流れを知っていたも. 下肢装具の使用効果と生活期における課題. のは 5 割に留まっており,制度の周知が不十分である可.  片麻痺者の歩行障害に対する下肢装具の効果として, 11). 能性がある。. や.  装具の再作製は,判定会に基づき作製され,それが特. 麻痺側・非麻痺側歩幅,重複歩幅,歩行速度および歩行. 定の医療機関や更生相談所で行われるため,生活期の理. 麻痺側立脚時間の延長と,振り出しの左右対称化 率の改善. 12). などが報告されている。生活期の対象者は,. 学療法士は,自分が担当する対象者の作製に立ち会える. 長い経過の中で,確保されていた可動域の減少や残存筋. 機会はかなり少ないと思う。対象者との初見の場で行わ. 力の低下,非対称的な動作パターンの繰り返しによって. れる判定会では,ときに装具の選定に難渋し,身体や歩. 麻痺側下肢のアライメントが著しく変化してしまう場合. 行機能との不適合が生じる場合があり,歩行機能の低下. がある。そのような場合,下肢装具には運動制限や矯正. 14) につながる恐れがある(図 2) 。そのため,著者が勤. 等の役割が求められる。. 務する通所リハ事業所では文書によって情報提供を行っ.  重度の片麻痺者であれば,下肢装具を長期的に使用す. ている。情報提供書には判定の場ではなかなか把握でき. ることになり,将来的に下肢装具の不適合が生じる可能. ない生活上の特徴や試用した装具による歩容,現存する. 性がある。その原因は大きく 2 つ考えられる。1 つは使. 身体機能とそれらを生かす下肢装具の種類などを,推測. 用者の身体に生じる変化である。片麻痺者の筋萎縮は,. や印象に頼ることなく,根拠をもって示す必要がある。. 脳卒中の重症度や ADL レベルとは無関係であって,活. 情報提供書は,義務づけられているものではなく,作成. 13). 。筋萎縮. されない場合も多い。対象者にとって有効な下肢装具が. の進行は下肢装具のフィッティング不良につながり,荷. 作製されるように担当者は努め,情報提供書を作成し提. 重時の疼痛やバランス不良,歩行速度の低下などの不都. 出するべきであろう。. 動量の減少と関係があると報告されている. 合が生じる場合がある。もう 1 つの原因は,下肢装具自 体に生じる変化によるものである。下肢装具には耐用年. 日常生活の継続によって出現する歩容の変化. 数があり,長期的な使用によって破損や故障などが生じ.  片麻痺者の歩行は時間経過とともに左右の脚の立脚時. る場合がある。日常生活で使用する下肢装具に不適合が. 間,ステップ長の非対称性が増加することが報告されて. 発生した場合,適宜,修理や再作製を行うことになるが,. いる. 市町村窓口に申請を行い,各県に設けられている更生相. 動作の獲得を示唆するものである。重度片麻痺者にとっ. 談所で要否判定を受けることで,費用が補助される場合. て,代償的な歩行は,動作を安定させ生活行為を優先す. がある(図 1) 。しかし,著者が過去に行った,下肢装. る意味では効率的かもしれない。しかし,非対称的な歩. 15). 。この結果は,非麻痺側を優位に使用した代償.

