● not doing wellにもいろいろある(表1)。よく耳を傾けること! ● 「弱い泣き」と「視線が合わない」は特に要注意! ● バイタルサインを大事にする! ① 尿路感染症 ② 細菌性髄膜炎 ③ 腸重積 ④ 頭蓋内出血,骨折 ⑤ 心不全,呼吸不全 ⑥ ターニケット症候群 ⑦ 血液疾患,代謝疾患 ① 非特異的な不機嫌(原因不明) ② 乳児臍仙痛(infantile colic) ③ 注意を引くための泣き ④ 急性ウイルス性疾患 ⑤ 中耳炎 ⑥ 便秘症 ⑦ 皮膚炎などの痒みを生じるもの
Ⅱ
夜にどうする?1
不機嫌:not doing well
● not doing well:発熱や嘔吐などそのほかの症状を認めないのに「何となく元気がない」という症候は小児科において重要である。小児は症状を正確に 訴えることができず,病気の進行が急であるからである。しかも,鑑別診断 は膨大で,小児を診察する医師にとっては非常にストレスフルである。しか し,こどもの言葉にならない声に「どういうふうに」元気がないのか? と耳 を傾けると少し見えてくる。 ● 筆者は4つに分類して考えている(表1)。 カテゴリー1 「強い泣き系」:泣きやまない。大きな泣き。 力強く泣けているということで一見元気そうにも見える。痛 みによる泣きであれば徹底的な検索が必要であるが,colic や単なる「ぐずり」などまったく緊急でないものも含まれてお り,鑑別が二分される。 カテゴリー2 「弱い泣き系」:泣き方がおかしい,弱々しい,甲高い。 強く泣けない状況である。頭蓋内圧亢進や腹膜刺激症状があ り,圧をかけると痛みが悪化する場合,呼吸器系に問題があ り,換気量が十分でない場合を考える。たいてい重症疾患で ある。 カテゴリー3 「食欲・意欲低下系」:食欲がない。経口摂取が少ない。顔色 が悪い。 「何となく元気がない」というのがぴったりの最も難しい状態 である。最も重症であるショック状態から,呼吸不全,軽い 吐き気まで非常に鑑別症状が多い。「食事を摂らない」という 訴えがある場合は,続けて2食以上食べなければ原因検索を 必ず行う。 カテゴリー4 「意識障害系」:ぐったりしている。視線が合わない。歩けない。 意識状態の悪化を疑わせる症状である。はっきりした意識障 害はないが,「明らかにいつもと違う」状態である。この状態 は『カテゴリー3』の重症化と考えることもできるが,神経疾 患の初期症状の場合もあり,重症疾患が多い。 Ⅱ 夜にどうする? 1 不機嫌 : not doing wellカテゴリー分類は完璧なものではなく, 例外もあ るので, 常に頭からつま先までの病歴と身体所見 を怠ってはならない。 特に, 被虐待児は泣きの表 現がうまくできないこと(silent baby)もあり,診 断に注意が必要である。
表1┃not doing wellの分類
カテゴリー 家族の訴えの例,問診事項 鑑別疾患(例外あり) 1.強い泣き系 「ずっと泣いている」「泣き 声が大きい」「痛そうに泣い ている」「動いたり抱っこし たりすると, すごく泣く」 「突然泣き始めて泣きやま ない」 • 痛み, 痒みを生じる疾患:角膜 潰瘍,中耳炎,便秘症,腸重積, 骨折, 肘内障, 精巣捻転, ター ニケット症候群, 皮膚炎, 肛門 周囲膿瘍 • 生理的・心理的なもの:かまって ほしい,空腹,infantile colic 2.弱い泣き系 「 泣 き 声 が 小 さ い」「 声 が 弱々しい」「甲高い声で泣く が,弱い」「声の大きさは変 わらないが,続けて泣けな くて苦しそう」 • 「膜」の疾患: 腹膜炎, 髄膜炎, 頭蓋内圧亢進 • 呼吸の異常: 急性細気管支炎, 気道異物,肺炎,心不全 3.食欲・意欲低下系 「食べない, 飲まない」「顔 色が悪い」「遊ばない」「ご ろごろしている」「笑顔が少 ない」 • ショック状態:敗血症(尿路感染 症にも注意),腸重積,出血,心 不全(心筋炎,不整脈) • 呼吸の異常:カテゴリー2参照 • 全身劵怠感をきたす疾患: 急性 ウイルス性疾患 • 吐き気がある疾患:胃腸炎, 便 秘症, 低血糖, ケトン血性嘔吐 症,虫垂炎,内ヘルニア • その他:口内炎,ムラ食いなど 4.意識障害系 「ぐったりしている」「呼び かけても反応がいつもと違 う」「視線が合わない」「歩 けない」 • 神経疾患:細菌性髄膜炎,脳炎・ 脳症,頭蓋内出血 • ショック状態:カテゴリー3参照 トリアージ バイタルサイン,TICLS(Tone,Interactive,Consolability,Look/Gaze, Speech/Cry),PALS(Play,Activity,Look,Speech/Smile)で異常を認め る場合は速やかに診断と治療をスタートさせる。Yale Observation Scaleも 有用である(後述)。 Ⅰ-4 トリアージ 現病歴 まず,「どんなふうに元気がないのですか?」「いつもとどのように違います か?」「どのようなことが心配で来られましたか?」という質問から始める。そ して,review of systemsをするつもりで,頭からつま先まで詳細に病歴(随 伴症状など)を取る。特に「突然発症」「徐々に増悪」などの発症様式に注意す る。 既往歴 慢性疾患を持っていないか,免疫不全状態でないか(発熱やほかの症状が出 にくい状態でないか)。 身体所見 頭からおむつの中,つま先まで詳細に身体所見を取る。病歴と身体所見で鑑 別に挙げられないものは検査をしても診断がつかない(Evidence Noteを参照)。
詳細は昼の症候学「not doing well」を参照。 Ⅰ-5 not doing well
Ⅱ 夜にどうする? 1 不機嫌 : not doing well ◉ Evidence Note カナダの3次こども病院を「啼泣」や「不機嫌」で受診した発熱がない乳児 238人をレトロスペクティブに検討した結果1)によると,重症疾患と診断 されたのは12例(5.1%)で, 最も多かったのは尿路感染症の3例であっ た。ほかには骨折,肘内障,腸重積,胆囊炎,白血病などがみられた。 病歴と身体所見で診断がついたものは66.4%,診断がつかず検査で判明 したのは2例(0.8%:尿路感染症と菌血症)にすぎなかった。全体でみて も,検査が有用であったのは8例(3.4%)のみであった。
not doing wellの診断は, 頭からつま先までの詳細な病歴と身体所見が
toxic appearanceを見逃すな!
