平成 28 年度 教科リーダー養成講座(高等学校) 実践記録
資料の読み解きから学ぶ世界史
-世界史B「近世ヨーロッパと大航海時代」の指導を通して- 新潟県立長岡商業高等学校 授業者 教諭 貝谷 春奈Ⅰ はじめに
本校では「地域社会の担い手として、産業経済の発展を図る国際感覚豊かで健全な人材の育成」 を目指しており、自ら学び、自ら考える力を養い、学力向上を図ることを目標としている。 日 頃 の 授 業 で は 、 世 界 の 歴 史 に つ い て の 関 心 と 課 題 意 識 を 高 め る と と も に 、 基 本 的 な 事 柄 を 理 解 し 、 そ の 知 識 が 身 に 付 く よ う に 心 が け て い る 。 さ ら に 授 業 で 得 た 知 識 を 様 々 な 形 で 活 用 で き る よ う な 力 を 身 に 付 け さ せ る た め に 、 資 料 を 読 み 取 っ て ま と め た り 、 資 料 へ の 疑 問 を 提 起 さ せ た り す る な ど 、 資 料 を 多 面 的 ・ 多 角 的 に 考 察 し 、 読 み 解 く 技 能 を 習 得 さ せ る こ と で 、 主 体 的 に 学 ぶ 力 も 身 に 付 け さ せ た い 。Ⅱ 学習指導案
1 日 時 平成 28 年 10 月 25 日(火) 5限(13:45~14:37 52 分) 2 指導学級 商業ビジネス科 3年2組 (男子 11 人、女子 27 人) 3 教科・科目 地理歴史 世界史B 4 使用教材 教科書 実教出版『世界史B』 副教材 帝国書院『最新世界史図説 タペストリー』 5 単 元 第9章 近世ヨーロッパと大航海時代 1 ヨーロッパの海外進出 2 第2次大交易時代と海域アジア箇所 6 単元の目標 (1)キリスト教を共通の基盤とするヨーロッパ世界が、東西の地域性を保ちながら形成され、 変動していった過程に対する関心を高め、意欲的に追究しようとする。(関心・意欲・態度) (2)キリスト教を共通の基盤とするヨーロッパ世界が、東西の地域性を保ちながら形成され、 変動していった過程を多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に判断できる。(思 考・判断・表現) (3)キリスト教を共通の基盤とするヨーロッパ世界が、東西の地域性を保ちながら形成され、 変動していった過程に関する諸資料を収集し、有用な情報を選択して、読み取ったり図表な どにまとめたりして表現できる。(資料活用の技能) (4)キリスト教を共通の基盤とするヨーロッパ世界が、東西の地域性を保ちながら形成され、 変動していった過程などを理解し、その知識を身に付けている。(知識・理解) 7 生徒の実態 進路状況は就職よりも進学が多く、特に専門学校へ進学する生徒が大部分を占めている。歴史を 学習する意義や必要性を感じていない生徒や、授業を講義形式で行っているため受け身の姿勢の生 徒が見られるが、発問に対して積極的に答えたり、疑問に思ったことを自発的に質問したりする生 徒もいる。 日頃から授業で地図や図版などを用いているため資料を見ることには慣れている。しかし、発問 に対して口頭で答えさせることがほとんどであるため、読み取った内容や考え・答えを文章でまと める力が弱く、記述問題に空欄が目立つ。この点を踏まえて、授業で得た知識を説明できる力を育 てようと考え、合わせて、自分の考えも自分の言葉で表現できる力も身に付けさせたい。8 単元の評価規準 関心・意欲・態度 思考・判断・表現 資料活用の技能 知識・理解 ヨーロッパ世界が、 東西の地域性を保ちな がら形成され、変動し ていった過程に対する 関心を高め、意欲的に 追 究 し よ う と し て い る。 ヨーロッパ世界が、 東 西 の 地 域 性 を 保 ち ながら形成され、変動 し て い っ た 過 程 を 多 面 的 ・ 多 角 的 に 考 察 し、その過程や結果を 適切に表現している。 