(3) 脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした生活期の理学療法. 493. 図 2 短下肢装具の違いによる歩容の変化(同一症例) (左図)足部の内反に合わせて作製された装具.(右図)足部を矯正する目的で作製さ れた装具. 左図の装具は足部内側に厚いパットが挿入され左右径が下 よりも大きい.そのため 装具内で足部が内反し荷重とともに下 が外傾している.右図の装具は足部内側の パットが除去され左右径を下 に合わせてある.症例の足部に変形は認められず足部 の内反を矯正する装具を使用することでアライメントが改善された.. 図 3 補高のためアライメントが変化した装具と立位姿勢 (左図)初期背屈角が約 7°ある短下肢装具の足底に約 1.5 cm の補高がされていた.(除 去後に撮影し補正したもの) (右図)膝関節の伸展は困難であり荷重量は少なかった.. 行姿勢の継続は,将来的に,特定の部位に繰り返し加わ るストレスによって生じる疼痛や関節変形,麻痺側の筋 力低下等に伴う歩行能力の低下をもたらす恐れがある。 そのため生活期では,関節の矯正や荷重時の安定性向上 を目的に,より固定力の強い装具を再作製することが多 いとされている. 16). 。このように生活期の片麻痺者には,. 生活期脳卒中重度片麻痺者の歩行トレーニン グ例 1.長下肢装具を用い集中的な歩行トレーニングを実施 した視床出血例  回復期リハ病棟で約 5 ヵ月のリハが行われ,自宅退院. 脳卒中後遺症としての歩行機能維持の難しさがある。し. の 2 日後から通所リハの利用が開始された。歩行は四. かし,生活期であっても理学療法士による適切な歩行ト. 点杖と AFO を使用し見守りを要し,歩行速度は 5.1 m/. レーニングの実施により,歩行機能の維持や改善が十分. min,重複歩幅は 0.25 m であった。麻痺側下肢は荷重し. に可能であることは既知の事実であり も散見される. 17)18). 。. 7‒10). ,症例報告. た状態でも踵が浮いてしまうため,装具の底に約 1.5 cm のヒールソールが挿入されており(図 3) ,股・膝関節 は常に屈曲位を呈していた。下股屈曲位の歩行は,前脛.

(4) 494. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 図 4 開始時の歩容 (上)非麻痺側手で平行棒を強く引き麻痺側下肢を振り出す.麻痺側立脚期に骨盤が麻痺側方へ移 動する. (中・下)四点杖使用時よりも平行棒使用時の歩幅が大きい.非麻痺側の代償が考えられる. 19)20). 骨筋による衝撃緩衝システムが機能せず,推進力の減衰. る. 。そのため,歩行トレーニングの前段階として,. が生じ,非麻痺側下肢の歩幅の狭小や,速度維持のため. GS-KAFO の膝継手をロックした状態で立位保持し,姿. の非麻痺側下肢による過度な代償運動の発生が推察され. 勢鏡と口頭指示で修正を行いながら左右対称的な姿勢の. る。症例の歩容をみると,麻痺側下肢の振り出しを非麻. 獲得をめざした。続いて,非麻痺側下肢のステップ,平. 痺側下肢の伸び上りと同側へ体全体を傾斜させることで. 行棒を用いた歩行トレーニングへと段階的に進めた。し. 代償し,歩幅,歩隔はともに狭く非常に不安定であった. かし,平行棒を使用すると,非麻痺側上肢の過剰な引き. (図 4)。そのため下肢屈曲位の要因のひとつと考えられ. つけがみられ,再び,麻痺側下肢の使用量が減少してし. たヒールソールを除去することにした。ヒールソールを. まった。そのため,平行棒を使用せず後方介助での歩行. 除去することによって,立位時の下肢屈曲位は改善され. トレーニングに変更した。. たが,歩容に大きな変化は見られなかった。.  後方介助は,立脚期の体幹伸展を強調しつつ,症例が.  症例は AFO の仕様を変更するだけでは歩容に改善が. 介助者へ寄りかかることを防ぐ目的で,症例の背部との. 見られなかった。そのため,膝関節を伸展位に保持し,. 接触を極力減らすように意識した。また,GS-KAFO に. 股関節の屈曲伸展運動を可能とする油圧制動式足継手. 取りつけたベルトループを介助者が把持し,立脚期中に. (Gait Solution 継手:GS 継手)付きの長下肢装具(Knee. みられる骨盤の麻痺側方への移動(側方 sway)を抑制. Ankle Foot Orthosis:以下,KAFO)を用いた歩行ト. するように固定を加えた。側方介助,前方介助と変化さ. レーニングを実施することにした。症例は重度の感覚障. せ歩行トレーニングを継続し,膝継手のロックを外した. 害があり,歩行時に「なんか怖い」と繰り返し訴え麻痺. 状態で,膝関節の伸展が認められるようになったことを. 側下肢への荷重量は極端に少なかった。歩行様筋活動. 確認した後にカットダウンを行った。この間,利用 1 回. は身体荷重量によっても変化することが確認されてい. あたりの歩行量は 600 ∼ 800 m であった。症例の歩行.