toxic appearanceを評価するスケールの一例として,Yale Observation Scaleを示す(表2)。点数が高いほど状態が悪いことを示す。点数ごとの重症 感染症のリスクは10点以下では2.7%にすぎないが,11〜15点では26.2%, 16点以上では92.3%にも及ぶ。しかし,このスケールで最も重要な点は,詳
表2┃Yale Observation Scale
観察項目 正常(1点) 中等度の異常(3点) 重度の異常(5点) 泣き方 正常に強く泣く または 満足していて泣かない すすり泣き または 泣きじゃくる 弱々しい または うめくような または 甲高い または (元気がなく)ほとん ど泣かない 保護者への反応 短く泣く または 満足していて泣かない 泣いたり泣きやんだ り 反応が少なく,ずっ と泣いている 意識状態 ずっと覚醒 または (寝ている時)刺激です ぐに覚醒 傾眠傾向 刺激を続けると覚醒 覚醒しない 皮膚の色 ピンク 四肢蒼白 または 四肢末端のチアノー ゼ 蒼白 または 全身チアノーゼ または まだら または 土色 脱水症状 皮膚色良好,眼球陥凹 なし,粘膜は湿潤 口腔内乾燥 皮膚の乾燥, ツル ゴール低下 または/かつ 眼球陥凹 あやしたときの 反応 笑う または キョロキョロ見回す 少し笑う または 短い間キョロキョロ 見回す 笑わない または 不穏 または 無欲状態 (文献2を元に作成。牟田広実,訳) 細を記憶することではなく,スケールの観察項目をすべてチェックし,引っか かる項目が1つでもあれば躊躇なく検査を行うべきということである。
E
vidence & Experience
それぞれのMRO疾患については他項を参照のこと。ここでは他項で述べられ ていないものについて記載する。 ターニケット(tourniquet)症候群 身体の先端部に髪の毛や糸くずが巻き付くことによって起こる循環不全症 候群である。足趾,外陰部,手指の順に多いとされる。症状は,末端の浮腫 と発赤である。 好発年齢:足・手指は2歳くらいまでで,母親の産後脱毛症が起こる乳児期 に注意が必要である。外陰部(ペニスやクリトリスなど)は小学生ぐらいま でありうるが,乳児にも起こる。 治療:巻き付いた髪の毛を切ることである。 「おむつの中,つま先まで疑って診ないと診断できない」。 infantile colic 生後3週間以降4カ月未満の乳児において,毎日ほぼ決まった時間(昼と夜) に長時間続けて泣くが,それ以外はまったく異常を認めない状態。原因はよく わかっていない。除外診断である。4カ月以上でcolicと診断するときは十分 注意が必要である。1) Freedman SB,et al:The crying infant:diagnostic testing and frequency of serious underlying disease.Pediatrics 123:841-848,2009.
*乳児の泣きとその原因についての文献。必読である。
2) MaCarthy PL,et al:Observation scales to identify serious illness in febrile children.Pediatrics 70:802-809,1982. (児玉和彦) Ⅱ 夜にどうする? 1 不機嫌 : not doing well
● 熱の高さにこだわらず,全身状態の良し悪しに神経を集中すべし。 ● 咳,鼻汁などの軽い上気道炎症状があるからといって,安易に「風邪」の 診断で帰宅させるべからず。 ● フォーカスがわからない場合でも,「とりあえず抗菌薬」は厳禁! 医療従 事者も「発熱恐怖症(fever phobia)」になってはならない。 ① 生後3カ月以下における発熱 ② 細菌性髄膜炎 ③ 扁桃周囲膿瘍,咽後膿瘍,急性喉頭蓋炎 Ⅳ-6 口,咽頭 ④ 菌血症(潜在性occult bacteremiaを含む) ⑤ 尿路感染症 ⑥ 重症肺炎,膿胸 ⑦ 急性心筋炎 Ⅳ-9 心臓 ⑧ 腹膜炎 Ⅱ-5 腹痛 ⑨ 化膿性股関節炎/骨髄炎 Ⅳ-13 四肢(骨,筋,関節,脊椎) ① 溶連菌感染症 ② 急性中耳炎 ③ 肺炎,気管支炎 ④ 川崎病 Ⅲ-1 発熱