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収益認識に関する会計基準

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Academic year: 2021

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1 収益認識に関する会計基準(公開草案) アヴァンセコンサルティング株式会社 公認会計士・税理士 野村 昌弘 平成29 年 7 月 20 日に、日本の会計基準の設定主体である企業会計基準委員会から、「収 益認識に関する会計基準(案)」「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」が公表され ました。平成29 年 10 月 20 日までコメントを募集しており、その後コメントへの対応を検 討・協議し、平成30 年 3 月までに最終基準を公表することを目標としています。 ①設定の趣旨 日本では、企業会計原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務 の給付によって実現したものに限る。」との記載があるほか、収益認識に関して包括的な会 計基準は設定されていませんでした。これに対して、国際財務報告基準(IFRS)や米国基 準には、共同して開発した収益認識に関する包括的な会計基準がありました。そのため、日 本でも収益認識に関する包括的な会計基準を設定することになりました。 また、IFRS や米国基準の収益認識基準の適用が、平成 29 年 12 月又は平成 30 年 1 月以 後開始事業年度からとなっています。日本の上場会社が適用する会計基準は、現在、日本基 準・米国基準・IFRS・IFRS の一部を修正した修正国際基準のいずれかを適用することとさ れており、適用予定を含めるとIFRS 適用会社は直近では 150 社を超えてきています。連 結財務諸表が IFRS や米国基準の収益認識基準を適用するのに対して、個別財務諸表も同 一の会計処理を行いたいとのIFRS 適用会社等の要望もありました。 そこで、今回の会計基準は、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性の観点から、 IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」の定めを基本的にすべて取り入れ、日本国 内の適用上の課題については代替的な取扱いを追加的に定めるようにしている点が、従来 の会計基準と大きく異なっています。 なお、中小企業においては、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する基 本要領」が用いられますが、企業会計基準を適用することも妨げられないとされています。 ②収益を認識するための5 つのステップ 今回の会計基準は、「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと 交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識する」ことを基本 原則としています。そのうえで、次の 5 つのステップにより収益を認識することとされて います。 (1)顧客との契約を識別する。 (2)契約における履行義務(収益認識の単位)を識別する。 (3)取引価格を算定する。

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2 (4)契約における履行義務に取引価格を配分する。 (5)履行義務を充足した時(一時点)に又は充足するにつれて(一定の期間)収益を 認識する。 設例でみていきましょう。当期首に製品A の販売と 2 年間の保守サービスを提供する 1 つの契約を顧客と締結したとします。この契約の対価は15,000 千円と契約書に記載されて います。当期首に製品A を顧客に引き渡し、当期首から翌期末まで保守サービスを行いま す。これを5 つのステップに当てはめていきます。 ステップ1:顧客との契約を識別します。設例では顧客と締結した「製品 A の販売と 2 年 間の保守サービスを提供する」契約です。 ステップ2:「製品 A を引き渡す」という履行義務と「2 年間の保守サービスを提供する」 という履行義務を識別します。 ステップ3:取引価格は契約書に記載されている対価 15,000 千円と算定します。 ステップ4:取引価格 15,000 千円を各履行義務に配分します。ここでは、製品 A の取引価 格が12,000 千円、2 年間の保守サービスの取引価格が 3,000 千円であったとします。 ステップ5:履行義務の性質に基づき、履行義務の充足時点(収益の認識時点)を決定しま す。製品 A の販売は引渡時、すなわち履行義務を充足した一時点で収益を認識します。こ れに対して、保守サービスの提供は当期と翌期の 2 年間にわたって履行義務が充足されま すので、一定の期間(当期と翌期の2 年間)にわたって収益を認識します。 これが今回の収益認識の基本原則です。 ステップ1: 契約の識別 「製品Aの販売 と2年間の保守 サービスを提 供する」契約 ステップ2: 履行義務の識別 製品Aを引き渡 す履行義務 2年間の保守 サービスを提供 する履行義務 ステップ3: 取引価格の算定 取引価格 15,000千円 ステップ4: 取引価格を履行 義務に配分 取引価格 12,000千円 取引価格 3,000千円 ステップ5: 収益認識 製品Aの販売は引渡時、 すなわち履行義務を充足 した一時点で収益を認識 保守サービスの提供は 一定の期間(当期と翌期 の2年間)にわたって 収益を認識

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3 ③主な留意点 (1)契約の結合、契約変更 今回の会計基準では、まず契約を識別しなければなりません。従って、同一の顧客と同時 又はほぼ同時に締結した複数の契約について、一定の場合には、複数の契約を結合して単一 の契約とみなして処理することになります。 また、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格の変更があった場合には、一定の要件 にあてはめ、独立した契約として処理するのか、既存の契約を解約し新しい契約を締結した ものと仮定して処理するのか、既存の契約の一部であると仮定して処理するのかを決定し ます。 従来にはない概念ですので、留意が必要です。 (2)財又はサービスに対する保証 財又はサービス対して保証するというのはよくある話です。これについては、財又はサー ビスが合意された仕様に従っているという保証であるか、顧客にサービスを提供する保証 (保証サービス)であるかによって、会計処理が異なります。前者であれば保証については 引当金として処理し、後者であれば保証サービスを履行義務として識別し、取引価格を当該 履行義務に配分します。 (3)本人と代理人の区分 従来の会計基準では明確なものがありませんでした。今回の会計基準では、約束の履行に 主たる責任を有しているか、在庫リスクを有しているか、価格設定について裁量権を有して いるか等に着目し、財又はサービスを自ら提供するのであれば、本人に該当し、収益は総額 表示します。これに対して、他の当事者による財又はサービスの提供を手配しているのみで あれば、代理人に該当し、収益は純額表示します。小売業における消化仕入は影響を受ける ことになります。 (4)自社ポイントの付与 自社ポイントを付与し、次回以降ポイントを使用するといった取引はよく行われていま す。現行は将来に使用されるであろうポイント費用を引当金として計上する実務が多かっ たと考えられます。今回の会計基準では、ポイントの付与を履行義務として識別し、商品の 販売とポイントに取引価格を配分することになり、引当金処理は認められなくなります。 (5)一時点で収益認識するか、一定の期間にわたり収益認識するか 財又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することとなる要件に該 当していれば、一定の期間にわたり収益を認識します。具体的には、次の3 つの要件のいず れかを満たす場合となります。該当しなければ、一時点で収益を認識します。