(5) 脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした生活期の理学療法. 495. 図 5 トレーニング中の歩容(GSD) 麻痺側の分廻し様の振り出しが軽減し歩幅が拡大している.HC やそれに続く下肢の前方回転も確認 できるようになり非麻痺側下肢の歩幅も拡大している.二動作歩行が可能となった.. 速度から考えると,GS-KAFO を用いた歩行トレーニン. 持を目的に足継手にダブルクレンザック継手を用いた. グを選択しなければ,これだけのトレーニング量を確保. KAFO が作製された。. することは不可能であったと思われた。.  退院後は通所リハの利用が開始となり,発症から 4 年.  カットダウンを行った GS-AFO は金属支柱のため. が経過する頃には,再作製された背屈遊動式の AFO を. 重く,振り出しが努力的なものとなったため,軽量な. 使用し,杖歩行が自立していた。この頃の歩容を図 6 に. GSD を用いた歩行トレーニングを継続した。固定性の. 示す。麻痺側立脚時間が非麻痺側と比べて著しく短縮. 弱い AFO を使用することで,立脚時間の短縮や,動作. しており,揃え方の歩容を呈していた。症例の足関節. 時筋緊張の亢進に伴う歩容の悪化も懸念されたが,大き. には,膝関節伸展位で著しい背屈可動域の制限(‒10°). な問題なくトレーニングを継続することができた。歩行. が認められ,AFO の踵の内部にはホコリが溜まってお. 速度は GSD 使用時で 15.3 m/min,重複歩幅が 0.4 m で. り,立位,歩行時に装具内で踵が浮いていた可能性が高. あり,大きく改善していることがわかる(図 5)。. いと思われた。症例は年齢が 50 歳代と若く,家事や屋.  重度の片麻痺によって,歩行の再獲得が困難であると. 外歩行の再獲得を家族とともに希望していた。しかし,. 判断される場合,下肢装具は運動を制限し,固定力を強. 歩行速度は約 25 m/min であり,屋外歩行が自立するレ. め安定を求めることが多いと思う。しかし,下肢関節の. ベルではないうえに,連続歩行距離が数十メートルと非. 運動制限は時間経過とともに異常をきたしやすい。過去. 常に短く,社会生活を送るうえで実用的とは言い難い状. には最良の選択であったかもしれないが,永続的なもの. 態であった。歩行速度の改善には立脚終期(Terminal. ではないはずである。そのため,生活期においても理学. Stance:以下,TSt)における股関節伸展角度が重要と. 療法を受けることができる環境をできる限り設けるよう. されている. 働きかけることが必要である。. は,足関節の背屈も必要になるが,徒手的な矯正は不可. 21). 。TSt で股関節が十分に伸展するために. 能であり,荷重下でも可動域は拡大できなかった。 2.アキレス腱延長術後に積極的下肢装具療法を実施し た被殻出血例.  足関節背屈可動域の改善を目的に複数回ボトックス施 注が行われたが,改善を得ることはできなかった。その.  約 10 年前に被殻出血で発症した症例であった。出血. ため,脚延長術の実施が検討された。術後には非荷重期. が広範にわたっていたために開頭血腫除去術が行われ,. 間があり廃用性の機能低下が進行することが懸念された. 積極的なリハが開始されるまでに時間を要した。重度. が,症例と家族は最終的に健延長術を行うことを選択し. の感覚障害と運動麻痺,運動性失語が残存し,立位保. た。このとき,発症から約 7 年が経過していた。手術は.