ヨーロッパ世界が、 東 西 の 地 域 性 を 保 ち ながら形成され、変動 し て い っ た 過 程 に 関 す る 諸 資 料 か ら 有 用 な情報を選択して、読 み 取 っ た り 図 表 な ど に ま と め た り し て い る。 ヨーロッパ世界が、 東 西 の 地 域 性 を 保 ち ながら形成され、変動 し て い っ た 過 程 な ど を理解し、その知識を 身に付けている。 9 単元の構成 (1)基軸となる問い ・ユーラシアの内陸及び海域のネットワークを背景に、ヨーロッパ世界が内部と対外的動向か ら、どのように形成されたか。 (2)指導と評価の計画(全5時間) 10 本時の計画(3/5時間) (1)本時の目標 ・グラフや資料の読み取りから、ヨーロッパ世界の変容に気付く。(資料活用の技能) ・大航海時代がもたらした変化について多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に 表現している。(思考・判断・表現) (2)本時における「研究テーマ」を実践するための具体的な方策 ヨーロッパ世界の変容を多面的・多角的に考察するために、その過程や結果を判断できる資 料を用いて、批評・討論などの言語活動を行う。 時限 目標(ねらい) 学習活動 (授業内容) 評価の観点 評価方法等 関 思 技 知 1時間目 大 航海 時代が 起 こ った 背景を 理 解する。 ・中世ヨーロッパの都市 と交易 ・13 世紀以降のネット ワーク ● ● イブン=バットゥータの旅行記 の資料や地図を読み取り、変化に 気付くことができる。(ワークシ ート) 2時間目 ヨ ーロ ッパの 海 外 進出 につい て 理解する。 ・インド航路開拓 ・15 世紀末の大航海時 代の動き ・スペインのアメリカ支 配 と ア メ リ カ の 奴 隷 制 大農園 ● 白地図に大航海時代の世界を表 現できる。(ワークシート) 植民地支配の実態を資料から読 み取ることができる。(ワークシ ート) 3時間目 (本時) 大 航海 時代が も た らし た変化 を 理解する。 ・ヨーロッパの変容 (価格革命・商業革命) ・大西洋をはさんだ分業 体制 ● ● ヨーロッパの穀物価格などのグ ラフを読み取り、大航海時代につ いて多面的に考察し、適切に表現 している。(ワークシート) 4時間目 ア ジア におけ る 交 易 を 理 解 す る。 ・ポルトガルのアジア内 交易 ● ● 日本との関わりについて多面的 に考察し、適切に表現している。 (ワークシート) 5時間目 17 世紀の交易世 界を理解する。 ・オランダの優勢 ・まとめ ● ● ヨーロッパ世界の変容について 関心を高めている。(ワークシー ト) 定期考査
(3)展開 時間 学習内容 教師の動き 生徒の動き 評価の観点と方法 指導上の留意点 導 入 (5分) 「ヨーロッパ の穀物価格の グラフ」と「ス ペインの物価 指標の表」の 読み取り 物価上昇の時期から、大 航 海 時 代 と の関 係 を推 測させる。 な ぜ 物 価 が 上昇 し たの か考えさせる。 16 世紀から物価が上昇 したことを読み取り、 その時期にヨーロッパ でどのような変化があ ったのか考える。 グラフを読み取れるか。 既習内容と照らし合わせ て大航海時代を思い出せ るか。 (資料活用の技能) 展開1 (20 分) ヨーロッパの 変容 ヨ ー ロ ッ パ の物 価 が大 幅 に 上 昇 し た原 因 を推 測させる。 物価上昇によって、どん な 変 化 が 生 じた か を考 察させる。 グラフと表、既習内容 から、考えられる原因 ・結果を考察する。 周囲の生徒と意見を交 換し、発表する。 原因と結果を考察するこ とができるか。 (思考・判断・表現) 机間指導をし、話し合いの 助言を適宜行う。 展開2 (15 分) 価格革命 大西洋をはさ んだ分業体制 新大陸からの金・銀の流 入のグラフを示し、銀が 大 量 に ヨ ー ロッ パ に流 入したことを説明する。 