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4 ⅰ.契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること。 ⅱ.契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、そ れにつれて顧客が当該資産を支配すること。 ⅲ.次の要件のいずれも満たすこと。 a)契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産 が生じる又はその価値が増加すること。 b)契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権 利を有していること。 (6)出荷基準等の取扱い 日本では商品等の販売について、出荷した時点で収益認識する出荷基準を採用している 企業も多く存在します。この点について、今回の会計基準では、国内の販売において、出荷 時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合は、 出荷時や着荷時に収益を認識することができるとされています。 なお、日本では割賦販売において、割賦金の回収期限の到来日又は入金日に収益認識する ことも認められていましたが、今回の会計基準では、商品又は製品の販売時に収益を認識す ることとされており、割賦基準は認められません。 (7)顧客により行使されない権利(商品券等) 発行した商品券等、顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、現行の日本基準 では一定期間経過後に一括して未使用部分を収益として認識している例が多かったと考え られます。今回の会計基準では、非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見 込まれる場合には、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します。また、権 利を得ると見込まれない場合には、顧客が残りの権利を行使する可能性が非常に低くなっ た時に収益を認識します。 (8)返金不要な取引開始日の顧客からの支払(入会金等) 返金を要しない入会金等を収受した場合、現行の日本基準では一括して収益を認識する 処理と契約期間で按分計上する処理が見られました。今回の会計基準では、支払を受けた時 点では収益を認識せず、将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識します。 (9)ライセンスの供与 ソフトウェア、特許権、フランチャイズ等のライセンスについて、ライセンス期間にわた り存在する企業の知的財産にアクセスする権利の提供であれば、一定の期間にわたり収益 を認識します。これに対して、ライセンスが供与された時点で存在する企業の知的財産を使 用する権利の提供であれば、一時点で収益を認識します。

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5 (10)買戻契約、返品権付きの販売 企業が商品又は製品を買い戻す義務を有するか、企業が商品又は製品を買い戻す権利を 有する場合には、収益認識は認められず、リース取引又は金融取引として処理します。これ に対して、企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務を有する場合には、リース 取引、金融取引又は返品権付きの販売として処理します。有償支給取引は影響を受けること になります。 返品権付きの販売については、現行の日本基準では、収益認識し、返品が見込まれる分に ついて返品調整引当金を計上する処理が多いと考えられます。今回の会計基準では、企業が 権利を得ると見込む対価の額で収益認識し、返品されると見込まれる商品又は製品の対価 は収益認識しません。 (11)第三者のために回収する額(消費税等) 現行の日本基準では、消費税等の会計処理について、税抜方式と税込方式が認められてい ます。今回の会計基準では、収益の額には第三者のために回収する額は含まれないとされて おり、消費税等は収益認識しません。 (12)変動対価 今回の会計基準では、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分について、変 動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上され た収益の著しい減額は発生しない可能性が非常に高い部分に限り、取引価格に含めるとさ れています。変動対価の収益認識は慎重に行う必要があります。 (13)契約における重要な金融要素 今回の会計基準では、契約において重要な金融要素が含まれる場合、金利相当分の影響を 調整します。なお、収益認識時から入金時までの間が 1 年以内であると見込まれる場合に は、金利相当分の影響を調整しないことができるとされています。 (14)顧客に支払われる対価 顧客に対してキャッシュバックや値引き等が行われる場合、現行の日本基準では対価を 支払う際に収益から減額する処理と販売費を計上する処理が見られました。今回の会計基 準では、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除 き、取引価格から減額します。販売費を計上する処理は原則認められません。 ④適用時期 今回の会計基準は、平成33 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首か

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6 ら適用します。約 3 年の準備期間がありますので、システム対応を含め会計処理を検討す る必要があります。 また、今回の会計基準は IFRS 適用会社の個別財務諸表上の会計処理を連結財務諸表上 の会計処理と合わせる目的がありますので、平成30 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度 及び事業年度の期首からの早期適用を認めています。また、12 月決算会社等も考慮して、 平成30 年 12 月 31 日に終了する連結会計年度及び事業年度から平成 31 年 3 月 30 日に終 了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸 表からの早期適用を認めています。 ⑤おわりに 今回の会計基準はIFRS 第 15 号を基礎に作成されていますので、基準をよく理解し、企 業としての会計処理を慎重に検討していく必要があります。また、今回の会計基準の制定に よる税務の動向にも今後注意が必要です。公開草案は以下のホームページより入手できま すので、ご参考にしてください。 https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0720.html

参照

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