(6) 496. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 図 6 術前の歩容. 図 7 術後の歩容(底屈制限付き AFO) 体を非麻痺側に傾斜させ分廻し様に振り出している.HC は見られるが全接地に至るまでが早く荷重量 も少ない.. 他院で行われたため,報告書を作成し送付した。症例に. が前方に倒れることへの恐怖心が生まれた。この場合,. は右アキレス腱,後脛骨筋腱,長母趾・長趾屈筋延長術. LR で代償的に体幹を前傾させる戦略をとることが多く,. が施行され,約 7 週間の入院となった(非荷重期間は約. TSt における股関節の伸展が,かえって不足してしまう. 6 週間) 。術後,自宅療養を経て通所リハが再開された. ことが懸念された。. ときの足関節背屈角度は 5°と改善が認められたが,非.  荷重下での股関節伸展運動を可能とするには,推進力. 荷重期間が長く歩行速度は 21.68 m/min と術前よりも. を維持するために立脚期への円滑な移行と腫および足関. 低下していた。. 節を軸とした下肢の前方回転が必要となるため,足関節.   通 所 リ ハ 再 開 後 は 起 立 時 の 麻 痺 側 荷 重 量 が 増 し,. の底背屈を許容させる必要がある。症例は裸足での歩行. AFO 内 で も 踵 が 浮 く こ と な く 行 え る よ う に な っ た。. も可能ではあったが,足部が内反してしまい,前脛骨筋. また,前型の歩行が可能となり(図 7) ,歩行速度も. による衝撃緩衝システムがうまく機能していなかった。. 24.5 m/min まで改善したが,症例の使用する AFO は. そのため,足関節を中心とした倒立振子運動が形成され. 底屈が制限されていたため,歩幅の拡大や歩行速度の. ず立脚中期以降の推進力が低下していた。歩行トレーニ. 改善とともに,荷重応答期(Loading Response:以下,. ングは前脛骨筋の機能を補助しながら行う必要性がある. LR)の下. 前傾が以前よりも目立つようになった。す. と判断し,備品の GSD を取り入れた。トレーニング開. ると,膝関節を屈曲させ衝撃緩衝することになり,膝. 始当初は,麻痺側股関節伸展が少なく両脚支持期が長い. 関節への負担が増すとともに,症例の意に反して下. ため,振り出し時の膝関節屈曲が不足し分廻し様であっ.

(7) 脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした生活期の理学療法. 497. 図 8 トレーニング後の歩容(GSD) 麻痺側の分廻し様の振り出しは改善し歩幅が大きく拡大している.踵と足関節を軸とした下肢の前方回 転は明確となり荷重量が増している.. 表 1 歩行速度の変化 通所リハ 開始時. 腱延長 術前. 腱延長 術後. GSD トレーニング前. GSD トレーニング後. 装具の種類 (AFO). 支柱付き (底背屈制限). プラスチック (底屈制限). プラスチック (底屈制限). プラスチック (底屈制限). GSD. 歩行速度 (m/min). 15.86. 25.10. 21.63. 24.50. 48.90. 重複歩幅 (m). 0.53. 0.53. 0.61. 0.69. 1.0. Functional Ambulation Category. 2. 4. 4. 4. 5. た。そのため,TSt における股関節伸展を強調した非麻.  術後は創部の管理が中心となることは予想していた。し. 痺側下肢のステップと,前側下肢への荷重の切り替え. たがって,ある程度の歩行機能低下は必発であったと思. および後方への蹴り出し(push off)を意識した麻痺側. う。専門的な視点をもって,この歩行機能の低下を改善さ. 下肢のステップを歩行の前段階として繰り返し行い,そ. せるためのリハは必要不可欠ではないだろうか。そのうえ. の後,膝関節が伸展した状態で踵接地(Heel Contact:. で,生活期のリハは医療機関で行われた治療の効果を継. HC)が可能となるように,大きな歩幅とできるだけ速. 続,向上させるために必要なシステムでもあると思う。. いスピードを維持した歩行を繰り返すトレーニングを継.  すべてのケースにあてはまるわけではないが,対象の状. 続した。症例は,通所リハを年間で約 40 回(1 回/週). 態に応じた歩行トレーニングは発症から数年が経過した場. 利用しており,トレーニング開始から 2 年が経過するこ. 合であっても効果を発揮する可能性があると思われる。. ろには,歩行速度が 48.9 m/min まで改善した。この頃 の歩容を図 8 に示す。利用開始直後と比較すると歩行 速度は約 3 倍,重複歩幅は約 2 倍になっている(表 1)。. 生活期脳卒中片麻痺者への歩行トレーニング の現状と課題. 通所リハ利用中は 90 分程度の歩行が可能となり,屋外.  全国の通所リハ利用者の中で,脳卒中後遺症者は約. 歩行も自立した。最終的には足部を採型した GSD を作. 40% を占める. 製し,片側 3 車線道路の横断や大型ショッピングセン. 課題をまとめた報告によると,もっとも優先順位が高. ター内を歩行で移動することも可能となった。. い日常生活上の課題領域は「歩行・移動」とされてい. 22). 。通所リハ利用者の在宅生活における.