グラフを読み取り、銀 の流入を理解する。 ヨーロッパ諸国の変化 を 図 式 化 し て 確 認 す る。 価格革命について理解し、 生活の変化なども含む影 響を理解できるか。 (資料活用の技能) 展開2 (10 分) 商業革命 ヨ ー ロ ッ パ の商 業 が世 界 的 広 が り を持 つ よう になり、貿易の中心が地 中 海 か ら 大 西洋 に 臨む 地 域 に 移 動 した こ とを 理 解 さ せ る 。( 商 業革 命) ヨーロッパと新大陸・ アジア間の貿易がどう 変化したのか、確認す る。 机間指導をし、図式化の助 言を適宜行う。 まとめ (2分) 今回の復習 イ ン ド 航 路 の開 発 とア メ リ カ 大 陸 への 進 出が ヨ ー ロ ッ パ 経済 に 大き な 影 響 を も たら し たこ とを理解させる。 ワ ー ク シ ー ト を 見 直 し、今回の内容を振り 返る。 次回の予告として、ポルト ガルのアジア交易参入に ついて簡単に紹介する。 (4)本時の評価 評価規準 「努力を要すると判断される」状況の例 指導の手立て <資料活用の技能> グラフの読み取りが 出来ている。 ・グラフを読み取り、気付いたことを書 き出すことが出来ない。 ・机間指導の際に、助言をする。 ・周囲と相談して考えるように指 示を出す。 <思考・判断・表現> 大航海時代がもたら した変化について多 面的に考察し、適切 に表現している。 ・価格上昇の原因と結果について、考え をまとめることが出来ない。 ・価格革命にともなう変化について、理 解することが出来ない。 ・既習内容を思い出すように、助 言を行う。 ・ヨーロッパ諸国の変化について、 東西で比較して理解するように 促す。
Ⅲ 授業の実際
生徒たちは普段とは違う授業形式と環境に対して、少し緊張感を持って授業に臨んでいた。年度 当初から授業内で地図や図版などの資料を頻繁に用いているが、図表や教科書の資料がほとんどで あった。資料を使用しての発問も資料を見れば簡単に答えられるものが多く、個々に考えさせ、短 時間で答えを導き出させていた。今回のように初見のグラフ資料を読み取る作業に慣れていないた め、意外と難しく、手こずっていたようだが、積極的に周囲と相談したり、真剣に他の生徒の意見 や考えを聞いたりする姿が多くみられた。 本時までの授業時数が計画よりも少なくなったため、導入の部分を前時の復習ではなく補足説明 に変えた。口頭のみの説明で時間も短くなってしまい、他のクラスと比べて知識が定着していない 状況であったが、そのような中でも発問に対して意見や考えを述べることが出来ていた。 ◇授業の様子Ⅳ 実践の考察とまとめ
1 実践の分析 本時の目標であった「グラフや資料の読み取りから、ヨーロッパ世界の変容に気付く」(資 料活用の技能)については、提出させたワークシートや事後アンケートの感想から、おおむね 達成できたと思われる(◇生徒の感想を参照)。また、「大航海時代がもたらした変化につい て多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している(思考・判断・表現)につ いても、通常の定期考査では空欄が目立つ記述問題をしっかりと解答している生徒を多く確認 できた。資料の読み取りから得た知識を定着させ、自分の言葉で表現することにつなげられる ことが分かった。 ◇生徒の感想 2 研究協議の論点 (1)教材の工夫について 「Q1のグラフの読み取りに苦労している生徒がいた」「Q2は全体で考えさせた方がよかった のではないか」という意見をいただいた。発問をして回答させる際、グラフや表のどの部分から 読み取ったのかを確認したり、どこに注目して欲しいのかを示したりするのに、ICT の活用が有 ・グラフや資料の読み取りが苦手なので、少し苦労した。難しかった。 ・久しぶりに資料を読み取って自分の考えを書く作業をしましたが、どこをどのように読み 取ればよいのか分からず、初めは苦戦しましたが、友だちと相談して理解することができた のでよかったです。 ・資料を用いた授業は自分の考えや他の人の考えが知ることができておもしろかったです。 友だちと相談しながら考えることができてよかったです。 ・グラフを取り入れた授業は説明されるだけでは分からないことも分かってよかったです。 ・資料を使った授業は分かりやすかった。この時代になぜ物価にこのような金額の差が生じ たのかということを知ることができたのでよかった。今後もたまにでいいので分かりやすい 資料を入れて欲しいなと思う。 ・資料を使い読み取る作業は考える力がつくのでたまにはいいと思った。インフレについて 答えられなかったので、商業生としてもっと勉強をしなければならないと思った。効だと思った。今回は資料の選定に時間がかかり、生徒へは授業プリントでの提示のみであった が、ICT を用いることで、より分かりやすく、スムーズな授業展開が期待できると思う。 (2)授業の進め方について 生徒が自ら理解しようとする姿勢や聞く姿勢がみられ、授業中に「そういうことか」「なるほ ど」と言った声も聞かれたが、「生徒への質問内容をもっと掘り下げてもよいのではないか」と いう意見をいただいた。また、「発問の際、問いかけを全体にしてから指名した方が、他の生徒 も考えられるのではないか」「前半はグラフの読み取り、後半にテーマを設定して考える時間が あってもよかった(ただ、進度の問題があるが)」という意見から、個人の作業に加えてグルー プで話し合わせて意見を発表させるなどの学習活動をもっと意識する必要があると思った。発問 に対する「分かりません」という生徒の返答をしっかり理解し、全体に発問を投げかけてメリハ リを出すなど、対応にも工夫していきたい。発問の内容一つ一つを考えて授業計画を立てていき たいと思う。 3 今後の課題 授業では基 本 的 な 事 項 を 理 解 さ せ 、知 識 の 定 着 を は か る こ と が 前 提 で あ る が 、生 徒 の 実 態 に 合 わ せ 、 知 識 を 活 用 で き る よ う な 力 を 身 に 付 け さ せ る こ と も 必 要 だ と 考 え る 。 そ の た め に 、 教 科 書 や 図 表 に 載 っ て い る 以 外 で 適 切 な 資 料 を い ろ い ろ と 提 示 し 、 読 み 解 く 技 能 を 習 得 さ せ た い 。 そ の 際 、ICT を 積 極 的 に 活 用 す る こ と で 資 料 の 読 み 取 り に 対 す る 苦 手 意 識 を 和 ら げ る こ と が で き る と 思 う 。 今 後 は 、 一 つ の 事 柄 を 多 面 的 ・ 多 角 的 に 考 察 さ せ 、 自 分 の 考 え を ま と め た り 、 資 料 へ の 疑 問 を 提 起 さ せ た り す る こ と を 通 し て 、 生 徒 の 主 体 性 を 育 て る こ と に つ な げ た い と 思 う 。 ま た 、 本 校 は 商業科ということで経済の内容を意識して盛り込んだが、生徒たちは意欲的に 授業に取り組んでいた。他教科の既習内容を把握することが授業に生かせることが分かったので、 今後は他教科とも連携をとって授業を行っていきたい。 <参考資料> J・アロステギ・サンチェス他『スペインの歴史』明石書店 (2014) <参考文献> J.M.ロバーツ『世界の歴史6 近代ヨーロッパ文明の成立』創元社 (2003) 平山 健二郎 『16 世紀「価格革命」論の検証』経済学論究 (2004) 荒野泰典・石井正敏・村井章介『地球的世界の成立』吉川弘文館 (2013) 歴史学研究会編『世界史史料5 ヨーロッパ世界の成立と膨張』岩波書店 (2007) 長谷川輝夫・大久保桂子・土肥恒之『世界の歴史 17 ヨーロッパ近世の開花』中央公論社 (1997)