(8) 498. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. る 22)。また,利用者の通所リハ継続理由を問う設問に 対して,60% を超える利用者が「歩けるようになりたい」 と回答している. 22). 。しかし,一方でサービス提供者が. 行っているリハの内容を問う設問に対して,「歩行・移 動」という課題の解決のために,40% が機能回復訓練 (呼吸機能訓練,体力向上訓練,浮腫等の改善訓練,関 節可動域訓練,筋力向上訓練など)を選択し,基本動作 訓練(姿勢保持訓練,起居・移乗動作訓練,歩行・移動 訓練,階段昇降訓練など)を選択した 37% を上回って いる. 23). 。歩行には課題特異性があるため,ベッド上で. 行われるようなプログラムばかりでは,改善が期待でき ないはずである。しかし,上記の結果をみる限り,課題 に応じたトレーニングの選択が行われているとは言い難 い現状がある。  脳卒中片麻痺者の歩行トレーニングには,トレッドミ ルや機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation: FES) ,ロボティクスなどが応用され効果を上げてきて いると思うが,これらの新しいトレーニング戦略の恩恵 を受けることができる施設は限られている。こと生活期 においては,標準的な歩行補助具や下肢装具など非常に 限られたツールを駆使し歩行能力の改善に取り組んでい るはずである。しかし,日本理学療法士協会会員を対象 に行った調査によると,正常歩行や異常歩行の知識,ま た,装具活用の知識をもつべきであると考える会員が多 く存在する一方で,実際にもちあわせている会員は約 3 割程度にしかすぎず. 23). ,理想と現実の間に大きなギャッ. プが存在している。つまり,生活期において脳卒中片麻 痺者の歩行トレーニングを担当する者の多くが,歩行ト レーニングに関する知識をもちあわせず,かつ実践でき ていないという事実が存在する。  生活期のリハの成果は活動や参加に見出されるかと思 う。しかし,身体機能の改善,特に移動能力の改善が重 要であることは間違いない。生活期のリハでは,対象者 と個別にかかわることができる時間は限られる。しか し,十分に機能や活動の改善は可能となるはずである。 そのためには課題を明確にし,効果的なトレーニングを 実施することができる知識と技術の習得が必要になる。 文  献 1)厚生労働省ホームページ 平成 29 年度 介護保険事業状況 報告.http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/ 17/dl/h29_zenkokukei.pdf(2020 年 3 月 5 日引用) 2)厚生労働省ホームページ 平成 28 年度国民生活基礎調査 の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/ 16/dl/16.pdf(2020 年 3 月 6 日引用) 3)Perry J, Garrett M, et al.: Classification of walking handicap in the stroke population. Stroke. 1995; 26: 982‒ 989. 4)佐 直 信 彦, 中 村 隆 一, 他: 在 宅 脳 卒 中 患 者 の 生 活 動 作 と歩行機能の関連.リハビリテーション医学.1991; 28: 541‒547. 5)及川真人,久保 晃:地域在住脳卒中片麻痺者の屋外活動. 可否を決定する要因.理学療法科学.2015; 30: 843‒846. 6)及川真人,久保 晃:都市部在住脳卒中片麻痺者の生活空 間を判別する要因.理学療法科学.2016; 31: 771‒774. 7)Ada L, Dorsch S, et al.: Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review. Aust J Physiother. 2006; 52: 241‒248. 8)Dean CM, Richards CL, et al.: Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized, controlled pilot trial. Arch Phys Med Rehabil. 2000; 81: 409‒417. 9)Wevers L, Van de Port I, et al.: Efects of task-oriented circuitbclass training on walking competency after stroke: a systematic review. Stroke. 2009; 40: 2450‒2459. 10)Ferrarello F, Baccini M, et al.: Efficacy of physiotherapy interventions late after stroke: a meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 136‒143. 11)Hesse S, Werner C, et al.: Non-Velocity-Related Effects of a Rigid Double-Stopped Ankle-Foot Orthosis on Gait and Lower Limb Muscle Activity of Hemiparetic Subjects with an Equinovarus Deformity. Stroke. 1999; 30: 1855‒ 1861. 12)Abe H, Michimata A, et al.: Improving Gait Stability in Stroke Hemiplegic Patients with a Plastic Ankle-Foot Orthosis. Tohoku J Exp Med. 2009; 218: 193‒199. 13)Hachisuka K, Umezu Y, et al.: Disuse muscle atrophy of lower limbs in hemiplegic patients. Arch phys Med Rehabil. 1997; 78: 13‒18. 14)芝崎 淳 : 下肢装具の再作製と反復ステップ練習により歩 行機能が改善した生活期片麻痺例.阿部浩明(編),文光 堂,東京,2019,pp. 141‒150. 15)Patterson KK, Gage HW, et al.: Changes in gait symmetry and velocity after stroke: A cross-sectional study from weeks to years after stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2010; 24: 783‒790. 16)久米亮一:脳卒中片麻痺者に対する治療用装具から更生用 装具への移行時に装具構成要素の変更に影響を与える因 子について.第 31 回日本義肢装具学会学術大会講演集, 2015,p. 143. 17)門脇 敬,阿部浩明,他:倒立振子モデルの形成をめざし た下肢装具を用いた歩行トレーニングの実践により歩行能 力が向上した片麻痺を呈した 2 症例.理学療法学.2019; 46: 38‒46. 18)門脇 敬,阿部浩明,他:脳卒中発症後 6 ヵ月経過し歩行 の全介助を要した状態から長下肢装具を用いた歩行練習を 実施し監視歩行を獲得した重度片麻痺を呈した症例.理学 療法学.2018; 45: 183‒189. 19)Dietz V, Colombo G, et al.: Locomotor activity in spainal man. Lancet. 1994; 344: 1260‒1263. 20)Harkema SJ, Seanna L, et al.: Human lumbosacral spainal cord interprets loading during stepping. J Neurophysiol. 1997; 22: 797‒811. 21)Hsiao H, Knarr BA, et al.: The relative contribution of ankle moment and trailing limb angle to propulsive force during gait. Hum Mov Sci. 2015; 39: 212‒221. 22)厚生労働省ホームページ 平成 27 年度介護報酬改定の 効 果 検 証 及 び 調 査 研 究 に 係 る 調 査( 平 成 27 年 度 調 査 ) (3)リハビリテーションと機能訓練の機能分化とその在 り 方 に 関 す る 調 査 研 究 事 業 報 告 書.http://www.mhlw. go.jp/file/05-Shingikai-12601000SeisakutoukatsukanSanjikanshitsu_Shakaihoushoutantou/0000126194.pdf (2020 年 3 月 10 日引用) 23)日本支援工学理学療法学会ホームページ 福祉用具・義 肢・装具支援に関する啓発と実態調査∼装具編∼調査対象 会員 報告書.http://www.japanpt.or.jp/upload/branch/ jptsat/obj/files/sougu_h29_04.pdf(2020 年 3 月 10 日引用).

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